(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラス成分は、酸化物に換算した場合の組成で、BaO及びZnOのうちの少なくともBaOを含む1以上を含み、かつ、前記BaO及びZnOを合計で60mol%以上95mol%以下の割合で含む、請求項1または2に記載の放熱性基板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、はんだやろう材等を用いての金属箔または薄板の接着は、800℃〜1000℃程度の高温での熱処理を要するため、基板と金属材料との熱膨張係数の差によりうねりや反りを生じるという問題があった。
一方で、上記の電力用半導体素子は、いわゆるモジュール化により各モジュールの高性能化(例えば、大電流・高耐圧化)が急速に進んでいる。また、例えば、ハイブリッドカーの駆動用インバータとして使用されるパワーデバイスは、信頼性の向上に対する要求が高く、より大きな温度変化が繰り返し生じる環境で長期間の使用に耐え得ることが求められている。例えば、具体的には、従来求められていたヒートサイクル耐性がおおよそ−20℃〜150℃程度であったのに対し、昨今では、−40℃〜250℃程度という広い範囲でのヒートサイクル耐性が求められつつある。したがって、これらモジュールデバイスの基板となる放熱性基板については、従来のヒートサイクル耐性の要求を満たすものであっても、今後の要求には耐えられない事態が発生している。
【0006】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、放熱層と基板との接合が良好で、広い温度範囲でのヒートサイクル耐性を備える放熱性基板を提供することを課題としている。また、本発明は、かかる放熱性基板を製造するための方法を提供することを他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するべく、本発明は、セラミックスからなる基板と、上記基板の少なくとも一方の面に備えられた放熱層とを備える放熱性基板を提供する。かかる放熱層は、上記基板に直接的に備えられ、銅を主成分としガラス成分を含む第1放熱層と、上記第1放熱層の表面に備えられ、実質的に銅または銅合金により形成される第2放熱層と、を含むことを特徴としている。
【0008】
このように、基板と第2放熱層との間にガラス粉末を含む第1放熱層を介在させることで、基板と第2放熱層との間の熱膨張係数差を緩和させるようにしている。これにより、放熱性基板により広い温度範囲でのヒートサイクルが負荷された場合であっても、基板と第2放熱層との間に発生する熱応力が低減されて、放熱層の基板からの剥離を抑制することができる。延いては、反りやひずみの低減された、表面平坦性の高い放熱層を備える放熱性基板が実現される。
【0009】
なお、本明細書の第1放熱層に関し、「主成分」とは、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、例えば90質量%以上の割合で当該物質を含んでいることを意味する。また、第2放熱層に関し、「実質的に銅または銅合金により形成される」とは、意図して他の成分を含有していないことを意味しており、換言すると、不可避的に混入される他の成分を除いて銅または銅合金から構成されることを意味する。かかる場合、第2放熱層は、銅または銅合金を90質量%以上(好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、典型的には99質量%以上)の割合で含むこととなる。
【0010】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記ガラス成分は、軟化点が250℃以上450℃以下となるように構成されていることを特徴としている。第1放熱層に含まれるガラス成分の軟化点が上記のとおり比較的低く設定されることで、ヒートサイクル時の熱応力の緩和効果がより一層高められ、ヒートサイクル耐性がさらに向上された放熱性基板が提供される。
なお、本明細書において、ガラスの軟化点は、これより低い温度では当該ガラスのほとんどの成形操作が不可能となる温度を意味し、約10
7.6dPa・Sの粘度に相当する温度を近似的に採用するようにしている。かかるガラスの軟化点は、JIS R 3103−1:2001に準拠して、寸法がおおよそ直径0.65mm、長さ235mmの円形断面のガラス繊維を、上部の長さ100mmを規定の炉中で(5±1)℃/minの速度で昇温したとき、当該ガラス繊維が自重で1mm/minの速度で伸びるような温度を、軟化点とするようにしている。
【0011】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記ガラス成分は、酸化物に換算した場合の組成で、BaO及びZnOの少なくとも一方を含み、かつ、上記BaO及びZnOを合計で60mol%以上95mol%以下の割合で含むことを特徴としている。
かかる構成とすることで、ガラス成分が低融点組成となるため、第2放熱層との接合性が向上されるとともに、ヒートサイクル時に基板および第2放熱層との間に生じる熱応力をより確実に緩和することができる。
【0012】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記第1放熱層は、3質量%以上15質量%以下の割合でガラス成分が含まれることを特徴としている。かかる構成によると第1放熱層の抵抗率が低く抑えられ、放熱層に好適な導電性を備えることができる。
【0013】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記1放熱層は、熱膨張係数が9×10
−6/K以上13×10
−6/K以下であることを特徴としている。第1放熱層の熱膨張係数が上記範囲となることで、より一層ヒートサイクル耐性を高めることができる。
なお、本明細書において、「熱膨張係数」とは、特に言及しない限り、熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて、室温(25℃)から500℃までの温度領域において測定した平均線膨張係数を意味し、かかる温度領域における試料の長さの変化量を測定温度差で割った値をいう。この熱膨張係数は、JIS R 1618:2002またはJIS R 3102:1995に準じて測定することができる。
【0014】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記第1放熱層は、厚みが1μm以上500μm以下であることを特徴としている。かかる構成によると、基板に十分な放熱性,応力緩和性および低抵抗性を全てバランスよく兼ね備える放熱層を実現することができる。
【0015】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記第1放熱層は、固形分として、銅を主成分としガラス成分を含む銅ペーストが焼成されることにより形成され、上記第2放熱層は、銅または銅合金からなる板材により構成され、上記放熱性基板は、上記第2放熱層が上記銅ペーストを介して上記基板に付着され、焼成されることで製造されていることを特徴としている。第2放熱層として板材を用いることで、放熱層の表面を緻密かつ平坦性の高いものとすることができる。これにより、放熱層の体積抵抗率を低減させることができる。
【0016】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記第2放熱層は、厚みが5μm以上500μm以下であることを特徴としている。第2放熱層の厚みを薄くすることで、基板との間に発生する熱応力を小さく抑えることができる。これにより、ヒートサイクル耐性をより確実に高めることができる。
【0017】
ここに開示される放熱性基板の好適な一態様において、上記基板は、炭化ケイ素,窒化ケイ素あるいは窒化アルミニウムのいずれかにより構成されていることを特徴としている。炭化ケイ素は、シリコンと比較して、電界強度,最大電子走行速度,熱伝導率等の特性に優れた高性能な基板となり得る。窒化ケイ素は特に強度に優れるために薄板化することで放熱性に優れた基板となり得る。また、窒化アルミニウムは特に熱伝導性に優れるため、放熱性に優れた基板となり得る。かかる構成によると、より一層放熱性に優れた放熱性基板が実現される。
【0018】
他の側面において、本発明は、放熱性基板の製造方法を提供する。かかる製造方法は、セラミックスからなる基板を用意すること、銅粉末を主成分としガラス粉末を含む銅ペーストを用意すること、上記基板の少なくとも一方の面に、上記銅ペーストを供給して前駆層を形成すること、上記前駆層の上に、実質的に銅または銅合金からなる第2放熱層を構築すること、および、上記前駆層および第2放熱層を備える基板を焼成することで、第1放熱層を形成し、上記第1放熱層上に上記第2放熱層を備える放熱性基板を得ること、を包含している。
【0019】
かかる製造方法では、銅ペーストの供給により任意の形態(パターン、厚み等)で第1放熱層を形成することができる。この第1放熱層は、ガラス粉末が含まれた銅ペーストを用いて形成するため、熱膨張係数が低減されているとともに接着性を備えるため、基板に直接的に形成することができる。かかる構成により、上記のとおりの特性を備える放熱性基板を好適に製造することが可能とされる。
【0020】
ここに開示される製造方法の好適な一態様において、前記第2放熱層として、銅または銅合金からなる板材を用意し、上記板材を上記前駆層の上に載置することにより上記第2放熱層を構築することを特徴としている。第2放熱層として銅または銅合金からなる板材を用いることにより、放熱性および低抵抗率特性を簡便に向上させることができる。また、第1放熱層は、自身が放熱層として機能するのに加え、第2放熱層の接合材としての役割も果たす。これにより、放熱性および電気的特性(体積抵抗率)に優れた放熱性基板を簡便に製造することができる。
【0021】
ここに開示される製造方法の好適な一態様において、上記焼成は、475℃以上700℃以下の温度範囲で行うことを特徴としている。かかる構成によると、比較的低温度で放熱層(第1放熱層)を形成することができ、基板と第2放熱層との界面に発生する熱応力を低減して、反りやひずみの無い放熱性基板を得ることができる。
【0022】
ここに開示される製造方法の好適な一態様において、上記基板が、炭化ケイ素,窒化ケイ素あるいは窒化アルミニウムのいずれかにより構成されていることを特徴としている。上記のとおり、炭化ケイ素は、シリコンと比較して、電界強度,最大電子走行速度,熱伝導率等の特性に優れた高性能な基板となり得る。窒化ケイ素は特に強度に優れるために薄板化することで放熱性に優れた基板となり得る。また、窒化アルミニウムは特に熱伝導性に優れるため、放熱性に優れた基板となり得る。かかる構成によると、より一層放熱性に優れた放熱性基板を製造することができる。
【0023】
ここに開示される製造方法の好適な一態様において、上記前駆層の上に、さらに上記銅ペーストを供給すること、を含むことを特徴としている。かかる構成によると、所望の厚みの放熱層を形成することができる。換言すると、所望の放熱性能を備える放熱性基板が提供される。また、前駆層の任意の部位にのみ銅ペーストを供給することもでき、例えば、放熱層の平坦性をより一層高めるべく放熱層の厚みを調整することができる。
【0024】
以上のここに開示される技術によると、低抵抗率で、かつ、より広い温度範囲におけるヒートサイクル耐性(耐熱性、熱応力緩和性、接合性等)が実現された、放熱性基板とその製造方法が提供される。かかる技術によると、第2放熱層と第1放熱層との組み合わせにより、より広い温度範囲においてより確実な接合性を実現するとともに、より大きな温度変化による熱応力を緩和し得る。かかる放熱層は、反りやひずみの発生を抑えるとともに、厚みを簡便に調整しながら製造することができる。したがって、かかる特性を備える放熱性基板は、例えば、半導体素子を実装するに際し、複数の半導体素子の表面高さを任意に調整するのに有用であり得る。これにより、例えば、複数の半導体素子間にワイヤボンディングにより電極を形成することに代えて、複数の半導体素子上に電極板を載置することで、素子間の導通を確保することが可能とされる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同様の作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために必要に応じて模式化されており、実際の放熱性基板の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)を必ずしも正確に反映したものではない。
【0027】
図1は、ここで開示される放熱性基板1の構成を示す断面模式図である。
ここに開示される放熱性基板1は、基板10の少なくとも一方の面に、放熱層20が直接的に備えられている、いわゆるDBC(Direct Bonded Copper)基板である。すなわち、放熱層20は、ろう材やはんだ等の接合材を介することなく、基板10に直接設けられている。この放熱層20は、基板10の片面のみに備えられていても良いし、この
図1の例のように両面に備えられていても良い。また、放熱層20は、基板10のほぼ全面(
図1の基板10の上下の放熱層20参照)にわたって備えられていても良いし、基板10の一部(図示せず)に備えられていても良い。そしてこの放熱層20は、基板10上に形成された第1放熱層22と、第1放熱層22の表面に備えられる第2放熱層24を含んでいる。
【0028】
以下、かかる放熱性基板1の製造方法を説明しながら、放熱性基板1とこれを特徴づける第1放熱層22および第2放熱層24を含む放熱層20について詳細に説明する。
【0029】
[基板]
基板10としては、各種のセラミックスからなるものを考慮することができる。かかるセラミックスとしては、詳細な組成や形状、寸法等は特に制限されず、例えば、金属の炭化物からなる炭化物系セラミックス,金属の窒化物からなる窒化物系セラミックス,金属の酸化物からなる酸化物系セラミックス,その他、金属のホウ化物,フッ化物,水酸化物,炭酸塩,リン酸塩等からなるセラミックスが挙げられる。かかるセラミックスとしては、特に、熱膨張係数が小さいものが、本発明の効果を顕著に発現し得るとの観点から好適である。かかるセラミックスの具体例としては、窒化ケイ素(Si
3N
4),窒化アルミニウム(AlN),窒化ホウ素(BN),窒化ガリウム(GaN),サイアロン(Si
3N
4−AlN−Al
2O
3固溶体;Sialon),窒化炭素(CN
x),窒化チタン(TiN)等の窒化物系セラミックス、炭化ケイ素(SiC),タングステンカーバイド(WC)等の炭化物系セラミックス,コーディエライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2),ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)等の複合酸化物系セラミックス等が、代表的なものとして挙げられる。これらのセラミックスは、代表組成を併せて記しており、必ずしも上記組成のものに限定されない。例えば、所望の特性を得る目的等で各種の他の元素が添加されたものや複合化されたものであってよい。
【0030】
上記のセラミックスのなかでも、炭化ケイ素SiCは、シリコン(Si)に比べて電界強度が約10倍、最大電子走行速度が約2倍、熱伝導率が約3倍という優れた物性を有しており、例えば、パワーデバイス用途の基板10として好ましく用いることができる。また、ここに開示される技術においては、窒化物系セラミックスに対しても、密着性の良い放熱層20を備えることができる。窒化物系セラミックスは、熱膨張係数が他のセラミックスと比較して相対的に低い。例えば、室温(25℃)から500℃の熱膨張係数が、窒化ケイ素で2.6×10
−6/K程度、窒化アルミニウムで4.6×10
−6/K程度、窒化ホウ素で1.4×10
−6/K程度である。また、窒化物系セラミックスは、酸化物系のセラミックスに比べて焼結性等の接合性にも乏しい。かかる観点から、窒化物系セラミックスについても基板10として好ましく用いることができる。
【0031】
なお、窒化物系セラミックスの中でも、窒化ケイ素は、とりわけ強度が高い(例えば曲げ強度で約700〜830MPa)ことから、例えば薄板化等することで基板10として特に好ましい材料となり得る。また、窒化アルミニウムは、熱伝導率が他のセラミックス材料に比べて極めて高い(例えば150〜200W/m・K)ことから、基板10を構成するには好ましい材料であり得る。かかる観点から、窒化ケイ素または窒化アルミニウムからなる基板10を用いることで、より放熱性に優れた放熱性基板1を構成することができる。
かかる基板のサイズは特に限定されず、例えば、所望の規格に従う寸法とすることができる。
【0032】
[放熱層]
上記のとおり、ここに開示される放熱性基板1において、放熱層20は、第1放熱層22と、この第1放熱層22の表面に備えられる第2放熱層24と、を備えている。
(第1放熱層)
第1放熱層22は、銅(Cu)を主成分とし、ガラス成分を含んでいる。また、第1放熱層22の主成分たる銅は、銅を主成分とする限りにおいて、銅単体からなるものに限定されず、例えば、銅にその他の元素が含まれた合金であっても良い。なお、第1放熱層22は、本発明の目的を損ねない範囲であれば、放熱層20の機能を高める目的等で、銅およびガラス成分以外の成分を含んでも良い。第1放熱層22において、ガラス成分は、例えば粒状にある銅成分同士を結合したり、かかる第1放熱層22と第2放熱層24とを結合したりする、無機バインダとしての役割を果たす。そして、かかるガラス成分は、無機バインダとしての役割の他に、第1放熱層22のさまざまな機能を向上させ得る。
【0033】
例えば、ガラス成分は、第2放熱層24を構成する銅または銅合金に比べて相対的に熱膨張係数が低いことから、第1放熱層22の熱膨張係数は第2放熱層24に比べて低減し得る。ここで、放熱性基板1においては、熱膨張係数の小さい基板10に対し、熱膨張係数の大きな第2放熱層24を備えるようにしている。したがって、熱膨張係数の差の大きな基板10と第2放熱層24との間に、基板10に対する熱膨張係数の差のより小さい第1放熱層22を介在させることで、各層間に生じる膨張および収縮に基づく熱応力を緩和することができ、放熱性基板1に生じる熱応力全体を低減させることができる。これにより、温度変化に伴う放熱性基板1の反りや表面の凹凸の発生を抑制することができる。
このような第1放熱層22の熱膨張係数は、厳密に制限されるものではないが、9×10
−6/K以上14×10
−6/K以下(典型的には、10×10
−6/K以上13×10
−6/K以下、例えば、10.5×10
−6/K以上12×10
−6/K以下)であるのが好ましい。第1放熱層22の熱膨張係数がかかる範囲にあることで、基板10と第2放熱層24との熱応力を好適に緩和することができる。
【0034】
なお、第1放熱層22と第2放熱層24との接合性は、ガラス成分の性状、とりわけ軟化点を制御することで好適に調整することができる。具体的には、ガラス成分の軟化点が低い程、より低い温度で良好な流動性を発現し、基板10とより良く馴染んで密着性よく第1放熱層22を形成し得る。このことは、例えば、より低温で第1放熱層22を形成(焼成)できることをも意味し、第1放熱層22の形成時に放熱性基板1に発生する熱応力を低減することに繋がる。延いては表面平坦性の高い放熱層20が得られることになるために好ましい。かかる観点から、ガラス成分の軟化点は、650℃以下(650℃未満)、典型的には500℃以下、例えば450℃以下となるよう構成されている(組成が調整されている)ことが好ましい。しかしながら、ガラス成分の軟化点が低すぎると、ガラス成分中に結晶が析出してガラス化し難くなったり、ヒートサイクルによる影響を受けやすくなるために好ましくない。かかる観点から、ガラス成分の軟化点は、250℃以上、典型的には300℃以上、例えば350℃以上となるよう構成されていることが好ましい。
【0035】
そして、ガラス成分は、上記の比較的低い軟化点を実現するために、軟化点を低下させる効果のあるガラス構成元素を含む組成であることが好ましい。かかる軟化点を低下させ得るガラス構成成分としては、例えば、酸化物として表した場合、ZnO、或いは、MgO,CaO,SrO,BaO等のアルカリ土類金属の酸化物を挙げることができる。なかでも、BaO、ZnOであることが好ましい。より好適には、これらの少なくとも一方を合計で60mol%以上95mol%以下の割合で含むことが好ましい。すなわち、BaOとZnOとは、いずれか一方が含まれていても良いし、両方が含まれていても良い。BaOとZnOとの両方が含まれていることで、第2放熱層24の接合強度を効率的に高めることができるためにさらに好ましい。BaOとZnOとの合計量が少ないと、ガラス成分の軟化点を十分に低下させることができないために好ましくない。BaOおよびZnOの合計は、65mol%以上であるのが好ましく、さらには70mol%以上であるのがより好ましい。しかしながら、BaOおよびZnOの合計量が多すぎると、ガラスの軟化点が低くなりすぎ、より高温での使用に適さなかったり、ガラス化し難くバインダとしての機能が低下する可能性が高まったりするために好ましくない。したがって、BaOおよびZnOの合計は、90mol%以下であるのが好ましく、さらには85mol%以下であるのがより好ましい。
【0036】
また、必ずしもこれに限定されるものではないが、ガラス成分は、さらに銀(Ag)を含んでいるのが好ましい。かかるAgは、酸化物に換算した場合のガラス組成において、Ag
2Oとして0.5mol%以上5mol%以下の割合で含まれ得る。詳細な機構について明らかではないが、ガラス成分が銀を含むことで、第1放熱層22の接合性をより高めることができる。また、かかるガラス成分は、例えば、第1放熱層22と基板10との間に生じる熱応力を緩和する機能をも発現し得る。ここで、Ag
2Oは少量でも含まれることで接合性改善の効果が得られるものの、少なすぎるとかかる効果が明瞭に得られないために好ましくない。Ag
2Oは、0.8mol%以上の割合で含まれるのが好ましく、1mol%以上であるのがより好ましい。Ag
2Oの割合は、多すぎると必要以上に熱膨張係数が大きくなったり、価格が高くなったりするために好ましくない。Ag
2Oは、4mol%以下の割合で含まれるのが好ましく、3mol%以下であるのがより好ましい。なお、基板10と第1放熱層22との間の熱応力が低減されることにより、放熱層20の表面でのしわやクラックの発生が抑制され、より平坦性の高い放熱層20が形成されるために好ましい。
【0037】
また、ガラス成分は、SiO
2を1mol%以上20mol%以下の割合で含有しているのが好ましい。SiO
2はガラスの骨格を形成する成分であるとともに、熱膨張係数を低下させる効果があり、第1放熱層22に適度な硬度および化学的安定性(耐環境性)等の機能を付与することができるために好ましい。したがって、SiO
2は、3mol%以上であるのが好ましく、さらには5mol%以上であるのがより好ましい。しかしながら、SiO
2が多すぎるとガラス軟化点を低く維持することができなくなるために好ましくない。SiO
2は、18mol%以下であるのが好ましく、さらには15mol%以下であるのがより好ましい。
【0038】
以上のガラス成分としては、例えば、具体的には、酸化物に換算した場合の組成で、以下に示すガラス組成を好ましい例として挙げることができる。
Ag
2O:0.5mol%以上5mol%以下、
(BaO+ZnO):60mol%以上95mol%以下、
SiO
2:1mol%以上20mol%以下、
R
2O:1mol%以上30mol%以下、および
Al
2O
3:0mol%以上5mol%以下
【0039】
なお、上記Rは元素周期律表における1A族から選択される1種以上の元素を意味している。具体的には、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)であり得る。そしてR
2Oは、これら1A族元素の酸化物の合計を意味している。具体的には、例えば、酸化リチウム(Li
2O)、酸化ナトリウム(Na
2O)、酸化カリウム(K
2O)、酸化ルビジウム(Rb
2O)等の総和であり得る。例えば、ガラス成分を上記のような組成とすることで、軟化点を好適に650℃以下(好ましくは650℃未満、例えば450℃以下)程度にまで低減することができる。ガラス成分の軟化点が低い程、第1放熱層22を形成する際の加熱温度を低減できるために好ましい。
なお、このガラス成分としては、通常の非晶質ガラスの他、結晶化ガラスであってもよい。好ましくは非晶質ガラスである。
【0040】
以上の第1放熱層22において、主成分である銅とガラス成分との割合については厳密に制限されない。しかしながら、第1放熱層22の放熱性(熱伝導特性)および抵抗率(体積抵抗率、比抵抗であり得る。)と、かかる第1放熱層22の基板10および第2放熱層24との接合性とのバランス等を考慮すると、例えば、銅とガラス成分との合計を100質量%としたとき、3質量%以上15質量%以下の割合でガラス成分が含まれているのが好ましい。ガラス成分の割合が少なくなると、第1放熱層22の第2放熱層24への良好な接合性が得られ難いために好ましくない。ガラス成分の割合は、5質量%以上であるのが好ましく、さらには8質量%以上であるのがより好ましい。また、ガラス成分の割合が多すぎると主成分である銅により実現され得る放熱性および電気伝導性が必要以上に損なわれるために好ましくない。ガラス成分の割合は、14質量%以下であるのが好ましく、さらには12質量%以下であるのがより好ましい。
【0041】
(第2放熱層)
第2放熱層24は、実質的に銅(Cu)の単体または銅の合金から構成されている。好ましくは、導電性の良好な(低抵抗率の)銅の単体である。なお、ここでいう合金とは、銅と、他の1種以上の元素からなり、金属的な性質を示す物質を包含する意味であって、その混ざり方は、固溶体、金属間化合物およびそれらの混合のいずれであっても良い。第2放熱層24が合金から構成される場合、その構成元素の数は、例えば、2種類(2元系合金)であっても良いし、3種類以上(3元系以上)であっても良い。かかる銅または銅合金としては、無酸素銅,タフピッチ銅,脱酸銅等のいわゆる純銅や、いわゆるベリリウム銅,チタン銅,ジルコニウム銅,錫入り銅,鉄入り銅,コルソン合金等の銅基合金、いわゆる黄銅(Cu−Zn系合金),青銅(Cu−Sn系合金),銅ニッケル合金等の銅合金が例示される。
【0042】
かかる第2放熱層24は、その形成方法等に基づく形態は特に制限されない。例えば、第2放熱層24は、上記の第1放熱層上に塗布された、銅または銅合金とビヒクルとからなる銅ペーストにより形成されていてもよいし、めっき法等によりめっきされためっき層により形成されていてもよいし、板材から構成されていてもよい。
ここに開示されている放熱性基板1においては、上記の第1放熱層22が固形分として、銅を主成分としガラス成分を含む銅ペーストが焼成されることにより形成される場合において、第2放熱層24は銅または銅合金からなる板材により構成されることとし、この第2放熱層24が上記の第1放熱層22を形成するための銅ペーストを介して基板10に付着され、焼成されることで製造されているのをより好ましい形態としている。銅ペーストにより形成される第1放熱層22は、典型的には粒状の銅成分が互いに接触することで構成されており、微視的なレベルでポーラス(多孔質)又は凹凸表面を備えたものでありうる。そこで第2放熱層24として板材を採用することで、例えば、第2放熱層24を金属結合した銅または銅合金により構成することができ、原子レベルで滑らかな表面を得ることができる。また、第2放熱層24の体積抵抗率を低下させることもできる。また、第2放熱層24を板材により構成することで、その製造も簡便となり得る。なお、かかる第2放熱層24の板材を第1放熱層22を形成するための銅ペーストを介して基板10に付着し、放熱性基板1を製造する方法については、後で説明する。
【0043】
第2放熱層24は、その厚みがごく薄く(例えば、1μm以下)ても、存在することで、基板10と第2放熱層24との接合性の向上や、熱応力の緩和の効果を奏する。しかしながら、その厚みがおよそ5μm以上となることで、かかる効果を明瞭に発揮することができるために好ましい。第2放熱層24の厚みは、より好ましくは10μm以上であり、例えば50μm以上であるのが好ましく、70μm以上であるのがより好ましく、80μm以上であるのがさらに好ましい。
一方で、第2放熱層24を構成する成分である銅は、単体(Cu)での熱膨張係数(25℃〜500℃)がおよそ16×10
−6/Kと、上記の窒化物系セラミックスと比較して、3〜5倍以上も相違する。したがって、厚みが厚すぎる場合には、従来の銅メタライズ基板と同様に、温度変化のある環境下において熱応力差が蓄積され、第1放熱層22と第2放熱層24との界面での剥離が生じ易くなる。したがって、かかる第2放熱層24は、例えば、厚みが500μm以下であるのが好ましく、400μm以下であるのがより好ましく、例えば300μm以下であるのがより好ましい。
【0044】
ここに開示される放熱性基板1の製造方法は特に制限されない。しかしながら、以下に、この放熱性基板1の製造方法の好適な一形態としての、本発明の放熱性基板1の製造方法について説明する。
すなわち、ここに開示される放熱性基板1の製造方法は、以下の工程を包含する。
(1)セラミックスからなる基板10を用意すること。
(2)銅粉末を主成分としガラス粉末を含む銅ペーストを用意すること。
(3)基板10の少なくとも一方の面に、上記銅ペーストを供給して前駆層を形成すること。
(4)前駆層の上に、実質的に銅または銅合金からなる第2放熱層24を構築すること。
(5)前駆層および第2放熱層24を備える基板10を焼成することで、第1放熱層22を形成し、第1放熱層22上に第2放熱層24を備える放熱性基板1を得ること。
【0045】
[1.基板の用意]
まず、上記に説明したセラミックスからなる基板10を用意する。かかる基板10は、例えば、市販されているものを購入しても良いし、製造して用意しても良い。基板10を製造する場合は、その製法等は制限されない。例えば、所望の組成のセラミックス粉末、焼成助剤および溶剤等を所定の割合で配合し、ボールミル等で粉砕および混合して、基板形成用のスラリーを調製する。そしてこのスラリーを、例えば、キャリアシート上に層状に供給し、適宜乾燥させた後、電気炉等にて所定の温度で脱脂および焼成することで、セラミック粉末の焼結体としての基板10を得ることができる。基板10は、焼成の前、もしくは焼成後に、所定の大きさに切断して用いることができる。
【0046】
[2.銅ペーストの用意]
次いで、第1放熱層22を形成するための銅ペーストを用意する。かかる銅ペーストは、第1放熱層22の主成分としての銅粉末と、無機バインダとしてのガラス粉末とを含み、これらの粉末が有機媒体に分散された形態であり得る。
銅粉末は、銅ペーストを焼成することで形成される第1放熱層22の高い電気伝導性と放熱性とを担う物質である。かかる銅粉末の種類等については特に制限はなく、目的の銅ペーストに従来用いられている組成、純度、形状等を備える銅粉末を適宜選択して用いることができる。例えば、銅粉末としては、タフピッチ銅、無酸素銅、銅化合物(例えば、銀入り銅、ジルコニウム銅などの合金、金属酸化物等)からなる粉末であっても良い。また、本発明の目的を損ねない限り、かかる銅には各種の元素等が添加されていても良い。
【0047】
銅粉末の形状や粒径に厳密な制限はなく、例えば、代表的には、平均粒径が1nm〜30μm程度、例えば、10nm〜10μm程度の範囲のものから用途等に応じて選択される平均粒径を有する粒子を用いることができる。なお、本明細書における「平均粒径」とは、平均粒径がおおよそ0.5μm以上となる範囲では、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径;以下、D50と略記する場合もある。)として求めることができ、平均粒径がおおよそ0.5μm程度以下の範囲では、電子顕微鏡等の観察手段により観察される観察像内の複数の粒子の円相当径に基づき作成された粒度分布における積算値50%での粒径として求めることができる。なお、これらの平均粒径の算出手法を適用する粒径範囲に厳密な臨界はなく、採用する装置の精度等に応じて算出方法を適宜選択することができる。
【0048】
ガラス粉末は、銅ペーストを基板10に供給して焼成することで形成される第1放熱層22の接着強度を向上させることができる。かかるガラス粉末を構成するガラス構成成分(ガラス組成)や軟化点等の特性については、上記で説明した第1放熱層22におけるガラス成分と同様とすることができるために詳細な説明は省略する。なお、かかるガラス粉末の平均粒径は、典型的には、銅粉末と同等かそれ以下の大きさに調整されているのが好ましい。したがって、かかるガラス粉末としては、例えば、レーザ散乱・回折法に基づく平均粒径が3μm以下、好適には2μm以下、典型的には平均粒径が0.1μm〜2μm程度のガラス粉末を用いることができる。
また、銅ペーストにおける銅粉末とガラス粉末との割合についても、上記の第1放熱層22の構成と同様に考慮することができる。
【0049】
有機媒体としては、上記銅粉末とガラス粉末とを分散させておくビヒクルとも呼ばれる媒質を好ましい例として挙げられる。かかる媒質は、典型的には、有機バインダと有機溶媒とから構成されている。かかるビヒクルは、銅粉末およびガラス粉末を適切に分散させ得るものであればよく、従来の銅ペースト等に用いられているものを特に制限なく使用することができる。
かかる有機バインダとしては、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アルキド系樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等をベースとするものが挙げられる。ここに開示される技術においては、特にセルロース系高分子等からなるバインダを用いることが好ましい。かかるセルロース系高分子の好適例としては、セルロース又はその誘導体が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びこれらの塩が挙げられる。
【0050】
また有機溶媒としては、例えば、エチルセルロース等のセルロース系高分子、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ブチルカルビトール、ターピネオール等の高沸点有機溶媒を好ましく用いることができる。これらは1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
その他、ここに開示される銅ペーストには、かかるペーストを構成するに適した粘性および塗膜(後述の前駆層)形成能等の所望の特性を付与し得る各種の添加剤が、必要に応じて含まれていても良い。かかる添加剤の一例をあげると、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、種々の光重合性化合物および光重合開始剤、重合禁止剤や、基板との密着性向上を目的としたシリコン系、チタネート系およびアルミニウム系等の各種カップリング剤等が挙げられる。
そして、以上の銅粉末およびガラス粉末を、三本ロールミルを用いて有機溶媒に混合し、よく混練することで、ここに開示される銅ペーストを得ることができる。
【0051】
以上の銅ペーストは、非ビンガム流動を示す粘塑性流体であり得る。例えば、各種の印刷に好適に供されるよう粘度が調整され得る。かかる粘度は、例えば、採用する印刷手法、印刷機、製版等に因るため一義的に示すことはできないが、一般的には3Pa・s以上のものを考慮することができ、例えば10Pa・s以上とすることができる。ここに開示される銅ペーストにおいて、粘度は、10Pa・s〜1000Pa・s程度のものを考慮することができる。なお、銅ペーストの粘度は、粘塑性流体の粘度計測が可能な粘度計あるいはレオメータにより計測することが可能である。本明細書における粘度は、HBTタイプのブルックフィールド型粘度計を用い、25℃において10rpmの条件で計測される値を採用することができる。
【0052】
以上の銅ペーストは、例えば、銅粉末およびガラス粉末の平均粒径や、固形分濃度、粘性等を調整することで、優れた離型性あるいはすり抜け性ともいえる性質を備えることができる。したがって、かかる銅ペーストは、例えば、スクリーン印刷、メタルマスク印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等に適用する印刷用ペースト(スラリーあるいはインク等という場合もある。)として好適に用いることができる。したがって、本発明においては、第1放熱層22は、所定のパターンを実現し得るように、印刷により形成することができる。
【0053】
[3.前駆層の形成]
そして、上記で用意した銅ペーストを、基板10の少なくとも一方の表面に直接的に塗布して前駆層を形成する。銅ペーストの塗布の手法については特に制限されない。かかる銅ペーストは、例えば、スクリーン印刷法、メタルマスク印刷法、グラビア印刷法、キャスト法、ディップコーティング法、スピンコート法、電気泳動法、スプレー法、インクジェット法などの各種の手法を利用して基板に塗布することができる。なかでも、上記に従い調製される銅ペーストは、印刷技術に好適に適用できることから、特に、スクリーン印刷法、メタルマスク印刷法、グラビア印刷法等の印刷技術により塗布するのが好ましい。かかる印刷技術を利用することで、基板10上の全面に、あるいはその一部に、任意の形態で、前駆層を精度よく形成することができる。例えば、複雑な形状の配線パターンに対応した前駆層を簡便かつ精度良く形成することができる。また、かかる印刷技術を利用すると、例えば、基板10の一方の表面に対して面積率70%以上もの広い領域に、任意の形態で銅ペーストを少ない工程で簡便に塗布することができる。所望の配線パターンにもよるが、例えば、銅ペーストは、基板の80%以上、さらには90%以上の領域(例えば、ほぼ100%全面)に塗布することもできる。また、印刷技術を利用することで、比較的厚みのある前駆層を精密に形成することができる点においても好ましい。
【0054】
さらに、かかる銅ペーストの塗布は、基板10上に形成された前駆層の上に、さらに重ねて行うこともできる。前駆層の上にさらに銅ペーストを塗布する際には、連続的に(すなわち、先に形成した前駆層が乾燥しないうちに)行っても良いが、予め形成した前駆層を乾燥させてから2回目の塗布を行うようにしても良い。これにより、前駆層の厚みが厚くなっても前駆層がだれることなく、例えば、断面形状を略方形に好適に維持することができる。
なお、前駆層は、後述の焼成後に得られる第1放熱層22および放熱層20が所望の厚みとなるよう、厚みを調整することができる。したがって、例えば、基板10上に形成された前駆層の上面の一部にのみ、さらに銅ペーストを塗布するようにしても良い。また、例えば、前駆層が所望の厚みとなるまで複数回繰り返し銅ペーストを塗布するようにしても良い。前駆層の厚みは特に制限されないものの、例えば、焼成後に得られる放熱層20の総厚みが50μm以上700μm以下となるように厚みを調整することができる。
【0055】
[4.第2放熱層の構築]
次いで、上記で形成した前駆層の上に、第2放熱層24を構築する。前駆層は、必要に応じて乾燥させるようにしてもよい。かかる第2放熱層24の構築の手段は特に制限されず、上述のように塗布、めっき法、貼り付け等により、実質的に銅または銅合金からなる第2放熱層24を形成する。
例えば、塗布により第2放熱層24を構築する場合においては、例えば、銅または銅合金を固形分とする第2放熱層形成用ペーストを用意し、これを上記第1放熱層22の形成と同様に前駆層の上に塗布(供給)して、第2放熱層の前駆層を構築するようにしてもよい。
【0056】
また、例えば、貼り付けにより第2放熱層24を構築する場合においては、所望の形態の板材からなる第2放熱層24を用意し、これを前駆層の上に載置する。必要に応じて、載置した第2放熱層24を前駆層に押圧して密着させるようにしてもよい。ここで、板材の厚みは、所望の第2放熱層24の厚みとすることができる。したがって、板材はいわゆる箔状(シート状を包含する)のものであってもよい。これにより、簡便に第2放熱層24を構築することができる。
【0057】
さらに、例えば、めっき法により第2放熱層24を構築する場合において、めっき法の具体的な手法については特に限定されず、湿式めっき法、乾式めっき法のいずれをも採用することができる。湿式めっき法としては、無電解めっき法、電気めっき法等が挙げられる。乾式めっき法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法等が挙げられる。例えば、湿式めっき法を好ましく採用することができ、無電解めっき法がより好ましい。上記の各手法の具体的なめっき条件は、例えば、第2放熱層24の厚みが所望の範囲となるように、常法に基づいて適宜設定することができる。
【0058】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様として、無電解めっき法による銅めっきについて説明する。この方法ではまず、第2放熱層24を構成する銅または銅合金の組成に応じて、銅および必要に応じて他の金属元素を塩として含むめっき液を用意する。この銅めっき層は、実質的に(例えば、銅めっき層全体の95質量%以上が)銅成分からなるのが好ましい。めっき液としては、例えば、市販の無電解銅めっき液(例えば、硫酸銅溶液等)を用いることができる。上記めっき液は、典型的には、銅の塩(CuSO
4など)の他に、還元剤(HCHOなど),pH調整剤(NaOHなど),錯化剤(EDTAやロッシェル塩など),促進剤,安定剤(ビピリジル、ポリエチレングリコールなど)等の添加剤を含むことができる。そしてめっき液に、めっき対象である基板10を浸漬させ、めっき液を撹拌して馴染ませる。良質な膜としての第1放熱層22を形成するためには、予め、基板10を塩化パラジウム等へ浸漬させる等して表面の活性化処理(コンディショニング、プレディップ、キャタライズ、活性化等の各種の前処理を包含する)を行っておくことが好ましい。無電解めっきにおけるめっき条件(めっき浴中におけるCu濃度や温度、浸漬時間、pHその他)は所望のめっき厚みが好適に実現されるよう、適宜設定すればよい。例えば、30℃〜90℃程度に加温した所定濃度のめっき浴中に数分間〜1時間程度浸漬させることが例示される。めっき処理の後は、適宜洗浄や乾燥を行うことにより、第2放熱層24が備えられた基板10を得ることができる。
【0059】
[5.第1放熱層の焼成]
次いで、このように形成された前駆層と第2放熱層24とを備える基板10を適切な温度に保持することで、前駆層について脱脂処理および焼成処理を施すことができ、銅を主体としガラス成分を含む第1放熱層22を形成することができる。ここに開示される技術によると、前駆層におけるバインダとしてのガラス粉末の軟化点が低く抑えられているため、かかる焼成温度も当該軟化点以上の比較的低い温度に設定することができる。例えば、焼成は、475℃以上700℃以下の温度範囲で行うことができる。焼成の雰囲気は、焼成温度等に応じて選択でき、空気雰囲気、酸化性雰囲気、不活性ガス雰囲気(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)、還元性雰囲気あるいはこれらの混合雰囲気等から、適宜選択することができる。
【0060】
これにより、ここに開示される放熱性基板1を得ることができる。
なお、第1放熱層22は、ガラス成分を含んでいるため、第1放熱層22の形成に際して基板10と第2放熱層24との間に発生する熱応力を緩和し得る。したがって、放熱層20の表面(第2放熱層24の表面である)に、熱応力の集中に起因するたわみやクラックが発生するのが抑制され得る。これにより、基板10の表面に第2放熱層24を直接配置した場合と比較して、表面の平坦性に優れた放熱層20が、熱応力の発生を低減された状態で、基板10に密着性良く形成された放熱性基板1を製造することができる。換言すると、セラミックスからなる基板10に対し、高品質なメタライズ処理を行うことができる。
【0061】
なお、上記放熱層20は、第2放熱層24を板材により構築することで、例えば、極めて表面平坦性の高いものとして実現し得る。すなわち、このような表面平坦性の高い放熱性基板1によると、例えば、
図1に例示したように、半導体素子30を複数実装した場合に、当該複数の素子間をボンディングワイヤ40により配線する(電気的に接続する)ことに限定されず、例えば、板状電極42を載置することでも、半導体素子30間のコンタクトを実現することができる。また、この放熱性基板1は、半導体素子30が実装されていない側(例えば、裏面)の放熱層20の表面に、さらに放熱フィン50を設けることもできる。これにより、例えばサーマルビア(図示せず)等を通じて放熱性基板1の裏面からも効果的に放熱を行うことができる。
【0062】
以上の放熱性基板1においては、セラミックスからなる基板に対して放熱性および接合性に優れた放熱層が備えられ、例えば、−40℃〜250℃という温度変化の激しい環境においても、基板からメタライズ層が剥離するのを好適に抑制することができる。すなわち、放熱性に優れるとともに、温度変化に対する信頼性の高い放熱性基板が提供される。例えば、窒化物系セラミックスからなる基板は、優れた機械的特性を備えるとともに、Si,SiC,GaN,GaAs等の半導体と近い熱膨張係数を有し、それ自体も熱伝導性(すなわち放熱性)に優れ、高絶縁耐圧を備えている。したがって、ここに開示される放熱性基板を窒化物系セラミックスにより構成することで、例えば、大型のSiチップを回路上に直接接合することが可能とされる。また、従来の放熱性基板と比較してより低温で製造することができ、実装コストや熱抵抗の低減をより一層図ることができる。なお、かかる放熱性基板によると、高い放熱性を有しながらも毒性のある材料を含むBeO基板との代替が可能となる点でも好ましい。
【0063】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
[放熱性基板の製造]
基板として、日立金属アドメット(株)製の窒化ケイ素(Si
3N
4)基板(寸法:3.5cm×3.5cm)を用意した。なお、この窒化ケイ素基板の表面粗さを、表面粗さ測定器(株式会社東京精密、surfcom120A)を用い、JIS B 0601:2001に準拠し、測定長を8mmとして測定したところ、算術平均粗さ(Ra)は0.8μmであった。
【0064】
第1放熱層を形成するための銅ペーストを以下の手順で用意した。すなわち、まず、下記の表1に示す5とおりの組成のガラス粉末1〜5を用意し、平均粒径が1μmとなるよう調整した。そして、平均粒径が1μmの銅(Cu)粉末と、ガラス粉末とを、質量比で銅粉末:ガラス粉末が9:1となる割合でそれぞれ混合し、バインダとしてのエチルセルロース、溶剤としてのブチルジグリコールアセテート(BDGAC)と共に、三本ローラーで混練することで、銅ペーストを調製した。なお、銅ペーストは、用いたガラス粉末の組成に対応させて、銅ペースト1〜5と呼ぶ。また、本実施形態において、これら銅ペーストの粘度は、メタルマスク印刷に好適な約1000cps(25℃、1atm)となるよう、バインダおよび溶剤量を調整した。
【0066】
また、第2放熱層として、市販の厚み0.25mmの無酸素銅箔を用意した。
そして、上記で用意した基板に、銅ペースト1〜5を、メタルマスク印刷法により印刷した。印刷パターンは、10mm×10mmの方形とし、下記の銅箔の押圧後の厚みを30μmとするよう繰り返し印刷した。この印刷体上に上記の無酸素銅箔を載置し、押圧することで、無酸素銅箔を基板に付着させた。その後、かかる基板に対し、大気雰囲気下、200℃〜400℃で1時間保持する脱脂処理を施し、次いで、窒素雰囲気下、475℃〜700℃で約1時間の焼成を行った。なお、乾燥および焼成は、印刷体の厚みに応じて適切な時間となるよう調整した。これにより、放熱性基板1〜5を用意した。
参考のために、上記で用意した基板に銅ペースト4を印刷し、無酸素銅箔は貼り合わせないものを用意し、放熱性基板4’とした。また、比較のために、市販の銅メタライズ基板(日立金属アドメット株式会社製品)を用意し、放熱性基板6とした。
【0067】
(熱膨張係数)
また、上記で用意した銅ペースト1〜5を焼成して形成される焼成物の熱膨張係数を測定した。すなわち、まず、銅ペースト1〜5をそれぞれ試験片作成用セルに流し込み、25℃で硬化させたのち、7mm×7mm×50mmの角柱状にプレス成形し、1000℃で仮焼きした。仮焼き後の焼成物を、ダイヤモンドカッターにより断面の一辺の長さが4mmで、長さが20mmの角柱状に切り出して試験片とした。熱膨張係数は、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用い、大気中、昇温速度10℃/分とし、室温(25℃)〜500℃の温度範囲における試験片の長さを、示差膨張方式にて測定した平均線膨張率である。かかる熱膨張係数の測定は、JIS R 1618:2002のファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法に準じて実施した。その結果を表2の「CTE」の欄に示した。
【0068】
(体積抵抗率)
これらの放熱性基板1〜6および4’について、形成した放熱層の体積抵抗率を、25℃において、株式会社三菱化学アナリテック製の抵抗率計(型式:ロレスタGP MCP−T610)を用いて4端子4探針法で測定した。結果を表2の「抵抗率」の欄に示した。
【0069】
(表面粗さ)
これらの放熱性基板1〜6および4’について、焼成処理後の第1放熱層またはメタライズ層の表面粗さを、上記と同様の表面粗さ測定器を用いて測定した。表面粗さは、JIS B 0601:2001に準拠し、測定長を8mmとして、算術平均粗さ(Ra)を測定した。その結果を表2に示した。
【0070】
(ヒートサイクル耐性)
また、これらの放熱性基板1〜6および4’について、−40℃に冷却した後、250℃にまで加熱するヒートサイクルを1000サイクル施した後に、放熱層に剥離が生じたかどうかを目視により観察した。その結果を表2の「ヒートサイクル耐性」の欄に示した。
【0072】
(評価)
ガラス粉末1〜4については、ガラス組成にBaOとZnOとが合計量で多く含まれていることからガラス軟化点が低下されており、特にBaOを多く含むガラス粉末1および2についてはガラス軟化点が380℃前後と低い値となった。ガラス粉末5については、ガラス組成にSiO
2が多く、ガラス軟化点が比較的高い値となった。そしてこれらのガラス粉末を用いて作製した銅ペースト1〜5により得られる焼成物、すなわち第1放熱層の熱膨張係数は、ペーストに使用したガラス粉末のBaO,ZnOおよびSiO
2の割合により概ね調整できることが確認された。
また、放熱性基板1〜5および4’の放熱層表面は、いずれも市販の放熱性基板6の表面よりも平坦であることが確認された。なお、放熱性基板1〜5の放熱層表面は全て同じ銅箔により構成されているが、銅ペースト5を使用した放熱性基板5は表面粗さが0.8μmであったのに対し、銅ペースト1,2,4を使用した放熱性基板1,2,4は表面粗さが0.3μm未満、銅ペースト3を使用した放熱性基板3は表面粗さが0.4μmと、極めて平坦となった。
【0073】
このことから、銅ペーストに用いたガラス粉末の組成により第1放熱層の接合性に差が生じ、用いるガラス粉末の軟化点やペースト焼成物の熱膨張係数が比較的小さいことで、放熱層全体の表面の平坦性を高められる傾向にあることが確認できた。かかる点において、第1放熱層の熱膨張係数は、14×10
−6/K以下であること、好ましくは13×10
−6/K以下、より好ましくは12×10
−6/K以下、さらには11×10
−6/K以下(例えば10×10
−6/K以下)であることが好ましいことがわかった。
【0074】
そして放熱層の体積抵抗率については、放熱層に絶縁体であるガラス粉末を含みながらも、放熱性基板5を除いて、5μΩ・cm未満という値が得られ、表面の導電性に優れた放熱性基板が得られたことが確認できた。なお、放熱性基板5については、第1放熱層に配合したガラス粉末5の軟化点が比較的高かったことから、第1放熱層の形成時に銅粉末間の接合形態が良好でなく、コンタクト性に劣る等の影響があったと推察される。したがって、放熱層の体積抵抗率をより低くしたければ、より高温での処理が必要となると考えられる。しかしながら、放熱性基板5についても、体積抵抗率が10μΩ・cmという比較的低い値が得られていることは特筆すべきである。
【0075】
ヒートサイクル試験に関し、放熱性基板1〜4および4’については、−40℃〜250℃という広い温度範囲でのヒートサイクルの後にも、基板とメタライズ層の剥離や、クラックの発生は確認されず、良好な接合状態が維持されることが確認できた。これに対して、放熱性基板5については、ヒートサイクルにより微細なクラックの発生が確認された。これは、第1放熱層に添加したガラス粉末5の軟化点が高く、接合時の熱処理により良好な接合を形成できなかったことや、ガラス粉末5の熱膨張係数が比較的高いためにヒートサイクルにより基板との界面に熱応力(残留応力を含む)が発生したことによるものと考えられた。市販の放熱性基板6については、ヒートサイクルにより、放熱層の剥離が生じてしまった。これは、基板と銅メタライズ層とで熱膨張係数が大きく異なることから、繰り返しのヒートサイクルにより、基板と銅メタライズ層との接合が破断されたものと考えられた。
【0076】
以上のことから、ここに開示される放熱性基板によると、−40℃〜250℃という広い温度範囲でのヒートサイクルにより放熱層が剥離することのない放熱性基板が得られることがわかった。また、第1放熱層に含まれるガラス粉末の組成を調整することで、さらにヒートサイクル耐性を向上させたり、放熱層の体積抵抗率を低下させたりできることもわかった。
また、ここに開示される放熱性基板の製造方法によると、形状(パターン)や厚みを任意に設計して、抵抗率の低い放熱層を簡便に形成することができる。したがって、セラミック基板上に任意のパターンおよび厚みで、電極として使用し得る放熱層を形成することができる。かかる放熱層を備える放熱性基板によると、例えば、複数の半導体素子を実装した場合に、半導体素子間にワイヤボンディングにより電極を形成することに代えて、それらの半導体素子上に電極板を載置することで、当該素子間の導通を確保することが可能とされる。すなわち、ここに開示される放熱性基板は、新たな半導体素子構造の実現を可能とするものとなり得る。以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。