【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明のラジアスエンドミルは、工具本体の先端部の切れ刃部が、中心軸回りに配列した複数の底刃と、前記底刃の半径方向外周側に連続する円弧状の複数のラジアス刃と、前記ラジアス刃の半径方向外周側に連続するとともに、刃溝に沿って前記工具本体の後端部側へ延設された複数の外周刃とを有するラジアスエンドミルであって、
前記底刃が半径方向に内周側底刃と外周側底刃とに区分され、
前記ラジアス刃が、前記工具本体の切削時における前記ラジアス刃の最下点が、前記外周側底刃と前記ラジアス刃との境界から前記ラジアス刃と前記外周刃との境界までの区間に位置する形状をし、
前記複数の内周側底刃の2番面は前記中心軸寄りの部分において互いにつながり、前記工具本体の先端部を端面側から見たとき、前記複数の内周側底刃のつながった2番面の領域は前記中心軸を含む領域から各内周側底刃の半径方向外周側に向けて帯状に連続し、この帯状の領域の幅は前記中心軸側から半径方向外周側に向けて次第に拡大し、
前記全内周側底刃の前記中心軸寄りの端部が、その内周側底刃の回転方向前方側に位置する前記内周側底刃の2番面とその回転方向後方側に形成されるギャッシュとの境界線と、前記中心軸より半径方向外周側の位置で交わっていることを特徴とする。
【0013】
「底刃が半径方向に内周側底刃と外周側底刃とに区分されること」は、底刃の回転方向後方側に形成される逃げ面である底刃の2番面を半径方向に内周側の2番面と外周側の2番面に区分する意味がある。但し、内周側底刃と外周側底刃との境界は必ずしも折れ線のように工具本体(ラジアスエンドミル)の表面側に凸の角度を持った点である必要はなく、内周側2番面と外周側2番面の境界も凸の稜線のように明確な境界線として表れるとも限らない。
【0014】
底刃が半径方向に内周側底刃と外周側底刃とに区分されることはまた、切れ刃部にラジアス刃と底刃を形成する砥石による研削作業が関係する。複数の内周側底刃の2番面が互いにつながり、連続的な面をなすように切れ刃を研削する際に、請求項1のように回転方向に隣接する底刃間の距離が中心軸寄り程、小さくなるように2番面を形成する場合、中心軸寄りの内周側底刃の研削時に、ラジアス刃と外周側底刃の研削時に使用される砥石をそのまま使用することが難しい。この関係で、中心軸寄りの内周側底刃の研削時には、隣接する底刃との干渉を生じない形状、もしくは大きさの砥石を使用する必要が生じ、その影響で、底刃が半径方向に内周側底刃と外周側底刃とに区分されることになる。
【0015】
すなわち、底刃が内周側底刃と外周側底刃とに区分されることは、複数の内周側底刃の2番面が中心軸寄りの部分においてつながった面を形成した上で、隣接する底刃間の距離が中心軸寄り程、小さくなる(帯状の領域の幅が中心軸側から半径方向外周側に向けて次第に拡大する)ように2番面を形成する目的を達成することの結果として生じる。従って底刃を半径方向に区分することは複数の2番面を連続的な面に形成し、帯状の領域の幅を半径方向外周側になる程、拡大することの意味がある。
【0016】
「複数の内周側底刃の2番面が中心軸寄り部分において互いにつながり」とは、複数の内周側底刃の2番面(逃げ面)が分離した面をなさないことを言う。このことは具体的には
図1、
図3−(a)に示すように全内周側底刃4の中心軸O寄りの端部が、その内周側底刃4の回転方向前方側に位置する内周側底刃4の2番面40とその回転方向後方側に形成されるギャッシュ8(ギャッシュ壁面80)との境界線と、中心軸Oより半径方向外周側の位置で交わることを言う。つながった複数の2番面40の面自体は例えば連続的な面、または多面体のような面をなす。「連続的な面」は例えば曲率が一様であるか、曲率が連続的に変化するような曲面、または曲率が僅かずつ変化するような面であり、面は主に曲面であるが、平面を含むこともある。多面体は曲率が変化するような面を含むが、砥石による2番面40の研削加工上、生じる凹凸面も含む。
【0017】
複数の内周側底刃4の2番面40が互いにつながることで、各内周側底刃4に生じる切削時の振動が全内周側底刃4に分散し、伝播し易くなり、振動が内周側底刃4毎に生じにくくなる。またつながることで、各切れ刃2の剛性が均一化され、切削時に各切れ刃2に生じる抵抗が等しくなるため、切削中に工具本体にびびり振動が起こりにくくなり、被削材に高品質な加工面を出し易くなる。
【0018】
「複数の内周側底刃の2番面が中心軸寄り部分においてつながること」は言い換えれば、
図1に示すように工具本体30の先端部を端面側から見たとき、複数の内周側底刃4のつながった2番面40の領域が中心軸Oを含む領域から各内周側底刃4の半径方向外周側に向けて帯状に連続していることである。
【0019】
この帯状の領域の幅が中心軸O側から半径方向外周側に向けて次第に拡大していることで、各内周側底刃4の2番面40を含み、回転方向後方側の刃溝9までの工具本体30の部分が切削時に受ける抵抗による曲げモーメントを半径方向のいずれの部分においても均等に生じさせることが可能になる。
【0020】
内周側底刃4が被削材Wを切削するとき、内周側底刃4の半径方向の各部には回転中心である中心軸Oからの距離に応じた曲げモーメントが作用し、曲げモーメントに対しては内周側底刃4の2番面40を含み、回転方向後方側の刃溝9までの工具本体30の部分が抵抗する。ここで、2番面40が中心軸O側から半径方向外周側に向けて次第に拡大する形状をしていることで、切削時の曲げモーメントに抵抗する部分の断面積が半径方向中心軸側から外周側へ向けて次第に増加する。この結果、内周側底刃4の半径方向中心軸O寄りの部分に生じる曲げ応力度(曲げモーメント/断面係数)と半径方向外周寄りの部分に生じる曲げ応力度が均等になり易くなる。曲げモーメントに対する抵抗力が半径方向の各部において同等になることで、内周側底刃4の半径方向のいずれかの部分が相対的に弱点になりにくくなり、内周側底刃4の破損に対する安全性が向上する。
【0021】
またつながった2番面40の領域の内、中心部分から延びる帯状の領域の幅が中心軸O側から半径方向外周側に向けて次第に拡大していることで、切れ刃の枚数が8枚等に多くなっても、隣接する底刃3、3間に形成されるギャッシュ8の回転方向の幅を十分に確保することが可能になる。
【0022】
図5に示すように工具本体30(ラジアスエンドミル1)が切削状態にあるときのラジアス刃6の最下点Pbは外周側底刃5とラジアス刃6との境界(接続部)P2からラジアス刃6と外周刃7との境界(接続部)P4までの区間に位置している。ラジアス刃6の最下点Pbがこの状態にあることで、工具本体30の
中心軸Oが被削材Wの厚さ方向に対して傾斜した状態でラジアス刃6が被削材Wを切削することになっても、切削時に外周側底刃5とラジアス刃6の境界P2を被削材Wに接触させることを回避できるため、被削材Wに良好な加工面を形成することが可能になる。「工具本体30が切削状態にあるときの(工具本体30の切削時における)ラジアス刃6の最下点Pb」は、先端部を下に向け、工具本体30を側面から見たときのラジアス刃6の最下点Pbである。「工具本体30の先端部を下に向ける」とは、工具本体30の
中心軸Oを被削材の厚さ方向(高さ方向)に向けることを意味する。
【0023】
工具本体30の
中心軸Oが被削材Wの厚さ方向に対して傾斜した状態でラジアス刃6が被削材Wを切削する最中に、
中心軸Oの被削材Wの厚さ方向に対する角度が変化することがある場合には、ラジアス刃6の外周側底刃5との境界P2から外周刃7との境界P4までの区間が一定の曲率半径Rを有することが適切である。
【0024】
ラジアス刃6の曲率半径Rが一定であれば、
図5に示す境界P2から境界P4までの区間の曲率中心ORからラジアス刃6のいずれの点までの距離が一定になるため、工具本体30の
中心軸Oの傾斜角度が変化し、ラジアス刃6の切削部分がラジアス刃6の周方向に変化しても、切れ刃2上の不連続な点となり得る境界P2を被削材Wに接触させることなく、常に曲率中心ORから一定距離の部分(区間)で切削する状態が得られる。切削に関与する切れ刃2の区間に不連続な点が存在しないことで、不連続点による切削傷等を被削材Wに与えることが回避されるため、加工能率向上の目的で切削速度を増大させた場合にも、工具本体30のびびり振動が抑制され、被削材Wに高精度の加工面粗さを得ることができる。
【0025】
一方、
図3(a)に示すようにラジアス刃6の2番面60と外周側底刃5の2番面50との境界(境界線)SRと外周側底刃5との交点U(P2)が、ラジアス刃6のすくい面62と底刃3のすくい面31との境界(境界線)Tと外周側底刃5、もしくはラジアス刃6との交点Vとは異なる位置にある場合(請求項2)には、切削時の抵抗によるラジアスエンドミル(工具本体)の破損に対する安全性が高まる利点がある。交点U(P2)は外周側底刃5とラジアス刃6との境界でもある。
【0026】
例えば
図3−(a)において外周側底刃5とラジアス刃6との交点Uが連続した稜線(曲線)上の点ではなく、不連続な、表面側に凸になった点である場合に、
図3−(c)に示すように交点Vが交点Uに一致している場合は、切削時の抵抗が交点U(V)に集中し易くなるため、交点U付近が破損し易くなる傾向があり、ラジアスエンドミル1による切削加工が不安定になる可能性がある。
【0027】
これに対し、
図3−(a)、(b)に示すように交点Uと交点Vが半径方向にずれ、異なる位置にある場合には、切削時の抵抗が交点Uと交点Vに分散して作用しようとするため、交点U付近と交点V付近の破損の可能性が低下する結果、ラジアスエンドミル1による切削加工の安定性が向上する。交点Uは外周側底刃5とラジアス刃6との境界であるから、「交点Uと交点Vが半径方向にずれる」とは、両すくい面62、31間の境界Tが切れ刃2に交わる点である交点Vが外周側底刃5上に位置する場合(
図3)と、ラジアス刃6上に位置する場合があることを言う。
図3−(a)は交点Vが交点U(P2)に近い場合、
図3−(b)は交点Uが内
周側底刃4と外周側底刃5との境界P1に近い場合の例を示す。
【0028】
特に
図3−(a)、(b)に示すようにラジアス刃6の2番面60と外周側底刃5の2番面50との境界SRと外周側底刃5との交点U(P2)が、ラジアス刃6のすくい面62と底刃3のすくい面31との境界Tと外周側底刃5との交点Vより半径方向外周側に位置している場合(請求項3)には、交点Uと交点Vとが一致している場合との対比ではラジアス刃6のすくい面62の面積を大きく確保することができるため、切屑を一定方向に流れ易くすることが可能になる。結果的に被削材への切屑の干渉の影響が小さくなるため、被削材Wの加工面精度を向上させることが可能になる。ラジアス刃6のすくい面62の面積は
図3−(b)のように交点Vを境界P1に近付ける程、拡大するため、切屑の排出性が向上する。
【0029】
また工具本体30の先端部を端面側から見たとき、複数の底刃3が中心軸O回りに工具本体30の回転方向(周方向)に均等に配列している場合(請求項4)には、工具本体30のびびり振動が抑制され、被削材の加工面品位が良好になる効果が得られる。複数の底刃3が中心軸O回りに均等に配列していない場合には、各底刃3の切削量や切削深さに差が生じ得、各底刃3が受ける抵抗も相違し得るため、びびり振動が起こり易く、被削材の加工面品位が落ちる傾向もあるが、均等に配列している場合には各底刃3の切削量等に差が生じにくいことによる。
【0030】
本発明のラジアスエンドミル1においては、ラジアス刃6の曲率半径Rが刃径Dの1%〜30%の範囲にあることが好ましい(請求項5)。曲率半径Rが刃径Dの1%未満では刃先強度の不足によりチッピングが発生し易く、刃径Dの30%超では底刃3の形成が困難となることによる。
【0031】
またラジアスエンドミル1の実用性の面からは、底刃3(切れ刃2)は2〜8枚(好ましくは3〜8枚)であり、少なくとも切れ刃2を構成する基体がWC基超硬合金で形成されていることが好ましい(請求項6)。更に加工精度の面からは、工具
本体30が一体のWC基超硬合金製基体からなるソリッドエンドミルであることが好ましい。底刃3が3枚以上が好ましい理由は、つながった複数の内周側底刃4の2番面40が工具本体30の回転方向に均等に分散した形状になり、工具本体30の切削時の安定性が増すことによる。結果的に工具本体30の送り速度を上げることができることに加え、2枚刃より刃数が多くなることで、高能率に加工できることになる。
【0032】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のラジアスエンドミルは、ラジアス刃6の内、外周側底刃5とラジアス刃6との境界P2からラジアス刃6と外周刃7との境界P4までの区間が一定の曲率半径を有する場合に、ポケット形状を有する溝部が形成された被削材に対し、軸方向切込みを設定し、溝部の等高線加工を行う切削加工に適する。その際、次の条件式(1)及び(2)を満たすことが望ましい(請求項7)。
式(1):ap≦R/20
ap:軸方向切込み
R:ラジアス刃の曲率半径
式(2):Lw<LR<R
Lw:(R
2−Lz
2)
1/2 LR:外周側底刃とラジアス刃との境界から
ラジアス刃の最下点までの長さ
Lz:(R−ap)
【0033】
上記の2式を満たすことで、
図5に示すようにラジアス刃6に一定の曲率を持たせた場合に、ラジアス刃6の内の円弧刃のみを被削材Wに接触させ、切れ刃2上の不連続点となり得る前記した境界P2(交点U)の被削材Wへの接触等による傷を発生させることなく、被削材Wに高品質な加工面を得ることができることが実験的に確認されている。ラジアス刃6の外周側底刃5との境界P2から外周刃7との境界P4までの区間が一定の曲率半径Rを有することは、前記のように工具本体30の
中心軸Oが被削材Wの厚さ方向に対して傾斜した状態でラジアス刃6が被削材Wを切削する最中に、
中心軸Oの被削材Wの厚さ方向に対する角度が変化する場合にも、境界P2を被削材Wに接触させず、常に曲率半径Rが一定の部分で切削する状態が得られる意味がある。
【0034】
上記式(1)においては特にap≦R/20で、且つR/50≦ap≦R/20であることが好ましく、R/30≦ap≦R/20であることが更に好ましい。apが式(1)の特定範囲を外れる程、加工面粗さが悪化することによる。上記式(2)のLw<LR<Rである関係を満たすことには、境界P2の被削材Wへの接触等による傷の発生を回避し、良好な加工面粗さが得られる意味がある。