(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形炉において熔融ガラスを成形体からオーバーフローさせて連続したシートガラスを成形し、徐冷炉において前記シートガラスをローラにより挟持して下方に搬送するガラス基板の製造方法であって、
前記徐冷炉は、前記シートガラスが搬送される炉内と、外空間の炉外とを区画する壁を有し、
前記ローラは前記壁を貫通する、中空の回転軸により片持ち支持され、
前記徐冷炉には、前記回転軸における、前記回転軸の長さ方向の前記徐冷炉内側の部分の温度勾配を調節する温度勾配調節手段が設けられ、
前記温度勾配調整手段は、前記回転軸の前記徐冷炉内側の部分において、少なくとも前記壁側の端部を被覆する断熱材と、中空の前記回転軸内に設けられた内管内で熱媒体を前記壁の側から前記ローラに供給する供給流路と、前記ローラの温度調節に使用した前記熱媒体を前記内管の外壁面と前記回転軸の内壁面との間で前記ローラの側から前記壁の側に向かって流して前記熱媒体を回収しつつ、前記熱媒体によって前記回転軸の温度勾配を低下させる回収流路と、を備え、
前記回転軸には、前記回転軸の前記徐冷炉内側の部分において、前記断熱材で被覆された被覆部分に対して前記ローラの側に、前記断熱材で被覆されず、前記徐冷炉の空間に露出した露出部分が設けられ、
前記温度勾配調節手段の前記熱媒体の流量及び前記断熱材によって、前記回転軸における、前記回転軸の長さ方向の前記徐冷炉内側の部分の温度勾配のうち、前記被覆部分が前記露出部分と接する前記断熱材の端部の位置における前記回転軸の長さ方向の温度勾配を1300℃/m以下に調整する、ガラス基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、成形体からオーバーフローされた熔融ガラスは、反り及び歪が必要以上に大きくならないように、熔融ガラスの流れ方向に沿ってシートガラスの幅方向の温度プロファイルが予め設計されており、シートガラスが設計された温度プロファイルとなるように、冷却装置やヒータなどを用いて厳密な温度管理を行っている。このため、シートガラスと接触するローラを一定の温度に維持する必要がある。
【0007】
一方、ローラを片持ち支持する回転軸は成形炉の炉壁を貫通して設けられており、炉壁の内外で温度勾配が生じる。回転軸の長さ方向の温度勾配が大きくなると、回転軸に生じる応力が大きくなり、回転軸に変形が生じるおそれがあるという問題がある。温度勾配による応力よりも許容応力が大きい材料を回転軸に使用することも考えられるが、選択できる材料は限られている。FPDに用いられる、低温ポリシリコンTFT液晶用のガラス基板を製造するのに用いられるガラスは、歪点や徐冷点等のガラス特異点が高いため、成形時の温度が高く、成形後に徐冷する際の温度も高くなり、徐冷炉の内外で温度勾配が大きくなり、上記課題が顕著となる。
【0008】
そこで、本発明は、シートガラスの温度プロファイルを設計された通りに精度良く再現でき、かつ、シートガラスを搬送するローラの回転軸に生じる応力を低下させることができるガラス基板の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、成形炉において熔融ガラスを成形体からオーバーフローさせて連続したシートガラスを成形し、徐冷炉において前記シートガラスをローラにより挟持して下方に搬送しながら徐冷するガラス基板の製造方法であって、 前記徐冷炉は、前記シートガラスが搬送される炉内と、外空間の炉外とを区画する壁を有し、
前記ローラは前記壁を貫通する、中空の回転軸により片持ち支持され、
前記徐冷
炉には、前記回転軸における、前記回転軸の長さ方向の前記徐冷炉内側の部分の温度勾配を調節する温度勾配調節手段が設けられ、
前記温度勾配調整手段は、前記回転軸の前記徐冷炉内側の部分において、少なくとも前記壁側の端部を被覆する断熱材と、中空の前記回転軸内に設けられた内管内で熱媒体を前記壁の側から前記ローラに供給する供給流路と、前記ローラの温度調節に使用した前記熱媒体を前記内管の外壁面と前記回転軸の内壁面との間で前記ローラの側から前記壁の側に向かって流して前記熱媒体を回収しつつ、前記熱媒体によって前記回転軸の温度勾配を低下させる回収流路と、を備え、
前記回転軸には、前記回転軸の前記徐冷炉内側の部分において、前記断熱材で被覆された被覆部分に対して前記ローラの側に、前記断熱材で被覆されず、前記徐冷炉の空間に露出した露出部分が設けられ、
前記温度勾配調節手段の前記熱媒体の流量及び前記断熱材によって、前記回転軸における、前記回転軸の長さ方向の前記徐冷炉内側の部分の温度勾配のうち、前記被覆部分が前記露出部分と接する前記断熱材の端部の位置における前記回転軸の長さ方向の温度勾配を1300℃/m以下に調整する、ことを特徴とする。 前記温度勾配調節手段は、前記回転軸を加熱する加熱手段を含んでもよい。
前記回転軸の長さ方向の温度勾配の最大値が2500℃/m以下となるように調整されていることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の態様は、ガラス基板の製造装置であって、 熔融ガラスをオーバーフローさせて連続したシートガラスを成形する成形体を有する成形炉と、
前記シートガラスを挟持して下方に搬送しながら徐冷する徐冷炉と
、を有し、
前記徐冷炉は、前記シートガラスが搬送される炉内と外空間の炉外とを区画する壁と、
前記壁を貫通する、中空の回転軸と、
前記回転軸の先端部に設けられ前記回転軸により片持ち支持されるローラと、
前記徐冷炉に設けられ、前記回転軸における、前記回転軸の長さ方向の前記徐冷炉内側の部分の温度勾配を調節する温度勾配調節手段と、
を備え、
前記温度勾配調整手段は、前記回転軸の前記徐冷炉内側の部分において、少なくとも前記壁側の端部を被覆する断熱材と、中空の前記回転軸内に設けられた内管内で熱媒体を前記壁の側から前記ローラに供給する供給流路と、前記ローラの温度調節に使用した前記熱媒体を前記内管の外壁面と前記回転軸の内壁面との間で前記ローラの側から前記壁の側に向かって流して前記熱媒体を回収しつつ、前記熱媒体によって前記回転軸の温度勾配を低下させる回収流路と、を備え、
前記回転軸には、前記回転軸の前記徐冷炉内側の部分において、前記断熱材で被覆された被覆部分に対して前記ローラの側に、前記断熱材で被覆されず、前記徐冷炉の空間に露出した露出部分が設けられ、
前記温度勾配調整手段の前記熱媒体の流量及び前記断熱材が、前記回転軸における、前記回転軸の長さ方向の前記徐冷炉内側の部分の温度勾配のうち、前記被覆部分が前記露出部分と接する前記断熱材の端部の位置における前記回転軸の長さ方向の温度勾配が1300℃/m以下となるように調整される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シートガラスを搬送するローラを支持する回転軸の長さ方向の温度勾配を小さくすることで、温度勾配に起因して回転軸に生じる応力を低下させることができ、回転軸の変形を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0015】
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)、清澄工程(ST2)、均質化工程(ST3)、供給工程(ST4)、成形工程(ST5)、徐冷工程(ST6)、および、切断工程(ST7)を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有してもよい。製造されたガラス基板は、必要に応じて梱包工程で積層され、納入先の業者に搬送される。
【0016】
熔解工程(ST1)では、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを作る。熔融ガラスの加熱は、熔融ガラス自身に電気を流して発熱させて加熱する通電加熱により行うことができる。さらに、バーナーの火焔による補助的に加熱しガラス原料を熔解することもできる。
なお、熔融ガラスは、清澄剤を含有する。清澄剤として、酸化スズ、亜ヒ酸、アンチモン等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤として酸化スズを用いることが好ましい。
【0017】
清澄工程(ST2)では、熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれる酸素、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が発生する。この泡が清澄剤の還元反応により生じた酸素を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上して放出される。その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。
なお、清澄工程は、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。減圧脱泡方式は、清澄剤を用いない点で有効である。しかし、減圧脱泡方式は装置が複雑化及び大型化する。このため、清澄剤を用い、熔融ガラス温度を上昇させる清澄方法を採用することが好ましい。
【0018】
均質化工程(ST3)では、スターラを用いて熔融ガラスを攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。
供給工程(ST4)では、攪拌槽された熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0019】
成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)は、成形装置で行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形には、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、徐冷後のシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0020】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス基板の製造装置の概略図である。ガラス基板の製造装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄管120と、攪拌槽103と、移送管104、105と、ガラス供給管106と、を有する。
図2に示す熔解槽101には、図示されないバーナー等の加熱手段が設けられている。熔解槽には清澄剤が添加されたガラス原料が投入され、熔解工程(ST1)が行われる。熔解槽101で熔融した熔融ガラスは、移送管104を介して清澄管120に供給される。
清澄管120では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスの清澄工程(ST2)が行われる。清澄後の熔融ガラスは、移送管105を介して攪拌槽に供給される。
攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスが攪拌されて均質化工程(ST3)が行われる。攪拌槽103で均質化された熔融ガラスは、ガラス供給管106を介して成形装置200に供給される(供給工程ST4)。
成形装置200では、オーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスからシートガラスが成形され(成形工程ST5)、徐冷される(徐冷工程ST6)。
切断装置300では、シートガラスから切り出された板状のガラス基板が形成される(切断工程ST7)。
【0021】
(成形装置の説明)
図3は、ガラス基板の成形装置200の概略図であり、
図4は
図3のIV−IV矢視断面図である。
【0022】
成形装置200の炉壁は、耐火レンガ、耐火断熱レンガ、ファイバー系断熱材等の耐火物により形成されている。成形装置200の内部空間は、成形炉201(上部成形炉201Aおよび下部成形炉201B)と、成形炉201の下部の徐冷炉202とに区分けされている。成形炉201では成形工程(ST5)が行われ、徐冷炉202では徐冷工程(ST6)が行われる。
【0023】
上部成形炉201Aには、成形体210が設けられている。
成形体210には、
図2に示すガラス供給管106を通して熔解装置100から熔融ガラスが供給される。
成形体210は、耐火レンガ等によって構成された細長い構造体であり、
図4に示すように断面が楔形状を成している。成形体210の上部には、熔融ガラスMGを導く流路となる溝212が設けられている。溝212は、第3配管106と接続され、第3配管106を通して流れてくる熔融ガラスMGは、溝212を伝って流れる。溝212の深さは、熔融ガラスMGの流れの下流ほど浅くなっているため、溝212を流れる熔融ガラスMGは徐々に溝212から溢れ出し、成形体210の両側の側壁を伝わって流下し、成形体210の下方端部213で合流し、鉛直下方に流下する。これにより、成形装置200内で成形体210から鉛直下方に向かうシートガラスSGが作られる。
なお、成形体210の下方端部213の直下におけるシートガラスSGの温度は、10
5.7〜10
7.5poiseの粘度に相当する温度であり、例えば1000〜1130℃である。
【0024】
雰囲気仕切り部材220は、成形体210の下方端部213の下方近傍に設けられており、成形炉201Aの内部空間を上部成形炉201Aと下部成形炉201Bとに区分けする。雰囲気仕切り部材220は、一対の板状の断熱材であって、シートガラスSGを厚さ方向(図中X方向)の両側から挟むように、シートガラスSGの厚さ方向の両側に設けられている。シートガラスSGと雰囲気仕切り部材220との間には、雰囲気仕切り部材220がシートガラスSGに接触しない程度に隙間が設けられている。雰囲気仕切り部材220は、成形装置200の内部空間を仕切ることにより、雰囲気仕切り部材220の上方の成形炉201と下方の徐冷炉202との間の熱の移動を遮断する。
【0025】
下部成形炉201Bには、1対の冷却ローラ230と、冷却手段240が設けられている。
冷却ローラ230および冷却手段240は、雰囲気仕切り部材220の下方に設けられている。
1対の冷却ローラ230は、
図3、
図4に示すように、シートガラスSGを厚さ方向の両側から挟むように、シートガラスSGの厚さ方向の両側に設けられている。冷却ローラ230は、シートガラスSGの幅方向両端部を、約10
9・0poise以上の粘度に相当する温度(例えば900℃)以下の温度に低下するように、冷却する。冷却ローラ230は中空であり、内部に冷却媒体(例えば空気等)が供給されることにより急冷されている。冷却ローラ230は後述する搬送部材2501、2502、…、250nよりも径が小さく、炉内への挿入長さも短く、また急冷されているため、変形(偏芯)が生じるおそれが少ない。
【0026】
冷却手段240は、複数の冷却ユニット(端部冷却ユニット241および中央冷却ユニット242)からなり、シートガラスSGを冷却する。
端部冷却ユニット241は、シートガラスSGの幅方向両端部を、10
14.5poise以上の粘度に相当する温度に低下するように、冷却する。
【0027】
中央冷却ユニット242は、シートガラスSGの幅方向の中央部を、軟化点より高い温度から、徐冷点近傍まで冷却する。ここで、シートガラスSGの中央部とは、シートガラス成形後に切断される対象を除く領域であり、シートガラスSGの板厚が均一となるように製造される領域である。
中央冷却ユニット242は、例えば上下方向に3段のユニット(上段ユニット242a、中段ユニット242b、下段ユニット242c)からなる。上段ユニット242aは成形体210の下端213から離れたシートガラスSGを軟化点近傍まで急冷し、中段ユニット242bおよび下段ユニット242cは、緩やかな冷却により、シートガラスSGを徐冷点近傍まで冷却する。
【0028】
徐冷炉202は、壁203を有している。壁203は、徐冷炉202のシートガラスSGが搬送される炉内と、外空間の炉外とを区画している。徐冷炉202には、複数の搬送部材2501、2502、…、250nと、複数の温度調整装置2701、2702、270nと、複数の仕切り板2021、2022、…、202nとが設けられている。
徐冷炉202は、仕切り板2021により下部成形炉201Bと仕切られており、徐冷炉202の内部空間は、仕切り板2021以外の複数の仕切り板2022、…、202nにより高さ方向に複数の空間に仕切られている。複数の仕切り板2021、2022…、202nにより仕切られた各空間にそれぞれ搬送部材2501、2502、…、250n、複数の温度調整装置2701、2702、…、270nが設けられている。具体的には、仕切り板2021および仕切り板2022により仕切られた空間に搬送部材2501および温度調整装置2701が設けられ、仕切り板2022および仕切り板2023により仕切られた空間に搬送部材2502および温度調整装置2702が設けられている。
仕切り板2022と仕切り板202nの間も図示されない仕切り板により仕切られており、仕切られた各空間に他の図示されない搬送部材および温度調整装置が同様に設けられている。なお、最も下部の搬送部材250nおよび温度調整装置270nは最も下部の仕切り板202nの下部の空間に設けられている。
【0029】
各搬送部材2501、2502、…、250nは、シートガラスSGの厚さ方向の両側に設けられ、炉壁の外部において図示しない軸受により片持ち支持される1対の回転軸と、各回転軸の先端に取り付けられた1対の搬送ローラとを備える。各温度調整装置2701、2702、…、270nは、シートガラスSGの厚さ方向の両側に設けられた1対のヒータからなる。各ヒータはシートガラスSGの幅方向に複数の熱源を備え、それぞれ加熱量が調整可能である。複数の熱源は例えばクロム系発熱線等である。
【0030】
上記冷却部材230、冷却装置240および温度調整装置2701、2702、…、270nにより、例えば、以下のように、シートガラスSGが、予め設計された温度プロファイルに対応した温度分布を持つように、冷却する。
粘性領域では、例えば、シートガラスの幅方向の端部の温度が中央領域の温度より低く、且つ、中央領域の温度が均一になるような温度プロファイル(第1プロファイル)に設計される。これにより、幅方向の収縮を抑えつつ、シートガラスの板厚を均一にすることができる。
粘弾性領域では、例えば、シートガラスの温度が中央部から端部に向かって幅方向に漸減するような温度プロファイル(第2プロファイル)に設計される。
ガラス歪点の近傍の温度領域では、シートガラスの幅方向の端部の温度と中央部の温度とが略均一になるような温度プロファイルに設計される。
上記の設計された温度プロファイルに従うようにシートガラスの温度を管理することにより、シートガラスの反り及び歪(残留応力)を低減することができる。なお、シートガラスの中央領域は、板厚を均一にする対象の部分を含む領域であり、シートガラスの端部は、製造後に切断される対象の部分を含む領域である。
【0031】
以上説明したとおり、シートガラスは、反り及び歪が許容値を超えないように、上述の徐冷工程が実施される。この徐冷工程において、シートガラスとの接触部からの熱伝導、シートガラスからの輻射熱、徐冷炉202内の雰囲気からの熱伝導により、搬送ローラの回転軸の炉壁から徐冷炉202内へ突出する部分が加熱される。一方、炉壁は断熱性が高いため、徐冷炉202の外部は徐冷炉202内よりも低温に維持されている。
本願発明者は、炉壁の近傍において、回転軸の長さ方向の温度勾配が大きくなり、温度勾配の大きさに応じて回転軸に生じる応力が大きくなるという知見を得て、回転軸に発生する応力を、使用環境下における許容応力以下とするため、回転軸の温度勾配を調整することを検討した。
【0032】
本発明では、設計された温度プロファイルに及ぼす影響ができるだけ小さくなり、かつ、回転軸の長さ方向の温度勾配の最大値が所定値以下となるように、具体的には、2500℃/m以下となるように、回転軸の温度を制御している。以下、実施の形態に基づき説明する。
【0033】
図5は、搬送部材2501、2502、…、250nの1つの断面図である。
搬送ローラ30は、徐冷炉202内において、シートガラスSGと接触し、シートガラスSGを下方に搬送する。搬送ローラ30は回転軸31の先端部に固定されている。搬送ローラ30は例えば無機繊維を固めて形成することができる。
【0034】
回転軸31は中空の管状である。回転軸31の一端は閉塞されており、回転軸31の閉塞端の外周部には搬送ローラ30が固定されている。回転軸31の中間部は徐冷炉202の壁203に設けられた貫通孔に回転可能に挿通されている。すなわち、回転軸31は壁203を貫通している。回転軸31の搬送ローラ30と反対側の端部は壁203の外部において図示しない軸受により片持ち支持されるとともに、図示しない排出管に接続されている。排出管は後述するように、回転軸31に供給された熱媒体を排出するのに用いられる。
回転軸31には、耐熱性に優れ硬度も高い材料を用いることができる。例えばオーステナイト系ステンレス鋼を回転軸31に用いることができる。具体的には、SUS310S、SUS303、SUS304、SUS316を用いることができる。なお、回転軸31の全長は例えば1500mm以下であり、炉内への挿入量は例えば500mm以下、外径を例えば50mm以下、内径を例えば外径の50〜80%とすることができる。
【0035】
回転軸31の中空の内部には、回転軸31の内径よりも小径のインナーパイプ32が回転軸31の内壁と離間して配置されている。インナーパイプ32の搬送ローラ30側の端部は開口しており、その開口端は回転軸31の閉塞端から離間している。インナーパイプ32の開口端と反対側の端部は壁203の外部において図示しない供給管に接続されている。供給管は後述するように、インナーパイプ32から回転軸31に熱媒体を供給するのに用いられる。熱媒体は気体でも液体でもよいが、液体は熱容量が大きく、回転軸31の温度を下げすぎるおそれがあるため、気体であることが好ましい。
【0036】
本実施形態においては、壁203の外部からインナーパイプ32に熱媒体が供給される。熱媒体は回転軸31の搬送ローラ30側の端部からインナーパイプ32の外側面と回転軸31の内壁面との間の隙間を通って壁203側に流れ、徐冷炉202の外部へ排出される。熱媒体は、回転軸31の搬送ローラ30側の端部の熱を、搬送ローラ30と反対側の端部に移動させるための媒体である。すなわち、回転軸31の搬送ローラ30側の端部において熱媒体が熱を吸収し回転軸の温度を低下させるとともに、温度上昇した熱媒体が徐冷炉202の外部に向かって回転軸31の長さ方向に流れることで、回転軸31の搬送ローラ30側の端部から回転軸31の長さ方向に熱が移動する。これにより、搬送ローラ30のシートガラスSGとの接触部からの熱伝導に起因する回転軸31の長さ方向の温度勾配を低く抑えることができる。本実施形態においては、熱媒体の流量を制御することで、回転軸31の長さ方向の温度勾配が小さくなるように調整する。これにより、温度勾配に起因して回転軸31に作用する応力を低下させることができ、回転軸31の変形を防止することができる。ここで、回転軸31の長さ方向の温度勾配の最大値が2500℃/m以下となるように調整することが好ましい。徐冷炉202内の雰囲気温度(700℃〜850℃)における回転軸31の許容応力よりも、温度勾配が2500℃/m以下のときに回転軸31に作用する応力が小さいからである。
なお、図示しないヒータ等の熱源により回転軸31を加熱することで、回転軸31の温度勾配を小さくしてもよい。
【0037】
徐冷炉202の回転軸が挿通される貫通孔から回転軸31のローラ30側に延在し、回転軸31の外側面を被覆する断熱材33が設けられていることが好ましい。断熱材33は、回転軸31が配置される徐冷炉202内の雰囲気の温度における耐熱性を備える材料(例えば耐熱レンガ、耐火断熱レンガ、無機繊維等)を用いることができる。断熱材33は回転軸31の外側面を被覆するように円筒形に形成することができるが、円筒状である必要はない。また、断熱材33は回転軸31の外側の全面を被覆する必要はなく、所望の温度勾配が得られるよう、回転軸31の徐冷炉202内側の部分において、少なくとも壁203側の端部を被覆することが好ましい。
【0038】
断熱材33を設けることで、シートガラスからの輻射熱や徐冷炉202内の雰囲気からの熱伝導による回転軸31の温度上昇を抑えることができる。これにより、断熱材33によって被覆された部分における回転軸31の長さ方向の温度勾配を低くすることができる。
断熱材33のローラ30側の端部の位置における、回転軸31の温度勾配は1300℃/m以下であることが好ましい。断熱材33のローラ30側の端部の位置では、回転軸31の断熱材33により被覆されている部分と被覆されていない部分とで温度差が大きくなり、温度勾配が大きくなる傾向にある。また、回転軸31の断熱材33により被覆されていない部分は徐冷炉202内の雰囲気温度(700℃〜850℃)にさらされて高温となるため、許容応力が小さくなるためである。温度勾配が1300℃/m以下のときに回転軸31に作用する応力は、徐冷炉202内のシートガラスSGの下端部近傍の雰囲気温度(700℃以上)における許容応力よりも小さい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
徐冷炉における搬送部材の回転軸を上述の
図5に示す構造とした。回転軸の長さ方向における、断熱材の炉壁からの長さを0.26mとし、徐冷炉内の温度を800℃とし、徐冷炉の外部の温度を30℃とし、回転軸の熱伝導率はSUS304を想定して熱伝導率W/(m・K)=0.013*温度(℃)+15とし、断熱材の熱伝導率を0.1W/(m・K)として回転軸の許容応力を計算した。
【0040】
<比較例>
回転軸の長さ方向における、断熱材の炉壁からの長さを
0.26mより短くし(0.2m以下0.1m以上)、徐冷炉内の温度を800℃とし、徐冷炉の外部の温度を30℃とし、回転軸の熱伝導率はSUS304を想定して熱伝導率W/(m・K)=0.013*温度(℃)+15、断熱材の熱伝導率を0.1W/(m・K)として回転軸の許容応力を計算した。
【0041】
図6は回転軸の長さ方向の位置と温度の関係を示す図である。回転軸の長さ方向の位置を横軸、温度を縦軸とした。回転軸の長さ方向の位置は、炉壁を基準として徐冷炉側を正とした。実施例を実線、比較例を破線で示す。
実施例では、断熱材の炉壁の位置で回転軸の長さ方向の温度勾配が最大となり、その最大値は2500℃/mであった。また、断熱材のローラ側の端部の位置における回転軸の長さ方向の温度勾配は1250℃/mであった。
比較例では、断熱材の炉壁の位置で回転軸の長さ方向の温度勾配が最大となり、その最大値は3600℃/mであった。また、断熱材のローラ側の端部の位置における回転軸の長さ方向の温度勾配は2350℃/mであった。
【0042】
図7は
図6の回転軸の温度における、回転軸の長さ方向の位置と回転軸の応力の関係を示す図である。実施例では、比較例よりも温度勾配の最大値が小さいために、回転軸に作用する応力が小さくなることがわかる。
【0043】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。