【実施例】
【0189】
実施例1:IT投与したアリールスルファターゼAの毒性
他の髄腔内投与した組換え酵素がCNSの細胞および組織内に分布する能力を評価するために、幼若の(12か月齢未満)カニクイザルにおいて1か月の期間にわたりGLP試験を行って、組換えにより調製したヒトアリールスルファターゼA(rhASA)の反復髄腔内(IT)投与を毒性学および安全性薬理学の観点から評価した。pH6.0の154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20の溶媒で、rhASAの製剤を調製し製剤化した。
【0190】
これを実施するために、9匹の雄および9匹の雌の幼若体カニクイザルを、下の表6に示すように、体重により3つの処置群の1つに無作為に割り当てた。個体(投与1の1雄個体を除く)に0、3または31mg/mlのrhASAを隔週、0.6mL(0、1.8または18.6mgの総用量)の短時間のIT注入で、1個体当たり計3用量になるように投与した。体重、臨床観察、神経学的および生理学的検査、臨床病理、眼科検査、ならびに毒物動態試料採取をモニターした。29、30または31日目(最後のIT投与の約24時間後)に全個体の剖検を行った。選択した組織を採取し、顕微鏡により検査した。
【表6】
【0191】
カニクイザルのCNS組織で検出されたrhASAの濃度をELISAにより解析し、約2.5ng/組織mgに相当する正常ヒトrhASA濃度の10%の治療標的と比較した。カニクイザルの脳の異なる領域から組織試料またはパンチ試料を摘出し、rhASAの存在に関してさらに解析した。
図24は、パンチ試料を摘出した組織を示している。パンチした組織試料は、
図25A〜Gに示されるように、大脳皮質から深部白質および深部灰白質にかけての沈着の勾配を伴うrhASA濃度の増加を示した。
【0192】
18.6mg用量のrhASAを投与した6匹のサルのITおよびICVの両投与経路の同じパンチ試料を用いて検出されたrhASAの濃度を、
図26A〜Bに示す。rhASAを髄腔内(IT)または脳室内(ICV)に投与した成体および幼若体カニクイザルの深部白質(
図25A)および深部灰白質(
図26B)脳組織で検出されたrhASAの濃度は同等であった。
【0193】
次いで、成体および幼若体カニクイザルの脳から摘出したパンチ組織試料を解析して、摘出組織試料中に蓄積したrhASAの濃度を決定し、この濃度を、タンパク質1mg当たり2.5ngのrhASAの治療標的濃度(健常対象における正常rhASA濃度の10%に相当する)と比較した。
図27Aに示されるように、解析した各組織試料パンチにおいて、18.6mg用量のrhASAをIT投与することにより、2.5ng/タンパク質mgの標的治療濃度を上回るrhASA濃度を生じた。同様に、1.8mg用量のrhASAを幼若カニクイザルにIT投与した場合、解析した各組織試料パンチは、2.5ng/タンパク質mgの治療濃度内または治療濃度を上回るrhASAの濃度を示し、rhASA濃度の中央値は、試験した全組織パンチ試料で治療標的を上回っていた(
図27B)。
【0194】
IT投与したrhASAが適切な細胞に分布するか否かを判定するために、1.8mgのASAをIT投与したカニクイザルの
図28Aに示される領域の深部白質の組織を解析した。
図28Bに示されるように、深部白質組織の免疫染色により、カニクイザルのオリゴデンドロサイト細胞内のrhASA分布が明らかとなった。同様に、
図28Cは、IT投与したrhrASAがカニクイザルの深部白質組織での共局在を示したことを表している。具体的には、染色下で、リソソームのような標的細胞小器官における共局在が明らかであり(
図28C)、このことは、IT投与したrhASAが、オリゴデンドロサイトのリソソームを含めた、CNSの適切な細胞、組織および細胞小器官に分布することが可能であるという結論を支持する。上記によって、rhASAの送達においてはICV送達とIT送達との差異が最小限であることも明らかになったという結論が支持される。
実施例2:放射体標識タンパク質による生体内分布
【0195】
陽電子放射体
124Iで標識されたrhASAを、pH6.0の154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20の溶媒で調製および製剤化した。3mgのrhASAに相当する量の製剤(約38mg/脳kgに相当する)を、脳室内(ICV)および髄腔内(IT)の投与経路で成体カニクイザルに投与した。カニクイザルの高解像度PETスキャン画像解析(microPET P4)を行って、投与した
124I標識rhASAの分布を判定した。
【0196】
PET画像データ(
図29)は、ICV投与した
124I標識rhASAおよびIT投与した
124I標識rhASAはともにCNSの組織に効率的に分布し、特にIT腰椎カテーテルにより投与した
124I標識rhASAは、脊髄の全長にわたる脳脊髄液(CSF)中に迅速かつ均一に広がったことを示している。具体的には、
図29に示されるように、ICV投与およびIT投与後に、治療濃度の
124I標識rhASAが対象カニクイザルの脳、脊髄およびCSFを含めたCNS組織内で検出された。CNS組織内、特に脳組織内で検出されたrhASAの濃度は、2.5ng/タンパク質mgの治療標的濃度を上回った。
【0197】
rhASAタンパク質の分布はITおよびICVの投与経路において同程度であったが、
図29から明らかなように、ICVの方が脊柱内での沈着が著しく少なかった。
【0198】
製剤投与の24時間後、ICV投与した
124I標識ASAおよびIT投与した
124I標識rhASAはともにCNSの組織に効率的に分布した。具体的には、IT投与の24時間後に、ICV投与の16.7%に対し投与量の12.4%が頭部領域内にあった。したがって、rhASAをITで投与した場合、このようなCNS組織内、特に脳組織内で検出されたrhASAの濃度は、同じ用量のICV投与後に検出された濃度に近かった。
【0199】
図30に示されるように、
124I標識rhASAのICV注射では、注射した量が大槽、橋槽、脚間槽および近位脊柱へ迅速に移動する。また
図30で示されるように、IT投与でも、ICV投与で示されたのと同じ最初の区画(槽および近位脊柱)へ
124I標識rhASAが2〜5時間以内に送達された。
図31に示されるように、ICVおよびITの両投与の24時間後に、
124I標識rhASAの分布は、槽および近位脊柱領域において同程度であった。したがって、小分子薬とは異なり、上記の結果では、ICV投与には、rhASAのIT−投与に勝る利点が最小限であることが暗示されている。
【0200】
これらの結果により、rhASAを侵襲性の少ないIT投与経路で対象に送達して、標的細胞および組織内での治療濃度を達成し得るということが確認される。
【0201】
リソソーム蓄積症は、酵素の欠損または不全を原因とする異常な基質蓄積を生じる遺伝性疾患ファミリーの代表的なものである。これらの疾患のいくつかと関連する末梢症状は、組換え酵素の静脈内投与により効果的に軽減されるが、このような組換え酵素の静脈内投与は、大部分のリソソーム蓄積症に関連したCNS発症に大きな影響を与えることは期待されない。例えば、ハンター症状群の身体症状の治療用に組換えヒトイズロン酸−2−スルファターゼ(イデュルスルファーゼ、Elaprase(登録商標);Shire Human Genetic Therapies,Inc.Lexington、MA)が認可されているが、発達遅延および進行性の精神障害を含み得るの神経発症の治療のための薬物療法はない。その原因の一つは、I2Sが分子量約76kDの大型で高度にグリコシル化された酵素であり、静脈内投与後に血液脳関門を横断しないという性質にある。
【0202】
したがって、本発明者らは、組換えヒト酵素、例えばイズロン酸−2−スルファターゼ(I2S)、アリールスルファターゼA(rhASA)およびα−N−アセチルグルコサミニダーゼ(Naglu)などの髄腔内製剤の髄腔内(IT)送達を調べる計画に取り組んだ。本明細書に提供される結果は、組換えリソソームタンパク質のIT腰椎投与により、投与したタンパク質のかなりの割合が脳に送達される、具体的には、このようなタンパク質がカニクイザルおよびイヌ両者の脳および脊髄のニューロン内に広範に蓄積されることを初めて示すものである。CNS組織の免疫組織化学的解析では、リソソーム蓄積症における病的なグリコサミノグリカン蓄積の部位であるリソソームに対してタンパク質が標的化されることが示された。さらに、ハンター症状群のIKOマウスモデル、サンフィリッポ症状群B型のNaglu−欠損マウスモデルおよび異染性白質ジストロフィー症(MLD)のASAノックアウトマウスモデルで示された形態学的改善は、IT投与した酵素が適切な組織に分布し、適切な細胞区画および細胞小器官へ輸送されるという観察を補強するものである。
【0203】
I2SのIT腰椎投与後およびICV投与後に検出された脳内分布パターンの類似性は、CSFの総体流および活発な再混合を示唆するものである。したがって、臨床状況においてIT投与およびICV投与の両経路が潜在的に実行可能であるが、IT投与後に脊髄内でI2S蓄積が観察されたことは、ハンター症状群のようなリソソーム蓄積症の脊椎での続発症および構成要素に対処する上での明らかな利点を提供する。さらに、脊髄注射ポートは侵襲性が少なく、特に小児対象で長期にわたって使用するのにより適していることが予想される。
【0204】
血管周囲細胞染色、および上記のPET画像解析で観察されたタンパク質移行動態による証拠は、酵素が、おそらく拍動による対流機序により血管周囲腔内に移動することを示している。活発な軸索輸送を示すI2Sと神経フィラメントとの関連が観察されたことにより、さらなる輸送機序が示唆される。後者はおそらく、脊髄および脳の細胞で広く発現され、脳実質への直接投与時にI2S酵素が標的細胞に取り込まれやすくするニューロンマンノース−6−リン酸(M6P)受容体と、タンパク質との相互作用から始まるのであろう(Begleyら,Curr Pharm Des(2008)14:1566−1580)。
【0205】
リソソーム酵素の軸索輸送が、in vivoでの間接的な方法およびin vivoでのイメージングにより既に示唆されているが、本試験は、CSFを介して輸送される、ウイルスによらないまたは発現された酵素の軸索輸送の最初の直接的な証拠を提供するものである。したがって、CSFから脳表面および深部脳組織へのタンパク質送達は、活発な移動プロセスに依存すると思わるが、このようなプロセスはいずれもまだ記載されていない、すなわち、脳の細胞、組織および細胞小器官へのタンパク質または酵素の送達を明らかにするものである。
【0206】
実質間質およびCSFの流動力学がIT腰椎投与したタンパク質の脳白質への分布を妨げるという一般的な見解に反して、本試験は、リソソーム酵素のIT送達が、全脳組織内でのタンパク質の分布および蓄積、ならびに病的なグリコサミノグリカン蓄積の部位である標的細胞のリソソーム区画内での沈着を生じさせることを明らかに示している。(例えば、Fenstermacherら,Ann N Y Acad Sci(1988)531:29−39およびDiChiroら,Neurology(1976)26:1−8を参照されたい)。IT腰椎送達が侵襲性の少ない性質であることに加え、この経路は、特に小児において、生物学的治療剤を脳に送達するための臨床上適切な手段を提供する。
実施例3:IT投与用アリールスルファターゼA製剤
【0207】
この実施例では、rhASA(アリールスルファターゼA)の高濃度液状剤形を構築する作業と、髄腔内(IT)投与によって異染性白質ジストロフィー症(MLD)を治療するための薬剤物質および薬品の調合を概説する。
【0208】
安定性データによって、薬剤物質および薬品の生理食塩水製剤(PBS20を含まない)が、<−65℃で18ヶ月、および2〜8℃で18ヶ月置いた後も安定していることが示されている。上記タンパク質の医薬開発中、CNSへの送達という意図により、rhASAの溶解度および安定性を限られた緩衝剤および賦形剤の条件下で調査した。静脈内(IV)用製剤を開発する目的で、予め製剤開発研究を行った。3回の実験の結果に基づき、137mMのNaClと0.15%のポロキサマー188をを含む10mMのクエン酸塩−リン酸緩衝剤(pH5.5)中の30mg/mLのrhASAを含む製剤をリードIV製剤として選択した。rhASAをIT送達用に3つの製剤で調合し、このタンパク質の安定性データを3つの条件下で調査した。1つの部位の上流物質生成物に由来するrhASAロットを利用した。この結果によって、rhASAが、0.005%のポリソルベート20(P20)を含む154mMの塩化ナトリウム溶液(pH6.0)中で、2〜8℃において、少なくとも18ヶ月間、安定していたことが示された。加えて、調査を行ったところ、凍結融解および攪拌誘発分解に対する安定性が示された。
【0209】
開発ロットを精製し、限外ろ膜とダイアフィルター(UF/DF)にかけ、10mMのクエン酸塩/リン酸塩、137mMのNaCl(pH5.5)に入れてから、UF/DFにかけて、約40mg/mLの濃度の最終的な生理食塩水を得た。UF/DFの操作の概要が表7に示されている。
【表7】
rhASA
【0210】
137mMのNaClを含む10mMのクエン酸・リン酸ナトリウム(pH5.6)中に40mg/mLのrhASAで調合したrhASAを透析して、ITプレフォーミュレーション研究で用いるための5つの製剤にした(表8)。
【表8】
方法
【0211】
示差走査熱量測定(DSC)による融解温度(Tm)の決定のために、キャピラリーDSCマイクロカロリメーター(MicroCal)を毎時60℃の走査速度、および10〜110℃の温度範囲で用いた。緩衝液のベースラインをタンパク質の走査結果から差し引いた。この走査結果を各試料のタンパク質濃度に対して正規化した(280nmにおける紫外吸光度によって測定したとともに、0.69(mg/mL)−1.cm−1の吸光係数を用いた)。最初の短期安定性実験は、rhASA薬剤物質に対して、40℃で2週間、または40℃で1ヶ月のいずれかで行った。追加の試料に対して、2〜8℃で3ヶ月という短期安定性実験を行った。試料をろ過し(Millipore、P/N SLGV033RS)、0.5mLのアリコートを13mmのFlurotecストッパーで2mLに分注した。
【0212】
DSCを用いて、製剤組成物(表8)のTm(熱誘導変性の温度中心点)に対する影響を調べた。様々な製剤組成物のTm値が
図5に示されている。これらのTm値によって、大半の製剤のほどける温度は似通っていたことが示された。ただし、154mMのNaClを含む5mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)中、または、2mMのCaCl
2および137mMのNaClを含む1mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)中のいずれかで調合したrhASAでは、低いTm値が観察された。
【0213】
5つの選択製剤(表8)中のrhASAの熱誘導変性の影響も調べた。試料を2週間もしくは1ヶ月間40℃、または、3ヶ月間2〜8℃のいずれかで貯蔵した。2週間40℃で貯蔵した試料のSDS−PAGE(クマシー)解析では、154mMのNaClを含む5mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)中、および、2mMのCaCl
2および137mMのNaClを含む1mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)中に調合したrhASAの断片化が検出された(
図6)。このような分解は他の製剤では観察されなかった。
【0214】
分解生成物の存在は、同じ時点においてRP−HPLCによって観察された低いメインピーク率(パーセント)と整合している(表10)。2mMのCaCl
2を含む1mMのPBS(pH7.0)中に調合したrhASAが、開始時、および熱ストレス条件に短期間曝露させた後に、そのpHを保持していなかったことも観察された。
【0215】
サイズ排除および逆相HPLC解析では、WatersのHPLCシステムを用いた。最初のSEC−HPLC解析では、50μgのrhASAをAgilent Zorbax GF−250というカラム(4.6mm×250mm)に注入し、280nmの検出波長で、100mMのクエン酸ナトリウム(pH5.5)の移動相(8量体検出)を用いて、0.24mL/分にて均一濃度で流した。100mMのクエン酸ナトリウム(pH7.0)の移動相条件(2量体検出)を用いて、解析を繰り返した。
【0216】
すべての緩衝剤交換および濃度調査は、Centricon−Plus20(Millipore、10kDa MWCO)を用いて行った。
プレフォーミュレーションスクリーニング調査−緩衝剤の種類およびpHの影響
【0217】
CNS投与用に用いられる認可溶液組成物の数が限られているので、表8に列挙されているような5つの等張溶液組成物のみをスクリーニング用に選択した。
pH記憶
【0218】
長期安定性用の緩衝剤を選択する前に、2回の「pH記憶」実験を行って、タンパク質緩衝剤を生理食塩水に交換しても、元々の緩衝剤のpHを保持できるか調べた。最初の実験では、まず、137mMのNaClを含む10mMのクエン酸塩−リン酸塩(pH値は5.5または7.0のいずれか)に約8mg/mLのrhASAを透析してから、生理食塩水への2回目の透析を行った。2回目の実験では、137mMのNaClを含む10mMのクエン酸塩−リン酸塩(pH値は5.5または7.0のいずれか)にrhASAを透析してから、緩衝剤を交換し、生理食塩水中に入れて、約35mg/mLまで濃縮した。
【0219】
137mMのNaClを含む10mMのクエン酸塩−リン酸塩(pH値は5.5または7.0のいずれか)中に調合したrhASAを生理食塩水に透析した場合には、混濁の増大は観察されなかった。最終的な生理食塩水のpHは、曝露させた前のクエン酸塩−リン酸塩緩衝剤のpHと同様であった。クエン酸塩−リン酸塩系緩衝剤(pH値は5.5または7.0のいずれか)中に調合したrhASAを生理食塩水に透析してから、Centriconを用いて約35mg/mLまで濃縮した場合には、タンパク質生理食塩水のpHはそれぞれ、pH5.5から5.8、またはpH7.0から6.8に変化した。濃縮した、生理食塩水中のrhASA溶液のいずれも、わずかに乳白色を帯びていたとともに、そのOD320値は、0.064(pH6.8)〜0.080(pH5.5)の範囲内であった。
賦形剤の選択
【0220】
選択した5つの溶液組成物のすべてに、ポリソルベート20(P20)を最終濃度0.005%で含有させた。その他のShireタンパク質のCNS送達における0.005%のP20のin vivo耐性に関する事前の実験に基づき、界面活性剤の選択を行った。5%のP20の溶液(v/v)を調製し、適切な体積分を各タンパク質製剤に加えて、0.005%の最終濃度を得た。
製剤のロバストネス調査−安定性調査
【0221】
様々な緩衝剤およびpH値のスクリーニングから得た最初の結果に基づき、長期安定性調査のために、3つの溶液組成物を選択した(表8と同様の試料調製)。提案の製剤(表9)で、1年にわたる調査を開始した。SEC−HPLC、RP−HPLC、OD320、タンパク質濃度、pH、比活性度、SDS−PAGE(クマシー)、および外観によって、各時点における安定性試料を解析した。
【表9】
【表10】
【0222】
ストレス付加後の試料では、比活性度の有意な変化は観察されなかった(表10)。サイズ排除HPLCによる解析では、2週間熱ストレスを付加した試料であって、154mMのNaClを含む5mMのリン酸ナトリウム(pH7.0)中に調合した試料において、いくらかの分解が検出された。この分解は、rhASAの8量体への結合を誘発するpH5.5の移動相条件を用いたSEC−HPLCによって、より明白であった。この移動相条件下では、pH7.0で、2mMのCaCl
2を含む1mMのPBS中に調合したrhASAも、有意な分解を示した。
【0223】
40℃で1ヶ月曝露させた後、5mMのPBS(pH7.0)中、および2mMのCaCl
2を含む1mMのPBS(pH7.0)中に調合した試料は、SDS−PAGEによる断片化を示した(データは示されていない)。この観察結果と整合して、pH7のこれら2つの製剤で貯蔵した試料では、RP−HPLCおよびSEC−HPLCによって、メインピーク率(パーセント)の低下も観察された(表11)。ただし、比活性度の低下は、5mMのPBS(pH7.0)中に調合したrhASAで観察されたのみであった。
【表11】
【0224】
2〜8℃で3ヶ月貯蔵後、rhASAは、すべての製剤においてその活性を保持していた(表12)。加えて、SEC−HPLCによって評価したところ、いずれの移動相条件下でも、rhASAはメインピーク面積の>99.8%を保持していた。2〜8℃で3ヶ月貯蔵した場合の安定性データの概要は、表12に示されている。
【表12】
【0225】
生理食塩水(pH7.0)、および2mMのCaCl
2を含む1mMのPBS(pH7.0)中に調合したRhASAも、25℃の加速条件で3ヶ月貯蔵後に評価した。
図7に示されているように、rhASAは、上記の製剤中で、わずかな量の断片化を見せた(0.5%のBSA不純物のスパイクの強度と同程度の強度)。
【0226】
総合的には、プレフォーミュレーション研究によって、rhASAの安定性は、5.5〜6.0の範囲内のpH値で保持されることが示された。pH7.0の製剤溶液を用いたすべての調査において、rhASAは、その分解経路の1つとして、断片化を示した。pH7.0においてIT用製剤候補で得られた熱ストレス結果は、pH7.0におけるIV用製剤(137mMのNaClを含む10mMのクエン酸ナトリウム−リン酸塩)で得られた熱ストレス結果(断片化が観察された)と同様であった。これらの調査に基づき、表9に示されているような下記の3つの製剤を長期安定性調査用に選択した。
凍結融解調査
【0227】
Vertis Genesis 35ELという凍結乾燥機の棚の上で、0.1℃/分にて周囲温度〜−50℃で制御凍結融解を3サイクル実施することによって、凍結融解実験を実施した。30mg/mLで上記の5つの溶液組成物(表8)のそれぞれの中に調合した薬剤物質の1mLのアリコートを、この調査のために3mLのガラスバイアルに分注した。
【0228】
すべての凍結融解調査において、薬剤物質(38±4mg/mL)を用いた。小規模の制御速度凍結融解実験では、薬剤物質の2mLのアリコートを、20mmのFlurotecストッパー付きの5mLのガラスバイアルに分注した。凍結乾燥機Virtis Genesis 35ELの棚、または、制御速度フリーザー(Tenney Jr Upright Test Chamber、モデル:TUJR−A−VERV)の棚のいずれかの上で、凍結融解ストレス実験を行った。0.1℃/分の凍結・融解速度(制御速度フリーザーを用いる場合)、または、0.1℃/分の凍結速度および0.03℃/分の融解速度(凍結乾燥機を用いる場合)のいずれかで−50℃まで凍結し、25℃まで融解させるサイクルを3回行った。大規模凍結融解調査では、90mLの薬剤物質を250mLのポリカーボネート瓶に分注した。ドライアイス上での凍結融解調査では、3mLの薬剤物質を、ポリプロピレンのねじぶたが付いているか、または付いていない5mLのポリカーボネート(Biotainer P/N 3500−05)バイアルに分注した。この
試料をオーバーナイトで≦−65℃で凍結させてから、閉じたバケット内のドライアイス上に置いた。これらの実験では、同じ試料体積を含むストッパー付きガラスバイアルを調査対照として用いた。希釈薬剤物質の凍結融解調査では、1および5mg/mLの1mLのアリコートを2mLのポリプロピレン管に分注し、≦−65℃で凍結させた。続いて、凍結した試料を卓上で融解させた。このサイクルを最大で10回繰り返し、対照標準アリコートの取り扱いで生じる可能性のあるあらゆる潜在的ストレスを模倣した。
【0229】
速度制御凍結融解(0.1℃/分)を3サイクル行った後、0.005%のP20を含む提案製剤中のrhASAの品質に凍結融解が及ぼす影響を割り出した。rhASAの外観の変化は観察されず、SECまたはRP−HPLC法のいずれかを用いても、可溶性凝集体または分解生成物は同定されなかった。加えて、還元SDS−PAGE解析(データは示されていない)において、断片化または凝集バンドは観察されなかった。表13は、これらの調査の結果の概要を示している。
【表13】
【0230】
3連にて薬剤物質の2mLのアリコートで行った小規模の制御速度凍結融解調査の結果の概要が表14に示されている。薬剤物質の品質の変化は観察されなかった。凍結融解させた薬剤物質の外観は、ベースライン試料の外観と同程度であった。タンパク質濃度または材料の純度の低下は観察されなかった。
【表14】
【0231】
いずれの実験によっても、凍結融解後も、rhASAがその品質特性を保持することが示された。表15に示されているように、1mg/mLのrhASA試料において、10サイクルの凍結融解後、活性および逆相メインピーク率(パーセント)に、わずかな低下傾向が観察されたことに留意されたい。
【表15】
攪拌調査
【0232】
30mg/mLで、5つの選択溶液組成物(表8)のそれぞれの中にP20とともに調合した滅菌ろ過タンパク質の1.0mLのアリコートを、13mmのFlurotecストッパー付きの3mLのガラスバイアルに分注した。バイアルを横向きにしてLabline Orbital Shakerの上に置き、24時間、100rpmで振盪した。続いて、次の24時間の振盪期間中、この設定を200rpmまで速くした。
【0233】
rhASAの攪拌に対する感受性を評価するために、薬剤物質と薬品の両方に対して、薬剤物質は35.4mg/mLの濃度で、薬品は30mg/mLの濃度で、振盪および攪拌調査を行った。これらの調査では、薬剤物質の1.0mLのアリコートを、13mmのFlurotecストッパー付きの3mLのガラスバイアルに分注した。最初の8時間では1時間おきに、それ以降は24時間および84時間の時点に、攪拌したバイアルを調べた。曇りの兆候が最初に現れたら、バイアルを取り出し、解析した。試料の外観を文書化し、pH、SEC−HPLC、比活性度、およびOD320を用いて、試料をアッセイした。薬品の攪拌調査を3連で行い(0.005%のP20を含む154mMのNaCl中、pH6.0)、薬剤物質の1つの複製物(154mMのNaCl中、pH6.0)と比較した。振盪調査も、P20を生理食塩水製剤に含めずに繰り返した。これらの調査では、30mg/mLの薬品の1mLまたは3mLのいずれかのアリコートを3mLバイアルに分注し、振盪およびヘッドスペース体積がrhASAの品質に及ぼす影響を調べた。これらの振盪調査では、220rpmという速度を用いた。
【0234】
IV用製剤の開発調査のためにrhASAについて行われた最初の振盪調査では、界面活性剤の存在に関する潜在的な利点が示された。IT用製剤の開発では、0.005%のP20を選択し、振盪調査用の製剤に含めた。いずれの製剤においても、15〜24時間、100rpmで振盪後も視覚的な変化は観察されず、振盪速度を200rpmまで速くした。100および200rpmで合わせて48時間振盪した後も、提案候補製剤のうち、振盪した試料の外観の変化は観察されなかった。上記の期間後、試料を解析した。その結果の概要が表16に示されている。いずれのアッセイによっても、変化は観察されなかった。クマシーによるSDS−PAGEでも、振盪した試料では、追加の高または低分子量バンドは示されなかった(データは示されていない)。
【表16】
【0235】
最初の4時間の攪拌では、薬剤物質(154mMのNaCl中、pH6.0)または薬品(0.005%のP20を含む154mMのNaCl中、pH6.0)の外観の変化は観察されなかった。6時間の攪拌後には、薬剤物質および薬品のいずれも、わずかに曇った(データは示されいない)。P20が製剤中に存在していなかった場合、この曇りは、48時間の攪拌後、より顕著になった。加えて、振盪した薬剤物質および薬品は、24時間で曇った。
図8には、48時間の攪拌の観察結果が示されている。
【0236】
表17および表18は、攪拌調査の観察結果の概要を示している。
【表17】
【表18】
【0237】
攪拌した試料も、OD320、pH、比活性度、RP−HPLC、およびSEC−HPLCによって解析した。その結果は、表19および表20に示されている。全体的に、攪拌および振盪後も、rhASAの品質には、外観を除いて有意な変化は観察されなかった。
【表19】
【0238】
6時間後、薬品を0.005%のP20とともに攪拌したところ、3つの複製物の1つが濁った。この試料を除去し、他の2つの試料を最長48時間攪拌した。表20には、複製試料の平均データが示されている。
【表20】
【0239】
上記の結果および目視観察によれば、薬剤物質および薬品は、攪拌誘発性分解の影響を容易には起こさない。外観の変化を生じさせるには、約4時間の連続的な攪拌(設定番号5)および8時間の連続的な激しい振盪(220rpm)を要するからである。
【0240】
P20を含まない薬品で、上記の振盪調査を繰り返した。これらの調査では、振盪およびヘッドスペース体積がrhASAの品質に及ぼす影響を調べるために、各バイアルに1mLまたは3mLの薬品を入れた。1mL入れた3mLのバイアルでは、220rpmでの8時間の振盪を通じて、薬品の変化は観察されなかった(n=2、データは示されていない)。ヘッドスペースのないバイアル(n=1)では、ヘッドスペースがこれよりも大きいバイアルと比べて速い速度で、小さいフレーク、数本の繊維、および綿状物が形成されたことが示された。48時間の観察結果が
図9に示されている。
【0241】
目視の結果の概要も表21および表22に示されている。
【表21】
【表22】
タンパク質濃度の変化は観察されなかった。加えて、SEC−HPLCを用いても、1mLまたは3mLのいずれの注入体積(表23および表24)においても、可溶性凝集体は検出されなかった。還元SDS−PAGE(クマシー)アッセイでは、いずれの高または低分子量バンドも検出されなかった(データは示されていない)。
【表23】
【表24】
緩衝能調査
【0242】
rhASAの緩衝能を割り出すために、製品を3連で、希酸または希塩基のいずれかで滴定した。マイクロスターラーバーを入れた20mLのガラスバイアルに、38mg/mLまたは30mg/mL(後者は薬品を模倣する濃度)のいずれかの薬剤物質の10mLのアリコートを入れた。1Nの塩酸(HCl)の1μLのアリコートを上記のタンパク質溶液に加え、その内容物を混合し、pHを記録した。HClを1μLずつ増やしながら加え、いずれの希釈も回避するために、pHが約5.5になるまでは、測定の間にpHプローブをすすがずに実験を継続した。実験は3連で行い、比較のために、150mMの塩化ナトリウムを含む5mMのリン酸緩衝剤(pH6.0)を並列で滴定した。同様に、最終的なpHが約6.5になるまで、上記の両方の濃度の薬剤物質を1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)で滴定した。rhASA中にいずれかの残存リン酸塩が存在するか調べるために、誘導結合プラズマ質量解析法(ICP−MS)によって薬剤物質を解析した。希釈したrhASA薬剤物質の緩衝能も調べて、タンパク質溶液の希釈時に、溶液のpH値が変化しないようにした。1.5mLのエッペンチューブで、30mg/mL〜1mg/mLの範囲の希釈試料を調製し、希釈開始時、および、2〜8℃で1週間貯蔵後に、pH値を測定した。
【0243】
希酸および希塩基による滴定調査の結果によって、rhASA溶液の十分な緩衝能が示された。HClを用いた滴定調査では、最初は、1Mの酸を約2μL加えても、薬剤物質または緩衝剤対照のいずれのpHも変化しなかった。しかし、酸の体積を増やしていったところ、rhASA薬剤物質と比べて、緩衝剤のpHが劇的に低下したことが示された。19MのHClを13μL加えた後、緩衝剤対照のpHは、2pH単位超、薬剤物質のpHよりも低かった。薬品濃度を模倣するために、この実験には、30mg/mLの薬剤物質濃度も含めた。
図10は、酸で滴定した場合の、150mMの塩化ナトリウムを含む5mMのリン酸ナトリウム緩衝剤(pH6.3)と比較におけるrhASA薬剤物質の緩衝能を示している。
【0244】
rhASA薬剤物質の水酸化ナトリウムによる滴定では、pHの保持という点では、比較的異なる結果が示された(
図11)。pH変化の速度は、実質的に薬剤物質と緩衝剤対照との間で差はなかった。
【0245】
観察結果に基づき、かつ、いずれの理論にも拘束されることを意図しなければ、アスパラギン酸側鎖、グルタミン酸側鎖、およびヒスチジン側鎖は、溶液のpHを保持するように、プロトン受容体および/または供与体として機能できるので、rhASAは溶液の緩衝能に寄与していると思われる。このタンパク質の緩衝能は、「pH記憶」の影響を見出したプレフォーミュレーション研究中にもすでに観察した。pHの保持は、実験室規模および大規模操作の両方において、何度か示してきた。総合的に、これらの2つの実験の結果によって、生理食塩水中のrhASAの緩衝能は、酸性方向における方が高いことが暗示されている。文献によれば、低pH値の緩衝能ほど、所定のタンパク質内のアスパラギン酸およびグルタミン酸残基の数が、ヒスチジン残基よりも多いことを直接示している。いずれの理論に束縛されるものではないが、実際、このようなケースは、18個のヒスチジン残基に対して、グルタミン酸残基とアスパラギン酸が合わせて45個存在するアリールスルファターゼAに当てはめることができる。
【0246】
薬剤物質の緩衝能は、結合している残存のリン酸塩(ICP−MSを用いて、薬剤物質中に存在することが明らかになった)に起因する場合もある。表25は、LSDL薬剤物質の3種類のロットに存在する残存リン酸塩の量を示している。このデータによって、パイロットスケールのプロセスで、限外ろ膜およびダイアフィルターにかけるステップの整合性も確認される。
【表25】
【0247】
このタンパク質の緩衝能をさらに理解するために、希釈のpHに対する影響も調べた。rhASA薬剤物質を生理食塩水で希釈して、タンパク質濃度を低下させても、薬剤物質のpH値の変化は観察されなかった。続いて、希釈した薬剤物質を2〜8℃で1週間貯蔵した後、pH測定値を記録した。表26にそのデータの概要が示されている。この結果によって、希釈、および2〜8℃での貯蔵は、希釈した薬剤物質のpH値に影響を及ぼさないことが示されている。さらに、これらの観察結果によって、生理食塩水中に調合したrhASA薬剤物質の十分な緩衝能を示した酸および塩基滴定調査の結論が擁護される。
【表26】
【0248】
rhASAの希釈およびpHの調査中、希釈した試料の外観において、濃度依存的な乳白色の低減が観察された。すなわち、高濃度のrhASA試料ほど、ほぼ透明な外観を有する低濃度試料よりも、乳白色が濃かった。
図12は、希釈したrhASAの外観の観察結果を示している。1mg/mLのrhASA溶液は、水と同様の外観を呈していたが、30mg/mLにおける外観は、対照懸濁液IIとIIIとの中間、または、対照懸濁液IIIとIVとの中間のいずれかと評価された。
安定性調査
【0249】
安定性調査のために、154mMのNaCl(pH6.0)中に薬剤物質を38±4mg/mLで調合し、154mMのNaCl(pH6.0)中に、0.005%のポリソルベート20の存在下または非存在下で薬品を30±3mg/mLで調合した。薬剤物質の1mLのアリコートを、ポリプロピレンのねじ込みクロージャーの付いた5mLのポリカーボネート瓶に分注し、≦−65℃、−15℃〜−25℃、および2〜8℃で貯蔵した。薬品の1.0〜1.1mLのアリコートを、13mmのFlurotecストッパー付きの3mLのガラスバイアルに分注し、2〜8℃、25±2℃、および40±2℃で貯蔵した。最初の安定性調査のために、薬品バイアルを直立配向で貯蔵し、次の調査のために、P20を含まない薬品を用いて、逆の配向に変更した。各時点において、SEC−HPLC、RP−HPLC、OD320、タンパク質濃度、pH、比活性度、SDS−PAGE(クマシー)、および外観によって、安定性試料を試験した。ペプチドマップ、グリカンマップ、およびホルミルグリシンの割合を毎年行った。加えて、後者のアッセイは、ストレス付加および加速条件でも行った。
総合的に、プレフォーミュレーション、凍結融解、および攪拌調査の結果によって、3つの製剤のみが、さらなる開発に適していることが暗示されている。これらの3つの製剤で、0.005%のP20の存在下にて、長期安定性調査を開始した。表27、表28、および表29に、所定の時点における3つの製剤の安定性データの概要が示されている。
【表27】
【表28】
【表29】
【0250】
2〜8℃で最長11ヶ月間行った安定性調査によって、プロトタイプ製剤中でrhASAの品質が保持されることが暗示されている。生理食塩水(pH5.9)中のrhASAの代表的なサイズ排除HPLCプロファイルが
図13および14に示されている。サイズ排除HPLCでは、2〜8℃で11ヶ月貯蔵後も、rhASAの会合状態の有意な変化は検出されなかった。
【0251】
全体的に、3つのいずれの候補製剤での薬品の品質は、2〜8℃で11ヶ月貯蔵後も保持された。
実施例4−毒性
【0252】
本実施例は、6か月の期間にわたるrhASAの髄腔内(IT)投与の反復投与を、毒性学的および安全性薬理学的観点から示すものである。本試験のIT被検試料はrhASAであった。36匹の雄および36匹の雌カニクイザルを無作為に5つの処置群に割り当てた。群1の個体は未処置の埋植物デバイス対照(ポートおよびカテーテル)であり、これらの個体には溶媒も被検試料も投与しなかったが、被検試料の投与計画に合わせた計画で0.6mLのPBSを投与した。群2〜5の個体には、0、3、10または31mg/mlのrhASAを隔週、0.6mL(0、1.8、6.0または18.6mgの総用量)のIT注入で投与した(すなわち、合計12回の投与)。6か月後(最後のIT投与の24時間後)に個体の剖検を行い、4週間の回復期間の終わりに残りの4個体/性別/群の剖検を行った。選択した組織を採取して保存し、顕微鏡で調べた。
【0253】
全般的に、被検試料に関連する変化は、2つの大きな種類に分類することが可能であり、全用量レベル(1.8、6.0および18.6mg/投与)で見られた。髄膜、脳実質、脊髄実質、三叉神経節、および場合により脊髄神経根/節(またはこれらの構造を取り囲む神経上膜)における浸潤(通常は好酸性成分が顕著な白血球)の増加。いずれの理論にも束縛されるものではないが、この増加は、被検試料(タンパク質)が髄腔内腔および神経系組織内に存在することによると解釈した。一部の個体の脊髄および脳でミクログリア細胞のわずかな局所的増加(小膠細胞症は高用量のいずれの個体でも観察されなかった)。いずれの理論にも束縛されるものではないが、形態学的変化は2種類とも、被検試料の存在に対する反応であると解釈した。どの個体においても、ニューロン壊死の証拠は見られなかった。被検試料に関連する変化はいずれも、脳、脊髄、脊髄神経根または脊髄神経節におけるいかなる生物学的に有害な反応とも関連しなかった。具体的には、ニューロン壊死または生物学的に重要なグリア反応の証拠が見られなかった。被検試料に関連する非神経系組織の病変は見られなかった。
【0254】
1か月の回復期間(無投与期間)の後、被検試料に関連する変化は、完全に消散するか、または被検試料の存在に伴って以前に増加した炎症性応答の残存物に限定されていた。回復個体において有害な形態学的影響は見られなかった。半定量的染色スコアを付ける盲目下での顕微鏡検査に基づけば、最終殺処分時に、アリールスルファターゼA(rhASA;被検試料)に対する免疫組織化学染色が、全被検試料処置群でニューロンを除く脳および脊髄の各種細胞型において増加していた。またこの増加は、肝臓のKupffer細胞においても明らかであった。1か月の回復期間の後、被検試料処置個体(全用量群)におけるrhASA染色が対照(装置および/または溶媒対照)レベルに戻っていた。低用量群の回復雄の1個体では、大脳皮質において、複数の領域での以前の虚血を示すアストロサイト増加およびニューロン損失の複数の病巣が見られた。この個体でのこれらの病変の正確な病因は明らかでなかったが、10倍の用量を投与した高用量個体を含めた他の被検試料処置個体で同様の病変が見られなかったことは、これらの病変が被検試料に関係するものではなかったことを示している。
【0255】
本試験のIT被検試料はrhASAであった。36匹の雄および36匹の雌カニクイザルを無作為に5つの処置群に割り当てた。群1の個体は未処置の埋植物デバイス対照(ポートおよびカテーテル)であり、これらの個体には溶媒も被検試料も投与しなかったが、被検試料の投与計画に合わせた計画で0.6mLのPBSを投与した。群2〜5の個体には、0、3、10または31mg/mlのrhASAを隔週、0.6mL(0、1.8、6.0または18.6mgの総用量)のIT注入で投与した(すなわち、合計12回の投与)。6か月後(最後のIT投与の24時間後)に個体の剖検を行い、4週間の回復期間の終わりに残りの4つ個体/性別/群の剖検を行った。選択した組織を採取して保存し、顕微鏡で調べた。下の表は、本試験の病理学的側面に関連する試験計画を示すものである。
【0256】
殺処分時に、脳を脳マトリックスで約3mmの冠状スライス厚に切った。最初のスライスと、そこから1枚おきのスライスを、組織病理学的評価および免疫組織化学的解析用にホルマリン中で固定した。脳を完全な冠状切片として処理した。これらの切片には、少なくとも以下の脳領域が含まれていた。
・新皮質(前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質および後頭皮質を含む:脳切片1〜8(および存在すればスライス9)
・古皮質(嗅球および/または梨状葉):脳切片1〜3
・大脳基底核(尾状核および被殻を含む):脳切片3および4
・辺縁系(海馬および帯状回を含む):脳切片4および5
・視床/視床下部、および黒質を含めた中脳領域:脳切片4および5
・小脳、脳橋および延髄:脳切片6〜8(および存在すればスライス9)。
【0257】
脳切片を切片1〜8/9(一部の個体に関して切片9は試験施設により提供された)としてデータ表に挙げられている。切片作成は個体間で若干異なっていた。上に挙げた脳切片(1〜8/9)は、様々な解剖学的領域の約の位置であった。脳切片は、後に可能性のあるさらなるスライド再検査(それがある場合)を容易にするために、その切片と関係のある診断とともに個々の切片としてデータ表に挙げられている。データ解釈の際には、被検試料による固有の影響(すなわち、特定の脳領域に固有)を同定するために、脳の個々の解剖学的部位(上記)を比較した。TPSでは、全個体の脳切片をすべてパラフィンに包埋して、5ミクロンに薄切し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色して、顕微鏡により調べた。さらに、対照および高用量の個体の脳をフルオロ−Jade B(神経変性に関する脳の評価の感度を増強する染色)およびBielschowskyの銀染色(軸索、樹状突起および神経フィラメントを直接可視化することができる処理)で染色して調べた。
【0258】
脊髄(頸部、胸部および腰部)を1センチメートルの切片に切った。次いで、最初のスライスと、そこから1枚おきのスライスを、組織病理学的評価および免疫組織化学的解析用にホルマリン中で固定した。全個体の脊髄切片(頸部、胸部(カテーテル先端を含む)および腰部)を約5ミクロンに薄切して、H&Eで染色し、各レベルで得られた横断切片および斜位切片を調べた。対照群および高用量群の脊髄の連続切片をBielschowsky銀染色および抗GFAP(アストロサイトとその突起を直接可視化することができる免疫組織化学的染色)でさらに染色した。
【0259】
脊髄神経後根および神経節(中頸部、中胸部および中腰部で得られた)をパラフィンに包埋し、連続切片をH&Eで染色した。さらに、対照群および高用量群の連続切片をBielschowsky銀染色で染色した。
【0260】
全個体の坐骨神経、脛骨神経および腓腹神経の切片に関しては、各神経の縦断切片をパラフィンに包埋して、約5ミクロンに薄切し、H&Eで染色した。各神経の横断切片をオスミウムで後固定し、Spurr樹脂に包埋して、約1〜2ミクロンに薄切し、トルイジンブルーで染色した。オスミウム後固定および樹脂包埋は末梢神経のミエリン保存性に優れているため、神経をより詳細に調べることができる。
【0261】
剖検時に全個体から採取した全組織および肉眼的病変もパラフィンに包埋して、H&Eで染色し、顕微鏡で調べた。組織病理学的な処理および評価、ならびに免疫組織化学的解析をTPSにより行った。
アリールスルファターゼA(rhASA)の染色
【0262】
陽性対照スライドは試験依頼者から提供された。スライドはrhASAを注射したマウスの肝臓切片であった。陽性対照スライドはすべて、肝臓Kupffer細胞(類洞マクロファージ)内にrhASAの十分な証拠を示していた。陽性対照スライドを本試験の他のスライドとともに保管する。最初に、rhASA染色した切片のすべての評価を個体の処置群に対して盲目下で行った。これは、最初に病理学者が、ラベルの個体番号を隠した(評価される実際の個体を知っている助手による)状態でrhASA染色スライドを読み取り、評価する際にスコア(重症度)を口述し、同じ助手が直ちに染色スコア(重症度)をデータ表に記入することにより行われた。次いで、正確なデータ記入を保証するために、試験神経病理学者と助手の両者が個体IDを照合した。このような手順を踏んだのは、細胞内rhASA検出のための免疫組織化学的染色による染色の全体の強度の判断に偏りが生じないようにするためである。ニューロン、髄膜マクロファージ、血管周囲マクロファージおよびグリア細胞(アストロサイトとミクログリア細胞であるが、おそらくは大部分がミクログリア細胞である)の相対的な染色の程度を、脳および脊髄のすべての切片で等級付けした。各群の各脳および脊髄レベルでの平均重症度スコアを合計し(群ごと)、脳一般rhASA染色、および脊髄一般rhASA染色という組織項目下での合計として記録した。
【0263】
一般に、脳のニューロンのrhASA染色は、脳の大脳皮質および他の核野におけるニューロンの尺度であった。髄膜マクロファージのrhASA染色は、髄膜マクロファージによる被検試料の取込みおよび/または髄膜マクロファージに内在するrhASAの証拠であった。血管周囲マクロファージのrhASA染色は、脳/脊髄のマクロファージによるrhASAの取込み(または内在するrhASA)の尺度であったが、脳および脊髄の血管周囲腔(Virchow−Robin腔)は髄膜と繋がっていることに留意するべきである。一般に、グリア細胞におけるrhASA染色の等級付けは主として、特に大脳皮質の灰白質および/または白質(放線冠は大脳皮質下の白質である)内への被検試料の取込み/被検試料の透過の尺度であった。白質でのrhASA染色は、アストロサイトおよびミクログリア細胞に見られるようであった。
【0264】
以下に挙げる等級付けスキームを用いて、各種細胞型(ニューロン、グリア細胞、マクロファージ)のrhASA染色の程度を採点した。
等級の説明(染色された可能性のある細胞の%)
1 10%未満
2 10〜25%
3 25〜50%
4 50〜75%
5 75%以上
【0265】
このスキームは厳密に定量的なものではないことに留意されたい。このスキームは、rhASAによる脳および脊髄の染色の程度を評価するための効率的で半定量的な方法として用いたものである。試験神経病理学者は、すべてのニューロン領域がrhASA染色で等しく染色されるわけではないことに留意した。また、一部の対照個体では内因性のニューロン染色が見られること、および脈絡叢の細胞および後根神経節のニューロンは対照個体においてもrhASAで強く染色されやすいことにも留意した。脈絡叢および後根神経節の染色の等級付けは行わなかったが、試験神経病理学者は対照動物においても染色が顕著であることに留意した。
【0266】
注:全用量群:低用量=1.8mg/投与;中用量=6.0mg/投与;高用量=18.6mg/投与。全用量群(雌雄;下を参照)の肝臓におけるrhASA染色の増加を除いては、被検試料に関連した非神経系組織の病変は見られなかった。
終了時に殺処分した個体(6か月間のEOW投与):rhASA染色切片
【0267】
以下に挙げる組織/細胞型においてrhASA染色の増加が見られた。特定の用量群の特定の細胞におけるrhASA染色の程度に対する被検試料の影響を考察する際には、比較のために同時溶媒対照およびデバイス対照(回復後に殺処分した個体とともに殺処分)の染色レベルを考慮した。
【0268】
・脳、髄膜、マクロファージ(全用量群、雌雄)
・脳、血管周囲、マクロファージ(全用量群、雌雄)
・脳、グリア細胞(全用量群、雌雄)
・脊髄、髄膜、マクロファージ(全用量群、雌雄)
・脊髄、血管周囲、マクロファージ(全用量群、雌雄)
・脊髄、グリア細胞(中用量および高用量の雌雄)
・肝臓、Kupffer細胞(全用量群、雌雄)
【0269】
内因性の染色があるため、脳および脊髄のニューロンにおけるrhASA染色レベルを明確に定めることが最も困難であった。rhASA染色では、髄膜および脳/脊髄の血管周囲マクロファージにおいて、およびグリア細胞内においても一貫してrhASAレベルの増加が示された。対照個体と被検試料処置個体との間で、ニューロンにおけるrhASA染色の検出可能な差は見られなかった。
回復後に殺処分した個体(6か月間のEOW投与後に、1か月間の無投与期間)
【0270】
全般的に、剖検前に1か月の無投与期間を設けた個体では、被検試料関連の変化が完全に消散するか、または著しく減少した。以下のような顕微鏡的変化が、被検試料との関連性を示す発生率および/または重症度で見られた。
【0271】
被検試料に関連する顕微鏡的変化(回復個体)
・脳、髄膜、浸潤(中用量および高用量群、雌雄)(
図16および17)
・脳、髄膜、浸潤、好酸球の%(中用量の雄;高用量の雌)
・脳、血管周囲、浸潤(中用量の雄;高用量の雌)(
図18)
・脳、血管周囲、浸潤、好酸球の%(中用量の雄;高用量の雌)
・脳、灰白質、浸潤(全用量群、雌雄)
・脳、灰白質、浸潤、好酸球の%(低用量の雄)
・脳、灰白質、好酸球、壊死(低用量の雄)
・脊髄、髄膜、浸潤(中用量および高用量の雄;低用量および高用量の雌)
・脊髄、髄膜、浸潤、好酸球の%(中用量の雄;低用量の雌)
・脊髄、灰白質、浸潤(低用量の雌)
・脊髄、灰白質、浸潤、好酸球の%(低用量の雌)
・後根神経節および神経根、神経上膜、浸潤(中用量の雌)
・脊髄神経根および神経節、浸潤、好酸球(中用量および高用量の雄;全用量の雌)
・三叉神経節、浸潤、好酸球(中用量の雌雄)
【0272】
これらの変化はすべて、終了時に殺処分した個体で認められた炎症性変化の増加の残存物であると解釈した。終了時に殺処分した個体の場合と同様に、一部の回復個体に依然として存在する炎症性の細胞浸潤の増加が、有害な作用を引き起こす形態学的変化を示すという証拠は見られなかった。被検試料に関連する非神経系組織の病変は見られなかった。回復後に殺処分した個体(6か月間のEOW投与後に、1か月間の無投与期間):rhASA染色
【0273】
回復雄または雌において、装置および/または溶媒対照と比べてrhASA染色の増加は示されなかった。実際には、低用量、中用量および高用量の回復雄の脳では、一部の細胞型(治療群間で異なる)において、装置および/または溶媒対照と比較してrhASA染色の減少が示された。これが実際の影響であるか否かを含め、その理由はわからなかった。可能性のある1つの説明は、外来性のrhASAの投与が内因性のrhASA産生をいくらか減少させた可能性があるということであろう。同様の所見は雄の脊髄では見られなかった。回復雄および雌では、肝臓における染色が、対照で認められたものと類似していた。
【0274】
全般的に、被検試料に関連する変化は、2つの大きな種類に分類可能であり、全用量レベル(1.8、6.0および18.6mg/投与)で見られた。
【0275】
髄膜、脳実質、脊髄実質、三叉神経節、および場合により脊髄神経根/節(またはこれらの構造を取り囲む神経上膜)における浸潤(通常は好酸性成分が顕著な白血球)の増加。この増加は、被検試料(タンパク質)が髄腔内腔および神経系組織内に存在することによると解釈した。
【0276】
一部の個体の脊髄および脳でミクログリア細胞のわずかな局所的増加(小膠細胞症は高用量のいずれの個体でも観察されなかった)。形態学的変化は2種類とも、被検試料の存在に対する反応であると解釈した。どの個体においても、ニューロン壊死の証拠は見られなかった。被検試料に関連する変化はいずれも、脳、脊髄、脊髄神経根または神経節におけるいかなる生物学的に有害な反応とも関連しなかった。具体的には、ニューロン壊死または生物学的に重要なグリア反応の証拠が見られなかった。被検試料に関連する非神経系組織の病変は見られなかった。1か月の回復期間(無投与期間)の後、被検試料に関連する変化は、完全に消散するか、または被検試料の存在に伴って以前に増加した炎症性応答の残存物に限定されていた。回復個体において有害な影響は見られなかった。
【0277】
半定量的染色スコアを与える盲目下での顕微鏡検査に基づけば、アリールスルファターゼA(rhASA;被検試料)に対する免疫組織化学染色が、全被検試料処置群でニューロンを除く脳および脊髄の各種細胞型において増加していた。またこの増加は、肝臓のKupffer細胞においても明らかであった。1か月の回復期間の後、被検試料処置個体(全用量群)におけるrhASA染色が対照(装置および/または溶媒対照)レベルに戻っていた。低用量群の回復雄の1個体では、大脳皮質において、複数の領域での以前の虚血を示すアストロサイト増加およびニューロン損失の複数の病巣が見られた。この個体でのこれらの病変の正確な病因は明らかではなかったが、10倍の用量を投与した高用量個体を含めた他の被検試料処置個体で同様の病変が見られなかったことは、これらの病変が被検試料に関係するものではなかったことを示している。本試験における肉眼所見および顕微鏡所見(パラフィン包埋、ヘマトキシリン/エオシン染色切片による)に厳密に基づけば、無毒性量(NOAEL)は18.6mgであった。
実施例5−薬物動態データ
6か月の個体のデータ
【0278】
本実施例では、rhASAおよびNorthern Biomedical Research社の抗rhASA血清抗体の血清中およびCSF中濃度の解釈的解析を提供する。
【0279】
本実施例の目的は、幼若(12か月齢未満)カニクイザルにおいて、反復投与によるrhASAの髄腔内(IT)投与を、毒性学および安全性薬理学の観点から評価することであった。6か月間で全12回の投与を行った。最後の投与の24時間後または1か月後に個体の剖検を行った。試験計画を表30に示す。
【表30】
アッセイ方法−抗体解析
【0280】
有効な方法を用いて、カニクイザル血清中およびCSF中の抗rhASA抗体の定量化を行った。簡潔に述べれば、MSDストレプトアビジンでコートしたプレートのブロッキングからアッセイを始め、次いでビオチン標識rhASAとのインキュベーションを実施する。洗浄段階の後、希釈試料、較正物質およびQCをプレートに加え、インキュベートする。さらなる洗浄段階の後、SULFO TAG標識剤を加え、インキュベートする。最後の洗浄段階を行い、MSDリード緩衝液を加える。直ちにプレートを読み取る。SOFTMax Proテンプレートを用いて、相対発光量(RLU)のシグナルデータを解析する。
血清中およびCSF中濃度
【0281】
有効な方法を用いて、カニクイザル血清中およびCSF中のrhASAの定量化を行った。この方法は酵素結合免疫吸着測定(ELISA)技術に基づくものである。簡潔に述べればマイクロタイタープレートを組換えヒトアリールスルファターゼA(ASA)に対するウサギポリクローナル抗体(SH040)でコートする。ASA対照標準および試験試料とのインキュベーション後、結合したASAタンパク質を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗ASAモノクローナル抗体(クローン19−16−3)により検出する。次いで、プレートをHRPの基質であるTMBペルオキシダーゼとともにインキュベートする。この酵素−基質反応を2N硫酸(H
2SO
4)の添加により停止させ、吸光波長450nmでの各ウェルの吸光度を参照波長を655nmとして測定する。同じプレートでのrhASA検量曲線を用いて、試料中のASAの濃度を計算する。
【0282】
rhASAの血清中濃度、rhASAのCSF中濃度、抗rhASAの血清中抗体濃度、抗rhASAのCSF中抗体濃度、および群および性別による抗体の出現率の概要が、下記の表33〜39に示されている。
【表33-1】
【表33-2】
【表34-1】
【表34-2】
【表35-1】
【表35-2】
【表36-1】
【表36-2】
【表37-1】
【表37-2】
【表37-3】
【表38-1】
【表38-2】
【表39】
【0283】
カニクイザル血清中のrhASAの定量下限は39.1ng/mLであり、群1および2の血清試料はすべて定量下限未満(BQL)であった(表33を参照)。投与2、4、6、8、10および12の前およびの24時間後(6か月後の剖検)、回復期間の途中、ならびに回復後剖検前にrhASAの血清中レベルを試験した。群3(1.8mg/投与)、群4(6.0mg/投与)および群5(18.6mg/投与)では、投与2、4、6、8、10および12の前、投与12の後、回復期間の途中、ならびに回復後剖検前のrhASAレベルは検出不可能であった。投与2の後では、血清中rhASAのレベルは用量依存的であった。投与4(群3)、投与6(群3および4)および投与8および10(群3および4、ならびに群5の雄)の後では、rhASAレベルは検出不可能であった。rhASAの血清中レベルは、群4(6.0mg/投与)では投与4の後に、群5(18.6mg/投与)では、雄で投与4および6の後、雌で投与4、6、8および10の後に減少した。この血清中rhASAレベルの明らかな減少は、抗rhASA抗体濃度の増加に関連している可能性がある。本試験における試料のばらつきおよび少ない群数を考えれば、rhASAの血清中レベルでの雌雄間の明らかな差はなかった。
【0284】
カニクイザルCSF中のrhASAの定量下限は19.5ng/mLであり、群1および2のCSF試料はすべてBQLであった(表34参照)。全投与群において、投与2、4、6、8、10および12(6か月後の剖検)の前および後に、CSF中のrhASAが検出可能であった。そのレベルは投与後(投与の約24時間後)の方が高く、用量依存的であった。CSF中のレベルは血清中のレベルよりも大幅に高かった。本試験における試料のばらつきおよび少ない群数を考えれば、rhASAのCSF中レベルでの雌雄間の明らかな差はなかった。全投与群において、回復期間の途中および回復後剖検前にrhASAは検出されなかった。rhASA処置群の投与12(剖検)で採取されたCSF中のレベルは、投与8および11の後のレベルよりも低かった。剖検時の方がrhASAレベルが低い理由としては、剖検時に採取した量(細胞計数、化学、rhASAおよび抗RHASA抗体用に合計約2.25mL)の方が、生存中の投与間に採取した量(rhASA濃度用に投与前または投与後に0.5mL以下)よりも多かったということが考えられる。さらに、一部の個体は剖検時にカテーテルが塞がっていたため、カテーテルではなくCM穿刺により採取した。この経路は、カテーテルを介した試料採取に比べて、rhASA濃度が常に低い。これはCSFの体軸方向の総体流が制限されていることによるものと思われ、このような現象は、サルおよびヒトのような体が垂直方向に伸びている動物で生じることが認められている(例えば、CSFの成分が個体の生涯を通して顕著な体軸方向の勾配を示すことがよく知られている)。
【0285】
いくつかの時点では、RHASAで処置した全個体において血清中に抗rhASA抗体が検出された(表35を参照)。抗rhASA抗体のレベルが定量下限(78.1ng/mL)を上回っていれば、その個体を抗rhASA抗体に関して陽性であると定めた。一度血清転換した個体は、抗rhASA抗体に関して陽性のままであった。投与2の前の時点では、抗rhASA抗体に関して陽性の個体は見られなかった。投与4の前の時点では、番号026の雄(群4;6.0mg/投与)を除く全rhASA個体が血清中抗rhASA抗体に関して陽性であった。番号026の雄は、投与6の前の時点で血清中抗体に関して陽性であった。群5(18.6mg/kg)では、剖検抗体試料の抗体レベルが低くなっていた。この明らかな減少は、アッセイに干渉するrhASAの存在によるものであろう。力価は全般的に、低用量個体(1.8mg/投与)よりも中用量および高用量群(6.0および18.6mg/投与)の方が高かった。抗rhASA抗体の存在は、組換えヒトタンパク質でカニクイザルを処置することから得られる予測された結果である。結果のばらつきを考えれば、雌雄間の明らかな差はなかった。
【0286】
CSF中の抗rhASA抗体が検出可能な個体では、番号049(群3;1.8mg/投与)および番号057(群4;6.0mg/投与)の雌を除き、すべてが血清中のrhASA抗体も検出可能であった。抗体の濃度および出現率にばらつきがあるため、用量反応を決定することができない。抗rhASA抗体のレベルが定量下限(78.1ng/mL)を上回った個体を、抗RHASA抗体に関して陽性であると定める。
【0287】
血清中およびCSF中RHASAレベルならびに抗RHASA抗体に関する雌雄の合計数値を表36および表37に示す。上述のように、雌雄を合わせた結果は雌雄別々の結果と同様であった。
実施例6−有効性
【0288】
本実施例では、11匹の野生型対照(mASA+/+hASA−/−)マウスを群Aに割り付け、これらには処置を行わなかった。34匹のhASAC69S/ASA−/−マウスを5つの各用量群に割り付け、これらには1、9、15/16および22日目に溶媒(群B)またはを20mg/kg(静脈内[IV];群C)もしくは0.04、0.12および0.21mg(それぞれ群D、EおよびF)の用量のrhASA(rhASA)を投与した。IV投与はすべて尾静脈から行った。髄腔内(IT)投与はすべて、約2μL/20秒の範囲で12μLの量の注入として行った(表40)。
【表40】
【0289】
ASAノックアウトマウスhASAC69S/ASA(−/−)はMLDのモデルとして認められており、この疾患に対して可能性のある治療法を試験するために用いられてきた。髄腔内経路はヒトでの投与経路を意図したものである。静脈内投与経路は、この化合物および同様の化合物に関して、MLDマウスで試験されている。末梢器官で予想される組織学的変化の陽性対照として、静脈内対照群を加えた。100、300または520mg/脳重量kg(それぞれ0.04、0.12、0.21mg)のrhASAをマウスに投与した。本試験のために選択した、脳重量に対して正規化した用量レベルは、ヒトでの使用が計画されている用量、または毒性学試験もしくは以前のリソソーム蓄積症の有効性モデルで使用された用量に相当する。これらの用量は全く毒性を有さないと予想された。受容体
種 マウス(Mus musculus)
系統 hASAC69S/ASA(−/−)マウスおよび野生型対照
齢数 到着時で約14〜17か月齢
群数 6
個体数 ASAノックアウトマウス34匹+野生型対照11匹
到着後、健康状態を評価するために各個体を検査した。
飼育
マウスを、CareFresh紙床敷と給水ボトルとを備えた高温ポリカーボネート製のフィルタートップケージで集団飼育した。各ゲージを、計画、群番号および個体番号、ならびに雌雄を明記したケージカードでわかりやすく標識した。耳パンチ方式を用いて、各個体を1個体ずつ区別した。個体は、連邦のガイドラインに従って処置した。
個体の室内環境および光周期の目標条件は以下の通りであった:
温度 22℃±3℃
湿度 50%±20%
光周期 12時間の明期と12時間の暗期
【0290】
用量投与の間、および用量投与後、光周期を一時的に中断した場合もある。このような中断は、本調査の結果または質に影響を及ぼさないものとみなす。使用可能な野生型個体(11匹)をすべて群Aに割り付け、35〜45の番号を付した。順化期間中に、ケージから取り出して、体重を量り、耳パンチを実施する際に、ASA(−/−)hASA(+/−)個体に連続する番号(1〜34)を割り付けた。次いで、2011年1月3日にResearch Randomizer(www.randomizer.org)を用いて、マウスを治療群に割り付けた。最初の9つの番号を群Bに、次の5つの番号を群Cに、その次の5つの番号を群Dに、その次の5つの番号を群Eに、最後の10個の番号を群Fに割り付けた。個体は以下の表41のように割り付けた。
【表41】
被検試料および溶媒
被検試料
アイデンティティ rhASA
種類 ヒト組換えアリールスルファターゼA(rhASA)
保管条件 約4℃
溶媒
アイデンティティ rhASA溶媒(154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20、pH約6.0)
保管条件 約4℃
溶媒の調製
【0291】
溶媒を記載の通りに使用した。溶媒を卓上で温めた(周囲温度)。溶媒が温まってから、緩やかに回転および反転させて物質を混合した。ボトルをボルテックスしたり振盪させたりしなかった。物質を利用する前にボトルを乾燥させた。残った溶媒は冷蔵庫に戻した(1℃〜8℃)。
投与製剤の調製
【0292】
rhASAを溶媒で希釈して必要な濃度にした。被検試料を卓上で温めた(周囲温度)。被検試料が温まってから、緩やかに回転および反転させて物質を混合した。ボトルをボルテックスしたり振盪させたりしなかった。
注射剤を追跡するための色素:
【0293】
赤外色素(例えばIRDye(登録商標)、LI−COR Biosciences、Lincoln、NEなど)を注射剤の追跡に用いた。このような色素は、髄腔内投与後の残存解析法として髄腔内注入剤で用いられてきた。投与前に色素を被検試料混合した。すなわち、1μLの1nmol色素を被検試料に加えた。赤外色素のほかに、1μLのFD&C blueNo.1(0.25%)を注射剤の追跡に用いた。この青色の色素は一般的な食品添加物であり、一般に安全で無毒であると考えられている。
rhASAまたは溶媒の腰仙部IT注射
【0294】
1、9、15または16日目と22日目に、群B、D、EおよびFの個体に髄腔内注入を行った。
【0295】
1.25%の2,2,2−トリブロモエタノール(Avertin)を体重10g当たり200〜300μL(250〜350mg/kg)で腹腔内注射により使用して、成体マウスを麻酔した。クリッパーを用いて尾の基部から肩甲骨までの背中の体毛を除去した。剃毛した部分を、povidine/betadine洗浄、次いでイソプロピルアルコールにより消毒した。腰仙部脊椎の上で小さな正中皮膚切開(1〜2cm)を行い、背側正中線と回腸の頭側の翼との交点を確認した。腸骨窩の筋肉(中殿筋)はハート型の筋肉である。この「ハート」の上部両側がほぼ回腸の翼の位置にある。気密性の10〜20μLガラス製Hamiltonシリンジに装着した32ゲージの針を、下にある骨の抵抗を感じるまで挿入した。被検試料10μL、赤外色素1μLおよび1μLのFD&C blue No.1(合計注射量12μL)を、約2μL/20秒(12μL/2分)の速度で注射した。創傷クリップを用いて皮膚切開を閉じた。注射が成功したか否かの判断を、赤外色素および可視性の青色色素がCNS全体に分布したか否かを画像で判定することにより行った。画像化の後、回復用チャンバーでマウスを回復させた。
rhASAの静脈内注射
【0296】
1、9、15および22日目に、群Cの個体に静脈内注射を行った。
【0297】
IV注射のために、マウスを必要に応じてイソフルランを用いて麻酔し、保定器に入れた。尾を指で軽くはじいて温めることにより、尾静脈を拡大させた。次いで、注射部位を70%エタノールでぬぐった。あるいは、マウスを暖かいチャンバー(40℃)に1〜1.5分間置いた。28〜30ゲージの針を用いて被検物質を注射した。注射量は5〜10mL/kgであった。
【0298】
4回目の投与の約24時間後に群B〜Fの個体を安楽死させた。これらの個体を以下に詳述するような様々な組織採取法に供した。群Aには処置を施さなかったが、2011年1月の27日または28日に安楽死させ、以下に詳述するような組織採取法に供した。
血清(全個体)
【0299】
イソフルラン麻酔下、全個体(A〜)から後眼窩穿孔により終了時の血液試料(約0.5mL)を採取した。ガラス製チューブを眼窩に当て、眼球の下部に静かに差し込んで、眼球後部にある静脈排出路を破壊した。血液を毛管作用および/または自然流下により採取した。血液採取後に、眼窩を圧迫して止血した。
【0300】
全血試料を血清になるまで処理し、−80℃未満で凍結させた。血清を−80℃で保管し、抗体に関して解析した。
光学顕微鏡検査用の組織(群A〜F;1群当たりマウス5匹)
【0301】
血液採取後に、CO
2窒息によりマウスを安楽死させた。灌流前に尾部小片を採取し、可能性のある遺伝子型同定のために保管した。心膜腔を露出させた。1群当たり3匹のマウスを、ヘパリン処理した氷冷生理食塩水(0.9%NaCl中1U/mLのナトリウムヘパリン、滅菌ろ過済み)、次いで約4℃の4%パラホルムアルデヒドで経心的に灌流した。脳を取り出し、腹部を切開して内臓をさらに露出させた。凍結させた尾部小片を除く、脳および死体をパラホルムアルデヒドに漬けた。
脂質解析用の組織(群A、BおよびF;それぞれ6、4および5個体)
【0302】
血液採取後に、CO
2窒息により個体を安楽死させた。灌流前に尾部小片を採取し、可能性のある遺伝子型同定のために保管した。心膜腔を露出させた。脂質解析用に、1群当たり4〜6匹のマウスを、ヘパリン処理した氷冷生理食塩水(0.9%NaCl中1U/mLのナトリウムヘパリン、滅菌ろ過済み)で経心的に灌流した。脂質解析のために採取した例示的な組織は、表42に示されている。.
【表42】
採取時に、重量を量ってから組織をドライアイス上で、または−80℃の冷凍庫に入れて凍結させた。脳を左半球と右半球に分割した。右半球をMSによる脂質解析に用いる。左半球を可能性のあるN−アセチル−L−アスパラギン酸解析用に解析する。解析まで組織を−80℃で保管した(表43を参照されたい)。
【表43】
【0303】
rhASAにより、MLDマウスの脊髄、特に白質におけるスルファチドの蓄積が減少した(
図19)。rhASA投与後にアルシアンブルー染色剤の光学濃度が統計的に有意に減少することが、脊髄の形態計測解析により示された(
図20)。rhASA処置したMLDマウスも脳におけるリソソーム活性の減少を示した(
図21)。この減少は、溶媒処置個体と比べて、高用量群(0.21mg〜520mg/脳重量kg)において統計的に有意であった(
図22)
【0304】
1歳を超えた免疫耐性のMLDマウス(hASAC69S/ASA(−/−))に毎週1回で4週間、rhASAの髄腔内腰椎投与を行った(合計4回の投与)。用量は、溶媒(154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20、pH約6.0)、0.04、0.12、0.21mg/投与(正規化された用量はそれぞれ100、300および520mg/脳重量kg)であった。終了時点で、脳および脊髄内でのスルファチドクリアランスおよびリソソーム活性の免疫組織化学的評価により有効性を評価した。組織中のスルファチドを標的としたアルシアンブルー染色を用いて、脊髄および脳切片を染色した。また脳切片を、リソソームプロセスの指標であるリソソーム膜タンパク質(LAMP)の有無に関しても染色した。さらに、アルシアンブルーおよびLAMPで染色した脊髄(頸部、胸部および腰部)および脳切片の形態計測解析を行った。
【0305】
これらの予備結果は、rhASAの髄腔内腰椎投与の有効性を示している。溶媒対照マウスに比べて、rhASA処置MLDマウスは、脳内のスルファチド蓄積(アルシアンブルー染色により認められる)およびリソソーム活性の減少ような、疾患の組織学的マーカーにおける向上の証拠を示している。これらの組織病理学的変化は、投与部位付近(脊髄)だけでなく、脳の末梢部でも観察された。
実施例7−生体内分布2
概略
【0306】
本試験では、36匹の雄および36匹の雌の幼若体カニクイザル(開始時に12か月齢未満)を5つの各用量群に割り付け、0(デバイス対照;0.6mLのPBSを投与)、0(溶媒対照)、1.8、6.0または18.6mg(それぞれ群1、2、3、4および5)の用量のrhASA(rhASA)を、隔週で6か月間、合計12回投与した。全投与を0.6mLの量の注入で行い、次いで、約10分間の0.5mL PBSによる洗い流しを行った(表44)。
【表44】
材料および方法
組織採取
【0307】
脳を脳マトリックスで約3mmの冠状スライス厚に切った。各脳を以下のものを含む完全な冠状スライスに薄切した:新皮質(前頭皮質、頭頂皮質、側頭皮質および後頭皮質を含む)、古皮質(嗅球および/または梨状葉)、大脳基底核(尾状核および被殻を含む)、辺縁系(海馬および帯状回を含む)、視床/視床下部、中脳領域(黒質を含む)、小脳、脳橋および延髄。各組織試料が(4mmの生検パンチにより)得られた位置を
図32〜37に示す。
図32〜37の画像は、ウィスコンシン大学およびミシガン州Comparative Mammalian Brain Collections(および国立健康医学博物館)のものである。パンチ番号22は、この構造が剖検時に存在しなかったため採取されなかった。すべての脳試料を、酵素結合免疫吸着測定を用いたrhASAの解析まで−60℃以下で凍結させ保管した。
【0308】
最初のスライスと、そこから1枚おきのスライスを、組織病理学的評価および免疫組織化学的解析用にホルマリン中で固定した。2枚目の脳スライスと、そこから1枚おきのスライスを、被検試料濃度の解析用に凍結させた。凍結前に、生体内分布解析用に、偶数番号を付した被検試料解析用の脳スライスの右側部分から脳試料を採取した。脳試料の位置を剖検時に写真撮影し、脳スライス番号を記録した。採取される白質の量が最適になるように、4mmの円形パンチを用いて、または解剖用メスで切り取って試料を採取した。すべてのパンチを被検試料解析用に−60℃以下で凍結させ保管した。残りの脳スライスを、可能性のある被検試料解析用に−60℃以下で凍結させ保管した。パンチの位置は付録Bに示されている。
【0309】
脊髄(頸部、胸部および腰部)を1センチメートルの切片に切った。次いで、最初のスライスと、そこから1枚おきのスライスを、組織病理学的評価および免疫組織化学的解析用にホルマリン中で固定した。次いで、2枚目の脊髄スライスと、そこから1枚おきのスライスを、被検試料濃度の解析用に−60℃以下で凍結させ保管した。髄腔内カテーテルの先端部を含むスライス(スライス0)がホルマリンで固定され、組織病理に関して解析されるように、スライスの配分を調節した。
脳、肝臓および脊髄抽出物の調製ならびにrhASA濃度の決定
【0310】
米国食品医薬品局(FDA)医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準(GLP)の規則21CFR、Part58および適用されるMidwest BioResearch社の標準操作手順書を遵守した有効な方法を用いて、脳パンチ、脊髄および肝臓の試料を解析した。組織試料を溶解緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離により組織残骸を除去し、アッセイまで−80℃で保管した。捕捉抗体としてポリクローナルウサギ抗体SH040および検出抗体としてHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)コンジュゲート抗ASAモノクローナル抗体19−16−3を用いたELISAにより、ホモジネートの可溶性画分中のrhASA濃度を決定した。未結合物質を除去する洗浄段階の後、テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液をHRPコンジュゲート抗体の存在下で過酸化物と反応させて、最初の段階で抗ASA抗体と結合したASAの量に比例する比色シグナルを発生させた。各組織ホモジネート中の得られたrhASAの量を、標準曲線から内挿した。
【0311】
また、試料をビシンコニン酸(BCA)タンパク質決定アッセイでも解析し、未知の試料中のタンパク質の濃度を得た。各試料のタンパク質濃度をアルブミン標準曲線の内挿により決定した。次いで、rhASA濃度の結果を、ビシンコニン酸アッセイにより決定された組織抽出物中の総タンパク質に対して正規化した。
【0312】
溶媒、1.8mg/投与、6.0mg/投与および18.6mg/投与群の全パンチのASAレベルを、それぞれ
図23、
図24、
図25、および
図26に示す。デバイス対照、溶媒、1.8mg/投与、6.0mg/投与および18.6mg/投与群の回復個体の全パンチのASAレベルを、それぞれ
図27、
図28、
図29、
図30、および
図31に示す。
【0313】
脳の表面付近(髄膜)で採取した、選択したパンチのASAレベルを
図32に示す。主に深部の脳白質を含むと考えられる、選択したパンチのASAレベルを
図33に示す。白質は、有髄神経細胞突起(または軸索)の束で構成されている。主に深部の脳灰白質を含む、選択したパンチを
図34に示す。白質とは対照的に、灰白質は神経細胞体を含む。表面、深部白質、深部灰白質の選択したパンチのASAの値を、各用量群について
図35に示す。
【0314】
脊髄中濃度のデータを
図36に示す。
【0315】
肝臓中濃度のデータを
図37に示す。
【0316】
デバイス対照および溶媒投与対照群の肝臓、脊髄および脳中のASA濃度のレベルは、場合によって測定可能であった。肝臓および脊髄中のレベルは、いずれのrhASA処置群よりも低かった(
図23、
図32、および
図33)。デバイス対照および溶媒投与個体で測定されたrhASAレベルは、ELISAで使用した抗rhASA抗体と天然のカニクイザルタンパク質との交差反応性を示している。抗体とカニクイザルASAとの間の交差反応性の程度が不明であるということ、およびアッセイ対照標準でヒトASAを使用しているということから、デバイス対照および溶媒の組織で報告された値は組織中のカニクイザルrhASAの定量値を表すものではない。しかし、いずれの理論にも束縛されるものではないが、デバイス対照と溶媒投与の組織の間で検出されたASAレベルの相違は、異なる組織および解剖学的領域におけるカニクイザルASAの相対量のばらつきを示すものであると解釈され得る。
【0317】
脊髄スライス中のASAレベルは、1.8、6.0および18.6mg/投与群においてそれぞれ、雄では160〜2352、1081〜6607および1893〜9252ng/タンパク質mgの範囲、雌では0〜3151、669〜6637および1404〜16424ng/タンパク質mgの範囲であった(
図32)。ASAレベルは、脊椎の頸部領域よりも腰部領域の方が高かった。肝臓で検出されたASAタンパク質レベルは、rhASA処置群では用量依存的であり、溶媒群では非常に低かった。平均ASAレベルは、1.8、6.0および18.6mg/投与群においてそれぞれ、雄では88、674および2424ng/タンパク質mg、雌では140、462および1996ng/タンパク質mgであった(
図33)。
【0318】
全体的に、ASAレベルは、rhASA投与群の脊髄スライスおよび肝臓から調製した試料では、用量依存的であるようであった。試験した多くの脳領域において、ASAレベルとrhASA投与の間の明らかな用量相関が示されたが、他のものはこれほど明らかではなかった。一般に、脳のASAレベルはrhASA用量とともに増加した。
実施例8:薬物動態および生体内分布試験
【0319】
本試験の目的は、カニクイザルへの髄腔内(IT)および静脈内(IV)投与後の様々な治療用補充酵素の薬物動態(PK)および生体内分布を評価することである。
【0320】
本試験では、第1a相(IS2投与)および第1b相(ASA投与)のために、髄腔内−腰椎(IT−L)および髄腔内−大槽(IT−CM)カテーテルを有する合計12匹の雄および12匹の雌カニクイザルを、体重により4つの処置群に無作為に割り付けた。
【0321】
両相では、投与後の特定の間隔で血液およびCSFを(IT−CMカテーテルから)採取した。第1a相の最後の試料を採取した後、第1b相の開始前に7日間のウォッシュアウト期間を設けた。
【0322】
第1b相の最後の試料を採取した後、第2相の開始までに7日間のウォッシュアウト期間を設ける。第1b相の合計12匹の雄および雌カニクイザルを、体重によりIS2(群1a〜6a)およびASA(群1b〜6b)の12の処置群に無作為に割り付けた。
【0323】
IT−L投与後の血清中でのASAの絶対バイオアベイラビリティは、約30〜40%である。これに対し、IV投与の0.5%のみがCSF中で生物学的に利用可能であった。
【0324】
IT−L投与後、血清中でのASAへの曝露量は、比例するよりも多く増加する。
【0325】
IT−L投与後、CSF中でのASAへの曝露量は、用量の増加に比例するよりも少ない増加であった。血清中のrhASAのPKパラメーター、CSFの血清中のrhASAのPKパラメーター、およびバイオアベイラビリティの概要が表45〜47に示されいている。
【表45】
【表46】
【表47】
【0326】
IT−L投与後の血清中のASAのバイオアベイラビリティは、約30〜40%である。これに対し、IV経路により投与した用量の0.5%のみがCSF中で生物学的に利用可能であった。CSFの血清分配が表48に示されている。
【表48】
実施例9−MLD患者の治療
【0327】
例えばIT送達による、CNSへの直接投与を用いて、MLD患者を効果的に治療することができる。本実施例は、遅発乳児型MLDの患者に対して、隔週(EOW)、全40週で、髄腔内薬物送達装置(IDDD)により投与する、3用量レベルまでのI2Sの安全性を評価するために計画された、多施設用量漸増試験を示すものである。ヒト治療に適した髄腔内薬物送達装置の様々な例を、
図45〜48に図示する。
【0328】
最大20患者まで登録:
コホート1:5患者(最低用量)
コホート2:5患者(中間用量)
コホート3:5患者(最高用量)
無作為に5患者を無治療とする。
【0329】
以下の基準を含むか否かに基づき、試験する患者を選択する:(1)生後30か月までに最初の症状が現れた;(2)スクリーニング時に歩行可能である(自力で立ち上がり、片手を持たれた状態で10歩前へ歩く能力と定義される);(3)スクリーニング時に神経学的兆候が見られる。通常、造血幹細胞移植の経歴がある患者は除外される。
【0330】
遅発乳児型MLDの小児において、40週間、用量を漸増してIT注射により投与するrhASAの安全性を判定する。さらに、粗大運動機能に対するrhASAの臨床活性、ならびに単回および反復投与の血清中薬物動態および脳脊髄液(CSF)中濃度を評価する。
【0331】
本明細書に記載の化合物、組成物および方法は、特定の実施形態に従って具体的に記載されているが、後の実施例は単に本発明の化合物を例示するためのものであり、これらを限定することを意図するものではない。
【0332】
本明細書および特許請求の範囲で使用される冠詞「a」および「an」は、そうでないことが明記されない限り、複数形の指示対象を含むということを理解するべきである。あるグループの1つ以上の要素の間に「または(もしくは、あるいは)」が含まれる請求項または記載事項は、そうでないことが明記されるかまたは文脈から明らかでない限り、1つ、2つ以上またはすべてのグループの要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する場合に満たされるものとする。本発明は、グループの中の正確に1つの要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する実施形態を含む。また本発明は、グループの2つ以上の要素または全要素が所与の製品または工程に存在する、使用されるまたは関連する実施形態も含む。さらに本発明は、別途明記されない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、列挙されている1つ以上の請求項の1つ以上の制限、要素、条項、記述用語などが、基本請求項に従属する別の請求項に(または関連する他の任意の請求項として)組み込まれるすべての変更、組合せおよび置換を包含するということを理解するべきである。要素が列挙されている場合(例えば、マーカッシュ群またはこれと同様の形式において)、要素の各下位グループも開示され、任意の要素(1つまたは複数)がそのグループから除外され得ることを理解するべきである。一般に、本発明または本発明の態様が特定の要素、特徴などを含むという場合、本発明の特定の実施形態または本発明の特定の態様は、このような要素、特徴などからなる、またはこのような要素、特性などから本質的になるということを理解するべきである。簡潔にするために、これらの実施形態があらゆる場合に正確に本明細書に具体的に記載されているわけではない。本発明の任意の実施形態または態様が、本明細書において具体的に除外されることが記載されているか否かにかかわらず、請求項から明確に除外され得ることも理解するべきである。本発明の背景を説明するために、および本発明の実施に関するさらなる詳細を提供するために本明細書において参照される刊行物、ウェブサイトおよびその他の参考資料は、参照により本明細書に組み込まれる。