特許第6347188号(P6347188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6347188炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347188
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/12 20060101AFI20180618BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20180618BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20180618BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 652K
   H01L29/78 658F
   H01L21/316 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-182766(P2014-182766)
(22)【出願日】2014年9月8日
(65)【公開番号】特開2016-58499(P2016-58499A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】俵 武志
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦之
【審査官】 恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−543048(JP,A)
【文献】 特開平11−162972(JP,A)
【文献】 特開2011−146426(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/134344(WO,A1)
【文献】 特開2009−266970(JP,A)
【文献】 特開2006−328455(JP,A)
【文献】 特開2005−286038(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/196394(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0001490(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/12
H01L 21/316
H01L 21/336
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素よりなるMOSFETの製造方法において、炭化珪素からなる半導体ウェハのおもて面側にMOSFETのチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、前記チャネル層の表面にゲート酸化膜を形成するゲート酸化膜形成工程と、前記チャネル層形成工程の後、前記ゲート酸化膜形成工程の前に、前記炭化珪素からなる半導体ウェハ上の微小ピットの深さに対応して、所定厚さを有する犠牲酸化膜を形成することにより、前記炭化珪素からなる半導体ウェハ上で所定深さ以上の微小ピットの数を減らしたことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記犠牲酸化膜は、10nm以上100nm以下の膜厚で形成したことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記チャネル層形成工程では、前記チャネル層としてエピタキシャル膜を成長させ形成し、
前記チャネル層形成工程の後、前記ゲート酸化膜形成工程の前に、熱酸化により、前記チャネル層の表面に所定厚さの酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
酸化膜を形成することを繰り返して、前記犠牲酸化膜を所定の厚さに形成することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法により、直径2μm以下、深さ3nm以上の前記微小ピットが1個/cm2以下の密度で前記炭化珪素からなる半導体ウェハ平面上に存在することを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンよりもバンドギャップが広い単結晶炭化珪素を用いた炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(以下SiC)を材料に用いた半導体は、シリコン(以下Si)の次世代の半導体素子として期待されている。SiC半導体素子は、Siを材料に用いた従来の半導体素子と比較して、オン状態における素子の抵抗を数百分の1に低減できること、また、より高温(200℃以上)の環境下で使用可能なこと等、様々な利点がある。これは、SiCのバンドギャップがSiに対して3倍程度大きく、絶縁破壊電界強度がSiより1桁近く大きいという材料自体の特性による。
【0003】
SiCデバイスとしては、現在までに、ショットキーバリアダイオード(以下、SBD)、プレーナー型縦型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)が製品化されている。
【0004】
このようなSiC MOSFETは、ゲート酸化膜/SiC界面に問題があり、チャネル移動度が低く、素子抵抗が増大し、SiCの能力が十分引き出されていない。これに対し近年、酸化とPOA(Post Oxidation Anneal)手法の改善やチャネル結晶面方位にSiC半導体のC面(SiCの(000−1)面)を選択することにより、チャネル移動度を大幅に改善した、低素子抵抗のSiC MOSFETが提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−511101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、SiC半導体のC面をチャネルに用いたC面SiC MOSFETにはまだ課題が多い。その一つが、酸化膜の寿命が短いことである。SiCは、結晶中に転位欠陥が多く、C面ではエピタキシャル成長の際に、その結晶欠陥を起点に表面に微小ピット(微小な窪み)が発生することがある。このような微小ピットは、ウェハ面内に数百個/cm2の密度で存在する。
【0007】
この微小ピットの上にゲート酸化膜を形成した際には、平坦な面に比べて電界が集中するため、ゲート酸化膜の寿命を著しく縮めてしまう。このため、C面SiC MOSFETにおいてゲート酸化膜の寿命を長寿命化できなかった。
【0008】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、C面SiC MOSFETのチャネル表面の微小ピットの深さを低減し、ゲート酸化膜の寿命を延ばすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素よりなるMOSFETの製造方法において、炭化珪素からなる半導体ウェハのおもて面側にMOSFETのチャネル層を形成するチャネル層形成工程と、前記チャネル層の表面にゲート酸化膜を形成するゲート酸化膜形成工程と、前記チャネル層形成工程の後、前記ゲート酸化膜形成工程の前に、前記炭化珪素からなる半導体ウェハ上の微小ピットの深さに対応して、所定厚さを有する犠牲酸化膜を形成することにより、前記炭化珪素からなる半導体ウェハ上で所定深さ以上の微小ピットの数を減らしたことを特徴とする。
【0010】
また、前記犠牲酸化膜は、10nm以上100nm以下の膜厚で形成したことを特徴とする。
【0011】
また、前記チャネル層形成工程では、前記チャネル層としてエピタキシャル膜を成長させ形成し、前記チャネル層形成工程の後、前記ゲート酸化膜形成工程の前に、熱酸化により、前記チャネル層の表面に所定厚さの酸化膜を形成することを特徴とする。
【0012】
また、酸化膜を形成することを繰り返して、前記犠牲酸化膜を所定の厚さに形成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の炭化珪素半導体装置は、上記の製造方法により、直径2μm以下、深さ3nm以上の前記微小ピットが1個/cm2以下の密度で前記炭化珪素からなる半導体ウェハ平面上に存在することを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、炭化珪素からなる半導体ウェハのC面上にC面SiC MOSFETのチャネル層を形成した後、チャネル表面を酸化してゲート酸化膜を形成する前に、チャネル表面の犠牲酸化を十分厚く行うことで、微小ピットを低減することができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、C面SiC MOSFETのチャネル表面の微小ピットの深さを低減し、ゲート酸化膜の寿命を延ばすことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施の形態にかかるC面SiC MOSFETのチャネル表面の微小ピットの平面形状と深さを示す図である。
図2図2は、実施の形態にかかる犠牲酸化膜厚と微小ピット深さとの関係を示す図表である。
図3図3は、実施の形態にかかる犠牲酸化膜厚とゲート酸化膜の絶縁破壊注入電荷量の関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態)
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“−”を付けることで負の指数を表している。
【0018】
この発明では、SiC半導体のC面をチャネル表面とするMOSFET(以下、C面SiC MOSFETとする)のチャネル表面の微小ピットの深さを低減し、ゲート酸化膜の寿命を延ばす方法を提案する。C面SiC MOSFETは、例えば、SiC半導体のC面上に平板状にMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造を設けたプレーナゲート型MOSFETである。具体的には、SiCウェハのC面上にC面SiC MOSFETのチャネル層を形成した後、ゲート酸化膜を形成する前にチャネル表面を酸化してチャネル表面の犠牲酸化を十分厚く行うことで、微小ピットを低減する。直径2μm以下、深さ3nm以上の微小ピットをウェハ平面上に1cm-2/個以下の密度とすることができる。
【0019】
SiC半導体のC面の熱酸化の反応エネルギーは他の結晶面よりも低い(例えば、参考文献1:N.G.Wright,C.M.Johnson,A.G.O’Neill,“Mechanistic model for oxidation of SiC”,Mater.Sci.Eng.,B61−62(1999),468−471参照。)。
【0020】
このため、SiC半導体のC面の酸化速度が速くなることが知られている。発明者らはこの現象を利用し、SiC半導体のC面の犠牲酸化を行うことにより、ピット側面よりも平坦な面の方が速く酸化されて、結果的にピット深さを浅くできると予想した。そこでまず、微小ピットの平面形状および深さをAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)により調べた。
【0021】
図1は、実施の形態にかかるC面SiC MOSFETのチャネル表面の微小ピットの平面形状と深さを示す図である。(a)は平面図であり縦横1マスが5μm、(b)は(a)のA−A線部分の深さプロファイル(分布)であり、横軸が幅(A−A線の長さ)、縦軸が深さである。この図1に示すように、半導体ウェハ100上の微小ピット101は、(a)に示すように、直径1.5μm程度であり、深さは(b)に示すように、頂部−底部(Peak to Valley)で4nm程度であることが分かった。
【0022】
次に、犠牲酸化を酸化膜厚5nmになる時間だけ行い、微小ピットの深さを測定した。これを繰り返して、累積の犠牲酸化膜厚と微小ピットの深さ変化を調べた結果を図2に示す。
【0023】
図2は、実施の形態にかかる犠牲酸化膜厚と微小ピット深さとの関係を示す図表である。この結果より、犠牲酸化膜厚を増やすに従って、ピット深さが低減し、微小ピット深さの3倍(15μm)以上の厚みを犠牲酸化により除去すると微小ピットの深さがほぼ平坦になっていることが分かった。
【0024】
しかしながら、犠牲酸化膜厚を過度に増やすと、酸化時間が延びるだけでなく、増やした犠牲酸化膜厚に対応してチャネル層の厚さが薄くなるため、余計に厚く下地のチャネル層を形成しなくてはならず、スループットが低下してしまう。このため、100nmを超えて犠牲酸化膜を形成するのは望ましくない。
【0025】
なお、以下実施例ではチャネル層をエピタキシャル膜で形成する場合について述べているが、チャネル層をイオン注入により形成する場合においても、活性化アニールにより結晶性を回復させれば、SiC半導体のC面の酸化速度についての原理は同じになり、同様の効果が得られる。
【0026】
また、C面から<11−20>方向に0.1〜8°オフカットされたSiC基板(SiCウェハ)を用いた場合でも、熱酸化の反応エネルギーが急激に大きく変わらないため、微小ピットに対しては同様の効果が得られる。
【実施例1】
【0027】
φ3インチの4H−SiC(000−1)面4°offのn型基板上に、ドリフト層としてn-型エピタキシャル膜を5μmの厚さで積層しウェハを形成する。4H−SiC(000−1)面4°offとは、4H−SiC(炭化珪素の四層周期六方晶)からなるウェハの主面が例えば<11−20>方向に4°程度のオフ角を有する(000−1)面であることを意味する。このウェハの上に、成膜温度1700℃、成膜圧力10kPa、C/Si比1.2(SiH4流量50sccm、C38流量20sccm)、キャリアH2ガス流量100slm、ドーパントとしてTMA(トリメチルアルミニウム)を0.05sccm流し、チャネル層としてp型エピタキシャル膜を0.5μm成長させた。この後、耐圧構造、ソース領域、素子分離領域を形成した後、ゲート酸化膜形成前に、1100℃でドライ熱酸化を行った。その際、犠牲酸化膜厚を所定の厚さ(5〜20nmまでの間で5,10,15,20nm)として形成し、その後、5%希フッ酸により、犠牲酸化膜を除去した。その後、ゲート電極、ゲート酸化膜、層間絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極を作製して素子(MOSFET)を完成させ、チップサイズ10mm2の素子について、ゲート酸化膜の寿命評価(定電流TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)試験)を行った。この際、エピタキシャル基板表面は、直径2μm以下、深さ3nm以上の微小ピットがウェハ平面上に1cm-2/個以下の密度で存在した。
【0028】
図3は、実施の形態にかかる犠牲酸化膜厚とゲート酸化膜の絶縁破壊注入電荷量の関係を示す図表である。横軸は犠牲酸化膜厚さ、縦軸はゲート酸化膜の絶縁破壊注入電荷量Qbdである。ゲート酸化膜の寿命の指標として、ゲート酸化膜が破壊するまでの累積電荷量(Qbd)を累積故障率63%で比較すると、犠牲酸化膜厚を従来の犠牲酸化膜厚(例えば、10nm)の素子よりも厚くすると(例えば10nm以上、15nm、20nm等)、Qbdが大きくなり、ゲート酸化膜寿命が延びる効果が確認された。
【実施例2】
【0029】
φ3インチの4H−SiC(000−1)面4°offのn型基板上に、ドリフト層としてn-型エピタキシャル膜を5μmの厚さで積層しウェハを形成する。このウェハの上に、成膜温度1700℃、成膜圧力10kPa、C/Si比1.2(SiH4流量 50sccm、C38流量20sccm)、キャリアH2ガス流量100slm、ドーパントとしてTMA(トリメチルアルミニウム)を0.05sccm流し、チャネル層としてp型エピタキシャル膜を0.5μm成長させた。この後、耐圧構造、ソース領域、素子分離領域を形成した後、ゲート酸化膜形成前に1100℃でドライ熱酸化を酸化膜厚5μmになるまで行い、続いて5%希フッ酸によりその酸化膜を除去した。これを繰り返し、累積の犠牲酸化膜厚が20nmになるまで行った。
【0030】
この際、エピタキシャル基板表面は、直径2μm以下、深さ3nm以上の微小ピットがウェハ平面上に1cm-2/個以下の密度で存在した。その後、ゲート電極、ゲート酸化膜、層間絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極を作製して素子を完成させ、チップサイズ10mm2の素子について、ゲート酸化膜の寿命評価(定電流TDDB試験)を行った。
【0031】
そして、ゲート酸化膜の寿命の指標として、ゲート酸化膜が破壊するまでの累積電荷量(Qbd)を累積故障率63%の地点で比較すると、実施例2においても実施例1の場合と同様の水準までQbdが大きくなり、実施例2のように複数回に分けて犠牲酸化を行った場合でもゲート酸化膜寿命が延びる効果が確認された(図3参照)。
【0032】
以上説明したように、この発明によれば、C面SiC MOSFETのチャネル層を形成した後、ゲート酸化膜を形成する前に、犠牲酸化膜を十分厚く形成することで、微小ピットの深さを低減することができゲート酸化膜の寿命を延ばすことができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用される高耐圧半導体装置に有用であり、特に、ワイドバンドギャップ半導体を高耐圧化した炭化珪素半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0034】
100 半導体ウェハ
101 微小ピット
図1
図2
図3