【文献】
SPEVACK,P.A. and MCINTYRE,N.S.,A Raman and XPS investigation of supported molybdenum oxide thin films. 1. Calcination and reduction studies,The Journal of Physical Chemistry,米国,ACS Publications,1993年10月,Vol.97,pp.11020-11030
【文献】
SPEVACK,P.A. and MCINTYRE,N.S.,Thermal reduction of MoO3,The Journal of Physical Chemistry,米国,ACS Publications,1992年10月,Vol.96,pp.9029-9035
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
著しく高い濃度の硫黄、窒素、金属(たとえば、バナジウムおよびニッケル)およびコンラドソン炭素を有する重質炭化水素原料の水素化処理においてとりわけ有用な、新規の触媒組成物が発見された。この触媒は、炭化水素原料の処理において使用されるとき、先行技術の触媒が示さないと思われるある種の自己活性化特性を有するという点で、特に独特である。新規の触媒の予期されない特性の1つは、使用とともにその活性が増大することである。一方で、先行技術の触媒の活性は、使用とともに減少する傾向がある。本発明の方法は、独特な細孔構造ならびに相対的に低濃度のモリブデン、特に低濃度のニッケルを有し、その結果、好適なプロセス条件下、水素の存在中で、ある濃度のニッケルを有する重質炭化水素原料の処理において使用されるとき、使用、すなわち使用時間とともに組成物の触媒活性が増加する新規の組成物を利用する。
【0014】
本発明の組成物は、無機酸化物粉末、三酸化モリブデン粉末およびニッケル化合物の共混練混合物を含む焼成粒子を含み、該共混練混合物は粒子に成形されており、焼成されてそれによって焼成粒子とされている。焼成粒子は、本明細書の他の箇所で記載される、具体的に規定された細孔サイズ分布をさらに有する。焼成粒子は、それ自体が本発明の自己活性化水素化触媒として使用されてよく、本発明の自己活性化水素化触媒の成分として使用されてもよい。
【0015】
粒子に成形されて焼成される共混練混合物を調製するために使用されるモリブデンおよびニッケルの量は、先行技術の水素化触媒で典型的に使用されるこれらの金属の濃度量と比較した場合、相対的に少ない。そして実際に、本発明の組成物および方法の特徴の1つは、本発明の触媒組成物中の活性金属の量および濃度はとりわけ低いが、これらが組成物の具体的に規定された物理特性とは別の特性と組み合わされ、典型的には有機ニッケル化合物であるが他の形態であってもよいある濃度のニッケルを有する重質原料の水素化において使用されるとき、自己活性化する触媒をもたらすという点である。
【0016】
本発明の焼成粒子は、先行技術の水素化処理触媒の多くにおけるモリブデンおよびニッケルの濃度と比較した場合、相対的に低い濃度のモリブデンおよびニッケルを含む。しかし、これらの金属の濃度は本発明の重要な特徴であり、本発明の組成物の具体的に規定される細孔構造と組み合わせて使用されたとき、この組合せが本発明の組成物の独特な自己活性化特性をもたらす。したがって、本焼成粒子は一般に、無機酸化物、モリブデンおよびニッケルを含み、無機酸化物、モリブデンおよびニッケルから本質的になりまたは無機酸化物、モリブデンおよびニッケルからなり、焼成粒子のモリブデン含有量は、その実際の形態にかかわらず、金属として計算して、焼成粒子の総重量の1から10重量パーセント(wt.%)の範囲、または換言すれば、1.5wt.%から15wt.%の三酸化モリブデン(MoO
3)である。
【0017】
モリブデンが焼成粒子中に、9.5wt.%未満(すなわち、MoO
3として計算して14.25wt.%)および少なくとも1.5wt.%(すなわち、MoO
3として計算して2.25wt.%)の量で存在することが望ましい。好ましい実施形態では、焼成粒子中のモリブデンの濃度は、2wt.%から9wt.%(すなわち、MoO
3として計算して3wt.%から13.5wt.%)の範囲であり、より好ましい実施形態では、濃度は2.5wt.%から8.5wt.%(すなわち、MoO
3として計算して3.75wt.%から12.75wt.%)の範囲である。本発明の焼成粒子中のモリブデンの最も好ましい濃度範囲は、3wt.%から8wt.%(すなわち、MoO
3として計算して4.5wt.%から12wt.%)である。
【0018】
本発明の重要な態様は、焼成粒子は特に低濃度のニッケルを有するが、組成物の自己活性化特性が実現しないほど多すぎるニッケルを有さない点である。いかなる特定の理論にも束縛されることを望むものではないが、いずれにせよ、本発明の組成物の独特な特性により、好適なプロセス条件下で、ある濃度のニッケルを有する重質炭化水素原料が本組成物と接触したとき、重質炭化水素原料からニッケルを収着するまたは取り込むことが可能になると理論付けられる。ニッケルが本触媒または焼成粒子に沈着または収着されると、さらに取り込まれたニッケルにより、触媒の活性が改善される。焼成粒子中に最初に含まれている少量のニッケルは、原料中に存在するニッケルと反応する硫化水素を生成して脱硫活性を促進するために存在する必要があると考えられる。次いで、生成した硫化ニッケルは、最初に触媒中に存在しているニッケル部位へ移動すると考えられる。
【0019】
したがって、焼成粒子が、焼成粒子中のニッケル対モリブデンの(重量)比が少なくとも0.01:1の量または0.01:1より大きい量の、低濃度のニッケルを有することが望ましい。焼成粒子中のニッケル対モリブデンの重量比が0.4:1未満であることがさらに望ましい。一般に、本焼成粒子中のニッケル対モリブデンの(重量)比は0.01:1から0.35:1の範囲内とすべきである。焼成粒子中のニッケル対モリブデンの(重量)比は0.01:1から0.3:1の範囲内とするのが好ましい。重量比は、原子基準で計算され、表現される。
【0020】
本発明の組成物の別の態様において、焼成粒子が、焼成粒子中のニッケル対モリブデンの原子比が少なくとも0.01:1の量または0.01:1より大きい量の、低濃度のニッケルを有することが望ましい可能性がある。焼成粒子中のニッケル対モリブデンの原子比が0.4:1未満であることがさらに望ましくあり得る。一般に、本焼成粒子中のニッケル対モリブデンの原子比は0.01:1から0.35:1の範囲内とすべきであり、好ましくは、この範囲内で、焼成粒子のニッケル対モリブデンの原子比が0.01:1から0.3:1の範囲内とすべきである。
【0021】
焼成粒子の無機酸化物の量は、焼成粒子の約98重量パーセントまでの範囲内であってよい。典型的には、焼成粒子の無機酸化物は、焼成粒子の70から98重量パーセントの範囲の量、好ましくは75から98重量パーセントの範囲の量で存在する。
【0022】
焼成粒子が実質的にコバルトを含まないことがさらに望ましい可能性がある。いずれかの確証をもって知られているわけではないが、焼成粒子中のコバルトの物質の量の存在は、本組成物の自己活性化特性に負の影響を与える可能性があり、したがって、焼成粒子の自己活性化特性に悪影響を及ぼす可能性のある、ある量のコバルトは、ある濃度のニッケルを有する重質炭化水素原料の水素化において使用されるとき、焼成粒子中に存在すべきではないと考えられる。
【0023】
本明細書において「実質的にコバルトを含まない」という語句は、組成物にコバルトが存在する場合、組成物がある量のニッケルを有する重質原料の水素化処理、たとえば水素化脱硫において使用されるとき、組成物が、焼成粒子の自己活性化の特質に物質的に影響を与えない濃度でコバルトを含有するということを意味する。重質原料およびニッケル濃度は、本明細書の他の箇所で詳細に定義される。
【0024】
実質的にコバルトを含まないとは、典型的には、焼成粒子が、コバルトの実際の形態にかかわらず、金属として計算して、焼成粒子の総重量に対し、0.1重量パーセント(wt.%)未満のコバルトを含み得ることを意味する。好ましくは、コバルトは、焼成粒子中に、0.075重量パーセント未満の濃度で存在し、より好ましくは、0.05wt.%未満の濃度で存在する。焼成粒子は、実質的にコバルトを含まなくてもよい。
【0025】
本発明の組成物の重要な特徴は、組成物の特有の細孔構造である。本明細書で定義する特有の細孔構造および相対的に低濃度のニッケルの組合せは、炭化水素原料、特に各種ニッケル濃度を有する重質炭化水素原料を水素化処理するために用いられるとき、焼成粒子の独特な予期されない自己活性化特性をもたらすと考えられる。総細孔体積の相対的に大きな比率が70Åから150Åの範囲の中間サイズのメソ細孔として存在するとともに、あまり大きくはないが焼成粒子の総細孔体積の一定の割合が1000.Å超のマクロ細孔として存在するような物質の存在が、上で記載した機構に寄与し、組成物の細孔内の好適な場所へとニッケルが移動するおよび輸送されることを可能にする、最適な構造をもたらすと考えられる。
【0026】
焼成粒子の細孔構造において、焼成粒子の総細孔体積の少なくとも1パーセント(%)が1000Å超の直径を有する該焼成粒子の細孔に含まれている点も重要である。また、焼成粒子において、該焼成粒子の総細孔体積の10%未満が1000Å超の直径を有する細孔に含まれているべきである。焼成粒子の総細孔体積の2%から10%が1000Å超の直径を有する該焼成粒子の細孔として存在することが好ましく、より好ましくは、焼成粒子の総細孔体積の3%から9%が1000Å超の直径の細孔である。
【0027】
焼成粒子の中間サイズのメソ細孔に関しては、焼成粒子の総細孔体積の少なくとも40%であるが70%未満が、70Åから150Åの範囲の直径を有する該焼成粒子の細孔である。好ましくは、焼成粒子の総細孔体積の50%から70%が、70Åから150Åの範囲の直径を有する該焼成粒子の細孔である。
【0028】
さらに、焼成粒子の総細孔体積の少なくとも10%が、130Åから300Åの範囲の直径を有する該焼成粒子の細孔として存在することが望ましい。好ましくは、焼成粒子の総細孔体積の少なくとも15%、より好ましくは焼成粒子の総細孔体積の少なくとも20%が、130Åから300Åの範囲の直径を有する該焼成粒子の細孔である。
【0029】
本発明の触媒組成物は、先行技術の触媒と本発明の触媒組成物を区別するラマンスペクトル特性をさらに示し、このことは、本発明の触媒中に、先行技術の触媒中のモリブデンの形態とは異なる形態でモリブデン成分が存在することを示唆する。特に、本発明の触媒組成物によって示されるラマンバンドのいくつかは、モリブデンが、大部分がまたは実質的に、8面体配位されたモリブデンの形態で存在することを示すと考えられる。
【0030】
本発明の触媒は、約546cm
−1から約586cm
−1(たとえば、およそ566cm
−1)の全ラマン領域内にラマンピークを有するラマンスペクトルによって特徴付けられるという点において、他の触媒と区別できる。このピークは、好ましくは556cm
−1から576cm
−1のラマン領域内にあり、より好ましくは561cm
−1から571cm
−1のラマン領域内にあり、最も好ましくは562cm
−1から570cm
−1のラマン領域内にある。
【0031】
本発明の触媒は、約828cm
−1から約868cm
−1(たとえば、およそ848cm
−1)の範囲を含むラマン領域内にラマンピークを含むラマンスペクトルを示すものとして、さらに特徴付けられてもよい。このピークは、好ましくは838cm
−1から858cm
−1のラマン領域内にあり、より好ましくは843cm
−1から853cm
−1のラマン領域内にある。このラマン領域についてのとりわけ好ましい範囲は、845cm
−1から851cm
−1である。
【0032】
本発明の触媒はまた、約879cm
−1から約919cm
−1(たとえば、およそ899cm
−1)の範囲を含むラマン領域内にラマンピークを含むラマンスペクトルを有するものとして、さらに特徴付けられてもよい。このピークは、好ましくは889cm
−1から909cm
−1のラマン領域内にあり、より好ましくは894cm
−1から904cm
−1のラマン領域内にある。このラマン領域についてのとりわけ好ましい範囲は、896cm
−1から901cm
−1である。
【0033】
本発明の触媒はまた、上記のラマン領域の1つ以上の領域内に特徴的なラマンピークを示してもよい。この一例として、ラマンピークは546cm
−1から586cm
−1の範囲内であってよく、もしくはこのより広い範囲内であって上で記載したより狭い範囲のいずれかの範囲内であってよく、および/またはラマンピークは828cm
−1から868cm
−1の範囲内であってよく、もしくはこのより広い範囲内であって上で記載したより狭い範囲のいずれかの範囲内であってよく、および/またはラマンピークは879cm
−1から919cm
−1の範囲内であってよく、もしくはこのより広い範囲内であって上で記載したより狭い範囲のいずれかの範囲内であってよい。したがって、少なくとも1つのラマンピークが、ラマン領域について上記の列挙された範囲の1つ以上の範囲内に示されてもよく、または少なくとも1つのラマンピークが、ラマン領域について上記の列挙された範囲の任意の2つ以上のそれぞれの範囲内に示されてもよい。
【0034】
なお、上で挙げたラマンスペクトルの周波数は、cm
−1と略記されるラマンシフトとして与えられ、したがって、これらは実際には励起波長と検出波長の差分値である。
【0035】
ラマンスペクトルは、従来の実験室用ラマン分光計(たとえば、Chromex Sentinel II光ファイバーラマン分光計、または実質的に同一の試験結果をもたらす任意の他の好適なラマン分光計)を用い、40mwで785ナノメートルの励起波長を試料に照射することを含む条件下で測定されるものとする。ラマン分光計は、2nm/mm未満のスペクトル分解能を有していなければならない。
【0036】
本発明の焼成粒子を調製する際、出発材料を混合し、好ましくは共混練により、共混練混合物を形成する。共混練混合物の調製に必須の出発材料には、乾燥粉末または懸濁液もしくはスラリー中の粒子であってもよい、好ましくは微細に分割された粒子の形態である三酸化モリブデン、ニッケル成分および無機酸化物材料が含まれる。無機酸化物材料は、アルミナ、シリカおよびアルミナ−シリカからなる群から選択されてもよい。
【0037】
ニッケル成分は、共混練混合物の他の成分と混合され、粒子に成形され、焼成されて本発明の焼成粒子を形成し得る、任意の好適なニッケル化合物からなる群から選択されてもよい。ニッケル成分は、酸化ニッケルなどの酸化形態のニッケルであってもよく、ニッケル塩化合物であってもよい。好適に使用し得るニッケル酸化物化合物には、たとえば、ニッケルの水酸化物、ニッケルの硝酸塩、ニッケルの酢酸塩およびニッケルの酸化物が挙げられる。共混練混合物の調製において使用し得る1つの好ましいニッケル化合物は、硝酸ニッケルである。
【0038】
共混練混合物の形成は、タンブラー型、定置式シェル型または定置式トラフ型、マラーミキサー(バッチ式または連続式のいずれか)およびインパクトミキサーなどの好適な種類の固体混合機の使用、ならびに固体および液体を混合するためのまたは押出可能なペースト様混合物の形成のための、バッチ式または連続式いずれかのこのような好適な種類のミキサーの使用を含むが、これらに限定されない、当業者に公知の任意の方法または手段によって行われてもよい。好適な種類のバッチミキサーとしては、チェンジカンミキサー、定置式タンクミキサー、任意の好適な種類の撹拌翼を備えたダブルアーム混練用ミキサーが挙げられるが、これらに限定されない。好適な種類の連続ミキサーとしては、一軸スクリュー押出機または二軸スクリュー押出機、トラフ−スクリュー型ミキサー、ならびにパグミルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
焼成粒子の出発材料の混合は、共混練混合物を適切に均一化するのに必要な任意の好適な時間で実施されてもよい。一般に、混合時間は2時間までの範囲または3時間超の範囲であり得る。典型的には、混合時間は0.1時間から3時間の範囲内である。
【0040】
「共混練する」という用語は、本明細書において広く使用され、少なくとも列挙された出発材料を一緒に混合して共混練混合物である個々の成分の混合物を形成し、好ましくはこのような共混練混合物の個々の成分を実質的に一様または均一な混合物とすることを意味する。この用語は、出発材料を混合し、公知の押出法のいずれかによって押し出すまたは押出粒子に成形することを可能とする特性を示すペーストを産することを含むように、十分に広い範囲であることを意図している。しかし、この用語はまた、出発材料を混合し、好ましくは実質的に均一であり、モールディング、打錠、プレス、ペレット化、押出およびがら研磨を含むがこれらに限定されない当業者に公知の方法のいずれかによって、成形粒子(たとえば、回転楕円体、丸剤型もしくは錠剤型、円筒形、不規則形の押出物または緩く結合しているだけの凝集体もしくはクラスター)に凝集させることができる混合物を産することを包含することを意図している。
【0041】
既に指摘したように、焼成粒子のモリブデン源の少なくとも主要な部分の大部分が三酸化モリブデンであることは、本発明の重要な態様である。焼成粒子の出発材料を混合するまたは共混練する際、三酸化モリブデンが、微細に粉末化された固体または懸濁液もしくはスラリー中の微細な粒子のいずれかである、微細に分割された状態であることが好ましい。触媒の製造において使用される粒子状三酸化モリブデンの粒子サイズが、0.5mm(500ミクロン、μm)未満の最大寸法であり、好ましくは0.15mm(150μm)未満の最大寸法であり、より好ましくは0.1mm(100μm)未満の最大寸法であり、最も好ましくは0.075mm(75μm)未満の最大寸法であることが最良である。
【0042】
確証をもって知られているわけではないが、本発明の焼成粒子の製造において使用される三酸化モリブデンが実際的に可能な限り小さい粒子の形態であることは、本発明にとって有利であると考えられる。したがって、焼成粒子の製造において使用される三酸化モリブデンの粒子サイズに下限を有することは望ましくない。しかしながら、焼成粒子の製造において使用される三酸化モリブデンの粒子サイズは、一般に0.2ミクロン超のサイズに下限を有するものと理解される。したがって、本発明の焼成粒子の製造における共混練混合物の形成において使用される三酸化モリブデンの粒子サイズは、好ましくは0.2から150μmの範囲にあり、より好ましくは0.3から100μmの範囲にあり、最も好ましくは0.5から75μmの範囲内である。典型的には、三酸化モリブデン粒子のサイズ分布は、乾燥粉末においてであれ、懸濁液においてであれ、他の形態においてであれ、少なくとも50パーセントの粒子が2から15μmの範囲の最大寸法を有する。
【0043】
焼成粒子の出発材料を適切に混合し、成形された(shaped or formed)粒子に成形した時点で、有利には、共混練混合物または成形された粒子の中に含まれるある量の水または揮発性物質を除去するために、乾燥ステップが用いられてもよい。成形された粒子の乾燥は、過剰な水または揮発性を除去するために好適な任意の温度で実施されてもよいが、好ましくは、乾燥温度は約75℃から250℃の範囲内である。粒子を乾燥させる時間は、焼成ステップの前に粒子の揮発性物質含有量の所望の減少量を実現するのに必要な、任意の好適な時間である。
【0044】
乾燥されたまたは乾燥されていない粒子は、空気などの酸素含有流体の存在中で、所望の焼成度を達成するのに好適な温度で焼成される。一般に、焼成温度は450℃(842°F)から900℃(1652°F)の範囲内である。粒子が焼成される温度条件は、焼成粒子の細孔構造の制御にとって重要であり得る。成形された粒子における三酸化モリブデンの存在により、要求される細孔構造を有する焼成粒子を生成するのに必要とされる焼成温度は、無機酸化物材料を含有する他の組成物、とりわけ三酸化モリブデンを含有しない組成物を焼成するのに要求される典型的な温度よりも高い。しかし、いずれにせよ、成形された粒子を焼成して焼成粒子を生成する温度は、本明細書で詳細に記載される細孔構造特性を有する焼成粒子を生成するように制御される。好ましい焼成温度は、510℃(950°F)から820℃(1508°F)であり、最も好ましくは、700℃(1292°F)から790℃(1454°F)の範囲内である。
【0045】
本焼成粒子は、高含有量のピッチ、有機金属(たとえば、ニッケル化合物およびバナジウム化合物)および硫黄を有する重質原料流の水素化において使用するための高活性水素化触媒として、特に有用である。焼成粒子は、その使用に先立ち、要求されるわけではないが、当業者に公知の方法のいずれかにより、硫化または活性化されてもよい。一般に、炭化水素原料の水素化において焼成粒子を使用する際、焼成粒子は反応容器によって区画されるような反応帯内に収容され、この中で、好適な水素化反応条件下で炭化水素原料を焼成粒子と接触させ、これにより、処理された炭化水素生成物を産する。
【0046】
本発明の方法の好ましい炭化水素原料は、重質炭化水素原料である。重質炭化水素原料は、常圧塔軽油、常圧塔底液、減圧塔軽油および減圧塔底液または残油などの高沸点石油留分のいずれかに由来してもよい。300℃(572°F)を超える5%蒸留温度(すなわち、T(5))(ASTM D−1160に記載の試験手順を用いて決定される。)で沸点を有すると一般に定義できる重質炭化水素原料の水素化を実現することは、本発明の方法の特に有用な態様である。本発明は、より具体的には、315℃(599°F)を超えるT(5)を有する重質炭化水素原料の水素化を対象とし、さらには340℃(644°F)を超えるT(5)を有する重質炭化水素原料の水素化を対象とする。
【0047】
重質炭化水素原料は、538℃(1000°F)を超える沸点を有するより重質の炭化水素をさらに含んでいてもよい。これらのより重質の炭化水素は、本明細書ではピッチと称され、既に指摘したとおり、本発明の触媒または方法の特別な特徴の1つは、重質炭化水素原料のピッチ含有物の水素化変換において特に効果的である点であると認識される。重質炭化水素原料は、10体積パーセントという少なさのピッチまたは90体積パーセントという多さのピッチを含んでいてもよいが、一般に、重質炭化水素原料に含まれるピッチの量は20から80体積パーセントの範囲内である。そして、より典型的には、重質炭化水素原料中のピッチ含有量は30から75体積パーセントの範囲内である。
【0048】
重質炭化水素原料は、著しく高い硫黄含有量をさらに含んでいてもよい。本発明の特別な特徴の1つは、本発明が重質炭化水素原料の脱硫および脱金属を実現する点にある。重質炭化水素原料の硫黄含有物は、主に有機硫黄含有化合物の形態であり、有機硫黄含有化合物としては、たとえば、メルカプタン、置換チオフェンもしくは非置換チオフェン、複素環式化合物または任意の他の種類の硫黄含有化合物が挙げられる。
【0049】
本発明の特徴は、本発明が、著しく高い硫黄含有量(たとえば、典型的には1重量パーセントよりはるかに大きい。)を有する重質原料の脱硫を実現し、低減された硫黄含有量(たとえば、1重量パーセント未満、好ましくは0.75wt.%未満、より好ましくは0.5wt.%未満)を有する処理された炭化水素生成物をもたらす点にある。
【0050】
本明細書において重質炭化水素原料または処理された炭化水素生成物のいずれかの硫黄含有量に言及する場合、重量パーセントは試験法ASTM D−4294を用いることによって決定される。
【0051】
本発明の方法は、2重量パーセントを超える硫黄含有量を有する重質炭化水素原料の処理において特に有用であり、このような重質炭化水素原料では、硫黄含有量は2から8重量パーセントの範囲内であってもよい。本発明の触媒および方法は、3重量パーセントを超えるまたは4重量パーセントさえをも超え、3から7重量パーセントの範囲内であるまたは4から6.5重量パーセントの範囲内でさえある、とりわけ高い硫黄含有量を有する重質炭化水素原料の処理において、とりわけ有用である。
【0052】
本発明の方法は、重質炭化水素原料の水素化において触媒として本発明の焼成粒子を利用し、脱硫、脱窒素、マイクロカーボン残渣の変換ならびにバナジウムおよびニッケルの除去を同時に実現する。この方法において、重質炭化水素原料を好適な水素化脱硫プロセス条件および水素化変換プロセス条件の下で本発明の触媒と接触させ、処理された炭化水素生成物を産する。
【0053】
本発明の方法の一実施形態は、著しく高い濃度のニッケルを有する重質炭化水素原料のであり、上で指摘したとおり、本発明の方法のこの実施形態における重要な特徴は、独特な物理的特性および特定の金属付加量および相対的に低いニッケル含有量を有する本発明の焼成粒子を、著しく高いニッケル含有量を有する重質炭化水素原料と組み合わせて使用することである。ニッケル含有重質炭化水素原料の処理における本発明の組成物の使用および本発明の組成物の低いニッケル含有量により、重質炭化水素原料由来のニッケルが触媒上に沈着されるまたは触媒によって取り込まれるに従い、触媒の活性は改善されると考えられる。
【0054】
したがって、本発明の方法における重質炭化水素原料のニッケル含有量は、典型的には有機ニッケル化合物の形態である、夾雑物の濃度のニッケルを有する。重質炭化水素原料のニッケル濃度は、典型的には、2ppmwから250ppmwの範囲内である。本発明の方法における炭化水素原料は、5ppmwから225ppmwの範囲内であるニッケルの濃度を有することが望ましく、ニッケル濃度が7ppmwから200ppmwの範囲内であることがより望ましい。
【0055】
重質炭化水素原料はまた、典型的には5ppmwから250ppmwであり得るバナジウム濃度を有していてもよい。重質炭化水素原料はできるだけ少ないバナジウムを含有することが望ましいが、本発明の組成物は脱金属を実現し、したがって、重質炭化水素原料からのバナジウムの除去を実現する。より典型的には、重質炭化水素原料のバナジウム濃度は10ppmwから225ppmwの範囲内である。
【0056】
処理された炭化水素生成物は、重質炭化水素原料の硫黄含有量を下回る低減された硫黄含有量(たとえば、1重量パーセント未満の硫黄含有量)を有しているべきである。しかしながら、本発明の方法は、重質炭化水素原料を効果的に脱硫し、供給物体積と比較して、使用された触媒の量に対して、0.5重量パーセント未満、さらには0.4重量パーセント未満の低減された硫黄含有量を有する、処理された炭化水素生成物をもたらす能力を有し得ることが理解される。
【0057】
本発明の焼成粒子(触媒)は、好適な水素化条件下(水素の存在ならびに全圧および温度の上昇が含まれ得る。)で触媒と重質炭化水素原料との接触が可能な、任意の好適な反応器系の一部として用いられてもよい。このような好適な反応系として、固定触媒床系、沸騰床触媒系、スラリー触媒系および流動触媒床系が挙げられる。好ましい反応器系は、反応容器内に収容された、本発明の触媒からなる固定床を含む反応器系であり、該反応容器は、重質炭化水素原料を反応容器内へ導入するための、供給ノズルなどの反応器供給物入口手段、および反応器流出物または処理された炭化水素生成物を反応容器から取り出すための、流出物出口ノズルなどの反応器流出物出口手段を備える。
【0058】
本発明の方法は、一般に、2298kPa(300psig)から20,684kPa(3000psig)の範囲の水素化(水素化変換および水素化脱硫)反応圧力で、好ましくは10,342kPa(1500psig)から17,237kPa(2500psig)の範囲の水素化反応圧力で、より好ましくは12,411kPa(1800psig)から15,513kPa(2250psig)の範囲の水素化反応圧力で行う。水素化反応温度は、一般に、340℃(644°F)から480℃(896°F)の範囲内であり、好ましくは360℃(680°F)から455℃(851°F)の範囲内であり、最も好ましくは380℃(716°F)から425℃(797°F)の範囲内である。
【0059】
本発明の方法における反応帯に投入される重質炭化水素原料の流量は、一般に、0.01hr
−1から3hr
−1の範囲内の液空間速度(LHSV)をもたらすような流量である。「液空間速度」という用語は、本明細書において使用される場合、重質炭化水素原料が本発明の方法における反応帯に投入される速度(1時間あたりの体積)を、重質炭化水素原料が投入される反応帯に収容されている触媒の体積で割った、数値比を意味する。好ましいLHSVは0.05hr
−1から2hr
−1の範囲内にあり、より好ましくは0.1hr
−1から1.5hr
−1の範囲内にあり、最も好ましくは0.2hr
−1から0.7hr
−1の範囲内である。
【0060】
水素を重質炭化水素原料とともに本発明の方法における反応帯に投入することが好ましい。この場合、水素は水素処理ガスと称されることがある。水素処理ガス率は、反応帯に投入される重質炭化水素原料の量に対する水素の量であり、一般に、1781m
3/m
3(10,000SCF/bbl)までの範囲内である。処理ガス率が、89m
3/m
3(500SCF/bbl)から1781m
3/m
3(10,000SCF/bbl)までの範囲内であることが好ましく、178m
3/m
3(1,000SCF/bbl)から1602m
3/m
3(9,000SCF/bbl)までの範囲内であることがより好ましく、356m
3/m
3(2,000SCF/bbl)から1425m
3/m
3(8,000SCF/bbl)までの範囲内であることが最も好ましい。
【実施例】
【0061】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために示されるが、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0062】
[実施例I]
この実施例Iは、本発明の触媒の一実施形態を代表する触媒Aの調製を記載する。
【0063】
触媒A
まず、2100重量部のアルミナ(わずか2%のシリカを含有)、加熱により85.04重量部の脱イオン水中に溶解させた63.17重量部の硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2)、217.05重量部の三酸化モリブデン(MoO
3)粉末および900重量部の粉砕された再生Ni/Mo/P水素化処理触媒を、マラーミキサー内で、130重量部の69.9%濃硝酸および30グラムの市販の押出助剤とともに合わせることにより、触媒Aを調製した。混合中、総量で3222.9重量部の水をこれらの成分に添加した。これらの成分をおよそ30分間混合した。混合物は、4.12のpHおよび55.21重量パーセントのLOIを有していた。次いで、混合物を1.3mm trilobeダイを使用して押し出し、1.3trilobe押出粒子を形成した。次いで、押出粒子を100℃の温度で数時間空気中で乾燥した。
【0064】
乾燥した押出粒子のアリコート部分を、704℃(1300°F)の温度でそれぞれ2時間、空気中で焼成した。最終的な焼成混合物は2.2重量パーセントのニッケル金属(NiOとして2.8wt.%)および7.9%のモリブデン金属(MoO
3として11.9wt.%)および、83.6重量パーセントのアルミナ(わずか2%のシリカを含有)および1.7%のリンを含有していた。
【0065】
以下の表1は、乾燥および焼成した押出粒子のいくつかの特性を示す。表1中で示される焼成押出物の細孔特性からわかるように、1000オングストローム(Å)超の細孔直径を有するマクロ細孔に含まれる総細孔体積に対する百分率は、少なくとも1%または1%超であるが10%未満である。70から150Åの範囲内である細孔直径を有する細孔に含まれる総細孔体積に対する百分率は、少なくとも40%または40%超であるが70%未満である。そして、100から150Åの範囲内である細孔直径を有する細孔に含まれる総細孔体積に対する百分率は、70%未満である。なお、総細孔体積の少なくとも10%が150から300Åの範囲内である直径を有する細孔に含まれるとともに、総細孔体積の少なくとも10%が130から300Åの範囲内である直径を有する細孔に含まれる点も重要である。
【0066】
【表1】
【0067】
[実施例II]
この実施例IIは、比較のための共混練触媒である触媒Bの調製を記載する。
【0068】
触媒B
まず、2100重量部のアルミナ、64.18重量部の脱イオン水中に溶解させた47.68重量部の硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2)および900重量部の粉砕された再生Co/Mo/P水素化処理触媒(69%のアルミナ、23%の酸化モリブデン、5.5%の酸化コバルトおよび3.5%の五酸化リンを含有)を、マラーミキサー内で、64.56部の69.7%濃硝酸および60グラムの市販の押出助剤とともに合わせることにより、触媒Bを調製した。混合中、総量で3900重量部の水をこれらの成分に添加した。これらの成分をおよそ30分間混合した。133.56部の水酸化アンモニウム(29.2% NMH
3)をさらに添加し、さらに5分間混合した。混合物は、7のpHおよび54.92重量パーセントのLOIを有していた。次いで、混合物を1.3mm trilobeダイを使用して押し出し、1.3trilobe押出粒子を形成した。次いで、押出粒子を125℃の温度で数時間空気中で乾燥した。
【0069】
乾燥した押出粒子のアリコート部分を、677℃(1251°F)の温度でそれぞれ2時間、空気中で焼成した。最終的な焼成混合物は1.5重量パーセントのニッケル金属(NiOとして1.9wt.%)、1.0重量パーセントのコバルト(1.25wt.% CoO)および5.3%のモリブデン金属(MoO
3として8.0wt.%)および88.18重量パーセントのアルミナおよび0.72%の五酸化リンを含有していた。
【0070】
以下の表1は、乾燥および焼成した押出粒子のいくつかの特性を示す。表1中で示される細孔特性からわかるように、1000オングストローム超の細孔直径を有するマクロ細孔に含まれる総細孔体積に対する百分率は、10%を著しく超えていた。
【0071】
【表2】
【0072】
[実施例III]
この実施例IIIは、比較のための含浸触媒である触媒Cの調製を記載する。
【0073】
触媒C(含浸触媒)
触媒Cに対する触媒支持体の調製:支持体を、576グラムのアルミナを585グラムの水および8グラムの氷硝酸と35分間混練することにより調製した。得られた混練混合物を1.3Trilobe(商標)ダイプレートを通して押し出し、90から125℃で乾燥させ、次いで、918℃で焼成し、182Åの細孔直径中央値を有する650グラムの焼成支持体を得た。
【0074】
含浸触媒:ニッケル/モリブデン触媒を以下の方法で調整した。9.2部のNiO、8.3部のリン酸(86.7% H
3PO
4)および43.3部の三酸化モリブデンを250部の水と合わせ、93℃(200°F)で3時間、溶液が透明になるまで加熱した。溶液をタンブラーの中で277.5部に希釈して300部の支持体を含浸し、タンブラーを振とうし、ときどき撹拌をしながら2時間使用し、125°で数時間乾燥し、次いで、482.2℃で2時間焼成した。得られた触媒は、12%のMoO
3、2.5%のNiOおよび2.25%のP
2O
5を含有していた。
【0075】
含浸触媒は、215Åの細孔直径中央値、0.738cm
3/gの細孔体積および136m
2/gの表面積を有する細孔サイズ分布を有していた。細孔の総数の1.1%だけが1000Å超の細孔サイズ分布中にあり、0.5%未満が5000Å超の細孔中にあった。
【0076】
本実施例は、含浸Mo/Ni触媒の調製を明示する。触媒Cは、触媒Aが含有するのと類似した量のNiOならびに触媒BにおけるNiOおよびCoOを合わせた量と類似したNiOのレベルを含有する。触媒CのMoO
3含有量は、触媒AのMoO
3含有量に類似している。
【0077】
【表3】
【0078】
[実施例IV]
この実施例IVは、実施例I、実施例IIおよび実施例IIIで記載された触媒を試験する際に使用される方法を記載する。この方法は、著しく高い硫黄濃度を有する原料を処理して低減された硫黄濃度を有する生成物を産することを可能にした。原料はまた、著しく高いニッケル濃度およびバナジウム濃度も含む。
【0079】
触媒を内径1.5875cm(5/8インチ)×127cm(50インチ)のステンレス鋼製管型反応器内に装填した。管型反応器は、触媒床へと同心円状に挿入された0.635cm(1/4インチ)のサーモウェルに設置された熱電対を備え、管型反応器は、長さ132cm(52インチ)で、それぞれの帯が熱電対からの信号に基づいて別個に制御される、5帯を有する炉の内部に保持された。
【0080】
触媒床は、周囲圧力で5vol.%のH
2Sおよび95vol.%のH
2の気体混合物を反応器に1.5LHSVの速度で供給し、同時に反応器温度を38℃(100°F)/hrの速度で204℃(400°F)まで上昇させることにより、活性化させた。触媒床を204℃(400°F)の温度で2時間維持し、次いで、温度を38℃(100°F)/hrの速度で315℃(600°F)まで徐々に上昇させ、ここで触媒床を1時間保持し、その後再び、温度を24℃(75°F)/hrの速度で371℃(700°F)まで上昇させ、ここで触媒床を2時間保持し、その後冷却し、触媒床温度を周囲温度まで下げた。次いで、触媒床を純粋な水素により1900psigで加圧し、触媒床の温度を38℃(100°F)/hrの速度で204℃(400°F)まで徐々に上昇させた。次いで、反応器に、反応器の温度を204℃(400°F)で1時間保持しながら原料を投入した。次いで、触媒床の温度を10℃(50°F)/hrの速度で371℃(700°F)まで徐々に上昇させ、その時点から実験を開始した。
【0081】
反応器に投入された原料は中東産常圧蒸留残油であった。ASTM Method D 7169により決定される原料の蒸留特性を、表4に示す。原料の他の特性を表5に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
原料を水素ガスとともに反応器に投入した。反応器を1900psigの圧力で維持し、原料を1.00hr
−1の液空間速度(LHSV)となるような速度で反応器に投入し、4,000SCF/bblの率で水素を投入した。反応器の温度を371℃(700°F)に設定した。
【0085】
この方法により、著しく高い濃度の硫黄、金属(NiおよびV)およびコンラドソン炭素を有する原料の処理が実現した。反応器温度を、これらの反応を実施している間一定に保ち、硫黄含有量をモニタリングした。本発明の触媒は、流出の時間が0から1カ月に増加するにつれ、活性が改善した。比較対象である共混練触媒および含浸触媒の両方では、時間とともに活性が減少した。約1カ月の処理の後、本発明の触媒は、活性実験の開始から2倍近くの活性を示したが、一方、含浸触媒は、その最初の硫黄除去に対する活性の約半分を失った。
【0086】
以下の表6は、本発明の触媒を用いた自己活性化の現象を説明する。自己活性化の現象は硫黄除去活性についてのみ観察されたが、結果として得られる有益な活性効果は、コンラドソン炭素残渣の除去のような他の変換活性において観察された。
【0087】
【表6】
【0088】
図
2に表すのは、触媒A、触媒Bおよび触媒Cのそれぞれに対する、触媒使用時間の関数としての脱硫速度定数のプロットである。触媒Bおよび触媒Cのそれぞれについての速度定数は、最初は高レベルで開始したが、2つの触媒のそれぞれについての速度定数は、使用、すなわち使用時間とともに減少したことが観察される。しかしながら、本発明の触媒Aは最初はより低い速度定数で開始したが、その低濃度のニッケルのためであった可能性があるが、速度定数は使用、すなわち使用時間とともに増加したことが観察される。大半の先行技術の触媒の活性は使用とともに減少するため、この自己活性化の現象は予期されないものである。
【0089】
図
3もまた、触媒Aが、経時的な使用とともにHDS活性の改善を伴う自己活性化特性を示すことを示す。一方、比較触媒C(含浸触媒)のHDS活性は、より高い初期HDS活性を有していたが、経時的な使用とともに減少した。
【0090】
図
1は、本発明の触媒Aおよび比較触媒Cを使用した残渣原料の水素化脱硫から得られた液体生成物の硫黄含有量の、触媒使用時間の関数としての比較プロットを表す。これらのデータは、本発明の触媒の自己活性化現象をさらに実証する。
【0091】
[実施例V]
この実施例Vは、本発明の触媒の一実施形態を代表する触媒Dの調製を記載し、また、市販されている含浸ニッケル/モリブデン触媒に関する情報も示す。
【0092】
触媒D
まず、2100重量部のアルミナ、加熱により85.04重量部の脱イオン水中に溶解させた63.17重量部の硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2)、217.05重量部の三酸化モリブデン(MoO
3)粉末および900重量部の粉砕されたNi/Mo/P水素化処理触媒を、マラーミキサー内で、130重量部の69.9%濃硝酸および30グラムの市販の押出助剤とともに合わせることにより、触媒Dを調製した。混合中、総量で3222.9重量部の水をこれらの成分に添加した。これらの成分をおよそ30分間混合した。混合物は、4.12のpHおよび55.21重量パーセントのLOIを有していた。次いで、混合物を1.3mm trilobeダイを使用して押し出し、1.3trilobe押出粒子を形成した。次いで、押出粒子を100℃の温度で数時間空気中で乾燥した。
【0093】
乾燥した押出粒子を788℃(1450°F)の最大温度でおよそ2時間、空気中で焼成した。最終的な焼成混合物は2.2重量パーセントのニッケル金属(NiOとして2.8wt.%)、7.9%のモリブデン金属(MoO
3として11.9wt.%)、82.6重量パーセントのアルミナおよび0.7%のリンを含有していた。
【0094】
以下の表
7は、乾燥および焼成した押出粒子のいくつかの特性を示す。表1中で示される焼成押出物の細孔特性からわかるように、350(Å)超の細孔直径を有するマクロ細孔に含まれる総細孔体積に対する百分率は、20%未満であり、細孔体積の少なくとも1%が1000Å超の直径を有する細孔に含まれ、70から250Åの範囲内である細孔直径を有する細孔に含まれる総細孔体積に対する百分率は、90%超である。細孔直径中央値は、少なくとも115Å超、155Å未満である。
【0095】
【表7】
【0096】
触媒E
触媒Eは、Criterion Catalyst Companyが販売する、市販の完成品ニッケル/モリブデン/リン触媒である。この触媒は、アルミナ支持体上に、ニッケル、モリブデンおよびリンを含む。この触媒は、本発明の共混練触媒とは対照的に、含浸触媒である。触媒Eは、19.3%のMoO
3、4.62%のNiOおよび4.7%のP
2O
5を含有する。
【0097】
[実施例VI]
この実施例は、それぞれ上の実施例Vで記載された、触媒D(発明)および触媒Eのラマンスペクトル、ならびにラマンスペクトルを測定する手順を示す。
【0098】
ラマン分光法のために、本発明の触媒および比較触媒の試料を、めのう乳鉢および乳棒で0.25グラムの各触媒試料を個別に粉砕し、5分間、試料全体が微細粉に達するまで細砕することにより、調製した。次いで、均一化した試料を、13mm赤外線ペレットプレスを使用して圧縮してペレットにした。Chromex Sentinel II光ファイバーラマン分光計でラマンスペクトルを取得した。スペクトルを試料に対し40mWで785nmにおいて励起し、10秒の露光時間および20スキャンを一緒に課した。試料をスキャンの前後で視覚的に確認し、レーザー損傷の何らかの証拠を探した。
【0099】
【表8】
【0100】
触媒Dおよび触媒Eについて個別のラマンスペクトルを
図4に示す。
図4に表されるラマンスペクトルは、本発明の触媒および比較触媒のそれぞれについて、約200cm
−1から約2100cm
−1のラマンスペクトルの周波数範囲をカバーしている。
【0101】
本発明の触媒Dのラマンスペクトルは、比較触媒Eによって示されない、いくつかのラマンバンドを示し、それにより、比較触媒Eのラマンスペクトルと区別できる本発明の触媒Dの特徴的なラマンスペクトルとなっている点が注目される。たとえば、本発明の触媒は566.4cm
−1、848.3cm
−1および898.9cm
−1においてラマンピークを示すが、比較触媒はこれらの周波数においてラマンピークを示さない。
【0102】
比較触媒と比較すると、本発明の触媒のラマンスペクトルは、本発明の触媒が、900cm
−1から800cm
−1の範囲においてMo=Oストレッチングモードの異なる分布を示しており(848cm
−1および899cm
−1におけるラマンスペクトルがMo=O結合を示す。)、このことがこの触媒のより秩序立った環境およびMoO
6成分のより少ない歪みを意味していることを示している。非対称MoO
3屈曲はまた、566cm
−1において本発明の触媒に対してより突出する。
【0103】
ラマンスペクトルにおけるこれらの相違は、本発明の触媒が比較触媒、特に、含浸型触媒に対して独特のものであることを実証している。本発明の触媒の独自性は、本明細書において指摘したように、これらの改善された触媒性能によってさらに実証される。