(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346972
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】Zn−Mg合金めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20180611BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
C23C14/14 C
C23C14/16 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-75018(P2017-75018)
(22)【出願日】2017年4月5日
(62)【分割の表示】特願2015-551046(P2015-551046)の分割
【原出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-145508(P2017-145508A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0153981
(32)【優先日】2012年12月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チョン、 ウ−ソン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ソク−ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 キュン−フン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ドン−ヨウル
(72)【発明者】
【氏名】チョン、 ヨン−ファ
(72)【発明者】
【氏名】クァク、 ユン−ジン
(72)【発明者】
【氏名】オム、 ムン−ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ−ヨブ
【審査官】
塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−139755(JP,A)
【文献】
特開平07−188903(JP,A)
【文献】
韓国特許第10−1994−0000278(KR,B1)
【文献】
M.Lee et al.,Effect of interlayer insertion on adhesion properties of Zn-Mg thin films on steel substrate by PVD,Current Applied Physics,2012年,12,S2-S6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板及び前記素地鋼板上に形成されたZn−Mgめっき層を含むZn−Mg合金めっき鋼板であって、
前記Zn−Mgめっき層のMg含量が8重量%以下(但し、0重量%は除く)であり、前記Zn−Mgめっき層はZnとMg2Zn11との複合相を有し、前記ZnとMg2Zn11との複合相の相比率はZn:Mg2Zn11が1:1〜1:3であり、前記Zn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子の平均サイズは90μm以下(但し、0μmは除く)である、
Zn−Mg合金めっき鋼板。
【請求項2】
前記Zn−Mgめっき層の厚さは1〜3μmである、請求項1に記載のZn−Mg合金めっき鋼板。
【請求項3】
前記素地鋼板は熱延鋼板または冷延鋼板である、請求項1に記載のZn−Mg合金めっき鋼板。
【請求項4】
前記Zn−Mgめっき層のMg含量が6.3重量%以下(但し、0重量%は除く)である、請求項1に記載のZn−Mg合金めっき鋼板。
【請求項5】
Zn−Mg合金めっき鋼板の製造方法であって、
素地鋼板を用意する段階と、
Zn−Mg合金源を蒸発させて前記素地鋼板の表面に蒸着させることによりZn−Mgめっき層を形成する段階
とを含み、
前記Zn−Mgめっき層のMg含量が8重量%以下(但し、0重量%は除く)であり、前記蒸着前後の前記素地鋼板の温度は60℃以下であり、前記Zn−Mgめっき層はZnとMg2Zn11との複合相を有し、前記ZnとMg2Zn11との複合相の相比率はZn:Mg2Zn11が1:1〜1:3であり、前記Zn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子の平均サイズは90μm以下(但し、0μmは除く)である、
Zn−Mg合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記Zn−Mg合金源の蒸発は、真空度1x10−5〜1x10−2mbarで真空蒸発法により行われる、請求項5に記載のZn−Mg合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記真空蒸発法は、真空蒸着法、熱蒸発法、電磁浮揚誘導加熱蒸発法、スパッタリング法、電子ビーム蒸発法、イオンプレーティング法、または電磁浮揚物理気相蒸着法である、請求項6に記載のZn−Mg合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記Zn−Mgめっき層のMg含量が6.3重量%以下(但し、0重量%は除く)である、請求項5に記載のZn−Mg合金めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zn−Mg合金めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Zn−Mg合金めっきがZn(亜鉛)めっきより優れた耐食性を有するため、Zn−Mg合金またはZn−Mg−X(X=Al、Ni、Cr、Pb、Cuなど)のように第3の元素を含む単一或いは多層の様々な製品が多く開発されており、その製造方法としては、溶融めっき、真空蒸着、合金化などの様々な方法が用いられている。
【0003】
最近では、日新製鋼(特許文献1)の他に、ポスコ(特許文献2)、現代ハイスコ(特許文献3)などの鉄鋼会社もZn−Mg合金に関する特許を出願している。
【0004】
しかし、Zn−Mg合金皮膜を製造するにおいて、既存の溶融めっき方法で製造する場合、Mgを添加した金属溶湯が大気中に露出すると、Mg元素の酸化反応によりドロス(Dross)が多く発生し、場合によっては発火するため、危ない。このような現象は、めっき作業を不良または不可能にする。また、Mgで発生する蒸気(Fume)は人体に非常に悪い物質であって、大気汚染の原因となるだけでなく、作業者の安全性に関わり得るため、極めて制限されている。
【0005】
そのため、上記溶融めっきを用いたZn−Mg合金めっきの問題点を解決すべく、真空蒸着法(熱蒸発、電子ビーム、スパッタリング、イオンプレーティング法、電磁浮揚物理気相蒸着など)を用いてZn−Mg合金皮膜を製造する様々な特許が出願されたが、Zn−Mg合金の耐食性増加の原理に対して正確に解明せずに単に合金を形成するに過ぎないものである。このような単純なZn−Mg合金形成の問題点は、形成される合金相(Phase)がすべて金属間化合物であるMg
2Zn
11、MgZn
2、MgZn、Mg
7Zn
3であり、これらの金属間化合物がすべて、ZnまたはMgに比べて、非常に脆い(Brittle)ため、鋼板の加工段階で多数のクラックあるいは剥離(Peel−off)が発生し、実際、応用が殆ど不可能であるということである。特に、合金化熱処理工程を伴う場合、Zn−Mg金属間化合物が形成される他、鋼板とZnまたはZn−Mg合金との界面においてFeとZnが相互拡散してFe−Zn金属間化合物が形成されて密着性がさらに低下する。
【0006】
さらに、上記密着性の問題を解決するために、単に薄膜内のMg含量を下げると、十分な耐食性を確保することが困難であるか、あるいは、粒子が大きくなることによって薄膜内の気孔(Void)が増加して表面粗さが増加する。これにより、多様な形態の斑が生じ、表面色が暗くなる表面不良が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特開2005−146340号
【特許文献2】韓国公開特許第2002−0041029号
【特許文献3】韓国公開特許第2005−0056398号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一側面は、耐食性、めっき層の密着性及び表面外観に優れたZn−Mg合金めっき鋼板及びその製造方法を提示する。
【0009】
しかし、本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は以下の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成すべく、本発明の一側面は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたZn−Mgめっき層を含み、上記Zn−Mgめっき層のMg含量が8重量%以下(但し、0重量%は除く)で、上記Zn−Mgめっき層はZnとMg
2Zn
11との複合相である、Zn−Mg合金めっき鋼板を提供する。
【0011】
本発明の他の側面は、素地鋼板を用意する段階と、Zn−Mg合金源を蒸発させて上記素地鋼板の表面に蒸着させることで、Zn−Mgめっき層を形成する段階とを含み、上記Zn−Mgめっき層のMg含量が8重量%以下(但し、0重量%は除く)であり、上記蒸着前後の上記素地鋼板の温度は60℃以下である、Zn−Mg合金めっき鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によると、優れた耐食性、高い密着力、及び美麗な表面光沢を有するZn−Mg合金めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例によるZn−Mg合金めっき鋼板の製造工程図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例によるZn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子及び表面外観の写真、並びにX線回折分析による相(phase)分析の結果である。
【
図3】
図3は、本発明の一比較例によるZn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子及び表面外観の写真、並びにX線回折分析による相(phase)分析の結果である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例によるMg
2Zn
11の共晶点(Eutectic Point)を示すMg−Zn二元合金の状態図(phase diagram)である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例によるMg
2Zn
11単結晶及びMgZn
2単結晶についてのX線回折分析の結果と耐食性分析の結果を示したものである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例によるMg
2Zn
11の腐食速度を示したものである。
【
図7】
図7は、鋼板の温度低下に応じたZn−Mg合金めっき層の粒子の微細化の程度を示したものである。
【
図8】
図8は、Mg
2Zn
11合金相及びMgZn
2合金相についての弾性率の評価結果を示したグラフである。
【
図9】
図9は、Zn+Mg
2Zn
11複合相の圧縮強度の評価結果を示したグラフである。
【
図10】
図10は、Mg含量の増加に応じたZn−Mg合金薄膜における相(Phase)の変化挙動を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明のZn−Mg合金めっき鋼板及びその製造方法について具体的に説明する。
【0015】
本発明は、熱延鋼板または冷延鋼板の表面に薄膜状のZn−Mg合金めっき層を備えたZn−Mg合金めっき鋼板を提供するにおいて、薄膜におけるMg含量、相(Phase)、及び粒子サイズを制御して、Zn−Mg合金が有する高耐食特性とともに、優れた密着性及び美麗な表面外観を持たせる。
【0016】
そのために、本発明の一側面は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたZn−Mgめっき層を含み、上記Zn−Mgめっき層のMg含量が8重量%以下(但し、0重量%は除く)で、上記Zn−Mgめっき層はZnとMg
2Zn
11との複合相である、Zn−Mg合金めっき鋼板を提供する。
【0017】
Zn−Mg合金は、Mg含量が増加するにつれて耐食性が増加し、強度及び硬度も増加するが、同時に脆性も増加するため、Mg含量が多いと、MgがZn粒子の成長を妨げて脆性の高い非晶質を形成することがある。通常、Mgが20〜25重量%以上ではむしろ耐食性が減少するため、一般的にZn−Mgめっき層のMg含量を10重量%程度に管理するが、脆性の側面からすると、Mg含量が多少高い方であり、脆性によって薄膜の密着力が良好にならない。しかし、密着力を確保するためにMg含量を下げると、表面に斑が生じ、表面欠陥に繋がる。
【0018】
このように耐食性、密着力、表面特性がすべて良好なZn−Mg合金めっきを得るための最適な条件を見出すことは容易ではない。
【0019】
まず、耐食性の側面における最適な条件を見出す必要がある。
【0020】
そのため、Zn−Mg単一相を用いて特性評価を行った。Mg
2Zn
11単一相とMgZn
2単一相の試片をそれぞれ製造し、耐食性を評価して
図5及び
図6に示した。通常、Zn−Mg合金相がZnより20倍以上優れた耐食性を示す。Zn−Mg合金の耐食性の増加は多様な合金相の形成によるものであり、Zn−Mg合金相のうちMg
2Zn
11相が最も高い耐食性を示した。また、密着性と密接に関わる機械的特性である硬度及び弾性率を評価して示した
図8から、Mg
2Zn
11相がMgZn
2相より変形に対する抵抗が高いことが分かる。
【0021】
しかし、上述したように、Zn−Mg合金相は金属間化合物であって、強度は高いが、脆性がともに増加して密着力が低下する。従って、合金相の形成による薄膜の脆性増加を補うために、延性のZnとMg
2Zn
11との複合相を有する薄膜を設計した。これは、最も高い耐食性を有しながら基本的に脆性を有するMg
2Zn
11相と、基本的な耐食性を有しながら延性の大きいZnとの複合相を形成すると、相互補完作用により密着力が確保できるためである。実際、
図9に示したように、多様な複合相を製造して圧縮強度を評価した結果、Zn+Mg
2Zn
11複合相が最も高い圧縮強度を示した。これは、加工によるストレスをZnが吸収/緩衝するとともに、Mg
2Zn
11の変形に対する高い抵抗特性が複合されたためであると判断される。
【0022】
一方、Zn+Mg
2Zn
11複合相を形成するためには、
図4に示されたMg−Zn二元合金についての状態図(phase diagram)においてMg含量をMg
2Zn
11の共晶点(Eutectic Point)以下に設定しなければならない。理論上では、このときのMg含量は6.3重量%以下に設定しなければならないが、実験で確認した結果、7〜8重量%でもZn+Mg
2Zn
11複合相が形成されることが分かった。これは、気相蒸着という工程の特性によるものであると判断される。
【0023】
より具体的には、最適の耐食性と密着性を有するためには、上記ZnとMg
2Zn
11との複合相の相比率は、Zn:Mg
2Zn
11を1:1〜1:3に調節することが好ましい。
【0024】
最後に、表面欠陥のないMg−Zn合金めっきを得るための方策としては、めっき層の粒子サイズの微細化がある。粒子サイズが粗大な場合には、表面粗さが増加し、粒子間の空隙に光が吸収されることによる乱反射によって黒い斑が発生する。従って、上記Zn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子の平均サイズが90μm以下(但し、0μmは除く)の場合、表面に斑がなく、優れた外観が得られる。
【0025】
上記Zn−Mgめっき層の厚さは1〜3μmであることが好ましく、1μmより薄いと、形成されるZn−Mg合金の皮膜層が薄すぎて耐食性が十分に向上せず、3μmより厚いと、耐食性向上効果はあるが、加工によってパウダーリング(Powdering)が発生し、経済性の側面でも好ましくない。
【0026】
以下、上記のような特性を有するZn−Mg合金めっき鋼板の製造方法について、
図1を参照して説明する。
【0027】
素地鋼板11を用意し、Zn−Mg合金源13を蒸発させて上記素地鋼板の表面に蒸着させることによりZn−Mgめっき層15を形成する。素地鋼板は冷延鋼板、熱延鋼板の何れでもあってもよい。本発明では、ZnとMgを別々に蒸着するのではなく、Zn−Mg合金源を蒸発させて素地鋼板上に蒸着させる。
【0028】
Zn−Mgめっき層のMg含量をMg
2Zn
11の共晶点(Eutectic Point)以下に設定するためには、Zn−Mg合金源のZn:Mgの重量比を調節することができる。上記Zn−Mg合金源のZn:Mgの重量比は、コーティング方法によって異なるが、例えば、電磁浮揚誘導加熱方法を用いる場合はZn−Mg合金源のZn:Mgの重量比が75:25であることをMg含量の上限にし、その他電子ビーム及び熱蒸発法などの方式ではZn−Mg合金源のZn:Mgの重量比が70:30であることをMg含量の上限とし、また、スパッタリング方式ではZn−Mg合金源のZn:Mgの重量比が92:8であることをMg含量の上限とする。このような重量比を有するZn−Mg合金源を使用すると、Zn−Mgめっき層のMg含量を8重量%以下(但し、0重量%は除く)に調節することができる。上述したように、理論上では、このときのMg含量を6.3重量%以下に調節すればよいが、実験で確認した結果、7〜8重量%に調節してもよいことが分かった。
【0029】
このようにMg含量を調整することにより、上述したように、Zn+Mg
2Zn
11複合相を得ることができ、耐食性を確保するとともに、脆性を低減させることができる。
【0030】
上記Zn−Mg合金源は、プラズマ及びイオンビームなどを用いて素地鋼板の表面の異物及び自然酸化膜を除去し、真空蒸着法を利用して蒸着させる。このとき、通常の真空蒸着法、例えば、電子ビーム法、スパッタリング法、熱蒸発法、誘導加熱蒸発法、イオンプレーティング法などを用いてもよいが、生産性を向上させるために、高速蒸着が可能で、電磁撹拌効果(Electomagnetic Stirring)を有する電磁浮揚誘導加熱方法を用いることが好ましい。
【0031】
また、蒸着工程時の真空度を1.0x10
−2mbar〜1.0x10
−5mbarに調整することにより、薄膜形成過程での酸化物の形成による脆性増加及び物性低下を防止することができる。
【0032】
上記蒸着前後の上記素地鋼板の温度は60℃以下に調節することにより、粒子の急激な成長を妨げて最終的に形成される上記Zn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子の平均サイズを90μm以下に微細化することができ、このような過程を通じて表面に斑等の表面欠陥が発生することを抑制し、美麗な金属光沢を得ることができる。素地鋼板の温度を調節する手段としては、蒸着前後に冷却ロール12、14を設置して冷却する方式をとることができる。冷却装置の場合、真空中での十分な冷却効率を確保するために、単一冷却ロールではなく、複数のロールを設けて接触面を最大限に増加させることが好ましく、特に、コーティング後には、コーティング潜熱による鋼板の温度上昇が大きいため、コーティング前より冷却ロールの数を増やしたり、冷却ロールの大きさを増加させたりして冷却効率を高めるとともに、冷却ロールの温度を低く管理することが好ましい。
【0033】
本発明者らが実験した結果、Mg含量が低くなると、斑が顕著に現れるが、素地鋼板の温度を下げると、次第に斑が減少することが分かった。Mg含量が3重量%の同じ条件で蒸着前後の素地鋼板の温度を150℃、100℃、90℃に変えながらZn−Mgめっき層を形成して、表面外観と表面粒子の平均サイズを測定した結果を
図7に示した。同じ組成であるにもかかわらず、鋼板の温度を下げるにつれ、粒子の平均サイズが減少して表面の斑発生が抑制されることが分かった。
【0034】
また、Mg含量が、本発明のMg含量範囲内であって、Mg
2Zn
11の共晶点(Eutetic Point)以下である3重量%の場合に、蒸着前の鋼板の温度が100℃以上で、蒸着後の鋼板の温度が162℃まで上がった状態でめっき層をコーティングした結果、表面粒子が極めて粗大(粒子の平均サイズが237μm)で、気孔があるために斑が発生することが分かった。このときのZn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子及び表面外観の写真、及びX線回折分析による相(phase)分析の結果を
図3に示した。
【0035】
一方、Mg含量は同一で、蒸着前後の鋼板の温度を60℃以下に制御した場合には、表面粒子が微細(粒子の平均サイズが90μm以下)で、斑が発生しなかった。このときのZn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子及び表面外観の写真、及びX線回折分析による相(phase)分析の結果を
図2に示した。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、これにより本発明は限定されない。
【0037】
[実施例1]
冷延鋼板を用い、真空チャンバー内でプラズマ前処理により表面の異物や自然酸化膜を除去した後、真空蒸着法の一つである電磁浮揚誘導加熱蒸着法によりZn−Mg合金を薄膜にコーティングした。このとき、薄膜形成前後の冷却処理の有無に応じた鋼板の温度及び薄膜のMg含量(wt%)を表1のように変化させながら、Zn−Mg合金めっき鋼板を製造した。
【0038】
また、このように製造されたZn−Mg合金めっき鋼板の表面粒子の平均サイズを走査型電子顕微鏡(SEM)及びImage Analyzerを用いて測定し、肉眼で観察(Optical Image)して表面色を評価した。また、めっき鋼板の密着性は、通常用いられる「0T Bending Test」を用いて密着力を評価し、XRD回折分析により薄膜の相(Phase)構成を分析した。さらに、耐食性を評価するために、ASTM B−117に基づいて塩水噴霧試験機に試片を装入した後、5%の赤青が発生するまでの時間を測定した。
【0039】
上記した測定及び評価の結果は下記表1に示した。このとき、電気亜鉛めっき鋼板(EG、めっき厚さ:約3μm)の比較評価も行った。
【0040】
【表1】
【0041】
上記表1のNo.1、No.2、No.5は比較例で、No.6は参照例で、No.3及びNo.4は発明例である。
【0042】
上記表1におけるNo.1、No.2から、鋼板に冷却を施さないと、薄膜のMg含量を8重量%以下にしたZn−Mg合金めっきであっても、表面粒子の平均サイズが90μm以上と粗大である上、MgZn
2相が形成されて、耐食性は電気亜鉛めっき(EG)鋼板より優れるが、薄膜の脆性が増加して密着性が低下することが分かる。特に、No.1の3wt%Mgの薄膜において表面粒子の平均サイズが数百μmと非常に粗大で、多数の気孔が形成されて、肉眼で観察したとき、めっき鋼板の表面に褐色の斑が顕著に現れたが、これは粒子サイズが成長する温度条件で成長を妨げるMg成分が少ないためである。その構造及び解析結果を
図3に示した。
【0043】
また、No.5の場合は、鋼板に冷却は施したが、薄膜におけるMg含量を8重量%以上に設定したため、MgZn
2相が形成されて密着力が不良であることが分かる。
【0044】
一方、本発明の範囲を満たすNo.3及びNo.4は、優れた耐食性とともにめっき密着性を保持しながら、美麗な表面光沢を有することが分かる。
【0045】
特に、No.4は、最も優れた耐食性を有することが分かる。これは単結晶を利用してZn−Mg合金相毎に耐食性を評価した結果である
図5に示したように、MgZn
2相より良好な耐食性を有するMg
2Zn
11相がNo.3及びNo.2より相対的に多いためである。
【0046】
さらに、上記実施例によるZn−Mg合金薄膜を合成するにおいて、Mg含量が0重量%から次第に増加することによる薄膜の相(Phase)の変化挙動を
図10に示した。
【0047】
図10に示したように、初期はZn相の比率が100%で、Mgが増加するにつれて1次合金相であるMg
2Zn
11が形成される。合金相が形成される初期段階では、Zn相が多数を占めるZnリッチ相(Rich Phase)であるが、Mg含量が3重量%のときにMg
2Zn
11/Znの相分率が1となり、その後はMg
2Zn
11相が多数を占めるMg
2Zn
11リッチ相(Rich Phase)に変わり、高耐食特性を有するMg
2Zn
11が多数を占める時点から耐食性がより急激に増加する。その後、Mg含量が7〜8重量%のときにMg
2Zn
11相の比率が最大となり、このときのMg
2Zn
11/Zn相分率は3である。また、8重量%以上にMg含量が増加すると、2次合金相であるMgZn
2相が形成されることが分かる。
【0048】
経済性、耐食性及び密着性を考慮すると、最適の相分率の範囲はMg
2Zn
11/Znが1以上3以下、即ち、Zn:Mg
2Zn
11が1:1〜1:3である範囲であることが好ましい。
【符号の説明】
【0049】
11 素地鋼板
12 蒸着前の鋼板の冷却装置(冷却ロール)
13 Zn−Mg合金源(Source)
14 蒸着後の鋼板の冷却装置(冷却ロール)
15 Zn−Mg合金めっき層