(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の狭隘部の加工手段では、ワークに対する工具姿勢や経由点をオフラインで教示していた。
しかし、特にワークの加工位置が狭隘部(例えば狭隘口の内側)にある場合には、ワークに対する工具姿勢の教示が煩雑であった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、ワークの加工位置が狭隘部にある場合において、工具姿勢の教示とロボットの動作軌道の設定を容易にすることができる研磨ロボットとその軌道生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、先端部で加工する加工工具でワークの
円筒内面以外の加工面を研磨する研磨ロボットであって、前記加工工具を通す前記ワークの
表面に形成される狭隘口の内部に前記加工面が位置しており、
前記加工工具を3次元空間内で移動するロボットアームと、
ワークの加工面形状に基づいて前記加工工具の姿勢を制御する姿勢制御装置と、を備え、
前記姿勢制御装置は、
前記狭隘口を直視できる空間上に指定され、工具回転軸の姿勢を拘束する拘束点を記憶する記憶部と、
前記ワークの形状データから、ワークの
前記加工面に沿った軌道上の点位置と該点位置における法線ベクトルからなる軌道データを作成する軌道データ作成部と、
前記拘束点と前記法線ベクトルを含む拘束平面内において、前記先端部の側面とワークの
前記加工面が平行になるように加工工具の姿勢を設定する姿勢設定部と、を含む、ことを特徴とする研磨ロボットが提供される。
【0009】
また本発明によれば、先端部で加工する加工工具でワークの
円筒内面以外の加工面を研磨する研磨ロボットの軌道生成方法であって、前記加工工具を通す前記ワークの
表面に形成される狭隘口の内部に前記加工面が位置しており、
前記加工工具を3次元空間内で移動するロボットアームと、
ワークの加工面形状に基づいて前記加工工具の姿勢を制御する姿勢制御装置と、を準備し、
前記姿勢制御装置により
(A)
前記狭隘口を直視できる空間上に指定され、工具回転軸の姿勢を拘束する拘束点を記憶し、
(B)前記ワークの形状データから、ワークの
前記加工面に沿った軌道上の点位置と該点位置における法線ベクトルを含む軌道データを作成し、
(C)前記拘束点と前記法線ベクトルを含む拘束平面内において、前記先端部の側面とワークの
前記加工面が平行になるように加工工具の姿勢を設定する、ことを特徴とする研磨ロボットの軌道生成方法が提供される。
【0010】
前記先端部の形状は、軸心を中心とする円柱形状であり、
前記(C)において、
前記拘束点と前記法線ベクトルを含む拘束平面に垂直な第1ベクトルを求め、
次いで、前記法線ベクトルと前記第1ベクトルとに垂直な第2ベクトルを求め、
前記第2ベクトルの姿勢を前記加工工具の姿勢として設定する、ことが好ましい。
【0011】
また前記先端部の形状は、軸心に対し傾斜角を有する円錐形状であり、
前記(C)において、
前記拘束点と前記法線ベクトルを含む拘束平面に垂直な第1ベクトルを求め、
次いで、前記法線ベクトルと前記第1ベクトルとに垂直な第2ベクトルを求め、
前記第2ベクトルに対し前記第1ベクトルの方向を中心として前記狭隘口の内方に前記傾斜角を有する姿勢を前記加工工具の姿勢として設定する、ことが好ましい。
【0012】
前記加工工具の姿勢は、前記工具回転軸の姿勢である。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の装置と方法によれば、加工工具の先端部側面とワークの加工面が平行になるように加工工具の姿勢を設定するので、先端部側面をワークの加工面に密着させた状態でワークを研磨(磨き加工)することができる。
また、空間上(例えば、狭隘口の内側又はその上下空間)の拘束点と軌道上の点位置における法線ベクトルを含む拘束平面内において加工工具の姿勢を設定するので、拘束点を適切に設定することで、加工領域を加工する際に、加工工具が通過する空間の形状を変えることができ、ワークと加工工具との干渉を回避することができる。
従って、ワークの形状データ(例えばCADモデル)から加工面に沿った軌道上の点位置である軌道データと加工工具の姿勢を自動的に算出できるため、教示作業の手間が省ける。
さらに、加工工具の先端部(例えば、円柱形状、円錐形状)の側面をワークの加工面に密着させるという拘束条件も同時に満たすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の研磨ロボット10の全体構成図である。
この図において、研磨ロボット10は、先端部12aで加工する加工工具12でワーク1の加工面2を研磨する装置であり、ロボットアーム20と姿勢制御装置22を備える。
【0017】
図2は、本発明が対象とするワーク1の模式図であり、(A)は正面断面図、(B)はB−B線における側面断面図である。
この図に示すように、本発明が対象とするワーク1は、加工工具12を通す狭隘口1aを有しており、狭隘口1aの内部(この図では下方)にワーク1の加工面2が位置している。狭隘口1aは、加工工具12を通すことができる限りで、形状及び大きさは任意である。
なお、この例において、「狭隘部」は狭隘口1aの内部又は内側であるが、本発明はこれに限定されず、ワーク1の狭隘部分であればよい。
【0018】
ワーク1は、この例では加工工具12の先端部12aにより、加工面2を研磨される被加工部材であり、例えば鋳鉄等の硬い材質からなる。
ワーク1は、この例ではワーク保持装置3により所定位置に正確に固定される。所定位置は、研磨ロボット10のロボットアーム20の作動範囲内において予め設定された位置である。
【0019】
図1において、研磨ロボット10は、ロボットアーム20の先端に加工工具12を取り付け、加工経路に沿って動作させてワーク1を加工する。
また、ロボットアーム20は、加工工具12を3次元空間内で移動する。
なお研磨ロボット10は、この例では、多関節ロボットであるが、本発明はこれに限定されず、その他のロボットであってもよい。
【0020】
加工工具12は、ロボットアーム20の先端に取り付けられ、ワーク1を加工する。
この例において、加工工具12は、ワーク1を加工する先端部12aとこれを駆動する駆動装置13とからなる。
この例で、加工工具12は回転工具であり、駆動装置13は電動スピンドルモータ又はエアモータである。また、先端部12aは、砥石、超硬カッター、ブラシ、クッションサンダ(砥粒入りの樹脂のスポンジ)、等である。
なお、加工工具12は回転工具に限定されず、先端部12aを軸方向に往復動させる工具であってもよい。
【0021】
図1において、ロボットアーム20の先端に力覚センサ14が取り付けられ、力覚センサ14に加工工具12が取り付けられている。
力覚センサ14は、例えばロードセルであり、加工工具12に作用する外力を検出するようになっている。
この力覚センサ14で検出される外力は、好ましくは6自由度の外力(3方向の力と、3軸まわりのトルク)であるが、本発明はこれに限定されず、ワーク1に対する押付力が検出できる限りで、その他の力覚センサであってもよい。
【0022】
研磨ロボット10は、ロボットコントローラ16を備える。ロボットコントローラ16は、例えば数値制御装置であり、指令信号によりロボットアーム20の先端を6自由度(3次元位置と3軸まわりの回転)に制御する。
【0023】
図1において、姿勢制御装置22は、記憶部23、軌道データ作成部24、及び姿勢設定部25を有し、ワーク1の加工面形状に基づいて加工工具12の姿勢を制御する。
なお、以下の説明において、加工工具12の姿勢とは、工具回転軸zの姿勢を意味する。
【0024】
記憶部23は、空間上に指定され、工具回転軸zの姿勢を拘束する拘束点pを記憶する。拘束点pの位置(3次元位置)は、ワーク1の形状データ(例えばCADデータ)を基に設定する。この設定は外部から入力してもよく、或いはワーク1の形状から、その図心等に自動設定してもよい。また適切な自動でも手入力でもよい。
ここで「空間」とは、狭隘口1aを直視できる空間、例えば狭隘口1aの
図2における上側の空間であることが好ましい。
例えば、ワーク1が特定の狭隘部(例えば
図2の狭隘口1aの内部)がある形状の場合は、拘束点pを狭隘部の中間(例えば狭隘口1aの内側)又はその上下空間に設定すると、工具軸が狭隘部に干渉するのを回避しやすい。
記憶部23は、さらに、加工工具12の位置、姿勢、及び押付け方向を含む軌道データDを記憶する。
軌道データDは、例えば、ワーク座標系における加工工具12の3次元位置(x,y,z)と姿勢(a,b,c)で表され、姿勢パラメータa,b,cは、例えばオイラー角などである。また、加工工具12の押付け方向は、ワーク座標系における単位ベクトル(vx,vy,vz)で表される。
なお、本発明は、加工工具12の位置、姿勢、及び押付け方向を設定できる限りで、これらの座標系と姿勢パラメータの定義(一般に、姿勢表現には多種の定義のパラメータが使用されている)に限定されない。
【0025】
軌道データ作成部24と姿勢設定部25は、例えば、制御PCである。
軌道データ作成部24は、ワーク1の形状データ(例えばCADデータ)から、ワーク1の加工面2に沿った軌道上の点位置rと点位置rにおける法線ベクトルvからなる軌道データDを作成する。
姿勢設定部25は、拘束点pと法線ベクトルvを含む平面(以下、「拘束平面」)内において、先端部12aの側面とワーク1の加工面2が平行になるように加工工具12の姿勢(先端部12aの軸心z)を設定する。
軌道データDと加工工具12の姿勢データは、ロボットコントローラ16に出力される。
なお、姿勢制御装置22は、この例では、ロボットコントローラ16と別個に設けられているが、ロボットコントローラ16と姿勢制御装置22を同一の制御PCで構成してもよい。
【0026】
図3は、本発明の軌道生成方法の全体フロー図である。
本発明の軌道生成方法は、上述した装置を準備し、S1〜S3の各ステップ(工程)を実施する。
【0027】
ステップS1(拘束点記憶ステップ)では、空間上(例えば、狭隘口1aの内側又はその上下空間)に指定され、工具回転軸zの姿勢を拘束する拘束点pを記憶する。
【0028】
ステップS2(軌道データ作成ステップ)では、ワーク1の形状データから、ワーク1の加工面2に沿った軌道上の点位置rと点位置rにおける法線ベクトルvを含む軌道データDを作成する。
なお、ステップS1とステップS2は、この順に限定されず、逆でも、同時でもよい。
【0029】
ステップS3(姿勢設定ステップ)では、拘束点pと法線ベクトルvを含む拘束平面内において、先端部12aの側面とワーク1の加工面2が平行になるように加工工具12の姿勢(先端部12aの軸心z)を設定する。
ステップS3によって、ワーク1の形状データ(例えばCADモデル)から加工面2に沿った軌道上の点位置rと点位置rにおける法線ベクトルvからなる軌道データDと加工工具12の姿勢を自動的に算出できる。「軌道データDと加工工具12の姿勢」が本発明で生成する軌道である。
【0030】
図4は、加工工具12の先端部12aの形状が軸心zを中心とする円柱形状である場合の模式図である。
加工工具12が回転工具である場合、先端部12aの回転軸12bの軸心が、円柱形状の軸心zと一致する。この場合、加工工具12の先端部12a(円柱形状)の側面を図に示すようにワーク1の加工面2に密着させるという拘束条件を満たす必要がある。
ここで、「密着」とは、加工工具12の先端部12aの側面形状がワーク1の加工面2と一致して接触する状態を意味する。
【0031】
先端部12aが円柱形状である場合、上述したステップS3(姿勢設定ステップ)は、S3−1〜S3−3の各ステップ(工程)からなる。
【0032】
ステップS3−1では、拘束点pと法線ベクトルvを含む拘束平面に垂直な第1ベクトルuを求める。第1ベクトルuは、式(1)で求めることができる。なお、(p−r)はベクトルであり、×は外積である。
u=(p−r)×v・・・(1)
【0033】
第1ベクトルuは、単位ベクトルであることが好ましい。この場合、第1ベクトルuは、式(2)で求めることができる。
u=((p−r)×v)/|(p−r)×v|・・・(2)
【0034】
次いで、ステップS3−2では、法線ベクトルvと第1ベクトルuとに垂直な第2ベクトルwを求める。
第2ベクトルwは、式(3)で求めることができる。
w=v×u・・・(3)
【0035】
次いで、ステップS3−3では、第2ベクトルwの姿勢を加工工具12の姿勢(先端部12aの軸心z)として設定する。
【0036】
第1ベクトルuは、拘束点pと法線ベクトルvを含む拘束平面に垂直なベクトルであり、第2ベクトルwは、法線ベクトルvと第1ベクトルuとに垂直なベクトルであるから、第2ベクトルwは、拘束点pと法線ベクトルvを含む拘束平面上にあり、かつ法線ベクトルvに直交する方向となる。
従って、第2ベクトルwの姿勢を加工工具12の姿勢として設定することにより、加工工具12の先端部12aの側面とワーク1の加工面2が平行になるように加工工具12、すなわち先端部12aの軸心zの姿勢を設定することができる。
【0037】
図5は、加工工具12の先端部12aの形状が軸心zに対し傾斜角αを有する円錐形状である場合の模式図である。
加工工具12が回転工具である場合、先端部12aの回転軸12bの軸心が、円柱形状の軸心zと一致する。この場合、加工工具12の先端部12a(円錐形状)の側面を図に示すようにワーク1の加工面2に密着させるという拘束条件を満たす必要がある。
【0038】
先端部12aが円錐形状である場合、上述したステップS3(姿勢設定ステップ)は、S3−1〜S3−3の各ステップ(工程)からなる。
ステップS3−1、S3−2は、
図4の場合と同様である。
すなわち、ステップS3−1では、拘束点pと法線ベクトルvを含む拘束平面に垂直な第1ベクトルuを求め、ステップS3−2では、法線ベクトルvと第1ベクトルuとに垂直な第2ベクトルwを求める。
【0039】
次いで、先端部12aが円錐形状である場合、ステップS3−3では、第2ベクトルwに対し第1ベクトルuの方向を中心として狭隘部(例えば狭隘口1aの内側)の内方に傾斜角αを有する姿勢を加工工具12の姿勢(先端部12aの軸心z)として設定する。
加工工具12の姿勢、すなわち先端部12aの軸心zの方向ベクトルZは、式(4)で求めることができる。
Z=(R・w)/|R・w|・・・(4)
ここでRは、回転行列であり、数1の式(5)で表される。
【0041】
第1ベクトルuは、拘束点pと法線ベクトルvを含む拘束平面に垂直なベクトルであり、第2ベクトルwは、法線ベクトルvと第1ベクトルuとに垂直なベクトルであるから、第2ベクトルwは、拘束点pと法線ベクトルvを含む拘束平面上にあり、かつ法線ベクトルvに直交する方向となる。
さらに、加工工具12の姿勢、すなわち先端部12aの軸心zの方向は、第2ベクトルwに対し第1ベクトルuの方向を中心として狭隘部(例えば狭隘口1aの内側)の内方に傾斜角αを有する姿勢であるから、加工工具12の先端部12aの側面とワーク1の加工面2が平行になるように加工工具12、すなわち先端部12aの軸心zの姿勢を設定することができる。
【0042】
上述した本発明の装置と方法によれば、加工工具12の先端部12aの側面とワーク1の加工面2が平行になるように加工工具12の姿勢を設定するので、先端部12aの側面をワーク1の加工面2に密着させた状態でワーク1を研磨(磨き加工)することができる。
また、狭隘口1aの内側の拘束点pと軌道上の点位置rにおける法線ベクトルvを含む拘束平面内において加工工具12の姿勢を設定するので、加工工具12が拘束点近傍を通り、狭隘口1aと加工工具12との干渉を回避することができる。
従って、ワーク1の形状データ(例えばCADモデル)から加工面2に沿った軌道上の点位置rである軌道データDと加工工具12の姿勢を自動的に算出できるため、教示作業の手間が省ける。
さらに、加工工具12の先端部12a(例えば、円柱形状、円錐形状)の側面をワーク1の加工面2に密着させるという拘束条件も同時に満たすことができる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0044】
p 拘束点、r 点位置、v 法線ベクトル、u 第1ベクトル、
w 第2ベクトル、D 軌道データ、z 軸心(工具回転軸)、
1 ワーク、1a 狭隘口、2 加工面、3 ワーク保持装置、
10 研磨ロボット、12 加工工具、12a 先端部、
13 駆動装置、14 力覚センサ、16 ロボットコントローラ、
20 ロボットアーム、22 姿勢制御装置、23 記憶部、
24 軌道データ作成部、25 姿勢設定部