(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄基材料の軟磁性粉末と樹脂とを含む混合物を成形型のゲートからキャビティ内に充填して前記樹脂を硬化させて、前記キャビティに対応した形状の本体部と、前記本体部に一体化され、前記ゲートに対応する部分を有する付属部と、前記付属部の前記本体部との境界近傍に前記成形型により成形される溝とを備える成形体を成形する成形工程と、
前記成形体から前記付属部を除去して、前記本体部の前記付属部が除去された除去跡が前記除去跡の周辺よりも突出した前記本体部を作製する除去工程と、
前記除去跡に熱処理を施して、前記除去跡の前記樹脂を流動させることで、前記除去跡の表面で前記樹脂から露出した前記軟磁性粉末を前記樹脂に埋め込ませる熱処理工程とを備えるコア部材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《本発明の実施形態の説明》
本発明者は、コア部材の部分的な錆びの発生箇所を考察したところ、付属部の除去跡であることが分かった。付属部はコア部材の製造過程で発生する。一般に、コア部材の製造は、軟磁性粉末と樹脂とを含む混合物を成形型のゲートからキャビティに充填した後、樹脂を硬化することで行われる。樹脂を硬化した時点では、キャビティに対応する形状の本体部と、ゲートに対応する部分を有する付属部とが一体化した成形体が作製される。この成形体のうち、本体部がコア部材となるため、不要な付属部は除去され、コア部材には付属部の除去跡が形成される。コア部材の表面のうち、除去跡とそれ以外の箇所とを比較観察したところ、次の知見を得た。
(a)除去跡以外の表面では樹脂から磁性体粉末が実質的に露出しないが、除去跡では樹脂から軟磁性粉末が露出している。
(b)樹脂から露出した軟磁性粉末に錆が生じる。
この知見に基づき、本発明者は、軟磁性粉末の露出を解消できる製造方法を鋭意検討した。特に、コア部材の製造過程で軟磁性粉末の露出に伴う錆の発生を解消しつつ生産性に優れる方法を検討して、本発明を完成するに至った。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
(1)実施形態に係るコア部材は、成形工程と、脱型工程と、除去工程と、熱処理工程とを備える。成形工程は、鉄基材料の軟磁性粉末と樹脂とを含む混合物を成形型のゲートからキャビティ内に充填して樹脂を硬化させて成形体を成形する。成形体は、キャビティに対応した形状の本体部と、本体部に一体化され、ゲートに対応する部分を有する付属部とを備える。脱型工程は、成形体を成形型から抜き出す。除去工程は、成形体から付属部を除去する。熱処理工程は、本体部の付属部が除去された除去跡に熱処理を施して、除去跡の樹脂を流動させることで、除去跡の表面で樹脂から露出した軟磁性粉末を樹脂に埋め込ませる。
【0012】
上記の構成によれば、製造過程で樹脂から軟磁性粉末が露出した上記除去跡が形成されても、上記熱処理工程で樹脂の流動によりその露出した軟磁性粉末を本体部の樹脂に埋め込ませることができるため、錆び難いコア部材を製造できる。
【0013】
露出した軟磁性粉末を本体部の樹脂に埋め込ませることができるので、露出した軟磁性粉末を被覆するために別途部材を準備したり被覆したりする工程が不要である。別途部材を準備して被覆する場合に比べて、錆び難いコア部材を製造するのに必要な部品点数が少ない上に、錆び難いコア部材の生産性に優れる。
【0014】
(2)上記コア部材の製造方法の一形態として、本体部の除去跡が、除去跡の周辺よりも突出していることが挙げられる。
【0015】
上記の構成によれば、除去跡がその周辺よりへこんでいる場合に比べて除去跡に熱処理を施し易い。
【0016】
(3)上記コア部材の製造方法の一形態として、成形体は、付属部の本体部との境界近傍に成形型により成形される溝を有することが挙げられる。
【0017】
上記の構成によれば、溝に重点的に機械的応力を付加することができるため、成形体から付属部を容易に折り取ることができる。付属部の除去は、溝に沿って行えるので、成形体の欠けを抑制し易い。その上、除去跡がその周辺よりもへこむことを抑制し易く、除去跡をその周辺よりも突出させることも容易にできる。
【0018】
(4)上記コア部材の製造方法の一形態として、除去工程後、熱処理工程前に除去跡を研磨する研磨工程を備えることが挙げられる。
【0019】
上記の構成によれば、研磨により除去跡をある程度平らにすることができる。除去跡の表面の凹凸が大きい場合、除去跡の加熱が不均一になることがある。除去跡をある程度平らにしておくと、除去跡を均一に加熱し易く、露出した軟磁性粒子を除去跡の広範囲に亘って埋め込み易い。
【0020】
(5)上記コア部材の製造方法の一形態として、鉄基材料が純鉄であることが挙げられる。
【0021】
上記の構成によれば、軟磁性粉末が、露出した場合に鉄基材料の中で特に錆び易い純鉄であっても、熱処理工程で軟磁性粉末を樹脂に埋め込ませることができるので、錆び難いコア部材を製造できる。
【0022】
《本発明の実施形態の詳細》
本発明の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
《実施形態1》
〔コア部材の製造方法〕
実施形態に係るコア部材の製造方法は、軟磁性粉末と樹脂とを含む混合物を成形型のゲートからキャビティに充填して樹脂を硬化させて製造する方法である。このコア部材は、リアクトルに備わる磁性コアの少なくとも一部を構成する部材である。リアクトル1Aは、詳しくは後述するが、例えば、
図4に示すコイル2と磁性コア3とを備える。コイル2は、巻線2wを螺旋状に巻回した一対のコイル素子2a、2bを互いに並列状態で接続してなる。磁性コア3は、同一の形状を有する二つのコア部材30を組み合わせて環状に構成される。ここでは、両コア部材30とも複合材料で構成される。各コア部材30の平面形状は、各コア部材30を環状の磁性コア3の軸方向から平面視した場合、略U字状である。各コア部材30は、コイル2に組み付けた際、コイル2から突出されている基部30aと、基部30aに一体に形成されてコイル素子2a,2bの内側に配置される一対の張出部30bとを備える。このコア部材30の具体的な製造方法は、準備工程と、成形工程と、脱型工程と、除去工程と、熱処理工程とを備える。コア部材の製造方法の主たる特徴とするところは、製造過程で樹脂から露出した軟磁性粉末を樹脂に埋め込ませる熱処理を施す点にある。以下、主として
図1〜
図3を参照(適宜
図4を参照)して、各工程を順に説明する。ここでは、コア部材をコイルに組み付けてリアクトルを構築した際のリアクトルの設置側を下、その反対側を上として説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0024】
[準備工程]
準備工程では、コア部材30の構成材料として、軟磁性粉末と樹脂との混合物を準備する。
【0025】
(軟磁性粉末)
軟磁性粉末は、例えば、鉄や鉄合金といった鉄基材料が挙げられる。鉄合金としては、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−N系合金、Fe−Ni系合金、Fe−C系合金、Fe−B系合金、Fe−Co系合金、Fe−P系合金、Fe−Ni−Co系合金、及びFe−Al−Si系合金などが挙げられる。特に、透磁率及び磁束密度の点からみれば、99質量%以上がFeである純鉄が好ましい。
【0026】
軟磁性粉末の平均粒径は、1μm以上1000μm以下、特に10μm以上500μm以下とすることが好ましい。軟磁性粉末は、粒径が異なる複数種の粉末が混合されたものでも良い。微細な粉末と粗大な粉末とを混合した軟磁性粉末を圧粉成形体の材料に用いた場合、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトルが得られ易い。
【0027】
混合物中の軟磁性粉末の含有量は、混合物を100体積%とするとき、20体積%以上75体積%以下が挙げられる。軟磁性粉末が20体積%以上であることで、磁性成分の割合が十分に高いため、この製造方法で得られたコア部材30を用いてリアクトル1Aを構築した場合、飽和磁束密度を高め易い。軟磁性粉末が75体積%以下であると、軟磁性粉末と樹脂との混合物の流動性に優れ、複合材料の製造性に優れる。軟磁性粉末の含有量は、30体積%以上、更に40体積%以上とすることが挙げられる。軟磁性粉末の含有量は、70体積%以下、更に65体積%以下、60体積%以下とすることが挙げられる。
【0028】
(樹脂)
樹脂は、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂は、後述の熱処理工程で樹脂を流動させ易いためである。
【0029】
(その他)
混合物には、軟磁性粉末及び樹脂に加えて、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性材料からなる粉末(フィラー)が含有されていても良い。フィラーは、放熱性の向上、軟磁性粉末の偏在の抑制(均一的な分散)に寄与する。また、フィラーが微粒であり、軟磁性粒子間に介在することで、フィラーの含有による軟磁性粉末の割合の低下を抑制できる。フィラーの含有量は、混合物を100質量%とするとき、0.2質量%以上20質量%以下が好ましく、更に0.3質量%以上15質量%以下が好ましく、特に0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0030】
[成形工程]
成形工程では、成形型(図示略)のキャビティ内にゲートから上記混合物を充填し、樹脂を硬化して成形体C(
図1)を作製する。成形型には、所望の形状のコア部材30が得られるキャビティを有するものを用いる。
【0031】
成形型を用いた成形体Cの作製手法としては、射出成形、MIM(Metal Injection Molding)などを利用することができる。射出成形の場合は、混合物を所定の圧力をかけて成形型に充填して成形した後、上記樹脂を硬化させることで成形体Cを得ることができる。MIMの場合も、上記混合物を成形型に充填して成形を行う。
【0032】
得られる成形体Cは、キャビティに対応した形状の本体部Mと、本体部Mに一体化され、ゲートに対応する部分を有する付属部Bとを備える。この本体部Mが、後述する工程を経てコア部材30(
図4)となる部分である。付属部Bは、ゲートに対応する部分の他、スプルーに対応する部分を有することがあり、更にはランナーに対応する部分を有することもある。
【0033】
本体部Mは、ここでは、基部30aと、基部30aから突出する一対の張出部30bとで構成されている。本体部Mの上面から見た形状は、略U字状である。基部30aの形状は、略台形柱状である。張出部30bの形状は、直方体状であり、その角部がコイル素子2a,2b(
図4)の内周面に沿うように丸まっている。基部30aの上面と両張出部30bの上面とは面一であるが、基部30aの下面は両張出部30bの下面よりも低い。両コア部材30をコイル2に組み付けたとき、各コア部材30の基部30aの下面がコイル2の下面と面一になる。張出部30bの長さ(基部30aに対する突出方向の長さ)はそれぞれ、コイル素子2a,2bの約半分の長さである。
【0034】
付属部Bは、ランナーに対応するランナー部Brとスプルーに対応するスプルー部Bsとで構成される。ランナー部Brは、基部30aにおける張出部30bとは反対側の面(以下、反対側面)に一体化されている。即ち、このランナー部Brにおける本体部Mとの境界部分がゲートに対応する部分である。ランナー部Brの形状は、三角板状である。スプルー部Bsは、ランナー部Brの基部30aとは反対側の頂部に一体化されている。スプルー部Bsの形状は、棒状である。
【0035】
ランナー部Brには、基部30aとの境界部分近傍に溝Btを有することが好ましい。溝Btは、除去工程において、本体部Mから付属部Bを容易に折り取るためのものであり、付属部Bの本体部Mとの境界部近傍の断面積を小さくするように設けられる。付属部Bを折り取ることが容易になるのは、溝Bt付近に機械的応力を重点的に付加することができるからである。この溝Btを備えることで、付属部Bは溝Btに沿って破断させられるため、付属部Bの除去に伴う成形体Mの欠けを抑制、即ち、基部30aの付属部Bが除去された除去跡Tb(
図2)やその周辺に対するへこみを抑制することができる。また、除去跡Tbを除去跡Tbの周辺よりも突出させることもできる。詳しくは後述する熱処理工程で説明するが、熱処理には除去跡Tbに加熱媒体を直接接触させて行う手法があり、成形体Mの欠けを抑制すること、更には除去跡Tbをその周辺よりも突出させることで熱処理を施し易い。
【0036】
溝Btは、溝Btを形成する一面が基部30aの上記反対側面と共通の面となるように基部30aの上記反対側面に沿って形成することが挙げられる。そうすれば、溝Btに沿って付属部Bが除去された際に、基部30aの上記反対側面における除去跡Tbを除く面を面一にできる。或いは、溝Btは、基部30aの上記反対側面から一定の距離を空けて形成することが挙げられる。一定の距離とは、基部30aの上記反対側面から溝Btの開口部の近い側の縁までの距離を言う。そうすれば、溝Btに沿って付属部Bが除去された際に、除去跡Tbをその周辺よりも突出させることができる。この一定の距離は、後述する除去跡Tbの突出長L(
図2)に応じて適宜調整するとよい。突出長Lは上記一定の距離に依存するからである。ここでは、溝Btは、上記一定の距離を1mm程度として形成している。
【0037】
溝Btの長さ(ここでは、張出部30bの横並び方向に沿った長さ)は、上記境界部分の長手方向の全長に亘る長さとすることが好ましい。そうすれば、付属部Bを折り取り易い。
【0038】
溝Btの断面形状は、溝Btの幅(ここでは、張出部30bの軸に沿った長さ)が開口側から底側にかけて一様な矩形状や、開口側から底側にかけて上記幅が小さくなる三角形状などが挙げられる。特に、三角形状とする場合、矩形状とする場合に比べて付属部Bを除去し易い。付属部Bを除去する際に付加する機械的応力を溝Btの底となる三角形状の頂部に集中させられるからである。ここでは、溝Btの断面形状を三角形状としている。
【0039】
溝Btの形成は、成形工程での成形体Cの成形と共に形成される成形型を用いることで行える。成形型で溝Btを形成することで、後述する脱型工程後に別途溝Btを形成する工程が不要である。
【0040】
[脱型工程]
脱型工程では、成形体Cを成形型から抜き出す。成形体Cは、成形型から抜き出された時点では、
図1に示すように、本体部Mと付属部Bとが一体化されたままである。
【0041】
[除去工程]
除去工程では、成形体Cから付属部Bを除去する。付属部Bは通常コア部材30に不要なため、除去して本体部Mを残す。付属部Bの除去は、本体部Mと付属部Bとの境界部分を機械切断することや、上記境界部分に機械的応力をかけて付属部Bを折り取ることで行える。機械切断としては、例えば、回転砥石による切断やレーザー切断などが挙げられる。
【0042】
ここでは、付属部Bのスプルー部Bsを
図1の矢印で示すように基部30aの下面側(ここでは紙面下側)に向かって倒して、付属部Bを折り取る。上記境界部分が破断するまでスプルー部Bsを押して上記境界部分に機械的応力をかけ続ける。上述のように、ランナー部Brの基部30a側近傍に溝Btを形成していると、溝Bt付近に重点的に応力をかけられて溝Btを破断させ易くできるため、成形体Cから付属部Bを折り取り易くなる。
【0043】
本体部Mと付属部Bとが分離すると、本体部Mの表面には、付属部Bが除去された除去跡Tbが形成される(
図2)。除去跡Tbの表面は、
図2の拡大図に示すように、樹脂Rから軟磁性粒子Pが露出された状態となっている。
図2の拡大図では、説明の便宜上、除去跡Tb及びその周辺を含む領域の断面を概略的に示している。
【0044】
除去跡Tbは、その周辺よりも突出していることが好ましい。そうすれば、後述の熱処理工程で加熱媒体を除去跡Tbに直接接触させて加熱する際に、除去跡Tbがへこんでいる場合に比べて、除去跡Tbの周辺に加熱媒体が接触することなく除去跡Tbにのみ加熱媒体を接触させ易い。そのため、除去跡Tb付近だけを部分的に加熱できる。上記周辺とは、除去跡Tbに隣接する領域で、樹脂から軟磁性粒子Pが露出してない領域である。加熱媒体とは、加熱媒体自体が発熱して除去跡Tbを加熱する場合と、加熱媒体自体は発熱していないが、その使用によって除去跡Tbを加熱する場合とを含む。具体的な加熱媒体は後述する。
【0045】
除去跡Tbの突出長L(
図2:周辺に対する垂直方向の長さ)は、主に上述した溝Btの形成位置、即ち、上記一定の距離の長さにより制御できる。除去跡Tbの突出長Lは、1mm程度とすることが挙げられる。突出長Lを1mm程度とすることで、除去跡Tbにのみ加熱媒体を接触させ易い。また、突出長Lを1mm程度とすることで、熱処理後の本体部Mをコア部材30としてリアクトル1Aを構築した際(
図4参照)、コイル2の軸方向に沿ってリアクトル1Aの外側に突出する除去跡Tbの長さが長くなりすぎない。
【0046】
[熱処理工程]
熱処理工程では、本体部Mの除去跡Tbに熱処理を施す。この熱処理により、除去跡Tbの表面近傍の樹脂R(
図2の拡大図)を流動させる。露出した軟磁性粒子Pは、樹脂Rの流動に伴って樹脂Rの表面から内部に移動して樹脂Rに埋め込まれた状態となる(
図3の拡大図)。除去跡Tbは、樹脂Rから軟磁性粒子Pが露出されていない平滑な圧接面Taとなる。
図3拡大図では、説明の便宜上、圧接面Ta及びその周辺を含む領域の断面を概略的に示している。
【0047】
熱処理としては、除去跡Tb自体の表面の樹脂を局所的に加熱できる手法が挙げられる。露出する軟磁性粒子Pの近傍の樹脂Rを流動できれば、その軟磁性粒子Pを樹脂Rに埋め込ませることができるからである。つまり、除去跡Tb自体の表面を局所的に加熱できれば、除去跡Tbの表面から本体部Mの内部にまで亘って加熱しなくてもよい。
【0048】
熱処理としては、除去跡Tbに加熱媒体を直接接触させる接触式と、その加熱媒体を接触させない間接式とがある。接触式の手法としては、例えば、超音波加熱、熱板加熱、及びインパルスウェルダーなどが挙げられる。超音波加熱は、超音波発生器と超音波振動子によって発生させた超音波振動をホーン(加熱媒体)により除去跡Tbの表面に伝達させて発生する摩擦熱で加熱する手法である。超音波加熱は、樹脂の流動を短時間で行える。熱板加熱は、加熱した金属板(加熱媒体)を除去跡Tbに接触させることで加熱する手法である。熱板加熱は、除去跡Tbに接触させる金属板の形状及びサイズに制約が少ないので、除去跡Tbの表面形状及びサイズに対応させ易い。インパルスウェルダーは、加圧したヒーター線(加熱媒体)を除去跡Tbに設置し、ヒーター線に瞬間的な大電流を流して発熱させた熱で除去跡Tbを加熱する手法である。インパルスウェルダーは、ヒーター線を予め加熱しておく必要がない上に、樹脂の流動を短時間で行える。これら接触式の手法では、除去跡Tbに加熱媒体を接触させるため、圧接面Taの表面性状は加熱媒体の除去跡Tbとの接触面の性状に沿う。そのため、除去跡Tbとの接触面が平らな加熱媒体を用いれば、圧接面Taの表面を平らにできる。一方、間接式の手法としては、例えば、光加熱などが挙げられる。光加熱は、レーザー加熱や、温度放射を利用した赤外線加熱が挙げられる。光加熱は、除去跡Tbと加熱媒体とが非接触であるため、接触式に比べて除去跡Tbの凹凸など表面性状に影響を受け難いので、除去跡の表面を均一に加熱し易い。
【0049】
加熱温度は、樹脂の融点以上が好ましい。但し、温度を高くしすぎると、除去跡Tbの周辺にも熱影響が及ぶ虞があり、周辺の樹脂も流動してしまう。そこで、例えば、PPS樹脂では280℃以上350℃以下が好ましく、ポリアミド樹脂では225℃以上300℃以下が好ましい。
【0050】
加熱時間は、加熱媒体の形状や種類、樹脂の種類、或いは加熱温度にもよるが、概ね1sec以上10sec以下とすることが挙げられる。この加熱時間は、樹脂の温度が所定の温度に達した時点からの時間である。加熱時間を1sec以上とすることで、軟磁性粒子Pを埋設できる程度に樹脂Rを流動させられる。加熱時間を10sec以下とすることで、樹脂Rの流動に十分である。
【0051】
[その他]
除去工程後、熱処理工程前に、除去跡Tbを研磨する研磨工程を備えることが好ましい。そうすれば、除去跡Tbを平らにし易い。付属部Bの除去後では、除去跡Tbの表面の凹凸が大きい場合があり、除去跡Tbへの上記加熱媒体の接触が不均一になることがある。除去跡Tbを均しておくと、除去跡Tbへの上記加熱媒体の接触にばらつきが生じ難く、露出した軟磁性粒子Pを除去跡Tbの広範囲に亘って埋め込ませ易い。
【0052】
〔作用効果〕
上述のコア部材の製造方法によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)除去工程で成形体Cから付属部Bを除去した際、除去跡Tbが樹脂Rから軟磁性粒子Pが露出した状態となっても、除去跡Tbに熱処理を施すことで、樹脂Rを流動させて軟磁性粒子Pを樹脂Rに埋め込ませることができる。このように、軟磁性粒子Pが露出し易い除去跡Tbを樹脂Rから軟磁性粒子Pが露出していない状態とできることで、本体部Mの表面の略全域に亘って樹脂Rから軟磁性粒子Pが露出していない状態にできる。従って、錆び難いコア部材30を製造できる。
(2)露出した軟磁性粒子Pを本体部Mの樹脂Rに埋め込ませることができるので、露出した軟磁性粒子Pを被覆するために別途部材を準備したり被覆したりする工程が不要である。そのため、別途部材を準備して被覆する場合に比べて、コア部材30を製造するのに必要な部品点数が少ない上に、錆び難いコア部材30の生産性に優れる。
【0053】
《参考例1》
〔リアクトル〕
参考例1では、
図4を参照して上述の製造方法により製造されるコア部材30を備えるリアクトル1Aを説明する。リアクトル1Aは、実施形態1の冒頭で説明したように、一対のコイル素子2a、2bを備えるコイル2と、同一の形状を有する二つのコア部材30で構成される磁性コア3とを備える。このコア部材30が、実施形態1で説明した製造方法により製造されたコア部材である。以下、各構成を詳細に説明する。
【0054】
[コイル]
一対のコイル素子2a、2bは、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなり、連結部2rを介して連結されている。巻線2wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる平角線や丸線などの導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を備える被覆線を好適に利用できる。本例では、導体が銅製の平角線からなり、絶縁被覆がエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる被覆平角線を利用している。各コイル素子2a,2bは、この被覆平角線をエッジワイズ巻きにしたエッジワイズコイルで構成している。コイル素子2a、2bの配置は、各軸方向が平行するように並列(横並び)した状態としている。コイル素子2a、2bの形状は、互いに同一の巻数の中空の筒状体(四角筒)である。コイル素子2a、2bの端面形状は、矩形枠の角部を丸めた形状である。連結部2rは、コイル2の一端側(
図4紙面右側)において巻線の一部をU字状に屈曲して構成している。連結部2rの上面は、コイル2のターン形成部分の上面と略面一である。コイル素子2a、2bの巻線2wの両端部2eは、ターン形成部から引き延ばされている。両端部2eは、図示しない端子部材に接続され、この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行なう電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0055】
[磁性コア]
各コア部材30は、コイル2に組み付けた際、コイル2から突出されている基部30aと、基部30aに一体に形成されてコイル素子2a,2bの内側に配置される一対の張出部30bとを備える。一方と他方のコア部材30の張出部30bの端面30e同士をコイル素子2a,2b内で連結することで環状の磁性コア3が形成される。このコア部材30同士の連結により、コイル2を励磁したとき、閉磁路を形成する。張出部30bの端面30e同士の連結には、接着剤や粘着テープなどを利用できる。
【0056】
各コア部材30の平面形状、基部30a及び張出部30bの形状、基部30aと張出部30bの高さ関係などは、実施形態1で説明した本体部Mと同様である。具体的には、各コア部材30の平面形状は、略U字状である。基部30aの形状は、基部30aの形状を台形柱状で、張出部30bの形状は、角部がコイル素子2a,2b(
図4)の内周面に沿うように丸めた直方体状である。張出部30bはそれぞれ、コイル素子2a,2bの約半分の長さを有する。
【0057】
〔作用効果〕
上述のリアクトル1Aによれば、以下の効果を奏することができる。
(1)リアクトル1Aに備わる磁性コア3を錆び難いコア部材30で構成することで、錆によるコア部材30の部分的な脱落や、錆によるリアクトル1Aの磁気特性の低下を抑制できる。
(2)リアクトル1Aの部品点数を削減でき、リアクトル1Aの小型化・軽量化を達成できる。コア部材30の最表面が樹脂で構成されているため、コア部材30の外周にコイル2との間を絶縁するインシュレータを別途設けたり、樹脂を被覆したりしなくてもよいからである。特に、リアクトル1Aを液体冷媒に浸される箇所に配置する場合でも、コア部材30の外周に別途樹脂を被覆したりしなくてもよい。
【0058】
《参考例2》
参考例1のリアクトルは、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車両などに載置されるコンバータの構成部品や、このコンバータを備える電力変換装置の構成部品に利用できる。
【0059】
ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両1200は、
図5に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを備える。
図5では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態とすることができる。
【0060】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0061】
コンバータ1110は、
図6に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを備え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、電界効果トランジスタ(FET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、参考例1のリアクトルを備える。特に、コンバータ1110内に液体冷媒が循環供給可能なケース(図示略)を備える場合、このケース内にリアクトル1Aなどを収納することで、放熱性に優れる構造を容易に構築できる。放熱性に優れるリアクトルなどを備えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110も、放熱性の向上が期待できる。
【0062】
車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC−DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC−DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC−DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、参考例1のリアクトルなどと同様の構成を備え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用できる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、参考例1のリアクトルなどを利用することもできる。