(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346269
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】ナルトレキソンを用いたがんの処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/485 20060101AFI20180611BHJP
A61K 31/454 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/675 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/282 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/513 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/663 20060101ALI20180611BHJP
A61K 31/593 20060101ALI20180611BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20180611BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20180611BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20180611BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180611BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20180611BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20180611BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20180611BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20180611BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20180611BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20180611BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20180611BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20180611BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
A61K31/485ZMD
A61K31/454
A61K31/675
A61K31/7068
A61K31/282
A61K31/4745
A61K31/704
A61K31/513
A61K31/663
A61K31/593
A61K35/74 A
A61K39/00 H
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P35/04
A61P1/00
A61P1/16
A61P25/00
A61P11/00
A61P13/08
A61P17/00
A61P15/00
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-512422(P2016-512422)
(86)(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公表番号】特表2016-524602(P2016-524602A)
(43)【公表日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】GB2014051439
(87)【国際公開番号】WO2014181131
(87)【国際公開日】20141113
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】1308440.5
(32)【優先日】2013年5月10日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515312704
【氏名又は名称】キャンサー ワクチン インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】ダルグリッシュ,アンガス
(72)【発明者】
【氏名】アレン,レイチェル
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−533561(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/117573(WO,A1)
【文献】
米国特許第06384044(US,B1)
【文献】
特表2005−530798(JP,A)
【文献】
米国特許第06288074(US,B1)
【文献】
International Immunology,2009年 1月27日,Vol.21, No.3,pp.217-225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K45/00
A61K35/74
A61K39/00
A61K39/39
A61P1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナルトレキソン、ナロキソン、又はメチルナルトレキソンを含む、TLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性によって特徴付けられる疾患を有する対象の処置に使用するための医薬組成物であって、
前記ナルトレキソン、ナロキソン、又はメチルナルトレキソンが、前記組成物の一部として、前記対象に0.01mg/kgから0.08mg/kgの間の用量で投与され、
前記疾患が腫瘍/がんであり、
前記対象が少なくとも1つの化学療法剤を投与されているか、または投与されたことがある、医薬組成物。
【請求項2】
前記対象がTLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を有していると特徴付けられる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記腫瘍/がんが、乳がん、子宮頚部扁平上皮がん、胃がん、神経膠腫、肝細胞がん、肺がん、黒色腫、前立腺がん、再発性神経膠芽細胞腫、再発性非ホジキンリンパ腫、結腸直腸がんから成る群から選ばれる、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記腫瘍/がんが、転移性黒色腫である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
さらにビタミンD3を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記対象がレブラミド、シクロホスファミド、ゲムシタビン、カルボプラチンから成る群から選ばれる少なくとも1つの化学療法剤を投与されているか、または投与されたことがある、請求項1から5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
下記(a)、(b)及び(c)からなる群から選択される1以上の態様で前記対象に投与される、請求項6に記載の医薬組成物。
(a)レブラミドが5mgから25mgの間の用量、
(b)シクロホスファミドが50mgから100mgの間の用量、
(c)ゲムシタビンが250mgから2000mgの間の用量。
【請求項8】
ナルトレキソン、ナロキソン、又はメチルナルトレキソンを含む、腫瘍/がんを有する対象の支持療法に使用するための医薬組成物であって、
前記ナルトレキソン、ナロキソン、又はメチルナルトレキソンが、前記組成物の一部として、前記対象に0.01mg/kgから0.08mg/kgの間の用量で投与される、医薬組成物。
【請求項9】
前記対象がTLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を有していると特徴付けられる、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記対象のマクロファージ、B細胞、及び樹状細胞からなる群から選択される1以上がTLR9の過剰発現を有していると特徴付けられる、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記樹状細胞が形質細胞様樹状細胞である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記対象が少なくとも1つの他の免疫調節剤を投与されているか、または投与されたことがある、請求項8から11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つの他の免疫調節剤が免疫アゴニストである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記免疫アゴニストがシクロホスファミド、レブラミド、イミキモド、マイコバクテリア全菌体、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5‐フルオロウラシル、ゲムシタビン、ゾメタから成る群から選ばれる、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記ナルトレキソン、ナロキソン、又はメチルナルトレキソンの用量が0.03mg/kgから0.06mg/kgの間である、請求項1から14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ナルトレキソン、ナロキソン、又はメチルナルトレキソンの用量が0.04mg/kgから0.05mg/kgの間である、請求項1から14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然免疫系の異常な活動により特徴づけられる疾患、特にある種のがんを有する対象の処置と支持療法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナルトレキソンは、オピオイドの経口投与アンタゴニストであり、その化合物名はモルフィナン−6−オン,17−(シクロプロピルメチル)−4,5−エポキシ−3,14−ジヒドロキシ−(5α)である。
【0003】
ナルトレキソンの分子式はC
20H
23NO
4で、無水状態(最大含水量1%未満)における分子量は341.41である。ナルトレキソンの化学構造を以下に示す。
【0004】
【化1】
【0005】
ナルトレキソンは一般にアヘン中毒の処置に用いられる。しかし、多くの患者は、がんや低用量ナルトレキソン(LDN)をさまざまな免疫関連疾患やがんの適応外処置に用いている。LDNが多発性硬化症(非特許文献1)、クローン病(非特許文献2)、及びある種のがんに有効である可能性を示す予備的な証拠がある。
【0006】
がんに関しては、非特許文献3、及び非特許文献4では、それぞれネズミ神経芽細胞腫とヒト結腸がんについて、ネズミ異種移植片モデルにおいて評価した、LDN介在による細胞増殖抑制が報告されている。さらに、ある種のがんの成長と進行に対して、LDNと追加的な治療薬の組み合わせが有効であることが見い出された。例えば、非特許文献5では、インビトロ及びインビボ・ネズミ異種移植片モデルの双方において、LDNとシスプラチンのヒト卵巣がん細胞に対する強い抗増殖効果が報告された。臨床では、非特許文献6において、肝転移を伴う膵臓がん患者について、LDNと組み合わせたアルファリポイック酸による処置後の長期生存が記述された。非特許文献6の著者らはその後さらに3人の転移性膵臓がん患者について同様の観察を報告した(非特許文献7)。
【0007】
上記観察におけるLDNの役割については、オピオイド成長因子受容体(OGFr)に対してLDNが持つ拮抗作用に言及することによって、おおよその説明がされてきた。OGFrはオピオイド成長因子(OGF、[Met
5]−エンケファリンとも呼ばれる)を認識するが、ナルトレキソンの断続的投与が一時的な遮断をもたらし、それが受容体の発現増加を起こすようである(非特許文献4)。このOGFrの発現増加が、膵臓がん、結腸直腸がん、扁平上皮がんに典型的な細胞のインビトロ増殖の減少をもたらすことが示された(非特許文献8)。
【0008】
しかしながら、直接的な免疫調節薬としてのLDNの潜在メカニズムが非特許文献9の研究で明らかにされた。彼らは、ナルトレキソンが、OGFrに対する作用に加え、Toll様受容体(TLR)ファミリーに属するTLR4に弱く拮抗できることを実証した。
TLR等のパターン認識受容体は、免疫細胞が病原体または自己由来の危険信号の存在を探知できるようにし、免疫応答を開始するよう指示する。自然免疫の活性化はその後の適応免疫応答を誘導するために必要なステップであり、TLRには強い炎症誘導力があるので、その作用は厳密に制御する必要がある。一般に、TLRの刺激はフィードバック機序を誘導するが、これが働かない場合には、TLRの過剰活性が、不適切な免疫応答、免疫消耗及び/又は自己免疫につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Rahn, K. A., P. J. McLaughlin, and I. S. Zagon. 2011. Prevention and diminished expression of experimental autoimmune encephalomyelitis by low dose naltrexone (LDN) or opioid growth factor (OGF) for an extended period: therapeutic implications for multiple sclerosis. Brain research.
【非特許文献2】Smith, J. P., S. I. Bingaman, F. Ruggiero, D. T. Mauger, A. Mukherjee, C. O. McGovern, and I. S. Zagon. 2011. Therapy with the opioid antagonist naltrexone promotes mucosal healing in active Crohn's disease: a randomized placebo-controlled trial. Dig Dis Sci 56:2088-2097.
【非特許文献3】Zagon, I. S., and P. J. McLaughlin. 1983. Naltrexone modulates tumour response in mice with neuroblastoma. Science 221:671.
【非特許文献4】Hytrek, S. D., P. J. McLaughlin, C. M. Lang, and I. S. Zagon. 1996. Inhibition of human colon cancer by intermittent opioid receptor blockade with naltrexone. Cancer letters 101:159-164.
【非特許文献5】Donahue, R. N., P. J. McLaughlin, and I. S. Zagon. 2011a. Low-dose naltrexone suppresses ovarian cancer and exhibits enhanced inhibition in combination with cisplatin. Experimental Biology and Medicine 236:883-895
【非特許文献6】Berkson, B. M., D. M. Rubin, and A. J. Berkson. 2006. The long-term survival of a patient with pancreatic cancer with metastases to the liver after treatment with the intravenous alpha-lipoic acid/low-dose naltrexone protocol. Integr Cancer Ther 5:83-89.
【非特許文献7】Berkson, B. M., D. M. Rubin, and A. J. Berkson. 2009. Revisiting the ALA/N (alpha-lipoic acid/low-dose naltrexone) protocol for people with metastatic and nonmetastatic pancreatic cancer: a report of 3 new cases. Integr Cancer Ther 8:416-422.
【非特許文献8】Donahue, R. N., P. J. McLaughlin, and I. S. Zagon. 2011b. Low-dose naltrexone targets the opioid growth factor-opioid growth factor receptor pathway to inhibit cell proliferation: mechanistic evidence from a tissue culture model. Experimental Biology and Medicine 236:1036-1050.
【非特許文献9】Hutchinson, M. R., Y. Zhang, K. Brown, B. D. Coats, M. Shridhar, P. W. Sholar, S. J. Patel, N. Y. Crysdale, J. A. Harrison, S. F. Maier, K. C. Rice, and L. R. Watkins. 2008. Non-stereoselective reversal of neuropathic pain by naloxone and naltrexone: involvement of toll-like receptor 4 (TLR4). Eur J Neurosci 28:20-29.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、ナルトレキソンが自然免疫受容体TLR9のアンタゴニストとしても作用することを見出した。この観察は、免疫調節剤としてのLDNの使用に大きな影響があり、これにより、本発明者は、特に、がん治療と支持療法分野で、多くの新しい治療への応用を確定した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の局面によれば、本発明は、TLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性によって特徴付けられる疾患を有する対象の処置に使用するための、ナルトレキソンを含む医薬化合物を提供する。
【0012】
第2の局面によれば、本発明は、腫瘍/がんを有する対象の支持療法に使用するための、ナルトレキソンを含む医薬組成物を提供する。
【0013】
第3の局面によれば、本発明は、TLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性によって特徴付けられる疾患を有する対象の処置方法であって、前記対象にナルトレキソンを含む医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0014】
第4の局面によれば、本発明は、腫瘍/がんを有する対象に支持療法を提供する方法であって、前記対象にナルトレキソンを含む医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明を添付の図を用いて説明する。
【
図1】
図1はナルトレキソンのTLR9拮抗性を示す。標本群と対照群は、アルカリホスファターゼレポーター遺伝子を有し様々なTLR及びNOD受容体を発現している組み換えHEK−293細胞株で2通り(in duplicate)試験した。アンタゴニストアッセイにおいて、TLR及びNODのシグナリング形質移入体のインヴィヴォジェン(Invivogen)パネルを用いて、細胞を1μMのナルトレキソン有り又は無しでインキュベートした。TLR4とTLR9について試験結果を示す。TLR活性は光学密度(O.D.)の値で示されている。この値は3つの独立した実験で確認した。
【
図2】
図2は、TLR9形質移入細胞系(上記と同様)について、リン酸緩衝食塩水(PBS)又はH
2Oで希釈したナルトレキソンのTLR9阻害力を様々な濃度について示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者がナルトレキソンがTLR9のアンタゴニストとして働くことを見出したことにより、LDNの新規の治療への応用、特にがん治療と支持療法分野への応用が確定できた。
【0017】
TLR4のような、ある種のパターン認識受容体が細胞表面に位置しているのに対し、TLR7、TLR8、TLR9等の他の受容体は細胞内に見出される。ナルトレキソンは受動拡散により細胞内に入ることができる(Cheng et al. 2009)ので、本発明者らは、ナルトレキソンが細胞表面タンパク質であるTLR4だけでなく細胞間TLRに拮抗するかどうかを調べた。LDNがTLR9のCpG DNA認識を阻害し、顕著な拮抗効果が観察され(
図1)、その後の滴定でIC50が約50μMであることが示唆された(
図2)。さらに、Hutchinson et al.(2008)が観察したTLR4に対するおだやかな拮抗効果が再現された。
【0018】
TLR9はメチル化されていないCpG DNAを見つけると、1型インターフェロンとその他の炎症性サイトカイン(TNFα、IL−2、IL−6)の産生を誘導する自然免疫受容体である。TLR9活性に続いて起こる反応の性質は、受容体とリガンドが相互作用する細胞間の位置、CD14が共受容体として作用するかどうか、DNAリガンドのCpG配列、関係する細胞の種類によって変わる(Weber et al. 2012)。CpG DNAの投与の形態(局所性か全身性か)もまたTLR9シグナリングの最終的な結果が炎症性となるか阻害性となるかを左右しうる(Wingender et al. 2006)。
【0019】
TLR9はマクロファージ、B細胞、樹状細胞、特に、形質細胞様樹状細胞(pDC)サブセットに発現する。pDCは、感染後の、I型インターフェロン(IFN−I)として知られる炎症性サイトカインの急速な産生に特化しており、炎症とT細胞反応の中央調節因子として働き、また他の自然免疫細胞機能の調節を行う(Takagi et al. 2011)。pDCの産生するI型インターフェロンは細胞間感染の排除を可能にし、DCの成熟、単球とナチュラルキラー細胞の活性化、適応免疫応答及び他のTLR刺激への反応力の強化を調節して、他の免疫細胞に大きく作用する。従って、TLR9拮抗性を介した低用量ナルトレキソンの免疫調整機能は、主としてpDCの機能に作用するであろう。もっとも、pDC調節に続く下流での作用は様々な細胞にまで及ぶであろう。
【0020】
TLR9の自然の役割は免疫応答刺激である。効果的な抗がん免疫応答、すなわち、免疫系の受容体刺激が有益なはずだと考えると、TLR9拮抗性ががんと診断された対象のための効果的な治療法や支持療法になるというのは直感に反するかもしれない。しかし、TLR9過剰活性は免疫応答に悪影響を及ぼす可能性がある。pDC活性は免疫応答の開始には有益であるが、TLR9の慢性的活性化はT細胞、B細胞の応答を阻害し得る。継続的なTLR9活性化は、インドールアミン2、3−ジオキシゲナーゼ(IDO)、プログラム細胞死リガンド1(PDL1)、及びTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を介した免疫抑制につながる(Boasso et al. 2011)。この場合、TLR7/9のシグナリングに反応したpDCによってIDOが産生され、これが抑制作用を及ぼし、免疫抑制とT細胞の効果的な反応が得られない結果をもたらすと考えられる。また、TLR9は、アポトーシス細胞があるとB細胞に免疫寛容を誘発し得る。
【0021】
TLR9は、微生物の核酸の認識に特化しているが、ある種の病理的条件下では、自己由来の核酸を認識し、それにより過剰刺激を受けることがある。全身性エリテマトーデス(SLE)においては、好中球細胞外トラップに捕らえられた自己DNA含有免疫複合体がその後pDC内部のTLR9に認識されてI型IFN産生を誘導することがあり、同様の状況は乾癬でも起こり得る。
【0022】
従って、TLR9の過剰活性が免疫調節不全をもたらすとすれば、LDNの拮抗性が慢性炎症反応を鎮め、目的にかなった有益な免疫応答が(再度)現れることは論理的である。例えば、がんは炎症と関連性があり、がんの25%は慢性の炎症と関連があることが示唆されている(Mantovani 2011)。このように、LDN処置は、炎症を軽減し、特に、炎症を引き起こしているのが、がん又は微小環境におけるTLR9過剰発現である場合に、がんに対する効果的な適応免疫応答の発生を可能にする。
【0023】
LDN介在によるTLR9阻害は、TLRファミリーに属する他の受容体を介して有益な免疫応答が起こることをも可能にするかもしれない。これは、いかなる種類のがんについても、がん患者に対する支持療法を提供する上で格別な使用となるだろう。英国でがんと診断された症例の約89%は50歳以上の人々である(英国がん研究所)。そのため、患者のがんと加齢による免疫低下(免疫老化)の組み合わせが、免疫系の実質的な不均衡を生む。TLR4やTLR9等の受容体サブセットをナルトレキソンを介して調節しつつ、TLRファミリーの他の受容体には刺激を与えられるようにするか、又は他の連絡経路を介した免疫系を刺激することで、過剰な免疫活性を抑制したり、免疫応答をより微妙に修正したりできるかもしれない。処置に加えて、これにはがん患者の生活の質の向上をもたらす可能性があり、従って支持療法の効果的戦略となり得る。
【0024】
ここで、「ナルトレキソン」という語は、上記の化学構造を有するモルフィナン−6−オン,17−(シクロプロピルメチル)−4,5−エポキシ−3,14−ジヒドロキシ−(5α)、及びその薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、水和物、立体異性体、包接化
合物、プロドラッグを意味する。ナルトレキソンの構造類似体であるナロキソンの使用は、当業者がTLR9のアンタゴニストとして同様に働くことを予想できるものであり、本発明の範囲に含まれ、明細書と請求の範囲で使用される「類似体」という語に包含される。同様に、メチルナルトレキソンも本発明の全ての局面において使用に適した類似体として想定される。ナルトレキソンの好適な形態はその塩酸塩の形態である。
【0025】
ここで、「アゴニスト」及び「アンタゴニスト」という語は当該技術分野で従来から使われている意味である。
【0026】
ここで、「TLR9の過剰発現」という語は与えられた細胞に発現しているTLR9 mRNA及び/又はタンパク質のレベルが、同種の組織からの(病気でない)通常の細胞について類似の条件下で計測されたTLR9のレベルに比して高いことを意味する。前記TLR9 mRNA及び/又はタンパク質発現レベルは当該技術分野で知られている多くの技法で決定することができ、その技法には定量RT−PCR、ウェスタンブロット法、免疫組織化学的検査、及び上記から派生した適切な技法が含まれるが、それらに限られない。
【0027】
ここで、「TLR9介在シグナリングの過剰活性」という語は、その下流のエフェクター活性も含むTLR9介在シグナリング活性のレベルが、(病気でない)同種の組織について類似の条件下で計測された活性レベルに比して高いことを意味する。前記のTLR9介在シグナリング下流エフェクター活性増大は、必ずしもTLR9の発現及び/または活性の増大に起因するものではないかもしれない。とりわけTLR9が介在する免疫カスケード/伝達経路の下流のエフェクターは、当該カスケード/伝達経路の上流の別の構成要素の異常活性によって過剰活性を示すのかもしれない。しかし、前記下流エフェクターの活性が(少なくとも部分的に)TLR9によって調整されているならば、TLR9への拮抗性は前記下流エフェクターの活性を治療効果が生じる方に変化させるかもしれない。従って、上記のごとき下流エフェクターの過剰活性を示す疾患もまたTLR9介在シグナリング過剰活性により特徴付けられると考えてよい。TLR9介在シグナリングの下流エフェクターには、細胞、特に、B細胞や樹状細胞(例えば形質細胞様樹状細胞)等の免疫系に関係する細胞(前記細胞は、それら自体がTLR9を発現する)で、とりわけTLR9により細胞活性が調節される細胞、ペプチド/タンパク質、特に、サイトカイン(例えばTNFα、IL−2、IL−6)やインターフェロン(例えばIFN−I)等、免疫応答に関係するもので、その発現、分泌及び/又は活性がとりわけTLR9により調節されるものが含まれるが、それらに限られない。TLR9介在シグナリング下流エフェクターは、エフェクター活性を調整するTLR9タンパク質と異なる組織に存在するかもしれない。TLR9介在シグナリング活性レベルの検査技法として当該技術分野で知られているものには、TLR9介在シグナリングの対象遺伝子及び/又はタンパク質の転写及び/又は翻訳の分析を含む細胞ベースの試験、細胞の表現型と活性の分析を含む細胞ベースの試験、少なくとも1つのTLR9介在シグナリング下流構成要素のリン酸化、タンパク質分解処理、及び/又はその他の変異の分析を含む細胞ベースの試験、TLR9遺伝子及び/又はRNA転写物の核酸配列分析が含まれるが、それらに限られない。必ずというわけではないが、一般的に、TLR9の過剰発現はTLR9介在シグナリングの過剰活性につながる。TLR9介在シグナリングの過剰活性は、例えば、TLR9遺伝子及び/又はタンパク質が活性化変異している場合のように、必ずしもTLR9の過剰発現の結果ではないかもしれない。
【0028】
ここで、「処置すること」、「処置」、及び「処置する」という語は、(1)診断された病的状態又は疾患を治癒させ、進行を遅らせ、又は進行を止めるための治療手段、(2)対象とする病的状態又は疾患の予防又は進行を遅らせらせる予防的手段(prophylactic
or preventative measures)、の両方を意味する。従って、処置を必要とするものには
、既に罹患しているもの、罹患しやすいもの、及び、罹患を防ぐべきものが含まれる。いくつかの症例において、患者が以下のうちの1ないし複数を示した場合、本発明による新しい応用により、対象に対して成功裏にがんの「処置」がなされたことになる。がん細胞の数の減少又は完全な消失;腫瘍サイズの減少;例えば軟組織及び骨へのがん細胞の拡散等の、周囲の組織へのがん細胞の浸潤が抑制され、又は浸潤がないこと;腫瘍転移が抑制され、又は転移がないこと;腫瘍の増殖が抑制され、又は増殖がないこと;罹患率、死亡率の減少;腫瘍の腫瘍形成性、腫瘍形成頻度、腫瘍形成能力の減少;腫瘍中のがん幹細胞の数又は頻度の減少;腫瘍形成細胞の非腫瘍形成状態への分化;又はいくつかの効果の組み合わせ。
【0029】
ここで「支持療法」という語は、腫瘍/がんの処置の文脈において、診断前から、診断と処置の過程を経て、治癒、病気の継続、又は死亡に至るまで、がん及びその処置への患者の対応を助けることを意味する。支持療法には、症状管理、補完療法、処置の副作用管理、心理的支援、リハビリテーション、自助・自立、緩和ケア、終末期ケアが含まれるが、それらに限られない。従って、支持療法は、腫瘍/がんの(上記定義による)処置を期待してではなく、例えば症状緩和を通じた患者の生活の質の改善を期待して実施される。
【0030】
ここで「がん」及び「がん性の」という語は、細胞集団が細胞の無制限の成長、増殖及び/又は生存で特徴付けられる、哺乳類の生理的状態を意味し又は記述する。がんの例にはがん腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、骨髄腫、白血病が含まれるが、それらに限られない。
【0031】
ここで「腫瘍」又は「新生物」という語は、良性(非がん性)、悪性(がん性)にかかわらず、過剰な細胞成長、増殖、及び/又は生存に起因するあらゆる組織塊を意味し、前がん病変を含む。
【0032】
ここで、「腫瘍形成性の」という語は、自己再生(別の腫瘍形成性幹細胞が生じる)や、他の全てのがん細胞を生み出す増殖(分化した非腫瘍形成性の腫瘍細胞が生じる)という特性を含む、腫瘍を形成することを可能にする固形腫瘍幹細胞の機能的特徴を意味する。これらの自己再生と他の全てのがん細胞を生み出す増殖という特性が、がん幹細胞に、免疫不全宿主(例えばマウス)への連続移植において触知可能な腫瘍形成の能力を与える。非腫瘍形成性の腫瘍細胞の場合には連続移植において腫瘍を形成することはできない。固形腫瘍から腫瘍細胞を入手した後、非腫瘍形成性の腫瘍細胞の免疫不全宿主への一次移植では腫瘍を形成し得ることが観察されているが、この非腫瘍形成性の腫瘍細胞は連続移植では腫瘍を生じない。
【0033】
ここで、「腫瘍/がんの微小環境」という語は、腫瘍/がんの悪性細胞の成長、生存及び/又は転移を支持する非悪性細胞を意味し、その細胞外特徴を含む。非悪性細胞はストローマ細胞とも呼ばれ、悪性細胞と同じ細胞空間、或いは悪性細胞に隣接又は近位する細胞空間を占有し、又はその空間に蓄積し、腫瘍細胞の成長、生存を調節する。腫瘍微小環境の非悪性細胞には以下が含まれるが、それらに限られない。線維芽細胞、筋線維芽細胞、グリア細胞、上皮細胞、脂肪細胞、脈管細胞(血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、周皮細胞を含む)定住の、及び/又は動員された炎症細胞及び免疫細胞(例えば、マクロファージ、樹状細胞、骨髄性サプレッサー細胞、顆粒球、リンパ球、等)、上記いずれかの非悪性細胞を生じさせるか又はそれら非悪性細胞に分化できる、定住の、及び/又は動員された幹細胞、並びに、当該技術分野で知られている、上記細胞の機能的に異なるあらゆるサブタイプ。
【0034】
ここで、「対象」という語は、特定の処置の受け手となる任意の動物(例えば哺乳類)を意味し、これにはヒト、ヒト以外の霊長目、イヌ科、ネコ科、ネズミ目動物等が含まれ
るが、それらに限られない。典型的には、ここで「対象」と「患者」という語は、ヒトに言及する場合、互換的に用いられる
【0035】
ここで、「免疫調節剤」という語は、免疫応答に関連する伝達経路の少なくとも1つの活性を、即座に又は遅延して増加させるか、又は減少させるように免疫系に作用する薬剤を意味する。前記応答は、自然発生若しくは人為的に誘導したものであっても;自然免疫若しくは適応免疫の一部としてであっても;又はその両方であってもよい。
【0036】
1つの実施形態において、本発明にかかる医薬組成物が、TLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性に特徴付けられた疾患を有する対象の処置のために、免疫応答の調節に使用される。上記の特徴は当業者には処置すべき疾患の特徴として知られているであろう。TLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性に特徴付けられた疾患には、クローン病、全身性エリテマトーデス、乾癬、ある種のがんが含まれるが、それらに限られない。処置の対象自身がTLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を有しているとして特徴付けられていてもよい。対象のそのような特徴づけは、類似の条件下で、(特に、前記疾患と病理的に関係する細胞における)TLR9の発現及び/又はTLR9介在シグナリングのレベルを、(病気にかかっていない)同じ組織タイプにおけるレベルとの比較において決定する診断試験を通じてなされる。TLR9の発現及び/又はTLR9介在シグナリングのレベルの決定のために使われる、当該技術分野で知られている技法には上述のものが含まれるが、それらに限られない。好ましくは、前記疾患は腫瘍/がんである。さらに好ましくは、腫瘍/がん、及び/又はその微小環境は、TLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を含むと特徴付けられ、そのような腫瘍/がんには、乳がん、子宮頚部扁平上皮がん、胃がん、神経膠腫、肝細胞がん、肺がん、黒色腫、前立腺がん、再発性神経膠芽細胞腫、再発性非ホジキンリンパ腫、結腸直腸がんからなる群から選ばれるものが含まれるが、それらに限られない。しかしながら、他の腫瘍/がんを有し、上記の特徴(腫瘍/がん及び/又はその微小環境がTLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を含むと特徴付けられること)を伴う対象の処置のために、本発明の医薬組成物が使用されることも想定される。また、対象は、ナルトレキソンに加え、少なくとも一つの化学療法剤を投与されているか、または投与されたことがあってもよく、好ましくは、前記化学療法剤とその用量は免疫抑制を低下させるために選ばれ、そのような薬剤には、レブラミド(好ましくは5mgから25mgの間の用量で投与される)、シクロホスファミド(好ましくは50mgから100mgの間の用量で投与される)、ゲムシタビン(好ましくは投与量250m
gから2000mgの間で投与される)、又は曲線下面積(A
UC) 4−6の用量で投与されるカルボプラチンが含まれるが、それらに限られない。
【0037】
他の実施形態において、本発明はTLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性によって特徴付けられる疾患を有する対象を処置する方法であって、前記対象に本発明の医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。前記処置方法は、前段落で引用した医薬組成物の利用と同じ、選択的、及び、好ましい特徴を有する。
【0038】
他の実施形態において、本発明の医薬組成物は、選択的にであるが、少なくとも1つの他の免疫調節剤と共に又は前に又は後に投与されたときには、腫瘍/がんを有する対象に支持療法を提供するために免疫応答を調節するために使用される。前記腫瘍/がんはTLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を含むものに限られない。従って、例として、がん腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、白血病が含まれるが、それらに限られず、そのような腫瘍/がんのより具体的な例として扁平上皮がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、腹膜がん、肝細胞がん(hepatocellular
cancer)、消化器がん、膵臓がん、神経膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん
(liver cancer)、膀胱がん、肝細胞がん(hepatoma)、乳がん、結腸がん、結腸直腸
がん、子宮内膜がん又は子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん
、前立腺がん、黒色腫、外陰がん、甲状腺がん、肝細胞がん(hepatic carcinoma)、頭部と頸部の種々のがんが含まれる。免疫調節剤が用いられる場合には、免疫アゴニスト、即ち、例えばワクチンのように、免疫応答を誘導する、及び/又は増加させる薬剤が好ましい。さらに好ましくは、免疫アゴニストはシクロホスファミド、レブラミド、イミキモド、マイコバクテリア全菌体、好ましくは(国際公開第07/071978に記載の)Mycobacterium v
accae又はMycobacterium obuenseのR株(Rough strain)、ダウノルビシン、オキサリプラチン、5‐フルオロウラシル、ゲムシタビン、ゾメタから成る群から選ばれる。支援療法の対象自身が、TLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を有しているとして特徴付けられていてもよい。対象のそのような特徴づけは、類似の条件化で、TLR9の発現及び/又はTLR9介在シグナリングのレベルを、(病気にかかっていない)同じ組織タイプにおけるレベルとの比較において決定する診断試験を通じてなされる。TLR9の発現及び/又はTLR9介在シグナリングのレベルの決定のために使われる、当該技術分野で知られている技法には上述のものが含まれるが、それらに限られない。対象がそのように特徴付けられる場合、TLR9が生来的に発現している免疫系の細胞がTLR9の過剰発現を有しているとして特徴付けられていることが好ましい。そのような細胞にはマクロファージ、B細胞、樹状細胞、特に、形質細胞様樹状細胞が含まれるが、それらに限られない。さらにまた対象がそのように特徴付けられた場合、腫瘍/がん及び/又はその微小環境がTLR9の過剰発現及び/又はTLR9介在シグナリングの過剰活性を有することが同定されてもよい。
【0039】
他の実施形態において、本発明は、腫瘍/がんを有する対象に支持療法を提供する方法を提供する。支持療法を提供する前記方法は、前段落で引用した医薬組成物の利用と同じ、選択的、及び、好ましい特徴を有する。
【0040】
上記で概要を示した実施形態によれば、ナルトレキソンは、医薬組成物の一部として、対象に、好ましくは0.01mg/kgから0.08mg/kgの間、より好ましくは0.03mg/kgから0.06mg/kgの間、最も好ましくは0.04mg/kgから0.05mg/kgの間の用量で投与される。前記組成物は従来のどのような方法で投与してもよい。経口投与でも非経口投与でもよいが、経口投与が好ましい。しかし、他の投与経路も想定される。
【0041】
また、ナルトレキソン、好ましくは低用量のナルトレキソン(その薬学的に許容される塩、溶媒和化合物、水和物、立体異性体、包接化合物、プロドラッグ、及びそれらの類似体を含む)がワクチンのアジュバントとしての使用に適していることが分かった。ナルトレキソンは免疫原と同時に、又は別々に、又は連続して投与してもよい。例えばナルトレキソンを免疫原(ワクチン)の前又は後に投与してもよい。この局面において、ナルトレキソンは樹状細胞の刺激を通じて細胞傷害性T細胞活性を刺激すると考えられている。従って、この場合ナルトレキソンは転移性黒色腫等のがんを含む種々の疾患に対する免疫応答の促進を助けるために使用することができる。
【0042】
従って、ナルトレキソンと免疫原を含むワクチン組成物が想定される。
【0043】
本発明を以下の非制限的実施例により説明する。
【実施例】
【0044】
実施例1 TLR9アンタゴニストとしてのナルトレキソンの同定
低用量ナルトレキソン(LDN)について、TLR及びNODの形質移入体(TLR2
、TLR3、TLR4、TLR5、TLR7、TLR8、TLR9、NOD1、NOD2)のパネル上でアゴニスト/アンタゴニスト試験を行った。スクリーニング試験はケーラ・インヴィヴォジェン(Cayla-Invivogen)社(フランス、トゥールーズ)が実施した。アゴニスト試験では、試験したどの受容体についてもLDNはシグナリングを刺激しなかった。アンタゴニスト試験ではHutchinson et al.(2008)がTLR4について観察した穏やかな拮抗効果が再現される一方、TLR9についてより顕著な効果が観察された。LDNはTLR9のCpG DNA(
図1)認識を阻害した。その後の滴定でIC50が約50μMであることが示唆された(
図2)。
【0045】
実施例2 黒色腫の処置におけるLDN
化学療法に抵抗性を示す転移性黒色腫を有する患者が、ビタミンD3と組み合わせたLDNに顕著な臨床反応を示し、その反応は9か月間継続した。
【0046】
患者は頭部と頸部の再発性黒色腫を有しており、以前ワクチンと放射線療法で処置を受けたがこれに反応せず、胸部に新しい転移を発症していた。
【0047】
さらなる放射線療法を行う前に、支持的処置として低用量ナルトレキソンを投与した。48時間以内に患者には目立った白斑が生じた。これは黒色腫と関係する抗原に対し効果的な細胞障害性T細胞が活性化された徴候である。ナルトレキソンがワクチンを活性化したとの結論が得られた。患者は胸部病変への放射線療法に反応した。
【0048】
実施例3 前立腺がんの処置におけるLDN
Mycobacterium vaccae(TLR2刺激ワクチン)で処置中の、ホルモン耐性前立腺がんと顕著なリンパ節症を持つ患者が、LDNを加えることにより顕著な反応を示した。前立腺特異抗原レベルも低下した。
【0049】
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