特許第6347488号(P6347488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000002
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000003
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000004
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000005
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000006
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000007
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000008
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000009
  • 特許6347488-シリンダ構造体及びピストンエンジン 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347488
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】シリンダ構造体及びピストンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 35/00 20060101AFI20180618BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20180618BHJP
   F02B 77/04 20060101ALI20180618BHJP
   F02N 9/00 20060101ALN20180618BHJP
【FI】
   F02D35/00 368Z
   F02F1/24 A
   F02B77/04
   !F02N9/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-13137(P2015-13137)
(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-138482(P2016-138482A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 純之介
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−199644(JP,U)
【文献】 特開平10−009988(JP,A)
【文献】 特開昭61−106921(JP,A)
【文献】 特開2006−183629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 35/00
F02B 77/04
F02F 1/24
F02N 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ空間が形成されたシリンダブロックと、前記シリンダ空間内で往復運動可能なピストンと、シリンダヘッドと、を備え、前記シリンダブロック、前記ピストン及び前記シリンダヘッドによってピストンエンジンの燃焼室を形成するよう構成されたシリンダ構造体であって、
前記シリンダヘッドには、
前記ピストンエンジンの始動時に前記燃焼室に始動空気を供給するための始動空気供給弁を保持するべく当該シリンダヘッドの外周側に形成された弁保持穴と、
前記燃焼室の状態を監視するためのセンサを装着するべく当該シリンダヘッドの外周面に位置する装着部と、
前記始動空気供給弁から前記燃焼室に前記始動空気を供給するべく前記弁保持穴と前記燃焼室とを連通する始動空気供給路と、
前記燃焼室の状態を前記センサを用いて監視するべく前記装着部から延在して前記始動空気供給路に接続する監視用穴と、
が設けられ、
前記弁保持穴と前記装着部とは、前記ピストンの軸線を中心とした周方向において異なる位置に設けられたシリンダ構造体。
【請求項2】
前記監視用穴の延在方向と水平方向とのなす角度は、前記始動空気供給路の延在方向と水平方向とのなす角度よりも小さい請求項1に記載のシリンダ構造体。
【請求項3】
前記監視用穴は水平方向に延在する請求項2に記載のシリンダ構造体。
【請求項4】
前記始動空気供給路のうち前記監視用穴との接続位置よりも前記始動空気の供給方向における下流側の流路部の流路幅は、前記監視用穴の流路幅よりも大きい請求項1乃至3の何れか1項に記載のシリンダ構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のシリンダ構造体と、前記センサと、前記始動空気供給弁と、を備えるピストンエンジン。
【請求項6】
前記燃焼室の燃焼制御を行うための制御部を更に備え、
前記制御部は、当該ピストンエンジンの始動時とは異なるタイミングにおいて、前記始動空気供給弁を開いて前記始動空気供給路を洗浄する洗浄モードを実行可能に構成される請求項5に記載のピストンエンジン。
【請求項7】
前記センサは前記燃焼室の圧力を監視するための筒内圧センサであり、
前記制御部は、前記筒内圧センサの出力に応じて前記燃焼室の燃焼制御を実行可能に構成され、
前記制御部は、前記洗浄モードの実行中には前記筒内圧センサの出力に関係なく前記燃焼室の燃焼制御を行うよう構成された請求項6に記載のピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリンダ構造体及びピストンエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンエンジンは、シリンダブロック、ピストン及びシリンダヘッドによって燃焼室を形成するよう構成されたシリンダ構造体を備えている。
【0003】
ピストンエンジンには、膨張行程で燃焼室内に始動空気を供給してピストンを押し下げることによりエンジンを回転させて始動するものがある。このようなピストンエンジンでは、燃焼室内に始動空気を供給するための始動空気供給弁は、メンテナンスの観点からシリンダヘッドの外周側に取り付けられることがある。この場合、始動空気を供給するための始動空気供給路は、始動空気供給弁を保持するためにシリンダヘッドの外周側に形成された弁保持穴と燃焼室とを接続するように設けられる。
【0004】
また、ピストンエンジンには、燃焼室の状態を監視するためのセンサ(例えば筒内圧センサ)を有するものがある。このセンサも、メンテナンスの観点から、シリンダヘッドの外周側に取り付けられることがあり、この場合には、センサによって燃焼室の状態を監視するための監視用穴がセンサの装着部から燃焼室まで設けられる。
【0005】
ところで、上述したような始動空気供給路や監視用穴を設けると、始動空気供給路や監視用穴が無駄容積となり、圧縮比向上による熱効率改善の妨げになるほか、無駄容積内での不完全燃焼により熱効率が低下するという問題がある。
【0006】
特許文献1には、燃焼室圧力を計測するための指圧器(筒内圧センサ)から燃焼室まで延びる筒内圧導入通路の無駄容積を低減するために、筒内圧導入通路を開閉する弁をシリンダヘッド内に設けて、指圧器を使用しない場合には弁を閉鎖するよう構成されたエンジンが開示されている。この構成では、指圧器を使用しない場合にシリンダヘッド内の弁を閉鎖することにより、筒内圧導入通路のうち燃焼室に連通する部分が短くなるため、無駄容積が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭61−199644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のエンジンでは、指圧器を使用しないときには弁を閉鎖することによって無駄容積を低減することができるが、指圧器を使用するときには弁を開放する必要があるため無駄容積を低減することができない。
【0009】
上述に事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、燃焼室内に始動空気を供給するための始動空気供給弁と、燃焼室の状態を監視するためのセンサとを備えるピストンエンジンに使用され、センサの使用時であってもピストンエンジンの無駄容積を低減し熱効率を向上することを可能とするシリンダ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るシリンダ構造体は、シリンダ空間が形成されたシリンダブロックと、前記シリンダ空間内で往復運動可能なピストンと、シリンダヘッドと、を備え、前記シリンダブロック、前記ピストン及び前記シリンダヘッドによってピストンエンジンの燃焼室を形成するよう構成されたシリンダ構造体であって、前記シリンダヘッドには、前記ピストンエンジンの始動時に前記燃焼室に始動空気を供給するための始動空気供給弁を保持するべく当該シリンダヘッドの外周側に形成された弁保持穴と、前記燃焼室の状態を監視するためのセンサを装着するべく当該シリンダヘッドの外周面に位置する装着部と、前記始動空気供給弁から前記燃焼室に前記始動空気を供給するべく前記弁保持穴と前記燃焼室とを連通する始動空気供給路と、前記燃焼室の状態を前記センサを用いて監視するべく前記始動空気供給路から分岐して前記装着部まで延在する監視用穴と、が設けられ、前記弁保持穴と前記装着部とは、前記ピストンの軸線を中心とした周方向において異なる位置に設けられる。
【0011】
上記(1)に記載のシリンダ構造体によれば、燃焼室の状態をセンサを用いて監視するための監視用穴が始動空気を供給するための始動空気供給路から分岐してセンサの装着部まで延在しているため、始動空気供給路における監視用穴との接続位置よりも下流側の流路を、始動空気の供給用とセンサによる監視用の二つの用途で使用することができる。これにより、始動空気供給路と監視用穴とを別々に燃焼室に接続する場合と比較して、上記二つの用途のために必要な空間の容積(始動空気供給路の容積と監視用穴の容積の合計)を低減することができる。
【0012】
また、監視用穴を始動空気供給路に接続する場合、センサの装着部をなるべく始動空気供給路の近くに設けることにより、装着部から始動空気供給路まで延在する監視用穴の長さを短くすることができる。一方、始動空気供給路の近くにセンサの装着部を設ける場合、弁保持穴に保持された始動空気供給弁を迂回するように監視用穴を設ける必要がある。このため、仮に弁保持穴と装着部とをピストンの軸線を中心とした周方向(以下、単に周方向と記載)において同一位置に設けた場合、始動空気供給弁を迂回するためには監視用穴の長さが長くなってしまう。
【0013】
そこで、上記(1)に記載のシリンダ構造体では、弁保持穴と装着部とは周方向において異なる位置に設けられている。このため、弁保持穴と装着部とを周方向において同一位置に設けた場合と比較して、始動空気供給弁を迂回しつつ監視用穴の長さを短くすることができる。したがって、上記二つの用途のために必要な空間の容積(始動空気供給路の容積と監視用穴の容積の合計)を効果的に低減することができる。これにより、無駄容積を低減してピストンエンジンの熱効率を向上することができる。また、監視用穴が短くなる分、監視用穴のヒートスポット化(部分的に高温となること)を抑制することができる。
【0014】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のシリンダ構造体において、前記監視用穴の延在方向と水平方向とのなす角度は、前記始動空気供給路の延在方向と水平方向とのなす角度よりも小さい。
【0015】
上記(1)に記載のように弁保持穴と装着部とがピストンの軸線を中心とした周方向において異なる位置に設けられている場合には、上記(2)に記載のように、監視用穴の延在方向(監視用穴の軸方向)と水平方向とのなす角度を始動空気供給路の延在方向(始動空気供給路の軸方向)と水平方向とのなす角度よりも小さくすることができる。これにより、監視用穴の長さを短くすることができるため、無駄容積を低減してピストンエンジンの熱効率を向上することができる。
【0016】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載のシリンダ構造体において、前記監視用穴は水平方向に延在する。
上記(3)に記載のシリンダ構造体によれば、監視用穴の長さを効果的に短くすることができるため、無駄容積を効果的に低減してピストンエンジンの熱効率を向上することができる。
【0017】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか1項に記載のシリンダ構造体において、前記始動空気供給路のうち前記監視用穴との接続位置よりも前記始動空気の供給方向における下流側の流路部の流路幅は、前記監視用穴の流路幅よりも大きい。
【0018】
監視用穴と始動空気供給路とを接続する場合、接続位置よりも始動空気の供給方向における下流側の流路部(センサによる監視用及び始動空気の供給用の二つの用途で使用する共用流路部)の流路幅を、二つの用途の両方で好適に使用する観点からどのように設定するべきかという課題が生じる。
【0019】
この点、上記(4)に記載のシリンダ構造体では、始動空気供給路のうち監視用穴との接続位置よりも始動空気の供給方向における下流側の流路部の流路幅を監視用穴の流路幅よりも大きく設定しているため、始動空気の供給に必要な流路幅を確保しつつ、監視用穴を用いた燃焼室の監視を良好に実施することができる。
【0020】
(5)本発明の少なくとも一実施形態に係るピストンエンジンは、上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載のシリンダ構造体と、前記センサと、前記始動空気供給弁と、を備える。
【0021】
上記(5)に記載のシリンダ構造体によれば、上記(1)について記載したように、弁保持穴と装着部とを周方向において同一位置に設けた場合と比較して、始動空気供給弁を迂回しつつ監視用穴の長さを短くすることができる。したがって、無駄容積を低減してピストンエンジンの熱効率を向上することができる。また、監視用穴が短くなる分、監視用穴のヒートスポット化(部分的に高温となること)を抑制することができる。
【0022】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載のピストンエンジンにおいて、前記燃焼室の燃焼制御を行うための制御部を更に備え、前記制御部は、当該ピストンエンジンの始動時とは異なるタイミングにおいて、前記始動空気供給弁を開いて前記始動空気供給路を洗浄する洗浄モードを実行可能に構成される。
【0023】
始動空気供給路や監視用穴には、燃焼室での燃焼に伴う燃焼残渣が溜まることがある。監視用穴に燃焼残渣がたまると、燃焼室の状態監視を燃焼残渣が阻害する恐れがある。そこで、上記(6)に記載のように、ピストンエンジンの始動時とは異なるタイミングにおいて、始動空気供給弁を開いて始動空気供給路を洗浄することにより、始動空気供給路から監視用穴へ供給される燃焼残渣量を低減することができる。これにより、センサによる燃焼室の状態監視を良好に行うことができる。
【0024】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載のピストンエンジンにおいて、前記センサは前記燃焼室の圧力を監視するための筒内圧センサであり、前記制御部は、前記筒内圧センサの出力に応じて前記燃焼室の燃焼制御を実行可能に構成され、前記制御部は、前記洗浄モードの実行中には前記筒内圧センサの出力に関係なく前記燃焼室の燃焼制御を行うよう構成される。
【0025】
筒内圧センサの出力に基づいて燃焼室の燃焼制御を行う場合、上記(6)に記載の洗浄モードを実行すると、始動空気供給弁から供給される始動空気が筒内圧センサの出力に影響を与えてしまうため、燃焼室の燃焼制御を適切に行えなくなる可能性がある。そこで、上記(7)に記載のように、洗浄モードの実行中には筒内圧センサの出力に関係なく燃焼室の燃焼制御を行うよう制御部を構成することにより、洗浄モードの実行にともなう筒内圧センサの出力変動に関係なく燃焼室の燃焼制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、燃焼室内に始動空気を供給するための始動空気供給弁と、燃焼室の状態を監視するためのセンサとを備えるピストンエンジンに使用され、少なくともセンサの使用時において、ピストンエンジンの無駄容積を低減し熱効率を向上することを可能とするシリンダ構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施形態に係るピストンエンジンの模式的断面図である。
図2図1に示したピストンエンジンをA方向から見たときの一部を模式的に示す図である。
図3図1に示したピストンエンジンが備えるシリンダ構造体の模式的断面図である。
図4図3に示したシリンダ構造体の模式的断面における部分拡大図である。
図5図3に示したシリンダ構造体の模式的断面における部分拡大図である。
図6】監視用穴の延在方向が水平方向と一致するシリンダ構造体を説明するための部分拡大図である。
図7】制御部による制御の一例を示すタイミングチャートである。
図8】一比較例に係るピストンエンジンの模式的断面図である。
図9】一比較例に係るピストンエンジンの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0029】
図1は、一実施形態に係るピストンエンジン100の模式的断面図である。図2は、図1に示したピストンエンジン100をA方向から見たときの一部を模式的に示す図である。図3は、図1に示したピストンエンジン100が備えるシリンダ構造体2の模式的断面図である。図4は、図3に示したシリンダ構造体2の模式的断面における部分拡大図である。
【0030】
ピストンエンジン100は、例えば図1又は図2に示すように、シリンダ構造体2と、吸気弁3と、排気弁5と、始動空気供給弁22と、筒内圧センサ24と、制御部30とを備えている。
【0031】
シリンダ構造体2は、例えば図1及び図3に示すように、シリンダ空間4が形成されたシリンダブロック6と、シリンダ空間4内で往復運動可能なピストン8と、シリンダヘッド10と、を含み、シリンダブロック6、ピストン8及びシリンダヘッド10によってピストンエンジン100の燃焼室12を形成するよう構成されている。図1及び図3に示す実施形態では、燃焼室12は、シリンダブロック6の内周面(シリンダボア径を規定する壁面)15と、ピストン8の頂面19と、シリンダヘッド10の底面21とによって形成される。
【0032】
一実施形態では、例えば図1に示すように、ピストンエンジン100は副室式エンジンであってもよい。この場合、以下に記載する燃焼室12は、シリンダ空間4内に形成される主燃焼室を意味し、ピストンエンジン100は、シリンダヘッド10に設けられた副室13から複数の噴孔17を介して燃焼室12に噴出する火炎によって、燃焼室12内に供給される混合気(例えば燃料ガスと空気との希薄混合気)を燃焼するよう構成される。
【0033】
シリンダヘッド10には、吸気ポート7(図1及び図3参照)と、排気ポート9(図1及び図3参照)と、弁保持穴14(図1図3参照)と、装着部16(図2参照)と、始動空気供給路18(図1図3参照)と、監視用穴20(図1図3参照)とが設けられている。
【0034】
吸気ポート7及び排気ポート9は、それぞれ吸気弁3及び排気弁5によって開閉される。
【0035】
弁保持穴14は、ピストンエンジン100の始動時に燃焼室12に始動空気を供給するための始動空気供給弁22を保持するべくシリンダヘッド10の外周側に形成されている。
【0036】
装着部16は、燃焼室12の状態として燃焼室12の圧力(筒内圧)を監視するための筒内圧センサ24を装着するべくシリンダヘッド10の外周面26に位置する。装着部16は、筒内圧センサ24が装着されるように外周面26に形成された凹部又は凸部や、筒内圧センサ24を保持する不図示のスリーブなどが取り付けられる外周面26の一部(特別の加工が施されていない外周面26そのもの)であってもよい。
【0037】
始動空気供給路18は、始動空気供給弁22から燃焼室12に始動空気を供給するべく弁保持穴14と燃焼室12とを連通するよう形成されている。
【0038】
監視用穴20は、燃焼室12の圧力を筒内圧センサ24を用いて監視するべく始動空気供給路18から分岐して装着部16まで延在している。
【0039】
図2に示す制御部30は、始動空気供給弁22の開閉制御を行い、また、筒内圧センサ24の出力に基づいて燃焼室12の燃焼制御(吸気弁3、排気弁5及び不図示の点火装置等の制御)を行うよう構成されている。
【0040】
上述したシリンダ構造体2によれば、燃焼室12の状態を監視するための監視用穴20が始動空気を供給するための始動空気供給路18から分岐して装着部16まで延在しているため、始動空気供給路18における監視用穴20との接続位置P(図2参照)よりも下流側の流路部28(図2参照)を、始動空気の供給用と筒内圧センサ24による筒内圧監視用の二つの用途で使用することができる。これにより、始動空気供給路18と監視用穴20とを別々に燃焼室12に接続する場合(図8参照)と比較して、上記二つの用途のために必要な空間の容積(始動空気供給路18の容積と監視用穴20の容積の合計)を低減することができる。これにより、無駄容積を低減してピストンエンジン100の熱効率を向上することができる。
【0041】
また、上述のように監視用穴20を始動空気供給路18に接続する場合、筒内圧センサ24の装着部16をなるべく始動空気供給路18の近くに設けることにより、装着部16から始動空気供給路18まで延在する監視用穴20の長さを短くすることができる。一方、始動空気供給路18の近くに筒内圧センサ24の装着部16を設ける場合、弁保持穴14に保持された始動空気供給弁22を迂回するように監視用穴20を設ける必要がある。このため、仮に弁保持穴14と装着部16とを図9に示すように周方向において同一位置に設けた場合、始動空気供給弁22を迂回するためには監視用穴20の長さが長くなってしまう。
【0042】
そこで、一実施形態では、図2に示すように、弁保持穴14と装着部16とはピストン8の軸線を中心とした周方向(以下、単に周方向と記載)において異なる位置に設けられている。
【0043】
このように弁保持穴14と装着部16とを周方向において異なる位置に設けることにより、弁保持穴14と装着部16とを周方向において同一位置に設ける場合(図9参照)と比較して、始動空気供給弁22を迂回しつつ監視用穴20の長さを短くすることができる。この点においても、無駄容積を低減してピストンエンジン100の熱効率を向上することができる。また、監視用穴20が短くなる分、監視用穴20のヒートスポット化(部分的に高温となること)を抑制することができる。
【0044】
一実施形態では、例えば図4に示すように、始動空気供給路18のうち監視用穴20との接続位置Pよりも始動空気の供給方向における下流側の流路部28(筒内圧センサ24による筒内圧監視用及び始動空気の供給用の二つの用途で使用する共用流路部)の流路幅W2は、監視用穴20の流路幅W1よりも大きい。
【0045】
監視用穴20と始動空気供給路18とを接続する場合、接続位置Pよりも始動空気の供給方向における下流側の流路部28の流路幅W2を、二つの用途の両方で好適に使用する観点からどのように設定するべきかという課題が生じる。
【0046】
この点、図4に示した実施形態では、上述のように流路部28の流路幅W2を監視用穴20の流路幅W1よりも大きく設定しているため、始動空気の供給に必要な流路幅を確保しつつ、監視用穴20を用いた燃焼室12の監視を良好に実施することができる。
【0047】
一実施形態では、例えば図5に示すように、監視用穴20の延在方向(監視用穴20の軸線方向)と水平方向とのなす角度α1は、始動空気供給路18の延在方向(始動空気供給路18の軸線方向)と水平方向とのなす角度α2よりも小さい。上述のように弁保持穴14と装着部16とがピストン8の軸線を中心とした周方向において異なる位置に設けられている場合には、このように、角度α1を角度α2よりも小さくすることができる。このため、監視用穴20の長さを短くすることができ、ピストンエンジン100の熱効率を向上することができる。この観点から、一実施形態では、例えば図6に示すように、監視用穴20を水平方向に延在させてもよい(監視用穴20の軸線方向を水平方向に一致させてもよい)。
【0048】
図7は、一実施形態に係る制御部30による制御の一例を示すタイミングチャートである。図7に示すように、制御部30は、ピストンエンジン100の始動時に始動空気供給弁22を開いてエンジン回転数を上昇させてから、燃料供給制御及び点火制御を行う。なお、始動空気供給弁22から始動空気を供給している間は、燃焼室の圧力(筒内圧)に始動空気が影響を与えるため、筒内圧監視(筒内圧センサ24の出力に基づく燃焼室12の燃焼制御)は、始動空気供給を停止するタイミングt1よりも後のタイミングt2から開始してもよい。
【0049】
一実施形態では、図2に示す制御部30は、ピストンエンジン100の始動時とは異なるタイミング(例えばピストンエンジン100の定格運転時)において、始動空気供給弁22を開いて始動空気供給路18を洗浄する洗浄モードを実行可能に構成されている。
【0050】
始動空気供給路18や監視用穴20には、燃焼室12での燃焼に伴う燃焼残渣が溜まることがある。監視用穴20に燃焼残渣がたまると、筒内圧監視を燃焼残渣が阻害する恐れがある。そこで、上述のように、ピストンエンジン100の始動時とは異なるタイミングにおいて、始動空気供給弁22を開いて始動空気供給路18を洗浄することにより、始動空気供給路18から監視用穴20へ供給される燃焼残渣量を低減することができる。これにより、筒内圧センサ24を用いた筒内圧監視を良好に行うことができる。
【0051】
なお、上述の洗浄モードを実行すると、始動空気供給弁22から供給される始動空気が筒内圧センサ24の出力に影響を与えるため、一実施形態では、図2に示す制御部30は、洗浄モードの実行中には筒内圧センサ24の出力に関係なく燃焼室12の燃焼制御を行うよう構成されている。これにより、洗浄モードの実行にともなう筒内圧センサ24の出力変動に関係なく燃焼室12の燃焼制御を行うことができる。
【0052】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。例えば、上述した実施形態では、ピストンエンジン100として副室式エンジンを例に説明したが、本発明は直接噴射式のエンジンに適用してもよい。また、ガスエンジンやディーゼルエンジン等に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
2 シリンダ構造体
3 吸気弁
4 シリンダ空間
5 排気弁
6 シリンダブロック
7 吸気ポート
8 ピストン
9 排気ポート
10 シリンダヘッド
12 燃焼室
13 副室
14 弁保持穴
15 内周面
16 装着部
17 噴孔
18 始動空気供給路
19 頂面
20 監視用穴
21 底面
22 始動空気供給弁
24 筒内圧センサ
26 外周面
28 流路部
30 制御部
100 ピストンエンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9