特許第6346718号(P6346718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6346718
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム粒子
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/072 20060101AFI20180611BHJP
   C04B 35/581 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   C01B21/072 G
   C04B35/581
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-504300(P2018-504300)
(86)(22)【出願日】2017年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2017011537
【審査請求日】2018年1月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 博治
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和希
(72)【発明者】
【氏名】小林 義政
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−138056(JP,A)
【文献】 特開2012−41254(JP,A)
【文献】 特開平5−139709(JP,A)
【文献】 特表平2−503790(JP,A)
【文献】 特表平8−508460(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/123247(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/131239(WO,A1)
【文献】 特開平6−321511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C04B 35/581
Japio−GPG/FX
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム焼結体の原料として利用される窒化アルミニウム粒子であって、
粒子内の結晶方位が揃っており、
アスペクト比が3以上であり、
板状であり、
面方向長さが0.6μm以上20μm以下であるとともに、厚み方向長さが0.05μm以上2μm以下である、窒化アルミニウム粒子。
【請求項2】
表面積が0.4m/g以上16m/g以下である請求項1に記載の窒化アルミニウム粒子。
【請求項3】
粒子内に含まれる不純物金属濃度が、0.2質量%以下である請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム粒子。
【請求項4】
粒子内に含まれる酸素濃度が、2質量%以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化アルミニウム粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、窒化アルミニウム粒子に関する技術を開示する。特に、本明細書は、窒化アルミニウム焼結体の原料として用いる窒化アルミニウム粒子に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
アスペクト比(面方向長さL/厚み方向長さD)が高い窒化アルミニウム粒子が国際公開WO2014/123247A1(以下、特許文献1と称する)に開示されている。特許文献1は、面方向長さLが3〜110μm、厚み方向長さDが2〜45μmの窒化アルミニウム粒子を開示しており、アスペクト比L/Dは1.25〜20である。なお、特許文献1は、面方向長さを「D」とし、厚み方向長さを「L」と規定しており、アスペクト比(L/D)は1未満(0.05〜0.8)である。特許文献1の窒化アルミニウム粒子は、樹脂に添加する熱伝導フィラー、あるいは、高強度の窒化アルミニウム焼結体の原料として用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したように、特許文献1の窒化アルミニウム粒子は、樹脂に添加する熱伝導フィラー、あるいは、高強度の窒化アルミニウム焼結体の原料として用いられる。そのため、特許文献1の窒化アルミニウム粒子は、アスペクト比が高く、粒子サイズが大きい。本発明者らは、高い透明度が要求される部品を、窒化アルミニウム粒子を用いて製造する研究を開始した。すなわち、透明度の高い窒化アルミニウム焼結体を製造する研究を開始した。しかしながら、本発明者らの研究の結果、従来の窒化アルミニウム粒子では、透明度が高い窒化アルミニウム焼結体を製造することが困難であることが判明した。すなわち、透明度が高い窒化アルミニウム焼結体を得るためには、従来とは異なる新規な窒化アルミニウム粒子が必要であることが判明した。本明細書は、透明度が高い窒化アルミニウム焼結体の原料として好適に利用可能な窒化アルミニウム粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書は、窒化アルミニウム焼結体の原料として利用される窒化アルミニウム粒子を開示する。その窒化アルミニウム粒子は、粒子内の結晶方位が揃っており、アスペクト比(L/D)が3以上であり、板状であり、面方向長さ(L)が0.6μm以上20μm以下であるとともに、厚み方向長さ(D)が0.05μm以上2μm以下であってよい。なお、「面方向長さ」とは、板状の窒化アルミニウム粒子の表面における最長長さのことを意味している。また、「厚み方向長さ」とは、板状の窒化アルミニウム粒子の表裏面の距離のことを意味している。
【0005】
窒化アルミニウム焼結体の透明度を高くするためには、結晶軸の方向(結晶方位)を揃えることが必要である。そのためには、窒化アルミニウム焼結体の原料である窒化アルミニウム粒子の結晶方位を一方向に揃えることが必要である。しかしながら、各窒化アルミニウム粒子内で結晶方位が揃っていても、窒化アルミニウム粒子を用いて所定形状の焼成前成形体を成形したときに、焼成前成形体内で窒化アルミニウム粒子がランダムに配置されていると、得られる窒化アルミニウム焼結体の結晶方位も乱れ、窒化アルミニウム焼結体の透明度は低下する。
【0006】
例えば、図1に示す焼成前成形体10のように、各窒化アルミニウム粒子2内の結晶方位(結晶方位を矢印で示している)が揃っており、各窒化アルミニウム粒子2が結晶方位を揃えて規則正しく(表面同士が対向するように配向して)配置されていれば、図2に示す窒化アルミニウム焼結体100のように、焼成後も窒化アルミニウム焼結体100内の結晶方位も揃い、透明度が高くなる。なお、窒化アルミニウム焼結体100内を区画している破線は、結晶粒界を意味するものではない。図2は、窒化アルミニウム粒子2(図1)が粒成長して窒化アルミニウム焼結体100が構成されていることを示すため、窒化アルミニウム焼結体100内を破線で区画しているに過ぎない。
【0007】
なお、図1に示すように焼成前成形体10内では、各窒化アルミニウム粒子2の間に隙間4が存在する。この隙間4には、焼結に必要な助剤,気孔等が存在する。結晶方位を揃えて規則正しく配置しても、焼成後の窒化アルミニウム焼結体内に助剤が残存したり、気孔が残存すると、窒化アルミニウム焼結体の透明度が低下する。窒化アルミニウム焼結体内に気孔が残存すると、窒化アルミニウム焼結体の密度(理論密度に対する相対密度)が低下し、熱伝導率が低下することもある。
【0008】
図3に示す焼成前成形体10aのように、各窒化アルミニウム粒子2,2aの結晶方位は揃っているが、窒化アルミニウム粒子2,2aが規則正しく配置されていない場合(窒化アルミニウム粒子2と2aの表面同士が対向しない状態の場合)、焼成後の窒化アルミニウム焼結体の結晶方位も乱れ、透明度が低下する。
【0009】
あるいは、図4に示す焼成前成形体10bのように、各窒化アルミニウム粒子2b内で結晶方位が揃っていない場合、焼成後の窒化アルミニウム焼結体の結晶方位も乱れ、窒化アルミニウム焼結体の透明度は低下する。典型的に、多結晶の窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子2bのように粒子内で結晶方位が不規則である。そのため、典型的に、窒化アルミニウム粒子2のように粒子内で結晶方位が揃っているものは、単結晶の窒化アルミニウム粒子であることが多い。
【0010】
本明細書で開示する窒化アルミニウム粒子は、粒子内の結晶方位が揃っているので、焼成前成形体10bのようになることはない。また、アスペクト比が3以上であるため、焼成前成形体10aのように窒化アルミニウム粒子が不規則に配置されることを抑制できる。また、本明細書で開示する窒化アルミニウム粒子は、板状であり、面方向長さが0.6μm以上20μm以下であるとともに厚み方向長さが0.05μm以上2μm以下である。そのため、焼成前成形体を焼成したときに焼結が起こり易く、高密度の(気孔のすくない)窒化アルミニウム焼結体を得ることができる。上記窒化アルミニウム粒子を用いると、結晶方位が揃っており高密度の窒化アルミニウム焼結体、すなわち、透明度の高い窒化アルミニウム焼結体を得ることができる。
【0011】
窒化アルミニウム粒子の表面積は、0.4m/g以上16m/g以下であってよい。表面積を0.4m/g以上とすることにより、焼成の際、窒化アルミニウム粒子の焼結を起こり易くすることができる。また、窒化アルミニウム粒子の表面積を16m/g以下とすることにより、窒化アルミニウム粒子が凝集することが抑制され、焼成前成形体内で窒化アルミニウム粒子が配向しやすくなる。
【0012】
窒化アルミニウム粒子内に含まれる不純物金属濃度は0,2質量%以下であってよい。窒化アルミニウム粒子が不純物金属を多く含んでいると、得られる窒化アルミニウム焼結体内の不純物金属濃度も高くなる。不純物金属を多く含む窒化アルミニウム焼結体は、透明度が低下する。窒化アルミニウム粒子内の不純物金属濃度が0.2質量%以下であれば、窒化アルミニウム焼結体の透明度を高く維持することができる。
【0013】
窒化アルミニウム粒子内に含まれる酸素濃度は2質量%以下であってよい。窒化アルミニウム粒子が酸素を多く含んでいると、得られる窒化アルミニウム焼結体内の酸素濃度も高くなる。酸素を多く含む窒化アルミニウム焼結体も、透明度が低下する。窒化アルミニウム粒子内の酸素濃度が2質量%以下であれば、窒化アルミニウム焼結体の透明度を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】焼成前成形体内の結晶方位を説明するための図を示す。
図2】窒化アルミニウム焼結体内の結晶方位を説明するための図を示す。
図3】焼成前成形体内の結晶方位を説明するための図を示す。
図4】焼成前成形体内の結晶方位を説明するための図を示す。
図5】実施例のまとめを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本明細書で開示される技術の実施形態を説明する。
【0016】
本明細書では、窒化アルミニウム焼結体の原料として利用される窒化アルミニウム粒子を開示する。窒化アルミニウム焼結体の製造では、まず、窒化アルミニウム粒子を用いて所定サイズの焼成前成形体を成形する。焼成前成形体は、例えば、窒化アルミニウム粒子を含むスラリーをフィルム上に塗布・乾燥し、所定厚さになるようにフィルムから剥がした成形体を積層し、静水圧プレスすることにより成形する。その成形体について成形する際に添加した成形助剤を脱脂後、焼成前成形体を加圧しながら所定温度で焼成することにより、窒化アルミニウムを焼結・粒子成長させ、高密度の(気孔の少ない)窒化アルミニウム1次焼結体を形成する。その後、窒化アルミニウム1次焼結体を無加圧状態で2次焼成し、焼結助剤を除去し、窒化アルミニウム焼結体が得られる。なお、窒化アルミニウム粒子は、酸化アルミニウムを含む原料と炭素源とを、窒素源を含む雰囲気で加熱することにより製造することができる。具体的には、窒化アルミニウム粒子は、下記式(1)に示す反応により製造される。
Al+3C+N→2AlN+3CO・・(1)
【0017】
(酸化アルミニウムを含む原料)
酸化アルミニウムを含む原料は、原料中に酸化アルミニウムを含んでいればよく、他の物質を含まない酸化アルミニウム単体(不可避不純物を除く)であってもよいし、原料中に他の物質を含んでいてもよい。例えば、酸化アルミニウムを含む原料は、原料中に、70質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいてよく、80質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいてよく、90質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいてよく、95質量%以上の酸化アルミニウムを含んでいてもよい。また、酸化アルミニウムの結晶構造は、α型、γ型,θ型,η型,κ型,χ型等であってよく、特に、α型,γ型であってよい。特に、酸化アルミニウムとしてαアルミナ,γアルミナ,ベーマイト等を用いることにより、良好な反応性が得られる。以下、「酸化アルミニウムを含む原料」を、単に酸化アルミニウム原料と称する。
【0018】
(酸化アルミニウム原料の形状)
酸化アルミニウム原料の形状は、板状であってよく、高アスペクト比を有していてよい。アスペクト比は、3以上であってよく、5以上であってよく、10以上であってよく、30以上であってよく、50以上であってよく、70以上であってよく、100以上であってよく、120以上であってもよい。目的とする窒化アルミニウム粒子の用途にも依るが、高アスペクト比(アスペクト比3以上)の酸化アルミニウム原料を用いることにより、高アスペクト比の窒化アルミニウム粒子が得られる。板状で高アスペクト比の窒化アルミニウム粒子は、ドクターブレード等を利用することによって配向させることができ、結晶軸方向(結晶方位)の制御が必要な製品(例えば、透明度の高い窒化アルミニウム焼結体)の原料として好適に使用することができる。
【0019】
酸化アルミニウム原料のサイズは、面方向長さLが0.2μm以上であってよく、0.6μm以上であってよく、2μm以上であってよく、5μm以上であってよく、10μm以上であってよく、15μm以上であってもよい。また、面方向長さLは、50μm以下であってよく、20μm以下であってよく、18μm以下であってよく、15μm以下であってもよい。また、厚み方向長さDは0.05μm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、0.3μm以上であってよく、0.5μm以上であってよく、0.8μm以上であってもよい。また、厚み方向長さDは、2μm以下であってよく、1.5μm以下であってよく、1.0μm以下であってもよい。酸化アルミニウム原料のサイズは、合成後の窒化アルミニウム粒子のサイズに反映される。そのため、酸化アルミニウム原料のサイズは、目的とする窒化アルミニウム粒子の用途に応じて、適宜選択することができる。なお、アスペクト比は、(面方向長さL/厚み方向長さD)で示される。
【0020】
(炭素源)
炭素源は、酸化アルミニウムの還元剤として用いられる。炭素源は、窒化アルミニウム粒子を合成する(酸化アルミニウムを加熱する)環境で、酸化アルミニウム原料と接触し得るものであればよい。例えば、炭素源は、酸化アルミニウム原料に混合される固体であってよい。あるいは、炭素源は、窒化アルミニウム粒子を合成する環境内(合成雰囲気内)に供給される炭化物ガスであってよい。あるいは、炭素源は、酸化アルミニウム原料を収容する容器、その容器内に配置される治具等、合成雰囲気内で酸化アルミニウム原料に接触するカーボン製の部品であってもよい。
【0021】
酸化アルミニウム原料に混合する固体の炭素源として、カーボンブラック、黒鉛等を用いることができる。カーボンブラックは、ファーネス法,チャンネル法等で得られるカーボンブラック,アセチレンブラック等を用いることができる。カーボンブラックの粒径は、特に限定されないが、0.001〜200μmであってよい。なお、酸化アルミニウム原料に混合する固体の炭素源として、有機化合物を用いてもよい。例えば、炭素源として、フェノール樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂,フランフェノール樹脂等の合成樹脂縮合物、ピッチ,タール等の炭化水素化合物、セルロース,ショ糖,ポリ塩化ビニリデン,ポリフェニレン等の有機化合物を用いてもよい。上記した固体の炭素源のうち、カーボンブラックは、反応性が良好であるという観点より、特に有用である。
【0022】
酸化アルミニウム原料と固体の炭素源を混合するときに、水,メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,アセトン,トルエン,キシレン等の溶媒を用いて混合してもよい。酸化アルミニウム原料と炭素源の接触状態を良好にすることができる。なお、混合後、エバポレータ等を利用して混合原料を乾燥させてもよい。
【0023】
炭化物ガスとして、メタン,エタン,プロパン,ブタン,エチレン等の直鎖の炭化水素、メタノール,エタノール,プロパノール等のアルコール類、ベンゼン,ナフタレン等の芳香族炭化水素等を用いることができる。直鎖の炭化水素は、熱分解の容易性より、特に有用である。なお、炭素源として炭化水素ガスを用いることにより、酸化アルミニウム原料と炭素源が良好に接触し、窒化アルミニウム粒子の製造時間を短縮することができる。なお、炭化物ガスとして、フッ化炭素(CF),フッ化炭化水素(CH)等のフッ化物等を用いることもできる。
【0024】
(窒素源)
窒素源として、窒素ガス、アンモニアガス、及びこれらの混合ガスを用いることができる。アンモニアガスは、安価であり、取扱いが容易なため、窒素源として特に有用である。また、窒素源としてアンモニアガスを用いることにより、反応性が向上し、窒化アルミニウム粒子の製造時間を短縮することができる。
【0025】
(窒化温度)
窒化温度(保持温度)は、1200℃以上であってよく、1300℃以上であってよく、1400℃以上であってよく、1500℃以上であってよく、1600℃以上であってもよい。製造時間の長期化、及び、未反応の酸化アルミニウムの残存を防止することができる。また、窒化温度は、1900℃以下であってよく、1800℃以下であってよく、1700℃以下であってもよい。結晶方位の不整合(すなわち、窒化アルミニウム粒子の多結晶化)を防止することができる。窒化時間(保持時間)は、未反応の酸化アルミニウムの残存を防止するという観点より、3時間以上であってよく、5時間以上であってよく、8時間以上であってもよい。また、窒化時間は、工業的な観点より、20時間以下であってよく、15時間以下であってよく、10時間以下であってもよい。
【0026】
酸化アルミニウムの還元窒化反応が始まる温度(900℃)から窒化温度までの昇温速度は、150℃/hr以下であってよい。例えば、窒化温度が1600℃の場合、900℃から1600℃まで150℃/hr以下で昇温し、その後1600℃で所定時間維持する。窒化初期から窒化温度までの昇温時間を遅くすることにより、結晶方位の揃った単結晶の窒化アルミニウム粒子を製造することができる。なお、900℃までの昇温速度は、150℃/hrより速くてもよい。例えば、室温から900℃までは第1昇温速度(150℃/hr超)で昇温し、900℃から窒化時間までは第2昇温速度(150℃/hr以下)で昇温してもよい。昇温速度を切り替えることにより、窒化アルミニウム粒子の製造に要する時間(具体的には、900℃に達する時間)を短縮することができる。
【0027】
(後熱処理)
窒化アルミニウム粒子の合成後、大気または酸素雰囲気で加熱(熱処理)し、得られた窒化アルミニウム粒子中に残存している炭素を除去してもよい。この熱処理は、炭素源が酸化アルミニウム原料に混合される固体である場合に特に有用である。後熱処理温度は、残存炭素を確実に除去するという観点より、500℃以上であってよく、600℃以上であってよく、700℃以上であってもよい。また、後熱処理温度は、窒化アルミニウム粒子の表面の酸化を抑制するという観点より、900℃以下であってよく、800℃以下であってもよい。なお、後熱処理時間は、後熱処理温度に応じて適宜選択することができるが、例えば3時間以上であってよい。
【0028】
(窒化アルミニウム粒子の形状)
窒化アルミニウム粒子は、結晶方位が揃っていてよい。窒化アルミニウム粒子の結晶方位が揃っていれば、焼成前成形体内で窒化アルミニウム粒子を規則正しく配置することによって、窒化アルミニウム焼結体の結晶方位を揃えることができる。窒化アルミニウム焼結体の結晶方位を揃えることによって、透明度の高い窒化アルミニウム焼結体が得られる。換言すると、窒化アルミニウム粒子の結晶方位が揃っていないと、焼成前成形体内で窒化アルミニウム粒子を規則正しく配置しても、窒化アルミニウム焼結体の結晶方位が揃わず、透明度が低下する(図3を参照)。なお、窒化アルミニウム結晶のc軸が粒子表面(粒子を構成する面のうちの面積が最も大きい面)に表れていてよい。すなわち、c軸が窒化アルミニウム粒子の厚み方向(粒子表面に略直交する方向)に伸びていてよい。なお、結晶方位が揃っているか否かは、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で得られた電子画像を後方散乱回折法(EBSD:Electron BackScatter Diffraction)で結晶方位毎にマッピングし、全体に占める特定の結晶方位の割合に基づいて決定してよい。
【0029】
窒化アルミニウム粒子は、板状であり、アスペクト比(L/D)が3以上であってよい。すなわち、板状の窒化アルミニウム粒子の面方向長さ(表裏面の最大長さ)Lと厚み方向長さ(表裏面を結ぶ方向の長さ)Dの比が、3以上であってよい。なお、厚み方向長さDは、窒化アルミニウム粒子を一対の平行な平面で挟んだときに、平面間の距離が最小となる部分の長さ(すなわち、厚み)であってよい。また、表裏面の形状は、例えば六角形等の多角形であってよい。アスペクト比が3以上であれば、図1に示すように、焼成前成形体内において窒化アルミニウム粒子が規則正しく配置され(窒化アルミニウム粒子が配向し)、焼成後の窒化アルミニウム焼結体の結晶方位が揃い易くなる。
【0030】
窒化アルミニウム粒子の面方向長さ(長手方向サイズ)Lは、0.6μm以上であってよく、1μm以上であってよく、1.5μm以上であってよく、2μm以上であってもよい。窒化アルミニウム粒子の面方向長さLが小さすぎると、粒子同士が凝集し、高配向(結晶軸の配向度が高い)窒化アルミニウム焼結体が得られないことがある。また、窒化アルミニウム粒子の面方向長さLは、20μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってもよい。窒化アルミニウム粒子の面方向長さLが大きすぎると、窒化アルミニウム焼結体を製造する際、焼結が起こり難くなり、窒化アルミニウム焼結体の密度(理論密度に対する相対密度)が低くなることがある。窒化アルミニウム焼結体の密度が低下すると、窒化アルミニウム焼結体の内部に気孔が残存し、窒化アルミニウム焼結体の透明度が低下する。窒化アルミニウム粒子の面方向長さLが上記範囲(0.6〜20μm)内であれば、高配向で透明度の高い窒化アルミニウム焼結体を製造することができる。なお、窒化アルミニウム焼結体の透明度は、窒化アルミニウム焼結体に特定波長の光(レーザ)を照射し、その光の直線透過率で評価することができる。
【0031】
窒化アルミニウム粒子の厚み方向長さ(短手方向サイズ)Dは、0.05μm以上であってよい。窒化アルミニウム粒子の厚み方向長さDが0.05μm未満になると、窒化アルミニウム焼結体を製造する際、例えば、原料の混合工程において窒化アルミニウム粒子の形状が崩れることがある。粒子形状が崩れることにより、焼成前成形体を成形する際、窒化アルミニウム粒子の配向度が低下することがある。なお、窒化アルミニウム粒子の厚み方向長さDは、0.1μm以上であってよく、0.3μm以上であってよく、0.5μm以上であってよく、0.8μm以上であってもよい。
【0032】
また、窒化アルミニウム粒子の厚み方向長さDは、2μm以下であってよく、1.5μm以下であってよく、1μm以下であってよく、0.5μm以下であってもよい。窒化アルミニウム粒子の厚み方向長さDが大きすぎると、例えば、ドクターブレード等を用いて焼成前成形体の厚みを調整する際、ブレードから窒化アルミニウム粒子に加わる剪断応力を粒子側面(厚み方向に平行な面)で受ける割合が増え、窒化アルミニウム粒子の配列が乱れることが起こり得る(図2を参照)。また、窒化アルミニウム粒子の厚み方向長さDが大きすぎると、結果的にアスペクト比が低下し、窒化アルミニウム粒子が規則正しく配列されにくくなる。窒化アルミニウム粒子の厚み方向長さDが上記範囲(0.05〜2μm)内であれば、高配向で透明度の高い窒化アルミニウム焼結体を製造することができる。
【0033】
窒化アルミニウム粒子の比表面積は、0.4m/g以上であってよく、1m/g以上であってよく、2m/g以上であってよく、3.5m/g以上であってよく、5m/g以上であってよく、8m/g以上であってもよい。比表面積が小さすぎると、焼成の際、窒化アルミニウム粒子が焼結しにくくなり、高密度の窒化アルミニウム焼結体が得られないことがある。また、比表面積は、16m/g以下であってよく、13m/g以下であってよく、10m/g以下であってもよい。比表面積が大きすぎると、窒化アルミニウム粒子が凝集し易くなり、焼成前成形体内で窒化アルミニウム粒子を高配向に配置することができず、結晶方位の揃った窒化アルミニウム焼結体が得られないことがある。また、比表面積が大きすぎると、例えば、ドクターブレード等を用いて焼成前成形体を成形する際、ブレードから窒化アルミニウム粒子に加わる剪断応力が小さくなり、窒化アルミニウム粒子の配列が乱れることが起こり得る。窒化アルミニウム粒子の比表面積が上記範囲(0.4〜16μm)内であれば、高配向の焼成前成形体を成形することができ、その焼成前成形体を焼成することにより、高密度で透明度の高い窒化アルミニウム焼結体を製造することができる。
【0034】
(不純物濃度)
窒化アルミニウム粒子に含まれる不純物(不純物金属、酸素等)は、少ないことが好ましい。具体的には、不純物金属は、0.2wt%以下であってよく、0.1wt%以下であってよく、0.07wt%以下であってよく、0.05wt%以下であってもよい。また、酸素含有量は、2wt%以下であってよく、1.5wt%以下であってよく、1wt%以下であってよく、0.9wt%以下であってもよい。窒化アルミニウム粒子内の不純物濃度が高くなると、窒化アルミニウム焼結体に含まれる不純物濃度も高くなる。窒化アルミニウム焼結体内の不純物濃度が高くなると、窒化アルミニウム焼結体の透明度が低下(直線透過率の低下)したり、熱伝導率が低下することが起こり得る。窒化アルミニウム粒子内の不純物濃度が上記範囲(不純物金属0.2wt%以下、酸素含有率2wt%以下)であれば、透明度の高い窒化アルミニウム焼結体を製造することができる。
【0035】
(窒化アルミニウム焼結体の特徴)
窒化アルミニウム焼結体のc面配向度(窒化アルミニウム焼結体を構成している窒化アルミニウム結晶のc軸の配向度)は、95%以上であってよく、97%以上であってよく、100%であってもよい。また、窒化アルミニウム焼結体の相対密度は、99%以上であってよく、99.8%以上であってよく、100%であってもよい。窒化アルミニウム粒子に含まれる不純物金属濃度は、0.04wt%以下であってよい。窒化アルミニウム粒子に含まれる酸素濃度は、0.6wt%以下であってよい。また、窒化アルミニウム焼結体の直線透過率は、波長450nmの光を用いてときに、30%以上であってよく、60%以上であってよく、65%以上であってもよい。
【実施例】
【0036】
以下、窒化アルミニウム粒子、窒化アルミニウム粒子を用いて製造した窒化アルミニウム焼結体の実施例を示す。なお、以下に示す実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであり、本明細書の開示を限定するものではない。
【0037】
(実施例1:窒化アルミニウム粒子の製造)
まず、板状の酸化アルミニウム(キンセイマテック(株))100g,カーボンブラック(三菱化学(株))50g,アルミナ玉石(φ2mm)1000g,IPA(イソプロピルアルコール:トクヤマ(株)製、トクソーIPA)350mLを、30rpmで240分間混合し、混合物を得た。なお、酸化アルミニウムは、平均粒径(面方向長さ)5μm、平均厚さ(厚み方向長さ)0.07μm、アスペクト比71のものを用いた。得られた混合物からアルミナ玉石を除去し、その混合物をロータリーエバポレータを用いて乾燥させた。その後、残存した混合物を乳鉢で軽く解砕し(比較的弱い力で、凝集した粒子を分離させ)、カーボン製の坩堝に100g充填した。その後、混合物を充填した坩堝を加熱炉内に配置し、窒素ガス3L/min流通下で昇温速度150℃/hrで1600℃まで昇温し、1600℃で20時間保持した。加熱終了後、自然冷却し、坩堝から試料を取り出し、マッフル炉を用いて酸化雰囲気下で650℃で10hr熱処理(後熱処理)し、板状の窒化アルミニウム粒子を得た。なお、後熱処理は、試料中に残存している炭素を除去するために行った。
【0038】
(窒化アルミニウム粒子の評価)
得られた窒化アルミニウム粒子について、粒子形状、比表面積、不純物濃度、結晶方位の評価を行った。評価結果を図5に示す。
【0039】
(粒子形状)
窒化アルミニウム粒子の形状は、得られた窒化アルミニウム粒子をSEM(日本電子(株)製,JSM−6390)を用いて1000〜2000倍で撮影し、撮影した画像から無作為に30個の粒子を選択し、面方向長さ(粒径)及び厚み方向長さの測定を行った。また、面方向長さ、厚み方向長さより、アスペクト比を計算した。図5に示すように、得られた窒化アルミニウム粒子の形状は、原料(酸化アルミニウム)とほぼ同一であった。
【0040】
(比表面積)
窒化アルミニウム粒子の比表面積は、比表面積測定装置((株)島津製作所製,フローソーブ2300)を用いて、JIS(日本工業規格)R1626に記載のBET法で測定した。なお、吸着ガスとして、窒素を用いた。結果を図5に示す。比表面積は9.0m/gであった。
【0041】
(不純物濃度)
不純物金属濃度の測定は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置((株)日立ハイテクサイエンス製,PS3520UV−DD)を用いて、JIS R1649に記載の加圧硫酸分解法で測定した。なお、不純物金属として、Si,Fe,Ti,Ca,Mg,K,Na,P,Cr,Mn,Ni,Zn,Ga,Y,Zrについて測定した。また、酸素濃度の測定は、酸素分析装置((株)堀場製作所製,EMGA−6500)を用いて、JIS R1675に記載の不活性ガス融解−赤外線吸収法で測定した。図5に示すように、不純物金属濃度は0.043wt%であり、酸素濃度は0.85wt%であった。
【0042】
(結晶方位)
結晶方位の測定は、SEMに取り付けられたEBSD(オックスフォード・インストゥルメンツ(株)製 Aztec HKL)を用いて評価した。なお、結晶方位の評価は、窒化アルミニウム粒子の表面または裏面について行った。すなわち、窒化アルミニウム粒子の厚み方向に直交する面(表面または裏面)であり、窒化アルミニウム粒子を構成する面のうちの面積が最も大きい面について結晶形態の評価を行った。具体的には、窒化アルミニウム粒子の表面(または裏面)を結晶方位毎にマッピングし、全体に占める(001)面の割合(面積比)を算出し、結晶方位が揃っているか否かを判断した。面積比が80%以上の場合は結晶方位が揃っているとし、80%未満の場合は結晶方位が揃っていないと判断した。図5に、結晶方位が揃っている場合「○」、結晶方位が揃っていない場合「×」を付している。図5に示すように、得られた窒化アルミニウム粒子の結晶方位は揃っていた。なお、結晶方位を測定した後、上記SEMで窒化アルミニウム粒子の表面観察を行い、表面の凹凸状態によって単結晶(凹凸なし)か多結晶(凹凸あり)かの判断を行った。得られた窒化アルミニウム粒子は単結晶であった。
【0043】
(窒化アルミニウム焼結体の製造)
得られた窒化アルミニウム粒子を用いて窒化アルミニウム焼結体を製造する方法について説明する。まず、窒化アルミニウム焼結体を焼結する際に用いる助剤(Ca−Al−O系の焼成助剤)の合成方法について説明する。助剤は、窒化アルミニウム粒子に混合し、窒化アルミニウム粒子と共に焼成される。
【0044】
(助剤の合成)
炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製、Shilver−W)47g,γ―アルミナ(大明化学工業(株)製、TM−300D)24g、アルミナ玉石(φ15mm)1000g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)125mLを、110rpmで120分間粉砕・混合し、混合物を得た。得られた混合物は、ロータリーエバポレータを用いて乾燥させた。その後、混合物からアルミナ玉石を除去し、混合物をアルミナ製の坩堝に70g充填した。その後、混合物を充填した坩堝を加熱炉内に配置し、大気中で昇温速度200℃/hrで1250℃ まで昇温し、1250℃で3時間保持した。加熱終了後、自然冷却し、坩堝から混合物(助剤)を取り出した。
【0045】
(合成用原料の調整)
次に、上記した助剤を用いて原料を調整する工程について説明する。上記した窒化アルミニウム粒子に対して、助剤(Ca−Al−O系助剤)を4.8質量部添加し、合計20gとなるように秤量した。この混合物とアルミナ玉石(φ15mm)300g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLを、30rpmで240分間混合した。得られた混合物からアルミナ玉石を除去し、その混合物をロータリーエバポレータを用いて乾燥させ、合成用原料を得た。
【0046】
(焼成前成形体の作成)
上記合成用原料100質量部に対し、バインダとしてポリビニルブチラール(積水化学工業製、品番BM−2)7.8質量部と、可塑剤としてジ(2−エチルヘキシル)フタレート(黒金化成製)3.9質量部と、分散剤としてトリオレイン酸ソルビタン(花王製、レオドールSP−O30)2質量部と、分散媒として2−エチルヘキサノールを加えて混合し、原料スラリーを調整した。なお、分散媒の添加量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。得られた原料スラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルム上に成形した。ドクターブレード法を用いることにより、窒化アルミニウム粒子の板面(c面)がPETフィルムの表面に並ぶように、PETフィルム上に原料スラリーが形成される。なお、スラリー厚みは、乾燥後の厚さが30μmとなるように調整した。以上の工程により、シート状のテープ成形体を得た。得られたテープ成形体を直径20mmの円形に切断した後、円形のテープ成形体を120枚積層し、焼成前成形体を得た。得られた焼成前成形体を、厚さ10mmのアルミニウム板上に載置した後、真空パッケージに入れて内部を真空にした。その後、真空パッケージを85℃の温水中で100kgf/cm2で静水圧プレスし、円板状の焼成前成形体(焼成用積層体)を得た。
【0047】
(1次焼成)
次に、焼成前成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間脱脂を行った。その後、1900℃で10時間、面圧200kgf/cm2の条件下で焼成し、その後室温まで降温させ、窒化アルミニウム1次焼結体を得た。なお、ホットプレスの際の加圧方向は、焼成前成形体の積層方向(テープ成形体の表面に略直交する方向)とした。また、加圧は、室温に降温するまで維持した。1次焼成により焼成前成形体を構成していた窒化アルミニウム粒子が粒成長し、成形体内の気孔がなくなることにより、密度(相対密度)の高い窒化アルミニウム1次焼結体が得られる。
【0048】
(2次焼成)
窒化アルミニウム1次焼結体の表面を研削し、φ20mm、厚さ1.5mmの試料を作製した。この試料を窒化アルミニウム製の板上に配置し、加熱炉内を窒素雰囲気とし、焼成温度1900℃で75時間焼成し、窒化アルミニウム焼結体を得た。2次焼成により、窒化アルミニウム1次焼結体内に残存していた助剤(焼結の際に用いた助剤)が除去され、透明な窒化アルミニウム焼結体が得られる。
【0049】
(窒化アルミニウム焼結体の評価)
得られた窒化アルミニウム焼結体について、c面配向度(c軸の配向度)、相対密度、不純物濃度、直線透過率の評価を行った。評価結果を図5に示す。
【0050】
(c面配向度)
窒化アルミニウム焼結体の表面を研磨した後、研磨面に対してX線を照射し、c面配向度を測定した。具体的には、XRD装置(リガク(株)製、RINT−TTR III)を用い、CuKα線を用いて電圧50kV,電流300mAの条件下、2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。なお、c面配向度(f)は、ロットゲーリング法によって算出した。具体的には、以下の式(3),(4)で得られた結果P,P0を、式(2)に代入することにより算出した。なお、式中、Pは得られた窒化アルミニウム焼結体のXRD測定から得られた値であり、P0は標準窒化アルミニウム(JCPDSカードNo.076−0566)から算出した値である。なお、(hkl)として、(100),(002),(101),(102),(110),(103)を使用した。
f={(P−P0)/(1−P0)}×100・・・(2)
0=ΣI0(002)/ΣI0(hkl)・・・(3)
P=ΣI(002)/ΣI(hkl)・・・(4)
【0051】
(相対密度、不純物濃度)
相対密度は、JIS R1634に記載の方法でかさ密度を測定し、理論密度(3.260)に対する値を算出した。また不純物濃度は、窒化アルミニウム粒子の不純物濃度の評価と同様の方法で測定した。
【0052】
(直線透過率)
焼結後の窒化アルミニウム焼結体を10mm×10mmサイズに切断し、4個の窒化アルミニウム焼結体をアルミナ製の定盤(φ68mm)の外周部分に等間隔に(定盤の中心と隣り合う窒化アルミニウム焼結体が成す角度が90°になるように)固定し、粒径が9μm及び3μmのダイヤモンド砥粒を含むスラリーを滴下した銅製ラッピング盤によって研磨し、さらに、コロイダルシリカを含むスラリーを滴下したバフ盤で300分間研磨した。その後、研磨後の10mm×10mm×0.4mm厚の試料をアセトン、エタノール、イオン交換水の順でそれぞれ3分間洗浄した後、分光光度計(Perkin Elmer製、Lambda900)を用いて波長450nmにおける直線透過率を測定した。
【0053】
図5に示すように、本実施例で得られた窒化アルミニウム粒子を用いて窒化アルミニウム焼結体を製造した結果、c面配向度100%、相対密度100%、不純物金属0.01wt%、酸素含有量0.04%、直線透過率は67%の窒化アルミニウム焼結体が得られた。
【0054】
(実施例2〜5)
サイズの異なる酸化アルミニウム(キンセイマテック(株))を用いて、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム粒子を製造し、得られた窒化アルミニウム粒子を用いて窒化アルミニウム焼結体を製造した。また、得られた試料の全てについて、c面配向度(、相対密度、不純物濃度の測定を行った。さらに、直線透過率の測定を行った。なお、実施例2〜5においても、得られた窒化アルミニウム粒子の形状は、原料(酸化アルミニウム)とほぼ同一であった。そのため、図5に示す窒化アルミニウム粒子の形状は、原料の酸化アルミニウムのサイズとほぼ同一である。
【0055】
なお、実施例5は、窒化アルミニウム焼結体の合成用原料を調整する際、窒化アルミニウム粒子47.6wt%に、市販の球状窒化アルミニウム粉末(トクヤマ(株)製、Fグレード、平均粒径1.2μm)47.6wt%、助剤4.8wt%を混合し、その混合物とアルミナ玉石(φ15mm)300g,IPA(トクヤマ(株)製、トクソーIPA)60mLを、30rpmで240分間混合した後、アルミナ玉石を除去し、ロータリーエバポレータを用いて乾燥させ、合成用原料を得た。図5に示すように実施例5の窒化アルミニウム粒子は粒径が比較的大きいため、そのまま窒化アルミニウム焼結体を製造すると、相対密度が高くなりにくい。実施例5は、窒化アルミニウム焼結体の相対密度を高くするため、合成用原料に粒径の小さな窒化アルミニウム粉体を添加した。なお、粒径の小さな窒化アルミニウム粉体は、窒化アルミニウム粒子が粒成長する際に、窒化アルミニウム粒子に取り込まれる。そのため、合成用原料に粒径の小さな窒化アルミニウム粉体を添加しても、窒化アルミニウム焼結体の結晶方位に影響を与えることはない。このことは、TGG(Templated grain growth)法として知られている。
【0056】
(実施例6〜16)
様々なサイズの窒化アルミニウム粒子について評価を行うため、窒化アルミニウム粒子の原料である酸化アルミニウム粒子について、市販されていないサイズのものについては、酸化アルミニウム粒子自体を合成し、合成した酸化アルミニウム粒子を用いて窒化アルミニウム粒子を製造し、その窒化アルミニウム粒子を用いて窒化アルミニウム焼結体の製造を行った。
【0057】
(酸化アルミニウム粒子の合成)
ギブサイト型の水酸化アルミニウムを湿式粉砕して平均粒径0.4〜3μmに調整し、水酸化アルミニウム1モルに対してオルトリン酸を1.0×10−5〜1.0×10−2モル添加し、スラリーを形成した。なお、水酸化アルミニウムの平均粒径を大きくすると酸化アルミニウム粒子の平均粒径が大きくなり、オルトリン酸の添加量を増加するとアスペクト比が高くなる。
【0058】
得られたスラリーを、スプレードライ(大川原化工機(株)、FL−12型)を用いて乾燥温度140℃で造粒乾燥し、原料中の水分を1wt%未満にした。得られた粉末を50wt%の水系スラリーにした後、合成温度600℃,圧力15MPaで水熱合成を行った。水熱合成後、水洗、乾燥することにより、白色の酸化アルミニウム粒子を得た。なお、オルトリン酸の一部をスラリーを形成する際に添加せず、水熱合成を行う際の水に添加することにより、アスペクト比を変えることなく、酸化アルミニウム粒子の粒径を小さくすることができる。得られた酸化アルミニウムを用いて、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム粒子の製造、窒化アルミニウム焼結体の製造を行い、物性評価を行った。
【0059】
なお、実施例6〜16においても、得られた窒化アルミニウム粒子の形状は、原料(酸化アルミニウム)とほぼ同一であった。図5に示す窒化アルミニウム粒子の形状は、原料の酸化アルミニウムのサイズとほぼ同一である。また、実施例11,13及び14については、実施例5と同様、窒化アルミニウム焼結体の合成用原料を調整する際、窒化アルミニウム粒子に市販の球状窒化アルミニウム粉末を加えた。実施例1〜11,13〜16の窒化アルミニウム粒子は、表面が略六角形であった。すなわち、実施例1〜11,13〜16の窒化アルミニウム粒子は、略六角柱形状であった。実施例12の窒化アルミニウム粒子は、表面が円形であり、円柱状であった。
【0060】
実施例2〜16で得られた窒化アルミニウム粒子を用いた窒化アルミニウム焼結体は、c面配向度が97%以上であり、相対密度が98.8%以上であり、不純物金属0.04wt%以下、酸素含有量0.30%以下であり、直線透過率30%以上であった。実施例2,6は、他の試料と比較して、窒化アルミニウム粒子のサイズが比較的小さい。一方、実施例11,12,15,16は、他の試料と比較して、窒化アルミニウム粒子のサイズが比較的大きい。いずれの試料も、c面配向率,直線透過率は良好であった。実施例6〜8は、他の試料と比較して、アスペクト比が比較的小さい。アスペクト比3〜5の試料についても、良好なc面配向率,直線透過率を示すことが確認された。
【0061】
(比較例1)
平均粒径10μm、平均厚さ0.3μm、アスペクト比33の市販の酸化アルミニウムを、アルミナ製の坩堝に充填し、窒素ガス0.5L/min流通下で昇温速度200℃/hrで1600℃まで昇温し、1600℃で35時間保持して板状の窒化アルミニウム粒子を得た。なお、窒化アルミニウム粒子を製造する際、他の条件は実施例1と同一とした。得られた窒化アルミニウム粒子を用いて、実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム焼結体を製造した。結果を図5に示す。図5に示すように、比較例1の窒化アルミニウム粒子は、結晶方位が揃っておらず、多結晶であった。比較例1の窒化アルミニウム粒子は、粒子形状、比表面積、不純物濃度は実施例5とほぼ同様であったが、窒化アルミニウム焼結体はc面配向度が7%と極めて低い値を示し、直線透過率は2%であった。
【0062】
(比較例2〜4)
実施例6〜16と同様の方法で酸化アルミニウム粒子を合成し、合成した酸化アルミニウム用いて窒化アルミニウム粒子の製造、窒化アルミニウム焼結体の製造を行った。比較例2〜4では、水酸化アルミニウムの平均粒径、オルトリン酸の添加量,添加タイミングを調整し、図5に示す粒子形状の酸化アルミニウム粒子を得た。なお、図5に示す窒化アルミニウム粒子の形状は、原料の酸化アルミニウムのサイズとほぼ同一である。比較例2及び3は、窒化アルミニウム粒子の結晶方位は揃っているが、窒化アルミニウム焼結体のc面配向度は低かった。また、相対密度が他の試料と比較して低かった。比較例4は、窒化アルミニウム粒子の結晶方位が揃っており、窒化アルミニウム焼結体のc面配向度が比較例2,3より良好であり、相対密度は実施例1〜16と同レベルであった。しかしながら、比較例2〜4は、いずれも、直線透過率が7%以下と低かった。
【0063】
上記実施例の結果をまとめる。実施例1〜16の試料を用いて作成した窒化アルミニウム焼結体は、全て、c面配向度が97%以上と高い結果が得られた。また、相対密度も全て98.8%以上と高い結果が得られた。実施例1〜16の中で最もc面配向度が低く、最も相対密度が低い実施例12であっても、直線透過率は30%と良好な結果を示した。特に、c面配向度100%,相対密度100%の実施例1,3,7の窒化アルミニウム焼結体は、直線透過率が65%以上であり、極めて良好な結果を示した。
【0064】
窒化アルミニウム粒子の結晶方位が揃っていない場合、窒化アルミニウム焼結体のc面配向度が著しく低下した(比較例1)。その結果、直線透過率の高い窒化アルミニウム焼結体が得られなかった。
【0065】
窒化アルミニウム粒子のアスペクト比が小さい(3未満)の場合、窒化アルミニウム焼結体のc面配向度が低下した(比較例2)。また、相対密度は、実施例1〜16と比較すると低下した。その結果、直線透過率の高い窒化アルミニウム焼結体が得られなかった。
【0066】
窒化アルミニウム粒子のサイズ(厚み方向長さD)が大きすぎる場合、窒化アルミニウム焼結体のc面配向度が低下し、相対密度は実施例1〜16と比較すると低下した(比較例3)。その結果、直線透過率の高い窒化アルミニウム焼結体が得られなかった。
【0067】
窒化アルミニウム粒子のサイズ(厚み方向長さD)が小さすぎる場合、窒化アルミニウム焼結体のc面配向度が低下し、直線透過率の高い窒化アルミニウム焼結体が得られなかった(比較例4)。
【0068】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【要約】
窒化アルミニウム焼結体の原料として利用される窒化アルミニウム粒子を開示する。その窒化アルミニウム粒子は、粒子内の結晶方位が揃っており、アスペクト比が3以上であり、板状であり、面方向長さが0.6μm以上20μm以下であるとともに、厚み方向長さが0.05μm以上2μm以下である。
図1
図2
図3
図4
図5