(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346412
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】軟磁性粉末、コア及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20180611BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20180611BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20180611BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20180611BHJP
B22F 3/00 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F27/255
H01F41/02 D
B22F1/02 E
B22F3/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-116921(P2013-116921)
(22)【出願日】2013年6月3日
(65)【公開番号】特開2014-236118(P2014-236118A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】二宮 亨和
(72)【発明者】
【氏名】中津 良
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】
久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−233860(JP,A)
【文献】
特開2009−120915(JP,A)
【文献】
特開2004−143554(JP,A)
【文献】
特開2013−243268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12−1/375、3/08、27/24−27/26
H01F 30/00−38/12、38/16、41/00−41/04
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04−1/05、5/00−25/00
C22C 27/00−28/00、30/00−30/06
C22C 33/02、35/00−45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末に、前記軟磁性粉末に対し0.25〜2.0wt%のトリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方を混合し、軟磁性粉末の周囲に前記トリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方の被覆を形成し、前記軟磁性粉末の粉末硬度が100MPa以上であることを特徴とする軟磁性粉末。
【請求項2】
前記トリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方に、硬化促進剤として、塩基性物質が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性粉末。
【請求項3】
前記塩基性物質が、Al2O3、SiO2、MgO、Mg(OH)2、CaO、Ca(OH)2、石綿、タルク、フライアッシュの少なくとも1種類であることを特徴とする請求項2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の軟磁性粉末を成型して構成されたコア。
【請求項5】
軟磁性粉末に、前記軟磁性粉末に対し0.25〜2.0wt%のトリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方を混合した後、所定の形状に成型し、前記軟磁性粉末の粉末硬度が100MPa以上であることを特徴とするコアの製造方法。
【請求項6】
前記トリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方に、硬化促進剤として、Al2O3、SiO2、MgO、Mg(OH)2、CaO、Ca(OH)2、石綿、タルク、フライアッシュの少なくとも1種類を添加することを特徴とする請求項5に記載のコアの製造方法。
【請求項7】
前記請求項5または請求項6に記載の方法によって製造されたコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑用チョークコイル等のコアに使用される軟磁性粉末、その軟磁性粉末を用いたコア及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源等の出力波形を平滑するために、チョークコイルが使用されている。各種電子機器の高性能化・多機能化に伴い、それに使用されるチョークコイルのコアにおいても、大電流でも特性変化の小さいものが要求されている。具体的には、優れた直流重畳特性と低損失特性を有するコアが求められている。この種のコアとしては、従来から、フェライトコアや圧粉磁心が使用されている。中でも、非晶質軟磁性合金(アモルファス軟磁性合金)の粉末から作製された圧粉磁心は、直流重畳特性に優れ、損失が少ない特性を有している。
【0003】
これらの非晶質軟磁性合金粉末を用いて圧粉磁心とするためには、合金粉末を低融点ガラスと結着性樹脂などと混合し、その混合物を常温あるいは高温下で圧縮成形した後、得られた成形体に対して熱処理を行う。また、低融点ガラスはコストが高いという問題点があることから、低融点ガラスに代えて、特許文献1に示すように、第一リン酸アルミニウムを絶縁被膜として用いることで、絶縁性能の改善を図った提案や、特許文献2に示すように、アルミニウムを含有するリン酸塩またはリン酸化合物を使用することで、高い絶縁性と磁束密度を得ようとする試みもなされている。しかし、これらの先行技術は、いずれも絶縁性能の向上に着目したものであり、コアの強度向上を目的としたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−272911号公報
【特許文献2】特開2005−113258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の発明に使用される第一リン酸アルミニウムは、Al
2O
3・3P
2O
5・6H
2Oの示性式で表される水溶性の酸性リン酸塩で、骨材との反応や、加熱による脱水縮合および高温加熱による結晶転移等により硬化結合性を発現させるものである。その反面、吸湿性が非常に高く、常温下でも周囲の水蒸気と急激な反応を示すため、取り扱いが困難であり、また、吸湿による膨張により成形体密度が低下するなどの問題点があり、量産性が難しい。また、軟磁性粉末の硬度が高いと圧縮成形時における粉末同士のアンカー効果が弱くなり、成形体強度が低下して、コアが破損する問題点が生じる。
【0006】
特許文献2に記載の発明は、リン酸化合物と金属化合物を混合して軟磁性粉末に添加し、軟磁性粉末の表面で化成反応を生じさせることにより、金属粉末表面の化成膜の密着性の向上を可能としたものであるが、その反面、リン酸化合物と金属化合物を混合を適切に制御しないと軟磁性粉末の表面での化成反応が不十分となり、初期の効果を得られない。また、リン酸塩またはリン酸化合物中に遊離リン酸が未反応のまま残存し、かような残存遊離リン酸は、粉末が吸湿性を持つ原因となる問題もあった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたもので、機械的強度が高く、軟磁気特性の優れた圧粉磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟磁性粉末は、軟磁性粉末に、その0.25〜2.0wt%のトリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方を混合し、軟磁性粉末の周囲に前記トリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方の被覆を形成
し、前記軟磁性粉末の粉末硬度が100MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
前記
トリポリリン酸アルミニウムまたはメタリン酸アルミニウムの一方または両方に、硬化促進剤として、Al
2O
3、SiO
2、MgO、Mg(OH)
2、CaO、Ca(OH)
2、石綿、タルク、フライアッシュの少なくとも1種類を添加することもできる。
【0010】
前記のような軟磁性粉末を使用したコア、及びそのようなコアの製造方法も、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リン酸の金属化合物を加熱して脱水縮合させて成る縮合リン酸金属塩をバインダーとして用いることで、常温下における吸湿性がなく、取り扱いが容易な軟磁性粉末を得ることができる。縮合リン酸金属塩のコストは、低融点ガラスと比較して各段に低く、製品のコスト競争力に高い利点がある。縮合リン酸金属塩は、一般に防錆剤としても使用されており、圧粉磁心の錆対策に有効であり、低融点ガラスのようなヒステリシス損を悪化させる事象は発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】軟磁性粉末に対する縮合リン酸金属塩の添加量と、得られた圧粉磁心の圧環強度の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)軟磁性粉末
軟磁性粉末としては、純鉄粉、センダスト(Fe−Si−Al合金)粉、Fe−Si合金粉、非晶質軟磁性粉末などが使用できる。非晶質軟磁性粉末としては、Fe系(Fe−Si−B―Cr系)の合金アトマイズ粉、粉砕粉が挙げられる。例えば、Fe系の合金粉末として、Si成分が6.7%、B成分が2.5%、Cr成分が2.5%、C成分が0.75%、残り成分がFeのものや、金属ガラスを使用できる。
【0014】
他に、軟磁性粉末としては、FeBPN(NはCu,Ag,Au,Pt,Pdから選ばれる1種以上の元素)が使用できる。軟磁性粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造されるものを使用できるが、特に、水アトマイズ法によるものが好ましい。理由は、水アトマイズ法はアトマイズ時に急冷するため、結晶化しにくいからである。
【0015】
軟磁性粉末の平均粒径は30〜100μmが好ましい。軟磁性粉末の結晶化開始温度は、通常、約450℃前後である。軟磁性粉末としては、ガラス転移温度Tgが結晶化温度Txより低く、過冷却液体領域を示す金属ガラスであるのが望ましい。これは、金属ガラスとすることにより、結晶磁気異方性が抑制されるため、コア損失を抑制できるからである。磁歪が大きく、透磁率は外部応力の影響を受けやすい。
【0016】
軟磁性粉末としては、その粉末硬度(10%変位するのに必要な圧力)が100MPa以上であることが好ましい。例えば、非晶質合金の粉末硬度は700MPa、Fe−6.5Si合金の粉末硬度は390MPa、FeSiAl合金の粉末硬度は100MPaであるから、これらの合金が本発明に適している。但し、粉末硬度が30MPa程度の純鉄粉に対して、本発明を適用することも可能である。
【0017】
(2)縮合リン酸金属塩
縮合リン酸金属塩としては、第一リン酸アルミを加熟して脱水反応させたトリポリリン酸アルミニウムやメタリン酸アルミニウムなどが適している。他にも、縮合リン酸カルシウムや縮合リン酸マグネシウムなども同様の効果がある。
【0018】
軟磁性粉末に対する縮合リン酸金属塩の添加量は、0.25〜2.0wt%が好ましい。添加量が0.25wt%以上で、作製したコアの強度が増加する効果が得られるが、添加量が2.0wt%を超えると、コアの密度が低下し、強度も低下する。
【0019】
(3)硬化促進剤
縮合リン酸金属塩に、硬化促進剤として、Al
2O
3、SiO
2、MgO、Mg(OH)
2、CaO、Ca(OH)
2、石綿、タルク、フライアッシュの少なくとも1種類を添加することもできる。硬化促進剤は、縮合リン酸金属塩に対して、その10〜30wt%が好ましい。10%以下では硬化剤としての効果が少なく、30wt%を超えると軟磁性粉末表面における縮合リン酸金属塩の皮膜形成の妨げとなるからである。
【0020】
(4)結着性樹脂
結着性樹脂は、軟磁性粉末と縮合リン酸金属塩の混合粉に添加する。結着性樹脂としては、常温で軟磁性粉末と縮合リン酸金属塩の混合物を加圧した場合に、ある程度緻密化された状態の成形体が得られ、しかも、その成形体に過大な力が加わらない限り、所定の形状を維持することのできる程度の粘性のある樹脂を用いる。
【0021】
例として、シリコーン系樹脂、ワックスなどが挙げられる。シリコーン系の樹脂としては、メチルフェニル系シリコーン樹脂が好ましい。メチルフェニル系シリコーン樹脂の添加量は、軟磁性粉末に対して0.75〜2.0wt%が適量である。これよりも少なければ成形体の強度が不足して、割れが発生する。これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0022】
その他の結着性樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンを使用することができる。混合するアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は合金粉末に対して0.5〜2.0wt%であり、その場合の乾燥温度と乾燥時間は、80℃〜150℃で2時間である。アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの代りに、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)を使用しても良い。PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)の添加量は、軟磁性粉末に対して0.5〜3.0wt%が適量である。
【0023】
(5)潤滑性樹脂
潤滑性樹脂として、ステアリン酸及びその金属塩ならびにエチレンビスステアラマイドなどのワックスが使用できる。これらを混合することにより、粉末同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上させ成形密度を高くすることができる。さらに、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。潤滑性樹脂の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.1wt%〜1.0wt%程度が好ましく、一般的には、0.5wt%程度である。
【0024】
(6)製造方法
本実施形態のコアの製造方法は、次のような各工程を有する。
(a)軟磁性粉末と、縮合リン酸金属塩を混合する工程。
(b)混合工程で得られた混合物に対して、結着性樹脂を添加する工程。
(c)結着性樹脂添加工程を経た混合物を、加圧して成形体を作製する成形工程。
(d)成形工程によって得られた成形体を加熱する熱処理工程。
【0025】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(a)縮合リン酸金属塩の混合工程
混合工程では、例えば、平均粒径が30〜100μmの軟磁性粉末に対して、その0.25〜2.0wt%の縮合リン酸金属塩を添加して混合する。例えば、前記の混合物を、V型混合機を使用して2時間程度混合する。縮合リン酸金属塩を添加するタイミングは、必ずしもこの工程でなくとも良く、(b)の結着性樹脂の添加工程において、潤滑剤と共に添加混合することも可能である。但し、前工程で縮合リン酸金属塩を混合しておいた方が、軟磁性粉末表面における皮膜形成が効果的に行われる。
【0026】
(b)結着性樹脂の添加工程
軟磁性粉末と縮合リン酸金属塩の混合物に対して、軟磁性粉末に対して0.75〜2.0wt%の結着性樹脂と、0.1〜1.0wt%の潤滑性樹脂を添加して、更に混合する。前記(a)の縮合リン酸金属塩の混合と、(b)の結着性樹脂及び潤滑性樹脂の混合を同時に行うことも可能である。
【0027】
結着性樹脂の添加工程において、シランカップリング剤を加えることもできる。シランカップリング剤を使用した場合は、結着性樹脂の分量を少なくすることができる。相性の良いシランカップリング剤の種類としては、アミノ系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが良い。結着性樹脂に対するシランカップリング剤の添加量は、0.25wt%〜1.0wt%が好ましい。結着性樹脂にこの範囲のシランカップリング剤を添加することで、成形された圧粉磁心の密度の標準偏差、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0028】
(c)成形工程
成形工程では、結着性樹脂を添加した混合物を金型内に充填して、加圧成形する。その場合、金型温度は常温が好ましいが、80℃までの範囲であっても構わない。すなわち、ここでの常温とは、5℃〜35℃までの範囲をいうが、5℃〜80℃の範囲であっても構わない。成形圧力は、例えば、1300〜1700MPaである。
【0029】
(d)熱処理工程
成形体に対する熱処理は、大気雰囲気などの非還元雰囲気で行う。非還元雰囲気としては大気中以外に、100%窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中でも良い。例えば、成形体を、大気中で、350℃の温度で、2時間加熱し、その後、窒素雰囲気に切り換えて、470℃で、2時間加熱することもできる。
【0030】
熱処理温度は、非晶質軟磁性合金粉末の場合400℃〜440℃が好ましく、加熱時間は2〜4時間程度である。このような温度と加熱時間を保持する理由は、軟磁性粉末の結晶化温度以下の状態で、しかも、圧粉磁心を環状に成形した場合に必要とする圧環強度を確保するためである。一方、熱処理温度を上げ過ぎると、軟磁性粉末の結晶化が進み、透磁率が低下し、鉄損(ヒステリシス)が増加する。そのため、400℃〜440℃の温度を保持することは、鉄損の増加を抑制するために効果的である。また、センダスト合金やFe−Si合金の場合には、600〜750℃の温度で熱処理することが好ましい。
【0031】
本発明の軟磁性粉末は、必ずしも圧粉磁心にのみ使用するものではない。例えば、本発明の軟磁性粉末と所定の樹脂を射出成型やトランスファー成型することによって、コアを形成することもできる。その場合、樹脂に対する軟磁性金属粉末の充填率は、55〜95重量%が好ましい。樹脂としては、成形後の寸法安定性に優れる樹脂、例えば、熱硬化性樹脂であればエポキシ樹脂またはフェノール樹脂が、熱可塑性樹脂であればポリエーテルサルホンが、好適である。軟磁性金属粉末の充填率が低い場合には、磁気性能が低下する問題がある。一方で、95wt%以上に高充填とした場合には、結着材の充填量が少なくなり、コアの強度が低下する。
【実施例】
【0032】
本発明の実施例を、表1〜表5及び
図1を参照して、以下に説明する。
【0033】
(1)測定項目
測定項目として、透磁率と鉄損を次のような手法により測定した。透磁率は、作成された各圧粉磁心に1次巻線(10ターン)を施し、インピーダンスアナライザーを使用することで、100kHz、0.5Vにおけるインダクタンスから算出した。
【0034】
鉄損については、各圧粉磁心に1次巻線(15ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.05Tの条件下で鉄損を算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数、渦電流損失係数を算出することで行った。
【0035】
Pc=Kh×f+Ke×f
2…(1)
Ph=Kh×f…(2)
Pe=Ke×f
2…(3)
Pc:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
【0036】
強度については、圧環強度をJIS2507に従って測定を行った。
【0037】
(2)サンプルの作製方法
特性比較で使用する試料は、下記のように作製した。
【0038】
硬度700MPa、平均粒経50μmの非晶質軟磁性合金粉末に、トリポリリン酸二水素アルミニウムに対して、その硬化促進剤である酸化マグネシウムが25wt%配合された縮合リン酸金属塩を0〜4%混合し、この混合粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジンを2.0wt%混合し、180℃で2時間の加熱乾燥を行い、さらに潤滑剤としてステアリン酸リチウムを0.3w%混合して、造粒粉末を作製した。
【0039】
これを常温にて1500MPaの圧力で成形体を作成し、大気雰囲気中410℃の温度で120分の熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0040】
(3)測定結果
表1および
図1に作製された圧粉磁心の圧環強度を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1及び
図1から分かるように、縮合リン酸金属塩とその硬化剤の添加量が0.25wt%以上で強度が増加し効果が得られるが、添加量が2.0wt%を超えると、密度が低下し、強度も低下する。
【0043】
(4)Fe−6.5Si合金粉末
硬度390MPa、平均粒子径20μmのFe−6.5Si合金粉末に対して、トリポリリン酸二水素アルミニウム+酸化マグネシウムを0.5wt%混合し、この混合粉末に対してメチルフェニル系シリコーンレジンを1.8wt%混合し、180℃で2時間の加熱乾燥を行い、さらに潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.6質量%混合した。
【0044】
これを室温にて1500MPaの圧力で加圧成型し、外形16mm、内径8mm、高さ5mmのリング状の成型体を作製した。さらに、この成型体を窒素雰囲気(N
2)中にて、700℃で120分間の熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0045】
【表2】
この実施例から分かるように、トリポリリン酸二水素アルミニウムと硬化促進剤である酸化マグネシウムを添加することで、強度が増加する。
【0046】
(5)純鉄とセンダスト
軟磁性粉末として、硬度30MPaの純鉄と硬度100MPaのセンダスト(FeSiAl)を使用し、前記と同様な条件で圧粉磁心を作製した。これらのバインダ添加量と、3点曲げ強度及び鉄損の関係を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3のNo.A1〜A3から分かるように、硬度が30MPaの純鉄では、効果が得られない。硬度が100MPaのセンダストでは、B2のように、低融点ガラス粉末はヒステリシス損失を増加させる。B3,B4から分かるように、センダストに、トリポリリン酸二水素アルミニウムを添加した方が強度が高い。C2,C3を比較すると、センダストに、トリポリリン酸二水素アルミニウムとその硬化剤である酸化マグネシウムを添加した製品は、強度が増加する。