特許第6347457号(P6347457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347457
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】スクロールケーシング及び遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/44 20060101AFI20180618BHJP
【FI】
   F04D29/44 U
   F04D29/44 Y
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-547268(P2017-547268)
(86)(22)【出願日】2015年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2015080494
(87)【国際公開番号】WO2017072900
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2017年7月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岩切 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 勲
(72)【発明者】
【氏名】白石 隆
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−140900(JP,A)
【文献】 特開昭60−81498(JP,A)
【文献】 特開2013−19385(JP,A)
【文献】 特開2011−231620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心圧縮機のスクロール流路を形成するスクロールケーシングであって、
前記スクロール流路の断面において、前記遠心圧縮機の径方向における前記スクロール流路の内側端をEi、前記遠心圧縮機の軸方向における前記スクロール流路の最大流路高さHmaxの中間点をMhとすると、
前記スクロール流路は、巻始めと巻終わりの接続位置より上流側の少なくとも一部の区間において、前記径方向において前記内側端Eiがディフューザ出口より内側に位置するとともに前記軸方向において前記内側端Eiが前記中間点Mhよりも後側に位置する剥離抑制断面を有するスクロールケーシング。
【請求項2】
前記スクロール流路におけるスクロール中心周りの角度位置について、前記接続位置を0度とし、前記接続位置に対する前記上流側への角度位置をθとすると、
前記剥離抑制断面は、少なくとも、θ=0度から所定の角度位置までの区間に設けられる請求項1に記載のスクロールケーシング。
【請求項3】
前記所定の角度位置は、60度以上の角度位置である請求項2に記載のスクロールケーシング。
【請求項4】
前記剥離抑制断面は、前記所定の角度位置より上流側の区間には設けられていない請求項2又は3に記載のスクロールケーシング。
【請求項5】
前記所定の角度位置は、60度以上150度以下の角度位置である請求項4に記載のスクロールケーシング。
【請求項6】
前記スクロール流路は、前記所定の角度位置より上流側において、円形断面を有する区間を含む請求項2乃至5の何れか1項に記載のスクロールケーシング。
【請求項7】
前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、上流側から前記接続位置に向かうにつれて前記剥離抑制断面の前記内側端Eiが前記軸方向における後側にシフトする請求項2乃至6の何れか1項に記載のスクロールケーシング。
【請求項8】
前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、前記内側端Eiと前記軸方向における前記スクロール流路の前側端Efとを接続する流路壁部は、前記剥離抑制断面の断面中心側に向かって凸となる曲面部を有する請求項2乃至7の何れか1項に記載のスクロールケーシング。
【請求項9】
前記曲面部は、前記スクロール流路の上流側から前記接続位置に向かうにつれて曲率半径が小さくなるように形成される請求項8に記載のスクロールケーシング。
【請求項10】
前記スクロール流路の断面において、前記径方向における前記スクロール流路の最大流路幅Wmaxの中間点Mwを通り前記軸方向に平行な直線をLz、前記中間点Mhを通り前記径方向に平行な直線をLrとし、前記剥離抑制断面を前記直線Lzと前記直線Lrとによって四つの領域に区分した場合、
前記四つの領域のうち、前記直線Lzと前記直線Lrとの交点Cよりも前記径方向における外側且つ前記軸方向における前側に位置する領域に属する流路壁部は、第1の曲率半径R1を有する円弧部を含み、
前記四つの領域のうち、前記交点Cよりも前記径方向における内側且つ前記軸方向における前側に位置する領域に属する流路壁部は、前記第1の曲率半径R1よりも大きい第2の曲率半径R2を有する円弧部を含み、
前記四つの領域のうち、前記交点Cよりも前記径方向における内側且つ前記軸方向における後側に位置する領域に属する流路壁部は、前記第2の曲率半径R2よりも小さい第3の曲率半径R3を有する円弧部を含む請求項1乃至7の何れか1項に記載のスクロールケーシング。
【請求項11】
前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、前記剥離抑制断面の前記内側端Eiと前記中間点Mhとの前記軸方向における距離Δzと、前記最大流路高さHmaxとは、Δz≧0.1×Hmaxを満たす請求項2乃至10の何れか1項に記載のスクロールケーシング。
【請求項12】
前記スクロール流路4は、前記接続位置から前記スクロール流路の出口に向かうにつれて、前記内側端Eiが軸方向における前側にシフトするように形成されている請求項2乃至11の何れか1項に記載のスクロールケーシング。
【請求項13】
インペラと、
前記インペラの周囲に配置され前記インペラを通過した流体が流入するスクロール流路を形成するスクロールケーシングと、
を備え、前記スクロールケーシングが請求項1乃至12の何れか1項に記載のスクロールケーシングである遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロールケーシング及び遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用又は舶用ターボチャージャのコンプレッサ部等に用いられる遠心圧縮機は、インペラの回転によって流体に運動エネルギーを与えて径方向外側に流体を吐出し、遠心力を利用して圧力上昇を得るものである。
【0003】
かかる遠心圧縮機には、広い運転範囲において高圧力比と高効率化が求められており、種々の工夫が施されている。
【0004】
従来技術として、例えば、特許文献1には、渦巻状に形成されたスクロール流路が設けられたケーシングを備えた遠心圧縮機であって、そのスクロール流路の軸方向の流路高さが、径方向内方から外方へかけて徐々に拡大していき、径方向の流路幅の中間点よりも径方向外側で最大となるように形成された遠心圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4492045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12は、比較形態に係る遠心圧縮機の軸方向視におけるスクロール流路004の概略図である。図13は、図12に示す遠心圧縮機のスクロール流路について、巻始め004aと巻終わり004bの接続位置(舌部位置)Pから下流方向(巻始め側)に所定角度Δθ毎に流路断面形状を重ねて示す図である。遠心圧縮機におけるスクロール流路の断面形状は、一般的には、図13に示すようにスクロール流路の全周に亘って円形に形成されている。
【0007】
遠心圧縮機の小流量作動点では、スクロール流路内の流れは、スクロール流路の巻始めから巻き終わりにかけて減速流れとなり、巻き始めにおける圧力は巻き終わりにおける圧力よりも低くなる。このため、スクロール流路では、舌部位置Pにおいて巻き終わりから巻き始めへの再循環流fcが発生する(図12参照)。このような再循環流は、主流が流路接続部に急激に引き込まれる結果として剥離が発生するため、高損失を生じる主要因の一つとなる。
【0008】
特許文献1には、スクロール流路の断面形状を円形でない特異な形状としてスクロール流路内における旋回流れの特性を改善する技術が示されているが、舌部近傍における再循環流を抑制するための知見は開示されていない。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであって、再循環流に伴う損失の低減によって圧縮機性能を向上可能なスクロールケーシング、及びこれを備える遠心圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るスクロールケーシングは、遠心圧縮機のスクロール流路を形成するスクロールケーシングであって、前記スクロール流路の断面において、前記遠心圧縮機の径方向における前記スクロール流路の内側端をEi、前記遠心圧縮機の軸方向における前記スクロール流路の最大流路高さHmaxの中間点をMhとすると、前記スクロール流路は、巻始めと巻終わりの接続位置より上流側の少なくとも一部の区間において、前記径方向において前記内側端Eiがディフューザ出口より内側に位置するとともに前記軸方向において前記内側端Eiが前記中間点Mhよりも後側に位置する剥離抑制断面を有する。
【0011】
上記(1)に記載のスクロールケーシングによれば、比較形態(例えば、スクロール流路の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状を有する構成)と比較して、再循環流となる流体の流線曲率が接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路を形成することが可能となる。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路におけるスクロール中心周りの角度位置について、前記接続位置を0度とし、前記接続位置に対する前記上流側への角度位置をθとすると、前記剥離抑制断面は、少なくとも、θ=0度から所定の角度位置までの区間に設けられていてもよい。
【0013】
上記(2)に記載のスクロールケーシングによれば、このように、スクロール流路における接続位置から上流側の所定の角度位置に亘って剥離抑制断面を設けることにより、再循環流となる流体の流線曲率が角度位置から接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路を形成することが可能となる。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0014】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記所定の角度位置は、60度以上であってもよい。
【0015】
上記(3)に記載のスクロールケーシングによれば、接続位置から60度以上の所定の角度位置までの区間において、再循環流となる流体の流線曲率が上記接続位置に向かって徐々に変化するようにスクロール流路を形成することが可能となる。これにより、接続位置付近における再循環流の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0016】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記剥離抑制断面は、前記所定の角度位置より上流側の区間には設けられていなくてもよい。
【0017】
スクロール流路における接続位置から上流側へある程度離れた位置の断面形状は、接続位置付近での剥離生成に与える影響が小さいため、上記(4)に記載のように、剥離抑制断面は、接続位置からある程度離れた所定の角度位置より上流側の区間には設けなくともよい。この場合、所定の角度位置より上流側の区間については、他の目的を重視して断面形状を設計することができ、例えばスクロール流路における流動損失の低減のために、円形断面形状を適用することができる。
【0018】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記所定の角度位置は、60度以上150度以下の角度位置であってもよい。
【0019】
上記(5)に記載のスクロールケーシングによれば、60度以上150度以下の所定の角度位置までは、再循環流となる流体の流線曲率が上記接続位置に向かって徐々に変化するようにスクロール流路を形成しつつ、該所定の角度位置より上流側の区間については、他の目的を重視して断面形状を設計することができ、例えばスクロール流路における流動損失の低減のために、円形断面形状を適用することができる。
【0020】
(6)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(5)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路は、前記所定の角度位置より下流側において、円形断面形状を有する区間を含む。
【0021】
上記(6)に記載のスクロールケーシングによれば、接続位置近傍の区間に対しては剥離抑制のために剥離抑制断面を適用し、接続位置からある程度離れた区間では円形断面形状を適用することにより、接続位置近傍での剥離を抑制しつつスクロール流路内における流動損失を低減することができる。
【0022】
(7)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(6)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、上流側から前記接続位置に向かうにつれて前記剥離抑制断面の前記内側端Eiが前記軸方向における後側にシフトしてもよい。
【0023】
上記(7)に記載のスクロールケーシングによれば、比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状を有する構成)と比較して、再循環流となる流体の流線曲率が接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路が形成される。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0024】
(8)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(7)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、前記内側端Eiと前記軸方向における前記スクロール流路の前側端Efとを接続する流路壁部は、前記剥離抑制断面の断面中心側に向かって凸となる曲面部を有していてもよい。
【0025】
上記(8)に記載のスクロールケーシングによれば、剥離抑制断面内において、スクロール流路の出口へ向かう主流が通過する領域と、再循環流となる流体が通過する領域とを、断面中心側に向かって凸となる曲面部によってある程度分離することができる。このため、主流をスクロール流路の出口へスムーズに導くとともに再循環流となる流体を接続位置にスムーズに導くことができ、圧力損失を効果的に低減することができる。
【0026】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載のスクロールケーシングにおいて、前記曲面部は、前記スクロール流路の上流側から前記接続位置に向かうにつれて曲率半径が小さくなるように形成される。
【0027】
上記(9)に記載のスクロールケーシングによれば、スクロール流路の上流から接続位置に向かうにつれて、主流と再循環流とを徐々に(滑らかに)分離することができるため、主流をスクロール流路の出口へスムーズに導くとともに再循環流となる流体を接続位置にスムーズに導く上記(8)の効果を高めて、圧力損失をより効果的に低減することができる。
【0028】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路の断面において、前記径方向における前記スクロール流路の最大流路幅Wmaxの中間点Mwを通り前記軸方向に平行な直線をLz、前記中間点Mhを通り前記径方向に平行な直線をLrとし、前記剥離抑制断面を前記直線Lzと前記直線Lrとによって四つの領域に区分した場合、前記四つの領域のうち、前記直線Lzと前記直線Lrとの交点Cよりも前記径方向における外側且つ前記軸方向における前側に位置する領域に属する流路壁部は、第1の曲率半径R1を有する円弧部を含み、前記四つの領域のうち、前記交点Cよりも前記径方向における内側且つ前記軸方向における前側に位置する領域に属する流路壁部は、前記第1の曲率半径R1よりも大きい第2の曲率半径R2を有する円弧部を含み、前記四つの領域のうち、前記交点Cよりも前記径方向における内側且つ前記軸方向における後側に位置する領域に属する流路壁部は、前記第2の曲率半径R2よりも小さい第3の曲率半径R3を有する円弧部を含む。
【0029】
(10)に記載のスクロールケーシングによれば、比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って円形断面形状を有する構成)と比較した場合、上記四つの領域のうち交点Cよりも径方向における内側且つ軸方向における前側に位置する領域に属する円弧部の曲率半径R2が、他の領域に属する曲率半径R1及びR2の各々より大きいため、流路断面積を変更することなく内側端Eiの位置を軸方向後側に位置させることが容易となる。このため、再循環流となる流体の流線曲率が接続位置に向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路を形成することが容易となる。これにより、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0030】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路のうちθ=0度から前記所定の角度位置までの区間の少なくとも一部において、前記剥離抑制断面の前記内側端Eiと前記中間点Mhとの前記軸方向における距離Δzと、前記最大流路高さHmaxとは、Δz≧0.1×Hmaxを満たす。
【0031】
(11)に記載のスクロールケーシングによれば、接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化に起因する剥離を効果的に抑制することができる。
【0032】
(12)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(11)の何れか1項に記載のスクロールケーシングにおいて、前記スクロール流路は、前記接続位置から前記スクロール流路の出口に向かうにつれて、前記内側端Eiが軸方向における前側にシフトするように形成されている。
【0033】
(11)に記載のスクロールケーシングによれば、スクロール流路において、接続位置からスクロール流路の出口に向かうにつれて剥離抑制断面が徐々に円形断面に戻るように構成することができる。これにより、接続位置の下流側での流動損失を低減しつつ接続位置P付近での再循環流に伴う剥離の発生を抑制することができる。
【0034】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係る遠心圧縮機は、インペラと、前記インペラの周囲に配置され前記インペラを通過した流体が流入するスクロール流路を形成するスクロールケーシングと、を備え、前記スクロールケーシングが上記(1)乃至(12)の何れか1項に記載のスクロールケーシングである。
【0035】
上記(13)に記載の遠心圧縮機によれば、スクロールケーシングが上記(1)乃至(12)の何れか1項に記載のスクロールケーシングであるため、上記接続位置付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができる。これにより、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができるため、遠心圧縮機の性能(効率)を向上することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、再循環流に伴う損失の低減によって圧縮機性能を向上可能なスクロールケーシング、及びこれを備える遠心圧縮機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】一実施形態に係る遠心圧縮機100の軸方向に沿った概略断面図である。
図2】一実施形態に係る遠心圧縮機100の軸方向視におけるスクロール流路の概略図である。
図3】一実施形態に係る剥離抑制断面10の形状を説明するための概略断面図である。
図4】一実施形態に係る剥離抑制断面10の形状を説明するための概略断面図である。
図5】比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状を有する構成)に係る再循環流fcの流線を示す図である。
図6】一実施形態に係る再循環流fcの流線を示す図である。
図7】比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状を有する構成)に係る接続位置P近傍の再循環流fcの流線を示す図である。
図8】一実施形態に係る接続位置P近傍の再循環流fcの流線を示す図である。
図9図2におけるスクロール流路4の断面形状S1〜S5を示す図である。
図10】一実施形態に係る剥離抑制断面10の形状を説明するための概略断面図である。
図11】一実施形態に係る剥離抑制断面10の形状を説明するための概略断面図である。
図12】比較形態に係る遠心圧縮機の軸方向視におけるスクロール流路004の概略図である。
図13図12に示す遠心圧縮機のスクロール流路について、巻始め004aと巻終わり004bの接続位置Pから下流方向(巻始め側)に所定角度Δθ毎に流路断面形状を重ねて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0039】
図1は、一実施形態に係る遠心圧縮機100の軸方向に沿った概略断面図である。
【0040】
本明細書では、特記しない限り、「軸方向」とは、遠心圧縮機100の軸方向、すなわちインペラ2の軸方向を意味し、軸方向における「前側」とは、軸方向のうち遠心圧縮機100の吸込方向における上流側を意味し、軸方向における「後側」とは、軸方向のうち遠心圧縮機100の吸込方向における下流側を意味することとする。また、特記しない限り、「径方向」とは、遠心圧縮機100の径方向、すなわちインペラ2の径方向を意味することとする。遠心圧縮機100は、例えば自動車用又は舶用のターボチャージャや、その他産業用遠心圧縮機、送風機等に適用可能である。
【0041】
図1に示すように、遠心圧縮機100は、インペラ2と、インペラ2の周囲に配置されインペラ2及びディフューザ部8を通過した流体が流入するスクロール流路4を形成するスクロールケーシング6とを備えている。
【0042】
図2は、一実施形態に係る遠心圧縮機100の軸方向視におけるスクロール流路4の概略図である。
【0043】
一実施形態では、スクロール流路4は、巻始め4aと巻終わり4bの接続位置(所謂、舌部位置)Pより上流側の少なくとも一部の区間sにおいて、以下で説明する剥離抑制断面10を有していてもよい。
【0044】
図3及び図4は、一実施形態に係る剥離抑制断面10の形状を説明するための概略断面図である。
【0045】
一実施形態では、図3に示すように、スクロール流路4の断面において、径方向におけるスクロール流路4の内側端をEi、軸方向におけるスクロール流路4の最大流路高さHmaxの中間点をMhとすると、剥離抑制断面10において、内側端Eiは、径方向においてディフューザ出口8aより内側に位置するとともに軸方向において中間点Mhよりも後側に位置している。
【0046】
かかる構成によれば、図5図8に示すように、比較形態(スクロール流路004の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状010(図3及び図7参照)を有する構成)と比較して、接続位置Pの上流側において、再循環流fcとなる流体の流線曲率が接続位置Pに向かって徐々に変化する(図6の領域J参照)ようにスクロール流路4を形成することが可能となる。これにより、接続位置P付近における再循環流fcとなる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0047】
一実施形態では、スクロール流路4のうちθ=0度から所定の角度位置θ1までの区間s(図2参照)の少なくとも一部において、図3に示すように、剥離抑制断面10の内側端Eiと軸方向におけるスクロール流路4の前側端Efとを接続する流路壁部w0は、スクロール流路4の断面中心側に向かって凸となる曲面部12を有してもよい。
【0048】
これにより、図4に示すように、剥離抑制断面10において、スクロール流路4の出口へ向かう主流fm(図6参照)が通過する領域Dmと、再循環流fc(図6参照)となる流体が通過する領域Dcとを、断面中心側に向かって凸となる曲面部8によってある程度分離することができる。このため、主流fmをスクロール流路4の出口へスムーズに導くとともに再循環流fcとなる流体を接続位置Pにスムーズに導くことができ、圧力損失を効果的に低減することができる。
【0049】
なお、図3及び図4に示す例示的な形態では、スクロール流路4の断面10において、径方向におけるスクロール流路4の最大流路幅Wmaxの中間点Mwを通り軸方向に平行な直線をLz、中間点Mhを通り径方向に平行な直線をLrとし、剥離抑制断面10を直線Lzと直線Lrとによって四つの領域D1,D2,D3,D4に区分した場合、該四つの領域のうち、直線Lzと直線Lrとの交点Cよりも径方向における外側且つ軸方向における前側に位置する領域D1に属する流路壁部w1と、交点Cよりも径方向外側且つ軸方向後側に属する流路壁部w4とは一定の曲率半径を有している。また、交点Cよりも径方向内側且つ軸方向後側に属する流路壁部は、ディフューザ出口8のうち軸方向後側端8a1と流路壁部w4とを接続する流路壁部w31と、ディフューザ出口8のうち軸方向前側端8a2と交点Cよりも径方向内側且つ軸方向前側に属する流路壁部w2とを接続する流路壁部w32とを含む。
【0050】
一実施形態では、図2に示すように、スクロール流路4におけるスクロール中心O周りの角度位置について、接続位置Pを0度とし、接続位置Pに対する上流側への角度位置をθとすると、剥離抑制断面10は、少なくとも、θ=0度から所定の角度位置θ1までの区間sに設けられる。
【0051】
このように、スクロール流路4における接続位置Pから上流側の所定の角度位置θ1に亘って剥離抑制断面10を設けることにより、再循環流となる流体の流線曲率が角度位置θ1から接続位置Pに向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路4を形成することが可能となる。これにより、接続位置P付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0052】
一実施形態では、図2に示すスクロール流路4において、剥離抑制断面10は、所定の角度位置θ1より上流側の区間t(θ1から上流側へ接続位置Pまでの区間)には設けられていなくてもよい。接続位置Pから上流側へある程度離れた位置の断面形状は、接続位置P付近での剥離生成に与える影響が小さいため、スクロール流路4は、所定の角度位置θ1より上流側の区間tにおいて、例えば円形断面を有していてもよい。この場合、所定の角度位置θ1は、60度以上150度以下であってもよい。
【0053】
このように、接続位置P近傍の区間sに対しては剥離抑制のために剥離抑制断面10を適用し、接続位置Pからある程度離れた区間tでは円形断面等を適用することにより、接続位置P近傍での剥離を抑制しつつスクロール流路4内における流動損失を低減することができる。
【0054】
図9は、図2に示すスクロール流路4の位置S1〜S5における断面形状10(S1)〜10(S5)の一例を示す図である。
【0055】
図9では、各断面形状10(S1)〜10(S5)における内側端Eiが黒丸で示されている。一実施形態では、図2及び図9に示すように、スクロール流路4のうちθ=0度から所定の角度位置θ1までの区間sにおいて、上流側から接続位置Pに向かうにつれて(10(S1)、10(S2)、10(S3)の順に)内側端Eiが軸方向における後側にシフトするようスクロール流路4が形成されていてもよい。
【0056】
かかる構成によれば、図5図8に示すように、比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って、内側端Eiの軸方向位置と中間点Mhの軸方向位置とが一致するような円形断面形状を有する構成)と比較して、再循環流fcとなる流体の流線曲率が接続位置Pに向かって徐々に変化する(図6参照)ようにスクロール流路4が形成される。これにより、接続位置P付近における再循環流fcとなる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0057】
図9では、断面10(S1)〜断面10(S3)における上述の曲面部12の曲率半径R2の大小関係が破線の矢印の長さで示されている。一実施形態では、図9に示すように、曲面部12は、スクロール流路4において上流側から接続位置Pに向かうにつれて(10(S1)、10(S2)、10(S3)の順に)曲率半径R2が小さくなるように形成されてもよい。
【0058】
これにより、図6に示すように、剥離抑制断面10のうち領域Dm(図4参照)を通過する主流fmから分離された領域Dc(図4参照)を流れる再循環流fcを徐々に分離することができるため、主流fmをスクロール流路4の出口14へスムーズに導くとともに再循環流fcとなる流体を接続位置Pにスムーズに導く上述の効果を高めて、圧力損失をより効果的に低減することができる。
【0059】
一実施形態では、図2及び図3に示すスクロール流路4のうちθ=0度から所定の角度位置θ1までの区間sの少なくとも一部において、内側端Eiと中間点Mhとの軸方向における距離Δzと、最大流路高さHmaxとは、Δz≧0.1×Hmaxを満たしてもよい。これにより、接続位置P付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化に起因する剥離を効果的に抑制することができる。
【0060】
一実施形態では、図2及び図9に示すスクロール流路4は、接続位置Pからスクロール流路4の出口14までの区間のうち、接続位置Pを起点とする少なくとも一部の区間uにおいて、接続位置Pからスクロール流路4の出口14に向かうにつれて(10(S3)、10(S4)、10(S5)の順に)剥離抑制断面10が徐々に円形断面に戻るように構成されている。すなわち、スクロール流路4は、接続位置Pからスクロール流路4の出口14に向かうにつれて(10(S3)、10(S4)、10(S5)の順に)、内側端Eiが軸方向における前側にシフトするように形成されている。
【0061】
これにより、接続位置Pより出口14側での流動損失を低減しつつ、接続位置P付近での再循環流に伴う剥離の発生を抑制することができる。
【0062】
なお、図3及び図4等にて例示した形態では、剥離抑制断面10がスクロール流路4の断面中心側に向かって凸となる曲面部12を有している形態を例示したが、剥離抑制断面10は、図10及び図11に示すように、スクロール流路4の断面中心側に向かって凸となる曲面部12を有していなくともよい。
【0063】
この場合、図10及び図11の少なくとも一方に示すように、スクロール流路4の断面10において、径方向におけるスクロール流路4の最大流路幅Wmaxの中間点Mwを通り軸方向に平行な直線をLz、中間点Mhを通り径方向に平行な直線をLrとし、剥離抑制断面10を直線Lzと直線Lrとによって四つの領域D1,D2,D3,D4に区分した場合、該四つの領域のうち、直線Lzと直線Lrとの交点Cよりも径方向における外側且つ軸方向における前側に位置する領域D1に属する流路壁部w1は、第1の曲率半径R1を有する円弧部a1を含む。また、交点Cよりも径方向における内側且つ軸方向における前側に位置する領域D2に属する流路壁部w2は、第1の曲率半径R1よりも大きい第2の曲率半径R2を有する円弧部a2を含む。また、交点Cよりも径方向における内側且つ軸方向における後側に位置する領域D3に属する流路壁部のうち、流路壁部w2とディフューザ出口8aにおける軸方向前側端8a2とを接続する流路壁部w32は、第2の曲率半径R2よりも小さい第3の曲率半径R3を有する円弧部a3を含んでいる。円弧部a3とディフューザ出口8aの軸方向前側端8a2とは曲面によって滑らかに接続されている。
【0064】
なお、図10及び図11に示す例示的な形態では、図11に示すように、交点Cよりも径方向における外側且つ軸方向における後側に位置する領域D4に属する流路壁部w4は、曲率半径R1に等しい曲率半径R4を有する円弧部a4を含んでいる。また、円弧部a4が円弧部a1の一端に接続され、円弧部a1の他端が円弧部a2の一端に接続され、円弧部a2の他端が円弧部a3の一端に接続されている。このため、領域D2に属する流路壁部w2の曲率半径の最小値R2min(例示した形態ではR2minはR2に等しい)は、領域D1に属する流路壁部の曲率半径の最大値R1max(例示した形態ではR1maxはR1に等しい)より大きく、領域D4に属する流路壁部w4の曲率半径の最大値R4max(例示した形態ではR4maxはR4に等しい)より大きい。なお、領域D3には、ディフューザ出口8aにおける軸方向後側端8a1と流路壁部w4とを接続する流路壁部w31が含まれる。
【0065】
図10及び図11に示す例示的な形態によれば、比較形態(スクロール流路の周方向全域に亘って円形断面を有する構成)と比較した場合、上記四つの領域のうち交点Cよりも径方向における内側且つ軸方向における前側に位置する領域D2に属する円弧部a2の曲率半径R2が、他の領域に属する曲率半径R1及びR3の各々より大きいため、流路断面積を変更することなく内側端Eiの位置を中間点Mhよりも軸方向後側に位置させ易くなる。このため、再循環流となる流体の流線曲率が接続位置Pに向かって徐々に(滑らかに)変化するようにスクロール流路4を形成することが容易となる。これにより、接続位置P付近における再循環流となる流体の流線曲率の急激な変化を抑制することができるため、該急激な変化に起因する剥離を抑制し、再循環に伴う損失を低減することができる。
【0066】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0067】
2 インペラ
4 スクロール流路
4a 巻始め
4b 巻き終わり
6 スクロールケーシング
8 ディフューザ流路
8a ディフューザ出口
8a1 後側端
8a2 前側端
10 剥離抑制断面
12 曲面部
14 スクロール流路の出口
100 遠心圧縮機
C 交点
D1,D2,D3,D4,Dc,Dm 領域
Ei 内側端
Ef 前側端
Lr,Lz 直線
Mh,Mw 中間点
O スクロール中心
P 接続位置(舌部位置)
R1 第1の曲率半径
R2 第2の曲率半径
R3 第3の曲率半径
R4 第4の曲率半径
Wmax 最大流路幅
Hmax 最大流路高さ
a1,a2,a3,a4 円弧部
fm 主流
fc 再循環流
s,t,u 区間
w0,w1,w2,w31,w32,w4 流路壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13