特許第6346435号(P6346435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許634643514−デヒドロエルゴステロールを高含有する麹菌発酵エキスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346435
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】14−デヒドロエルゴステロールを高含有する麹菌発酵エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 33/00 20060101AFI20180611BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20180611BHJP
   A23K 20/168 20160101ALI20180611BHJP
   A23K 10/12 20160101ALI20180611BHJP
【FI】
   C12P33/00
   A23L33/10
   A23K20/168
   A23K10/12
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-270232(P2013-270232)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-123013(P2015-123013A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002447
【氏名又は名称】キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(72)【発明者】
【氏名】杉原 圭彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大介
【審査官】 布川 莉奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−138617(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/115064(WO,A1)
【文献】 特開2012−039893(JP,A)
【文献】 特開2007−097584(JP,A)
【文献】 特開2013−227252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12N 1/00− 7/08
C12Q 1/00− 3/00
A23L 5/40− 5/49、31/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
14−デヒドロエルゴステロールを高含有する麹菌発酵エキスの製造方法であって、
麦芽エキスを含む培地に、発酵により14−デヒドロエルゴステロールを産生する麹菌を接種し培養する培養工程、
菌体を含む発酵産物をエタノール濃度が40〜80(w/w)%の範囲であるエタノールと水を含む浸漬液に浸漬する浸漬工程、および
前記浸漬工程後に得られた菌体を含む混合物中に大豆油、ナタネ油、オリーブ油、パーム油、ゴマ油、コーン油、サフラワー油、綿実油、ピーナッツオイル、グレープシードオイル、えごま油、つばき油、及び亜麻仁油から選択される植物性油脂を加えて油層を回収する出工
を含み、該油層中に14−デヒドロエルゴステロールが含まれる、前記方法。
【請求項2】
麹菌が、黒麹菌、黄麹菌、紅麹菌、醤油用麹菌、白麹菌およびテンペ菌からなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
麹菌発酵エキスが、大豆油、ナタネ油、オリーブ油、パーム油、ゴマ油、コーン油、サフラワー油、綿実油、ピーナッツオイル、グレープシードオイル、えごま油、つばき油、及び亜麻仁油から選択される植物性油脂を含む油層中に14−デヒドロエルゴステロールを10ng/mg以上含有する、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
麹菌発酵エキスがエタノール以外の有機溶媒を含有しない、請求項に記載の方法
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で製造された麹菌発酵エキスを添加することを含む、食品、サプリメントまたは動物飼料の製造方法であって、食品、サプリメントまたは動物飼料中の14−デヒドロエルゴステロールの含有量が100gあたり5μg以上で添加される、上記方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、14−デヒドロエルゴステロール(14−DHE)を高含有する麹菌発酵エキスの製造方法、およびそれにより得られた14−DHE高含有麹菌発酵エキスに関する。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、以前、穀類植物由来材料の麹菌発酵物には14−デヒドロエルゴステロール(14−DHE)が含まれること、およびそれが免疫疾患の予防または治療に有用であることを見出している(特許文献1)。また、本件出願人は微生物発酵により14−DHEを生産する方法を見出している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2010−150867号公報
【特許文献2】特開2013−138617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の方法では、培養した微生物の菌体内から14−DHEを回収するに際して、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水で煮沸処理するか、メタノールなどのアルコール中で菌体を破壊処理するなどして抽出液を回収し、その後ヘキサンなどのn−アルカン溶媒との分配を行ってn−アルカン溶媒画分を回収する等としている。しかし、そのような14−DHEの回収方法は手間がかかる上、最終産物に生体に有害な有機溶媒が残存する可能性が高く、精製しなければヒトまたは動物に投与することができない。14−DHEを含有する麹菌発酵エキスを食品などに添加すること、またはサプリメントとして提供することを考えると、その調製時に生体に無害である材料のみを用い、かつ簡便な方法により麹菌発酵エキスを調製できる方法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは検討の結果、従来よりも簡便な方法で、かつ生体に対する毒性が高い有機溶媒を用いることなく、14−DHEを高含有する麹菌発酵エキスを調製する方法を見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0006】
(1)14−デヒドロエルゴステロールを高含有する麹菌発酵エキスの製造方法であって、
麦芽エキスを含む培地に、発酵により14−デヒドロエルゴステロールを産生する麹菌を接種し培養する工程、
菌体を含む発酵産物をエタノールと水を含む浸漬液に浸漬する工程、および
前記浸漬工程後に得られた菌体を含む混合物を食用油脂により抽出する工程を含む、前記方法。
【0007】
(2)浸漬液中のエタノール濃度が20〜95(w/w)%の範囲内である、(1)に記載の方法。
【0008】
(3)麹菌が、黒麹菌、黄麹菌、紅麹菌、醤油用麹菌、白麹菌およびテンペ菌からなる群から選択される、(1)または(2)に記載の方法。
【0009】
(4)14−デヒドロエルゴステロールを10ng/mg以上含有する麹菌発酵エキス。
(5)エタノール以外の有機溶媒を含有しない、(4)に記載の麹菌発酵エキス。
【0010】
(6)麹菌発酵エキスを含み、14−デヒドロエルゴステロールの含有量が100gあたり5μg以上である食品、サプリメントまたは動物飼料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、生体に対する毒性が高い有機溶媒などを用いることなく、簡便な方法で14−DHEを高含有する麹菌発酵エキスを調製することができる。本発明の方法により得られる麹菌発酵エキスは、生体に対する毒性が高い成分を含有せず、そのまま食品や動物飼料に添加したり、あるいはサプリメントとして提供したりすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】麹エキスの抽出方法を検討した結果を示すグラフである。
図2】麹エキスの抽出溶媒を検討した結果を示すグラフである。
図3】麹エキスの抽出時、大豆油を加える前に菌体を除去した場合(A)と残した場合(B)における麹エキスの14−DHE量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法により製造される麹菌発酵エキス(以下、麹エキスとも称する)とは、麹菌が原料を発酵させることにより産出した発酵物の抽出物であり、14−デヒドロエルゴステロール(14−DHE)を含有することを特徴とする。14−DHEは、下記の構造式で表される化合物であり、下記の物理化学的特性を有する。
【0014】
(構造式)
【化1】
【0015】
(物理化学的特性)
(1)分子量:394.63
(2)分子式:C28H42O(高分解能APCI-Orbitrap法による観測値:m/z 395.33057(M+H)+、理論値:395.33139)
(3)溶剤に対する溶解性:水に不溶、エタノールに難溶、クロロホルムに易溶
(4)紫外吸収スペクトル(MeCN):391nm
(5)1H-NMR(CD3OD): 6.15 (1H, m), 5.75 (1H, m), 5.65 (1H, dd, J = 2.2, 5.9
Hz), 5.27 (1H, dd, J = 7.0, 15.1 Hz), 5.21 (1H, dd, J = 7.9, 15.1 Hz), 3.64 (1H,m), 2.51 (1H, ddd, J = 2.2, 5.1, 10.6 Hz), 2.30 (1H, m), 2.20 (1H, m), 2.20 (1H, dd, J = 3.2, 7.8 Hz), 2.06 (1H, m), 2.05 (1H, m), 1.94 (1H, m), 1.90 (1H, m),1.87 (2H, m), 1.87 (1H, ddd, J = 3.2, 7.0, 7.3 Hz), 1.71 (1H, m), 1.59 (1H, m),1.57 (1H, m), 1.45 (1H, m), 1.45 (1H, ddd, J = 3.2, 6.3, 6.5 Hz), 1.30 (1H, m),1.05 (3H, d, J = 6.8 Hz ), 0.93 (3H, d, J = 7.3 Hz), 0.92 (3H, s,), 0.89 (3H, s), 0.85 (3H, d, J = 6.5 Hz), 0.83 (3H, d, J = 6.3 Hz).
(6)13C-NMR(CD3OD):149.2 (s), 143.0 (s), 135.4 (s), 132.2 (s), 132.0 (s),120.5 (s), 120.4 (s), 117.4 (s), 70.4 (s), 58.1 (s), 46.3 (s), 45.4 (s), 42.8 (s), 41.0 (s), 39.0 (s), 38.9 (s), 37.8 (s), 37.0 (s), 36.0 (s), 33.1 (s), 32.0 (s), 21.1 (s), 19.9 (s), 19.7 (s), 19.6 (s), 17.6 (s), 16.8 (s), 14.5 (s).
【0016】
本発明の麹菌発酵エキスの製造方法は、麦芽エキスを含む培地に、発酵により14−デヒドロエルゴステロールを産生する麹菌を接種し培養する工程、菌体を含む発酵産物をエタノールと水を含む浸漬液に浸漬する工程、および浸漬工程後に得られた菌体を含む混合物に食用油脂を加えて抽出する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明で用いる麹菌は、14−DHEを産生することができるものであれば特に限定されないが、例えば、黒麹菌(アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・ニガー)、黄麹菌(アスペルギルス・オリゼー)、紅麹菌(モナスカス・アンカ)、醤油用麹菌(アスペルギルス・ソーヤ)、白麹菌(アスペルギルス・カワチ)、テンペ菌(リゾプス・オリゴスポラス)などが挙げられる。特に、アスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌である麹菌は14−DHE高産生であるため好ましい。本発明で用いる麹菌としては、とりわけ狭義の黒麹菌であるアスペルギルス・アワモリおよびアスペルギルス・ニガー、ならびに狭義の白麹菌であるアスペルギルス・カワチ、さらにこれらの菌種から誘導された亜種が好ましい。これらの麹菌の種麹は、秋田今野社、樋口もやし社、日本醸造工業社などから入手することができる。
【0018】
本発明で用いる培地は麦芽エキスを含むことを特徴とする。麦芽エキスは、麦、特に大麦の種子を発芽させ、場合により焙煎した後、それを水などの溶媒により抽出して得られる抽出物であり、マルトース、グルコース、フルクトースなどの還元糖を多く含み、その他ペプチド、アミノ酸、プリン、ビタミンなどを含むことが知られている。培地には、麦芽エキスの他に、マルトース、グルコース、ショ糖、乳糖などの糖やデンプン、あるいは酵母エキスを含有していてもよい。また、培地は液状のものを使用し、液体培養とすると、培養の制御が比較的容易である点、副産物の産生が少ない点、固体培養よりも14−DHEを多く産生する傾向がある点などで有利である。
【0019】
本発明の方法において、培養により得られた菌体を含む発酵産物を浸漬するエタノールと水を含む浸漬液中のエタノールの濃度は20(w/w)%以上、特に30(w/w)%以上、とりわけ40(w/w)%以上であることが好ましく、かつ95(w/w)%以下、特に90(w/w)%以下、とりわけ80(w/w)%以下であることが好ましい。浸漬液は、水とエタノールとからなるエタノール水溶液であってもよい。本発明の方法においてエタノールと水を含む浸漬液は、発酵産物に含まれる菌体の細胞膜または細胞壁を弱め、菌体内部に蓄えられた14−DHEが抽出されやすくする効果を奏すると考えられる。浸漬は、1時間以上、特に6時間以上、とりわけ12時間以上、さらには24時間以上の時間をかけて行うことが好ましい。
【0020】
エタノールと水を含む浸漬液に浸漬した発酵産物は、次いで食用油脂を用いた抽出工程に供される。抽出に用いることができる食用油脂は、ラードまたはヘットなどの動物性油脂であってもよいが、植物性油脂を用いることがより好ましい。抽出に用いることができる植物性油脂の具体例としては、大豆油、ナタネ油、オリーブ油、パーム油、ゴマ油、コーン油、サフラワー油、綿実油、ピーナッツオイル、グレープシードオイル、えごま油、つばき油、亜麻仁油などが挙げられる。食用油脂は、培養産物1gに対して10mL以下、特に8mL以下、とりわけ6mL以下の量で用いると、得られる麹菌発酵エキス中の14−DHE濃度が高くなるため好ましい。
【0021】
エタノールと水を含む浸漬液に浸漬した発酵産物の抽出は、浸漬工程後に得られた菌体を含む混合物と、食用油脂とを直接混合して行う。具体的には、例えば浸漬後の浸漬液と発酵産物の混合物を、必要に応じて攪拌した後、その中に食用油脂を加えてさらに攪拌し、油層を回収することにより行うことができる。この抽出工程により、目的の14−DHE高含有麹菌発酵エキスが得られる。従って、本発明の麹菌発酵エキスには、発酵産物から抽出された14−DHEの他に、抽出に用いた食用油脂、ならびに浸漬液に由来するエタノールおよび水が含まれ得る。なお、この抽出工程においては、菌体を破壊するための超音波処理などは特に必要ない。エタノールと水を含む浸漬液に浸漬したことにより、菌体の細胞膜または細胞壁は十分弱まっており、単に食用油脂を加えて攪拌するだけで菌体に蓄えられた14−DHEを抽出することができる。より効率的に14−DHEが抽出できるよう、抽出工程は必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0022】
また、本発明の方法により得られる麹菌発酵エキスは、エタノール以外の有機溶媒、特に生体に有害な有機溶媒を含有しないことを特徴とする。そのような有機溶媒の例としては、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族または環式炭化水素、およびベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素を含む炭化水素溶媒、ジクロロメタンやクロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素溶媒、メタノールやイソプロパノールなどの生体への毒性が比較的高いアルコール溶媒が挙げられる。
【0023】
本発明の方法により得られる麹菌発酵エキスは、14−DHEを10ng/mg以上、より好ましくは50ng/mg以上、特に好ましくは100ng/mg以上含有することを特徴とする。そのような高濃度で14−DHEを含有する麹菌発酵エキスが得られたとの報告はこれまでなされていない。14−DHEは脂溶性が高いため、上述したような生体に有害な有機溶媒を用いずに抽出または濃縮することは困難であるといえる。
【0024】
本発明の方法により得られる麹菌発酵エキスは、精製などを行わずに食品などに直接用いることができる。本発明の方法により得られる麹菌発酵エキスを用いることにより、14−DHEを高濃度に含有する食品、サプリメント(栄養補助食品)または動物飼料を提供することができる。そのような食品またはサプリメントにおける14−DHEの含有量は、100gあたり5μg以上、より好ましくは30μg以上、特に好ましくは50μg以上とすることが好ましい。
【0025】
本明細書において言及する食品としては、例えばパン類、菓子類、クッキー、ビスケット、チューインガム、シリアルバーなどの穀類加工品、牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズ等の乳製品類、炭酸飲料、清涼飲料、果汁入り飲料(オレンジジュース、リンゴジュース、グレープフルーツジュースなどの果汁入り飲料)、スポーツドリンク、茶、紅茶、コーヒーなどの飲料、ソース、ドレッシング、調味料、惣菜、加工食品などが挙げられる。14−DHEを高濃度に含有する食品は、14−DHEの生理活性により期待される、摂取したヒトの健康に資する効果から、健康食品、機能性食品または特定保健用食品とすることができる。また、本発明において言及する動物飼料とは、ウシ、ブタおよびヒツジなどの家畜動物用の飼料、イヌやネコなどの愛玩動物用の飼料、ならびにマウスやラットなどの実験動物用の飼料が挙げられ、14−DHEを高濃度に含有する動物飼料にも、それを摂取した動物の健康に資する効果が期待される。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
1.食品用途の麹エキスの抽出方法の検討(1)
白麹(Aspergillus kawachii NBRC4308)をポテトデキストロース寒天培地(Difco、BD社)に植菌し、25℃で7日間静置培養した。0.01%のTween 20を含む麦芽エキス培地(Difco Malt Extract Broth、BD社)に胞子を形成した菌体を懸濁し、フィルター濾過を行なったものを胞子溶液とした。オートクレーブ滅菌後の麦芽エキス培地50mLを容量200mLのバッフル付三角フラスコに入れ、そこに1.0×10胞子/mLの濃度になるように胞子溶液を添加し、120rpm、25℃で7日間振盪培養を行いった。
【0028】
培養した菌体を回収し、イソプロパノールに一晩浸漬後、超音波処理して14−DHEの抽出を行った。また、別途培養して得た菌体を100%エタノールに一晩浸漬することのみによって14−DHEの抽出を行った。それぞれの得られた抽出液をドライアップして麹エキスとし、エタノールで10mg/mLの濃度に調整した後、さらにエタノール/アセトニトリル(1:1)で1mg/mLの濃度とし、0.22μm径PTFE膜でフィルター濾過したものをHPLCサンプルとした。これをDevelosil C30-UG-3(10×250mm、野村化学社)を用いた高速液体クロマトグラフィー(アセトニトリル/イソプロパノール=99/1)に供して分析し、1Lの培養スケールで得られた14−DHEの量(mg/L)を算出した。その結果、物理的処理を加えずエタノールに浸漬するだけで、イソプロパノールと物理的処理を併用した場合と同等以上の効率で14−DHEを抽出できることがわかった(図1)。
【0029】
2.食品用途の麹エキスの抽出方法の検討(2)
上記1と同様に、白麹(Aspergillus kawachii NBRC4308)および麦芽エキス培地を用いて培養して得られた菌体を下記のa〜gのそれぞれの手順に従って抽出した。各手順において、抽出用の溶媒は菌体1gに対して4mLの比率で用いた。なお、最終的に得られた抽出物に対してはドライアップを行わなかった。
【0030】
a:59(w/w)%エタノール水溶液で一晩浸漬し攪拌した抽出物に、等量の大豆油を加えた後に攪拌し上清(油層)を回収
b:100%エタノールで一晩浸漬し攪拌した抽出物に、等量の大豆油を加えた後に攪拌し上清(油層)を回収
c:59(w/w)%エタノール水溶液で一晩浸漬し攪拌した抽出物に、等量のヘキサンを加えた後に攪拌し上清(ヘキサン層)を回収
d:100%エタノールで一晩浸漬し攪拌した抽出物に、等量のヘキサンを加えた後に攪拌し上清(油層)を回収
e:59(w/w)%エタノール水溶液で一晩浸漬し攪拌した抽出物を回収
f:100%エタノールで一晩浸漬し攪拌した抽出物を回収
g:100%アセトンで一晩浸漬し攪拌した抽出物を回収
a〜dで得られた抽出物はカラムにUnison UK-Silica(imtakt社)を、溶離液にヘキサン/イソプロパノール=99/1を用いて、またe〜gで得られた抽出物はカラムにDevelosil C30-UG-3(10×250mm、野村化学社)を、溶離液にアセトニトリル/イソプロパノール=99/1を用いて、それぞれ高速液体クロマトグラフィーに供して分析した。
【0031】
a〜gの7種の方法による14−DHE抽出効率を比較したところ、含水エタノールに浸漬した後にさらに大豆油で液々抽出を行ったaが最も14−DHEの抽出効率に優れていることがわかった(図2)。親油性が高い14−DHEを易溶である油脂を抽出に用いたこと、および浸漬用の溶媒が水を含んでいたことにより菌体の細胞膜または細胞壁を弱める作用が強まったことに起因して抽出効率が飛躍的に高まったものと考えられた。
【0032】
さらに最適な抽出法を検討するため、上記のaの抽出法において、大豆油を加える前に菌体を除去した場合(A)と、菌体を残したまま大豆油を加えた場合(B)とを比較した。菌体を除去した場合では14−DHE含有量は大幅に低下した(図3)。この結果から、含水エタノールは主に菌体の細胞膜または細胞壁を弱くする作用を有し、大豆油はその菌体から14−DHEを抽出する作用を有することが推察された。
図1
図2
図3