(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような塗工装置は、液溜部が密閉されているため、塗工環境の向上等が図れる利点がある。そのため、近年では、高粘度な塗工液など、多様な塗工液についても、この種の塗工装置で塗工を行いたいという要望がある。
【0009】
ところが、従来のこの種の塗工装置では、塗工液の粘度が高くなると液漏れが発生するという問題がある。
【0010】
すなわち、塗工液の粘度が高くなれば、ポンプの吐出圧が高まり、液溜部の液圧も上昇する。液溜部では、ドクター刃の先端よりも液位を高く保つ必要があるため、液溜部の下部の液圧は更に上昇する。その結果、シールプレートの縁など、密閉性の低い部位から液漏れが発生する。
【0011】
従って、この種の塗工装置で利用できる塗工液の粘度は、せいぜい1000mPa・sまでであり、それ以上の高粘度では、液漏れしないで塗工するのは難しい。
【0012】
更に、塗工液は、このような高粘度な塗工液だけでなく、硬質な微粒子を含む塗工液や、非常に乾燥し易い塗工液、流動性が著しく悪い塗工液など、様々な塗工液がある。
【0013】
そこで本発明の目的は、多様な塗工液に対して安定した塗工が実現できる塗工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
開示する塗工装置は、連続して搬送されるシート状の基材に塗工液を塗工する塗工装置である。
【0015】
本塗工装置は、回転駆動され、外周面に供給される塗工液を前記基材に移行させる塗工ロールと、前記塗工ロールの横に設置され、当該塗工ロールの外周面に塗工液を供給する塗工チャンバーと、前記塗工チャンバーに塗工液を循環供給する塗工液サプライヤーと、を備えている。
【0016】
前記塗工チャンバーは、前記塗工ロールと並んで配置されるチャンバー本体と、前記チャンバー本体の上部及び下部の一方から前記塗工ロールに向かって張り出すドクターブレードと、前記チャンバー本体の上部及び下部の他方から前記塗工ロールに向かって張り出すシールブレードと、を有している。
【0017】
前記チャンバー本体は、前記ドクターブレードと前記シールブレードとの間を前記塗工ロールに沿って延びるように形成された横長凹部と、前記横長凹部の下側に開口する流入口を有し、当該横長凹部に塗工液を流入させる給液通路と、前記横長凹部の上側に開口する流出口を有し、当該横長凹部から塗工液を流出させる排液通路と、を有している。
【0018】
前記ドクターブレードの先端及び前記シールブレードの先端が、前記塗工ロールの外周面に接するように前記塗工チャンバーが配置されることにより、当該塗工チャンバーと当該塗工ロールとの間に、塗工液を貯留して、回転する当該塗工ロールの外周面に塗工液を連続的に供給する液溜部が形成されている。
【0019】
そして、前記流入口及び前記給液通路が、前記横長凹部の両端間にわたる横長な形状に形成されていて、塗工液を一時的に貯留する横長な緩衝スペースが、当該給液通路の上流側に連続して設けられている。
【0020】
すなわち、この塗工装置によれば、横長な液溜部に、配管から塗工液が直接流入するのではなく、横長な緩衝スペースに塗工液を一時的に貯留させた後、横長な給液通路を通じて液溜部に流入させる。
【0021】
従って、液溜部の下部の横幅方向の全域に、一様な流れで塗工液を流入させることができるので、液溜部の下部での液圧の上昇や横幅方向の液圧のばらつきが効果的に抑制できる。その結果、高粘度な塗工液でも液漏れを生じさせないなど、特殊な塗工液であっても安定した塗工が行える。
【0022】
更には、前記流出口及び前記排液通路が、前記横長凹部の両端間にわたる横長な形状に形成されていて、塗工液の一時的な収容を可能にする横長な液収容スペースが、前記排液通路の下流側に連続して設けられているようにするとよい。
【0023】
そうすれば、横長な液溜部から、配管を通じて塗工液を流出させるのではなく、横長な排液通路を通じて横長な液収容スペースに流出させ、そこに塗工液を一時的に貯留させることができる。
【0024】
それにより、塗工チャンバーの内部に、幅広い一様な塗工液の流れが形成されるので、液溜部全体での液圧の上昇や横幅方向の液圧のばらつきが効果的に抑制できる。その結果、よりいっそう安定した塗工が行える。
【0025】
更には、前記給液通路及び前記排液通路のいずれか一方又は両方が、塗工液の流れの下流側に向かって上向きに傾斜しているようにしてもよい。
【0026】
そうすれば、塗工チャンバー内における塗工液の流れが、緩やかに湾曲した形状になるため、塗工液が流れ易くなる。
【0027】
また、前記塗工ロールの外周面と対向する前記横長凹部の底面は、当該塗工ロールと中心が同一の円弧状の曲面に形成されているようにするのが好ましい。
【0028】
そうすれば、液溜部での塗工液の流路断面が一様になるため、塗工液の液圧の上昇や変動を効果的に抑制することができる。
【0029】
更には、前記給液通路の横断面と前記排液通路の横断面とが、略同一の大きさにするとよい。
【0030】
そうすれば、液溜部に対する塗工液の流入抵抗と流出抵抗とがほぼ同じになるため、液溜部での塗工液の液圧の上昇や変動を、より効果的に抑制することができる。
【0031】
例えば、前記チャンバー本体が、前記横長凹部、前記排液通路、及び前記給液通路が形成されている主部材と、当該主部材に組み付けられる副部材とからなる複数の部材で構成されていて、前記緩衝スペース及び前記液収容スペースの少なくともいずれか一方が、前記副部材を前記主部材に組み付けることによって形成されているようにしてもよい。
【0032】
そうすれば、状況に応じて副部材の交換ができるので、汎用性に優れるし、加工や組み立ても容易になり、製造性にも優れる。分解できるので、清掃し易い点でも有利である。緩衝スペースや液収容スペースの容量を、塗工液の性状に合わせて自在に大きくできるので、塗工液の流れをより安定させることができる。
【0033】
更には、前記緩衝スペースの容積よりも前記液収容スペースの容積の方を大きくするのが好ましい。
【0034】
そうすれば、液収容スペースに塗工液が充満するのを防ぐことができるので、適切な塗工液の流れを安定して保持できる。
【0035】
また更には、前記チャンバー本体は、前記横長凹部が表側側面に形成されている基部と、前記基部の裏側側面の下部から張り出して前記緩衝スペースを構成する下側張出部と、前記基部の裏側側面の上部から張り出して前記液収容スペースを構成する上側張出部と、を有し、前記下側張出部と前記上側張出部とが、空間を隔てて上下に並んでいるようにしてもよい。
【0036】
そうすれば、その空間を配管や配線などに利用できるため、利便性に優れる。
【0037】
例えば、前記チャンバー本体の内部の塗工液の温度調節が可能な液温調節装置が、当該チャンバー本体に付設されているようにしてもよい。
【0038】
そうすれば、外部の温度変化に伴う塗工液の粘度の上昇を防ぐことができるので、よりいっそう安定した塗工を行うことができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の塗工装置によれば、多様な塗工液に対して安定した塗工が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0042】
<塗工装置>
図1に、本実施形態の塗工装置1を示す。この塗工装置1は、連続して搬送されるシート状の基材Wに塗工液を塗工する、縦型の装置(キスリバース方式)である。上側ガイドロール2、下側ガイドロール3、塗工液サプライヤー10、塗工ロール20、塗工チャンバー30などで、塗工装置1は構成されている。
【0043】
上側ガイドロール2及び下側ガイドロール3は、基材Wの搬送経路の途中に、上下に離れて互いに平行に配置されている。上側ガイドロール2及び下側ガイドロール3は、いずれも略水平方向に延びる横軸J1,J2回りに回転自在な状態で、不図示の装置フレームに支持されている。
【0044】
塗工時の基材Wは、引っ張られた状態で、これら上側ガイドロール2及び下側ガイドロール3によって裏面が支持されている。基材Wは、制御された速度で、白抜き矢印が示すように、上下方向(略鉛直方向)を上向きに搬送される。
【0045】
(塗工液サプライヤー)
塗工液サプライヤー10は、貯留槽11、送液ポンプ12、送液配管13、返液配管14などで構成されており、塗工液を塗工チャンバー30に循環供給する。貯留槽11は、塗工液を貯留する容器であり、塗工チャンバー30よりも低位置に設置されている。
【0046】
貯留槽11は、送液配管13を介して塗工チャンバー30と接続されている。送液配管13の途中に送液ポンプ12が設置されており、送液ポンプ12の吐出力により、貯留槽11から塗工チャンバー30に塗工液が供給される。
【0047】
貯留槽11はまた、返液配管14を介して塗工チャンバー30と接続されている。返液配管14は、塗工チャンバー30から貯留槽11に向かって下るように配索されている。従って、塗工チャンバー30で過剰になった(溢れた)塗工液は、自由落下により、この返液配管14を通じて貯留槽11に還される。塗工時には、送液ポンプ12の駆動により、貯留槽11から塗工チャンバー30に塗工液が循環供給される。
【0048】
この塗工装置1では、高粘度な塗工液が用いられている。
【0049】
一般に、この種の塗工装置では、1000mPa・sを超える高粘度な塗工液を用いると液漏れが発生するため、そのような高粘度な塗工液では正常な塗工を行うことは困難である。それに対し、この塗工装置1では、後述するように、構造を工夫したことにより、高粘度な塗工液でも安定した塗工ができるようになっている。
【0050】
具体的には、この塗工装置1の場合、1000mPa・s以上の高粘度な塗工液であっても正常な塗工を行うことができ、少なくとも3000mPa・sまでは、液漏れを生じること無く安定した塗工が行える。
【0051】
(塗工ロール)
塗工ロール20は、横長な円柱形状を有する部材であり、本実施形態の塗工ロール20の外径は、高粘度な塗工液でも対応できるように、塗工チャンバー30に対して小さく設定されている。具体的には、
図2に示すように、塗工ロール20の外径は、塗工チャンバー30の縦寸法の1/2以下の大きさに設定されている。
【0052】
塗工ロール20は、上側ガイドロール2と下側ガイドロール3との間の高さに位置し、基材Wの表面に接した状態で、これらと平行に配置されている。塗工ロール20もまた、上側ガイドロール2及び下側ガイドロール3と同様に、横軸J3回りに回転自在な状態で不図示の装置フレームに支持されている。
【0053】
塗工ロール20には、モータ21が付設されている。このモータ21により、基材Wとの接触部位において、基材Wの搬送方向とは逆の方向に外周面が周回するように、塗工ロール20は回転駆動される。
【0054】
塗工ロール20の外周面には、多数のセル(凹み)で構成された塗工領域(図示せず)が形成されている。基材Wの表面は、この塗工領域に接している。塗工ロール20の回転に伴って周回するこの塗工領域に、塗工チャンバー30から一定量の塗工液が連続的に供給される。その塗工液が、搬送される基材Wの表面に移行することで、基材Wの表面は連続的に塗工される。
【0055】
(塗工チャンバー)
塗工チャンバー30は、複数の部材で構成されている横長な構造物であり、塗工ロール20の横に設置されている。
【0056】
図3に、塗工チャンバー30の詳細を示す。塗工チャンバー30は、チャンバー本体31、ドクターブレード32、シールブレード33、サイドシール34、押付具35などで構成されている。チャンバー本体31は、
図1に示すように、塗工ロール20の隣に並んで配置される横長な部材であり、基部31a、下側張出部31c、及び上側張出部31bを有している。
【0057】
本実施形態のチャンバー本体は、第1部材40、第2部材50、及び第3部材60を組み合わせることによって構成されている。
【0058】
基部31aは、縦長な横断面を有する横長な部分であり、第1部材40によって構成されている。下側張出部31cは、基部31aにおける塗工ロール20と反対側の側面(裏側側面)の下部から張り出す部分であり、第3部材60によって構成されている。上側張出部31bは、下側張出部31cと空間を隔てて上下に対向しながら、裏側側面の上部から張り出す部分であり、第2部材50によって構成されている。
【0059】
上側張出部31bと下側張出部31cとの間には、配線や配管などが可能な空間が設けられている(有効スペースS)。
【0060】
第1部材40は、横長な角柱状の部材であり(主部材)、塗工ロール20と同程度の長さを有している。本実施形態の第1部材40は、アルミ合金等からの削り出しによって一体に形成されている。
【0061】
具体的には、塗工ロール20と対向する第1部材40の側面(表側側面)には、長手方向に直線状に延びて両端部を貫通した横長な凹み(横長凹部41)が形成されている。
【0062】
横長凹部41の底面41aは、曲面に形成されている。具体的には、底面41aは、対向する塗工ロール20の外周面との間の距離が一定になるように、塗工ロール20と中心が同一の断面円弧状に形成されている。
【0063】
横長凹部41の上側には、平坦なブレード支持面42aを有する上側支持部42が、横長凹部41の上縁に沿って設けられている。横長凹部41の下側にも、平坦なブレード支持面43aを有する下側支持部43が、横長凹部41の下縁に沿って設けられている。
【0064】
これら上側支持部42及び下側支持部43には、ドクターブレード32及びシールブレード33が各々取り付けられる。ドクターブレード32及びシールブレード33は、いずれも塗工ロール20と同程度の長さの横長な薄い帯板形状を有している。
【0065】
ドクターブレード32は、上側支持部42のブレード支持面42aに、先端側が横長凹部41の上に張り出すように配置される。そして、押付具35でドクターブレード32をブレード支持面42aに押し付けた状態で、これらの複数カ所がボルトで締結される。そうすることにより、上側支持部42にドクターブレード32が取り付けられている。
【0066】
シールブレード33も、ドクターブレード32と同様にして下側支持部43に取り付けられている。それにより、ドクターブレード32の先端とシールブレード33の先端とは、互い隙間を隔てて上下に対向している。
【0067】
(給液通路、排液通路)
図4にも示すように、第1部材40の下部には、横長凹部41に塗工液を流入させる横長な給液通路46が形成されている。第1部材40の上部には、横長凹部41から塗工液を流出させる横長な排液通路48が形成されている。給液通路46及び排液通路48の各々の長手方向の複数カ所には、強度を確保するために補強リブ49が設けられている。
【0068】
給液通路46は、横長凹部41の下側に開口する横長な流入口46aと、裏側側面の下側に開口する横長な上流側開口46bとを有している。同様に、排液通路48は、横長凹部41の上側に開口する横長な流出口48aと、裏側側面の上側に開口する横長な下流側開口48bとを有している。
【0069】
流入口46aは、横長凹部41の底面41aの下端部と下側支持部43との境界の隅部に沿って延びていて、横長凹部41の一端から他端にわたる範囲にスリット状に開口している。同様に、流出口48aは、横長凹部41の底面41aの上端部と上側支持部42との境界の隅部に沿って延びていて、横長凹部41の一端から他端にわたる範囲にスリット状に開口している。
【0070】
給液通路46は、上流側開口46bから流入口46aに向かって上向きに傾斜しており、流入口46aは、上流側開口46bよりも高い位置にある。排液通路48は、流出口48aから下流側開口48bに向かって上向きに傾斜しており、下流側開口48bは、流出口48aよりも高い位置にある。
【0071】
上流側開口46bから流入口46aまで、給液通路46の横断面積は同一に形成されている。同様に、流出口48aから下流側開口48bまで、排液通路48の横断面積は同一に形成されている。そして、これら給液通路46の横断面積と排液通路48の横断面積とが、略同一に設定されている(本実施形態では、給液通路46が排液通路48よりも横幅が僅か短い分、給液通路46は排液通路48よりも横断面積が僅かに小さい)。
【0072】
第2部材50は、塗工ロール20と同程度の長さを有する横長な部材(副部材)である。本実施形態では、第2部材50も、第1部材40と同様にアルミ合金等から削り出しによって形成されている。
【0073】
具体的には、第2部材50は、互いに離れて対向する横長な上壁部50a及び下壁部50bと、これらの長手方向の一方の縁に連なる側壁部50cと、これらの各端部を塞ぐ一対の端壁部50d,50dとで構成されている。それにより、第2部材50の長手方向の側面の一方には、下流側開口48bよりも大きな横長開口51が開口している。
【0074】
第2部材50は、横長開口51が下流側開口48bに被さるようにして、第1部材40の裏側側面の上部に締結して取り付けられている。そうすることにより、第2部材50の内部には、横長なスペース(液収容スペース52)が形成されている。
【0075】
下流側開口48bは、液収容スペース52の側部の上側に開口している。従って、液収容スペース52の底面52a(下壁部50bの上面)は、下流側開口48bの下縁よりも低く位置している。
【0076】
上壁部50aには、液収容スペース52の内部が大気圧に維持されるように、壁面を貫通する小さな通気孔53が形成されている。下壁部50bには、壁面を貫通する円筒状の排液孔54が形成されている。下壁部50bの上面は、長手方向の略中央部が僅かに低くなる傾斜面となっており、その傾斜した上面の最下部に排液孔54の上端が開口している。
【0077】
下壁部50bの下面には、排液管ブラケット38が取り付けられている。液収容スペース52は、排液管ブラケット38を介して返液配管14と接続されている。
【0078】
第3部材60も、塗工ロール20と同程度の長さを有する横長な部材(副部材)である。第3部材60は、第2部材50と同じ形状であるが、第2部材50よりも断面寸法は小さく設定されている。
【0079】
具体的には、第3部材60は、互いに離れて対向する横長な上壁部60a及び下壁部60bと、これらの長手方向の一方の縁に連なる側壁部60cと、これらの各端部を塞ぐ一対の端壁部60d,60dとで構成されている。それにより、第3部材60の長手方向の側面の一方には、上流側開口46bよりも大きな横長開口61が開口している。
【0080】
第3部材60は、横長開口61が上流側開口46bに被さるようにして、第1部材40の裏側側面の下部に締結して取り付けられている。そうすることにより、第3部材60の内部には、横長なスペース(緩衝スペース62)が形成されている。
【0081】
緩衝スペース62の容積は、液収容スペース52の容積よりも小さく設定されている。それにより、収容できる塗工液量に差が生じて、下流側の液収容スペース52に塗工液が充満するのを防ぐことができる。
【0082】
下壁部60bには、壁面を貫通する円筒状の給液孔64が形成されている。下壁部50bの下面には、給液管ブラケット37が取り付けられている。緩衝スペース62は、給液管ブラケット37を介して送液配管13と接続されている。
【0083】
サイドシール34は、2つあり、第1部材40の長手方向の各端面に締結して取り付けられている。これらサイドシール34によって横長凹部41の両端は塞がれる。各サイドシール34は、塗工ロール20と対向する側部に、弧状のシール面34aと、その上下から上方及び下方の各々に延びる一対のブレード受面34b,34bとを有している。
【0084】
塗工チャンバー30が、塗工ロール20の横に適正に配置されることにより、シール面34aは、塗工ロール20の外周面と、そして、各ブレード受面34bは、ドクターブレード32及びシールブレード33の各々と、隙間無く接するように形成されている。
【0085】
図2は、そのように塗工チャンバー30が適正に配置されて塗工が行われている時の様子を表している。
【0086】
塗工チャンバー30が適正に配置された状態では、ドクターブレード32及びシールブレード33の各先端は、塗工ロール20の外周面に隙間無く接している。これらドクターブレード32の先端とシールブレード33の先端の間の部位(接液部位)から、塗工ロール20の外周面の一部分が横長凹部41に臨んでいる。横長凹部41の底面41aは、その塗工ロール20の外周面の一部分と隙間を隔てて対向している。
【0087】
それにより、塗工チャンバー30と塗工ロール20との間には、横長凹部41を主体とする空間(液溜部70)が形成されている。塗工時には、この液溜部70に塗工液が貯留される。
【0088】
すなわち、塗工時には、送液配管13を通じて、緩衝スペース62に塗工液が流入する。緩衝スペース62は横長に形成されていて、給液通路46が上向きに傾斜しているため、緩衝スペース62に流入した塗工液は横一杯に拡がって、緩衝スペース62の全体が塗工液で満たされる。
【0089】
緩衝スペース62に一時的に収容された塗工液は、横長な給液通路46を通じて液溜部70に流入する。この間、流路断面積は同じであるため、高粘度な塗工液であっても、過度な抵抗を受けることなく流入させることができる。
【0090】
そうして液溜部70に流入した塗工液は、液位が上昇して液溜部70の上部に達する。排液通路48が上向きに傾斜しているため、液溜部70に流入した塗工液も横一杯に拡がって、液溜部70の全体が塗工液で満たされる。液溜部70も流路断面積にほとんど差のない形状に形成されているため、高粘度な塗工液でも、過度な抵抗を受けずに、液溜部70の上部まで満たすことができる。
【0091】
液溜部70の全体が塗工液で満たされた後、塗工液は横長な排液通路48を通じて液収容スペース52に流出する。この間も流路断面積は同じであるため、高粘度な塗工液であっても、過度な抵抗を受けることなく流入させることができる。
【0092】
液収容スペース52は容積が大きいため、液収容スペース52に収容された塗工液は、液収容スペース52に充満する前に排液孔54を通じて排出される。従って、液収容スペース52を安定して大気圧に保つことができる。
【0093】
すなわち、この塗工装置では、塗工チャンバー30の内部に、
図5に示すような、U字状に緩やかに湾曲した、幅広い一様な塗工液の流れが形成される。そのため、高粘度な塗工液であっても、横幅方向の液圧のばらつきを効果的に抑制でき、液溜部70の液圧を低く保つことができるので、液漏れを効果的に防ぐことができる。
【0094】
液溜部70の内部に貯留される塗工液の液面は、下流側開口48bの下縁によって規定されている。液溜部70に貯留されている塗工液が増加すると、余分な塗工液は下流側開口48bの下縁を乗り越えて液収容スペース52に流れ込む。
【0095】
従って、塗工時の液溜部70の内部は、常に塗工液で充満した状態となる。それにより、接液部位に位置する塗工ロール20の外周面は、常に塗工液に接するため、周回する塗工ロール20の外周面の塗工領域に安定して塗工液を連続的に供給することができる。
【0096】
接液部位では、塗工ロール20の外周面が上方に向かって高速で周回している。従って、液溜部70では、下部から上方に向かう塗工液の流れが形成される。
【0097】
特に、本実施形態の場合、塗工ロール20の外径が小さいため、外周面の周回速度は相対的に大きくなっている。それにより、高粘度な塗工液は、摩擦抵抗によって液溜部70の上方に押し上げられ易くなって、液溜部70の下部の液圧が低下するため、よりいっそう液漏れが防止できるようになっている。
【0098】
緩衝スペース62や液収容スペース52を液溜部70の外方に張り出すように設けたことで、液溜部70に比べて緩衝スペース62や液収容スペース52の容量を自在に大きくできる。
【0099】
従って、給液孔64が多少小さくても、緩衝スペース62に塗工液を一時的に貯留することで、余裕をもって横幅一杯に安定した塗工液の流れを形成できるので、液溜部70の全域にわたって安定した塗工液の供給ができる。
【0100】
液溜部70で溢れる塗工液も、余裕をもって液収容スペース52に収容することができる。排液孔54が多少小さくても、塗工液を液収容スペース52から溢れさせることなく排出できるので、塗工液が液溜部70に逆流するのも余裕をもって阻止できる。
【0101】
液収容スペース52の底面の最下部に排液孔54が開口しているので、高粘度な塗工液でも、液収容スペース52から残さずに排出させることができる。
【0102】
また、この塗工装置1であれば、塗工ロール20に移行する塗工液に気泡が混入するのも効果的に抑制できる。
【0103】
すなわち、この塗工装置1では、液溜部70の上部、換言すれば、塗工ロール20の外周面に塗工液を送り出しているドクターブレード32の近傍においても、塗工液の液圧は低く保たれ、塗工液の流れも安定する。
【0104】
そのため、液溜部70に貯留している塗工液中に存在する気泡は、ドクターブレード32に巻き込まれるよりも、上昇して、流出口48aを通じて液収容スペース52に入り込み易くなる。その結果、塗工ロール20に移行する塗工液に気泡が混入するのも効果的に抑制できる。
【0105】
この塗工装置1では、第1部材40に第2部材50、第3部材60を取り付けることによってチャンバー本体31が形成されている。従って、状況に応じて第2部材50や第3部材60を交換することができるので、汎用性に優れるし、加工や組み立ても容易になり、製造性にも優れる。チャンバー本体31が分解できるので、清掃し易い点でも有利である。
【0106】
(変形例)
図6に、塗工装置1の変形例を示す。本変形例では、液温調節装置80がチャンバー本体31に付設されている点で、上述した実施形態と異なっている。
【0107】
具体的には、チャンバー本体31の内部に、温水が流れる通水経路80aが形成されていて、外部に設置された温調装置80bから、一定の温度に調節された温水を、この通水経路80aに循環供給できるように構成されている。
【0108】
それにより、外部の温度が変化しても、チャンバー本体31の内部を流れる塗工液の温度を調整できるため、本変形例の塗工装置1によれば、外部の温度変化に伴う塗工液の粘度の上昇を防ぐことができる。従って、環境の影響を受けること無く、液漏れの無い、安定した塗工を行うことができる。
【0109】
なお、本発明にかかる塗工装置は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0110】
例えば、液温調節装置は、チャンバー本体にヒータを取り付けて構成してもよい。
【0111】
上述した実施形態では、液収容スペース52の内部を大気圧に維持するために、上壁部50aに通気孔53を形成したが、それに限らない。例えば、返液配管14を塗工液で充満させなければ、同様の効果が得られる。具体的には、送液配管13の内径よりも返液配管14の内径を大きくすればよい。そうすれば、返液配管14が塗工液で充満するのを防止でき、液収容スペース52の内部を大気圧に維持できる。
【0112】
塗工液は、高粘度な塗工液に限らない。本発明の塗工装置は、一般的な塗工液はもちろん、特殊な塗工液、例えば、アルミナなどの高硬度な微粒子を含む塗工液や、速乾性の塗工液、低流動性の塗工液などにも好適である。塗工装置は、下方に向かって搬送されている基材を塗工する場合には、上下逆向きに配置してもよい。