特許第6347200号(P6347200)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6347200-RH真空脱ガス設備の上吹きランス装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347200
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】RH真空脱ガス設備の上吹きランス装置
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/10 20060101AFI20180618BHJP
【FI】
   C21C7/10 F
   C21C7/10 P
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-209112(P2014-209112)
(22)【出願日】2014年10月10日
(65)【公開番号】特開2016-79422(P2016-79422A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉森 薫
(72)【発明者】
【氏名】天田 克己
(72)【発明者】
【氏名】安尾 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 剛司
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−091612(JP,A)
【文献】 特開平06−073431(JP,A)
【文献】 米国特許第05413623(US,A)
【文献】 特開平07−278638(JP,A)
【文献】 特開2006−348341(JP,A)
【文献】 特開2012−082491(JP,A)
【文献】 特開平05−009544(JP,A)
【文献】 特表平10−508907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にラバールノズルを備えた上吹きランス内に、鉛直方向のガス流路を複数配置し、 該ガス流路の末端部と前記ラバールノズルの上端部を繋ぐ絞り部を備え、
前記の各ガス流路のガス流量を、各ガス流路ごとに調節自在とするガス流量調節手段を備えることを特徴とする
RH真空脱ガス設備の上吹きランス装置。
【請求項2】
前記複数のガス流路が、一本の管状体の円筒状内部を隔壁で分割して形成された複数のガス流路であることを特徴とする請求項1記載のRH真空脱ガス設備の上吹きランス装置。
【請求項3】
前記隔壁は、一本の管状体の円筒状内部を左右2つの流路に分割する隔壁であることを特徴とする請求項2記載のRH真空脱ガス設備の上吹きランス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RH真空脱ガス設備の上吹きランス装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
RH真空脱ガス設備では、取鍋内の溶鋼中に浸漬した2本の管(浸漬管)の内の一方(上昇管)にアルゴンガスを吹き込むことにより、上昇管内の溶鋼を真空槽内に上昇させ、溶鋼を真空槽内で真空に曝したのち、他方の管(下降管)をから取鍋中に戻し、この還流(上昇管〜真空槽〜下降管〜取鍋〜上昇管)を繰り返しながら、最終精錬を行っている。
【0003】
このようなRH真空脱ガス設備を用いた溶鋼の精錬過程において、溶鋼の温度調節や精錬の効率改善を目的として、RH真空脱ガス設備に上吹きランス装置を設ける技術が各種開示されている。RH脱ガス設備における上吹きランスは、通常、真空槽の上蓋中央に設置したシール孔を介して真空槽内に挿入されて鉛直に昇降し、真空槽底面の中心部に向けて鉛直下向きにガスを吹き付ける構造が一般的であるが、特許文献1には、上吹きランスから上昇管側に向けて酸素含有ガスを吹きつけることにより、火点(酸素含有ガスジェットが真空槽内の溶鋼浴面に吹き付けられている領域)を真空槽の中心点から上昇管側の還流ガス気泡による強撹拌領域に近づけ、火点において反応に寄与する溶鋼の供給速度を大きくする技術が開示されている。
【0004】
また、RH真空脱ガス設備では、上昇側の還流管(上昇管)の方が、下降側の還流管(下降管)に比べて耐火物損耗速度が大きいため、2本の還流管を交互に上昇管として使用して耐火物寿命の延長を図ることが一般的であるため、特許文献1には、2本の還流管を交互に上昇管として使用することを前提とした上で、上吹きランスから上昇管側に向けて酸素含有ガスを吹きつける技術として、酸素含有ガスジェットの噴出方向を変更可能とする技術も開示されている。具体的には、特許文献1では、酸素含有ガスジェットの噴出方向を変更可能とする手段として、上吹きランスの先端に設けたノズルの内壁に作動ガス出口を設けて、酸素含有ガス(主ガス)と直交するように作動ガスを噴出する方法を採用している。
【0005】
しかし、上記のように、上吹きランスの先端に設けたノズルの内壁に作動ガス出口を設ける場合には、上吹きランス内に主ガス用配管の他に、作動ガス用配管を設置する必要があるが、既存の上吹きランス内には、前記の主ガス用配管の他、大量の冷却水を循環させるための水路も配設されており、通常、新たに作動ガス用配管を増設する余裕はない。したがって、特許文献1の技術では、上吹きランス自体も径の大きいものに変更することが求められ、これに付随して建屋基礎の補強等大幅な改造も必要となり、投資対効果が見合わないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4032930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記の問題を解決し、RH真空脱ガス設備において、上吹きランス径を拡張することなく、ガスジェットの噴出方向を変更自在とする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明のRH真空脱ガス設備の上吹きランス装置は、先端にラバールノズルを備えた上吹きランス内に、鉛直方向のガス流路を複数配置し、該ガス流路の末端部と前記ラバールノズルの上端部を繋ぐ絞り部を備え、前記の各ガス流路のガス流量を、各ガス流路ごとに調節自在とするガス流量調節手段を備えることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のRH真空脱ガス設備の上吹きランス装置において、前記複数のガス流路が、一本の管状体の円筒状内部を隔壁で分割して形成された複数のガス流路であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のRH真空脱ガス設備の上吹きランス装置において、前記隔壁は、一本の管状体の円筒状内部を左右2つの流路に分割する隔壁であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係RH真空脱ガス設備の上吹きランス装置は、先端にラバールノズルを備えた上吹きランス内に、鉛直方向のガス流路を複数配置し、該ガス流路の末端部と前記ラバールノズルの上端部を繋ぐ絞り部を備え、前記の各ガス流路のガス流量を、各ガス流路ごとに調節自在とするガス流量調節手段を備えるため、各ガス流路に流すガス流量を調節し、絞り部で合流するガスの流れの方向を自在に変更することができる。すなわち、本発明によれば、特許文献1のように、作動ガスを用いることなく、主ガスのみを使用して、絞り部で合流するガスの流れの方向を自在に変更することができるため、上吹きランス径を拡張して作動ガス用配管を増設する必要がなく、簡易な手法でラバールノズルから噴出されるガスジェットの噴出方向を変更自在とすることができる。
【0012】
請求項2記載の発明のように、一本の管状体の円筒状内部を隔壁で分割して複数のガス流路を形成する構成とすることにより、従来の上吹きランス内に隔壁を追加するという更に簡易な手法でラバールノズルから噴出されるガスジェットの噴出方向を変更自在とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態の上吹きランス装置を備えたRH真空脱ガス設備の全体説明図である。
図2】上吹きランス内でガス流量を調節し、ガスジェットの噴出方向を変更する原理を説明する説明図である。
図3】上吹きランス内でガス流量を調節し、ガスジェットの噴出方向を変更する原理を説明する説明図である。
図4】上吹きランス内でガス流量を調節し、ガスジェットの噴出方向を変更する原理を説明する説明図である。
図5】ガスジェットの噴出角度αと、左右のガス流路のガス流量の比率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0015】
図1において、1はRH真空脱ガス設備、2は上吹きランス装置である。上吹きランス装置2は、一本の管状体の円筒状内部を左右2つの流路に分割する隔壁3で分割して形成された2つのガス流路4、5と、末広型のラバールノズル6と、ガス流路4、5の末端部と前記ラバールノズル6の上端部を繋ぐ絞り部7から構成されている。本実施形態では、絞り部7の下端は、ストレート部8を介してラバールノズル6の上端部と繋がっている。
【0016】
なお、RH脱ガス設備1における上吹きランス装置2は、設備の特性として溶鋼のスプラッシュを避けるために浴面からの距離を大きくとって配置されるが、ラバールノズル6は、この様な条件下でも、十分な運動エネルギーを持ってガスジェットを浴面に到達するように、ノズルの背圧と雰囲気圧力から開口比を適切に設計されている。
【0017】
2つのガス流路4、5には、それぞれ、ガス流量計を備え、各ガス流路4、5のガス流量を設置した流調弁の開度によって、調節自在とするガス流量調節手段を備えている。
【0018】
例えば、図2に示すように、ガス流路4のガス流量(A)を、ガス流路5のガス流量(B)より多く調節すると、各ガス流路を出で、絞り部7で合流したガスは、絞り部7内で図2の紙面右方向に向かう流れを形成する。この右方向のガス流れは、ストレート部8もしくはラバールノズル6の左側壁にぶつかっって反射し、図2の紙面左方向に向かう流れを形成し、ラバールノズル6の開口部9から噴出されるガスジェットの噴出方向は、紙面左方向となる。)
【0019】
また、図3に示すように、ガス流路4のガス流量(A)を、ガス流路5のガス流量(B)より少なく調節すると、各ガス流路を出で、絞り部7で合流したガスは、絞り部7内で図3の紙面左方向に向かう流れを形成し、ラバールノズル6の開口部9から噴出されるガスジェットの噴出方向は、紙面右方向となり、図4に示すように、ガス流路4のガス流量と、ガス流路5のガス流量が均等となるように調節すると、絞り部7で合流したガスは、絞り部7内で鉛直直下に向かう流れを形成し、ラバールノズル6の開口部9から噴出されるガスジェットの噴出方向は、鉛直直下方向となる。
【0020】
このように、一本の管状体の円筒状内部を隔壁で分割して複数のガス流路を形成する構成とすることにより、従来の上吹きランス内に隔壁を追加するという更に簡易な手法でラバールノズルから噴出されるガスジェットの噴出方向を変更自在とすることができる。
【0021】
本実施形態では、一本の管状体3の円筒状内部を左右2つの流路に分割する隔壁3で分割して形成された2つのガス流路4、5を形成したが、一本の管状体の内部を2枚以上の隔壁により4本以上のガス流路を形成したり、一本の管状体の円筒状内部に、複数のパイプを配置して複数のガス流路を形成し、それぞれのガス流路ごとにガス流量を調節自在とするガス流量調節手段を備えることもできる。何れの場合も、特許文献1のように、作動ガスを用いることなく、主ガスのみを使用して、絞り部で合流するガスの流れの方向を自在に変更することができるため、上吹きランス径を拡張して作動ガス用配管を増設する必要がなく、簡易な手法でラバールノズルから噴出されるガスジェットの噴出方向を変更自在とすることができる。
【実施例】
【0022】
図5には、ガスジェットの噴出角度αと、左右のガス流路のガス流量の比率との関係を調べたグラフを示している。このグラフは、図1に示すRH真空脱ガス設備において、オフラインテストで、ガス流路4のガス流量とガス流路5のガス流量の比率を変化させた場合の、ガスジェットの噴出角度αの変化を調査して得たものである。図5に示すように、流量比A/(A+B)=0.5を境として、0.5より大きくすると吐出噴流は、図1の紙面左方向に向かう流れを形成して、ランスの広がり角度でサチュレートすること、および、0.5より小さくすると吐出噴流は、図1の紙面右方向に向かう流れを形成して、ランスの広がり角度でサチュレートすることが確認された。
【符号の説明】
【0023】
1 RH真空脱ガス設備
2 上吹きランス装置
3 隔壁
4、5 ガス流路
6 ラバールノズル
7 絞り部
8 ストレート部
9 開口部
図1
図2
図3
図4
図5