【文献】
ZANG Hong−xia、et.al「Solvothermal synthesis of terephthalate lithium as negative materials」 電源技術(2012)、36(4)p.470−473
【文献】
M.Armand、et.al.「Conjugated dicarboxylate anodes for Li−ion batteries」Nature Materials(2009)8 p.120−125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の非水系二次電池は、アルカリ金属を吸蔵・放出する正極活物質を有する正極と、アルカリ金属を吸蔵・放出する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しアルカリ金属イオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。本発明の非水系二次電池は、電極である負極及び正極の少なくとも一方に、本発明の層状構造体を電極活物質として備えている。本発明の層状構造体は、ベンゼン骨格を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備えている。この本発明の層状構造体は、負極活物質とするのが好ましい。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。また、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属は、アルカリ金属元素層のアルカリ金属元素と異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。ここでは、非水系二次電池用の電極において、アルカリ金属元素層にLiを含む層状構造体を負極活物質とする場合について主として説明する。また、非水二次電池においては、上記層状構造体を負極活物質とし、充放電により吸蔵・放出されるアルカリ金属をLiとするものを主として以下説明する。
【0015】
本発明の電極は、式(1)に示すベンゼン骨格を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層と、を備えた層状構造体を電極活物質として含む。
図1及び
図2は、本発明の層状構造体の説明図であり、
図1は、本発明の層状構造体の(102)面の説明図であり、
図2は、本発明の層状構造体の(112)面の説明図である。この層状構造体は、芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P2
1/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(2)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(1)、(2)において、Aはアルカリ金属元素である。なお、
図1、2では、Liをアルカリ金属とする場合を例示した。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0018】
有機骨格層は、ベンゼン骨格構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含んでいる。この有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが芳香族環構造の対角位置に結合されていることが好ましい。即ち、カルボン酸は、オルト位、メタ位及びパラ位のいずれかに結合していればよいが、そのうちパラ位に結合していることが好ましい。こうすれば、有機骨格層とアルカリ金属元素層とによる層状構造を形成しやすい。
【0019】
アルカリ金属元素層は、
図1、2に示すように、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成している。このアルカリ金属元素は、Li,Na及びKのうちいずれか1以上としてもよいが、このうちLiが好ましい。アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないものと推察される。このように構成された層状構造体は、
図1に示すように、構造においては、有機骨格層とこの有機骨格層の間に存在するLi層(アルカリ金属元素層)とにより形成されている。また、エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e
-)サイトとして機能する一方、Li層はLi
+吸蔵サイトとして機能するものと考えられる。即ち、この層状構造体は、次式(3)に示すようにエネルギーを貯蔵・放出すると考えられる。
【0021】
本発明の電極は、X線回折測定による(102)面の面間隔が0.36922nm以上0.37160nm未満の範囲にある層状構造体を電極活物質として備えている(
図1参照)。また、本発明の電極は、X線回折測定による(112)面の面間隔が0.29993nm以上0.30118nm未満の範囲にある層状構造体を電極活物質として備えている(
図2参照)。
図1、2に示すように、層状構造体において、(102)面及び(112)面の面間隔は、有機骨格層における、ベンゼン骨格とベンゼン骨格との層状構造に基づく間隔である。そして、この面間隔が上記範囲にある構造をとることにより、充放電容量などの充放電特性をより向上することができる。この層状構造体は、X線回折測定による(102)面の面間隔が0.37117nm以下の範囲にあることがより好ましく、この(102)面の面間隔が0.37091nm以上の範囲にあることがより好ましい。また、(112)面の面間隔が0.30098nm以下の範囲にあることがより好ましく、(112)面の面間隔が0.30093nm以上の範囲にあることがより好ましい。これら好適な範囲では、充放電容量を更に向上させることができる。
【0022】
本発明の電極は、ベンゼン骨格を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層とカルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備えた層状構造体と、導電材と、を含む電極合材を集電体上に形成したのち、不活性雰囲気中で250℃以上450℃以下の温度範囲で焼成処理されているものとしてもよい。こうすれば、比較的容易に、層状構造体の(102)面及び(112)面の面間隔を、上述した範囲内とすることができる。この焼成処理において、焼成温度が250℃以上では、充放電特性を向上することができ好ましく、450℃以下では、層状構造体の構造破壊をより抑制することができ好ましい。この焼成温度は、275℃以上であることが好ましく、350℃以下であることが好ましく、300℃程度が更に好ましい。また、焼成時間は、焼成温度に応じて適宜選択するが、例えば、2時間以上24時間以下の範囲が好ましい。また、不活性雰囲気は、例えば、窒素ガス、He,Arなどの希ガスとしてもよく、このうちArが好ましい。導電材の配合量は、例えば、層状構造体及び導電材を全体としたときに、活物質量の確保の観点からは、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。また、この導電材の配合量は、導電性確保の観点からは、10質量%以上であることがより好ましい。
【0023】
次に、本発明の非水系二次電池について説明する。本発明の非水系二次電池の負極は、例えば上述した層状構造体からなる負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。導電材は、負極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性の観点では炭素繊維が好ましく、塗工性の観点ではカーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエン−モノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。負極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。このうち、負極の集電体は、アルミニウム金属とすることがより好ましい。即ち、層状構造体は、アルミニウム金属の集電体に形成されていることが好ましい。アルミニウムは、豊富に存在し、耐食性に優れるからである。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0024】
本発明の非水系二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi
(1-a)MnO
2(0<a<1など、以下同じ)や、Li
(1-a)Mn
2O
4とするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-a)CoO
2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi
(1-a)NiO
2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLiV
2O
3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、V
2O
5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiV
2O
3などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。また、正極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができる。正極の集電体には、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、負極と同様のものを用いることができる。
【0025】
本発明の非水系二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。
【0026】
本発明の非水系二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiSbF
6、LiSiF
6、LiAlF
4、LiSCN、LiClO
4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl
4などが挙げられる。このうち、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4などの無機塩、及びLiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0027】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0028】
本発明の非水系二次電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、非水系二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0029】
本発明の非水系二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図3は、本発明の非水系二次電池20の一例を示す模式図である。この非水系二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水系二次電池20は、正極22と負極23との間の空間にアルカリ金属塩(例えばリチウム塩)を溶解したイオン伝導媒体27が満たされている。この負極23は、ベンゼン骨格構造を有するジカルボン酸アニオンである芳香族化合物を含む有機骨格層と、カルボン酸アニオンに含まれる酸素に配位したアルカリ金属元素層と、を備えた層状構造体を負極活物質として含んでいる。この層状構造体は、X線回折測定による(102)面の面間隔が0.36922nm以上0.37160nm未満の範囲にあり、(112)面の面間隔が0.29993nm以上0.30118nm未満の範囲にあるものである。
【0030】
以上詳述した本発明の非水系二次電池では、活物質である層状構造体が、ジカルボン酸の酸素とLi元素とが4配位を形成しており、非水系に溶けにくく、結晶構造を保つことで充放電サイクル特性の安定性がより高められるものと推察される。この層状構造体は、有機骨格層が酸化還元部位として機能し、アルカリ金属層(Li層)がアルカリ金属(Li)イオンの吸蔵部位として機能するものと推察される。また、負極は、充放電電位がリチウム金属基準で0.5V以上1.2Vの範囲を示すため、電池の作動電圧低下に伴う大幅なエネルギー密度の低下を抑えることができる一方、リチウム金属の析出も抑制することができる。この層状構造体(結晶性有機・無機複合材料)により、充放電特性をより高めることができるものと推察される。更に、X線回折測定による(102)面及び(112)面などの面間隔が好適な範囲である構造にすることにより、芳香族化合物のπ電子相互作用が高まり電子の授受が容易となる。このため、充放電容量などの充放電特性をより向上することができるものと推察される。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、層状構造体を形成した非水系二次電池用電極を焼成処理することにより、この層状構造体のX線回折測定による(102)面及び(112)面などの面間隔を好適な範囲とし、充放電特性をより高めるものとしたが、これらの面間隔を好適な範囲とする方法は、特にこれに限定されない。例えば、層状構造体の作製条件をより好適なものとすることにより、(102)面及び(112)面の面間隔を好適な範囲とするものとしてもよい。あるいは、ベンゼンジカルボン酸とアルカリ金属元素とを配位させて層状構造体を形成し、この層状構造体と炭素材料(例えば導電材)とを混合して焼成処理することにより、層状構造体を上記好適な面間隔としたのち、この焼成処理後の材料をペースト状の電極合材として集電体に塗布するものとしてもよい。
【0033】
上述した実施形態では、非水系二次電池として説明したが、非水系二次電池用の電極としてもよい。また、上述した実施形態では、負極として説明したが、電極は対極との電位差に基づいて正極及び負極のいずれかになるから、特に負極に限られず、正極としてもよい。
【実施例】
【0034】
以下には、本発明の層状構造体及び非水系二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0035】
[実施例1]
(1,4−ベンゼンジカルボン酸ジリチウムの合成)
図1、2に示す層状構造体としての1,4−ベンゼンジカルボン酸ジリチウムを合成した。この合成には、出発原料として1,4−ベンゼンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H
2O)を用いた。水酸化リチウム1水和物(2.78g)にメタノール(200mL)を加え撹拌した。水酸化リチウム1水和物がとけた後に、1,4−ベンゼンジカルボン酸(5.0g)を加え1時間撹拌した。撹拌後溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより実施例1の層状構造体である活物質粉末を得た。
【0036】
(塗工電極の作製)
実施例1の活物質粉末を用いて、非水系二次電池用電極を作製した。上記手法で作製した1,4−ベンゼンジカルボン酸ジリチウムを66.7質量%、導電材としてカーボンブラックを11.1質量%、繊維状炭素(気相成長炭素繊維、VGCF)を11.1質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを10質量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm
2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を準備した。その後、アルゴン不活性雰囲気下で300℃、12時間、焼成を行った。塗布量を調節して電極合材の厚さを25μmとした。
【0037】
(二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。得られたものを実施例1の二極式評価セルとした。
【0038】
[実施例2、3]
電極合材の塗布量を調整して電極合材の厚さを45μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたものを実施例2の二極式評価セルとした。また、電極合材の塗布量を調整して電極合材の厚さを50μmとした以外は実施例1と同様の工程を経て得られたものを実施例3の二極式評価セルとした。
【0039】
[比較例1〜3]
塗工電極の焼成を行わない以外は実施例1と同様の工程を経て得られたものを比較例1の二極式評価セルとした。また、塗工電極の焼成を行わない以外は実施例2と同様の工程を経て得られたものを比較例2の二極式評価セルとした。また、塗工電極の焼成を行わない以外は実施例3と同様の工程を経て得られたものを比較例3の二極式評価セルとした。
【0040】
(X線回折測定)
実施例1〜3及び比較例1〜3の非水系二次電池用電極(1,4−ベンゼンジカルボン酸ジリチウム)のX線回折測定を行った。測定は、放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用し、X線回折装置(リガク製Ultima IV)を用いて行った。また、測定は、X線の単色化にはグラファイトの単結晶モノクロメーターを用い、印加電圧を40kV、電流30mAに設定し、5°/分の走査速度で2θ=15°〜40°の角度範囲で行った。その結果、実施例1〜3及び比較例1〜3は、空間群P2
1/cに帰属される単斜晶を仮定した時の(001)、(111)、(102)、(112)ピークが明確に現れていた。したがって、この電極に含まれる層状構造体は、
図1、2に示した、リチウム層と有機骨格層からなる層状構造を形成しているものと推察された。また、実施例1〜3及び比較例1〜3は、空間群P2
1/cに帰属される単斜晶であることから、異なる4つの芳香族ジカルボン酸分子のそれぞれの酸素とリチウムとが4配位を形成する構造を形成し、有機骨格の部分でπ電子共役雲による相互作用が働いているものと推察された(上述した式(2)参照)。このX線回折測定結果を用いて、(102)面及び(112)面の面間隔(nm)を算出した。
【0041】
(充放電試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3の二極式評価セルを用い、充放電試験を行った。充放電試験では、20℃の温度環境下において、0.03mAで0.5Vまで還元(放電)したのち、0.03mAで2.0Vまで酸化(充電)させた。この充放電操作の1回目の酸化容量をQ(1st)、10回目の酸化容量をQ(10th)とした。また、Q(10th)/Q(1st)×100を10サイクル後の容量維持率(%)とした。
【0042】
(結果と考察)
図4は、実施例1〜3の充放電曲線である。
図5は、比較例1〜3の充放電曲線である。
図6は、実施例1〜3及び比較例1〜3の充放電サイクル数に対する酸化容量の関係図である。また、実施例1〜3,比較例1〜3について、電極厚さ(μm)、電極焼成の有無、(102)面及び(112)面の面間隔(nm)、充放電操作の1サイクル目及び10サイクル目の酸化容量(mAh/g)及びその容量維持率(%)を表1にまとめた。
図4、5及び表1に示すように、実施例1〜3の評価セルでは、電位平坦部分であるプラトー領域をもち、初期の酸化容量が100mAh/g程度であり、容量維持率に大きな変化はないものの、比較例1〜3に比べ大きな充放電容量を有することがわかった。芳香環が1つしかないベンゼン骨格を含むものでは、リチウム吸蔵時の僅かな体積変化に伴い、芳香環によるπ電子相互作用が弱くなり、π電子の重なりが少なくなることで導電性が低下し、充放電容量が減少することが考えられる。ここで、実施例1〜3では、比較例に比して実施例では(102)面及び(112)面に相当する面間隔が狭いことがわかった。層状構造体における(102)面(
図1)、(112)面(
図2)の面間隔は、いずれもベンゼン骨格の積層様式に相当することから、比較例に比して実施例において面間隔が狭いことにより、ベンゼン骨格間におけるπ電子による電子のやり取りが進行しやすくなったこと考えられ、その結果、充放電容量が向上したものと考えられる。また、面間隔の最低値を、その構造に基づき計算により見積もると、(102)面では0.36922nmであり、(112)面では0.29993nmであった。したがって、X線回折測定による(102)面の面間隔が0.36922nm以上0.37160nm未満の範囲、より好ましくは0.37091nm以上0.37117nm以下の範囲にあり、(112)面の面間隔が0.29993nm以上0.30118nm未満の範囲、より好ましくは0.30093nm以上0.30098nm以下の範囲では、充放電に伴う電子およびリチウムイオンのやり取りが向上することにより、充放電容量がより向上するものと推察された。
【0043】
電極の焼成処理において、200℃で焼成処理を行ったものでは、上記面間隔は得られなかった。また、示差熱熱質量同時測定を行った結果、450℃を超えると層状構造体の熱分解が生じることがわかり、この分解温度を考慮すると、焼成処理では450℃を超えないことが望ましいと推察された。したがって、電極の焼成処理では、250℃以上450℃以下の範囲が好ましいと推察された。また、層状構造体のみを焼成処理したものも検討したが、層状構造体のみを焼成処理したものに比して、層状構造体及び導電材などを含む電極を焼成処理したものの方が各面間隔の低減においてより好ましい結果が得られた。したがって、焼成処理では、導電材や結着材などの存在も、上述した好適な面間隔を構成するのに寄与しているかもしれないと推察された。更に、上記、好適な面間隔の範囲になるよう、層状構造体を作製することができるものとすれば、特に電極を焼成処理する以外の方法でもよいものと推察された。
【0044】
【表1】
【0045】
なお、実施例1〜3では、プラトー領域でのLi金属基準の電位が0.5V〜1.2V程度の範囲にあることから、例えば負極活物質としての黒鉛に比してLi金属基準の電位が高く、負極上へのLi金属の析出を抑制することができる。また、実施例1〜3では、負極活物質としてのリチウムチタン複合酸化物の1.5Vに比してLi金属基準の電位が低く、電池電圧をより高めることができる。また、実施例1〜3では、負極活物質としての金属Siに比して構造的及び熱的に安定であり、充放電サイクル特性がより高いものと推察された。このように、層状構造体(結晶性有機・無機複合材料)は、X線回折測定による(102)面及び(112)面などの面間隔を好適な範囲とすると、充放電容量など、充放電サイクル特性に優れた電極活物質として利用することができることがわかった。