【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12は、比較形態に係る遠心圧縮機の軸方向視におけるスクロール流路004の概略図である。
図13は、
図12に示す遠心圧縮機のスクロール流路について、巻始め004aと巻終わり004bの接続位置(舌部位置)Pから下流方向(巻始め側)に所定角度Δθ毎に流路断面形状を重ねて示す図である。遠心圧縮機におけるスクロール流路の断面形状は、一般的には、
図13に示すようにスクロール流路の全周に亘って円形に形成されている。
【0007】
遠心圧縮機の小流量作動点では、スクロール流路内の流れは、スクロール流路の巻始めから巻き終わりにかけて減速流れとなり、巻き始めにおける圧力は巻き終わりにおける圧力よりも低くなる。このため、スクロール流路では、舌部位置Pにおいて巻き終わりから巻き始めへの再循環流fcが発生する(
図12参照)。このような再循環流は、主流が流路接続部に急激に引き込まれる結果として剥離が発生するため、高損失を生じる主要因の一つとなる。
【0008】
特許文献1には、スクロール流路の断面形状を円形でない特異な形状としてスクロール流路内における旋回流れの特性を改善する技術が示されているが、舌部近傍における再循環流を抑制するための知見は開示されていない。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであって、再循環流に伴う損失の低減によって圧縮機性能を向上可能なスクロールケーシング、及びこれを備える遠心圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るスクロールケーシングは、遠心圧縮機のスクロール流路を形成するスクロールケーシングであって、前記スクロール流路の断面において、前記遠心圧縮機の径方向における前記スクロール流路の内側端をEi、前記遠心圧縮機の軸方向における前記スクロール流路の最大流路高さHmaxの中間点をMhとすると、前記スクロール流路は、巻始めと巻終わりの接続位置より上流側の少なくとも一部の区間において、前記径方向において前記内側端Eiがディフューザ出口より内側に位置するとともに前記軸方向において前記内側端Eiが前記中間点Mhよりも後側に位置する剥離抑制断面を有する。
【0011】
上記(1)に記載のスクロールケーシングによれば、比較形態(例えば、スクロール流路の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状を有する構成)と比較して、再循環流となる流体の流線曲率が接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路を形成することが可能となる。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路におけるスクロール中心周りの角度位置について、前記接続位置を0度とし、前記接続位置に対する前記上流側への角度位置をθとすると、前記剥離抑制断面は、少なくとも、θ=0度から所定の角度位置までの区間に設けられていてもよい。
【0013】
上記(2)に記載のスクロールケーシングによれば、このように、スクロール流路における接続位置から上流側の所定の角度位置に亘って剥離抑制断面を設けることにより、再循環流となる流体の流線曲率が角度位置から接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路を形成することが可能となる。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0014】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記所定の角度位置は、60度以上であってもよい。
【0015】
上記(3)に記載のスクロールケーシングによれば、接続位置から60度以上の所定の角度位置までの区間において、再循環流となる流体の流線曲率が上記接続位置に向かって徐々に変化するようにスクロール流路を形成することが可能となる。これにより、接続位置付近における再循環流の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0016】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記剥離抑制断面は、前記所定の角度位置より上流側の区間には設けられていなくてもよい。
【0017】
スクロール流路における接続位置から上流側へある程度離れた位置の断面形状は、接続位置付近での剥離生成に与える影響が小さいため、上記(4)に記載のように、剥離抑制断面は、接続位置からある程度離れた所定の角度位置より上流側の区間には設けなくともよい。この場合、所定の角度位置より上流側の区間については、他の目的を重視して断面形状を設計することができ、例えばスクロール流路における流動損失の低減のために、円形断面形状を適用することができる。
【0018】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記所定の角度位置は、60度以上150度以下の角度位置であってもよい。
【0019】
上記(5)に記載のスクロールケーシングによれば、60度以上150度以下の所定の角度位置までは、再循環流となる流体の流線曲率が上記接続位置に向かって徐々に変化するようにスクロール流路を形成しつつ、該所定の角度位置より上流側の区間については、他の目的を重視して断面形状を設計することができ、例えばスクロール流路における流動損失の低減のために、円形断面形状を適用することができる。
【0020】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(5)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路は、前記所定の角度位置より下流側において、円形断面形状を有する区間を含む。
【0021】
上記(6)に記載のスクロールケーシングによれば、接続位置近傍の区間に対しては剥離抑制のために剥離抑制断面を適用し、接続位置からある程度離れた区間では円形断面形状を適用することにより、接続位置近傍での剥離を抑制しつつスクロール流路内における流動損失を低減することができる。
【0022】
(7)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(6)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、上流側から前記接続位置に向かうにつれて前記剥離抑制断面の前記内側端Eiが前記軸方向における後側にシフトしてもよい。
【0023】
上記(7)に記載のスクロールケーシングによれば、比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状を有する構成)と比較して、再循環流となる流体の流線曲率が接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路が形成される。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0024】
(8)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(7)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、前記内側端Eiと前記軸方向における前記スクロール流路の前側端Efとを接続する流路壁部は、前記剥離抑制断面の断面中心側に向かって凸となる曲面部を有していてもよい。
【0025】
上記(8)に記載のスクロールケーシングによれば、剥離抑制断面内において、スクロール流路の出口へ向かう主流が通過する領域と、再循環流となる流体が通過する領域とを、断面中心側に向かって凸となる曲面部によってある程度分離することができる。このため、主流をスクロール流路の出口へスムーズに導くとともに再循環流となる流体を接続位置にスムーズに導くことができ、圧力損失を効果的に低減することができる。
【0026】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記曲面部は、前記スクロール流路の上流側から前記接続位置に向かうにつれて曲率半径が小さくなるように形成される。
【0027】
上記(9)に記載のスクロールケーシングによれば、スクロール流路の上流から接続位置に向かうにつれて、主流と再循環流とを徐々に(滑らかに)分離することができるため、主流をスクロール流路の出口へスムーズに導くとともに再循環流となる流体を接続位置にスムーズに導く上記(8)の効果を高めて、圧力損失をより効果的に低減することができる。
【0028】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路の断面において、前記径方向における前記スクロール流路の最大流路幅Wmaxの中間点Mwを通り前記軸方向に平行な直線をLz、前記中間点Mhを通り前記径方向に平行な直線をLrとし、前記剥離抑制断面を前記直線Lzと前記直線Lrとによって四つの領域に区分した場合、前記四つの領域のうち、前記直線Lzと前記直線Lrとの交点Cよりも前記径方向における外側且つ前記軸方向における前側に位置する領域に属する流路壁部は、第1の曲率半径R1を有する円弧部を含み、前記四つの領域のうち、前記交点Cよりも前記径方向における内側且つ前記軸方向における前側に位置する領域に属する流路壁部は、前記第1の曲率半径R1よりも大きい第2の曲率半径R2を有する円弧部を含み、前記四つの領域のうち、前記交点Cよりも前記径方向における内側且つ前記軸方向における後側に位置する領域に属する流路壁部は、前記第2の曲率半径R2よりも小さい第3の曲率半径R3を有する円弧部を含む。
【0029】
(10)に記載のスクロールケーシングによれば、比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って円形断面形状を有する構成)と比較した場合、上記四つの領域のうち交点Cよりも径方向における内側且つ軸方向における前側に位置する領域に属する円弧部の曲率半径R2が、他の領域に属する曲率半径R1及びR2の各々より大きいため、流路断面積を変更することなく内側端Eiの位置を軸方向後側に位置させることが容易となる。このため、再循環流となる流体の流線曲率が接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路を形成することが容易となる。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0030】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、前記剥離抑制断面の前記内側端Eiと前記中間点Mhとの前記軸方向における距離Δzと、前記最大流路高さHmaxとは、Δz≧0.1×Hmaxを満たす。
【0031】
(11)に記載のスクロールケーシングによれば、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化に起因する剥離を効果的に抑制することができる。
【0032】
(12)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(11)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路は、前記接続位置から前記スクロール流路の出口に向かうにつれて、前記内側端Eiが軸方向における前側にシフトするように形成されている。
【0033】
(11)に記載のスクロールケーシングによれば、スクロール流路において、接続位置からスクロール流路の出口に向かうにつれて剥離抑制断面が徐々に円形断面に戻るように構成することができる。これにより、接続位置の下流側での流動損失を低減しつつ接続位置P付近での再循環流に伴う剥離の発生を抑制することができる。
【0034】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係る遠心圧縮機は、インペラと、前記インペラの周囲に配置され前記インペラを通過した流体が流入するスクロール流路を形成するスクロールケーシングと、を備え、前記スクロールケーシングが上記(1)乃至(12)の何れか1項に記載のスクロールケーシングである。
【0035】
上記(13)に記載の遠心圧縮機によれば、スクロールケーシングが上記(1)乃至(12)の何れか1項に記載のスクロールケーシングであるため、上記接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができる。これにより、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができるため、遠心圧縮機の性能(効率)を向上することができる。