(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る電源装置10は、
図1及び
図2に示すように、電線路の支持物101に架設された架空電線102に対して長手方向を略平行に対向して配設される長尺状の誘導電極20と、電線路の支持物101に固定され、誘導電極20を支持する支持体30と、誘導電極20及び大地300間の浮遊静電容量(以下、「誘導電極20の対地静電容量C
0」と称す)に対して並列に接続され、一次電圧(例えば、AC13kVrms)を降圧させて二次電圧(例えば、AC130Vrms)を出力する変圧器1(transformer:TR)と、変圧器1の二次側に二次巻線に対して並列に接続されるコンデンサC
1と、一端(変圧器1の一次側の一端側)を誘導電極20に接続し、他端(変圧器1の一次側の他端側)を接地する絶縁電線などからなる入力部40と、変圧器1の二次側の両端から引き出され、誘導電極20の対地静電容量C
0及びコンデンサC
1と変圧器1の励磁サセプタンスb
0とによる並列回路を並列共振回路として、負荷200に電力を供給するための絶縁電線などからなる出力部50と、を備える。
なお、変圧器1の二次側に二次巻線に対して並列に接続されるコンデンサC
1は、
図1に図示していないが、例えば、電源装置10の制御ボックス(制御回路)に配設される。
【0011】
誘導電極20の材質は、A相の架空電線102及び誘導電極20間の浮遊静電容量C
Aと、B相の架空電線102及び誘導電極20間の浮遊静電容量C
Bと、C相の架空電線102及び誘導電極20間の浮遊静電容量C
Cとを合成した静電容量(以下、「合成静電容量C
N」と称す)によって静電誘導作用を生じるものであれば、ステンレスなどの金属に限られるものではなく、導電性又は半導電性の合成樹脂を用いてもよい。なお、本実施形態においては、外形40mm、内径34mm及び長さ2mのアルミニウムパイプを用いている。
【0012】
また、支持体30は、一端31aが電線路の支持物101側に固定され、他端31bが当該電線路の支持物101から離隔して誘導電極20を支持して配設される長尺状体31と、長尺状体31の中間に配設され、長尺状体31が延出する下方に向かって開口する空隙32aを、長尺状体31との間に有する着雪防止部32と、を備える。
【0013】
すなわち、支持体30を構成する着雪防止部32は、長尺状体31の中間に配設されていて、長尺状体31が延出する下方に向かって開口する空隙32aを、長尺状体31との間に有する構成であれば、長尺状体31の延出する方向が上方(上向き方向)か下方(下向き方向)かは特に限定されないものである。
【0014】
ここで、主要な鉄塔では、送電線と鉄塔主柱間とが近距離に設計されていることから、
図1(c)に示すように、鉄塔(電線路の支持物101)を構成する鉄塔腕金(腕金部101a)及び鉄塔主柱(主柱部101b)のうち、鉄塔主柱(主柱部101b)に電源装置10を設置し、且つ、長尺状体31の延出する方向を送電線に近付く方向(上方)として設置することによって、送電線からより強い電界強度を得ることが可能となり、結果的に電源装置10が得る電力の増大を図ることができる。
【0015】
このような場合には、長尺状体31が上方に向かって延出して他端31bに誘導電極20を配設する構成であり、着雪防止部32は、空隙32aの開口が長尺状体31の一端31a側の下方に向かって形成される構成とすることができる。
【0016】
すなわち、支持体30は、一端31aが電線路の支持物101側に固定され、他端31bが当該電線路の支持物101から離隔して配設される長尺状体31と、長尺状体31の他端31bに連結され、誘導電極20を支持し、誘導電極20の下側に配設され、長尺状体31との間に空隙32aを有する着雪防止部32と、を備えて構成される。
【0017】
なお、本実施形態に係る支持体30は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、筒状の長尺状体31とドーム状の着雪防止部32とをFRP(fiberglass reinforced plastics:繊維強化プラスチック)で一体成形した傘状体であり、着雪防止部32の上部に誘導電極20を配置して、誘導電極20に接続する絶縁電線(高圧絶縁電線41)を長尺状体31内に配設させる。なお、このFRPについては、表面加工処理の有無は特に限定されるものではないが、より好ましくは、表面の撥水性を高めるような公知の技術によって表面加工されたものを用いることであり、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリマーやシリコーン等を用いて表面を被覆することができる。このような加工処理によって、表面上の水分が弾かれ易くなって取り除かれ、水分の浸透によるFRPの電気的な抵抗特性の劣化、さらにそれに伴う電気的損失を抑制することができる。
【0018】
また、本実施形態に係る支持体30は、長尺状体31の一端31aと電線路の支持物101との間に、変圧器1を内包する筐体33を備える。
筐体33は、
図1(a)に示すように、着雪を抑制する上面が傾斜した三角屋根を有する箱状体であり、変圧器1の一次側の他端側を接地するために金属製である。
【0019】
また、本実施形態に係る電源装置10は、変圧器1の一次側の一端側(高圧側)及び変圧器1の一次側の他端側(接地側)間に接続され、落雷により誘起される高電圧を放電させて電圧を抑制するアークホーン(放電電極)2と、作業者の感電を防止するショートアース(短絡接地機構)3と、を備える。
【0020】
ここで、変圧器1において、第1の仮定として、磁束はすべて鉄心の中だけを通り両巻線に鎖交すること、第2の仮定として、巻線の抵抗は無視できること、第3の仮定として、鉄損は無視できること、第4の仮定として、鉄心の飽和は無視できること、第5の仮定として、鉄心の透磁率が無限大で励磁電流も無視できること、の5つを仮定した仮想上の変圧器を理想変圧器1aという。
【0021】
理想変圧器1aでは仮定により、磁束はすべて鉄心の中だけを通り両巻線に鎖交するものとした。しかし、実際の変圧器1では、一次及び二次の両巻線と鎖交する主磁束の他に、一次巻線とだけ鎖交し二次巻線と交わらない磁束と、二次巻線とだけ鎖交し一次巻線と交わらない磁束が存在し、これらは漏れ磁束という。
【0022】
この漏れ磁束による起電力は、漏れ磁束のない理想変圧器1aの一次巻線及び二次巻線にそれぞれ直列に接続されたインダクタンスによって生じるリアクタンス電圧降下として取り扱うことができる。したがって、一次漏れリアクタンスをx
1、二次漏れリアクタンスをx
2とすれば、その影響を、
図2(a)に示すように、理想変圧器1aの一次巻線及び二次巻線とそれぞれ直列に接続された漏れリアクタンスx
1、x
2として表わすことができる。
【0023】
また、理想変圧器1aでは仮定により巻線の抵抗を無視したが、実際の変圧器では巻線に抵抗があるために、それによる電圧降下と銅損を伴う。したがって、一次巻線の抵抗をr
1、二次巻線の抵抗をr
2とすれば、その影響を、
図2(a)に示すように、理想変圧器1aの一次巻線及び二次巻線とそれぞれ直列に接続された抵抗r
1、r
2として表わすことができる。
【0024】
また、一次と二次の結合コイルを理想変圧器1aとするためには、
図2(a)に示すように、一次コイルと並列に励磁電流の通路を設けてやればよい。この分路は鉄損電流の通路となる励磁コンダクタンスg
0と磁化電流の通路となる励磁サセプタンスb
0の並列回路からなる。
【0025】
このように、
図2(a)に示すように、変圧器1は、一次巻線の抵抗r
1、一次漏れリアクタンスx
1、励磁サセプタンスb
0、励磁コンダクタンスg
0、理想変圧器1a、二次巻線の抵抗r
2及び二次漏れリアクタンスx
2からなる等価回路で表わすことができる。
【0026】
また、変圧器1における、一次巻線の抵抗r
1及び一次漏れリアクタンスx
1からなる合成インピーダンスZ
1、並びに二次巻線の抵抗r
2及び二次漏れリアクタンスx
2からなる合成インピーダンスZ
2は、わずかな電圧降下として作用するが、ここでの電圧降下は一般的には非常に小さく、回路に対する影響が少ないために無視することができる。
【0027】
なお、変圧器1の励磁サセプタンスb
0は、誘導電極20を対向させる架空電線102の種類と、誘導電極20の仕様と、誘導電極20及び架空電線102間の間隙とが決まっているのであれば、誘導電極20の対地静電容量C
0との並列共振の条件を満たすように変圧器1の一次巻線の巻数やコアの特性を適宜選定すればよい。しかしながら、一般的には架空電線102の種類は多様であり、必要な電力に応じて誘導電極20のサイズを大きくする場合もあり、また、支持物101の状況次第では誘導電極20及び架空電線102間の間隙を変更せざるを得ないなどの事情が生じることが多い。したがって、想定される誘導電極20の対地静電容量C
0のインピーダンスに対して変圧器1の励磁サセプタンスb
0のインピーダンスをわずかに低く設定しておき、変圧器1の二次側のコンデンサC
1を増減させて共振状態にする方式を採用する方が現場適応性に優れている。
【0028】
ここで、誘導電極20の対地静電容量C
0及び変圧器1の二次側のコンデンサC
1と変圧器1の励磁サセプタンスb
0とによって並列共振させる電源装置10の作用効果について、
図2(c)を用いて説明する。
なお、以下の説明では、電圧V及び電流Iのベクトルを表す、文字の上に付けるドットを省略する。
【0029】
まず、負荷200に供給される電力P(=電圧V×電流I)は、負荷200(負荷抵抗R)に印加される電圧V
0と、負荷200(負荷抵抗R)に流れる電流I
Rとの乗算により得られる。
これに対し、各相(A相、B相、C相)の架空電線102からの充電電流は、
図2(c)に示すように、ベクトル合成されて、誘導電極20の対地静電容量C
0と負荷抵抗Rとに充電電流I
C0及び電流I
Rとして流れることになる。しかしながら、誘導電極20の対地静電容量C
0が負荷抵抗Rに並列に存在することで並列合成インピーダンスが低下し、結果的に電圧V
Eのほとんどが合成静電容量C
Nにかかり負荷抵抗Rにはわずかな電圧しかかからず十分な電力を得ることができなくなる。
そこで、誘導電極20の対地静電容量C
0及び変圧器1の二次側のコンデンサC
1と変圧器1の励磁サセプタンスb
0とで並列共振させて、誘導電極20の対地静電容量C
0に流れる充電電流I
C0を電気的に打ち消し、負荷抵抗Rのみの高いインピーダンスとして合成静電容量C
Nとの分圧で得られる負荷200(負荷抵抗R)に印加される電圧V
0を最大限に保つようにする。
【0030】
結果的に、誘導電極20の対地静電容量C
0と変圧器1の励磁サセプタンスb
0と変圧器1の二次側のコンデンサC
1の一次側換算値とを合成したインピーダンスを無限大(∞)に保持することで、
図2(b)に示すように、単純な等価回路とみなすことができる。
【0031】
なお、変圧器1の一次巻線を数万回〜数十万回で巻回することにより、鉄損分抵抗R
0(励磁コンダクタンスg
0)に流れる電流I
R0による損失を極めて小さくすることがで
きる。
したがって、本実施形態に係る電源装置においては、負荷200にほぼ全ての電流が流れることになり、負荷200に対して電流の流入効率の良い電源装置10となる。
【0032】
つぎに、本実施形態に係る着雪防止部32の作用効果について、着雪防止部32を備えない電源装置310における着雪実験の実験結果を用いて説明する。なお、着雪実験は、冬シーズン(2014年12月29日〜2015年1月5日)で行った。
【0033】
実験に用いた電源装置310は、
図3(b)に示すように、架空電線102に概ね平行に対向するように配置された長さ2.3mの3本の誘導電極311と、その誘導電極311に誘起させる電圧を降圧する変圧器を内蔵した筐体312と、誘導電極311及び筐体312を支持物101(送電鉄塔の主柱部101b)に固定する取付金具313とを備える。また、誘導電極311及び筐体312間は、絶縁性の腕部314で連結され、その腕部314の表面は、フッ素樹脂製のチューブで被覆されている。また、腕部314には、フッ素樹脂製の円盤315が取り付けられ、雨、結露及び着雪に対して、一定の対策を施したものである。
【0034】
着雪実験の実験設備は、
図3(a)に示すように、電源装置310、電源装置310の着雪状態を撮影するカメラ320、及び、電源装置310を照らす投光器330が、架空電線102(最下相のジャンパー線)近傍で、支持物101(送電鉄塔の主柱部101b)に取り付けられる。
【0035】
電源装置310は、リードケーブル341を介して、電源装置制御ボックス(制御回路)317に接続され、ゲートウェイ、データロガー及び3G回線用アンテナを備える監視ボックス342に接続される。
カメラ320は、カメラ用ケーブル321を介して、監視ボックス342に接続される。
【0036】
監視ボックス342は、配電線343、低圧引込み線344、内部にタイトランスを設置した分電盤345、引込ケーブル346を介して、商用電源が供給される。
また、カメラ320及び投光器330は、監視ボックス342からAC100V電源線347及び分岐ボックス348を介して、商用電源が供給される。
【0037】
監視ボックス342は、電源装置310の撮像データと電源装置310からの出力(供給電力)の測定データとを送信する。
【0038】
図4(a)は、着雪実験の実験結果を示したグラフである。
図4(a)において、横軸が観測日時であり、縦軸が電源装置310からの供給電力[W]であり、15分に1回の間隔でプロットされている。
また、下表1は、電源装置310の着雪状態と電源装置310からの供給電力の関係を示す表である。
【0040】
なお、着雪実験では、電源装置310からの出力を測定するために、
図4(b)に示す回路を用いている。
図4(b)において、V
ACは誘導電極311に誘起された電圧を変圧器により降圧した電圧(交流)であり、V
DCは整流ブリッジにて直流に変換した電圧であり、Cは整流ブリッジの二次側に接続された電圧波形の平滑化のためのコンデンサであり、I
1は制御回路に流れる電流であり、I
2はツェナーダイオードに流れる電流であり、Rは電流検出抵抗であり、V
OUTは出力部の電圧である。
【0041】
図4(b)において、出力部に負荷が接続していない場合に、電流I
1は微小になり、回路全体を流れる電流のほとんどがツェナーダイオードに流れるため、回路の電力供給量はツェナーダイオードと電流検出抵抗Rでの電力消費量とほぼ等しくなる。
そこで、
図4(a)に示すグラフの出力値は、無負荷時に回路に供給され続ける電力を熱として消費するために設けているツェナーダイオードに流れる電流値を電流検出抵抗Rの電圧値から計算で求め、電圧V
DCの値との乗算により供給電力を求めたものである。
【0042】
なお、
図4(a)及び表1に示すように、着雪が多い時に供給電力が低下している時間帯や、着雪が比較的少ない時でも供給電力が顕著に低下している時間帯もある。
このため、着雪時の電力損失が発生する仕組みを検証した。
【0043】
まず、着雪実験を行なった電源装置310の模式図を
図5(a)に示す。
図5(a)において、電極部(誘導電極311)から変圧器(高圧TR)の配線までの高電位部(高圧絶縁電線316)は、交流実効値で約13kVに達するため、作業者の感電を防止するために絶縁物で被覆されている。また、筐体312は、金属製の箱体であり、鉄塔に接続されることでグランド電位になっている。また、
図5(a)において、誘起電圧Eは、高電位部及びグランド電位部間に生じる電位差である。
【0044】
ここで、絶縁物の表面に着雪した場合の電源装置310の模式図を
図5(b)に示し、この場合の電源装置310の着雪によって新たに生じた回路の等価回路を
図6(a)に示す。なお、
図5(b)において、符合Bの部分は、着雪していない部分である。
【0045】
また、
図6(a)において、C
SHは電極部(誘導電極311)とその周囲に付着した雪400との間で形成される静電容量であり、R
SHは電極部(誘導電極311)側に付着した雪400の抵抗値である。なお、この静電容量C
SHは、誘導電極311が長いため、比較的大きな静電容量になる。
また、
図6(a)において、C
SLは腕部314に付着した雪400により高圧絶縁電線316とその周囲に付着した雪400との間で形成される静電容量であり、R
SLは腕部313及び筐体312間に付着した雪400の抵抗値である。
また、
図6(a)において、R
Bは着雪していない円盤315裏面の表面抵抗であり、ほぼ無限大(∞)である。
【0046】
特に、静電容量C
SH、抵抗R
SH及び抵抗R
Bの直列部では、抵抗R
Bが無限大であることから、直列分圧により、電圧のほとんどが無限大の抵抗値を有するR
Bに掛かることになる。このため、静電容量C
SH、抵抗R
SH及び抵抗R
Bの直列部では、電流がほとんど流れず、静電容量C
SH、抵抗R
SH及び抵抗R
Bの直列部における電力損失がほぼ零になる。
したがって、静電容量C
SH、抵抗R
SH及び抵抗R
Bの直列部は無視できることになり、
図6(a)に示す等価回路は、
図6(b)に示すように、静電容量C
SL及び抵抗R
SLからなる更に単純な等価回路で表すことができる。
【0047】
なお、抵抗R
SLは、着雪時の雪400の抵抗であることから、概ね数100MΩのオーダーまで低下する。
一方、静電容量C
SLは、高圧絶縁電線316の導体外径d[mm]、腕部314の直径D[mm]及び長さ、並びに、絶縁物の比誘電率ε(≒2.7(実測値))から、次式(1)で求めることができる。
また、式(1)は、腕部314の長さをL
A[mm]とすると、次式(2)となる。
【0050】
静電容量C
SLは、式(2)より、例えば、絶縁物の比誘電率εが2.7であり、腕部314の直径Dが35mmであり、高圧絶縁電線316の導体外径dが4.1mmであり、腕部314の長さL
Aが170mmである場合(ε=2.7、D=35[mm]、L
A=170[mm])に、ほぼ12pFとなる(C
SL≒12[pF])。
【0051】
ここで、C−R直列接続時の静電容量Cと抵抗Rと電力損失Pとの関係式を求める。
まず、
図6(c)に示すように、C−Rの直列回路を等価なC
p−R
pの並列回路に置き換える。
この場合に、直列回路のインピーダンスZ及びアドミタンスYは次式(3)で表され、並列回路のアドミタンスY
pは次式(4)で表される。
【0054】
また、式(3)及び式(4)より、次式(5)が算出できる。
また、電力Pと誘起電圧Eと電流Iとの関係式(P=EI=E
2/R
p)より、次式(6)が算出できる。
【0057】
式(6)により、直列回路の静電容量C及び抵抗Rの各々の値が分かれば、電力損失P[W]を算出することができる。
式(6)に基づき、静電容量C
SL、抵抗R
SL及び電力損失Pの関係を求めたグラフを
図7に示す。
なお、
図7に示すグラフは、式(6)を変換して次式(7)とし、例えば、電力損失Pを0.01[W]に固定し(P=0.01)、抵抗R(R
SL)に順次異なる値を入力して静電容量C(C
SL)を求め、抵抗R
SLと静電容量C
SLと関係を表にまとめ、グラフ化したものである。
【0059】
また、
図7において、下向き矢印(↓)は、静電容量C
SLが12pFである場合(C
SL=12pF)に、抵抗R
SLが着雪により低下していく場合の電力損失の推移を示したものである。
なお、
図7から明らかなように、静電容量C
SLが12pF以上の大きな値であっても、同様の現象が生じることが分かる。
【0060】
ここで、誘導電極311や高圧絶縁電線316では、誘導電極311の大きさにも依存するが、着雪時に少なくとも数10pFオーダーの静電容量C
SH,C
SLが形成される。
したがって、電力損失を抑制するためには、抵抗R
SLを少なくとも10
9Ω以上、好ましくは10
10Ω以上の抵抗値に維持する必要があることが分かる。
【0061】
なお、着雪時の表面抵抗R
Bは、着雪の溶け始めで顕著に低下し、気温が0℃〜2℃で維持されると、シャーベット状の雪が円盤315裏面に付着したままとなり、10
8Ωオーダーで維持されることになる。
【0062】
また、今回の着雪実験では、
図5(b)に示す符合Bの部分に着雪していない場合について、着雪時の電力損失が発生する仕組みを説明したが、実験現場の風向きが変わり、円盤315の裏面にも雪が付着すれば、静電容量Cは今回の実験結果よりも遥かに大きな値となり、
図7に示す下向き矢印(↓)よりグラフの右側の現象が起きることになる。
【0063】
したがって、着雪実験で用いた電源装置310において、誘導電極311や腕部314を絶縁物により絶縁しているにも関わらず、電力損失が発生する理由は、着雪時のC−R直列接続によるものである。このため、電力損失を抑制する対策を考慮する上では、電源装置310に着雪しない沿面を少なくとも一部に設けることが重要になる。特に、横風に伴う電源装置310の側面の着雪にも耐え得るものが好ましい。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る電源装置10は、長尺状体31の中間に配設され、長尺状体31との間に空隙32aを有する着雪防止部32を備えることにより、空隙32a近傍の着雪を防止し、誘導電極20周囲に付着した雪と腕部(支持体30の長尺状体31)周囲に付着した雪とを分断して、分断した部分による無限大の表面抵抗を生じさせ、誘導電極20周囲に付着した雪の抵抗Rと誘導電極20及び着雪間の静電容量CとによるCR損失を抑制することができる。
特に、電源装置10は、支持体30の長尺状体31の延在方向を大地300に対して略垂直にすることにより、傘状体の着雪防止部32による作用効果を最大にすることができる。
【0065】
(本発明の第2の実施形態)
図8(a)は第2の実施形態に係る電源装置の概略構成を示す概略構成図であり、
図8(b)は
図8(a)に示す電源装置の内部構成を示す断面図である。
図8において、
図1乃至
図7と同じ符号は、同一又は相当部分を示し、その説明を省略する。
【0066】
本実施形態に係る支持体30の着雪防止部32は、
図8に示すように、空隙32aの上側に密閉空間32bを備え、当該密閉空間32bに変圧器1、アークホーン2及びショートアース3を内包する。
なお、変圧器1の二次側に二次巻線に対して並列に接続されるコンデンサC
1は、
図8に図示していないが、第1の実施形態と同様に、例えば、電源装置10の制御ボックス(制御回路)に配設される。
【0067】
この第2の実施形態においては、着雪防止部32の密閉空間32bに変圧器1を内包するところのみが第1の実施形態と異なるところであり、着雪防止部32の密閉空間32bに変圧器1を内包することによる作用効果以外は、第1の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0068】
前述した第1の実施形態に係る電源装置10は、筐体33が変圧器1、アークホーン2及びショートアース3を内包するため、筐体33の外形が大きくなり、筐体33の上部に雪が積もり易く、誘導電極20の周囲に付着した雪と腕部(支持体30の長尺状体31)の周囲に付着した雪とが連結する恐れがある。この場合に、第1の実施形態に係る電源装置10は、無限大の表面抵抗を生じさせることができず、CR損失による電力損失を抑制することができない可能性がある。
【0069】
これに対し、本実施形態に係る電源装置10は、着雪防止部32の密閉空間32bに変圧器1を内包することにより、空隙32a下の筐体33を無くして空隙32a下の着雪を抑制すると共に、変圧器1の一次側の高圧絶縁電線41を空隙32a下に配設させない構造となる。
【0070】
ここで、変圧器1の二次側の低圧ケーブル51の周囲に着雪した場合には、低圧ケーブル51及び着雪間の静電容量は発生するものの、低圧ケーブル51及び大地300間の電圧が低いため、電力損失としては極めて小さく無視することができる。
すなわち、本実施形態に係る電源装置10は、高圧絶縁電線41を空隙32a下に配設させない(低圧ケーブル51を空隙32a下に配設させる)ことにより、空隙32a下の長尺状体31の周囲に着雪した場合であっても、低圧ケーブル51及び着雪間の静電容量と雪の抵抗によるCR損失を無視できる水準まで抑制することができる。
【0071】
(本発明の第3の実施形態)
図9(a)は第3の実施形態に係る電源装置の概略構成を示す説明図であり、
図9(b)は
図9(a)に示す長尺状体の概略構成を示す説明図である。
図10(a)は
図9(a)に示す電源装置の内部構成を示す斜視図であり、
図10(b)は
図9(a)に示す着雪防止部のカバーの内側を示す斜視図である。
図11(a)は
図9(a)に示す着雪防止部のカバーの正面図及び背面図であり、
図11(b)は
図9(a)に示す着雪防止部のカバーの左側面図及び右側面図であり、
図11(c)は
図9(a)に示す着雪防止部のカバーの平面図であり、
図11(d)は
図9(a)に示す着雪防止部のカバーの底面図である。
図12は
図9(a)に示す着雪防止部の内部の配線状況を示す配線図である。
図9〜
図12において、
図1乃至
図8と同じ符号は、同一又は相当部分を示し、その説明を省略する。
【0072】
本実施形態に係る着雪防止部32は、
図9〜
図12に示すように、変圧器1、アークホーン2及びショートアース3と、着雪防止部32の外部の低圧ケーブル51に接続するための低圧コンセント4とを載置すると共に、2本の誘導電極20を同一直線上で一対として、誘導電極20の長手方向を平行に三対の誘導電極20を等間隔(正三角形の頂点位置)で配設させる台座34と、底部を除いて台座34を被覆するFRP製のカバー35と、から構成される。
【0073】
なお、本実施形態に係る台座34は、
図10(a)に示すように、なす角120°で三方向に突出する2枚の板状体34aと、2枚の板状体34aの各頂点間を連結する3本の筒状体34bと、2本の筒状体34b間に配設され台座34の底面をなす底板34cと、を備える。
また、台座34の各筒状体34bは、
図12に示すように、両端にねじ切り加工が施された金属製の連結部21を略中央に備えており、直径35mmの誘導電極20の一端が連結部21にそれぞれ螺合され、一対の誘導電極20の両端間の間隔が2mとなる。
また、カバー35は、
図10(b)及び
図11に示すように、底部が開口しており、三対の誘導電極20の配置に沿う三角屋根を有する家状であり、台座34下が空隙32aとなる。このように、カバー35は、三角屋根を有する家状であることにより、三対の誘導電極20の配置に沿って上部の外形を極力小さくできると共に、底部の開口面積を確保することができる。
【0074】
さらに、本実施形態に係る支持体30の長尺状体31は、
図9(b)に示すように、大地300に対して傾斜する一端31aを含む傾斜部31cと、大地300に対して略垂直である他端31bを含む垂直部31dと、を備え、一端31aが電線路の支持物101(より具体的には主柱部101b)に固定される。
【0075】
また、長尺状体31の一端31aは、水平角調整機能が付いた取付金具36を用いて、支持物101に固定され、長尺状体31内に配設される低圧ケーブル51が一端31aから引き出され、図示しない制御回路に接続され、電力が供給されることになる。
【0076】
また、長尺状体31の他端31bには、FRP製のパイプ37が取り付けられると共に、フッ素樹脂製のチューブ38を被覆することにより、雨や露などによる湿潤に伴う電力損失を低減することができる。
【0077】
なお、本実施形態に係る電源装置10は、
図9(b)に示すように、取付金具36で支持体30を電線路の支持物101に取り付けた後に、
図9(a)に示すように、着雪防止部32の台座34の設置ホルダ34dに長尺状体31の他端31bを嵌合させると共に、低圧ケーブル51に接続される低圧プラグ5を低圧コンセント4に差し込むことで、設置される。
【0078】
また、本実施形態に係る変圧器1は、シリコーンゴム注型方式で密閉し、耐電圧性能を向上させている。
なお、変圧器1の二次側に二次巻線に対して並列に接続されるコンデンサC
1は、
図9〜
図12に図示していないが、第1の実施形態と同様に、例えば、電源装置10の制御ボックス(制御回路)に配設される。
【0079】
この第3の実施形態においては、支持体30の長尺状体31が傾斜部31c及び垂直部31dを備えるところのみが第2の実施形態と異なるところであり、傾斜部31c及び垂直部31dによる作用効果以外は、第2の実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0080】
本実施形態に係る電源装置10は、長尺状体31の一端31aと電線路の支持物101との固定部分(長尺状体31の付け根)から積雪して成長する雪を、傾斜部31cを介して、垂直部31d(着雪防止部32)から離間させ、着雪防止部32の着雪と長尺状体31の付け根の着雪との連結をさらに抑制することができる。
【0081】
なお、本実施形態に係る長尺状体31(傾斜部31c、垂直部31d)は、
図9に示すように、傾斜部31cが一端31aから垂直部31dにかけて上向きに傾斜する略への字形状について図示しているが、傾斜部31cが一端31aから垂直部31dにかけて下向きに傾斜するレの字形状であってもよい。
これにより、電源装置10は、長尺状体31の付け根からの積雪による雪の成長を下方に導き、着雪防止部32の着雪と長尺状体31の付け根の着雪との連結をさらに抑制することができる。
【0082】
また、着雪防止部32のカバー35は、
図11(a)に示すように、電線路の支持物101(すなわち、主柱部101b)に対向する面(上面)を傾斜面とし、断面が略二等辺三角形の屋根としているが、電線路の支持物101に対向する面を垂直面とし、断面が略直角三角形の屋根としてもよい。
これにより、電源装置10は、着雪防止部32の上部に付着する雪を、長尺状体31(傾斜部31c)の反対側に滑らせ、長尺状体31(傾斜部31c)上に雪を落とすことなく、長尺状体31(傾斜部31c)上への積雪を防止することができる。
【0083】
(その他の実施形態)
なお、上記の各実施形態では、送電線と鉄塔主柱間とが近距離に設計された主要な鉄塔(電線路の支持物101)に対して、鉄塔(電線路の支持物101)の主柱に電源装置10を設置し、且つ、長尺状体31の延出する方向を送電線に近付く方向(上方)とする形態としたが、電源装置10は、このような形態に限定されるものではなく、設置地域特有の鉄塔や多種多様な形状の鉄塔及びその利用形態に対しても柔軟に適用可能なものである。
【0084】
例えば、500kVクラス等の高い送電電圧の鉄塔(支持物101)においては、一般に、ジャンパー線の弛度を抑制して鉄塔の高さを低く抑えるために、ジャンパー線部に剛性の高い金属パイプを沿わせ、両側の耐張がいしから金属パイプを引き上げる構成となっている。また、風が強く電線の吹き上げられるような強風地域や、氷雪の多い豪雪地方では、スリートジャンプによる事故(垂直配線同士の混触による短絡事故)を防ぐために、
図13(a)に示すように、鉄塔(前記支持物101)を構成する腕金部101aの出幅(オフセット)a、b、及びcの相互間の長さの差分が大きくなるように設計されている。
【0085】
このような場合には、一般に、鉄塔の主柱部(電線路の支持物101を構成する主柱部101b)と送電線の間隔よりも、鉄塔の腕金部(電線路の支持物101を構成する腕金部101a)と送電線の間隔が小さくなるように設計されていることから、電源装置10は、
図13(b)に示すように、より効率的に強い電力を得るという観点から、鉄塔の腕金部101aのほうに取り付けられることが好ましい。
【0086】
ここで、上述したように、支持体30を構成する着雪防止部32は、長尺状体31の中間に配設されていて、長尺状体31が延出する下方に向かって開口する空隙32aを、長尺状体31との間に有する構成であれば、長尺状体31の延出する方向が上方(上向き方向)か下方(下向き方向)かは特に限定されないものである。
【0087】
このことから、このような鉄塔(電線路の支持物101)では、送電線と鉄塔腕金間との間隔が、送電線と鉄塔主柱間との間隔よりも、近距離に設計されていることから、鉄塔の腕金部101aに電源装置10を設置し、且つ、長尺状体31の延出する方向を送電線に近付く方向(下方)として設置することによって、送電線からより強い電界強度を得ることが可能となり、結果的に電源装置10が得る電力の増大を図ることができる。
【0088】
すなわち、本実施形態に係る電源装置10は、
図13(c)に示すように、長尺状体31が下方に向かって延出して他端31bに誘導電極20を配設する構成であり、着雪防止部32は、空隙32aの開口が長尺状体31の他端31b側の下方に向かって形成される構成とすることができる。
【0089】
また、支持体30は、
図13(d)に示すように、着雪防止部32の下部に誘導電極20を配置して、誘導電極20に接続する絶縁電線(高圧絶縁電線41)を長尺状体31内に配設させて構成される。
【0090】
本実施形態に係る電源装置10が、上述のように鉄塔の腕金部101aの下部に取り付けられることによって、鉄塔の主柱部101bに取り付ける場合よりも高い電界強度の領域に配置されることとなり、高い電力をより安定的に得ることができる。さらに、この場合には、積雪によって、雪(接地電位相当)が腕金部101a側から成長してきたとしても、空隙32aが介在していることによって、誘導電極20周囲に付着した雪と腕金部101a側から成長してきた雪とを分断でき、継続して高インピーダンス状態が維持されて、電力損失を安定的に抑制することができる。
【0091】
なお、上記の各実施形態に係る電源装置10では、空隙32aの形状については、特に限定されるものではないが、より好ましくは、着雪防止部32が、長尺状体31の延出方向の下方側に向かって、長尺状体31に対する空隙32aの断面幅dが段階的に拡大して形成されることである。このような空隙32aは、例えば、
図14(a)〜(c)に示すように、釣鐘形状や、直線的な斜面を有する円錐形状や、傾斜面が徐々に穏やかになる傘形状が例示され、長尺状体31に対する空隙32aの断面幅dが段階的に拡大して断面幅Dの開口に至るテーパー形状とすることができる。
【0092】
このように、空隙32aが、延出方向の下方側に向かってテーパー状に拡大する形状を有することによって、電源装置10は、着雪防止部32の上部に雪が付着したとしても、着雪防止部32のテーパー斜面に沿って雪が自重によって滑り、長尺状体31と離隔を保って自然に落下し易くなることから、積雪による接地短絡が回避されることによって、より安定的に電力を得ることができる。