(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346843
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】エッジワイズコイル用平角絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/04 20060101AFI20180611BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20180611BHJP
H01F 5/06 20060101ALI20180611BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20180611BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
H01F41/04 A
H01F27/28 147
H01F5/06 H
H01B7/00 303
H01B13/00 517
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-217854(P2014-217854)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-86077(P2016-86077A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】飯田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
(72)【発明者】
【氏名】林井 研
(72)【発明者】
【氏名】芦田 桂子
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−272916(JP,A)
【文献】
特開2002−203438(JP,A)
【文献】
特公昭48−011361(JP,B1)
【文献】
特開2009−148791(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0158800(US,A1)
【文献】
特開平10−303052(JP,A)
【文献】
特開2012−069344(JP,A)
【文献】
特開平10−079319(JP,A)
【文献】
米国特許第06141860(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/04
H01B 7/00
H01B 13/00
H01F 5/06
H01F 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻回外周側部分の導電性線材の肉厚が巻回内周側部分の導電性線材の肉厚よりも厚く形成した帯状の平角導電性線材を、絶縁被覆成分を含む電着液を入れた電着槽に送り込み、該平角導電性線材の肉厚の厚い上記外周側部分の側方に電極を配置し、肉厚の薄い上記内周側部分は該電極から離すことによって、該平角導電性線材に通電して該平角導電性線材表面に絶縁被覆成分を、上記内周側部分の絶縁被覆成分よりも上記外周側部分の絶縁被覆成分が厚くなるように、電着させ、電着した該絶縁被覆成分を焼き付け処理し、導電性線材の肉厚が厚い外周側部分に、絶縁被覆を内周側部分の絶縁被覆よりも厚く形成した平角絶縁電線を製造することを特徴とする平角絶縁電線の製造方法。
【請求項2】
上記外周側部分の絶縁被覆の厚さを上記内周側部分の絶縁被覆の厚さの1.5倍以上に形成する請求項1に記載する平角絶縁電線の製造方法。
【請求項3】
上記外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚を、上記内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚に対して、1.2〜1.7倍に形成する請求項1または請求項2に記載する平角絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッジワイズコイル用の平角絶縁電線について、巻回したときに外周側部分の絶縁被覆の厚さが内周側部分の絶縁被覆の厚さより薄くならず、良好な絶縁性を維持できる平角絶縁電線
について、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平角絶縁電線60は、
図6に示すように、長辺61と短辺62によって囲まれた四辺形の断面を有する導電性線材63の表面に絶縁被覆64が設けられている。エッジワイズコイル65は平角絶縁電線60の短辺62を回転支点側にして巻回されたコイルである。エッジワイズコイル65は平角絶縁電線60の断面が四辺形であるので、円形断面の丸線を巻回したコイルよりも巻回状態での電線相互の隙間が少なく、電線の断面積の占積率が大きいので自動車用モータなどに広く用いられている。特許文献1(特開平10−284335号公報)には、平角電線を円筒状に巻回してなるエッジワイズコイルが記載されている。
【0003】
円筒状に巻回した従来のエッジワイズコイルを
図7に示す。
図7のX−Y断面を
図8に示す。図示するように、平角絶縁電線60は巻回したときに、その外周側部分60Aは引張応力によって延ばされ、内周側部分60Bは圧縮応力によって圧縮される。このため、
図6に示す従来のエッジワイズコイル60のように、外周側部分60Aと内周側部分60Bの肉厚が均一な平角絶縁線材60を用いると、
図8に示すように、巻回した平角絶縁電線60の外周側部分60Aの肉厚が内周側部分60Bの肉厚よりも薄くなり、コイルの外周側部分において、積層された絶縁電線60の間に隙間61が生じやすくなり、コイル外周側部分の電線断面積の占積率が低下する。他方、平角絶縁電線60の内周側部分60Bの肉厚は外周側部分60Aの肉厚よりも厚くなるので、コイル内周側部分の積層方向の長さCが大きくなり、コイル収納容器が大型化するなどの問題がある。
【0004】
特許文献2(特開2007−36056号公報)には、電線の断面を扁平ないし異形に加工することによって、コイル内周側部分の積層方向の長さCが大きくなるのを抑制したエッジワイズコイルが記載されている。具体的には、
図9に示すように、長辺71、72と短辺73、74で囲まれた四辺形断面を有する平角電線70において、長辺71、72が片側の短辺73に向かって互いに接近する楔形断面を有する平角電線70を用い、肉厚の薄い短辺73を回転支点側にして巻回したたエッジワイズコイルが記載されている。
【0005】
特許文献2のエッジワイズコイルは、肉厚が大きな短辺74の外周側は巻回によって引き延ばされ、一方、肉厚が薄い短辺73の内周側は圧縮されるので、巻回された後の両側の短辺の肉厚は概ね均等になり、コイル内周側部分の積層方向長さCが大きくなるのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−284335号公報
【特許文献2】特開2007−36056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2のエッジワイズコイルは、絶縁被覆の厚さを考慮しても同様であると記載されているが、
図9に示すように、平角電線70の表面を覆う絶縁被覆75の被覆厚さが巻回外周側と巻回内周側とで均一に形成されていると、巻回外周側の絶縁被覆75が引き延ばされ、他方、巻回内周側の絶縁被覆75は圧縮されるので、巻回外周側の被覆厚さは巻回内周側の被覆厚さよりも薄くなり、巻回外周側部分の絶縁性が低下する懸念を生じる。
【0008】
本発明は、エッジワイズコイル用の平角絶縁電線について、従来の上記問題を解消したものであり、巻回したときに外周側部分の絶縁被覆の厚さが内周側部分の絶縁被覆の厚さより薄くならないようにして、外周側部分の絶縁性が低下する懸念を解消し、良好な絶縁性を維持できるようにした平角絶縁電線
の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成によって従来の課題を解決したエッジワイズコイル用平角絶縁電線
の製造方法に関する。
〔1〕巻回外周側部分の導電性線材の肉厚が巻回内周側部分の導電性線材の肉厚よりも厚く形成した帯状の平角導電性線材を、絶縁被覆成分を含む電着液を入れた電着槽に送り込み、該平角導電性線材の肉厚の厚い上記外周側部分の側方に電極を配置し、肉厚の薄い上記内周側部分は該電極から離
すことによって、該平角導電性線材に通電して該平角導電性線材表面に絶縁被覆成分を
、上記内周側部分の絶縁被覆成分よりも上記外周側部分の絶縁被覆成分が厚くなるように、電着させ、電着した該絶縁被覆成分を焼き付け処理し、
導電性線材の肉厚が厚い外周側部分に、絶縁被覆を内周側部分の絶縁被覆よりも厚く
形成した平角絶縁電線を製造することを特徴とする平角絶縁電線の製造方法。
【0010】
本発明の上記製造方法は以下の態様を含む。
〔2〕上記外周側部分の絶縁被覆の厚さを上記内周側部分の絶縁被覆の厚さの1.5倍以上に形成する上記[1]に記載する平角絶縁電線の製造方法。
〔3〕上記外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚を、上記内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚に対して、1.2〜1.7倍に形成する上記[1]または上記[2]に記載する平角絶縁電線の製造方法。
【0011】
〔具体的な説明〕
本発明の製造方法に係る平角絶縁電線(以下、本発明の平角絶縁電線と云う)は、エッジワイズコイル用の平角絶縁電線において、巻回外周側部分の導電性線材の肉厚が巻回内周側部分の導電性線材の肉厚よりも厚く、かつ巻回外周側部分の絶縁被覆の厚さが巻回内周側部分の絶縁被覆の厚さよりも厚く形成されていることを特徴とするエッジワイズコイル用平角絶縁電線である。
本発明の平角絶縁電線は、巻回外周側部分の導電性線材の肉厚が巻回内周側部分の導電性線材の肉厚よりも厚く形成した帯状の平角導電性線材を、絶縁被覆成分を含む電着液を入れた電着槽に送り込み、該平角導電性線材の肉厚の厚い上記外周側部分の側方に電極を配置し、肉厚の薄い上記内周側部分は該電極から離すことによって、該平角導電性線材に通電して該平角導電性線材表面に絶縁被覆成分を、上記内周側部分の絶縁被覆成分よりも上記外周側部分の絶縁被覆成分が厚くなるように、電着させ、電着した該絶縁被覆成分を焼き付け処理し、導電性線材の肉厚が厚い外周側部分に、絶縁被覆を内周側部分の絶縁被覆よりも厚く形成することによって製造することができる。
【0012】
本発明の平角絶縁電線は、エッジワイズコイル用の帯状の細長い絶縁電線であり、四辺形の横断面を有しており、巻回の外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚が、巻回の内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚よりも大きく形成されている。
【0013】
本発明の平角絶縁電線は、具体的には、長辺と短辺で囲まれた四辺形断面を有する帯状の細長い導電性線材の表面に絶縁被覆が設けられている平角絶縁電線であり、四辺形断面の一対の長辺は片側の短辺に向かって互いに接近する楔形の四辺形断面を形成しており、一方の短辺側の肉厚が他方の短辺側の肉厚よりも薄く形成されている。この肉厚の薄い短辺側を回転支点にしてエッジワイズ巻きされる。肉厚の薄い短辺側の部分を内周側部分と云い、肉厚の厚い短辺側の部分を外周側部分と云う。
【0014】
また、本発明の平角絶縁電線は、2つの長辺と少なくとも1つの短辺で囲まれた楔形の断面を有する帯状の細長い導電性線材の表面に絶縁被覆が設けられている平角絶縁電線であっても
良い。この場合も、楔形の断面の一方である2つの長辺の交点側の肉厚が他方である短辺側の肉厚よりも薄く形成されている。この肉厚の薄い側を回転支点にしてエッジワイズ巻きされる。肉厚の薄い側の部分を内周側部分と云い、肉厚の厚い側の部分を外周側部分と云う。
【0015】
さらに、本発明の平角絶縁電線は、巻回の外周側部分の絶縁被覆の厚さが巻回の内周側部分の絶縁被覆の厚さよりも厚く形成されている。外周側部分の絶縁被覆の厚さは内周側部分の絶縁被覆の厚さの1.5倍以上が好ましい。なお、各辺は直線であっても良く、発明の効果を奏する範囲で、辺の端部等に一部円弧等曲線を含む形状であっても良い。
【0016】
本発明の平角絶縁電線において、巻回の外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚L1と、巻回の内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚L2との比率L1/L2は概ね1.2〜1.7倍が好ましい。この比率が1.2未満では効果が小さく、一方、この比率が1.7倍を上回ると、エッジワイズ巻きしたときに外周側部分の肉厚L1が内側端部の肉厚L2よりも大きい状態のまま残りやすくなるので好ましくない。
【0017】
このように、本発明の平角絶縁電線は、巻回の外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚が、巻回の内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚よりも大きく形成されているので、この外周側部分を外側にしてエッジワイズ巻きしたときに、肉厚の大きな外周側部分が引き伸ばされて絶縁被覆および導電性線材を含む厚さが減少し、他方、肉厚の薄い内周側部分は圧縮されるので、絶縁被覆および導電性線材を含む厚さが増加し、この結果、外周側部分の絶縁被覆および導電性線材を含む厚さと、内周側部分の絶縁被覆および導電性線材を含む厚さがほぼ均等になる。このため、エッジワイズコイルの外周側部分において絶縁電線どうしの間に隙間が生じ難くなり、さらに外周側部分の絶縁被覆の厚さが内周側部分の絶縁被覆の厚さより薄くならないので、外周側部分の絶縁性が低下する懸念がない。
【0018】
本発明の平角絶縁電線に用いる平角導電性線材は、楔形断面の隙間を有する加圧ローラを用い、該楔形断面の隙間に銅線などの導電性線材を通して加圧しながら引き抜くことによって製造することができる。加圧ローラの楔形断面の隙間は、例えば、ロール面が一方の端部から他方の端部に向かって傾斜している加圧ローラを用い、上記ローラ面の傾斜が互いに接近するように向き合わせて加圧ローラを設置することによって、該ロール面の間に楔形断面の隙間を形成することができる。
【0019】
絶縁被覆は電着法によって形成することができる。具体的には、絶縁被覆成分を含む電着液を入れた電着槽に上記平角導電性線材を送り込み、該平角導電性線材に通電しながら該電着槽を通過させて該平角導電性線材表面に絶縁被覆成分を電着させ、電着した該絶縁被覆成分を焼き付け処理することによって平角絶縁電線を製造することができる。
【0020】
上記電着法において、該平角導電性線材の肉厚の厚い外周側部分の側方に電極を配置し、該平角導電性線材の肉厚の薄い内周側部分は該電極から離して設置し、該平角導電性線材に通電しながら電着槽を通過させることによって、上記外周側部分の電流密度が上記内周側部分の電流密度よりも高くなるので、該外周側部分の絶縁被覆が該内周側部分の絶縁被覆よりも厚く形成された平角絶縁電線を製造することができる。電極の配置以外は通常の絶縁電線を製造する電着条件に従って電着を行えばよい。
【0021】
本発明の平角絶縁電線の上記製造方法において、上記外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚L1と、上記内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚L2の比率L1/L2が1.2〜1.7倍になるように、平角導電性線材の楔形断面の長辺と短辺の比率に応じ、上記外周側部分の絶縁被覆の厚さが上記内周側部分の絶縁被覆の厚さの1.5倍以上になるように絶縁被膜を形成すればよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の平角絶縁電線は、巻回の外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚が巻回の内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚よりも厚く形成されているので、この外周側部分を外側にしてエッジワイズ巻きしたときに、上記外周側部と上記内周側部の肉厚が概ね均等になり、コイル外周側部分の絶縁電線どうしの間に隙間が生じ難い。
【0023】
さらに、本発明の平角絶縁電線は、上記外周側部分の絶縁被覆の肉厚が上記内周側部分の絶縁被覆の肉厚よりも厚く形成されているので、この外周側部分を外側にしてエッジワイズ巻きしたときに、該外周側部分の絶縁被覆の肉厚が該内周側部分の絶縁被覆の肉厚よりも薄くならない。従って、コイル外周側部分の絶縁性が低下する懸念がない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の平角絶縁電線の断面を示す模式断面図。
【
図4】楔形の隙間を形成する加圧ローラの配置を示す概念図。
【
図5】電着法による絶縁電線の製造例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の平角絶縁電線10の一例を
図1に示す。該平角絶縁電線10を用いたエッジワイズコイル20の一例を
図2に示す。
図2のエッジワイズコイルは、平面視において、一対の直線部分の両端のおのおのが半円部分で連結されたフィールドトラック形状の例である。本発明の平角絶縁電線10を用いるエッジワイズコイル20の形状は
図2の形状に限らない。平面視において、四隅の角部が円弧状に巻回された矩形状や、円形状に巻回した形状など種々の巻回形状のエッジワイズコイルに用いられる。
【0026】
図1に示すように、本発明の平角絶縁電線10の一方の側部の肉厚L1は、他方の側部の肉厚L2よりも厚く形成されており、
図2に示すように、該平角絶縁電線10は、肉厚が厚い側を巻回の外周側10Aにし、肉厚の薄い側を巻回の内周側10Bにしてエッジワイズ巻きされている。
【0027】
図1に示す平角絶縁電線10は、長辺11、12と短辺13、14で囲まれた四辺形断面を有する帯状の細長い導電性線材15の表面に絶縁被覆16が設けられている帯状の細長い絶縁電線である。導電性線材15の四辺形断面の一対の長辺11、12は片側の短辺13に向かって互いに接近した楔形の四辺形断面を形成しており、一方の短辺13の長さT2は他方の短辺14の長さT1よりも短く形成されている。
【0028】
さらに、本発明の平角絶縁電線10は、短辺14側の絶縁被覆16の厚さS1が短辺13側の絶縁被覆16の厚さS2よりも厚く形成されており、導電性線材15および絶縁被覆16を含む絶縁電線の肉厚L1、L2は、短辺14側の肉厚L1が短辺13側の肉厚L2よりも大きく(L1>L2)形成されている。平角絶縁電線10の短辺14側が巻回の外周側10Aになり、短辺13側が巻回の内周側10Bになる。
【0029】
一般に用いられているエッジワイズコイル用の平角電線は、横幅すなわち長辺11,12の長さが概ね0.1〜10mmであるので、短辺14側の絶縁被覆16の厚さS1と短辺13側の絶縁被覆16の厚さS2の比率S1/S2は1.5倍以上が好ましく、導電性線材15および絶縁被覆16を含む肉厚L1と肉厚L2の比率(L1/L2)は概ね1.2〜1.7倍が好ましい。
【0030】
絶縁被覆の厚さの比率S1/S2が1.5倍未満であると、エッジワイズ巻きしたときに、短辺14側の絶縁被覆16が引き延ばされ、S1がS2よりも小さくなる場合があるので好ましくない。また、導電性線材と絶縁被覆を含む肉厚の比率L1>L2が1.2未満では効果が小さく、一方、この比率が1.7倍を上回ると、エッジワイズ巻きしたときに、肉厚L1が肉厚L2よりも大きい状態のまま残りやすくなるので好ましくない。
【0031】
図2のX−Y線に沿ったコイル断面を
図3に示す。図示するように、本発明の平角絶縁電線10を用いたエッジワイズコイル20は、その外周側部分20Aと内周側部分20Bの肉厚L1、L2が巻回によってほぼ均等になっており、平角絶縁電線10どうしの間に隙間が生じ難い。さらに、外周側部分20Aの絶縁被覆16の厚さは内周側部分20Bの絶縁被覆16の厚さとほぼ同等であり、従って、巻回によって引き延ばされた外周側部分20Aの絶縁性が良好に維持されている。
【0032】
本発明の平角絶縁電線10を製造する方法の一例を
図4、
図5に示す。該平角絶縁電線10に用いる楔形の四辺形断面を有する平角導電性線材15は、楔形断面の隙間が形成された加圧ローラを用い、該楔形断面の隙間に銅線などの導電性線材15を通して加圧しながら引き抜くことによって製造することができる。
【0033】
図4に示すように、楔形断面の隙間は、例えば、ロール面31が一方の端部から他方の端部に向かって傾斜している加圧ローラ30を用い、ローム面31の傾斜が互いに接近するように向き合わせて加圧ローラ30を設置することによって、該ロール面31,31の間に楔形断面の隙間が形成される。
【0034】
上記楔形断面の隙間に導電性線材15を送り込み、加圧しながら引き抜きことによって、長辺11、12が片方の短辺13に向かって互いに接近した楔形の導電性線材断面を有する平角導電性線材15が形成される。
【0035】
図5に示すように、楔形断面を有する平角導電性線材15を電着槽40に送り込む。電着槽40には絶縁被覆16の成分が溶解した電着液41が入っている。該平角導電性線材15に通電して電着液41を通過させることによって、該平角導電性線材15の表面に絶縁被覆16の成分を電着させ、電着した該絶縁被覆16の成分を焼き付け処理して絶縁被覆16が形成される。
【0036】
上記電着法において、
図5に示すように、平角導電性線材15の肉厚の厚い短辺14の側に近接して電極42を配置し、肉厚の薄い短辺13側は電極42から遠ざけ、電源43から該平角導電性線材15と電極42に通電する。電極42に接近する短辺14側の電流密度は反対側の短辺13側よりも密になるので絶縁被覆成分の成膜が進み、電極42に接近する短辺14側の絶縁被覆が反対側の短辺13側の絶縁被覆よりも厚く形成される。電極の配置以外は通常の絶縁電線を製造する電着条件に従って電着を行えばよい。
【0037】
本発明の平角絶縁電線の上記製造方法において、上記外周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚L1と、上記内周側部分の導電性線材および絶縁被覆を含む肉厚L2の比率L1/L2が1.2〜1.7倍になるように、また平角導電性線材の楔形断面の長辺と短辺の比率に応じ、上記外周側部分の絶縁被覆の厚さが上記内周側部分の絶縁被覆の厚さの1.5倍以上になるように絶縁被膜を形成するとよい。
【0038】
また、絶縁被覆成分を含む塗料に楔形断面を有する平角導電性線材15を浸漬して絶縁被覆を形成する浸漬法の場合には、短辺13側を上にし、短辺14側を下にして浸漬乾燥させることによって、本発明の平角絶縁被覆電線10を製造することができる。
【符号の説明】
【0039】
10−平角絶縁電線、10A−外周側部分、10B−内周側部分、11,12−長辺、13,14−短辺、15−導電性線材、16−絶縁被覆、S1,S2−短辺の長さ、T1,T2−導電性線材15の肉厚、L1,L2−導電性線材15と絶縁被覆16を含む肉厚、20−エッジワイズコイル、20A−外周側部分、20B−内周側部分、30-加圧ローラ、31−ロール面、40−電着槽、41−電着液、42−電極、43−電源、60−平角絶縁電線、61−長辺、62−短辺、63−導電性線材、64−絶縁被覆、70−平角絶縁電線、71,72−長辺、73,74−短辺、75−絶縁被覆。