特許第6346935号(P6346935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346935
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】電極触媒およびそれを用いた燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20180611BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20180611BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20180611BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20180611BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   H01M4/90 X
   H01M4/86 B
   H01M4/92
   H01M8/10 101
   B01J27/24 M
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-254981(P2016-254981)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-18808(P2018-18808A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2016年12月28日
(31)【優先権主張番号】105123709
(32)【優先日】2016年7月27日
(33)【優先権主張国】TW
(31)【優先権主張番号】105137206
(32)【優先日】2016年11月15日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】390023582
【氏名又は名称】財團法人工業技術研究院
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 文軒
(72)【発明者】
【氏名】黄 瓊慧
(72)【発明者】
【氏名】楊 秉興
(72)【発明者】
【氏名】邱 顯浩
(72)【発明者】
【氏名】陳 耿陽
(72)【発明者】
【氏名】▲らい▼ 建銘
(72)【発明者】
【氏名】蔡 麗端
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−079438(JP,A)
【文献】 特開2005−063677(JP,A)
【文献】 特開2012−043568(JP,A)
【文献】 特開2016−062826(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/043441(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/100034(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102299347(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/96
H01M 8/00 − 8/2495
B01J 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pd含有金属窒化物を含み、Ptを含まない電極触媒であって、
前記金属が、Co、Fe、Y、Lu、Sc、Ti、V、Cu、Ni、またはそれらの組み合わせであり、および
前記金属と前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.8以下である電極触媒。
【請求項2】
前記金属が、Coであり、および、前記Coと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.115以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項3】
前記金属が、Feであり、および、前記Feと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.083以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項4】
前記金属が、Yであり、および、前記Yと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.065以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項5】
前記金属が、Luであり、および、前記Luと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.034以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項6】
前記金属が、Scであり、および、前記Scと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.079以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項7】
前記金属が、Tiであり、および、前記Tiと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.107以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項8】
前記金属が、Vであり、および、前記Vと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.290以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項9】
前記金属が、Cuであり、および、前記Cuと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.615以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項10】
前記金属が、Niであり、および、前記Niと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.652以下である請求項1記載の電極触媒。
【請求項11】
担体上に担持されている請求項1〜10のいずれか1項に記載の電極触媒。
【請求項12】
前記担体上に担持されている層または膜である請求項11記載の電極触媒。
【請求項13】
前記担体が、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、炭素微小球、またはそれらの組み合わせを含む請求項11記載の電極触媒。
【請求項14】
前記担体が、金属、導電性酸化物、導電性窒化物、またはそれらの組み合わせを含む請求項11記載の電極触媒。
【請求項15】
負極、
正極、
前記負極と前記正極との間に配置されている電解質、および
前記電解質と前記正極との間に配置されている電極触媒層を含む燃料電池であって、
前記電極触媒層が、Pd含有金属窒化物を含み、Ptを含まず、
前記金属が、Co、Fe、Y、Lu、Sc、Ti、V、Cu、Ni、またはそれらの組み合わせであり、および
前記金属と前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.8以下である燃料電池。
【請求項16】
請求項15記載の燃料電池であって、
前記金属が、Coであり、および、前記Coと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.115以下であるか、または
前記金属が、Feであり、および、前記Feと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.083以下であるか、または
前記金属が、Yであり、および、前記Yと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.065以下であるか、または
前記金属が、Luであり、および、前記Luと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.034以下であるか、または
前記金属が、Scであり、および、前記Scと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.079以下であるか、または
前記金属が、Tiであり、および、前記Tiと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.107以下であるか、または
前記金属が、Vであり、および、前記Vと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.290以下であるか、または
前記金属が、Cuであり、および、前記Cuと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.615以下であるか、または
前記金属が、Niであり、および、前記Niと前記Pdとのモル比が、0より大きく、0.652以下である燃料電池。
【請求項17】
前記電極触媒層が、前記正極上に形成されている請求項15または16記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒およびそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
予期される従来のエネルギー源の不足に起因して、代替エネルギー源の必要性が高まっている。燃料電池は、クリーンエネルギーとみなされているため、複数の技術分野において魅力的な選択肢である。燃料電池の性能は、用いられる電極触媒に依存する。言い換えれば、高性能の電極触媒が燃料電池の性能を向上させる鍵となる。従来の燃料電池の電解質は、酸性、中性、およびアルカリ性に分類され得る。ほとんどの金属材料は、酸性またはアルカリ性の電解質中で腐食されるため、より良い防食特性を有する、高コストの貴金属を用いる必要がある。そのため、電極材料の選択は限られている。電極材料の候補のうち、プラチナ(Pt)が優れた防食特性および触媒活性を有している。しかしながら、Ptは、商業化されるには、高価過ぎる。アルカリ性電解質中では、金属電極は、より腐食されにくいため、好適な材料の種類が増加する。非Pt金属は、低コストという利点を有するが、その触媒活性および酸素還元反応の開始電位(onset potentials of the oxygen reduction reaction)は、Ptに及ばない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第102299347号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、燃料電池の発電効率を向上させるため、より高い酸素還元反応の開始電位およびより高い触媒活性を有する非プラチナ電極触媒の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態は、Pd含有の金属窒化物を含む電極触媒であって、金属が、Co、Fe、Y、Lu、Sc、Ti、V、Cu、Ni、またはそれらの組み合わせであり、および、金属とPdとのモル比が、0より大きく、かつ0.8以下である電極触媒を提供する。
【0006】
本発明の一実施形態は、負極、正極、負極と正極との間に配置されている電解質、および電解質と正極との間に配置されている電極触媒層を含む燃料電池であって、電極触媒層が、Pd含有金属窒化物を含み、金属が、Co、Fe、Y、Lu、Sc、Ti、V、Cu、Ni、またはそれらの組み合わせであり、および、金属とPdとのモル比が、0より大きく、かつ0.8以下である燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0007】
市販のPt/C触媒と同様の酸素還元反応の開始電位、および、市販のPt/C触媒活性よりも高い触媒活性を有する(種々の金属/Pd原子比である)Pd含有金属窒化物電極触媒が選択され得る。
【0008】
詳細な説明が以下の実施形態で説明される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明において、説明を目的として、多数の具体的な詳細が、開示される実施形態の完全な理解を提供するために明らかにされる。しかしながら、一またはそれ以上の実施形態がこれらの特定の詳細無しに行なわれてもよいことは明らかであろう。
【0010】
一実施形態において、電極触媒が開示される。パラジウム(Pd)は、プラチナ(Pt)と同様の活性を有するが、Ptよりもコストが低い。Pd合金の窒化物形成のために、導電性および電気化学的活性を備える電極触媒を設計することが実際に実証されている計算とシミュレーション(例えば、ab initio)を通して、遷移金属が選択される。電極触媒は、Pd含有金属窒化物を含んでいてもよく、ここで、金属とPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.8以下であり、および、金属は、Co、Fe、Y、Lu、Sc、Ti、V、Cu、Ni、またはそれらの組み合わせである。上述の電極触媒は、より高い酸素還元反応の開始電位およびより高い活性を有するため、燃料電池においてオーム抵抗および過電圧により影響されにくく、従って、エネルギー消費が少なくなり、燃料電池の運転効率を向上させる。よって、上述の電極触媒は、燃料電池の技術分野で用いられ得る。
【0011】
一実施形態において、電極触媒の金属は、Coであり、そして、CoとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.115以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Feであり、そして、FeとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.083以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Yであり、そして、YとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.065以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Luであり、そして、LuとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.034以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Scであり、そして、ScとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.079以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Tiであり、そして、TiとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.107以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Vであり、そして、VとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.290以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Cuであり、そして、CuとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.615以下である。一実施形態において、電極触媒の金属は、Niであり、そして、NiとPdとのモル比は、0より大きく、かつ0.652以下である。
【0012】
一実施形態において、電極触媒は、担体上に担持され、そして、電極触媒は、担体上に担持されている層または膜として形成される。一実施形態において、電極触媒層は、担体上に湿式担持(wet deposited)または乾式担持(dry deposited)される。乾式担持は、湿式担持と比較して電極触媒層の組成比に関して制御性がより高い。
【0013】
一実施形態において、担体は、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、炭素微小球、またはそれらの組み合わせから構成され得る。代替的に、担体は、金属、導電性酸化物、導電性窒化物、またはそれらの組み合わせから構成されてもよい。さらに、担体は、金属、導電性酸化物、導電性窒化物、もしくはそれらの組み合わせのナノワイヤー、ナノスフェア、またはそれらの組み合わせから構成されてもよい。
【0014】
別の一実施形態において、負極、正極、負極と正極との間に配置されている電解質、および正極と電解質との間に配置されている電極触媒層を含む燃料電池が開示され、ここで、電極触媒層は、Pd含有金属窒化物を含み、Pdに対する金属のモル比は、0より大きく、かつ0.8以下であり、金属は、Co、Fe、Y、Lu、Sc、Ti、V、Cu、Ni、またはそれらの組み合わせである。
【0015】
燃料電池の別の一実施形態において、電極触媒層は、正極上に形成される。
【0016】
以下においては、当業者が容易に理解できるように、例示的な実施形態が詳細に説明されるであろう。本発明の概念は、本明細書に記載される実施形態の例に限定されることなく、種々の形態で実施され得る。公知の部分の説明は明瞭さのために省略され、全体を通して、類似の参照番号は類似の構成を示している。
【実施例】
【0017】
実施例1(Pd含有窒化コバルト電極触媒の製造および活性測定)
Pd含有窒化コバルト電極触媒層は、電極を形成するために、反応性マグネトロンスパッタリング法によって、ガラス状炭素担体(5mmOD×4mmH、Pine research instrumentationより市販されている)上に堆積された。ここで、反応性マグネトロンスパッタリングを行うために、Pdターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)およびCoターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)が、N2/(Ar+N2)(1/2、50%)下で、同時にスパッタリングされる。Coターゲットのスパッタ電力は、種々のCo/Pd原子比を得るために変化された。ArおよびN2の総流量は、20sccmであり、スパッタ圧は、20mTorrで制御され、スパッタ温度は、室温で制御され、および、スパッタリングには5〜6分要する。Pd含有窒化コバルト電極触媒層は、約100nmの厚さを有する。Pd含有窒化コバルト電極触媒層のCo/Pd原子比は、0.005〜0.682であり、これはエネルギー分散型X線分析(EDS)により分析された。
【0018】
次いで、種々のCo/Pd原子比を有するPd含有窒化コバルト電極触媒層の電気化学的活性が下記のようにテストされた。0.1M KOH溶液中、可逆水素電極が参照電極として用いられた。電極は、0.079V〜0.979Vの電圧範囲で50mV/sのスキャン速度で10回スキャンされた。次いで、酸素還元反応(ORR)のCVおよびLSVが測定された。CV測定において、電極は、0.079V〜0.979Vの電圧範囲で10mV/sのスキャン速度で5回スキャンされた。LSVの測定において、電極は、1600rpmの速度で回転され、0.79V〜1.179Vの電圧範囲で10mV/sのスキャン速度で3回スキャンされた。種々のCo/Pd原子比を有するPd含有窒化コバルト電極触媒層の酸素還元反応の開始電位(例えば、Ewe(V)対RHE)、および0.8Vの動作電圧における活性(mA/mg)が表1に集計されている。
【0019】
【表1】
【0020】
実施例2(Pd含有窒化鉄電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例2での違いは、CoターゲットがFeターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Feターゲットのスパッタ電力は、種々のFe/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化鉄電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。Pd含有窒化鉄電極触媒層のFe/Pd原子比は、0.008〜0.377であり、これはEDSにより分析された。
【0021】
次いで、種々のFe/Pd原子比を有するPd含有窒化鉄電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表2に集計された。
【0022】
【表2】
【0023】
実施例3(Pd含有窒化イットリウム電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例3での違いは、CoターゲットがYターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Yターゲットのスパッタ電力は、種々のY/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化イットリウム電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。Pd含有窒化イットリウム電極触媒層のY/Pd原子比は、0.010〜0.188であり、これはEDSにより分析された。
【0024】
次いで、種々のY/Pd原子比を有するPd含有窒化イットリウム電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表3に集計された。
【0025】
【表3】
【0026】
実施例4(Pd含有窒化ルテチウム電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例4での違いは、CoターゲットがLuターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Luターゲットのスパッタ電力は、種々のLu/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化ルテチウム電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。PdLuN電極触媒層のLu/Pd原子比は、0.010〜0.390であり、これはEDSにより分析された。
【0027】
次いで、種々のLu/Pd原子比を有するPd含有窒化ルテチウム電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表4に集計された。
【0028】
【表4】
【0029】
実施例5(Pd含有窒化スカンジウム電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例5での違いは、CoターゲットがScターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Scターゲットのスパッタ電力は、種々のSc/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化スカンジウム電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。PdScN電極触媒層のSc/Pd原子比は、0.030〜0.192であり、これはEDSにより分析された。
【0030】
次いで、種々のSc/Pd原子比を有するPd含有窒化スカンジウム電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表5に集計された。
【0031】
【表5】
【0032】
実施例6(Pd含有窒化チタン電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例6での違いは、CoターゲットがTiターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Tiターゲットのスパッタ電力は、種々のTi/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化チタン電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。Pd含有窒化チタン電極触媒層のTi/Pd原子比は、0.043〜0.408であり、これはEDSにより分析された。
【0033】
次いで、種々のTi/Pd原子比を有するPd含有窒化チタン電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表6に集計された。
【0034】
【表6】
【0035】
実施例7(Pd含有窒化バナジウム電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例7での違いは、CoターゲットがVターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Vターゲットのスパッタ電力は、種々のV/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化バナジウム電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。Pd含有窒化バナジウム電極触媒層のV/Pd原子比は、0.013〜0.290であり、これはEDSにより分析された。
【0036】
次いで、種々のV/Pd原子比を有するPd含有窒化バナジウム電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表7に集計された。
【0037】
【表7】
【0038】
実施例8(Pd含有窒化銅電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例8での違いは、CoターゲットがCuターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Cuターゲットのスパッタ電力は、種々のCu/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化銅電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。Pd含有窒化銅電極触媒層のCu/Pd原子比は、0.034〜0.777であり、これはEDSにより分析された。
【0039】
次いで、種々のCu/Pd原子比を有するPd含有窒化銅の電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表8に集計された。
【0040】
【表8】
【0041】
実施例9(Pd含有窒化ニッケル電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。実施例9での違いは、CoターゲットがNiターゲット(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)と取り替えられたことである。Niターゲットのスパッタ電力は、種々のNi/Pd原子比を得るために変化された。Pd含有窒化ニッケル電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。Pd含有窒化ニッケル電極触媒層のNi/Pd原子比は、0.005〜0.915であり、これはEDSにより分析された。
【0042】
次いで、種々のNi/Pd原子比を有するPd含有窒化ニッケル電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表9に集計された。
【0043】
【表9】
【0044】
比較例1(Pt/C電極触媒の製造および活性測定)
Pt/C(50wt%Ptおよび50wt%C、TEC10V50E、田中貴金属株式会社より市販されている)が、ガラス状炭素(5mmOD×4mmH)に滴下されてベークされ、これによってPt/Cである触媒層が形成された。次いで、実施例1と同様の方法でPt/Cである触媒層の電気化学的活性がテストされ、表10に集計された。結果として示されているように、Pt/Cである触媒層は、1.04Vである酸素還元反応の開始電位、および、0.8Vの動作電圧において15.2mA/mgの活性を有していた。
【0045】
比較例2(Pd電極触媒の製造および活性測定)
ガラス状炭素(5mmOD×4mmH)上にPdの触媒層を堆積させるために、Pd(Ultimate Materials Technology Co., Ltd.より市販されている)が用いられた。次いで、実施例1と同様の方法でPdである触媒層の電気化学的活性がテストされ、表10に集計された。結果として示されているように、Pdである触媒層は、0.94Vである酸素還元反応の開始電位、および、0.8Vの動作電圧において24.0mA/mgの活性を有していた。
【0046】
比較例3(PdN電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例1におけるものと同様であった。比較例2の例との違いは、反応性マグネトロンスパッタリングを行うために、Pdターゲットが、N2/(Ar+N2)(1/2、50%)下でスパッタリングされたことであった。PdN電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。次いで、PdN電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表10に集計された。結果として示されているように、PdN電極触媒層は、0.97Vである酸素還元反応の開始電位、および、0.8Vの動作電圧において27.4mA/mgの活性を有していた。
【0047】
比較例4(FeN電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例2におけるものと同様であった。比較例4の例での違いは、反応性マグネトロンスパッタリングを行うために、Feターゲットが、N2/(Ar+N2)(1/2、50%)下でスパッタリングされたことであった。FeN電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。次いで、FeN電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表10に集計された。
【0048】
比較例5(TiN電極触媒の製造および活性測定)
電極触媒の製造は、実施例6におけるものと同様であった。比較例5の例での違いは、反応性マグネトロンスパッタリングを行うために、Tiターゲットが、N2/(Ar+N2)(1/2、50%)下でスパッタリングされたことであった。TiN電極触媒層は、電極を形成するためにガラス状炭素担体上に堆積された。次いで、TiN電極触媒層の電気化学的活性が実施例1と同様の方法でテストされ、表10に集計された。
【0049】
【表10】
【0050】
表1〜表9は、アルカリ性条件での(種々の金属/Pd原子比を有する)Pd含有金属窒化物電極触媒が、金属とPdとのモル比がより低い場合に、Pd−N−Mの電子雲および電子配置の変化に起因して、より高い酸素還元反応の開始電位を有していることを示している。電子雲および電子配置のdバンドセンターの位置は、触媒および酸素の間の結合の強さを示している。dバンドセンターの位置が効果的にダウンシフトされ得れば、酸素と触媒表面との間の結合の強さは低下され、酸素還元反応(ORR)が効果的に改善され得る。換言すると、このために全触媒活性が向上される。Brewerの金属間結合理論(intermetallic bonding theory)にしたがえば、ハイポ−ハイパーd電子遷移金属(hypo−hyper d−electronic transition metal)の電子軌道の混成(electronic orbital hybrid)は、d電子軌道間の相乗効果をもたらし得、これは全活性を効果的に向上させ得る。従って、市販のPt/C触媒と同様の酸素還元反応の開始電位を有し、および、市販のPt/C触媒活性よりも高い触媒活性を有する(種々の金属/Pd原子比である)Pd含有金属窒化物電極触媒が、表11に示されているように、選択され得る。
【0051】
【表11】
【0052】
以上、実施例を示して本発明を説明しているが、当業者であれば、本発明の思想と技術的範囲から逸脱しない種々の修正および変更を行い得ることは明らかである。明細書の記載および実施例は、例示を意図しているものに過ぎず、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその等価物によって規定される。