(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄道車両に搭載されたレーザ光源(LD)からレール軌道側にレーザビームを照射し、レール軌道側からの散乱光を差動型レーザドップラ速度計(差動型LDV)で受けて、ドップラ効果に基づいて鉄道車両の走行速度を計測できる鉄道車両用速度計測方法において、
鉄道車両に、レール面からそれより下方に敷設された枕木、砂利、補助レール、ATSといったレール敷設側物体の少なくとも二以上の物体に焦点が合うように焦点深度を深くした光学センサを備えた差動型LDVを搭載し、鉄道車両に搭載されたレーザ光源からのレーザビームを前記レール敷設側物体に照射し続け、前記レール敷設側物体からの散乱光を差動型LDVの受光素子で受光して車両速度に比例したドップラ信号を抽出し、このドップラ信号を演算処理して鉄道車両の対地速度を計測する、
ことを特徴とする鉄道車両速度計測方法。
差動型LDVと信号処理部を備え、差動型LDVは、レーザ光源、レーザ光源からのレーザビームを平行ビームにするコリメータレンズ、平行ビームの周波数をシフトさせる周波数シフト素子、周波数シフトされたレーザビームを二分する偏光ビームスプリッタを備え、偏光ビームスプリッタから出力される一方のレーザビームのビーム幅を拡大させるアナモルフィックプリズム、前記ビーム幅拡大前又は拡大後のビームを反射させるミラー、レール敷設側物体からの散乱光を集光するレンズを含む光学系を備える、
ことを特徴とする鉄道車両速度計測装置。
【背景技術】
【0002】
レール上を走行中の鉄道車両の走行速度を知ることは、車両位置の確認、車両の運行管理、旅客や荷主に対する案内、信号機の点滅、踏切の遮断機の開閉といった保安管理等のために重要なことである。これら運行管理や案内を精度の高いものにするためには、高精度の走行速度計測が要求される。
【0003】
鉄道車両の走行速度計測方法には従来から各種あり、その主な方法として次のような方法がある。
【0004】
速度発電機方式:この方式は、車両の車軸に取付けた発電機により車軸の回転に比例した電圧を取出し、車輪径から速度を算出する方式である。この方式は車輪径の変化(例えば、摩耗)で誤差が出る、車輪の滑走・空転で速度誤差が生じる、といった難点がある
【0005】
速度発電機とGPSの併用方式:この方式は速度発電機方式による上記誤差を、GPSを用いて補正する手法であるが、トンネル内などGPSの電波が受信不能な場所では利用できない、気象条件によっては電波の状態が不安定になり計測不能となることもある、という難点がある。
【0006】
ミリ波ドップラ方式:この方式は、車両からレール軌道面とか枕木等(近距離の物体)にミリ波を当て、それら物体からの反射波を受信して計測する方式(非接触計測)であるため前記した滑走・空転の影響はない。しかし、反射物が近いため、反射波の広がりが安定して平均化されず、計測が不安定になるという難点がある。この難点を改善した方法もある(特許文献1)。しかしこの方法でも、本来の電波によるビームの広がり角があるため、ドップラのシフト量もその分だけ広がりを持ち、計測精度が落ちる。
【0007】
レーザドップラ方式1:この方式は鉄道車両に搭載した光学系から地面にレーザ光(レーザビーム)を照射し、その反射光(散乱光)を光学系で受信して光電変換し、その検出信号を変調周波数に基づいて同期検波してドップラ周波数成分を抽出し、その抽出値に基づいて、鉄道車両の移動速度を算出するようにした方式である(特許文献2)。この方式は非接触方式のメリットはあるが、地面に照射するレーザ光がシングルビームであるため、受光面での広がり角により計測精度が落ちるという難点がある。
【0008】
レーザドップラ方式2:この方式は地面に照射するレーザ光を平行光にし、両レーザ光の反射光の差を求める差動方式であることから、非接触方式のメリットと、レーザ光を平行光にし、差動方式にすることで、受光面が広くても計測精度が落ちない利点はあるが、差動方式による焦点を結ぶ光学系のため、測定可能幅(焦点深度)が短く(浅く)なって測定可能場所がレール面に限られていまい、レール面を外れると計測が中断するという難点があった。これを改善するため、レール上にセンサ2台を配置する方法(特許文献3、4)があるが、実情は、カーブなどにおいてレーザ光がレール面から外れてしまい、特許文献2と同様に難点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、レーザ光が線路敷設側のレール、枕木、砂利、補助レール、ATS等のいずれの物体に照射されても、鉄道車両の走行速度を高精度で計測できるようにすること、鉄道車両の走行距離、走行方向をも判別できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の鉄道車両速度計測方法は、鉄道車両に搭載された光源からレール軌道側にレーザ光(レーザビーム)を照射し、レール軌道側からの散乱光を差動型レーザドップラ速度計(差動型LDV:Laser Doppler Velocimeter)で受けて、ドップラ効果に基づいて鉄道車両の走行速度を計測できる鉄道車両用速度計測方法において、鉄道車両に、焦点深度を深くした光学センサを備えた差動型LDVを搭載し、鉄道車両に搭載されたレーザ光源(LD)からのレーザビームをレール敷設側の物体(レール、枕木、砂利、補助レール、ATS等)に照射し続け、それら物体からの散乱光を差動型LDVの受光素子(光電変換素子:APD:Avalanche Photo Diode)で受光して車両速度に比例したドップラ信号を抽出し、このドップラ信号を演算処理して鉄道車両の対地速度を計測する方法である。ここで、焦点深度が深いとは、例えば、安定的に200mm以上をいう。
【0012】
本発明の鉄道車両速度計測方法は、レーザ光源からレール敷設側に照射するレーザビームを平行光にし、平行を保ったままこれを二方向に分岐し、一方の平行なレーザビームを線路敷設側の物体に交差角φで照射し、他方のレーザビームは二以上の方向に分岐し、分岐された夫々のレーザビームを前記物体に前記一方のレーザビームと異なる方向から前記と同じ交差角φで照射して、これらレーザビームの夫々と前記一方のレーザビームとを、それらレーザビームの照射軸上の二以上の箇所で交差させて、それら二以上の交差領域内を焦点として、焦点深度を深くし、いずれの焦点が物体に照射されても、その焦点からの散乱光を受けてレーザドップラ信号を得ることができるようにした計測方法である。
【0013】
本発明の鉄道車両速度計測方法は、焦点深度を深くするために、レーザ光源からレール敷設側に照射するレーザビームを平行光にし、平行を保ったままこれを二方向に分岐し、一方の平行なレーザビームを二以上に分岐して同じ方向から物体に交差角φで照射し、他方のレーザビームも二以上に分岐して前記物体に前記一方のレーザビームと異なる方向から前記と同じ交差角φで照射して、これらレーザビームの夫々と前記一方のレーザビームとを、それらレーザビームの照射軸上の三以上の箇所で交差させてそれら三以上の交差領域内を焦点として、焦点深度を深くし、いずれの焦点が物体に照射されても、その焦点からの散乱光を受けてレーザドップラ信号を得ることができるようにした計測方法である。
【0014】
本発明の鉄道車両速度計測方法は、焦点深度を深くするために、レーザ光源からレール敷設側に照射するレーザビームを平行光にし、平行を保ったままこれを二方向に分岐し、一方の平行なレーザビームを物体に交差角φで照射し、他方のレーザビームは平行ビームの幅(ビーム幅)を平行を保ったまま前記一方のレーザビームのビーム幅よりも広くし、そのレーザビームをも前記物体に、前記一方のレーザビームと異なる方向から前記と同じ交差角φで照射して、それらレーザビームの照射軸上で交差させて、それら交差領域内を焦点として焦点深度を深くし、その焦点にある物体に照射されても、その焦点からの散乱光を受けてレーザドップラ信号を得ることができるようにした計測方法である。
【0015】
本発明の鉄道車両速度計測方法は、補間機能を設けて、計測データを補間できるようにしてあり、前記計測中に部分的に計測データが欠落した場合又は計測データのレベルが急減した場合(以下、この欠落と急減をまとめて「中断」という。)に、有効な計測が行われた中断前の計測値(直前計測値)又は中断後の計測値(直後計測値)又は中断直前と中断直後の両値(前後計測値)で中断部分のデータを補間して速度値を連続生成し、その連続生成値から移動距離を得るようにした方法でもある。
【0016】
本発明の鉄道車両速度計測方法は、差動型LDVの照射側光学系に周波数シフト素子(例えば、音響光学素子:AOM:Acousto-Optic Modulator)を用いて、車両に搭載されたレーザ光源からのレーザビームの周波数をシフトさせ、シフトされた周波数を零速度に設定し、その零速度からの変化量を計測して、鉄道車両の移動速度を計測する方法である。この計測時に移動速度に対応した所定間隔のパルスを積算することにより鉄道車両の移動距離も把握することができる。この場合、零速度地点からの鉄道車両の移動方向を検出することもできる。
【0017】
本発明の鉄道車両速度計測装置は、差動型LDVと信号処理部を備え、差動型LDVは、レーザ光源(LD)、レーザ光源からのレーザビームを平行ビームにする(横方向のみ平行にする)コリメータレンズ、平行ビームの周波数をシフトさせる周波数シフター(例えば、AOM)、周波数シフトされたレーザビームを二分する偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarized Beamsplitter/Combiner Spectral Optics)を備え、偏光ビームスプリッタで二分された双方のレーザビーム又は一方のレーザビームの偏波面を合わせるλ/2波長板、λ/2波長板から出てきたレーザビームを二分する無偏光ビームスプリッタ(NPBS:Non-Polarized Beamsplitter/Combiner Spectral Optics)、無偏光ビームスプリッタから出てくるレーザビームを反射させるミラー、物体Oからの散乱光を集光するレンズを含む光学系を備えたものである。
【0018】
前記信号処理部は、レンズで集光された散乱光を光電変換してドップラ周波数を検出する受光素子(APD)、受光素子で抽出された電気信号(ドップラ信号)を増幅する増幅器、水晶発振器、PLL発振器、ミキサー、ローパスフィルタ(LPF)、A/Dコンバータ、デジタル演算器(DSP:Digital Signal Processor)、デジタル信号発生器(DDS:Direct digital synthesis)、D/Aコンバータ、カウンタ、CPUを備える。
【0019】
前記信号処理部は、鉄道車両の走行速度計測中に計測データが部分的に中断した場合に、鉄道車両の有効な速度計測が行われた中断前の直前計測値又は中断後の直後計測値又は中断直前と中断直後の前後計測値で中断部分のデータを補間して速度値を連続生成する補間機能を備えたものとすることができる。この場合は、補間機能で生成された連続生成値から速度値及び移動距離を得ることができる。
【0020】
本発明の鉄道車両速度計測装置は、前記光学系を備えた差動型LDVを複数台、鉄道車両に設置することもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鉄道車両用速度計測方法及び装置は次のような効果がある。
1.焦点深度が深いので、レーザ光がレール敷設側のいずれの物体に照射されても、計測精度に全く影響を与えない高精度の計測ができる。
2.補間機能があるため、何らかの原因により計測が一時中断して計測データが中断しても、そのデータを異常発生前、発生後、又は発生前と発生後の双方の計測値で補間して速度値を連続生成できるので、異常なく連続計測した場合と略同様の連続計測値を得ることができ、鉄道車両の走行速度は勿論のこと、移動距離(在線位置)を全線にわたってリアルタイムで高精度に正確に把握することができる。
3.周波数シフト素子で、レーザビームの周波数を予めシフトしてそのシフト周波数を零速度とし、この零速度を中心に速度の方向及び速度値を正しく計測することができ、移動距離も正確に求めることができる。ちなみに、周波数シフト素子を入れない場合は零速度付近の速度及び移動方向の判別ができない。
4.複数台の差動型LDVを鉄道車両に設置することにより、計測の信頼性が高まる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(差動型LDVの動作原理)
本発明の鉄道車両速度計測方法とそれに使用される計測装置の説明に先立って、差動型LDVを用いた速度計測方法の原理を以下に説明する。
図10は差動型LDVを用いた速度計測装置の一般的な構成である。
図10では、レーザ光源1から出射されるレーザビームをビームスプリッタ6で二方向に分割し、一方のレーザビーム(照射光1)はそのまま直進してレール敷設側の物体(実際は固定されているレール、枕木等であるが走行車との関係では相対的に移動物体)Oに照射され、他方のレーザビーム(照射光2)はミラー7で直角に反射されて交差角φで物体Oに照射される。物体Oからの散乱光(2本の照射光に対応した散乱光)が受光素子に受光される。2本の散乱光は正負同じ量のドップラシフトを起こす。この2本の散乱光が受光素子において重ね合わせて、ドップラ周波数fdを検出する。これが差動型LDVである。散乱光はレンズで集光して受光素子で受光することもできる。
【0024】
散乱光1、2のドップラ周波数(受光素子面で受光したドップラ周波数)fd
1、fd
2は、
fd
1=2/λ sin(4/φ)・V・cos(θ−φ/4)・・・(1)
fd
2=2/λ sin(4/φ)・V・cos(θ+φ/4)・・・(2)
であらわされる。
λ:レーザ波長
φ:2本のレーザ光のなす角度
V:移動物体の移動速度
θ:2本のレーザ光の接線からの傾き角
【0025】
前記のように、周波数が異なる2種類の散乱光がヘテロダイン検波されて、次のビート周波数fdが検出される。
fd=|fd
1−fd
2|=2/λ・V・sin(φ/2)・cosθ・・・(3)
この式から分かるように、物体の速度Vに比例した周波数が検出される。また、式の中に受光位置の角度成分がないため、受光面に対する位置の制約がなく、物体Oからの散乱光をどの位置で受光しても良く、レンズなどで散乱光を集光しても速度を正確に捉えることができる。
【0026】
従って、移動する車両に差動型LDVを搭載すれば、固定のレール敷設側と鉄道車両との相対速度(鉄道車両の走行速度)を計測することができる。
【0027】
(鉄道車両速度計測方法とその計測装置の実施形態)
本発明の鉄道車両速度計測方法とそれに使用される計測装置は前記差動型LDVの原理を応用したものであり、それを図面に基づいて説明する。
【0028】
図1に示す本発明の鉄道車両速度計測装置は、レーザ光源1、コリメータレンズ2、周波数シフト素子(例えば、AOM)3、偏光ビームスプリッタ(PBS)4、λ/2波長板5、無偏光ビームスプリッタ(NPBS)6、ミラー7、レンズ8、受光素子(APD)9を備えた差動型LDVと、増幅器10、水晶発振器(例えば、発信周波数80MHz)11、PLL発振器12、ミキサー13、ローパスフィルタ(LPF)14、A/Dコンバータ15、デジタル演算器(DSP)6、デジタル信号発生器(DDS)17、D/Aコンバータ18、カウンタ19、CPU20を備えた信号処理部を備えている。周波数シフト素子3には汎用のAOMを使用することができる。CPU20はこれらのシステム全体に指令等を与える。
【0029】
(
図1の差動型LDVの動作)
図1の鉄道車両速度計測装置では、レーザ光源1から出射されるレーザビームは、コリメータレンズ2で平行ビームになる様に調整される(横方向のみ平行にする)。このレーザビームがAOMに入射され、このAOMにfm信号(例えば、40MHz)を加えて、入射されたレーザビームの周波数を40MHzシフトさせ、且つ、ある角度だけ回折した1次回折光と、そのまま通過する0次光が出射させる。AOMの材料にTeO
2(二配化テルル)や、PbMoO
2(モリブデン酸鉛)の様な光学結晶を用いた音響光学素子を用いると1次回折光と0次光の偏波面が変わる(P偏光とS偏光になる)。この出射光が偏光ビームスプリッタ4に入射されてP偏光ビームとS偏光ビームに二分される。
【0030】
P偏光ビームはそのまま透過側に直進してレール敷設側に設置されている物体(実際は固定されているレール、枕木等であるが走行車との関係では相対的に移動物体)Oに照射される。S偏光ビームは無偏光ビームスプリッタ6で二分し、それから直角方向に出射されるS偏光ビームと、透過側に直進してミラー7で反射されるS偏光ビームを物体Oに交差角φで照射する。この場合、夫々のビームを干渉させる(偏波の波面を揃える)ために、どちらかのビームにλ/2波長板5を入れて偏波面を合わせる(揃える)。また、P偏光ビームのb軸上の2箇所で交差する(焦点を結ぶ)ように配置する。
【0031】
(
図1の信号処理部の動作)
物体Oからの散乱光(2本の照射光に対応した散乱光)が受光レンズ8等の光学系で集光されて受光素子9に受光される。この2本の散乱光は正負同じ量のドップラシフトを起こし、受光素子9において重ね合わされてドップラ周波数が検出される。
【0032】
受光素子9で検出されたドップラ周波数fd
1、fd
2は前記(1)、(2)式のようになり、AOMの駆動周波数fmを中心に物体の速度Vに比例した周波数が検出される。従って、
図1に示す本発明の差動型LDVを、移動する鉄道車両に搭載すれば、固定のレール敷設側と走行中の鉄道車両との相対速度(鉄道車両の走行速度)を計測することができる。
【0033】
図1では、AOMでfmだけ周波数シフトされているため、ドップラ周波数fdは、
fd=fm±2/λ・V・sin(φ/2)
=fm±K・V・・・(4)
(K=2/λ・sin(φ/2))
となる。
【0034】
式(4)より、ドップラ周波数fdはAOMの駆動周波数fmを中心に物体Oの速度Vに比例した周波数が検出される。このため、ある時間におけるドップラ周波数の波数(パルス数)を積算すれば、その時間における物体Oの移動距離を求めることができる。前記パルス間隔はビ−ム交差角φとレーザ光の波長λとにより定まる。当然、物体Oが静止している箇所、例えば、レール軌道面においては、移動する車両側に上記差動型LDVを搭載すれば、鉄道車両の相対速度及び移動距離を計測することができる。
【0035】
式(4)の中には受光位置の角度成分がないため、ドップラ周波数fdには受光素子9の受光面に対する位置の制約がなく、どの位置で受光しても、また、レンズ8で集光しても速度を正確に捉えることができる。
【0036】
ここで得られたドップラ周波数fdは40MHzを中心した信号であるが、車両速度Vによるドップラ周波数の変化はその1/10程度の±4MHzであることと、以降の演算処理周波数の使い易さから、40MHzを5MHz程度にビートダウンさせるのが望ましい。このためミキサー13(
図1)に35MHzを入力する。35MHzのローカル信号は水晶発振器11と、PLL発振器12を用いて作った信号であり、それ以降の動作クロックにも流用する。これにより、クロックによる温度ドリフト等をキャンセルすることができる。
【0037】
ミキサー13から出力されたドップラ信号(5±4MHz)は、LPF14で不要高周波成分をカットし、A/Dコンバータ15でデジタルデータに変換し、デジタル演算器(DSP)16にて高速速度演算を行う。高速速度演算はドップラ信号が不要なノイズ成分を含んだビート信号であることから、FFT演算を基本とした演算処理で、ドップラ周波数を正しく特定し、前記(4)式より速度を求めることができる。
【0038】
(周波数シフト素子)
本発明では
図1のように照射光の一方に周波数シフト素子(例えば、AOM)3を入れることで、予めシフトした周波数を零速度とし、この零速度を中心に速度の方向及び零速度の計測を正しく行うことができ、移動距離も正確に求めることができる。周波数シフト素子3を入れない場合は、V=0のとき、f=0となって移動速度及び移動方向の判別ができない。
【0039】
(焦点深度を深くする)
レール、枕木、砂利、補助レール、ATS等の物体は、鉄道車両からの高さが異なるため、鉄道車両に搭載されたレーザ光源からの距離も照射される物体によって異なる。差動型LDVは焦点を結ぶ構成であるため、物体に照射されるレーザ光の焦点が差動型LDVの受光素子の測定許容範囲内の焦点深度でなければ(焦点深度が深くなければ)正確な計測ができない。
【0040】
差動型LDVの場合、物体Oの移動方向に対してt(
図2)の幅をもつ平行なレーザビームになるようにコリメータレンズ2(
図2)で調整することにより、交差角φはレーザ光の交差した長さd(
図2)のどの位置においても一定になり、物体Oの移動速度Vを正確に計測することができる。つまり物体Oに照射するレーザ光がtの幅で平行であればdの領域が焦点となって、正確な計測ができる。本発明では、次のようにして、dの長さ(焦点深度)を広く(深く)してある。
【0041】
(焦点深度を深くする方法1)
焦点深度dは、
d=2cos(φ/2)・t/cos(90−φ)・・・(5)
となり、φが小さくなれば大きくなり、深度を長くすることができる。
図2のレーザビームの交差領域(菱型部分)の上下部分はドップラレベルが低下するので、一般的に菱形の全長dの範囲全てを使用することはできず、その70%位が使用限度となる。差動型LDVを鉄道車両に搭載した場合、レール敷設側ではレール面が最小値(鉄道車両に搭載した差動型LDVの受光面に最も近づく)であり、最大値はレールのフランジ部若しくは枕木面、場合によっては砂利面である。レーザ光がこれらのいずれの物体に照射されるにしても、レールの高さ約160〜180mm(
図3)を考えると、少なくとも200mm以上の焦点深度は必要である。
【0042】
レーザ光源のビーム幅t(
図2)はコリメートビーム(平行光)で通常4〜5mmであることから、焦点深度dを300mm確保するには、t=4mmとして、前記(5)式からφを求めると、φ=1.53°で約1.5°となる。しかし、1.5°は非常に小さな値であり、光学系のわずかな位置ズレで精度が落ちてしまう。(5)式で精度を0.1%程度に入れようとすると、
sin1.5/2=0.013
sin
−1(0.013×0.1/100)≒0.0000750°=2.7″
となり、ビームの平行度も2.7″以内の広がり角にしなくてはならず、光学系の調整が非常に難しく、安定性も確保しにくい。
【0043】
(焦点深度を深くする方法1)
本発明は焦点深度を深くするため、2つの焦点を持った構成とした。具体的には
図4のように、偏光ビームスプリッタ4で2本に分けた照射光の一方のレーザビームを物体Oに所定角度で直接照射し、他方のレーザビーム無偏光ビームスプリッタ6で2本に分け、そのうちの一方のレーザビームを物体Oに交差角φ
1で照射し、他方のレーザビームをミラー7で反射させて物体Oに前記と同じ交差角φ
2(φ
1=φ
2)で照射して、前記一方のレーザビームと二方のレーザビームを二箇所で交差させて二つの焦点d
1、d
2を作る。焦点d
1はレール面付近に当たる位置(上方:車両の近く)とし、焦点d
2を枕木付近に当たる位置(下方:車両から遠く)として、焦点深度の深いセンサとする。
【0044】
d
1、d
2をそれぞれ50mm程度確保し、φ
1、φ
2を約5°とすると、(5)式より、t=4として、d1=d2=92mmとなり、92×0.7=64mmで約60mm程度が測定可能幅となる。φ
1、φ
2が5°になったことで、上述と同じように(3)式で精度を0.1%程度に入れようとすると、
sin5/2=0.0436
sin
−1(0.0436×0.1/100)=0.0025°=9″
となり、φ=1.5°のときの約3倍になることで、光学系の調整・安定性も向上する。
【0045】
この場合、d
1とd
2の間の距離は、測定可能幅を200mm確保し、二つの焦点深度長を60mmとすると、200−60−60=80となる。この場合、d
1領域はレール上面位置となり、d
2はそれより下の枕木或いは砂利付近の位置となって、レール敷設側の物体のいずれかに必ず焦点が合うことになる。このため、d
1とd
2の間に焦点がなくても、d
1、d
2のどちらかがレール敷設側のいずれかの物体に合致して計測が行われる。
【0046】
(焦点深度を深くする方法2)
本発明では、レーザビーム幅(平行幅)をそのまま広げることによっても焦点深度を深くすることができる。レーザビームの間隔を平行のまま広げるものとしては、例えば、アナモルフィックプリズムがある。本発明ではそれを使用することもできるが、二以上のレンズ、例えば、凹凸レンズの組み合わせで拡げることもできる。
【0047】
図5は無偏光ビームスプリッタ6で二分されたレーザ光の一方のビーム幅を、アナモルフィックプリズム30を使用して広げる方法である。アナモルフィックプリズム30は斜辺の傾斜角の異なる2個のプリズム30a、30bを用いて、レーザビームをある方向のみに拡大・縮小するもので、どちらか一方のレーザビームを拡大する構成にする。例えば、レーザビームのビーム幅を3倍に拡大すると焦点深度dは
図5のように2倍に拡大する。
【0048】
レーザビームのビーム幅は、アナモルフィックプリズム30を無偏光ビームスプリッタ6(
図5)の前に入れることにより、無偏光ビームスプリッタ6で分岐される両レーザビームのビーム幅を拡大させることもできる。この場合は、拡大された倍率分と同じ分だけ焦点深度dも拡大されて効率的であるが、無偏光ビームスプリッタ6の面積を大きくしなくてはならなくなる。いずれにしても、交差角φを必要以上に小さくせず、ビーム幅を拡大する方法も有効手段である。
【0049】
(焦点深度を深くする方法3)
本発明では
図6のように、平行なレーザビームを交差角φで二方向から照射して、焦点dを三箇所以上に設けることもできる。
【0050】
(焦点深度内に凹凸がある場合)
速度Vの物体Oの焦点深度内に、凹凸、例えば、
図7に示すような凸面があった場合、差動型LDVの受光センサでは凸面からの散乱光を受けて、凸面の速度V´を計測することになる。V´がθだけ傾いた場合のドップラ周波数fdは前記(3)式より、
fd=|fd
1−fd
2|=2/λ・V´・sin(φ/2)・cosθ・・・(6)
となる。
ここで、2/λ・sin(φ/2)=Kとすると、
fd=K・V´・cosθ
V´=V/cosθであるから、
fd=K・V/cosθ・cosθ
=KV
となる。このため、
図7のような凸面或いは図示しない凹面があっても、物体Oの測定面の移動方向の速度Vを正しく計測することができる。つまり凹凸の影響を受けない。従って、本発明において、鉄道車両に搭載された差動型LDVの光学センサにおいても、焦点深度内にある固定された物体であれば、どの様な物体にレーザ光を照射しても対地速度を正確に計測することができる。
【0051】
前記比例定数Kは、光学系を構成した時点で、既値の速度値が正しく導けている回転物等を使って求めておく。この値を用いて演算を行う。この速度値を用い、D/Aコンバータ18にて速度に比例した電圧出力を取出したり、デジタル信号発生器17にて予め決められたピッチ間隔のパルスに変換して出力したりすることができる。また、このパルスをカウンタ19で積算すると移動距離になる。
【0052】
本発明では、前記のように測定許容範囲である焦点深度を深くした(安定的に200mm以上)光学センサを備えた差動型LDVを鉄道車両に搭載し、鉄道車両に搭載されたレーザ光源1からのレーザビームをレール敷設側の物体(レール、枕木、砂利、補助レール、ATS等)に照射し続け、それら物体からの散乱光を前記差動型LDVの受光素子で受光し、受光素子にて走行速度に比例したドップラ信号を抽出し、このドップラ信号に対応する周波数を演算処理して鉄道車両の対地速度(走行速度)と移動距離を計測する。移動距離を計測するピッチパルスはデジタル信号発生器17(
図1)により生成される。
【0053】
(補間機能)
上記差動型LDVを車両に取付けて速度計測する場合、何らかの原因(例えば、ゴミ等の障害物が光路を遮る)でレーザビームが遮られると、
図8(a)のようにドップラ信号のレベルが急激に減少し、速度値を演算処理できなくなり零点に落ちてしまうことがある。また、障害物が移動する物の場合はその障害物の移動速度を計測してしまい、
図8(b)のように計測速度が急変することもある。このような異常は障害物が取り除かれれば復帰するが、その間の計測データは車両速度に対応したデータではないため、このデータを使用したのでは精度の高い速度計測ができない。本発明ではこのよう計測データの異常時でも精度の高い計測を可能とするため、次のいずれかの補間処理を行うようにしてある。
【0054】
この補間処理は、計測中に何らかの理由で計測が中断して計測データ(ドップラ信号)が
図8(a)のように欠落したときは、ドップラ信号のデータ更新を中止し、欠落前又は、欠落後又は欠落前後の有効な計測データ(ドップラ信号)を用いて欠落部分を補間して
図8(b)のように速度値を連続生成して前記欠落があっても走行速度を連続計測できるようにしてある。求められた速度値に基づいて全線の移動距離を正確に求めることもできる。
【0055】
補間処理方法の一つは
図8(a)のAのように計測値が欠落した場合の補間処理方法あり、APD9(
図1)で検出されたドップラ信号レベルを判定し、ある判定値以下の場合は、判定値以下になる前の計測値(直前値)のままとし、急激な減少時のデータ更新はしない。つまり直前値で補間する。
【0056】
補間処理の他の一つは
図8(a)のBのように計測値が急変する場合の補間処理方法であり、このときは、異常前計測値からの変化率が大きいため、その変化率がある値以上の場合は、この値を使用せず、直前値のままとする補間(微分値補間)を行う(
図9)。鉄道車両の場合、速度が急激に変化することは考えられないため、この変化率(微分値)の判定値は容易に決めることができる。
【0057】
補間処理の他の一つは、
図8(a)のCの場合のように、車両の加速、減速中に、障害物でレーザビームが遮られて、ドップラ信号のレベルが急激に減少した場合であり、このときは、直前値で補間すると
図8(c)の凹凸分(斜線部)だけ誤差を持つことになる。短時間のこのような小さな誤差は、速度出力には全く影響がないが、移動距離は積算されていくため、この回数が増すと、大きな誤差になる場合がある。従って、長さについてのみ、
図8(c)のように、異常発生前と異常回復後に正常な速度を捉えた箇所までを直線で結び、この三角形の面積分(△S相当)のパルスを、前記正常な速度を捉えた瞬間に(
図8(c)のp点で)加減算する処理を行う。これにより長さの計測誤差は、ほとんどなくなり、正しい移動距離の計測が可能になる。