特許第6346812号(P6346812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346812
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】アミノ酸の定量法および測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20180611BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20180611BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   G01N27/416 302G
   G01N27/26 371A
   G01N27/26 371D
   G01N27/26 371F
   G01N27/28 M
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-146143(P2014-146143)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-23957(P2016-23957A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】小谷 明
(72)【発明者】
【氏名】楠 文代
(72)【発明者】
【氏名】袴田 秀樹
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−264503(JP,A)
【文献】 特開平10−288599(JP,A)
【文献】 特開2007−205874(JP,A)
【文献】 特開2001−242143(JP,A)
【文献】 K. Takamura, T. Fuse, F. Kusu,Electrochemical detection in flow injection analysis for determining serum lipase activity,Journal of Electroanalytical Chemistry,1995年,Vol.396,pp.507-510
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26 − 27/404
G01N 27/414 − 27/416
G01N 27/42 − 27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アミノ酸含有試料に強酸を過剰量添加して混合溶液を調製する工程と、
(ii)前記混合溶液を、キノン誘導体および電解質の存在下、電気化学的測定に供する工程と、
(iii)前記(ii)の工程により得られた電流値に基づき、前記アミノ酸含有試料中のアミノ酸濃度を算出する工程と
を含む、アミノ酸の定量方法。
【請求項2】
前記(iii)の工程は、既知濃度のアミノ酸を用いて得られた、アミノ酸濃度と電流値または電流値の変化量との関係を示す検量線に基づき、前記アミノ酸濃度を算出することを含む、請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
前記電気化学的測定は、所定の電位範囲内で電位を変化させて前記キノン誘導体のボルタモグラムを得ることを含む、請求項1または2に記載の定量方法。
【請求項4】
前記電気化学的測定は、電位を変化させることなく、特定の電位で前記キノン誘導体の電流値を測定することを含み、
前記特定の電位が、前記キノン誘導体の還元前置波のピークを構成する電位である、請求項1または2に記載の定量方法。
【請求項5】
前記キノン誘導体が、パラベンゾキノン誘導体およびオルトベンゾキノン誘導体からなる群より選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の定量方法。
【請求項6】
前記キノン誘導体が、3,5−ジ−t−ブチル−1,2−ベンゾキノンである、請求項1〜5のいずれかに記載の定量方法。
【請求項7】
前記強酸が、塩酸、硫酸および過塩素酸よりなる群から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の定量方法。
【請求項8】
試料溶液、キノン誘導体および電解質を収容するための容器と、それぞれが前記試料溶液に浸漬するように前記容器中に設けられた作用電極、対極および参照電極を含んだ電極群とを備えた測定部と、
前記測定部によって測定された電流値を検出する検出器と、
を含む、アミノ酸の測定装置。
【請求項9】
前記検出器により検出された電流値に基づき、アミノ酸濃度を算出する計算機を更に含む、請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
前記計算機が、既知濃度のアミノ酸を用いて得られた、アミノ酸濃度と電流値または電流値の変化量との関係を示す検量線に基づき、前記アミノ酸濃度を算出する、請求項9に記載の測定装置。
【請求項11】
前記作用電極の電極電位が特定の値となるように、印加電圧を調節する制御器を更に含む、請求項8〜10のいずれかに記載の測定装置。
【請求項12】
前記キノン誘導体および前記電解質を、前記試料溶液と混合させる混合部と、
前記キノン誘導体および前記電解質を収容するタンクと、
前記タンク内の前記キノン誘導体および前記電解質を、前記混合部へと導く流路と、
前記流路に設けられたポンプと
を更に含む、請求項8〜11のいずれかに記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸の定量法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造過程において微生物発酵が関与する食品、例えば日本酒、味噌、醤油、漬物、納豆等では、微生物による発酵によって生じたアミノ酸の含量が、その風味や旨味に大きく影響を及ぼす。そのため、発酵食品の製造の各段階でアミノ酸の定量が行われている。
【0003】
アミノ酸を定量するための公定法には、ホルモール法や、過塩素酸滴定による方法がある(非特許文献1および非特許文献2)。
ホルモール法は、日本酒に含まれる全アミノ酸の総濃度をアミノ酸度として測定するのに使用されているが、添加する試薬が多いことや、該方法で使用するホルマリンを使用直前にその都度調製する必要があるため、操作が煩雑である。更に、滴定の終点をフェノールフタレイン等の指示薬の色の変化によって決定するため、誤差が生じやすい。
また、過塩素酸滴定による方法では、溶媒として使用される酢酸の臭気の問題や、廃液処理が面倒であるという問題がある。更に、測定の自動化および高速化が困難である。
【0004】
他にも、アミノ酸濃度の測定法として、蛍光化合物を使用してアミノ酸を蛍光誘導体化し、蛍光特性を付与した誘導体を液体高速クロマトグラフィー(HPLC)に供する方法があるが、この方法も、アミノ酸の誘導化という前処理を必要とし、操作が煩雑である。
【0005】
そこで、より簡便なアミノ酸の定量方法を提供することを目的として、ハイドロキノン誘導体であるトロロックスを利用し、アミノ酸を塩基として電気化学的に検出する、アミノ酸定量フロー装置およびアミノ酸定量方法が提案された(特許文献1)。
しかしながら、上記装置および定量方法では、アミノ酸の水に対する溶解度に比べてトロロックスの溶解度が小さいため、溶媒等の測定条件が制限されることがあり、測定の簡便さおよび迅速さの点では改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】国税庁所定分析法、3.清酒、第7頁
【非特許文献2】第十六改正 日本薬局方解説書、株式会社廣川書店 第C−321頁および第C−1392頁
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−205874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、測定の簡便性および迅速性を更に改善した、アミノ酸の定量方法および測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
アミノ酸の酸化還元反応を利用して、一部のアミノ酸を電気化学的に分析する方法が知られていたが、この方法では大部分のアミノ酸が検出できないことがあった。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、逆滴定の手法を用いて、アミノ酸を過剰の酸で中和した後、未反応の余剰の酸の濃度をキノン誘導体の存在下で電気化学的手法により求め、当該酸の濃度からアミノ酸の濃度を求めることができることを知見し、より簡便且つ迅速に、アミノ酸を定量できる方法および装置を構築できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の第1の側面は、
(1)(i)アミノ酸含有試料に強酸を過剰量添加して混合溶液を調製する工程と、
(ii)前記混合溶液を、キノン誘導体および電解質の存在下、電気化学的測定に供する工程と、
(iii)前記(ii)の工程により得られた電流値に基づき、前記アミノ酸含有試料中のアミノ酸濃度を算出する工程と
を含む、アミノ酸の定量方法である。
【0011】
ここで、「アミノ酸」の語には、天然アミノ酸および合成アミノ酸が含まれ、α位にアミノ基およびカルボキシ基の両方の官能基を持つ有機化合物の全てが包含される。また、アミノ酸含有試料には、アミノ酸は、1種類のみ含まれていても、複数種類含まれていてもよい。アミノ酸含有試料にアミノ酸が複数含まれている場合、アミノ酸含有試料中に含まれる全アミノ酸の総濃度を、「アミノ酸度」という。従って、本発明の「アミノ酸の定量方法」には、「アミノ酸の濃度の測定方法」、「アミノ酸度の測定方法」、「アミノ酸の濃度の決定方法」および「アミノ酸度の決定方法」等も包含されるものとする。
「キノン誘導体」の語には、キノン誘導体に加え、キノン自体も包含されるものとする。
更に、強酸に関して「過剰量」とは、アミノ酸との中和反応に必要なモル数を超える量をいう。
【0012】
また、本発明の一態様は、
(2)前記(iii)の工程は、既知濃度のアミノ酸を用いて得られた、アミノ酸濃度と電流値または電流値の変化量との関係を示す検量線に基づき、前記アミノ酸濃度を算出することを含む、(1)に記載の定量方法である。
【0013】
「電流値の変化量」とは、アミノ酸と強酸とを含んだ混合溶液を、キノン誘導体および電解質の存在下、電気化学的に測定して得られるキノン誘導体還元前置波の電流値と、アミノ酸以外は同じ組成を有する溶液を、同様に電気化学的に測定して得られるキノン誘導体還元前置波の電流値との差をいう。
【0014】
本発明の一つの態様は、
(3)前記電気化学的測定は、所定の電位範囲内で電位を変化させて前記キノン誘導体のボルタモグラムを得ることを含む、(1)または(2)に記載の定量方法である。
「ボルタモグラム」とは、測定試料に印加する電位を変化させ、それに応答して変化する電流を計測することにより得られる電流−電位曲線をいう。キノン誘導体のボルタモグラムの例は図1に示される。
【0015】
更に、本発明の一つの態様は、
(4)前記電気化学的測定は、電位を変化させることなく、特定の電位で前記キノン誘導体の電流値を測定することを含み、前記特定の電位が、前記キノン誘導体の還元前置波のピークを構成する電位である、(1)または(2)に記載の定量方法である。
【0016】
ここで、「キノン誘導体の還元前置波」とは、図1(b)のボルタモグラムに示されるような、キノン誘導体が通常示す還元波とは別に生じる還元波をいう。アミノ酸含有溶液に添加され、アミノ酸との中和に使用されなかった余剰の強酸は強いプロトン供与体として作用し、測定溶液中に共存するキノン誘導体にプロトンを供与する。プロトンを供与されたキノン誘導体は、キノン誘導体単体よりも易還元性であるため、ボルタモグラムに、キノン誘導体が通常示す還元波とは別の還元波を生じさせる(図1(a)および(b)参照)。本発明において、「キノン誘導体の還元前置波」は、キノン誘導体が通常示す還元波よりも正電位側に生じる。例えば、前記還元前置波は、キノン誘導体が通常示す還元波のピークの出現電位よりも、0.05〜0.5V正電位側に生じる。また、「キノン誘導体の還元前置波のピークを構成する電位」とは、例えば、上記「キノン誘導体の還元前置波」のピークを示す電位および該ピークを示す電位の前後0.5Vの範囲の電位をいう。
【0017】
本発明の更に一つの態様は、
(5)前記キノン誘導体が、パラベンゾキノン誘導体およびオルトベンゾキノン誘導体からなる群より選択される、(1)〜(4)のいずれかに記載の定量方法である。
本発明の更に一つの態様は、
(6)前記キノン誘導体が、3,5−ジ−t−ブチル−1,2−ベンゾキノンである、(1)〜(5)のいずれかに記載の定量方法である。
本発明の更に一つの態様は、
(7)前記強酸が、塩酸、硫酸および過塩素酸よりなる群から選択される、(1)〜(6)のいずれかに記載の定量方法である。
【0018】
本発明の第2の側面は、
(8)試料溶液、キノン誘導体および電解質を収容するための容器と、それぞれが前記試料溶液に浸漬するように前記容器中に設けられた作用電極、対極および参照電極を含んだ電極群とを備えた測定部と、
前記測定部によって測定された電流値を検出する検出器と、
を含む、アミノ酸の測定装置である。
【0019】
また、本発明の一つの態様は、
(9)前記検出器により検出された電流値に基づき、アミノ酸濃度を算出する計算機を更に含む、(8)に記載の測定装置である。
また、本発明の一つの態様は、
(10)前記計算機が、既知濃度のアミノ酸を用いて得られた、アミノ酸濃度と電流値または電流値の変化量との関係を示す検量線に基づき、前記アミノ酸濃度を算出する、(9)に記載の測定装置である。
また、本発明の一つの態様は、
(11)前記作用電極の電極電位が特定の値となるように、印加電圧を調節する制御器を更に含む、(8)〜(10)のいずれかに記載の測定装置である。
【0020】
また、本発明の別の側面は、
(12)前記キノン誘導体および前記電解質を、前記試料溶液と混合させる混合部と、
前記キノン誘導体および前記電解質を収容するタンクと、
前記タンク内の前記キノン誘導体および前記電解質を、前記混合部へと導く流路と、
前記流路に設けられたポンプと
を更に具備する、(8)〜(11)のいずれかに記載の測定装置である。
【0021】
上記アミノ酸の定量方法および測定装置によれば、より簡便且つ迅速にアミノ酸を定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】キノン誘導体のボルタモグラムの例を示す。
図2】アミノ酸の測定装置の一例の外観図を示す。
図3】上蓋を開放した状態の図2の測定装置の外観図を示す。
図4図2の測定装置の測定部に試料溶液を入れた状態を示す。
図5】フローインジェクション分析(FIA)の機構の概略図を示す。
図6】ボルタンメトリー装置の概略図を示す。
図7】グルタミンを含む試料について得られたボルタモグラムを示す。
図8】グルタミンを含む試料について得られたボルタモグラムを示す。
図9】グルタミン濃度と還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)との関係を示す検量線を示す。
図10】グルタミン酸を含む試料について得られたボルタモグラムを示す。
図11】グルタミン酸濃度とΔipreとの関係を示す検量線を示す。
図12】アルギニンを含む試料について得られたボルタモグラムを示す。
図13】アルギニン濃度とΔipreとの関係を示す検量線を示す。
図14】フローインジェクション分析法(FIA)を用いてグルタミンを含有する試料を測定した場合における、フローシグナルを示す。
図15】グルタミン濃度とフローシグナルの高さとの関係を示す検量線を示す。
図16】グルタミン濃度とフローシグナルの高さの変化量(ΔiH)との関係を示す検量線を示す。
図17】フローインジェクション分析法(FIA)を用いてL−グルタミンを含有する試料を測定した場合における、フローシグナルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明のアミノ酸の定量方法は、
(i)アミノ酸含有試料に強酸を過剰量添加して混合溶液を調製する工程と、
(ii)前記混合溶液を、キノン誘導体および電解質の存在下、電気化学的測定に供する工程と、
(iii)前記(ii)の工程により得られた電流値に基づき、前記アミノ酸含有試料中のアミノ酸濃度を算出する工程と
を含む。以下、本明細書において、(i)の工程を「混合溶液調製工程」と、(ii)の工程を「混合溶液測定工程」と、(iii)の工程を「アミノ酸濃度算出工程」ともいう。
【0024】
(i)混合溶液調製工程
本工程では、アミノ酸含有試料に、強酸を過剰量添加して混合溶液を調製する。
アミノ酸は、天然アミノ酸であっても合成アミノ酸であってもよく、α位にアミノ基およびカルボキシ基の両方の官能基を持つ有機化合物の全てが包含される。
また、アミノ酸含有試料には、アミノ酸は、1種類のみ含まれていても、複数種類含まれていてもよい。アミノ酸含有試料にアミノ酸が複数含まれている場合、アミノ酸含有試料中に含まれる全アミノ酸の総濃度を、「アミノ酸度」という。
本工程において、強酸は、アミノ酸のアミノ基と反応してアミノ酸を中和するが、アミノ酸との中和反応に使用されなかった余剰の強酸は、以下で説明するキノン誘導体にプロトンを供与する。本工程で使用される強酸の濃度は、既知であることが好ましい。
【0025】
該アミノ酸含有試料は、例えば、日本酒、味噌、醤油、漬物、納豆などの、製造過程において微生物による発酵が関与するものから採取されたものである。このような微生物発酵により製造される食品では、微生物による発酵によって生じたアミノ酸の含量が、その風味や旨味に大きく影響する。そのため、製造の各段階でアミノ酸の定量を行うことは、上記食品の風味や旨味をモニターおよび/または制御するのに有用である。アミノ酸含有試料は、液体および、ゾル、ゲル、固体などを溶解あるいは抽出して得た液体試料である。
【0026】
強酸としては、例えば、塩酸、硫酸、過塩素酸が挙げられるが、これらに限定されない。
例えば、以下で説明する測定装置の形態で流通する場合、安全性の観点および各国の規制の観点から、強酸として好ましいのは、塩酸である。
【0027】
(ii)混合溶液測定工程
本工程では、前記混合溶液を、キノン誘導体および電解質の存在下、電気化学的測定に供する。
本工程において、混合溶液と、キノン誘導体および電解質との体積比は、例えば、200:1〜2:1である。
【0028】
本工程の電気化学測定は、所定の電位範囲内で電位を変化させて、即ち、所定の電位範囲内で電位を掃引して、キノン誘導体のボルタモグラムを得ることを含んでもよく、また、電位を変化させることなく、特定の電位でキノン誘導体の電流値を測定することを含んでもよい。
所定範囲内で電位を変化させてボルタモグラムを得る場合、所定の電位範囲は、例えば、+0.5〜−0.5Vである。電位は、例えば、走査速度5〜100mV/secで変化させることができる。
また、電位を変化させることなく、特定の電位で電流値を測定する場合、特定の電位は、キノン誘導体の還元前置波のピークを構成する電位であり、キノン誘導体の還元前置波のピークを構成する電位とは、キノン誘導体の還元前置波のピークを示す電位および該ピークを示す電位の前後0.5Vの範囲の電位をいう。
【0029】
本工程で使用されるキノン誘導体は、空気中で安定であること、および、適当な電位に還元前置波を生ずることから、好ましくは、オルトキノン誘導体およびパラキノン誘導体である。キノン誘導体は、特に好ましくは、以下に構造を示す3,5−ジ−t−ブチル−1,2−ベンゾキノン(以下、「DBBQ」ともいう)である。
【0030】
【化1】
【0031】
電解質としては、塩化ナトリウム、塩化リチウムおよび過塩素酸リチウムが挙げられ、環境への負荷の低減の観点から、塩化ナトリウムが好ましい。
【0032】
キノン誘導体と電解質とは、通常、溶媒中に溶解し、支持電解質溶液の形態で、アミノ酸を含んだ試料と混合される。
【0033】
溶媒としては、環境への負荷が少ないものであって、キノン誘導体の溶解度が3mmol/Lより大きく、溶解後のキノン誘導体が安定に存在でき、且つ、電解質の溶解度が10mmol/Lより大きく、電解質を溶解して得られた溶液の電気伝導性を確保できるものが使用される。具体的には、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、およびアセトニトリル、ならびに、これら有機溶媒と水との混合溶媒が挙げられる。溶媒は好ましくは、キノン誘導体の溶解度、優れた電気伝導性および環境負荷の少なさの観点から、水とエタノールとの混合溶媒である。混合溶媒の場合、各溶媒の含有率は、キノン誘導体およびアミノ酸の双方の溶解性の観点、安全性、電気伝導性等の観点から適宜選択される。溶媒として、例えば、水とエタノールとの混合溶媒を使用する場合、体積比1:1で混合することが好ましい。
【0034】
(iii)アミノ酸濃度算出工程
本工程では、前記測定工程により得られた電流値に基づき、前記アミノ酸含有試料中のアミノ酸濃度を算出する。
好ましくは、本工程は、既知濃度のアミノ酸を用いて得られた、アミノ酸濃度と、電流値または電流値の変化量との関係を示す検量線に基づき、アミノ酸濃度を算出することを含む。
【0035】
ここで、電流値の変化量は、標準溶液を用いた電気化学的測定により得られるボルタモグラムまたは電流値を基準として算出することができる。従って、本発明の定量方法には、標準溶液を電気化学的測定に供する標準溶液測定工程が更に含まれてもよい。当該標準溶液としては、例えば、アミノ酸を含まない標準溶液(例えば、アミノ酸を含まずキノン誘導体と電解質とを含んだ標準溶液、アミノ酸を含まずキノン誘導体と電解質と強酸とを含んだ標準溶液)、種々の既知濃度のアミノ酸を更に含んだ標準溶液等が使用される。
【0036】
上記アミノ酸を含まない標準溶液について測定された電流値を基準とし、アミノ酸を更に含有する標準溶液の電流値と比較して、電流値の変化量を導き出すことができる。ここで、電流値は、例えば、キノン誘導体の還元前置波のピークの電流値であってもよい。この場合、電流値の変化量は、該還元前置波のピークの電流値の変化量(以下、「Δipre」ともいう)となる。
検量線は、種々の既知濃度のアミノ酸を含有する標準溶液とアミノ酸を含まない標準溶液とについて電気化学的測定を行い、アミノ酸濃度に対して電流値または電流値の変化量をプロットすることにより得ることができる。
キノン誘導体の還元前置波のピークは、アミノ酸含有試料中に含まれるアミノ酸の濃度が高いほど余剰の強酸濃度が低くなるために、小さくなる(例えば、図7および8参照)。ここで、例えば、アミノ酸を含まずキノン誘導体と電解質と強酸とを含んだ標準溶液(図中の(A0))を基準とした場合、還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)は、アミノ酸濃度が上昇するにつれて大きくなる(例えば、図9参照)。
【0037】
上記定量方法によれば、従来の方法に比べ、より簡便で迅速に、試料中のアミノ酸の定量をすることができる。従って、上記定量方法は、例えば、食品、特に、日本酒、味噌、醤油、漬物、納豆等の発酵食品等の製造において利用されることが期待される。
また、逆滴定の手法を用いると共に、キノンの還元前置波として電流値を測定しているため、一部のアミノ酸を検出できない等の問題がない。
【0038】
次いで、図2〜6に示すアミノ酸の測定装置の一例を参照しながら、本発明の第2の側面について説明する。
図2はアミノ酸の測定装置の一例の概略外観図である。該アミノ酸の測定装置は、バッチ式の測定装置である。
【0039】
図2において該装置の上蓋1を外すと、図3に示すように上蓋1が開放され、内部空間には、容器5が存在する。図2では、装置の本体部の凹部により容器5が形成されているが、容器5は前記内部空間に取り外し可能に設置されていてもよい。当該容器5には、試料溶液と、キノン誘導体および電解質とが収容される。ここで、「試料溶液」には、アミノ酸含有試料溶液、アミノ酸含有試料と強酸との混合溶液、先に述べた検量線作成のための標準溶液(例えば、アミノ酸を含まずキノン誘導体と電解質とを含んだ標準溶液、アミノ酸を含まずキノン誘導体と電解質と強酸とを含んだ標準溶液、種々の既知濃度のアミノ酸を更に含んだ標準溶液等)等が包含される。なお、上記標準溶液を用いて、更に、装置の校正を行うこともできる。
【0040】
図4に示すように、当該容器5中には、対極6と作用電極7と参照電極8とからなる電極群が設けられている。容器5と当該電極群とは測定部を構成している。電極群は、作用電極7、対極6および参照電極8の各電極がそれぞれ、前記試料溶液に浸漬するように、容器5に設けられている。容器5内の作用電極7、対極6および参照電極8の各電極は、コネクタを介して検出器(図示せず)に接続されており、検出器は、前記測定部によって測定された電流値を検出する。
【0041】
対極6の材料としては、ステンレス(SUS)、アルミニウム及びその合金等、白金、金、炭素、グラッシーカーボンと呼ばれるガラス状炭素(GC)、プラスチックフォームドカーボン(Plastic formed carbon(PFC))を1000℃〜2000℃で焼結した炭素が挙げられるが、共存電解液中でも腐食しない高い化学的安定性を有することから、SUS、白金、GC、PFCが好ましい。
作用電極7の材料としては、炭素、GC、PFCが挙げられ、中でもPFCが好適に用いられる。
参照電極8の材料としては、銀−銀イオン、銀−塩化銀、飽和カロメル、水銀−飽和硫酸水銀などの、電極電位が安定した電極を構成する材料が好ましい。なお、電極に関する、例えば「銀−塩化銀」等の表記は、当該電極が、銀の表面を塩化銀で被覆してなることを示す。
【0042】
対極6、作用電極7、参照電極8は、コネクタを介して制御器(図示せず)に接続されていてもよい。制御器は、作用電極7の電極電位が特定の値となるように、印加電圧を調節する。
電位は、所定の電位範囲内を変化するように、即ち、所定の範囲内で電位が掃引されるように調節されてもよく、または電位を変化させることなく、特定の電位に調節されてもよい。
【0043】
また、当該測定装置は、図示しないが、計算機を更に備えていることが好ましい。当該計算機は、前記検出器に接続されており、前記検出器により検出された電流値に基づき、アミノ酸濃度を算出する。例えば、検出された電流値や算出された濃度は、液晶ディスプレイ2に表示される。このとき、検出された電流値は、ボルタモグラムとして液晶ディスプレイ2に表示されてもよい。
前記計算機には、好ましくは、先述の検量線のデータが組み込まれており、当該検量線に基づき、前記アミノ酸濃度が算出される。
【0044】
図2〜4を参照して説明したバッチ式の測定装置によれば、食品、特に、日本酒、味噌、醤油、漬物、納豆等の発酵食品等の製造現場において、その場で簡易且つ迅速な測定が可能であり、ホルモール法に代わる新規な測定装置を提供することができる。
【0045】
なお、図2および3に示す測定装置において、参照符号3はスタート/ストップボタン、参照符号4は本装置の電源をON/OFFする電源ボタンである。
【0046】
上記測定装置によれば、簡便かつ迅速にアミノ酸濃度を測定することが可能である。特に、測定装置が上記のようなバッチ式測定装置であれは、発酵食品のアミノ酸を定量する場合、製造現場等でその場で簡便且つ迅速にアミノ酸を定量することができる。また、装置の小型化が容易であり、故に、安価に製作することができる。更に、本発明の測定装置では、キノン誘導体の還元電流を電気化学的手法によって測定するため、感度が優れている。
【0047】
また、HPLCに、上記測定装置の検出部を組み込むことにより、生体試料の分離分析への応用も可能となる。この場合、より簡便な検査および診断の提供が期待される。本発明の測定装置を用いれば、HPLCを用いた従来のアミノ酸分析法に必要であった誘導体化の前処理をすることなく、アミノ酸を定量することが可能である。
【0048】
更に、本発明のアミノ酸の測定装置は、フローインジェクション分析(FIA)の機構を採用したフロー型測定装置であってもよい。図5に、FIAの機構の概略図を示す。この場合、該測定装置は、キノン誘導体および電解質を、試料溶液と混合させる混合部(図示しない)と、前記キノン誘導体と前記電解質とを収容するタンク9と、前記タンク内の前記キノン誘導体と前記電解質を、前記混合部へと導く流路10と、前記流路に設けられたポンプ11とを更に具備する。ポンプ11は前記制御器に接続されていてもよい。例えば、ポンプ11は、制御器の制御により、タンク9内のキノン誘導体および電解質を汲み上げ、該キノン誘導体および該電解質は、流路10を介して試料混合部へと導かれ、試料混合部でアミノ酸含有試料と混合される。なお、図5では、試料導入部を試料混合部として利用してもよい。
【0049】
アミノ酸含有試料と、キノン誘導体および電解質とが混合された後、これらは、電気化学的測定に供される。FIAの機構を組み込んだ測定装置では、電位を変化させることなく、電位を固定して電気化学測定を行うことが好ましい。
なお、強酸は、アミノ酸含有試料が、キノン誘導体および電解質と混合される前、キノン誘導体および電解質と混合された後、またはキノン誘導体および電解質と混合されるのと同時、のいずれのタイミングで、アミノ酸含有試料と混合されてもよい。
また、強酸が、キノン誘導体および電解質がアミノ酸含有試料と混合されるのと同時に、アミノ酸含有試料に混合される場合、強酸は、事前にキノン誘導体および電解質と混合されてもよい。この場合、例えば、上記タンク9には、キノン誘導体および電解質と共に、強酸が収容される。タンク9内のキノン誘導体、電解質および強酸は、ポンプ11によって汲み上げられ、流路10を介して混合部へと導かれ、前記試料混合部では、キノン誘導体、電解質および強酸に、アミノ酸含有試料が混合される。
また、タンク9には、更に溶媒を収容していてもよい。
【0050】
試料および/またはキノン誘導体および電解質を注入する時間間隔は、前記制御器によって制御されてもよく、試料を注入する時間間隔は、例えば、1分〜5分である。
FIAの機構を組み込んだ上記測定装置では、試料注入のタイミングに応じて、特定の電位における電流値がフローシグナルとして観測される。
例えば、強酸を、アミノ酸含有試料がキノン誘導体および電解質と混合される前にアミノ酸含有試料と混合する場合(即ち、強酸とアミノ酸含有試料とを事前に混合しておく場合)、注入される試料は、アミノ酸含有試料と強酸との混合物であり、該混合物の注入のタイミングに応じて、フローシグナルが観測される。この場合、アミノ酸の濃度が高いほど、フローシグナルの高さは低くなる(例えば、図14参照)。
また例えば、強酸を、アミノ酸含有試料がキノン誘導体および電解質と混合されるのと同じタイミングで混合する場合(例えば、強酸が、キノン誘導体および電解質と事前に混合されている場合)、注入される試料はアミノ酸含有試料である。この場合、アミノ酸の濃度が高いほど、フローシグナルの高さは高くなる。
【0051】
FIAを上記測定装置に組み込むことにより、測定を自動化および高速化することができ、更には、多検体の処理も可能となる。よって、従来の過塩素酸滴定に代わる簡便且つ迅速な測定装置が提供されることが期待される。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
実施例1:中性アミノ酸の濃度とキノン誘導体の還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)との関係
図6に概略を示すボルタンメトリー装置を用いて、以下に示す検液のボルタモグラムを測定し、アミノ酸の濃度と還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)との関係を調べた。中性アミノ酸としてはグルタミンを用いた。グルタミンの構造を以下に示す
【0055】
【化2】
【0056】
上記ボルタンメトリー装置の作用電極、参照電極および対極の材質はそれぞれ、PFC、銀−塩化銀および白金である。また、測定電位は、走査速度10mV/secで、+0.4Vから−0.4Vまで変化させた。
測定を行った検液は以下の通りである。
−支持電解質溶液(エタノール:水(1:1、v/v)中にキノン誘導体DBBQ4mMと電解質50mM NaClとを含む)(X);
−支持電解質溶液に、2.0mM HClおよび種々濃度のグルタミンを添加したもの。グルタミン濃度が0、0.5、1.0、2.0、4.0および5.0mMのものをそれぞれ、検液(A0)、(A1)、(A2)、(A3)、(A4)および(A5)とする。
測定により得られたボルタモグラムを図7および8に示す。図7には、検液(X)、(A0)および(A3)のボルタモグラムを、図8には、検液(A0)〜(A5)の還元前置波のピーク付近の電位のボルタモグラムを示す。
また、図9は、グルタミン濃度に対して、キノン誘導体の還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)をプロットして得られた検量線を示す。ここで、還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)は、検液(A0)の還元前置波のピークの電流値と、検液(A1)〜(A5)の各々の還元前置波のピークの電流値との差である。
【0057】
実施例2:酸性アミノ酸の濃度とΔipreとの関係
アミノ酸として、酸性アミノ酸であるグルタミン酸を用いたこと、および以下の検液を用いたこと以外は、実施例1に示したのと同様にして各検液のボルタモグラムを測定し、アミノ酸濃度とキノン誘導体の還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)との関係を調べた。グルタミン酸の構造を以下に示す。
【0058】
【化3】
【0059】
測定を行った検液は以下の通りである。
−支持電解質溶液(エタノール:水(1:1、v/v)中にキノン誘導体DBBQ4mMと電解質50mM NaClとを含む)(X);
−支持電解質溶液に、2.0mM HClと種々の濃度のグルタミン酸とを添加したもの。グルタミン酸濃度が、0、1.0および2.0mMのものをそれぞれ、検液(B0)、(B1)および(B2)とする。
−支持電解質溶液にグルタミン酸0.5mMを添加したもの(B’);
測定により得られた、検液(X)、(B0)〜(B2)および(B’)のボルタモグラムを図10に示す。また、図11は、グルタミン酸濃度に対して、キノン誘導体の還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)をプロットして得られた検量線を示す。ここで、還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)は、検液(B0)の還元前置波のピークの電流値と、検液(B1)および(B2)の各々の還元前置波のピークの電流値との差である。
【0060】
実施例3:塩基性アミノ酸とΔipreとの関係
アミノ酸として、塩基性アミノ酸であるアルギニンを用いたこと、および以下の検液を用いたこと以外は、実施例1に示したのと同様にして各検液のボルタモグラムを測定し、アミノ酸濃度とキノン誘導体の還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)との関係を調べた。アルギニンの構造を以下に示す。
【0061】
【化4】
【0062】
測定を行った検液は以下の通りである。
−支持電解質溶液(エタノール:水(1:1、v/v)中にキノン誘導体DBBQ4mMと電解質50mM NaClとを含む)(X);
−支持電解質溶液に、2.0mM HClと種々の濃度のアルギニンとを添加したもの。アルギニン濃度が、0、1.0および2.0mMのものをそれぞれ、検液(C0)、(C1)および(C2)とする。
測定により得られた、検液(X)および(C0)〜(C2)のボルタモグラムを図12に示す。また、図13は、アルギニン濃度に対して、キノン誘導体の還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)をプロットして得られた検量線を示す。ここで、還元前置波のピークの電流値の変化量(Δipre)は、検液(C0)の還元前置波のピークの電流値と、検液(C1)および(C2)の各々の還元前置波のピークの電流値との差である。
【0063】
図9、11および13より、アミノ酸濃度とΔipreとの間には比例関係があることが示された。よって、既知のアミノ酸濃度の試料を用いてあらかじめ求めておいた検量線に基づき、測定試料中のアミノ酸濃度を正確に定量することができることが示された。
また、アルギニンの検量線の傾きは、グルタミンおよびグルタミン酸の検量線の傾きと比較して約2倍であった。これは、アルギニンが、アルギニン1分子当たり2つのアミノ基を有するため、2倍のモル量の塩酸が中和反応に使用されるためと考えられる。本定量法では、アミノ酸は一酸塩基として検出されているものと考えられる。
【0064】
また、図10に示すように、グルタミン酸の検液(B1)および(B2)のボルタモグラムでは、0V付近に、キノンの還元前置波とは更なるピークが見られる。これは、支持電解質溶液にグルタミン酸0.5mMを添加した検液(B’)のボルタモグラムにも見られることから、グルタミン酸に起因したピークと考えられる。
【0065】
実施例4:アミノ酸混合試料の分析
日本酒のアミノ酸の組成を模擬したアミノ酸混合試料を調製した。当該混合試料は、中性アミノ酸、酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸をそれぞれ、75%、10%および15%、具体的には、グルタミン、グルタミン酸およびアルギニンをそれぞれ、7.5mM、1.0mMおよび1.5mM含む。即ち、当該混合試料のアミノ酸度は10mMである。
当該試料を検液とし、実施例1〜3と同様にして測定を行い、ボルタモグラムを得た。得られたボルタモグラムと、実施例1〜3の結果とから、検液のアミノ酸度を算出したところ、11.5mMという結果が得られた。この結果を、ホルモール法、過塩素酸滴定から得られた結果と共に表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示されるように、本法で得られたアミノ酸濃度の値は、ホルモール法と比較として15%の相対誤差が生じていた。これは、本発明の定量方法では、一分子あたりにアミノ基を2個有するアルギニンが他のアミノ酸に比べて2倍のモル量の塩酸と反応することに起因するものと考えられる。本法と同様に、アミノ酸を一酸塩基として検出する過塩素酸滴定により得られた値は、本法で得られたアミノ酸濃度の値と一致していた。
【0068】
実施例5:フローインジェクション分析を用いたアミノ酸の定量
実施例5−1:グルタミンの定量
図6に示すボルタンメトリー装置に、フローインジェクション分析(FIA)を組み合わせ、グルタミンの濃度を定量した。上記支持電解質溶液(X)に、0.2mM HClと種々の濃度のグルタミンとを添加し、グルタミン濃度が、0mM、0.1mMおよび0.2mMのものをそれぞれ検液(D0)、(D1)および(D2)とした。一回の試料注入量を5μL、試料の注入間隔を2分として、流速50μL/minで測定を行った。また電流値は、電位0Vで測定した。
なお、用いたボルタンメトリー装置の作用電極、参照電極および対極の材質はそれぞれ、グラッシーカーボン、銀−塩化銀およびSUSであった。
(D0)〜(D2)のそれぞれの検液について得られたフローシグナルの電流値を、図14に示す。
また、図15には、グルタミン濃度に対して、還元前置波由来のフローシグナルの高さをプロットして得られた検量線を示す。ここで、還元前置波由来のフローシグナルの高さは、検液(D0)、(D1)および(D2)の各々のフローシグナルの高さの電流値の絶対値である。
更に、図16には、グルタミン濃度に対して、還元前置波由来のフローシグナルの高さの変化量(ΔiH)をプロットして得られた検量線を示す。ここで、還元前置波由来のフローシグナルの高さの変化量(ΔiH)は、検液(D0)のフローシグナルの高さと、検液(D1)および(D2)の各々のフローシグナルの高さとの差である。
【0069】
図14から、グルタミン濃度が増加するにつれ、還元前置波由来のフローシグナルの高さが減少すること、図15からは、グルタミン濃度と還元前置波由来のフローシグナルの高さとの間に比例関係があることが示された。また、図16からは、グルタミン濃度と還元前置波由来のフローシグナルの高さの変化量(ΔiH)との間にも比例関係があることが示された。
よって、検量線としては、アミノ酸濃度に対してフローシグナルの高さをプロットして得られたもの、およびアミノ酸濃度に対してフローシグナルの高さの変化量(ΔiH)をプロットして得られたもののいずれも用いることができることが示された。
【0070】
実施例5−2:L−グルタミン顆粒中のL−グルタミンの定量
L−グルタミンの標品(L−グルタミン顆粒「ヒシヤマ」、ニプロファーマ株式会社製、純度99%)を用いて、L−グルタミン溶液を調製した。調製したL−グルタミン溶液0.8mLに、1.0mM HClを0.8mL添加した後、該溶液に、8mM DBBQを2mL、0.25M NaClを0.4mL添加して混合した。
得られた溶液を、2分の注入時間間隔で、5μLの試料注入量で装置に注入し、測定に供した。測定には、実施例5−1で用いた装置を使用し、流速は50μL/minで実施した。測定したフローシグナルを図17に示す。
測定結果に基づき、L−グルタミン含量と、標品の純度からの相対標準偏差(RSD)を算出した。上記方法から得られたL−グルタミンの含量と、過塩素酸滴定を用いて得られたL−グルタミンの含量とを、表2に示す。
【0071】
なお、過塩素酸滴定は、以下の手順で行った。
乾燥したL−グルタミン標品0.15gを、ギ酸3mLに溶解し、酢酸50mLを添加して得た溶液を、0.1mol/Lの過塩素酸で滴定した(電位差滴定法)。同様の方法で、L−グルタミンを含まない溶液を調製して空試験を行い、補正を行った。
【0072】
【表2】
【0073】
表2から、本法によれば、従来法である過塩素酸滴定法と同等のRSDでアミノ酸を定量できることが示された。更には、本法によれば、過塩素酸滴定法よりも短い測定時間でアミノ酸を定量できることが示された。
【符号の説明】
【0074】
1・・・上蓋
2・・・液晶ディスプレイ
3・・・スタート/ストップボタン
4・・・電源ボタン
5・・・容器
6・・・対極
7・・・作用電極
8・・・参照電極
9・・・タンク
10・・・流路
11・・・ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17