(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施の形態>
<ガスセンサの概略構成>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るガスセンサ100(100A)の構成の一例の概略図である。
図1(a)は、ガスセンサ100(100A)の主たる構成要素であるセンサ素子101(101A)の長手方向(以下、素子長手方向)に沿った垂直断面を含む、ガスセンサ100Aの構成図である。また、
図1(b)は、
図1(a)のA−A’位置における素子長手方向に垂直な断面についての概略断面図である。
【0026】
本実施の形態に係るガスセンサ100は、いわゆる混成電位型のガスセンサである。ガスセンサ100は、概略的にいえば、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質たるセラミックスを主たる構成材料とするセンサ素子101の内部に設けた検知電極43と基準電極50との間に、混成電位の原理に基づいて両電極近傍における測定対象たるガス成分の濃度の相違に起因して電位差が生じることを利用して、被測定ガス中の当該ガス成分の濃度を求めるものである。
【0027】
特に、本実施の形態に係るガスセンサ100は、ディーゼル乗用車に搭載されてなるエンジンの排気管内に存在する排ガスを被測定ガスとし、該被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度を、好適に求めるためのものである。なお、本明細書において、未燃炭化水素ガスには、C
2H
4、C
3H
6、n−C8などの典型的な炭化水素ガス(化学式上、炭化水素に分類されるもの)に加えて、一酸化炭素(CO)や水素も含むものとする。なお、被測定ガス中に複数種類の未燃炭化水素ガスが存在する場合は、検知電極43と基準電極50の間に生じる電位差はそれら複数種類の未燃炭化水素ガスの全てが寄与した値となるので、求められる濃度値も、それら複数種類の未燃炭化水素ガスの濃度の総和となる。
【0028】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有し、かつ、主としてそれらの層間あるいは素子外周面に検知電極43や基準電極50を初めとする他の構成要素を設けてなるものである。なお、それら6つの層を形成する固体電界質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0029】
また、センサ素子101は、
図1(a)に示すように、その一の表面となる第2固体電解質層6の上面に表面保護層60を備えていてもよい(なお、
図1(b)では表面保護層60の図示を省略している)。表面保護層60は、第2固体電解質層6の上面に設けられた、アルミナからなる多孔質層である。表面保護層60は、ガスセンサ100による未燃炭化水素ガスの検知に悪影響を及ぼす被測定ガス中の浮遊粒子や金属元素等を付着あるいは捕捉するために設けられてなる。ただし、表面保護層60は、被測定ガスの拡散を律速することのない気孔率および気孔径を有するように形成されてなる。
【0030】
センサ素子101の一先端部側であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、第1ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、第1内部空所20と、第2拡散律速部30と、第2内部空所40とが備わっている。すなわち、センサ素子101はいわゆる直列2室構造型のセンサ素子である。さらに、第1拡散律速部11と第1内部空所20との間には、緩衝空間12と、第3拡散律速部13とが設けられていてもよい。第1ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第3拡散律速部13と、第1内部空所20と、第2拡散律速部30と、第2内部空所40とは、素子長手方向においてこの順に連通する態様にて隣接形成されてなる。第1ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位を、主ガス流通部とも称する。
【0031】
第1ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40とはいずれも、上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されてなる。
【0032】
第1拡散律速部11、第2拡散律速部30、第3拡散律速部13はいずれも、2本の横長の(
図1(a)において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。
【0033】
また、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間51が設けられてなる。基準ガス導入空間51は、上部をスペーサ層5の下面で、下部を第3基板層3の上面で、側部を第1固体電解質層4の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間51には、基準ガスとして大気が導入される。
【0034】
第1ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該第1ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれる。
【0035】
第1拡散律速部11は、第1ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0036】
緩衝空間12は、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことを目的として設けられる。なお、センサ素子101が緩衝空間12を備えるのは必須の態様ではない。
【0037】
第3拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。第3拡散律速部13は、緩衝空間12が設けられることに付随して設けられる部位である。
【0038】
緩衝空間12および第3拡散律速部13が設けられない場合は、第1拡散律速部11と第1内部空所20とが直接に連通する。
【0039】
第1内部空所20は、第1ガス導入口10から導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。係る酸素分圧は、酸素ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0040】
酸素ポンプセル21は、第1内部空所20を区画する第1固体電解質層4の上面、第2固体電解質層6の下面、および、スペーサ層5の側面のそれぞれのほぼ全面に設けられた内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の内側ポンプ電極22と対応する領域に設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とを含んで構成される電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、平面視矩形状の多孔質サーメット電極(例えば、0.1wt%〜30.0wt%のAuを含むPtなどの貴金属とZrO
2とのサーメット電極)として形成される。
図1(a)に示すように表面保護層60が設けられる場合、外側ポンプ電極23は表面保護層60によって保護される。
【0041】
酸素ポンプセル21においては、センサ素子101外部に備わる可変電源24によりポンプ電圧Vpを印加して、外側ポンプ電極23と内側ポンプ電極22との間にポンプ電流Ipを流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20内に汲み入れることが可能となっている。
【0042】
第2拡散律速部30は、第1内部空所20から第2内部空所40に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0043】
第2内部空所40は、第2拡散律速部30を通じて導入された該被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度測定に係る処理を行うための空間として設けられる。
【0044】
第2内部空所40には、第2固体電解質層6を貫通する第2ガス導入口41Aが連通してなるほか、酸素モニタ電極42と、検知電極43とが設けられてなる。
【0045】
第2ガス導入口41Aは、被測定ガスを、所定の拡散抵抗の下で外部空間から直接に第2内部空所40に導入するために、第1ガス導入口10から続く主ガス流通部とは別に設けられてなる柱状の貫通孔である。第2ガス導入口41Aは、外部空間と第2内部空所40とを直接に連通させるべく設けられてなる。第2ガス導入口41Aは、第2内部空所40の素子長手方向の中ほど、かつ、素子幅方向(
図1(b)における図面視左右方向)の中ほどに、センサ素子101の厚み方向(各層の積層方向)に沿って設けられるのが好適である。第2ガス導入口41Aの断面形状は、円形を含む楕円形もしくは矩形を含む多角形のいずれであってもよい。
【0046】
なお、上述したように、ガスセンサ100においては、第2固体電解質層6の上面に表面保護層60が設けられる場合がある。しかしながら、表面保護層60は被測定ガスに対し実質的に拡散抵抗を与えないので、係る場合においても、第2ガス導入口41Aは外部空間と第2内部空所40とを直接に連通させているとみなしてよい。それゆえ、第2ガス導入口41Aから導入される被測定ガスは、実質的に第2ガス導入口41Aが与える拡散抵抗のみに律速される。
【0047】
酸素モニタ電極42は、第2内部空所40における酸素濃度(酸素分圧)をモニタリングするために設けられてなる電極である。酸素モニタ電極42は、Ptとジルコニアとの多孔質サーメットからなる平面視矩形状の電極として形成される。
【0048】
なお、
図1(a)においては、第2内部空所40における酸素モニタ電極42の配置位置が、第2拡散律速部30の近傍であって第2内部空所40の下面(第1固体電解質層4の上面)に設けられているが、酸素モニタ電極42の配置はこれに限定されるものではない。
【0049】
検知電極43は、被測定ガスを検知するための電極である。検知電極43は、Auを所定の比率で含むPt、つまりはPt−Au合金と、ジルコニアとの多孔質サーメット電極として形成されてなる。係る検知電極43は、第2内部空所40において、第2ガス導入口41Aよりも第2拡散律速部30から遠い位置に設けられてなる。
【0050】
検知電極43は、その構成材料たるPt−Au合金の組成を好適に定めることによって未燃炭化水素ガスに対する触媒活性が不能化されてなる。つまりは、検知電極43での未燃炭化水素ガスの分解反応を抑制させられてなる。これにより、ガスセンサ100Aにおいては、検知電極43の電位が、当該未燃炭化水素ガスに対して選択的に、その濃度に応じて変動する(相関を有する)ようになっている。換言すれば、検知電極43は、未燃炭化水素ガスに対しては、電位の濃度依存性が高い一方で、他の被測定ガスの成分に対しては電位の濃度依存性が小さいという特性を有するように、設けられてなる。
【0051】
また、検知電極43の下方であって、第3基板層3と第1固体電解質層4の間には、基準電極50が備わっている。基準電極50は、外側ポンプ電極23等と同様の多孔質サーメットからなる平面視略矩形状の電極である。基準電極50の周囲には、多孔質アルミナからなり、基準ガス導入空間51に連通する基準ガス導入層52が設けられてなり、基準電極50の表面に基準ガス導入空間51の基準ガスが導入されるようになっている。
【0052】
基準電極50は、酸素モニタ電極42および検知電極43における電位の基準として用いられる。具体的には、第2内部空所40の雰囲気(より厳密には酸素モニタ電極42周りの雰囲気)における酸素濃度と基準ガスにおける酸素濃度との差異に応じて生じる酸素モニタ電極42と基準電極50との電位差Vmが、第2内部空所40における被測定ガス中の酸素濃度(酸素分圧)を所定の値に制御するために用いられる。また、第2内部空所40の雰囲気(より厳密には検知電極43周りの雰囲気)における未燃炭化水素ガス濃度と基準ガスにおける未燃炭化水素ガス濃度との差異に応じて生じる検知電極43と基準電極50との電位差Vs(検知電極Emfとも称する)が、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度を算出するために用いられる。
【0053】
センサ素子101は、さらに、ヒータ部70を備える。ヒータ部70は、ヒータ71と、ヒータ絶縁層72と、圧力放散孔73とを主として備える。
【0054】
ヒータ71は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれる態様にて形成されてなる。ヒータ71は、第1基板層1の下面に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることより発熱する。ヒータ71が発熱することによって、センサ素子101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。ヒータ71は、少なくとも第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、
図1(a)においては基準導入ガス空間51に至る範囲にまで設けられてなる。ヒータ71を備えることにより、ガスセンサ100においては、センサ素子101の所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。ヒータ71は、センサ素子101の長手方向に対して蛇行するように(ミアンダ状に)設けられてなる。
【0055】
ヒータ絶縁層72は、第2基板層2および第3基板層3とヒータ71との電気的絶縁性を得る目的でヒータ71の上下面に設けられた層であり、例えばアルミナ等からなる。
【0056】
圧力放散孔73は、第3基板層3を貫通し、ヒータ絶縁層72と基準ガス導入空間51とを連通するように形成されてなる部位であり、ヒータ絶縁層72内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で設けられてなる。
【0057】
<未燃炭化水素ガス濃度の特定>
以上のような構成を有するガスセンサ100(100A)を用いて、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスを検知し、その濃度を求めるにあたっては、センサ素子101(101A)が、未燃炭化水素ガスのほか、酸素、水蒸気(H
2O)、窒素などの不燃性ガスその他を含んでなる被測定ガスの雰囲気下に配置される。すると、第1ガス導入口10および第2ガス導入口41Aからセンサ素子101(101A)の内部へと被測定ガスが導入される。
【0058】
第1ガス導入口10からセンサ素子101(101A)の内部に導入された被測定ガスは、第1拡散律速部11あるいはさらに第3拡散律速部13により所定の拡散抵抗が付与されたうえで、第1内部空所20に到達する。
【0059】
第1内部空所20においては、酸素ポンプセル21が作動し、外部空間からの酸素の汲み入れもしくは外部空間への酸素の汲み出しを行うことによって、第1内部空所20に存在する被測定ガス、つまりは第2拡散律速部30を通じて第2内部空所40に流入する被測定ガスの酸素濃度(酸素分圧)が調整される。本実施の形態においては、係る酸素濃度(酸素分圧)の調整を、第2内部空所40における酸素濃度(酸素分圧)が1vol%以上の所定の値(酸素濃度目標値)に保たれるように(酸素分圧が1×10
−2atm以上の所定の値(酸素分圧目標値)に保たれるように)行うものとする。酸素濃度目標値は、例えば10vol%とされる。
【0060】
ここで、第2内部空所40における酸素濃度を1vol%以上とするのは(酸素分圧を1×10
−2atm以上とするのは)、検知電極43において未燃炭化水素ガス濃度に応じて生じる混成電位の酸素濃度依存性を、未燃炭化水素ガス濃度の算出に影響が生じない程度にまで低めるためである。
【0061】
また、1vol%以上という酸素濃度は、いわゆるストイキ組成における酸素濃度よりも大きく、例えばディーゼル乗用車に搭載されてなるエンジンがリーン運転状態にある場合に生じる排ガスの酸素濃度範囲(1vol%〜20vol%程度)に相当する。
【0062】
実際の酸素の汲み入れもしくは汲み出しは、第2内部空所40に設けられた酸素モニタ電極42と基準電極50との電位差Vmの目標値を、第2内部空所40において実現したい酸素濃度(酸素分圧)に相当する所定の値にあらかじめ定めておいたうえで、可変電源24に、酸素ポンプセル21に印加するポンプ電圧Vpもしくは酸素ポンプセル21を流れるポンプ電流Ipを実際の電位差Vmの値と目標値との差異に応じて制御させることによって、実現される。
【0063】
なお、第2内部空所40においては第2ガス導入口41Aからも被測定ガスが流入するので、第2内部空所40における酸素濃度(酸素分圧)の調整は、第2ガス導入口41Aから流入した被測定ガス中の酸素をも対象としてなされることになるが、センサ素子101は、後述するように、第2内部空所40へのガスの流入は、第2ガス導入口41Aを通じた直接のものよりも第1ガス導入口10から第1内部空所20を経由する主ガス流通部からの方が支配的となるように構成されてなる。それゆえ、酸素ポンプセル21は、実質的には、第1内部空所20における酸素濃度(酸素分圧)を酸素濃度目標値(酸素分圧目標値)に近づけるように、酸素の汲み入れもしくは汲み出しを行うこととなる。
【0064】
このように第1内部空所20における酸素濃度をストイキ組成よりも高い酸素濃度目標値近傍の値とすることから、第1内部空所20に存在する未燃炭化水素ガスは、第1内部空所20に存在する酸素と反応することによって(燃焼することによって)消失する。従って、第2拡散律速部30を通じて第1内部空所20から第2内部空所40に流入するのは、酸素濃度(酸素分圧)が所定の値に調整されてなる一方で、未燃炭化水素ガスを含まないガス(以下、燃焼済みガスと称する)となる。それゆえ、第2内部空所40において存在するのは、濃度一定の酸素と、第2ガス導入口41Aから直接に流入する被測定ガスに含まれる酸素以外のガス成分ということになる。これはすなわち、ガスセンサ100においては、酸素濃度一定という条件のもとで、第2ガス導入口41Aから流入する被測定ガスに含まれる未燃炭化水素の濃度を求めるようになっている、ということを意味している。
【0065】
以上のような態様にて被測定ガスおよび燃焼済みガスが流入する第2内部空所40においては、検知電極43において周囲の雰囲気ガスに応じた混成電位が発生する。そして、検知電極43と基準ガス雰囲気下に配置されてなる基準電極50との間には、両者の近傍における雰囲気の相違に応じた電位差Vsが生じる。ただし、上述のように、酸素濃度一定の基準ガス(大気)雰囲気下に配置されてなる基準電極50の電位は一定に保たれており、また、検知電極43においては、混成電位の酸素濃度依存性が低められており、さらには、検知電極43の電位は、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスに対して選択的に濃度依存性を有するものとなっている。それゆえ、検知電極43と基準電極50との電位差Vsは実質的に、検知電極43の周囲に存在する被測定ガスの組成に応じた値となる。それゆえ、未燃炭化水素ガス濃度と、電位差Vsとの間には一定の関数関係(これを感度特性と称する)が成り立つ。
【0066】
そこで、あらかじめ、それぞれの未燃炭化水素ガス濃度が既知である相異なる複数の混合ガスを被測定ガスとして、電位差Vsを測定することで、感度特性を実験的に特定しておく。これにより、ガスセンサ100を実使用する際には、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度に応じて時々刻々変化する電位差Vsを、図示しない演算処理部において感度特性に基づき未燃炭化水素ガス濃度に換算することによって、被測定ガス中の未燃炭化水素ガス濃度をほぼリアルタイムで求めることが可能となる。
【0067】
ただし、実際に未燃炭化水素ガス濃度の算出を精度よく行うには、第2ガス導入口41Aを通じて直接に第2内部空所40へと流入し検知電極43の近傍へと到達する被測定ガスの流量と、主ガス流通部から流入する酸素濃度がほぼ酸素濃度目標値近傍の値とされた燃焼済みガスの流量とを、好適にバランスさせる必要がある。係るバランスは、第1ガス導入口10から検知電極43に到達するまでの間に燃焼済みガスが受ける拡散抵抗(これをD1とする)に対する、第2ガス導入口41Aを通じて流入する被測定ガスが検知電極43に到達するまでの間に受ける拡散抵抗(これをD2とする)の比D2/D1の大小によって、評価が可能である。なお、より詳細には、拡散抵抗D1は、
図1の第1ガス導入口10の先端位置Pから検知電極43の配置位置Qまでの間の拡散抵抗であり、拡散抵抗D2は、第2ガス導入口41Aの先端位置Rから検知電極43の配置位置Qまでの間の拡散抵抗である。
【0068】
比D2/D1の値が小さすぎると、燃焼済みガスの流入量に対して第2ガス導入口41Aからの被測定ガスの流入量が大き過ぎることとなって、第2内部空所40における酸素濃度が変動しやすくなって酸素濃度目標値となるように制御するのが困難となる。一方、比D2/D1の値が大きすぎると、燃焼済みガスの流入量に対して被測定ガスの流入量が小さ過ぎることとなって、第2内部空所40に導入される未燃炭化水素ガスの絶対量が少なくなり、十分な感度が得られなくなる(電位差Vsの値が小さ過ぎる)。いずれの場合も、未燃炭化水素濃度の算出精度が劣化してしまう可能性が高まるため、好ましくない。
【0069】
本実施の形態においては、3.5≦D2/D1≦6をみたすようにセンサ素子101を構成した場合に、酸素濃度の制御性に優れ、かつ、未燃炭化水素ガスの検出感度に優れたガスセンサ100が実現される。
【0070】
表1は、拡散抵抗比D2/D1の値を種々に違えて作製した全7種のガスセンサ100について、酸素濃度(O
2濃度)の制御性と未燃炭化水素ガスの出力感度(HC出力感度)とを評価した結果を示したものである。具体的には、未燃炭化水素として1000ppmのC
2H
4を含む一方で酸素濃度(外部O
2濃度)を1vol%〜20vol%の範囲で種々に違えた被測定ガスを用意し、それぞれのガスセンサ100を作動させたときの評価結果を示している。
【0072】
表1においては、第2内部空所40において実現しようとする酸素濃度(目標値)の±10%以内の値に実際の酸素濃度が収まっている場合に、酸素濃度の制御性が優れていると判断し、「O
2濃度制御性」の欄に○印を付している。また、○印の要件は満たさないものの当該目標値の±20%以内の値に実際の酸素濃度が収まっている場合については、「O
2濃度制御性」の欄に△印を付し、いずれにも当てはまらない場合には「O
2濃度制御性」の欄に×印を付している。
【0073】
一方で、出力感度については、150mVを検知電極Emfの目標値(感度目標値)として設定し、検知電極Emfが係る感度目標値以上となった場合に、未燃炭化水素ガスの出力感度が優れていると判断し、「HC出力感度」の欄に○印を付している。また、
検知電極Emfが50mV以上150mV未満の場合について、「HC出力感度」の欄に△印を付し、50mV未満の場合については「HC出力感度」の欄に×印を付している。
【0074】
また、
図2は、上述した7種のガスセンサ100のうちの3種について、検知電極43と基準電極50との電位差である検知電極Emfの値の、外部O
2濃度に対する依存性を示す図である。
【0075】
図2においては、拡散抵抗比D2/D1の値が2.0、5.3、および7.9の場合が例示されている。
【0076】
表1および
図2に示す結果からは、3.5≦D2/D1≦6をみたすことで、酸素濃度の制御性に優れ、かつ、未燃炭化水素ガスの検出感度に優れたガスセンサ100が実現されることが確認される。
【0077】
一方、
図3は、第2内部空所40における酸素濃度制御の効果を例示する図である。具体的には、
図3は、拡散抵抗比D2/D1を5.3とした一のガスセンサ100について、被測定ガスの条件を
図2に示した場合と同じとしつつ、上述した態様にて第2内部空所40における酸素濃度を制御した場合と、制御しなかった場合のそれぞれについて、検知電極Emfの値の外部O
2濃度に対する依存性を示している。
【0078】
図3に示す結果からは、第2内部空所40における酸素濃度が一定となるように制御することで、ガスセンサ100においては、外部O
2濃度によらず、安定した検知電極Emfが得られることが確認される。
【0079】
さらに、
図4は、
図3と同じガスセンサ100についての、外部O
2濃度および未燃炭化水素ガス濃度(HC濃度)を種々に違えたときの、HC濃度と検知電極Emfの値との関係を例示する図である。
図4においては、外部O
2濃度によらずHC濃度と検知電極Emfとの対応関係がほぼ同じとなっている。これはすなわち、ガスセンサ100の感度特性は外部O
2濃度が異なってもほぼ同じに保たれることを意味している。係る
図4の結果からは、本実施の形態に係るガスセンサ100によれば、外部O
2濃度が異なっても精度よく未燃炭化水素ガス濃度を求めることができることが確認される。
【0080】
なお、拡散抵抗D1の値は、主ガス流通部の構造(各拡散律速部の構造および第3拡散律速部13の配置の有無など)に応じたものとなるが、拡散抵抗D2の値は第2ガス導入口41Aの拡散抵抗(これをD2αとする)でほぼ定まる。係る拡散抵抗D2αの値は、先端位置Rから第2内部空所40までの距離Lと、第2ガス導入口41Aの断面積Sに依存する値である。具体的には、拡散係数(定数)をD0とするときに、D2α=D0・(L/S)の関係が成り立つ。ここで、距離Lは、第2固体電解質層6の厚みに相当する値であることから、その取り得る値は、第2固体電解質層6が取り得る値に一致する。具体的には、50μm〜350μm程度の値を取り得る。一方、断面積Sの取り得る値は、約2.0×10
−7cm以上となる。最小値は、約5μm径の円形断面を有するように第2ガス導入口41Aを形成した場合の値に相当する。
【0081】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサに備わる、素子長手方向に連通する2つの内部空所を備える直列2室構造型のセンサ素子に、第1ガス導入口から第2内部空所に至る主ガス流通部とは別に第2内部空所と外部空間とを直接に連通させる第2ガス導入口を設けるとともに、第2内部空所に酸素モニタ電極と未燃炭化水素ガスを選択的に検知する検知電極を設けるようにする。その際には、第1ガス導入口から検知電極に到達するまでの間に燃焼済みガスが受ける拡散抵抗D1に対する、第2ガス導入口を通じて流入する被測定ガスが検知電極に到達するまでの間に受ける拡散抵抗D2との比D2/D1が、3.5≦D2/D1≦6をみたすようにする。そして、第1内部空所に設けた酸素ポンプセルによって酸素を汲み入れることにより、酸素モニタ電極と基準電極との電位差に基づき第2内部空所の酸素濃度を1vol%以上の所定の値に制御した状態で、第2ガス導入口から導入される被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度に応じて生じる検知電極と基準電極との電位差と、あらかじめ特定しておいた未燃炭化水素ガス濃度と当該電位差との関係に基づいて、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度を求めるようにする。これにより、酸素濃度が1vol%〜20vol%程度という、ディーゼル乗用車に搭載されたエンジンからの排ガス中に存在する未燃炭化水素ガスの濃度を、酸素濃度の影響を受けずに精度よく求めることができる。
【0082】
<酸素モニタ電極の配置位置の変形例>
図1(a)においては、酸素モニタ電極42が、第2ガス導入口41Aよりも第2拡散律速部30に近い位置(上流側の位置)であって第2内部空所40の下面(第1固体電解質層4の上面)に設けられているが、酸素モニタ電極42の配置はこれに限定されるものではない。例えば、素子長手方向における位置は
図1(a)に示す場合と同じとしつつも、第2内部空所40の上面(第2固体電解質層6の下面)側に、酸素モニタ電極42が設けられてなる態様であってもよい。
【0083】
また、
図5は、さらに異なる位置に酸素モニタ電極42が配置されたセンサ素子101(101B)を備えるガスセンサ100(100B)の構成図である。
図5に示すセンサ素子101Bにおいては、検知電極43よりも第2拡散律速部30から遠い位置(下流側の位置)であって第2内部空所40の下面(第1固体電解質層4の上面)に酸素モニタ電極42が設けられてなる。あるいはさらに、酸素モニタ電極42が、素子長手方向における位置は
図5に示す場合と同じとしつつも、第2内部空所40の上面(第2固体電解質層6の下面)に設けられてなる態様であってもよい。
【0084】
ただし、第2ガス導入口41Aと検知電極43の間に酸素モニタ電極42を設けるのは、第2ガス導入口41Aから導入される被測定ガス中に含まれる未燃炭化水素ガスが酸素モニタ電極42において燃焼してしまうため好ましくない。
【0085】
<第2の実施の形態>
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るガスセンサ150の構成の一例の概略図である。
図6(a)は、ガスセンサ150の主たる構成要素であるセンサ素子151の長手方向(素子長手方向)に沿った垂直断面を含む、ガスセンサ150の構成図である。また、
図6(b)は、
図6(a)のB−B’位置における素子長手方向に垂直な断面についての概略断面図である。
【0086】
上述した第1の実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子101は第2固体電解質層6を貫通して第2内部空所40に連通する第2ガス導入口41Aを備えているのに対し、本実施の形態に係るガスセンサ150のセンサ素子151は、
図6(b)からわかるように、スペーサ層5を素子幅方向(各層の積層方向に垂直な方向の1つ)に貫通して第2内部空所40と連通する第2ガス導入口41Bを備えてなる。その他の構成要素については、ガスセンサ100と同一であるので、第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明は省略する。なお、
図6(a)においてはガスセンサ150が
図1(a)に例示するガスセンサ100Aと同じ位置に酸素モニタ電極42が配置されてなる場合を例示しているが、第1の実施の形態と同様、酸素モニタ電極42の配置位置はこれに限られるものではない。
【0087】
第2ガス導入口41Bは、その形成位置が異なるほかは、第2ガス導入口41Aと同様の態様にて配置されてなるものである。また、ガスセンサ150においてもガスセンサ100と同様に拡散抵抗比D2/D1を定義することができ、3.5≦D2/D1≦6をみたすことで、酸素濃度制御性を良好に保ちつつ優れた検出感度が実現される。ただし、センサ素子151の場合、先端位置Rから第2内部空所40までの距離Lが取り得る値は、素子幅方向(素子長手方向および素子厚み方向に垂直な方向)における第2内部空所40のサイズに依存する。例えば、センサ素子151の素子幅方向のサイズが4.3mmであれば、当該方向における第2内部空所40のサイズは1mm〜2.3mm程度であるのが好適であるので、距離Lの取り得る値は900μm〜1650μm程度となる。断面積Sについては第1の実施の形態と同様である。
【0088】
すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ150においても、第1の実施の形態に係るガスセンサ100と同様に、3.5≦D2/D1≦6をみたすように第2ガス導入口41Bを設け、酸素ポンプセル21による酸素の組み入れによって第2内部空所の酸素濃度を1vol%以上の所定の値に制御した状態での検知電極と基準電極との電位差と、あらかじめ特定しておいた感度特性とに基づいて、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度を求めるようにすることで、ディーゼル乗用車に搭載されたエンジンからの排ガス中に存在する未燃炭化水素ガスの濃度を、酸素濃度の影響を受けずに精度よく求めることができる。
【0089】
<第3の実施の形態>
図7は、本発明の第3の実施の形態に係るガスセンサ200の構成の一例の概略図である。
図7(a)は、ガスセンサ200の主たる構成要素であるセンサ素子251の長手方向(素子長手方向)に沿った垂直断面を含む、ガスセンサ200の構成図である。また、
図7(b)は、
図7(a)のC−C’位置における素子長手方向に垂直な断面についての概略断面図である。
【0090】
上述した第1の実施の形態に係るガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20と第2内部空所40という2つの内部空所を備えているのに対し、本実施の形態に係るガスセンサ200のセンサ素子201は、
図7(a)からわかるように、第1内部空所20および第2内部空所40に加えて、第4拡散律速部80によって第2内部空所40と連通する第3内部空所90を備えている。第3内部空所90は、第1内部空所20や第2内部空所40などと同様、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。また、第4拡散律速部80は、第1拡散律速部11などと同様、2本の横長の(
図7(a)において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられてなる。
【0091】
さらには、センサ素子101においては第2内部空所40に酸素モニタ電極42および検知電極43を備えるとともに、第2ガス導入口41Aが第2内部空所40と連通する態様にて設けられているのに対し、本実施の形態に係るガスセンサ200のセンサ素子201は、第3内部空所90に検知電極93を備えるとともに、第2ガス導入口91Aを、第2固体電解質層6を貫通して第3内部空所90と外部空間とを連通させる態様にて備えてなる。その他の構成要素については、ガスセンサ100と同一であるので、第1の実施の形態と同一の符号を付してその説明は省略する。
【0092】
なお、酸素モニタ電極42はセンサ素子101と同じく第2内部空所40に配置されてなるが、
図7(a)においては酸素モニタ電極42が第2固体電解質層6の下面に配置されてなる場合を例示している。ただし、第1および第2の実施の形態と同様、酸素モニタ電極42の配置位置はこれに限られるものではない。
【0093】
本実施の形態の場合、電位差Vmに基づいて制御されるのは第1の実施の形態と同様、第2内部空所40における酸素濃度であるものの、第2ガス導入口91Aから被測定ガスが導入されるのは第3内部空所90となっており、かつ、両者の間には第4拡散律速部80が設けられている。それゆえ、センサ素子201においては、第2ガス導入口91Aから導入される被測定ガスの影響をほとんど受けることなく第2内部空所40において酸素濃度が調整されたガス(未燃炭化水素ガスを含まない燃焼済みガス)が、第4拡散律速部80を通じて第3内部空所90へと導入される。これにより、センサ素子201においては、検知電極93が備わる内部空所である第3内部空所90における酸素濃度の安定性が確保されてなる。
【0094】
一方で、ガスセンサ200においては、検知電極93と基準電極50の間の電位差Vsを利用して未燃炭化水素ガスの濃度が特定されるが、その特定の仕方は第1の実施の形態と同様である。
【0095】
また、ガスセンサ200においてもガスセンサ100と同様に拡散抵抗比D2/D1を定義することができ、3.5≦D2/D1≦6をみたすことで、酸素濃度制御性を良好に保ちつつ優れた検出感度が実現される。なお、第2ガス導入口91Aの距離Lおよび断面積Sの取り得る値は第1の実施の形態と同様である。
【0096】
すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ200においても、第1の実施の形態に係るガスセンサ100と同様に、3.5≦D2/D1≦6をみたすように第2ガス導入口91Aを設け、酸素ポンプセル21による酸素の組み入れによって第2内部空所の酸素濃度を1vol%以上の所定の値に制御した状態での検知電極と基準電極との電位差と、あらかじめ特定しておいた感度特性とに基づいて、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度を求めるようにすることで、ディーゼル乗用車に搭載されたエンジンからの排ガス中に存在する未燃炭化水素ガスの濃度を、酸素濃度の影響を受けずに精度よく求めることができる。
【0097】
<第4の実施の形態>
図8は、本発明の第4の実施の形態に係るガスセンサ250の構成の一例の概略図である。
図8(a)は、ガスセンサ250の主たる構成要素であるセンサ素子251の長手方向(素子長手方向)に沿った垂直断面を含む、ガスセンサ250の構成図である。また、
図8(b)は、
図8(a)のD−D’位置における素子長手方向に垂直な断面についての概略断面図である。
【0098】
上述した第3の実施の形態に係るガスセンサ200のセンサ素子201は第2固体電解質層6を貫通して第3内部空所90に連通する第2ガス導入口91Aを備えているのに対し、本実施の形態に係るガスセンサ250のセンサ素子251は、
図8(b)からわかるように、スペーサ層5を素子幅方向に貫通して第2内部空所90と連通する第2ガス導入口91Bを備えてなる。その他の構成要素については、ガスセンサ200と同一であるので、第3の実施の形態と同一の符号を付してその説明は省略する。なお、
図8(a)においてはガスセンサ250が
図7(a)に例示するガスセンサ200Aと同じ位置に酸素モニタ電極42が配置されてなる場合を例示しているが、第1ないし第3の実施の形態と同様、酸素モニタ電極42の配置位置はこれに限られるものではない。
【0099】
第2ガス導入口91Bは、その形成位置が異なるほかは、第2ガス導入口91Aと同様の態様にて配置されてなるものである。また、ガスセンサ250においてもガスセンサ200と同様に拡散抵抗比D2/D1を定義することができ、3.5≦D2/D1≦6をみたすことで、酸素濃度制御性を良好に保ちつつ優れた検出感度が実現される。なお、第2ガス導入口91Bの距離Lおよび断面積Sの取り得る値は第2の実施の形態と同様である。
【0100】
すなわち、本実施の形態に係るガスセンサ250においても、第3の実施の形態に係るガスセンサ200と同様に、3.5≦D2/D1≦6をみたすように第2ガス導入口91Bを設け、酸素ポンプセル21による酸素の組み入れによって第2内部空所の酸素濃度を1vol%以上の所定の値に制御した燃焼済みガスを第3内部空所90に導入するとともに、検知電極と基準電極との電位差と、あらかじめ特定しておいた感度特性とに基づいて、被測定ガス中の未燃炭化水素ガスの濃度を求めるようにすることで、ディーゼル乗用車に搭載されたエンジンからの排ガス中に存在する未燃炭化水素ガスの濃度を、酸素濃度の影響を受けずに精度よく求めることができる。
【0101】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、センサ素子101、151、201、および、251を製造するプロセスについて、その概要を説明する。
【0102】
概略的にいえば、それら4種のセンサ素子(以下、センサ素子101等とも称する)はいずれも、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによって作製される。酸素イオン伝導性固体電解質としては、例えば、イットリウム部分安定化ジルコニア(YSZ)などが例示される。また、その過程において、第2ガス導入口が所望の位置に形成される。
【0103】
センサ素子101等の製造プロセスには、第2ガス導入口の形成の仕方によって、3通りのものがある。以下、順次に説明する。
【0104】
(第1の態様)
図9は、第1の態様にてセンサ素子101等を作製する際の処理の流れを示す図である。まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を用意する(ステップS1)。具体的には、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、および、第2固体電解質層6に対応する6枚のブランクシートが用意される。併せて、表面保護層60を形成するためのブランクシートも用意される。ブランクシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101等の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない(第2および第3の態様においても同様)。
【0105】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、検知電極43および基準電極50などの電極パターンや、基準ガス導入層52や、図示を省略している内部配線などを形成するためのパターンが印刷形成される。その際には、それぞれの拡散律速部を形成するべく、その形成位置に、後工程(ステップS6)における焼成の際に分解する(当該焼成温度で分解する)低温分解材料を含むペーストによるパターンの形成も行われる。低温分解材料としては、例えば、テオブロミンやカーボンなどが例示される。併せて、第1基板層1に対しては、後工程において積層体を切断するときに切断位置の基準とされるカットマークも印刷される。
【0106】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0107】
パターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0108】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0109】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101等の個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。切り出された素子体を、所定の条件下で焼成する(ステップS6)。すなわち、センサ素子101等は、固体電解質層と電極との一体焼成によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1365℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子等においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0110】
次に、得られた焼成体の所定位置にレーザー光を照射することにより、第2ガス導入口41A、41B、91A、91Bを形成する(ステップS7)。これにより、上述のようなセンサ素子101等が作製される。なお、上述した断面積Sの下限値は、係る第1の態様のようにレーザー光照射にて第2ガス導入口41A、41B、91A、91Bを作製する場合に実現される。
【0111】
このようにして得られたセンサ素子101等は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100、150、200、および、250の本体(図示せず)に組み込まれる(第2及び第3の態様においても同様)。
【0112】
(第2の態様)
図10は、第2の態様にてセンサ素子101等を作製する際の処理の流れを示す図である。第2の態様の場合も、第1の態様と同様、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を用意する(ステップS1)。具体的には、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、および、第2固体電解質層6に対応する6枚のブランクシートが用意される。併せて、表面保護層60を形成するためのブランクシートも用意される。係る場合において、ブランクシートにシート穴や内部空間に対応する貫通部が設けられる点は、第1の態様と同じであるが、本態様においては、その際に、第2ガス導入口41A、41B、91A、もしくは91Bに対応する箇所についても打ち抜きを行うようにする(ステップS1a)。具体的には、センサ素子101もしくはセンサ素子201を作成する場合には、第2固体電解質層6に対応するブランクシートの第2ガス導入口41Aもしくは91Aの形成位置に対応する位置に、貫通孔を形成する。一方、センサ素子151もしくはセンサ素子251を作成する場合には、スペーサ層5に対応するブランクシートの第2ガス導入口41Bもしくは91Bの形成位置に対応する位置に、貫通孔を形成する。なお、この場合、スペーサ層5となるグリーンシートの厚みが打ち抜き厚みとなるが、そのままの状態で焼成を行った場合に得られる第2ガス導入口の断面積が大きくなりすぎて3.5≦D2/D1≦6なる要件をみたすことが難しい場合には、焼成工程に先立って貫通孔に多孔質材料を適宜に埋め込むことによって、3.5≦D2/D1≦6なる要件をみたすようにしてもよい。
【0113】
以降、ステップS2〜S6までは、第1の態様と同様の工程を行う。ステップ6によって焼成体が得られれば、所望の位置に第2ガス導入口41A、41B、91A、もしくは91Bが設けられたセンサ素子101等が作製されたことになる。
【0114】
(第3の態様)
図11は、第3の態様にてセンサ素子101等を作製する際の処理の流れを示す図である。第3の態様は、センサ素子151もしくはセンサ素子251の作成にのみ、適用が可能である。
【0115】
まず、第1の態様と同様に、6枚のブランクシートを用意する(ステップS1)。続いて、やはり第1の態様と同様に、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)が、その際、本態様においては、第1固体電解質層4となるグリーンシートの、その直上に第2ガス導入口41Bもしくは91Bが形成されることとなる位置に、第2ガス導入口41Bもしくは91Bの形状に合わせて、拡散律速部の形成に用いるものと同様の低温分解材料を含むペーストを塗布する(ステップS2a)。
【0116】
以降、ステップS2〜S6までは、第1の態様と同様となる。ステップ6によって焼成体が得られれば、所望の位置に第2ガス導入口41Bもしくは91Bが設けられたセンサ素子151もしくは251が作製されたことになる。