特許第6346905号(P6346905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6346905高レベルの赤外放射線透過率を有するガラス板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346905
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】高レベルの赤外放射線透過率を有するガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/087 20060101AFI20180611BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20180611BHJP
   C03C 4/10 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   C03C3/087
   G06F3/041 490
   G06F3/041 495
   C03C4/10
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-557385(P2015-557385)
(86)(22)【出願日】2014年2月10日
(65)【公表番号】特表2016-513059(P2016-513059A)
(43)【公表日】2016年5月12日
(86)【国際出願番号】EP2014052517
(87)【国際公開番号】WO2014128016
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2017年1月24日
(31)【優先権主張番号】BE2013/0110
(32)【優先日】2013年2月19日
(33)【優先権主張国】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ランブリット, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ドギモン, オドレイ
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/128180(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0161492(US,A1)
【文献】 米国特許第05670433(US,A)
【文献】 特開昭59−107941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 − 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの全重量に基づくパーセント値で表される含有量で:
SiO 55〜78%
Al 0〜18%
0〜18%
NaO 5〜20%
CaO 0〜15%
MgO 0〜10%
O 0〜10%
BaO 0〜5%
全鉄(Feの形態で表される) 0.002〜0.06%
を含む組成を有するガラス板において、前記組成が、前記ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.06重量%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量を含むこと、および前記組成が、5ppm未満のFe2+(FeOの形態で表される)含有量を含むことを特徴とするガラス板。
【請求項2】
前記組成が、前記ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.03重量%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量を含むことを特徴とする請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記組成が、前記ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.02重量%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量を含むことを特徴とする請求項2に記載のガラス板。
【請求項4】
前記組成が、前記ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.04重量%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)含有量を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項5】
前記組成が、前記ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.02重量%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)含有量を含むことを特徴とする請求項4に記載のガラス板。
【請求項6】
前記組成が、前記ガラスの全重量に対する重量基準で、0.002%〜0.02%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)含有量、および0.002%〜0.02%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量を含むことを特徴とする請求項5に記載のガラス板。
【請求項7】
前記ガラス板がソーダ石灰シリカガラス板であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項8】
1050nmの波長における吸収係数が5m−1以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス板。
【請求項9】
接触面を画定する請求項1〜のいずれか一項に記載の少なくとも1つのガラス板を含む、タッチスクリーンまたはパネルまたはパッド。
【請求項10】
FTIRまたはPSD光学技術を使用する、請求項に記載のタッチスクリーンまたはパネルまたはパッド。
【請求項11】
前記板の表面上の1つ以上の物体の位置を検出するためにFTIRまたはPSD光学技術を使用するタッチスクリーンまたはパネルまたはパッドにおける請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い赤外放射線透過率を示すガラス板に関する。本発明の一般的分野は、ディスプレイ表面の領域上に取り付けられる光学タッチパネルの分野である。
【0002】
赤外(IR)放射線の高い透過率のために、本発明によるガラス板は、前記板の表面上の1つ以上の物体(たとえば、指またはスタイラス)の位置を検出するための平面散乱検出(Planar Scatter Detection)(PSD)または減衰全反射(Frustrated Total Internal Reflection)(FTIR)(またはIR放射線の高い透過率を必要とする任意の他の技術)と呼ばれる光学技術を使用するタッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッド中に有利に使用できる。
【0003】
したがって本発明は、このようなガラス板を含むタッチスクリーン、タッチパネルまたはタッチパッドにも関する。
【背景技術】
【0004】
PSD技術およびFTIR技術によって、比較的安価であり、比較的大きい触覚面(たとえば、3〜100インチ)を有しながら薄くてよい多重検出タッチスクリーン/パネルを得ることが可能となる。
【0005】
これら2つの技術は:
(i)赤外(IR)放射線を、たとえばLEDによって、赤外放射線に対して透明である基板中に1つ以上の端部から開始して注入すること;
(ii)全反射(放射線が基板を「出る」ことがない)の光学現象によって前記基板内に赤外放射線が伝播すること(次に基板は導波路として機能する);
(iii)基板表面に任意の物体(たとえば指またはスタイラス)が接触すると、あらゆる方向に放射線が散乱することによって局所摂動が生じ;それによって偏向した光線の一部が基板から「出る」ことが可能になること
を含む。
【0006】
FTIR技術では、偏向した光線は、接触面とは反対側の基板の下面上に赤外光の点を形成する。これらは、装置の上方に配置された特殊カメラによって見られる。
【0007】
PSD技術はその一部として、段階(i)〜(iii)に続いて:
(iv)基板端部において得られるIR放射線の検出器による分析;および
(v)検出した放射線から開始して、表面と接触する物体の位置をアルゴリズムによって計算すること、
の2つのさらなる段階を含む。この技術は特に、文献の米国特許出願公開第2013021300A1号明細書に記載されている。
【0008】
基本的に、ガラスは、その機械的性質、耐久性、ひっかきに対する抵抗性、および光学的透明性の結果として、ならびに化学的または熱的に強化可能であるため、タッチパネル用に選択される材料である。
【0009】
PSD技術またはFTIR技術に使用され、非常に大きい表面を有し、そのため比較的大きい長さ/幅を有するガラスパネルの場合、注入されるIR放射線は長い光路長を有する。したがってこの場合、ガラスの材料によるIR放射線の吸収が、タッチパネルの感度に大きな影響を与え、そのため望ましくないパネルの長さ/幅の減少が起こりうる。PSD技術またはFTIR技術に使用され、より小さい表面を有し、したがって注入されるIR放射線の光路長がより短いガラスパネルの場合、ガラスの材料によるIR放射線の吸収は、特に、ガラスパネルが組み込まれる装置のエネルギー消費にも影響を与える。
【0010】
したがって、接触面が大きい場合に、この面全体にわたって無傷であること、または十分な感度を保証するために、これに関連して赤外放射線の透明性が高いガラス板が非常に有用となる。特に、これらの技術に一般に使用される1050nmの波長における吸収係数が、1m−1以下であるガラス板が理想的である。
【0011】
赤外領域(および可視領域)において高い透過率を得るために、ガラス中の鉄の全含有量(当技術分野における標準的な習慣によりFeで表される)を減少させて、低鉄ガラスを得ることが知られている。使用される出発物質(砂、石灰石、ドロマイトなど)の大部分の中に不純物として鉄が存在するため、シリケート型ガラスは常に鉄を含む。鉄は、第二鉄Fe3+イオンおよび第一鉄Fe2+イオンの形態でガラスの構造中に存在する。第二鉄Fe3+イオンが存在すると、ガラスは、低波長可視光のわずかな吸収および近紫外領域においてより強い吸収を示し(380nmを中心とする吸収帯)、一方、第一鉄Fe2+イオン(場合により酸化物FeOで表される)が存在すると、近赤外領域において強い吸収が得られる(1050nmを中心とする吸収帯)。したがって、全鉄含有量(両方の形態)の増加によって、可視領域および赤外領域における吸収が増加する。さらに、第一鉄Fe2+イオンが高濃度であると、赤外領域(特に近赤外領域)における透過率が低下する。しかし、全鉄含有量のみに影響を与えることによって、タッチ用途の場合に十分に低い吸収係数を1050nmの波長で実現するため、これには、この全鉄含有量を大きく減少させることが必要となり、(i)これによって、非常に純粋な出発物質が必要となるため、製造コストが高くなりすぎるか(十分に純粋では存在しない場合さえもある)、または(ii)これによって製造上の問題が発生するか(特に、加熱炉の早期の摩耗および/または加熱炉中でのガラスの加熱の困難さ)のいずれかとなる。
【0012】
ガラスの透過率をさらに高めるために、ガラス中に存在する鉄を酸化させる、すなわち、第二鉄イオンの含有量が増加するように第一鉄イオンの含有量を減少させることも知られている。ガラスの酸化度は、ガラス中に存在する鉄原子の全重量に対するFe2+原子の重量比Fe2+/全Feとして定義されるそのレドックスによって得られる。
【0013】
ガラスのレドックスを減少させるために、出発物質のバッチに酸化性成分を加えることが知られている。しかし、周知の酸化剤(サルフェート、ニトレートなど)の大部分は、FTIR技術またはPSD技術を使用するタッチパネル用途に望ましいIR透過率値を実現するために十分な強さではない酸化力を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、高い赤外放射線透過率を有するガラス板を提供することである。特に、本発明の目的は、高い近赤外放射線透過率を有するガラス板を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、大型のタッチスクリーン、タッチパネル、またはタッチパッドにおける接触面として使用される場合に、タッチ機能の感度の低下がほとんどまたは全くないガラス板を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、より小さいサイズのタッチスクリーン、タッチパネル、またはタッチパッドにおける接触面として使用される場合に、装置のエネルギー消費にとって有利となるガラス板を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、その実施形態の少なくとも1つにおいて、高い赤外放射線透過率を有し、選択された用途に許容できる美的品質を有するガラス板を提供することである。
【0018】
最後に、本発明の別の目的は、高い赤外放射線透過率を有し製造が比較的安価であるガラス板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、ガラスの全重量に基づくパーセント値で表される含有量で:
SiO 55〜78%
Al 0〜18%
0〜18%
NaO 5〜20%
CaO 0〜15%
MgO 0〜10%
O 0〜10%
BaO 0〜5%
全鉄(Feの形態で表される) 0.002〜0.06%
を含む組成を有するガラス板に関する。
【0020】
特定の一実施形態によると、前記組成は、ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.06重量%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量をさらに含む。
【0021】
したがって、本発明は、提起した技術的問題が解決可能となるような全体的に新規で発明性のある方法に基づいている。この理由は、驚くべきことに、ガラス組成中で、特に「選択的」着色ガラス組成物において強力な着色剤として知られる低含有量の鉄およびクロムを、特定の含有量の範囲内で組み合わせることによって、その美的品質またはその色に対して過度に悪影響を与えることなく、IR領域での透過性が非常に高いガラス板を得ることが可能であることを本発明者らが示したからである。
【0022】
本明細書全体にわたって、ある範囲が示される場合は、それらの末端の値が含まれる。さらに、その数値範囲内のすべての整数および下位領域の値は、明示的に記載されるかのように明確に含まれる。また本明細書全体にわたって、パーセント値としての含有量の値は、ガラスの全重量に対して表される重量基準の値である。
【0023】
本発明の別の特徴および利点は、以下の説明を読めばより明確に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
用語「ガラス」は、本発明の意図の範囲内で、完全に非晶質の材料を意味するものと理解され、したがってあらゆる結晶性材料、特に部分結晶性材料(たとえば、ガラス−結晶材料またはガラス−セラミック材料など)は排除される。
【0025】
本発明によるガラス板は、さまざまな分類に属しうるガラスでできている。したがってガラスは、ソーダ石灰シリカ型、アルミノケイ酸塩、またはホウケイ酸塩型などのガラスであってよい。好ましくは、製造コストがより低くなるという理由で、本発明によるガラス板はソーダ石灰シリカガラスの板である。この好ましい実施形態によると、ガラス板の組成は、ガラスの全重量に基づくパーセント値で表される含有量で:
SiO 60〜75%
Al 0〜4%
0〜4%
CaO 0〜15%
MgO 0〜10%
NaO 5〜20%
O 0〜10%
BaO 0〜5%
全鉄(Feの形態で表される) 0.002〜0.06%
を含むことができる。
【0026】
本発明によるガラス板は、フロート法、延伸法、圧延法、または溶融ガラス組成物から出発してガラス板を製造することが知られている他の任意の方法によって得られるガラス板であってよい。本発明による優先的な一実施形態によると、ガラス板はフロートガラス板である。用語「フロートガラス板」は、還元条件下で溶融ガラスを溶融スズ浴上に注ぐことを含むフロートガラス法によって形成されるガラス板を意味するものと理解される。フロートガラス板は、周知の方法では、「スズ面」、すなわち板の表面に近いガラス本体中のスズに富む面を含む。用語「スズに富む」は、実質的にゼロである(スズを含まない)場合もゼロではない場合もある中心におけるガラスの組成に対するスズ濃度の増加を意味するものと理解される。
【0027】
本発明によると、クロムをガラス組成に導入するために、種々のクロムを含む出発物質を使用することができる。特に、酸化クロムCrO、Cr、CrO、またはCrOが可能性があり、比較的純粋なクロム源となる。クロメート、クロマイト、またはあらゆる他のクロムを主成分とする化合物などの他のクロムに富む物質を使用することもできる。しかし、6+の形態のクロムを含む化合物は、安全性の理由であまり好ましくない。
【0028】
本発明によるガラス板は、種々のサイズおよび比較的大きいサイズを有することができる。たとえば、3.21m×6mまたは3.21m×5.50mまたは3.21m×5.10mまたは3.21m×4.50m(「PLF」ガラス板)、あるいはさらに、たとえば、3.21m×2.55mまたは3.21m×2.25m(「DLF」ガラス板)までの範囲のサイズを有することができる。
【0029】
本発明によるガラス板は0.1〜25mmで変動する厚さを有することができる。有利には、タッチパネル用途の場合、本発明によるガラス板は0.1〜6mmで変動する厚さを有することができる。好ましくは、タッチスクリーン用途の場合、重量の理由で、本発明によるガラス板の厚さは0.1〜2.2mmである。
【0030】
本発明によると、本発明の組成は、ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.06重量%の範囲の全鉄(Feで表される)含有量を含む。0.06重量%以下の全鉄(Feの形態で表される)含有量によって、ガラス板のIR透過率をさらに増加させることができる。このような低い鉄の値は、高価な非常に純粋な出発物質およびこれらの精製をも必要とすることが多いため、この最小値によってガラスのコストへの過度の影響をなくすことができる。好ましくは、組成は、ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.04重量%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)含有量を含む。非常に好ましくは、組成は、ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.02重量%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)含有量を含む。
【0031】
本発明の有利な一実施形態によると、本発明の組成は、ガラスの全重量に対して0.002重量%〜0.03重量%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量を含む。このようなクロム含有量の範囲によって、ガラス板の美的外観または着色を過度に損なうことなく赤外領域における高い透過率を得ることが可能となる。非常に好ましくは、本発明の組成は、0.002%〜0.02%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量を含む。
【0032】
本発明による特に有利な一実施形態によると、組成は、ガラスの全重量に対する重量基準で、0.002%〜0.02%の範囲の全鉄(Feの形態で表される)含有量、および0.002%〜0.02%の範囲のクロム(Crの形態で表される)含有量を含む。このような組成によって、赤外領域、特に1050nmの波長において非常に低い値の吸収係数を実現することができる。
【0033】
本発明の別の一実施形態によると、組成は、20ppm未満のFe2+(FeOの形態で表される)含有量を含む。この含有量の範囲によって、特にIR放射線の透過に関して非常に十分な性質を得ることが可能になる。好ましくは組成は、10ppm未満のFe2+(FeOの形態で表される)含有量を含む。非常に好ましくは、組成は、5ppm未満のFe2+(FeOの形態で表される)含有量を含む。
【0034】
本発明によると、ガラス板は高いIR放射線透過率を有する。特に、本発明のガラス板は、近赤外領域の放射線に対して高い透過率を有する。
【0035】
赤外領域におけるガラスの良好な透過率を定量化するために、本明細書の説明においては、結果として良好な透過率を得るためにできるだけ低くするべきである1050nmの波長における吸収係数が使用される。吸収係数は、吸光度と、特定の媒体中を電磁放射線が移動する光路長との比によって定義される。これはm−1の単位で表される。したがってこれは材料の厚さには依存しないが、吸収される放射線の波長および材料の化学的性質の関数となる。
【0036】
ガラスの場合、選択された波長λにおける吸収係数(μ)は、材料の透過率(T)および屈折率nの測定値から計算することができ、n、ρ、およびTは選択された波長λの関数となり:
【数1】
であり、
式中、ρ=(n−1)/(n+1)
である。
【0037】
有利には、本発明によるガラス板は、1050nmの波長における吸収係数が5m−1未満である。好ましくは、本発明によるガラス板は、1050nmの波長における吸収係数が2m−1以下である。非常に好ましくは、本発明によるガラス板は、1050nmの波長における吸収係数が1m−1以下である。
【0038】
また有利には、本発明によるガラス板は、950nmの波長における吸収係数が5m−1未満である。好ましくは、本発明によるガラス板は、950nmの波長における吸収係数が2m−1以下である。非常に好ましくは、本発明によるガラス板は、950nmの波長における吸収係数が1m−1以下である。
【0039】
また有利には、本発明によるガラス板は、850nmの波長における吸収係数が5m−1未満である。好ましくは、本発明によるガラス板は、850nmの波長における吸収係数が2m−1以下である。非常に好ましくは、本発明によるガラス板は、850nmの波長における吸収係数が1m−1以下である。
【0040】
本発明の一実施形態によると、ガラス板の組成は、特に出発物質中に存在する不純物に加えて、少ない比率の添加剤(ガラスの溶融または精製を促進する物質など)、または溶融炉を構成する耐火物の溶解に起因する成分を含むことがある。
【0041】
本発明の有利な一実施形態によると、ガラス板の組成は、所望の効果に関連する適切な量の1種類以上の着色剤をさらに含むことができる。この/これらの着色剤は、たとえば、クロムの存在によって生じる色を「中和する」ために使用することができ、それによって本発明のガラスの発色をより自然にまたは無色にすることができる。あるいは、この/これらの着色剤は、クロムの存在によって発生しうる色以外の所望の色を得るために使用することができる。
【0042】
上記の実施形態と組み合わせることができる本発明の別の有利な一実施形態によると、ガラス板は、クロムの存在によって発生しうる色を変更または中和することが可能な層またはフィルム(たとえば着色PVBフィルム)で覆うことができる。
【0043】
本発明によるガラス板は、有利には化学的または熱的に焼き戻しを行うことができる。
【0044】
本発明の一実施形態によると、ガラス板は、少なくとも1つの透明で導電性の薄層層で覆われる。本発明による透明で導電性の薄層は、たとえば、SnO:F、SnO:SbまたはITO(インジウムスズ酸化物)、ZnO:Al、またはさらにはZnO:Gaを主成分とする層であってよい。
【0045】
本発明の別の有利な一実施形態によると、ガラス板は少なくとも1つの反射防止層で覆われる。この実施形態は、スクリーンの前面として本発明のガラス板を使用する場合に明らかに有利である。本発明による反射防止層は、たとえば低屈折率の多孔質シリカを主成分とする層であってよく、または数層(スタック)、特に低屈折率および高屈折率を有する層が交互に配置され、最後が低屈折率を有する層となる誘電体材料の層のスタックで構成されてもよい。
【0046】
本発明の別の一実施形態によると、ガラス板は、少なくとも1つの防指紋層で覆われるか、位置合わせに対する指紋の影響を軽減または防止するために処理される。この実施形態も、タッチスクリーンの前面として本発明のガラス板を使用する場合に有利となる。このような層またはこのような処理は、反対側の面に堆積される透明で導電性の薄層と組み合わせることができる。このような層は、同じ面に堆積される反射防止層と組み合わせることができ、防指紋層はスタックの外側にあり、したがって反射防止層を覆う。
【0047】
希望する用途および/または性質によって、本発明によるガラス板の一方および/または他方の面の上に別の層を堆積することができる。
【0048】
本発明は、接触面を画定する本発明による少なくとも1つのガラス板を含むタッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッドにも関する。この実施形態によると、タッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッドには、有利にはFTIRまたはPSD光学技術が使用される。特に、スクリーンの場合、ガラス板は、有利には表示面の上方に取り付けられる。
【0049】
最後に、高い赤外放射線透過率のために、本発明によるガラス板は、前記板の表面上の1つ以上の物体(たとえば、指またはスタイラス)の位置を検出するための平面散乱検出(Planar Scatter Detection)(PSD)または減衰全反射(Frustrated Total Internal Reflection)(FTIR)光学技術を使用するタッチスクリーンまたはタッチパネルまたはタッチパッド中に有利に使用することができる。
【0050】
以下の実施例で本発明を説明するが、その範囲の限定を意図したものでは決してない。
【実施例】
【0051】
以下の表に明記される基本組成により出発材料を粉末形態で混合し、溶融用のるつぼに入れた。
【0052】
【表1】
【0053】
種々の量のクロムを使用し基本組成は一定に維持して数種類のサンプルを作製した。サンプル1(比較例)は、最新技術のガラスに対応しており、低鉄含有量でありクロムを含まない(「エクストラクリア」(extra−clear)と呼ばれる)。サンプル2〜4は本発明によるガラス板組成に対応している。
【0054】
板の形態の各ガラスサンプルの光学的性質を測定し、特に、直径150mmの積分球を取り付けたPerkin Elmer Lambda950分光光度計上で、サンプルを測定用の球の入口に入れて、透過率を測定することによって、1050、950、および850nmの波長における吸収係数を求めた。
【0055】
加えたクロム(クロムは酸化クロム(III)の形態で加えた)の量の関数として得られた1050、950、および850nmの波長における吸収係数を以下の表に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
これらの結果は、本発明による含有量の範囲内でクロムを加えることで、1050、950、および850nmの波長のそれぞれで吸収係数を大幅に減少させることができ、それによって近赤外放射線の吸収を全体的に減少させることができることを示している。
【0058】
0.01%の全鉄の量の場合、約200ppmのクロム量が1m−1(FTIRまたはPSD光学技術を使用するタッチ用途の場合に理想的な1050nmにおける吸収計数値)未満に下げるために必要である。全鉄の量が0.01%未満であれば、必要なクロム量は減少し、逆も同様である。