【文献】
N. Engl. J. Med.,2011年,Vol.364,pp.1134-1143
【文献】
Pharmacogenetics and Genomics,2012年 3月,Vol.22,pp.441-446
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
日本人又は漢民族において、HLA−A*31:01を特徴づける1またはそれ以上の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいてHLA−A*31:01の存在の有無を判定することを特徴とする、HLA−A*31:01の検出方法であって、少なくともrs41541222(配列番号3の61番目の塩基の一塩基多型)、rs1059471(配列番号4の61番目の塩基の一塩基多型)、rs1059457(配列番号5の61番目の塩基の一塩基多型)、およびrs41562315(配列番号6の61番目の塩基の一塩基多型)から選択される1またはそれ以上の一塩基多型が分析され、そのうち、少なくともrs41562315が分析される、HLA−A*31:01の検出方法。
rs41562315、rs41541222、およびrs1059457の組み合わせ、またはrs41562315、rs1059457、およびrs1059471の組み合わせが分析される、請求項1または2に記載の方法。
下記(A)および(B)を含む配列特異的プライマーセットであって、第1の一塩基多型がrs41541222またはrs1059457であり、第2の一塩基多型がrs41562315である、日本人又は漢民族におけるHLA−A*31:01検出用の配列特異的プライマーセット:
(A)配列番号1に示す塩基配列またはその相補配列におけるHLA−A*31:01を特徴づける第1の一塩基多型を3’末端に有する10塩基以上の長さの配列を含み、且つ、該一塩基多型をプライマーの3’末端に有する第1のプライマー;
(B)配列番号1に示す塩基配列またはその相補配列におけるHLA−A*31:01を特徴づける第2の一塩基多型を3’末端に有する10塩基以上の長さの配列を含み、且つ、該一塩基多型をプライマーの3’末端に有する第2のプライマーであって、前記第1のプライマーと対になってHLA−A*31:01の前記第1の一塩基多型から前記第2の一塩基多型までを含む領域を増幅するように設計された、プライマー。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1>HLA−A
*31:01の検出方法
本発明の検出方法は、HLA−A
*31:01を特徴づける1またはそれ以上の一塩基多型(SNP)を分析し、該分析結果に基づいてHLA−A
*31:01の存在の有無を判定することを特徴とする、HLA−A
*31:01の検出方法である。上記「1またはそれ以上」とは、1であってもよく、2であってもよく、3であってもよく、それ以上であってもよい。本発明において、「HLA−A
*31:01の存在の有無の判定」には、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有するかどうかの判定、および被検者がHLA−A
*31:01アレルを有する可能性が高いか低いかの判定が含まれる。すなわち、本発明の検出方法においては、例えば、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有するかどうかが判定されてよい。また、本発明の検出方法においては、例えば、被検者がHLA−A
*31:01を有する可能性の高低が判定されてよい。なお、本発明において、SNPの「分析」とSNPの「解析」は同義である。
【0015】
HLA−A遺伝子は、HLAクラスI分子の重鎖をコードする遺伝子である。HLA−A遺伝子として、具体的には、GenBank Accession No. NC_000006.11の29910309〜29913661の領域が挙げられる。HLA−A遺伝子のアレルとしては1729種がIMGT/HLA Databaseに登録されており(2011年10月13日付;バージョン3.6.0)、HLA−A
*31:01アレルはその1つである。HLA−A
*31:01アレルの塩基配列を配列番号1に示す。
【0016】
分析されるSNPは、HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP(HLA-A
*31:01-discriminating SNP)であれば特に制限されない。「HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP」とは、HLA−A
*31:01と、他のHLA−Aアレルから選択される1またはそれ以上のアレルとを区別できるSNPをいう。
【0017】
以下、HLA−A
*31:01を特徴づける程度を「特異性スコア(Specificity score)」という概念を導入して説明する。「特異性スコア」とは、既知の1729種のHLA−Aアレルについて、HLA−A
*31:01と他のHLA−Aアレルとの差異を、翻訳開始点から始めて1塩基毎に得点化したものである。具体的には、まずレファレンスとなるHLA−A
*31:01の翻訳開始点の塩基を、他のHLA−Aアレルの相当する塩基と各々比較して、塩基が違えば+1を加算する。翻訳開始点の塩基、すなわち開始コドンATGのAはいずれのHLA−Aアレルでも共通であるため翻訳開始点における特異性スコアはゼロである。この操作を順次1塩基ごとに全長3216bp(アレルごとに多少の差がある)の塩基に渡って繰り返していくと、HLA−A
*31:01の塩基位置をパラメータとした特異性スコアが算出される。定義上、特異性スコアが高い程、その塩基位置がHLA−A
*31:01に特異的である、すなわち、HLA−A
*31:01と他の多くのHLA−Aアレルとを区別できることを示す。また、言い換えれば、ある塩基位置の特異性スコアがXである場合、その塩基位置のSNPは、HLA−A
*31:01と、他のHLA−Aアレルの内、X種のアレルとを区別できるSNPである。
【0018】
HLA−A遺伝子領域における特異性スコアの分布を
図1に示す。特に、HLA−A遺伝子のエクソン2の後半には特異性スコアの高いSNPsが存在する。例えば、エクソン2に存在するrs1059449、rs41541222、およびrs1059471は特異性スコアが1500以上であり、エクソン2に存在するrs1136659およびrs80321556は特異性スコアが1000以上である。これらのSNPsはいずれもHLA−A
*31:01の検出に特に好ましく用いることができる。ここで、rs番号はNational Center for Biotechnology InformationのdbSNPデータベース(http//www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)の登録番号を示す。なお、SNPsの中には単一のSNPに複数のrs番号が割り当てられているものも存在する。本発明においてrs番号で特定されるSNPは、当該rs番号が割り当てられている限り、当該rs番号のみが割り当てられているものであってもよく、当該rs番号以外のrs番号が同時に割り当てられているものであってもよい。
【0019】
また、「HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP」は、被検者が属する人種における各HLA−Aアレルのアレル頻度を考慮して選択するのが好ましい。すなわち、「HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP」は、HLA−A
*31:01と、被検者が属する人種においてアレル頻度が高い他のHLA−Aアレルとを区別できるSNPであるのが好ましい。例えば、「HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP」は、HLA−A
*31:01と、被検者が属する人種においてアレル頻度>0.001%で存在するHLA−A
*31:01以外のHLA−Aアレルとを区別できるSNPであるのが好ましい。
【0020】
例えば、既知の1729種のHLA−Aアレルの内、日本人集団においてアレル頻度>0.001%で存在するものとしては、HLA−A
*31:01アレルを含む全部で42種が中央骨髄センターより報告されている(後述する
図2に記載の42種)。よって、日本人被検者のHLA−A
*31:01を検出する場合、「HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP」は、少なくとも、HLA−A
*31:01と、それ以外の41種のHLA−Aアレルから選択される1またはそれ以上のアレルとを区別できるSNPであるのが好ましい。例えば、上記例示したrs1059449、rs41541222、rs1059471は、特に制限されないが、日本人被検者におけるHLA−A
*31:01の検出に好ましく用いることができる。
【0021】
本発明において、「HLA−A*31:01を特徴づけるSNP」としては、特異性スコアが高いSNPが好ましい。特異性スコアが高いSNPとしては、例えば、特異性スコアで降順に並べた際の上位10のSNPsから選択されるものが好ましく、上位5のSNPsから選択されるものがより好ましい。特異性スコアが高いSNPとして、具体的には、例えば、rs41541222、rs1059449、rs1059471、rs1136659、rs1059506、rs1059536、rs1059517、rs80321556、rs9260156、rs1059509が挙げられる。本発明においては、少なくとも1つの特異性スコアが高いSNPが分析されるのが好ましく、少なくとも2つの特異性スコアが高いSNPが分析されるのがより好ましい。特異性スコアは、例えば、全HLA−Aアレルについて算出されたものであってもよく、被検者が属する人種においてアレル頻度>0.001%で存在するHLA−Aアレルについて算出されたものであってもよい。
【0022】
また、本発明において、「HLA−A*31:01を特徴づけるSNP」は、既知のHLA−A遺伝子の配列情報に基づき、上述の特異性スコア、およびHLA−A*31:01と他の各HLA−Aアレルとの塩基配列の相同性を考慮して選択することができる。例えば、「HLA−A*31:01を特徴づけるSNP」は、特異性スコアが高く、且つ、HLA−A*31:01との相同性及び被検者の属する集団におけるアレル頻度がいずれも高いHLA−AアレルがHLA−A*31:01とともに検出されないようなSNPであるのが好ましい。
【0023】
また、「HLA−A*31:01を特徴づけるSNP」を配列特異的プライマーPCRにより解析する場合、当該SNPとしては、PCRによる増幅産物のサイズがおよそ200bp以下、具体的には、例えば120〜160bp程度となるものが好ましい。
【0024】
また、「HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP」としては、上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNPが挙げられる。ここで「上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNP」とは、上記のSNPとr
2>0.5、好ましくはr
2>0.8、さらに好ましくはr
2>0.9、特に好ましくはr
2=1の関係を満たすSNPをいう。上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNPは、例えば、HapMapデータベース(http://www.hapmap.org/index.html.ja)等を用いて同定することができる。また、上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNPは、例えば、複数人(通常は20〜40人程度)から採取したDNAをシークエンサーにて配列解析し、連鎖不平衡にあるSNPを探索することにより同定することもできる。例えば、rs1059471と連鎖不平衡にあるSNPとしてはrs41562315が挙げられる。
【0025】
本発明においては、例えば、少なくともrs1059449、rs41541222、rs1059471、rs1059457、およびrs41562315から選択される1またはそれ以上のSNPが分析されてよい。これら5つのSNPsについて、SNP塩基及びその前後60bpの領域を含む合計121bpの長さの配列を、それぞれ配列番号2〜6に示した。61番目の塩基が多型を有する。
【0026】
また、本発明においては、例えば、少なくともrs41562315が分析されてよい。また、本発明においては、例えば、少なくともrs41562315、rs41541222、およびrs1059457が分析されてもよく、少なくともrs41562315、rs1059457、およびrs1059471が分析されてもよい。
【0027】
本発明において、上記SNPを解析することには、上記SNPに相当するSNPを解析することが含まれる。「上記SNPに相当するSNP」とは、HLA−A遺伝子領域における該当SNPを意味する。すなわち、「上記SNPに相当するSNPを解析する」ことには、仮に人種の違いなどによってHLA−A遺伝子配列がSNP以外の位置で若干変化したとしても、HLA−A遺伝子領域における該当SNPを解析することが含まれる。
【0028】
SNPの解析に用いる試料としては、染色体DNAを含む試料であれば特に制限されないが、例えば、血液や尿等の体液、口腔粘膜等の細胞、毛髪等の体毛が挙げられる。SNPの解析にはこれらの試料を直接使用することもできるが、これらの試料から染色体DNAを常法により単離し、これを用いて解析することが好ましい。
【0029】
SNPの解析は、通常の遺伝子多型解析方法によって行うことができる。例えば、シークエンス解析、PCR、ハイブリダイゼーション、インベーダー法などが挙げられるが、これらに限定されない。SNPの解析においては、例えば、解析対象のSNPがいずれの塩基であるかを決定してもよいし、解析対象のSNPがHLA−A
*31:01と同一の種類の塩基であるか否かを決定してもよい。すなわち、例えば、あるSNPの塩基の種類がHLA−A
*31:01においてAである場合に、当該SNPの解析においては、当該SNPがATGCのいずれの塩基であるかを決定してもよいし、当該SNPがAであるか否かを決定してもよい。また、SNPの解析においては、二本鎖DNAのいずれの鎖を分析してもよい。
【0030】
シークエンス解析は通常の方法により行うことができる。具体的には、多型を示す塩基の5’側 数十塩基の位置に設定したプライマーを使用してシークエンス反応を行い、その解析結果から、該当する位置がどの種類の塩基であるかを決定することができる。なお、シークエンス反応の前に、あらかじめSNP部位を含む断片をPCRなどによって増幅しておくことが好ましい。
【0031】
また、SNPの解析は、PCRによる増幅の有無を調べることによって行うことができる。例えば、多型を示す塩基を含む領域に対応する配列を有し、かつ、3’末端が各多型に対応するプライマーをそれぞれ用意する。それぞれのプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物の有無によってどのタイプの多型であるかを決定することができる。本発明において、このような、解析対象のSNPに対応する塩基を3’末端に有するプライマーを用いて、解析対象のSNPが特定の塩基である場合にのみDNA断片が増幅される手法を、「配列特異的プライマーPCR(sequence-specific primer PCR;SSP−PCR)法」という場合がある。また、LAMP法(特許第3313358号明細書)、NASBA法(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification;特許2843586号明細書)、ICAN法(特開2002−233379号公報)などによって増幅の有無を調べることもできる。その他、単鎖増幅法を用いてもよい。
【0032】
また、SNP部位を含むDNA断片を増幅し、増幅産物の電気泳動における移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することもできる。このような方法としては、例えば、PCR−SSCP(single-strand conformation polymorphism)法(Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.)が挙げられる。具体的には、まず、目的のSNPを含むDNAを増幅し、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離し、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0033】
さらに、多型を示す塩基が制限酵素認識配列に含まれる場合は、制限酵素による切断の有無によって解析することもできる(RFLP法)。この場合、まず、DNA試料を制限酵素により切断する。次いで、DNA断片を分離し、検出されたDNA断片の大きさによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0034】
また、ハイブリダイゼーションの有無を調べることによって多型の種類を解析することも可能である。すなわち、各塩基に対応するプローブを用意し、いずれのプローブにハイブリダイズするかを調べることによってSNPがいずれの塩基であるかを調べることもできる。
【0035】
また、本発明において、SNPの解析は、配列特異的プライマーPCR法とインベーダープラス法とを組み合わせて行うのが好ましい。インベーダープラス法は、Third Wave Technologies社が開発した、PCRとインベーダー反応を単一の容器内で連続的に行う手法である。インベーダー法は、開裂酵素(cleavage enzyme(Cleavaseともいう))と蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer;FRET)カセットを利用して特定のSNPを検出する手法であり、ハイスループットなSNPジェノタイピングに広く用いられている。インベーダー法は、ハイブリダイゼーション法と比較してより特異的にターゲットのSNPを認識できる点で好ましい。
【0036】
この方法では、例えば、反応液中に、配列特異的プライマー(配列特異的フォワードプライマー及び配列特異的リバースプライマー)、インベーダープローブ、アレルプローブ、蛍光ラベルされたFRETプローブ、Cleavase、dNTP、Taqポリメラーゼ、および解析対象のDNAを含めて配列特異的プライマーPCRを行い、続けて、インベーダー反応を行う。各配列特異的プライマーは解析対象のSNPに対応する塩基を3’末端に有し、配列特異的プライマーPCR工程において解析対象のSNPが特定の塩基である場合にのみDNA断片の増幅が起こるように設計される。アレルプローブおよびインベーダープローブは、増幅断片中のインベーダーのターゲットとなるSNPの両側にそれぞれハイブリダイズするように設計される。アレルプローブは、前記ハイブリダイズする部分の5’側末端に解析対象のSNPに対応する塩基を有し、そのさらに5’側にフラップ配列を有する。つまり、アレルプローブは、5’末端から順に、フラップ配列、インベーダーのターゲットとなるSNP、解析対象のDNA特異的配列からなる配列を含むように設計される。インベーダープローブは、インベーダーのターゲットとなるSNP部位がプローブの3’末端に位置するように設計されるが、当該3’末端の塩基の種類は任意である。アレルプローブ中のインベーダーのターゲットとなるSNPに対応する塩基は、増幅断片中の当該SNPが特定の塩基である場合にのみ当該SNP塩基とハイブリダイズし、さらにインベーダープローブの3’末端の塩基(種類は任意)が当該ハイブリダイズ箇所に侵入することで、当該SNP部位において三重構造が形成される。次に、Cleavaseが三重構造を認識してアレルプローブをSNPに相当する塩基と前記ハイブリダイズする部分の5’側末端の間で切断し、3’側末端にSNP塩基が付加されたフラップ配列が遊離する。遊離したフラップ配列はFRETプローブとハイブリダイズして同様の三重構造を形成し、Cleavaseが三重構造を認識してFRETプローブから蛍光ラベルを遊離させることで、蛍光シグナルが得られる。すなわち、ターゲットとなる3つのSNPsがそれぞれ特定の塩基である場合に、DNA断片の増幅とインベーダー反応が起こり、蛍光シグナルが得られる。PCRおよびそれに続くインベーダー反応は、常法に従って行うことができる。また、Cleavaseとしては、例えば、Cleavase VIIIやCleavase 2.0を用いることができる。
【0037】
この方法では、例えば、配列特異的プライマーPCRのターゲットとなる2つのSNPsおよびインベーダーのターゲットとなるSNPに基づいてHLA−A
*31:01を検出することができる。これらのSNPは、例えば、各SNPの特異性スコア、増幅断片のサイズ、各SNP周辺のミスマッチの有無等の諸条件を考慮して適宜選択することができる。
【0038】
また、上記ではターゲットとなる3つのSNPsに基づいてHLA−A
*31:01を検出する場合を例示したが、所望の検出精度を実現できる限り、ターゲットとなるSNPsの個数を増減してもよい。例えば、所望の検出精度を実現できる限り、配列特異的プライマーPCRは配列特異的プライマーと、多型の判定に関わらない汎用プライマーとの組み合わせで行ってもよい。
【0039】
なお、インベーダー反応においては、複数種のFRETプローブと、それに対応するフラップ配列を有するアレルプローブを利用することで、あるSNP部位における複数種類の塩基を同時に検出し分けることや、複数のSNPs部位の塩基がそれぞれ特定の塩基であるか否かを同時に検出することもできる。
【0040】
このようにして解析対象のSNPがいずれの塩基であるか、または解析対象のSNPがHLA−A
*31:01と同一の種類の塩基であるか否かを決定することで、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有するか否か、あるいは、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有する可能性の高低を決定できる。
【0041】
本発明の検出方法においては、解析対象のSNP(s)の全てがHLA−A
*31:01と同一の種類の塩基である場合に、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有する、あるいは、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有する可能性があると決定できる。本発明の検出方法において、HLA−A
*31:01アレルと共に、HLA−A
*31:01アレル以外のHLA−Aアレルが検出される場合は、当該HLA−A
*31:01アレル以外のHLA−Aアレルの数や被検者の属する人種におけるアレル頻度を考慮して、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有するか否か、あるいは、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有する可能性の高低を決定できる。なお、本発明の検出方法において、HLA−A
*31:01アレルと共に、HLA−A
*31:01アレル以外のHLA−Aアレルが検出される場合、必要に応じて、HLA−A
*31:01アレルと、当該HLA−A
*31:01アレル以外のHLA−Aアレルとを区別するための操作を行ってもよい。
【0042】
<2>抗てんかん薬による薬疹リスクの判定方法
HLA−A
*31:01アレルは、カルバマゼピン(CBZ)により誘発されるcADR(CBZ-induced cADR)と関連することが知られている(非特許文献2、3)。よって、HLA−A
*31:01アレルの検出結果に基づき、CBZ等の抗てんかん薬による薬疹リスクを判定できる。すなわち、本発明は、本発明の検出方法によりHLA−A
*31:01アレルを検出し、該検出結果に基づいて抗てんかん薬による薬疹リスクを検査することを特徴とする、抗てんかん薬による薬疹リスクの判定方法(以下、本発明の判定方法ともいう)を提供する。なお、本発明において、「薬疹リスク」とは、抗てんかん薬の投与により薬疹が発生するかどうかを示すリスク、及び抗てんかん薬の投与により薬疹の程度が悪化するかどうかを示すリスクを含む。よって、本発明において、「検査」とは、抗てんかん薬の投与により薬疹が発生するかどうかを予測するための検査、及び抗てんかん薬の投与により薬疹の程度が悪化するかどうかを予測するための検査を含む。本発明の判定方法においては、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有する場合に、抗てんかん薬による薬疹リスクが高いと判定される。また、本発明の判定方法においては、被検者がHLA−A
*31:01アレルを有さない場合に、抗てんかん薬による薬疹リスクが低いと判定される。
【0043】
薬疹としては、特に制限されず、スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome;SJS)、中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis;TEN)、薬剤性過敏症症候群(Drug-induced hypersensitivity syndrome;DIHS)、多型性紅斑(erythema multiforeme;EM)、播種状紅斑丘疹(maculopapular eruption;MPE)、紅斑(erythema)、紅皮症(erythroderma)、および固定薬疹(fixed drug eruption)等が挙げられる。
【0044】
抗てんかん薬としては、特に制限されないが、イミノスチルベン系の薬剤であるのが好ましく、カルバマゼピン(CBZ)であるのがより好ましい。
【0045】
本発明の判定方法を適用できる人種としては、特に制限されないが、例えば、日本人や白人が挙げられる。
【0046】
本発明の判定方法においては、抗てんかん薬による薬疹リスクと関連する他のSNPsから選択される1またはそれ以上のSNPsを併せて解析してもよい。そのようなSNPsとしては、例えば、ヒトの第6染色体短腕21.33領域(6p21.33領域)に含まれるSNPsが挙げられる(特許文献2)。6p21.33領域に含まれるSNPsとして、具体的には、例えば、rs1633021、rs2571375、rs1116221、rs2844796、rs1736971、rs1611133、rs2074475、rs7760172、rs2517673、rs2524005、rs12665039、およびrs1362088、並びにそれらSNPsと連鎖不平衡にあるSNPsが挙げられる(特許文献2)。
【0047】
<3>本発明の検出用試薬
本発明はまた、HLA−A
*31:01アレルを検出するためのプライマーやプローブなどの検出試薬を提供する。
【0048】
プライマーとしては、上記多型部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、又は上記多型部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、配列番号1においてHLA−A
*31:01を特徴づけるSNPを含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーや、配列番号2〜6のいずれかにおいて塩基配列の61番目の塩基を含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。このようなプライマーの長さは10〜50塩基が好ましく、15〜35塩基がより好ましく、20〜35塩基がさらに好ましい。
【0049】
上記多型部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、又は上記多型部位をシークエンシングするために用いることのできるプライマーとしては、上記塩基の5’側領域、好ましくは30〜100塩基上流の配列を有するプライマーや、上記塩基の3’側領域、好ましくは30〜100塩基下流の領域に相補的な配列を有するプライマーが例示される。なお、増幅されたDNA断片中の多型の解析は、例えば、インベーダー法等の上記例示した手法により実施できる。
【0050】
PCRによる増幅の有無で多型を判定するために用いるプライマー(配列特異的プライマーともいう)としては、上記塩基を含む配列を有し、上記塩基を3’側に含むプライマーや、上記塩基を含む配列の相補配列を有し、上記塩基の相補塩基を3’側に含むプライマーなどが例示される。配列特異的プライマーと対になって用いられるプライマーは、他の配列特異的プライマーであってもよいし、多型の判定に関わらない汎用プライマーであってもよい。配列特異的プライマーと他の配列特異的プライマーとを組み合わせて用いる場合、より正しくHLA−A
*31:01を検出できると期待される。
【0051】
HLA−A
*31:01アレルが存在する場合にDNA断片が増幅される配列特異的プライマーとしては、例えば、配列番号1に示す塩基配列またはその相補配列におけるHLA−A
*31:01を特徴づける一塩基多型を3’末端に有する10塩基以上の長さの配列を含み、且つ、該一塩基多型をプライマーの3’末端に有するプライマーが挙げられる。
【0052】
また、HLA−A
*31:01アレルが存在する場合にDNA断片が増幅される配列特異的プライマーのセットとしては、例えば、下記(A)および(B)を含むセットが挙げられる。
(A)配列番号1に示す塩基配列またはその相補配列におけるHLA−A
*31:01を特徴づける第1の一塩基多型を3’末端に有する10塩基以上の長さの配列を含み、且つ、該一塩基多型をプライマーの3’末端に有する第1のプライマー;
(B)配列番号1に示す塩基配列またはその相補配列におけるHLA−A
*31:01を特徴づける第2の一塩基多型を3’末端に有する10塩基以上の長さの配列を含み、且つ、該一塩基多型をプライマーの3’末端に有する第2のプライマーであって、前記第1のプライマーと対になってHLA−A
*31:01の前記第1の一塩基多型から前記第2の一塩基多型までを含む領域を増幅するように設計された、プライマー。
【0053】
上記「該一塩基多型をプライマーの3’末端に有する」とは、上記10塩基以上の長さの配列中の上記HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP部位が、プライマーの3’末端に位置していることを意味する。上記「10塩基以上の長さ」とは、例えば、10塩基以上の長さであってもよく、15塩基以上の長さであってもよく、20塩基以上の長さであってもよい。また、上記「10塩基以上の長さ」とは、例えば、50塩基以下の長さであってもよく、35塩基以下の長さであってもよい。
【0054】
上記各配列特異的プライマーは、5’側に任意の塩基配列を有していてもよい。具体的には、例えば、第1のプライマーについて、前記「10塩基以上の長さ」が15塩基で、プライマーの全長が20塩基である場合、プライマーの3’側15塩基は配列番号1の塩基配列またはその相補配列における第1のSNPを3’末端に有する15塩基の配列からなり、残りの部分、すなわち5’側5塩基は任意の配列であってよいことを意味する。
【0055】
第1および第2のHLA−A
*31:01を特徴づけるSNPは、例えば、各SNPの特異性スコア、増幅断片のサイズ、各SNP周辺のミスマッチの有無等の諸条件を考慮して適宜選択することができる。具体的には、例えば、前記第1の一塩基多型はrs41541222またはrs1059457であってよく、前記第2の一塩基多型はrs41562315であってよい。rs41541222、rs1059457、およびrs41562315に対応する配列特異的プライマーとして、具体的には、例えば、プライマーF1(CCGTGGATAGAGCAGGAGAGGCCT;配列番号7)、プライマーF2(GAGAGGCCTGAGTATTGGGACCAGGAG;配列番号8)、プライマーR(TGACCTGCGCCCCGGGCT;配列番号9)がそれぞれ挙げられる。また、配列特異的プライマーは、例えば、これらのプライマーの3’側10塩基以上からなる塩基配列を有するプライマーであってもよく、当該塩基配列の5’末端に任意の塩基配列が付加された塩基配列を有するプライマーであってもよい。
【0056】
なお、上記各配列特異的プライマーにおいて、3’末端の塩基をHLA−A
*31:01以外のアレルに対応する塩基に変更することで、HLA−A
*31:01以外のアレルが存在する場合にDNA断片が増幅される配列特異的プライマーを設計することができる。
【0057】
また、プローブとしては、上記多型部位を含み、ハイブリダイズの有無によって多型部位の塩基の種類を判定できるプローブが挙げられる。具体的には、配列番号1におけるHLA−A
*31:01を特徴づけるSNPを含む配列、又はその相補配列を有する10塩基以上の長さのプローブや、配列番号2〜6のいずれかにおいて塩基配列の61番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有する10塩基以上の長さのプローブが挙げられる。プローブの長さは好ましくは、15〜35塩基であり、より好ましくは20〜35塩基である。
【0058】
また、インベーダー法に用いられるプローブセットとしては、HLA−A
*31:01を特徴づける一塩基多型をインベーダーのターゲットとするインベーダープローブおよびアレルプローブを含むセットが挙げられる。そのようなプローブは、例えば、Universal Invader Design Software等のソフトウェアを利用して設計することができる。インベーダー/アレルプローブは、HLA−A
*31:01が存在する場合にインベーダー反応が進行するように設計することができる。
【0059】
そのようなインベーダー/アレルプローブのセットとしては、例えば、下記(C)および(D)を含むセットが挙げられる。
(C)配列番号1に示す塩基配列またはその相補配列におけるHLA−A
*31:01を特徴づける一塩基多型を3’末端に有する10塩基以上の長さの配列を含み、該一塩基多型をプローブの3’末端に有し、且つ、該一塩基多型の塩基がA、T、G、Cから選択される塩基である、インベーダープローブ;
(D)5’から3’方向に向けて、フラップ配列、および配列番号1に示す塩基配列またはその相補配列におけるHLA−A
*31:01を特徴づける一塩基多型を5’末端に有する10塩基以上の長さの配列を含むアレルプローブであって、前記インベーダープローブと対になってHLA−A
*31:01が存在する場合にインベーダー反応が進行するように設計された、プローブ。
【0060】
上記「該一塩基多型をプローブの3’末端に有し、且つ、該一塩基多型の塩基がA、T、G、Cから選択される塩基である」とは、上記10塩基以上の長さの配列中の上記HLA−A
*31:01を特徴づけるSNP部位が、プローブの3’末端に位置しているが、その塩基の種類は任意のものでよいことを意味する。上記「10塩基以上の長さ」とは、例えば、10塩基以上の長さであってもよく、15塩基以上の長さであってもよく、20塩基以上の長さであってもよい。また、上記「10塩基以上の長さ」とは、例えば、50塩基以下の長さであってもよく、35塩基以下の長さであってもよい。
【0061】
上記インベーダープローブは5’側に任意の塩基配列を有していてもよい。また、上記アレルプローブは5’側および/または3’側に任意の塩基配列を有していてもよい。例えば、インベーダープローブについて、前記「10塩基以上の長さ」が15塩基で、プローブの全長が20塩基である場合、プローブの3’側15塩基は配列番号1の塩基配列またはその相補配列における第1のSNPを3’末端に有する15塩基の配列からなり、残りの部分、すなわち5’側5塩基は任意の配列であってよいことを意味する。
【0062】
インベーダーのターゲットであるSNPは、例えば、SNPの特異性スコアやSNP周辺のミスマッチの有無等の諸条件を考慮して適宜選択することができる。具体的には、例えば、インベーダーのターゲットであるSNPは、rs1059457またはrs1059471であってよい。rs1059457をインベーダーのターゲットとするインベーダープローブおよびアレルプローブとして、具体的には、例えば、インベーダープローブ1(CCTGAGTATTGGGACCAGGAT;配列番号10)およびアレルプローブ1(FAM)(ATGACGTGGCAGACGACACGGAATGTGAAGG;配列番号11)が挙げられる。また、rs1059471をインベーダーのターゲットとするインベーダープローブおよびアレルプローブとして、具体的には、例えば、インベーダープローブ2(TGAAGGCCCACTCACAGAA;配列番号12)およびアレルプローブ2(FAM)(ATGACGTGGCAGACTTGACCGAGTGGACC;配列番号13)が挙げられる。また、インベーダープローブは、例えば、これらのインベーダープローブの3’側10塩基以上からなる塩基配列を有するプローブであってもよく、当該塩基配列の5’末端に任意の塩基配列が付加された塩基配列を有するプローブであってもよい。また、アレルプローブは、例えば、これらのアレルプローブ塩基配列におけるフラップ配列とそれに続く10塩基以上の塩基配列を有するプローブであってもよく、当該塩基配列の5’末端および/または3’末端に任意の塩基配列が付加された塩基配列を有するプローブであってもよい。
【0063】
上記アレルプローブ1(FAM)およびアレルプローブ2(FAM)の5’側14塩基は、FAM用のフラップ配列である。よって、インベーダー法にFAM以外のラベルを利用する場合は、当該フラップ配列をFAM以外のラベルに対応したものに変更することができる。
【0064】
本発明の検出用試薬は、配列特異的プライマーセットおよびインベーダー法に用いるプローブセットを含むものであってもよい。これらプライマーセットおよびプローブセットを組み合わせて用いる場合、インベーダーのターゲットである一塩基多型は、前記第1の一塩基多型と前記第2の一塩基多型の間に存在する一塩基多型から選択すればよい。
【0065】
また、本発明の検出用試薬はこれらのプライマーおよび/またはプローブに加えて、PCR用のポリメラーゼやバッファー、ハイブリダイゼーション用試薬、インベーダー反応用のFRETプローブやCleavase等から選択されるものを含むものであってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、本実施例において、「HLA−A
*31:01:02」と「HLA−A
*31:01」は同じものである。
【0067】
本実施例では、配列特異的プライマーPCRとインベーダープラス法とを組み合わせてHLA−A
*31:01アレルの検出を行った。
【0068】
(1)ゲノムDNAサンプル
ゲノムDNAサンプルとしては、3グループのHapMapサンプル、すなわち、互いに血縁関係のない90名の日本人および漢民族のサンプル(JCH);90名の北欧系および西欧系のユタ州住民のサンプル(CEU);90名のナイジェリアのイバダンのヨルバ人のサンプル(YRI)を用いた。全てのHapMapサンプルは、Coriell Institute for Genomic Researchから購入した。HapMapサンプルのHLA−A遺伝子型データは、非特許文献7(Erlich RL. et al. BMC Genomics. 2011;12:42.)から取得した。JCHサンプル中13名(14.4%)およびCEUサンプル中4名(4.4%)がHLA−A
*31:01アレルを有しており、YRIサンプルはいずれもHLA−A
*31:01アレルを有していなかった。
【0069】
(2)プライマーおよびプローブの設計
プライマーおよびプローブの設計は、既報(Hosono N. et al. Pharmacogenet Genomics. 2010;20:630-633.)を参考に、以下の手順で行った。また、プローブの配列設計にはUniversal Invader Design Softwareを用いた。HLA−Aアレルの情報は、IMGT/HLA Database (http://www.ebi.ac.uk/imgt/hla/)から取得した。
【0070】
既知の1729種のHLA−Aアレルの内、日本人集団においてアレル頻度>0.001%で存在するものとしては、HLA−A
*31:01アレルを含む全部で42種が中央骨髄センターより報告されている(n=223589)。そこで、当該42種のHLA−Aアレルに限定して、HLA−A
*31:01アレルを特徴づけるSNPs(HLA-A
*31:01-discriminating SNPs)の探索を行った。その結果、HLA−A
*31:01アレルを他のHLA−Aアレルから区別できるいくつかのSNPsがエクソン2において見出された。前記42種のHLA−AアレルのアラインメントとSNPsを
図2に示す。
【0071】
dbMHC Sequence Alignment Viewerを用いて各HLA−Aアレルを比較したところ、塩基位置372のrs41541222が、最も区別的(discriminative)なSNPとして同定された。なお、「塩基位置」とは、HLA−A遺伝子の翻訳開始点(すなわち、開始コドンATGのA)を塩基番号1として、以下、同遺伝子の3’方向に順にカウントしたものである。また、2番目に区別的なSNPは塩基位置419のrs1059471、3番目に区別的なSNPは塩基位置367のrs1059449であった。
【0072】
これらSNPsの位置を考慮し、最も区別的なrs41541222に対応する塩基を3’末端に有するフォワードプライマーF1を設計した。
【0073】
次に、2番目に区別的なrs1059471に対応する塩基を3’末端に有するリバースプライマーの設計を試みた。しかしながら、当該リバースプライマーとF1を組み合わせた場合、おそらくは増幅サイズが短いことが原因で、適切なインベーダー/アレルプローブをUniversal Invader Design Softwareを用いて設計できなかった。そこで、HLA−A
*31:01を特徴づける他の候補SNPの探索を行ったところ、エクソン2近傍のイントロン2内にrs41562315(塩基位置485)が見出された。イントロン領域の配列情報は不完全であったが、利用可能な110個のゲノム配列を比較したところ、rs41562315はrs1059471と完全連鎖不平衡にあることが示唆された。そこで、rs41562315に対応する塩基を3’末端に有するリバースプライマーRを設計した。
【0074】
次に、インベーダーのターゲット部位周辺の塩基のミスマッチの個数を考慮して、塩基位置390のrs1059457をインベーダーのターゲット部位として選択した。Universal Invader Design Softwareを用いて、rs1059457をインベーダーのターゲット部位とするインベーダープローブ1およびアレルプローブ1(FAM)を設計した。なお、以下、フォワードプライマーF1、リバースプライマーR、インベーダープローブ1、およびアレルプローブ1(FAM)からなるプライマー/プローブセット(primers/probes set)をセット1と称する。
【0075】
さらに、セット1によるHLAタイピングの結果を補強するため、第2のプライマー/プローブセット(以下、セット2と称する)を設計した。リバースプライマーRはセット1とセット2で共通とした。セット2のフォワードプライマーF2は、セット1のインベーダーのターゲット部位であるrs1059457に対応する塩基を3’末端に有するように設計した。また、2番目に区別的なSNPであるrs1059471をインベーダーターゲット部位として選択し、インベーダープローブ2およびアレルプローブ2(FAM)を設計した。
【0076】
各セットのプライマーおよびプローブの位置を
図3に、塩基配列を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
なお、セット1とセット2のいずれを用いた場合にも、日本人集団においてアレル頻度>0.001%で存在するSNPsの内、HLA−A
*31:01以外にHLA−A
*31:11が検出されると考えられる。しかしながら、日本人集団におけるHLA−A
*31:11のアレル頻度は0.002%と極めてまれであり、HLA−A
*31:01のアレル頻度は8.65%(すなわちHLA−A
*31:11のアレル頻度の4325倍)であることから、上記設計した各プライマー/プローブセットはHLA−A
*31:01選択的であると判断した。
【0079】
(3)インベーダープラスアッセイ
インベーダープラスアッセイは、ABI 7500 Fast real-time PCR system (Applied Biosystems, Foster City, CA)を用い、96ウェルプレートで行った。反応液は、総反応液量10 μl当たり、1 x Signal Buffer、1 x FRET Mix (FRET22/FRET7)、Cleavase VIII 60 ng(以上、いずれもThird Wave Technologies製)、10 μM ROX (Sigma, MO, USA)、900 nM 各フォワードプライマーおよびリバースプライマー、400 nM インベーダープローブ、800 nM アレルプローブ、0.25 U Ex Taq HS DNA polymerase (Takara, Shiga, Japan)、400 μM dNTP mixture (Takara, Shiga, Japan)、およびゲノムDNA 5 ngからなる。PCRは、95℃ 20秒で開始し、35サイクル×(98℃ 3秒と68℃ 30秒)で行った。PCR後、続けて、99℃ 30秒と63℃ 10分でインベーダー反応を行った。総反応時間は約45分であった。インベーダー反応中、蛍光シグナルを30秒毎に測定した。さらに、2%アガロースゲルを用いてインベーダープラスアッセイ後のPCR産物の電気泳動を行い、各プライマーセットの効率と特異性を評価した。
【0080】
(4)結果
JCHサンプル(n=90)を解析した結果を
図4に示す。いずれのプライマー/プローブセットを用いた場合にも、偽陽性のシグナルは認められず、HLA−A
*31:01陽性サンプル(n=13)をHLA−A
*31:01陰性サンプル(n=77)と正しく区別することができた。また、アガロースゲル電気泳動の結果によれば、いずれのプライマーセットを用いた場合にも、SSP−PCR工程でターゲットのゲノム領域が選択的に増幅されていることが示唆された。
【0081】
また、CEUサンプル(n=90)およびYRIサンプル(n=90)を解析した結果を
図5に示す。いずれのプライマー/プローブセットを用いた場合にも、CEUサンプル中のHLA−A
*31:01陽性サンプル(n=4)を正しく検出できた。また、いずれのプライマー/プローブセットを用いた場合にも、HLA−A
*31:01陽性サンプルの存在しないYRIサンプルでは陽性シグナルは現れず、HLA−A
*31:01以外のHLA−Aアレルとの交差反応は認められなかった。
【0082】
以上より、セット1とセット2のいずれのプライマー/プローブセットを用いた場合にも、HLA−A
*31:01アレルの有無を正しく検出できることが明らかとなった。
【0083】
なお、in silico解析によれば、セット1とセット2のいずれを用いた場合にも、既知の1729種のHLA−Aアレルの内、HLA−A
*31:01に加えて52種のHLA−Aアレルが検出される可能性がある。52種の内、45種のHLA−Aアレルは、Allele frequency netの登録情報によればアレル頻度がゼロであり、HLA−A
*31:01の検出に影響しないと考えられる。一方、残りの7種は、比較的低い頻度ではあるが種々の人種に分布している(0.006%〜5.5%)(表2)。例えば、白人集団はHLA−A
*3102アレルを1%以上の頻度で有している。よって、セット1またはセット2のプライマー/プローブセットで白人集団を解析すると、HLA−A
*31:01に加えて、HLA−A
*3102が1%以上の頻度で検出される可能性がある。このような誤検出を防ぐには、例えば、HLA−A
*31:01とHLA−A
*3102を区別できるSNPをターゲットとする他のプライマー/プローブセットを設計し、セット1またはセット2のプライマー/プローブセットと併用すればよい。セット1とセット2のいずれもFAMチャネルのみを利用してHLA−A
*31:01のシグナルを検出しているため、他のプライマー/プローブセットでVIC蛍光チャネルを利用すれば同時に解析できる。HLA−A
*31:01とHLA−A
*3102を区別できるSNPとしては、例えば、rs1059460が挙げられる。
【0084】
【表2】
【0085】
また、上述の通り、セット1とセット2のいずれを用いた場合にも、日本人集団においてまれに存在するHLA−A
*31:11をHLA−A
*31:01と区別できない。HLA−A
*31:11と薬疹リスクとの関連は未知であるが、上記と同様、他のプライマー/プローブセットを併用することでHLA−A
*31:11をHLA−A
*31:01と区別できる。HLA−A
*31:01とHLA−A
*31:11を区別できるSNPとしては、例えば、エクソン3における塩基位置936のSNP(rs番号なし)が挙げられる。
【0086】
さらに、HLAクラスIアレルは互いに相同性が高いことが知られていることから、ゲノム上の他のHLA領域から増幅が起こる可能性を以下の手順で検討した。UCSC Blat Search(http://genome.ucsc.edu/index.html)で検索したところ、セット1またはセット2のプライマーセットで増幅される領域と比較的高い相同性(最大で87.6%)を有する領域が、HLA−L、HLA−B、およびHLA−C領域に見出された。そこで、それらの領域がセット1またはセット2のプライマーセットで増幅されるかどうかを、IMGT/HLA Database version 3.6.0の登録データに基づきdbMHC Sequence Alignment Viewerを用いて検討した。なお、イントロン領域の配列情報は不完全であるためリバースプライマーRの3’末端のミスマッチの有無は無視した。その結果、2329種のHLA−Bアレル中の2つのアレル(HLA−B
*40:22NおよびHLA−B
*40:134)は増幅される可能性があったが、1291種のHLA−Cアレルおよび5種のHLA−Lアレル中に増幅される可能性のあるアレルはなかった。上記2つのHLA−Bアレルはインベーダーのターゲット部位の塩基もHLA−A
*31:01と同一であるためセット1またはセット2のプライマー/プローブセットではHLA−A
*31:01と区別できないが、Allele frequency netの登録情報によればこれら2つのHLA−Bアレルのアレル頻度はゼロであるため、セット1またはセット2のプライマー/プローブセットでゲノム上の他のHLA領域が増幅される可能性は低いと考えられる。