【文献】
橘大介ほか,高強度コンクリートの物性に及ぼす各種要因の影響,コンクリート工学年次論文集,日本,1988年,10-2,PP.203-208
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粉砕して得られた粉末状のシリカフュームを含むセメント組成物が、セメント100質量部に対し、粉砕して得られた粉末状のシリカフュームを8〜40質量部、細骨材を20〜160質量部、粗骨材を0〜160質量部、水を10〜40質量部、および減水剤を固形分換算で0.1〜1.0質量部含むセメント組成物である、請求項1に記載の高強度セメント質硬化体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
シリカフュームは、高強度モルタルおよび高強度コンクリート(以下「高強度セメント質硬化体」という。)に用いる混和材として広く知られている。シリカフュームは、代表径が0.1μm程度の微粒子で嵩高くハンドリング性が悪いため、保管や運搬時の作業性の向上を目的に、顆粒状に加工して出荷する場合が多い。
しかし、この顆粒状のシリカフュームは、加工していない粉末状のシリカフュームに比べ、モルタル等の混練時に、顆粒を解砕する時間を必要とするため、混練時間が延長して製造効率が低下するという課題があった。
【0003】
ところで、特許文献1には、顆粒状のシリカフューム等を用いた高強度セメントの製造方法が提案されている。該方法は、セメントクリンカを粉砕するに際し、クリンカと、粒径1μm以下のシリカフューム等の超微粒子からなる粒径2mm未満の顆粒状物質の所定量と、粉砕助剤とを添加して粉砕する方法である。そして、該方法によれば、セメント中に単一粒子となって分散した超微粒子の割合が著しく多くなり、セメントの物性(流動性と強度発現性)が改善するとしている。
【0004】
しかし、前記特許文献1にはモルタル等の混練時間については何も記載されていない。また、前記特許文献1では、顆粒状物質をセメントクリンカと粉砕する必要があるので、比較的長時間の粉砕が必要となり手間がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、顆粒状のシリカフュームを用いて高強度セメント質硬化体を製造する方法であって、モルタル等の混練時間を短縮でき、かつ強度発現性も向上する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的にかなう製造方法について検討したところ、予め顆粒状のシリカフュームを粉砕して得たシリカフュームの粉体を用いて、高強度セメント質硬化体を製造する方法は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記の構成を有する高強度セメント質硬化体の製造方法である。
[1]顆粒状のシリカフュームを
ボールミルを用いて粉砕して得られた
、粒径が100〜1000nmの範囲内に粒度分布のピークが2つある粉末状のシリカフュームを含むセメント組成物を、混練して高強度セメント質硬化体を製造する、高強度セメント質硬化体の製造方法
であって、
該粉末状のシリカフュームを含むセメント組成物の混練時間が、粉砕前の顆粒状のシリカフュームを含むセメント組成物の混練時間の70%以下である、高強度セメント質硬化体の製造方法。
[2]前記粉砕して得られた粉末状のシリカフュームを含むセメント組成物が、セメント100質量部に対し、粉砕して得られた粉末状のシリカフュームを8〜40質量部、細骨材を20〜160質量部、粗骨材を0〜160質量部、水を10〜40質量部、および減水剤を固形分換算で0.1〜1.0質量部含むセメント組成物である、前記[1
]に記載の高強度セメント質硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高強度セメント質硬化体の製造方法は、セメント組成物の混練時間を短縮でき、高強度セメント質硬化体の製造効率を高めることができる。また、本発明の高強度セメント質硬化体の製造方法により製造された高強度セメント質硬化体は強度発現性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の高強度セメント質硬化体の製造方法は、顆粒シリカフュームを粉砕して得られた粉砕シリカフュームを含むセメント組成物を、混練して高強度セメント質硬化体を製造する方法である。以下、本発明について詳細に説明する。
1.顆粒シリカフューム
本発明で用いる顆粒シリカフュームは、好ましくはBET比表面積が5〜25m
2/gである。該値がこの範囲を外れると、入手が困難になる。なお、前記BET比表面積は、より好ましくは10〜20m
2/gである。
また、本発明で用いる顆粒シリカフュームは、好ましくはかさ密度が0.4〜0.8g/cm
3である。該値がこの範囲を外れると、入手が困難になる。
なお、顆粒シリカフュームを粉砕するためのミルは、ボールミル、クラッシャーミル、ロッドミル、ローラーミル、またはジェットミル等が挙げられる。これらの中でも、粉砕効率の観点から、好ましくはボールミルである。
本発明において特徴的な現象は、前記顆粒シリカフュームを粉砕すると、後掲の
図1の(b)に示すように、粉砕前の顆粒シリカフュームの粒度分布(a)のピークは1つであったのに対し、粉砕後の粒度分布(b)のピークが2つ生成し、粉砕後の粒度分布は、よりなだらかになって最密充填性が向上する。これにより、後掲の表1に示すように、高強度セメント質硬化体の強度は向上すると推測する。
【0011】
2.セメント組成物
前記セメント組成物は、セメント100質量部に対し、粉砕シリカフュームを8〜40質量部、細骨材を20〜160質量部、粗骨材を0〜160質量部、水を10〜40質量部、および減水剤を固形分換算で0.1〜1.0質量部含むものである。以下、セメント、粉砕シリカフューム、細骨材、粗骨材、水、および減水剤に分けて説明する。
(1)セメント
該セメントは、特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、および低熱ポルトランドセメント等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中で、モルタル等の流動性が高く水和発熱が低いなどの点から、好ましくは中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントである。
【0012】
(2)粉砕シリカフューム
前記セメント組成物に用いる粉砕シリカフュームは、前記のとおり、顆粒シリカフュームを粉砕した粉末状のシリカフュームであり、該配合量はセメント100質量部に対し8〜40質量部である。該値が該範囲にあれば、セメント組成物は流動性と強度発現性が高い。
【0013】
(3)細骨材
本発明で用いる細骨材は、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、スラグ細骨材、および軽量細骨材等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。また、細骨材は天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
細骨材の配合量は、(i)モルタルを製造する場合は、セメント100質量部に対し、好ましくは50〜160質量部である。該配合量が50質量部未満では、発熱量が多くなったり、収縮量が大きくなる場合がある。160質量部を越えると、高強度セメント質硬化体の圧縮強度を100N/mm
2以上にすることが困難な場合がある。なお、該配合量は、より好ましくは100〜140質量部である。
(ii)コンクリートを製造する場合は、コンクリートの流動性や強度発現性を考慮して、セメント100質量部に対し、好ましくは20〜160質量部である。
【0014】
(4)粗骨材
本発明で用いる粗骨材は、川砂利、砕石、スラグ粗骨材等が挙げられる。また、粗骨材は天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
粗骨材の配合量は、コンクリートの流動性や強度発現性を考慮して、セメント100質量部に対し60〜160質量部である。
【0015】
(5)水
本発明で用いる水は、高強度セメント質硬化体の強度発現性等の物性に悪影響を与えないものであれば用いることができ、例えば、水道水、下水処理水、および生コンクリートの上澄水等からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
水の配合量は、セメント100質量部に対し10〜40質量部である。該配合量が10質量部未満ではセメント組成物の混練が困難になり、40質量部を越えると高強度セメント質硬化体の圧縮強度を100N/mm
2以上にすることは困難になる場合がある。なお、該配合量は、好ましくは15〜35質量部である。
【0016】
(6)減水剤
本発明で用いる減水剤は、高性能AE減水剤、高性能減水剤、およびAE減水剤等からなる群より選ばれる1種以上の減水剤が挙げられる。前記減水剤の種類(化合物)は、ポリカルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、およびこれらの塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
減水剤の配合量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.1〜1.0質量部である。該配合量が0.1質量部未満では、セメント組成物の混練が困難になり作業性も低下し、1.0質量部を越えると、セメント質硬化体の圧縮強度を100N/mm
2以上にすることが困難になる場合がある。なお、該配合量は、好ましくは0.2〜0.9質量部である。
なお、本発明のセメント組成物は、前記材料以外に、空気量調整剤、収縮低減剤、膨張材、金属繊維や有機繊維等を含むことができる。
【0017】
(6)セメント組成物の混練方法
本発明において、セメント組成物の混練方法は、特に限定されず、例えば、混練装置に、
(a)セメント、粉砕シリカフューム、水、および減水剤を投入して混練した後、骨材を投入して再度混練する、
(b)骨材、セメント、および粉砕シリカフュームを投入して空練りした後、水と減水剤を投入して混練する、
(c)セメント、粉砕シリカフューム、骨材、水、および減水剤を投入し、一括して混練する、
等の方法が挙げられる。
また、コンクリートの混練では、混練装置に、
(d)細骨材、セメント、および粉砕シリカフュームを投入して空練りした後、水と減水剤を投入してモルタルを混練し、該モルタルに粗骨材を投入して再度混練してもよい。
なお、減水剤は、製造効率の観点から、好ましくは水(混練水)に溶かして用いる。
また、前記混練装置は特に限定されず、強制練りミキサ、重力式ミキサ等が使用できる。前記混練時間は、モルタルまたはコンクリートの製造効率や作業性等の観点から、好ましくは2〜20分、より好ましくは2〜15分である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は該実施例に限定されない。
1.使用材料
(1)セメント:中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
(2)シリカフューム
・シリカフュームA(顆粒、BET比表面積11.8m
2/g、かさ密度0.55g/cm
3、銘柄:JH90、洛陽社製)
・シリカフュームB(顆粒、BET比表面積13.4m
2/g、かさ密度0.40g/cm
3、銘柄:UNISIL、ユニオン化成社製)
・シリカフュームC(非顆粒品、BET比表面積17.3m
2/g、かさ密度0.34g/cm
3、銘柄:UNISIL、ユニオン化成社製)
(3)石英粉末(ブレーン比表面積7000cm
2/g)
(4)細骨材:珪砂(粒径0.15〜0.6mm)
(5)減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤(レオビルドSP8HU[登録商標]、BASFジャパン社製)
(6)水:水道水
【0019】
2.モルタルの調製と圧縮強度の測定
前記顆粒シリカフュームAおよびBを、ディスクミルまたはボールミルを用いて、表1に示す時間粉砕した。顆粒シリカフュームBの粉砕前後の粒度分布を
図1の(a)および(b)に示し、また、参考のため非顆粒品である微粉末状のシリカフュームCの粒度分布を
図1の(c)に示した。なお、
図1の凡例中の数字は、同種のシリカフュームを用いて測定を3回くり返したことを示す。
次に、セメント100質量部に対し、シリカフューム30質量部、石英粉末30質量部、細骨材120質量部、水22質量部、および高性能減水剤0.4質量部(固形分換算)を、一括してホバートミキサーに投入し、モルタルを表1に示す時間混練した。
モルタルのフロー値は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法 11.フロー試験」に準拠して行った。ただし、15回の落下運動は実施しなかった。
さらに、前記混練したモルタルを直径50mm、高さ100mmの型枠に流し込み、20℃で24時間、前置きした後、90℃で48時間蒸気養生して、試験体を3本製造し、該試験体の圧縮強度を測定した。前記モルタルのフローと圧縮強度(平均値)を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すように、実施例1は比較例1と比べ、混練時間が1/2以下と短いにもかかわらず、フローと圧縮強度が極めて高い。すなわち、比較例1では25分間混練しても流動性は低いが、実施例1では10分間の混練で高い流動性が得られている。また、実施例1は比較例1と比べ、圧縮強度が24%も向上している。
また、実施例2と実施例3は、比較例2と比べ、圧縮強度がそれぞれ27%以上も向上している。
さらに、実施例1〜3はいずれも、微粉末の形態(非顆粒品)の参考例と比べても、圧縮強度が14%以上向上している。
また、
図1の(a)および(b)に示すように、顆粒シリカフュームの粉砕前の粒度分布(a)のピークは1つであったのに対し、粉砕後の粒度分布(b)のピークは2つに分かれ、粉砕後の粒度分布が、よりなだらかになって最密充填性が向上していることが分かる。