特許第6346498号(P6346498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346498
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】EGRガス流量の推定装置及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/08 20160101AFI20180611BHJP
   F02M 26/53 20160101ALI20180611BHJP
【FI】
   F02M26/08 301
   F02M26/08 321
   F02M26/08 331
   F02M26/08 351
   F02M26/53
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-121509(P2014-121509)
(22)【出願日】2014年6月12日
(65)【公開番号】特開2016-982(P2016-982A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】足立 祐輔
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−038648(JP,A)
【文献】 特開2003−293821(JP,A)
【文献】 特表2013−515895(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/190933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/08
F02M 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンを有するターボチャージャーと、前記タービンの下流側の排気ガスの少なくとも一部をLPL−EGRガスとして吸気側に還流可能に構成されたLPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関において前記LPL−EGRシステムの前記排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定装置であって、
前記ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出する状態量検出部と、
前記状態量検出部が検出した前記状態量と、前記ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、前記ターボチャージャーを流通する前記ガスの流量であるターボガス流量を算出するターボガス流量算出部と、
前記ターボガス流量算出部が算出した前記ターボガス流量に基づいて前記LPL−EGRガス流量を推定するLPL−EGRガス流量推定部と、
を備え
前記状態量は、前記タービンの入口ガス圧力と、前記タービンの出口ガス圧力と、前記タービンの入口ガス温度と、を含んでおり、
前記特性値は、タービンマップを含んでおり、
前記タービンマップは、前記タービンの入口ガス圧力と前記タービンの出口ガス圧力との比である圧力比と前記タービンを流通する前記ガスの流量との関係を表しており、
前記ターボガス流量算出部は、前記状態量に基づいて前記圧力比を算出し、前記圧力比及び前記タービンマップに基づいて前記タービンを流通する前記ガスの流量を前記ターボガス流量として算出する、EGRガス流量の推定装置。
【請求項2】
前記ターボチャージャーは、コンプレッサを有しており、
前記状態量は、前記コンプレッサの入口ガス圧力と、前記コンプレッサの出口ガス圧力と、前記コンプレッサの入口ガス温度とを含んでおり、
前記特性値は、コンプレッサマップを含む、請求項1に記載のEGRガス流量の推定装置。
【請求項3】
ターボチャージャーと、LPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関において前記LPL−EGRシステムの排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定装置であって、
前記ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出する状態量検出部と、
前記状態量検出部が検出した前記状態量と、前記ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、前記ターボチャージャーを流通する前記ガスの流量であるターボガス流量を算出するターボガス流量算出部と、
前記内燃機関において噴射される燃料量を算出する燃料噴射量算出部と、
前記ターボガス流量算出部が算出した前記ターボガス流量と前記燃料噴射量算出部が算出した前記燃料量とに基づいて前記内燃機関の異常を検出する異常検出部と、
前記ターボガス流量算出部が算出した前記ターボガス流量に基づいて前記LPL−EGRガス流量を推定するLPL−EGRガス流量推定部と、
を備え、
前記ターボチャージャーは、コンプレッサ及びタービンを有し、
前記状態量は、前記コンプレッサの入口ガス圧力と、前記コンプレッサの出口ガス圧力と、前記コンプレッサの入口ガス温度と、前記タービンの入口ガス圧力と、前記タービンの出口ガス圧力と、前記タービンの入口ガス温度とを含んでおり、
前記特性値は、コンプレッサマップ及びタービンマップを含んでおり、
前記ターボガス流量算出部は、前記状態量及び前記特性値に基づいて、前記コンプレッサを流通する前記ガスの流量である第1ターボガス流量と、前記タービンを流通する前記ガスの流量である第2ターボガス流量とを算出し、
前記異常検出部は、前記第1ターボガス流量及び前記燃料量の和と前記第2ターボガス流量との比較結果に基づいて、前記内燃機関の異常を検出する、EGRガス流量の推定装置。
【請求項4】
ターボチャージャーと、LPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関において前記LPL−EGRシステムの排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定装置であって、
前記ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出する状態量検出部と、
前記状態量検出部が検出した前記状態量と、前記ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、前記ターボチャージャーを流通する前記ガスの流量であるターボガス流量を算出するターボガス流量算出部と、
前記ターボガス流量算出部が算出した前記ターボガス流量に基づいて前記LPL−EGRガス流量を推定するLPL−EGRガス流量推定部と、
前記内燃機関の異常を検出する異常検出部と、を備え、
前記ターボチャージャーは、コンプレッサ及びタービンを有し、
前記状態量は、前記コンプレッサの入口ガス圧力と、前記コンプレッサの出口ガス圧力と、前記コンプレッサの入口ガス温度と、前記タービンの入口ガス圧力と、前記タービンの出口ガス圧力と、前記タービンの入口ガス温度とを含み、
前記特性値は、コンプレッサマップ及びタービンマップを含んでおり、
前記ターボガス流量算出部は、前記コンプレッサを流通する前記ガスの流量である第1ターボガス流量と、前記タービンを流通する前記ガスの流量である第2ターボガス流量とを算出し、
前記LPL−EGRガス流量推定部は、前記ターボガス流量算出部が算出した前記第1ターボガス流量に基づいて第1LPL−EGRガス流量を推定すると共に、前記ターボガス流量算出部が算出した前記第2ターボガス流量に基づいて第2LPL−EGRガス流量を推定し、
前記異常検出部は、前記第1LPL−EGRガス流量と、前記第2LPL−EGRガス流量とに少なくとも基づいて前記内燃機関の異常を検出する、EGRガス流量の推定装置。
【請求項5】
タービンを有するターボチャージャーと、前記タービンの下流側の排気ガスの少なくとも一部をLPL−EGRガスとして吸気側に還流可能に構成されたLPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関において前記LPL−EGRシステムの前記排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定方法であって、
前記ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出し、
前記状態量と、前記ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、前記ターボチャージャーを流通する前記ガスの流量であるターボガス流量を算出し、
前記ターボガス流量に基づいて前記LPL−EGRガス流量を推定し、
前記状態量は、前記タービンの入口ガス圧力と、前記タービンの出口ガス圧力と、前記タービンの入口ガス温度と、を含んでおり、
前記特性値は、タービンマップを含んでおり、
前記タービンマップは、前記タービンの入口ガス圧力と前記タービンの出口ガス圧力との比である圧力比と前記タービンを流通する前記ガスの流量との関係を表しており、
前記状態量に基づいて前記圧力比を算出し、
前記圧力比及び前記タービンマップに基づいて前記タービンを流通する前記ガスの流量を前記ターボガス流量として算出する、EGRガス流量の推定方法。
【請求項6】
前記ターボチャージャーは、コンプレッサを有しており、
前記状態量は、前記コンプレッサの入口ガス圧力と、前記コンプレッサの出口ガス圧力と、前記コンプレッサの入口ガス温度とを含んでおり、
前記特性値は、コンプレッサマップを含む、請求項5に記載のEGRガス流量の推定方法。
【請求項7】
ターボチャージャーと、LPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関において前記LPL−EGRシステムの排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定方法であって、
前記ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出し、
前記状態量と、前記ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、前記ターボチャージャーを流通する前記ガスの流量であるターボガス流量を算出し、
前記内燃機関において噴射される燃料量を算出し、
前記ターボガス流量に基づいて前記LPL−EGRガス流量を推定し、
前記ターボチャージャーは、コンプレッサ及びタービンを有し、
前記状態量は、前記コンプレッサの入口ガス圧力と、前記コンプレッサの出口ガス圧力と、前記コンプレッサの入口ガス温度と、前記タービンの入口ガス圧力と、前記タービンの出口ガス圧力と、前記タービンの入口ガス温度とを含んでおり、
前記特性値は、コンプレッサマップ及びタービンマップを含んでおり、
前記コンプレッサを流通する前記ガスの流量である第1ターボガス流量と、前記タービンを流通する前記ガスの流量である第2ターボガス流量とを算出し、
前記第1ターボガス流量及び前記燃料量の和と前記第2ターボガス流量との比較結果に基づいて、前記内燃機関の異常を検出する、EGRガス流量の推定方法。
【請求項8】
ターボチャージャーと、LPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関において前記LPL−EGRシステムの排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定方法であって、
前記ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出し、
前記状態量と、前記ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、前記ターボチャージャーを流通する前記ガスの流量であるターボガス流量を算出し、
前記ターボガス流量に基づいて前記LPL−EGRガス流量を推定し、
前記ターボチャージャーは、コンプレッサ及びタービンを有し、
前記状態量は、前記コンプレッサの入口ガス圧力と、前記コンプレッサの出口ガス圧力と、前記コンプレッサの入口ガス温度と、前記タービンの入口ガス圧力と、前記タービンの出口ガス圧力と、前記タービンの入口ガス温度とを含み、
前記特性値は、コンプレッサマップ及びタービンマップを含んでおり、
前記コンプレッサを流通する前記ガスの流量である第1ターボガス流量と、前記タービンを流通する前記ガスの流量である第2ターボガス流量とを算出し、
前記第1ターボガス流量に基づいて第1LPL−EGRガス流量を推定すると共に、前記第2ターボガス流量に基づいて第2LPL−EGRガス流量を推定し、
前記第1LPL−EGRガス流量と、前記第2LPL−EGRガス流量とに少なくとも基づいて前記内燃機関の異常を検出する、EGRガス流量の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、EGRガス流量の推定装置及び推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EGRガス流量の推定装置として、例えば下記特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載されたEGRガス流量の推定装置では、排気浄化触媒前後の排気ガスの圧力と排気浄化触媒を流通する排気ガスの流量との関係(圧力−流量特性)に基づいて、排気浄化触媒を流通する排気ガスの流量を推定し、この排気ガスの流量に基づいて低圧EGRガス流量を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−74459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、コンプレッサ及びタービンを有するターボチャージャーを備えた内燃機関においては、エンジンの低排出ガス化及び燃費の向上等のため、タービンの下流側の排気ガスをコンプレッサの上流側に還流させるLPL−EGRシステム(低圧EGRシステム)と、タービンの上流側の排気ガスをコンプレッサの下流側に還流させるHPL−EGRシステム(高圧EGRシステム)と、が設けられる場合がある。このような内燃機関では、例えばEGRシステムを適切に制御するために、LPL−EGRシステムの排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を精度よく推定することが望まれる。この点、上述の従来技術では、例えばDPFの詰まり等によって上記圧力−流量特性が変化する結果、LPL−EGRガス流量を精度よく推定することが困難となるおそれがある。
【0005】
本発明の一側面は、上記実情に鑑みてなされたものであり、LPL−EGRガス流量を精度よく推定できるEGRガス流量の推定装置及び推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るEGRガス流量の推定装置は、ターボチャージャーと、LPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関においてLPL−EGRシステムの排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定装置であって、ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出する状態量検出部と、状態量検出部が検出した状態量と、ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、ターボチャージャーを流通するガスの流量であるターボガス流量を算出するターボガス流量算出部と、ターボガス流量算出部が算出したターボガス流量に基づいてLPL−EGRガス流量を推定するLPL−EGRガス流量推定部と、を備える。
【0007】
また、本発明の一側面に係るEGRガス流量の推定方法では、ターボチャージャーと、LPL−EGRシステムと、HPL−EGRシステムと、を備える内燃機関においてLPL−EGRシステムの排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定するEGRガス流量の推定方法であって、ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量を検出し、状態量と、ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて、ターボチャージャーを流通するガスの流量であるターボガス流量を算出し、ターボガス流量に基づいてLPL−EGRガス流量を推定する。
【0008】
このEGRガス流量の推定装置及び推定方法では、ターボチャージャーを流通するガスに関する状態量が検出されれば、この状態量及びターボチャージャーに関する特性値に基づいて、ターボガス流量が算出されてLPL−EGRガス流量が推定される。このとき、変化が生じにくい当該特性値に基づくことから、ターボガス流量が精度よく算出されることとなり、よって、LPL−EGRガス流量を精度よく推定することが可能となる。
【0009】
本発明の一側面に係るEGRガス流量の推定装置及び推定方法では、ターボチャージャーは、コンプレッサを有しており、状態量は、コンプレッサの入口ガス圧力と、コンプレッサの出口ガス圧力と、コンプレッサの入口ガス温度とを含んでおり、特性値は、コンプレッサマップを含んでもよい。この場合、変化が生じにくい当該特性値としてコンプレッサマップに基づくことができ、ターボガス流量を精度よく算出することができる。また、既存のセンサ等により検出された検出値を状態量として利用でき、コストの増加を抑えることができる。
【0010】
本発明の一側面に係るEGRガス流量の推定装置及び推定方法では、ターボチャージャーは、タービンを有しており、状態量は、タービンの入口ガス圧力と、タービンの出口ガス圧力と、タービンの入口ガス温度とを含んでおり、特性値は、タービンマップを含んでもよい。タービンマップでは、ある状態量に対して複数のターボガス流量を取り得る場合が存在せず、状態量とターボガス流量とが一対一の関係にあることから、様々な状態量においてターボガス流量を精度よく算出できるため、LPL−EGRガス流量を一層精度よく推定することが可能となる。
【0011】
本発明の一側面に係るEGRガス流量の推定装置は、内燃機関の異常を検出する異常検出部を更に備え、ターボチャージャーは、コンプレッサ及びタービンを有し、状態量は、コンプレッサの入口ガス圧力と、コンプレッサの出口ガス圧力と、コンプレッサの入口ガス温度と、タービンの入口ガス圧力と、タービンの出口ガス圧力と、タービンの入口ガス温度とを含み、特性値は、コンプレッサマップ及びタービンマップを含んでおり、ターボガス流量算出部は、コンプレッサを流通するガスの流量である第1ターボガス流量と、タービンを流通するガスの流量である第2ターボガス流量とを算出し、LPL−EGRガス流量推定部は、ターボガス流量算出部が算出した第1ターボガス流量に基づいて第1LPL−EGRガス流量を推定すると共に、ターボガス流量算出部が算出した第2ターボガス流量に基づいて第2LPL−EGRガス流量を推定し、異常検出部は、第1LPL−EGRガス流量と、第2LPL−EGRガス流量とに少なくとも基づいて内燃機関の異常を検出してもよい。
【0012】
本発明の一側面に係るEGRガス流量の推定方法では、ターボチャージャーは、コンプレッサ及びタービンを有し、状態量は、コンプレッサの入口ガス圧力と、コンプレッサの出口ガス圧力と、コンプレッサの入口ガス温度と、タービンの入口ガス圧力と、タービンの出口ガス圧力と、タービンの入口ガス温度とを含み、特性値は、コンプレッサマップ及びタービンマップを含んでおり、コンプレッサを流通するガスの流量である第1ターボガス流量と、タービンを流通するガスの流量である第2ターボガス流量とを算出し、第1ターボガス流量に基づいて第1LPL−EGRガス流量を推定すると共に、第2ターボガス流量に基づいて第2LPL−EGRガス流量を推定し、第1LPL−EGRガス流量と、第2LPL−EGRガス流量とに少なくとも基づいて内燃機関の異常を検出してもよい。
【0013】
このEGRガス流量の推定装置及び推定方法では、推定したEGRガス流量を利用して、内燃機関の異常を検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によれば、LPL−EGRガス流量を精度よく推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るEGRガス流量の推定装置を示す概略構成図である。
図2】(a)は、LPL−EGRガス流量を推定する処理を説明するフローチャートである。(b)は、LPL−EGRガス流量を推定する他の処理を説明するフローチャートである。(c)は、内燃機関の異常を検出する処理を説明するフローチャートである。
図3】(a)は、コンプレッサマップの一例を示す図である。(b)は、タービンマップの一例を示す図である。(c)は、可変ノズルターボチャージャーにおけるタービンマップの一例を示す図である。
図4】(a)は、コンプレッサマップを用いて推定した第1LPL−EGRガス流量の精度を示す図である。(b)は、タービンマップを用いて推定した第2LPL−EGRガス流量の精度を示す図である。(c)は、LPL−EGRバルブを絞りと仮定する従来手法で推定したLPL−EGRガス流量の精度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一側面に係る好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るEGRガス流量の推定装置を示す概略構成図である。図1に示すように、EGRガス流量の推定装置100は、LPL−EGR(Low Pressure Loop−Exhaust Gas Recirculation)システム20及びHPL−EGR(High Pressure Loop−Exhaust Gas Recirculation)システム25を備えるエンジン(内燃機関)1において、LPL−EGRシステム20の排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定する。
【0018】
エンジン1は、例えばバスやトラック等の車両の駆動用として用いられる。図示する例では、エンジン1は、直列に6つのシリンダ(気筒)10a〜10fを有する直列6気筒のディーゼルエンジンとされている。エンジン1では、各シリンダ10a〜10fにインジェクタ9がそれぞれ設けられ、これらのインジェクタによって各シリンダ10a〜10f内に燃料が噴射される。インジェクタ9は、ECU30に電気的に接続されている。
【0019】
エンジン1は、各シリンダ10a〜10fに空気を分配して供給するインテークマニホールド8と、各シリンダ10a〜10fから排気された排気ガスを合流させるエキゾーストマニホールド11と、を有している。エキゾーストマニホールド11には、後述の高圧段タービン13及びHPL−EGRパイプ27が接続されている。
【0020】
エンジン1は、2段過給システムを備えており、具体的には、低圧段コンプレッサ4及び低圧段タービン5を有する低圧段ターボチャージャー50と、高圧段コンプレッサ12及び高圧段タービン13を有する高圧段ターボチャージャー51と、を備えている。低圧段コンプレッサ4及び低圧段タービン5は、同軸で回転可能とされている。低圧段タービン5は、高圧段タービン13から排出された排気ガスの圧力で回転される。低圧段コンプレッサ4は、低圧段タービン5と同軸で回転されることで、高圧段コンプレッサ12へ向けて空気を圧縮して過給する。
【0021】
この低圧段ターボチャージャー50には、タービン回転センサ44が取り付けられている。タービン回転センサ44は、低圧段コンプレッサ4及び低圧段タービン5の回転数(以下、「タービン回転数N」という)を検出し、その検出値をECU30に出力する。
【0022】
高圧段コンプレッサ12及び高圧段タービン13は、同軸で回転可能とされている。高圧段タービン13は、排気側における低圧段タービン5の上流に配置され、エキゾーストマニホールド11から導かれた排気ガスの圧力で回転される。高圧段コンプレッサ12は、吸気側における低圧段コンプレッサ4の下流に配置され、高圧段タービン13と同軸で回転されることで、後述のアフタークーラ7へ向けて空気を圧縮して過給する。
【0023】
HPL−EGRシステム25は、排気ガスの少なくとも一部を吸気側にHPL−EGRガスとして還流させるものであり、HPL−EGRパイプ27を備えている。HPL−EGRパイプ27は、例えばエキゾーストマニホールド11とインテークパイプ2cとを連絡させる。このHPL−EGRパイプ27は、高圧段タービン13の上流側と高圧段コンプレッサ12の下流側とを連絡させることから、LPL−EGRガスと比べて高圧なガスが流通するループ状の還流経路(HPL)が形成される。HPL−EGRパイプ27には、HPL−EGRクーラ28が設けられ、これにより、還流させる排気ガスが冷却される。HPL−EGRパイプ27には、還流させる排気ガスの下流側の位置に、HPL−EGRバルブ26が設けられている。HPL−EGRバルブ26は、ECU30に電気的に接続されており、その開閉量がECU30で制御され、これにより、HPL−EGRガス流量が制御される。
【0024】
LPL−EGRシステム20は、排気ガスの少なくとも一部を吸気側にLPL−EGRガスとして還流させるものであり、LPL−EGRパイプ21を備えている。LPL−EGRパイプ21は、排気管2fとインテークパイプ2aとを連絡させる。このLPL−EGRパイプ21は、DPF触媒14の下流側と低圧段コンプレッサ4の上流側とを連絡させることから、HPL−EGRガスと比べて低圧なガスが流通するループ状の還流経路(LPL)が形成される。
【0025】
LPL−EGRパイプ21には、LPL−EGRクーラ22が設けられ、これにより、還流させる排気ガスが冷却される。LPL−EGRパイプ21には、還流させる排気ガスの下流側の位置に、LPL−EGRバルブ23が設けられている。LPL−EGRバルブ23は、ECU30に電気的に接続されており、その開閉量がECU30で制御され、これにより、LPL−EGRガス流量が制御される。なお、排気管2fには、LPL−EGRパイプ21が接続される箇所よりも排気ガスの下流側に排気絞りバルブ15が設けられており、その開閉量がECU30で制御され、これにより、排気管2fにおける排気ガスの圧力が制御されてLPL−EGRガス流量が制御される。
【0026】
以上のように構成されたエンジン1では、その吸気側において、まず空気がエアクリーナ3により清浄化され、インテークパイプ2aを介して低圧段コンプレッサ4に流入され、当該低圧段コンプレッサ4で圧縮される。低圧段コンプレッサ4で圧縮された空気は、インタークーラ6で冷却された後、高圧段コンプレッサ12で更に圧縮される。高圧段コンプレッサ12で圧縮された空気は、アフタークーラ7で冷却され、インテークマニホールド8を介して各シリンダ10a〜10fに適宜吸気される。
【0027】
一方、エンジン1の排気側においては、まず、排気ガスがエキゾーストマニホールド11から高圧段タービン13に導入された後、エキゾーストコネクタ2dを介して低圧段タービン5に導入される。低圧段タービン5から導出された排気ガスは、排気管2eを通ってDPF触媒14に導かれ、例えば排気ガス中の粒子状物質が除去され、浄化される。そして、DPF触媒14から導出された排気ガスは、SCR触媒16に導かれて、例えば排気ガス中の窒素酸化物が還元され、浄化された後、マフラ(図示せず)から車外に排気される。
【0028】
また、エンジン1の排気側では、HPL−EGRシステム25のHPL−EGRバルブ26が必要に応じて適宜制御され、エキゾーストマニホールド11内の排気ガスの少なくとも一部がインテークパイプ2cへ還流される。また、LPL−EGRシステム20の排気絞りバルブ15及びLPL−EGRバルブ23が必要に応じて適宜制御され、DPF触媒14から導出された排気ガスの少なくとも一部がインテークパイプ2aへ還流される。
【0029】
ここで、図示するように、本実施形態のEGRガス流量の推定装置100は、上記エンジン1のLPL−EGRガス流量を推定すべく、空気量センサ40、入口温度センサ41、入口圧力センサ42、出口圧力センサ43及びECU(Electronic Control Unit)30を備えている。
【0030】
空気量センサ40と入口温度センサ41と入口圧力センサ42とは、エアクリーナ3と低圧段コンプレッサ4との間のインテークパイプ2aに設けられている。出口圧力センサ43は、低圧段コンプレッサ4とインタークーラ6との間のインテークパイプ2bに設けられている。これら各センサ40〜43は、ECU30に電気的に接続されている。
【0031】
空気量センサ40は、エアクリーナ3を介して吸い込まれる空気の量(以下、「空気量Ga」という)を検出する。入口温度センサ41は、低圧段コンプレッサ4の入口における空気の温度(以下、「コンプレッサ入口温度T1」という)を検出する。入口圧力センサ42は、低圧段コンプレッサ4の入口における空気の圧力(以下、「コンプレッサ入口圧力P1」という)を検出する。出口圧力センサ43は、低圧段コンプレッサ4の出口における空気の圧力(以下、「コンプレッサ出口圧力P2」という)を検出する。
【0032】
入口温度センサ41、入口圧力センサ42及び出口圧力センサ43は、低圧段ターボチャージャー50(低圧段コンプレッサ4)を流通するガスに関する状態量(コンプレッサの入口ガス圧力、コンプレッサの出口ガス圧力及びコンプレッサの入口ガス温度)を検出する状態量検出部として機能する。上記空気量Gaと、状態量としての入口温度T1、入口圧力P1及び出口圧力P2とは、その検出値がECU30に出力される。
【0033】
ECU30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を含む電子制御ユニットである。ECU30は、その機能的構成として、特性値記憶部31と、排気ガス状態量算出部32と、ターボガス流量算出部33と、燃料噴射量算出部34と、LPL−EGRガス流量推定部35と、異常検出部36とを含んでいる。
【0034】
特性値記憶部31は、低圧段ターボチャージャー50に関する特性値が記憶されたROMの一部領域であり、例えば、低圧段ターボチャージャー50の圧力−流量特性に関する特性値が記憶されている。ここでの特性値には、低圧段ターボチャージャー50のコンプレッサマップと、低圧段ターボチャージャー50のタービンマップとが含まれている。
【0035】
排気ガス状態量算出部32は、例えば排気ガスに関するモデル等に基づく周知の算出方法により、低圧段タービン5の入口の排気ガスの温度(以下、「タービン入口温度T3」という)と、低圧段タービン5の入口の排気ガスの圧力(以下、「タービン入口圧力P3」という)と、低圧段タービン5の出口の排気ガスの圧力(以下、「タービン出口圧力P4」という)と、を状態量として算出する。排気ガス状態量算出部32は、低圧段ターボチャージャー50(低圧段タービン5)を流通するガスに関する状態量(タービンの入口ガス圧力、タービンの出口ガス圧力及びタービンの入口ガス温度)を検出する状態量検出部として機能する。算出された状態量は、ターボガス流量算出部33に出力される。
【0036】
ターボガス流量算出部33は、状態量検出部(入口温度センサ41、入口圧力センサ42、出口圧力センサ43及び排気ガス状態量算出部32)が検出した状態量(入口圧力P1、出口圧力P2、入口圧力P3、出口圧力P4、入口温度T1及び入口温度T3)と、特性値記憶部31に記憶されている低圧段ターボチャージャー50に関する特性値とに少なくとも基づいて、低圧段ターボチャージャー50を流通するガスの流量であるターボガス流量を算出する。ターボガス流量には、低圧段コンプレッサ4を流通するガスの流量である第1ターボガス流量(以下、「第1ターボガス流量Gc」という)と、低圧段タービン5を流通するガスの流量である第2ターボガス流量(以下、「第2ターボガス流量Gt」という)とが含まれる。算出されたターボガス流量は、LPL−EGRガス流量推定部35に出力される。
【0037】
燃料噴射量算出部34は、例えばエンジン1の運転状況等に基づいて、インジェクタ9で噴射される燃料量(以下、「燃料量Gf」という)を算出する。燃料噴射量算出部34では、指令値としての燃料量Gfが実際にインジェクタ9で噴射される燃料量と略等しくなるように、例えばインジェクタ9における燃料の輸送遅れ等を考慮して燃料量Gfを算出する。算出された燃料量Gfは、LPL−EGRガス流量推定部35に出力される。
【0038】
LPL−EGRガス流量推定部35は、ターボガス流量算出部33により算出されたターボガス流量に基づいて、LPL−EGRシステム20の排気ガスの還流量であるLPL−EGRガス流量を推定する。LPL−EGRガス流量は、第1ターボガス流量Gcに基づいて推定される第1LPL−EGRガス流量(以下、「第1LPL−EGRガス流量Gegrl1」という)と、第2ターボガス流量Gtに基づいて推定される第2LPL−EGRガス流量(以下、「第2LPL−EGRガス流量Gegrl2」という)と、を含んでいる。推定された第1LPL−EGRガス流量Gegrl1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl2は、異常検出部36に出力される。
【0039】
異常検出部36は、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1と、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2とに少なくとも基づいて、エンジン1の異常を検出する。エンジン1の異常としては、例えば、低圧段コンプレッサ4からシリンダ10までの間における空気の漏れや吸い込み、及びシリンダ10から低圧段タービン5までの間における排気ガスの漏れ等が挙げられる。
【0040】
なお、ECU30は、上述したように、HPL−EGRバルブ26の弁開度を制御することでHPL−EGRガス流量を制御すると共に、LPL−EGRバルブ23及び排気絞りバルブ15の各弁開度を適宜制御することでLPL−EGRガス流量を制御する。
【0041】
次に、上記EGRガス流量の推定装置100により実施されるLPL−EGRガス流量の推定、及び、推定したLPL−EGRガス流量に基づく異常検出について(EGRガス流量の推定方法について)、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0042】
図2(a)は、LPL−EGRガス流量を推定する処理を説明するフローチャートである。図2(b)は、LPL−EGRガス流量を推定する他の処理を説明するフローチャートである。図2(c)は、内燃機関の異常を検出する処理を説明するフローチャートである。図3(a)は、コンプレッサマップの一例を示す図である。図3(b)は、タービンマップの一例を示す図である。図3(c)は、可変ノズルターボチャージャーにおけるタービンマップの一例を示す図である。
【0043】
本実施形態では、以下に説明するように、第1推定手法に係る処理を実施し、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1を推定すると共に、第2推定手法に係る処理を実施し、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2を推定した後、これらに基づきエンジン1の異常を検出する。
【0044】
[第1推定手法]
図1に示すように、LPL−EGRパイプ21は、エアクリーナ3と低圧段コンプレッサ4との間のインテークパイプ2aに接続されている。よって、LPL−EGRパイプ21を介して還流されたLPL−EGRガスは、エアクリーナ3を介して吸い込まれた空気と共に、低圧段コンプレッサ4を流通する。すなわち、低圧段コンプレッサ4を流通するガス流量は、下式(1)により算出される。この下式(1)を変形した下式(2)により、ターボガス流量算出部33が算出した第1ターボガス流量Gcに基づいて、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1を推定することができる。
Gc=Ga+Gegrl1 …(1)
Gegrl1=Gc−Ga …(2)
【0045】
具体的には、図2(a)に示すように、まず、空気量センサ40によりエアクリーナ3を介して流入された空気の空気量(質量流量)Gaを検出する(S1)。続いて、入口温度センサ41によりコンプレッサ入口温度T1を検出し(S2)、入口圧力センサ42によりコンプレッサ入口圧力P1を検出し(S3)、出口圧力センサ43によりコンプレッサ出口圧力P2を検出する(S4)。上記S2〜S4により、低圧段コンプレッサ4を流通するガスに関する状態量が検出されることとなる。続いて、タービン回転センサ44によりタービン回転数Nを検出する(S5)。
【0046】
続いて、ターボガス流量算出部33により、上記S3及び上記S4で検出したコンプレッサ入口圧力P1及びコンプレッサ出口圧力P2に基づいて、圧力比πcを下式(3)に従って算出する(S6)。
πc=P2/P1 …(3)
【0047】
続いて、ターボガス流量算出部33により、上記S5で検出されたタービン回転数Nに基づいて、タービン回転数Nをコンプレッサ入口温度T1で修正した修正タービン回転数Ncorrを、下式(4)に従って算出する(S7)。なお、式(4)において、「^」は、べき乗を表す演算子であり、Trefは、基準となる大気状態における基準温度(例えば、20℃)である(以下同じ)。
Ncorr=N×(Tref/T1)^0.5 …(4)
【0048】
続いて、上記S6で算出された圧力比πcと、特性値記憶部31に記憶されている特性値としてのコンプレッサマップとに基づいて、ターボガス流量算出部33により修正流量Qcorrcを算出する(S8)。ここで、コンプレッサマップは、図3(a)に示すように、縦軸を圧力比πcとし、横軸をコンプレッサを流通するガスの修正流量Qcorrcとして、各修正タービン回転数Ncorrにおける当該コンプレッサ固有の特性値(コンプレッサを流通するガスの圧力−流量特性)を示すマップである。この圧力−流量特性は、例えば経年変化やEGR中の汚濁物等に起因する特性の変化が生じにくい。図3(a)における修正タービン回転数Ncorrの一例(N1,N2,N3及びN4)では、その大小関係がN1<N2<N3<N4となっている。
【0049】
続いて、ターボガス流量算出部33により、上記S8で算出された修正流量Qcorrcに基づいて体積流量Qcを下式(5)に従って算出する(S9)。
Qc=Qcorrc×(T1/Tref)^0.5 …(5)
【0050】
続いて、ターボガス流量算出部33により、上記S9で算出された体積流量Qcに基づいて、第1ターボガス流量(質量流量)Gcを下式(6)に従って算出する(S10)。下式(6)において、Rは、ガス定数である(以下同じ)。
Gc=Qc×P1/T1/R …(6)
【0051】
そして、LPL−EGRガス流量推定部35において、上記S1で検出された空気量Gaと、上記S10で算出された第1ターボガス流量Gcとに基づいて、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1を上式(2)に従って算出する(S11)。
【0052】
以上のように、低圧段コンプレッサ4を流通するガスに関する状態量(入口圧力P1、出口圧力P2及び入口温度T1)が検出されれば、これら状態量及び低圧段コンプレッサ4に関する特性値(コンプレッサマップ)に基づいて、第1ターボガス流量Gcが算出され第1LPL−EGRガス流量Gegrl1が推定される。この場合、変化が生じにくい当該特性値としてコンプレッサマップに基づくことから、第1ターボガス流量Gcが精度よく算出することとなり、よって、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1を精度よく推定することが可能となる。
【0053】
また、入口温度センサ41としては、例えば従来のエンジンのインタークーラ出口及びアフタークーラ出口における温度センサとして用いられるような既存のセンサを採用することができる。入口圧力センサ42及び出口圧力センサ43としては、例えば従来のエンジンのインタークーラ出口及びアフタークーラ出口における圧力センサとして用いられるような既存のセンサを採用することができる。このような既存のセンサ等により検出された検出値を状態量として利用でき、コストの増加を抑えることができる。
【0054】
なお、一般的に、EGRガスの配管内にオリフィスを配置して当該オリフィスの差圧によりEGR流量を推定する手法や、EGRバルブをEGR流路における絞り部とみなし、当該絞り部前後のEGRガスの差圧等によりEGR流量を推定する手法が知られている。しかし、オリフィスによる圧損で燃費向上が阻害される場合や、EGRガス中の汚濁物による流量係数が変化する場合がある。また特に、LPL−EGRシステムではEGRバルブとして大口径のバルブが用いられることから、EGRバルブ(絞り部)前後の差圧が小さい傾向となると共に、EGRバルブ自体の製造誤差に起因する流量特性のばらつきが生じやすい結果、前記差圧等の変化に対して実用上十分な推定精度が得られない場合がある。この点、本実施形態によれば、LPL−EGRガス流量の推定精度及びロバスト性の向上を見込むことができる。
【0055】
[第2推定手法]
上述のように、LPL−EGRパイプ21は、エアクリーナ3と低圧段コンプレッサ4との間のインテークパイプ2aに接続されている。よって、LPL−EGRパイプ21を介して還流されたLPL−EGRガスは、エアクリーナ3を介して吸い込まれた空気と共に、各シリンダ10a〜10fに吸入されてインジェクタ9によって燃料が噴射され燃焼した後、低圧段タービン5を流通する。すなわち、低圧段タービン5を流通するガス流量は、下式(7)により算出される。この下式(7)を変形した下式(8)により、ターボガス流量算出部33が算出した第2ターボガス流量Gtに基づいて、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2を推定することができる。
Gt=Ga+Gf+Gegrl2 …(7)
Gegrl2=Gt−Ga−Gf …(8)
【0056】
具体的には、図2(b)に示すように、まず、空気量センサ40によりエアクリーナ3を介して流入された空気の空気量(質量流量)Gaを検出する(S12)。続いて、排気ガス状態量算出部32によりタービン入口温度T3を検出し(S13)、排気ガス状態量算出部32によりタービン入口圧力P3を検出し(S14)、排気ガス状態量算出部32によりタービン出口圧力P4を検出する(S15)。上記S13〜S15により、低圧段タービン5を流通するガスに関する状態量が検出されることとなる。
【0057】
続いて、ターボガス流量算出部33により、上記S3及び上記S4で検出したタービン入口圧力P3及びタービン出口圧力P4に基づいて、圧力比πtを下式(9)に従って算出する(S16)。
πt=P3/P4 …(9)
【0058】
続いて、上記S16で算出された圧力比πtと、特性値記憶部31に記憶されている特性値としてのタービンマップとに基づいて、ターボガス流量算出部33により修正流量Gcorrtを算出する(S17)。ここで、タービンマップは、図3(b)に示すように、縦軸を圧力比πtとし、横軸をタービンを流通するガスの修正流量Gcorrtとして、当該タービン固有の特性値(タービンを流通するガスの圧力−流量特性)を示すマップである。この圧力−流量特性は、例えば経年変化や上記ガス中の汚濁物等に起因する特性の変化が生じにくい。
【0059】
また、図3(a)に示すように、コンプレッサマップでは、ある圧力比πcに対して複数の修正流量Qcorrcを取り得る場合(同一タービン回転数Nにおいて修正流量Qcorrcに対して圧力比πcが変化しない場合)が存在するのに対し、図3(b)に示すように、タービンマップでは、一の圧力比πtに対して複数の修正流量Gcorrtを取り得る場合が存在せず、圧力比πt(状態量)と修正流量Gcorrt(ターボガス流量)とが一対一の関係にある。
【0060】
続いて、ターボガス流量算出部33により、上記S17で算出された修正流量Gcorrtに基づいて第2ターボガス流量(質量流量)Gtを下式(10)に従って算出する(S18)。
Gt=Gcorrt×P3/(T3)^0.5 …(10)
【0061】
続いて、燃料噴射量算出部34により、上記S12で検出された空気量Gaと、例えばエンジン1の運転状況とに基づいて、インジェクタ9が噴射する燃料量Gfを算出する(S19)。そして、LPL−EGRガス流量推定部35により、上記S12で検出された空気量Gaと、上記S18で算出された第2ターボガス流量Gtと、上記S19で検出された燃料量Gfとに基づいて、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2を上式(8)に従って算出する(S20)。
【0062】
以上のように、低圧段タービン5を流通するガスに関する状態量(タービン入口圧力P3、タービン出口圧力P4及びタービン入口温度T3)が検出されれば、これら状態量及び低圧段タービン5に関する特性値(タービンマップ)に基づいて、第2ターボガス流量Gtが算出され第2LPL−EGRガス流量Gegrl2が推定される。タービンマップでは、圧力比πt(状態量)とターボガス流量とが一対一の関係にあることから、様々な圧力比πtにおいて第2ターボガス流量Gtが精度よく算出できるため、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2を精度よく推定することが可能となる。
【0063】
[エンジン1の異常検出]
次に、推定した第1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl1,Gegrl2に基づいて、異常検出部36によりエンジン1の異常検出を実施する。具体的には、まず、異常検出部36により、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1と、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2と、燃料量Gfとに基づいて、下式(11)が成立するか否かを判定する(S21)。
Gt−Gc=Gf …(11)
【0064】
上記S21にて、第2ターボガス流量Gtから第1ターボガス流量Gcを減算した値と、燃料量Gfとが等しいと判定された場合、異常検出部36により、エンジン1の異常がないものと判定される(S22)。上記S22の後、処理が終了される。一方、上記S21にて、第2ターボガス流量Gtから第1ターボガス流量Gcを減算した値と、燃料量Gfとが等しくないと判定された場合、異常検出部36により、エンジン1の異常があるものと判定される(S23)。上記S23の後、処理が終了される。
【0065】
ここで、上式(11)は、例えば次のようにして導出できる。すなわち、基本的に、エンジン1に異常がない場合には、下式(12)のように、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1と、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2とが互いに等しくなると考えられる。上式(12)の左辺及び右辺に上式(2)及び上式(8)をそれぞれ代入することで、下式(13)が導出される。そして、下式(13)を変形して空気量Gaを消去することにより、上式(11)が導出される。
Gegrl1=Gegrl2 …(12)
Gc−Ga=Gt−Ga−Gf …(13)
【0066】
他方、例えば、エンジン1に何らかの異常が発生したことによって、低圧段コンプレッサ4と低圧段タービン5との間で空気又は排気ガスの漏れ又は吸い込みがある場合、上式(12)が成立しなくなり、上式(12)から導出される上式(11)もまた、成立しなくなると考えられる。よって、上記S23において、エンジン1の異常が検出されることになる。なお、エンジン1の異常が検出された場合、例えば車両の運転者に対する警報や注意喚起が実施されてもよい。
【0067】
以上、本実施形態では、低圧段ターボチャージャー50を流通するガスに関する状態量が検出されれば、この状態量及び低圧段ターボチャージャー50に関する特性値に基づいて、ターボガス流量(第1ターボガス流量Gc、第2ターボガス流量Gt)が算出されてLPL−EGRガス流量(第1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl1,Gegrl2)が推定される。このとき、変化が生じにくい当該特性値に基づくことから、ターボガス流量(第1ターボガス流量Gc、第2ターボガス流量Gt)が精度よく算出されることとなり、よって、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1を精度よく推定することが可能となる。
【0068】
本実施形態では、低圧段ターボチャージャー50は低圧段コンプレッサ4を有している。そして、状態量は、コンプレッサ入口圧力P1と、コンプレッサ出口圧力P2と、コンプレッサ入口温度T1とを含んでおり、特性値は、コンプレッサマップを含んでいる。この場合、上述した第1推定手法に例示したように、変化が生じにくい当該特性値としてコンプレッサマップに基づくことができ、第1ターボガス流量Gcを精度よく算出することができる。また、例えば従来のエンジンのインタークーラ出口及びアフタークーラ出口における圧力センサや温度センサとして用いられるような既存のセンサにより検出された検出値を状態量として利用でき、コストの増加を抑えることができる。
【0069】
本実施形態では、低圧段ターボチャージャー50は低圧段タービン5を有している。そして、状態量は、タービン入口圧力P3と、タービン出口圧力P4と、タービン入口温度T3とを含んでおり、特性値は、タービンマップを含んでいる。タービンマップでは、ある圧力比πtに対して複数の修正流量Gcorrtを取り得る場合が存在せず、圧力比πtと修正流量Gcorrtとが一対一の関係にあることから、上述した第2推定手法に例示したように、様々な圧力比πtにおいて第2ターボガス流量Gtを精度よく算出できるため、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2を一層精度よく推定することが可能となる。
【0070】
本実施形態では、異常検出部36により、上式(11)が成立するか否かを判定することで、エンジン1の異常検出が実施されている。これにより、LPL−EGRガス流量推定部35により推定されたEGRガス流量(第1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl1,Gegrl2)を利用して、エンジン1の異常を検出することが可能となる。
【0071】
図4(a)は、コンプレッサマップを用いて推定した第1LPL−EGRガス流量の精度を示す図である。図4(b)は、タービンマップを用いて推定した第2LPL−EGRガス流量の精度を示す図である。図4(c)は、LPL−EGRバルブ23を絞りと仮定する従来手法で推定したLPL−EGRガス流量の精度を示す図である。
【0072】
図4において、縦軸は推定したLPL−EGRガス流量を示し、横軸は実LPL−EGRガス流量を示している。実LPL−EGRガス流量は、例えば流量計等を用いて実験的に計測された流量である。図4において、原点を通る直線は、推定したLPL−EGRガス流量と実LPL−EGRガス流量とが等しい場合を表している。
【0073】
図4(a)及び図4(b)に示すように、本実施形態で推定した第1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl1,Gegrl2は、上記原点を通る直線に沿うように分布している。一方、図4(c)に示すように、従来手法で推定したLPL−EGRガス流量は、上記原点を通る直線から離れた分布を有している。これにより、本実施形態によれば、LPL−EGRガス流量が精度よく推定されるのを確認することができる。
【0074】
ところで、LPL−EGRバルブ23として大口径のバルブが用いられる場合、当該バルブ前後の差圧が小さい傾向となると共に、LPL−EGRバルブ23自体の製造誤差に起因する流量特性のばらつきが生じやすい傾向がある。よってこの場合、例えば図4(c)に係る上記従来手法では、推定するLPL−EGRガス流量の精度について、排気絞りバルブ15が閉の場合(排気管2fの排気ガスの圧力(排圧)が高い場合)の方が、排気絞りバルブ15が開の場合よりも悪化するおそれがある。これに対し、本実施形態では、排気絞りバルブ15の開閉によらずに、LPL−EGRガス流量(第1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl1,Gegrl2)を推定することができる。
【0075】
以上、本発明の一側面に係る実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用してもよい。
【0076】
例えば、上記実施形態では、低圧段コンプレッサ4の下流の空気を低圧段コンプレッサ4の上流に流通させる吸気バイパス装置が更に設けられていてもよい。この場合、上記第1推定手法においては、例えば、低圧段コンプレッサ4を流通するガス流量が当該バイパス流量Gbypcだけ増加することに対応し、上式(1)の右辺にバイパス流量Gbypcを加えることで、第1LPL−EGRガス流量Gegrl1を推定できる。
【0077】
また、上記実施形態では、低圧段タービン5の上流の排気ガスを低圧段タービン5の下流に流通させる排気バイパス装置が更に設けられていてもよい。この場合、上記第2推定手法においては、例えば、低圧段タービン5を流通するガス流量が当該バイパス流量Gbyptだけ減少することに対応し、上式(7)の右辺からバイパス流量Gbyptを減算することで、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2を推定できる。
【0078】
上記実施形態では、推定したLPL−EGRガス流量に基づいて、HPL−EGRガス流量を更に算出してもよい。具体的には、例えば、インテークマニホールド8におけるガス圧力と、インテークマニホールド8におけるガス温度と、エンジン1のシリンダ10の容積効率等とに基づいて算出されるトータルEGRガス流量から、推定したLPL−EGRガス流量(第1LPL−EGRガス流量Gegrl1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl2のうちの何れか一方)を減算することで、HPL−EGRガス流量を更に算出してもよい。これにより、LPL−EGRガス流量/HPL−EGRガス流量の比率を算出でき、当該比率をEGRシステムの適切な制御に用いることができる。
【0079】
上記実施形態の低圧段ターボチャージャー50は、低圧段タービン5に可変容量機構を有していないもの(いわゆるコンベンショナルタービン)であるが、例えばノズルベーンの開度を可変する可変容量機構を備えた可変ノズルターボチャージャーであってもよい。この場合、図3(c)に示すように、可変容量機構の状態(例えばノズルベーン開度V1,V2及びV3)に応じた圧力−流量特性を有するタービンマップを用いた上記第2推定手法によって、第2LPL−EGRガス流量Gegrl2を推定することができる。
【0080】
上記実施形態では、入口温度センサ41、入口圧力センサ42及び出口圧力センサ43により低圧段コンプレッサ4を流通するガスに関する状態量を検出したが、例えば物理モデル等により推定して検出してもよい。また、排気ガス状態量算出部32により低圧段タービン5を流通するガスに関する状態量を推定して検出したが、例えば温度センサや圧力センサを用いて状態量を直接検出してもよい。
【0081】
上記実施形態では、低圧段ターボチャージャー50におけるターボガス流量(第1ターボガス流量Gc,第2ターボガス流量Gt)に基づいてLPL−EGRガス流量(第1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl1,Gegrl2)を推定したが、例えば高圧段ターボチャージャー51におけるターボガス流量に基づいてLPL−EGRガス流量(第1及び第2LPL−EGRガス流量Gegrl1,Gegrl2)を推定してもよい。要は、ターボチャージャーに関する特性値とに少なくとも基づいて算出されたターボガス流量に基づき、LPL−EGRガス流量を推定すればよい。また、2段過給システム以外の過給システムにおいてLPL−EGRガス流量を推定してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…エンジン(内燃機関)、4…低圧段コンプレッサ(コンプレッサ)、5…低圧段タービン(タービン)、12…高圧段コンプレッサ(コンプレッサ)、13…高圧段タービン(タービン)、20…LPL−EGRシステム、25…HPL−EGRシステム、30…ECU、31…特性値記憶部、32…排気ガス状態量算出部(状態量検出部)、33…ターボガス流量算出部、34…燃料噴射量算出部、35…LPL−EGRガス流量推定部、36…異常検出部、41…入口温度センサ(状態量検出部)、42…入口圧力センサ(状態量検出部)、43…出口圧力センサ(状態量検出部)、50…低圧段ターボチャージャー(ターボチャージャー)、51…高圧段ターボチャージャー(ターボチャージャー)、100…EGRガス流量の推定装置。
図1
図2
図3
図4