【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム次世代高性能技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹凸フィルムは、凹凸パターンを有する母型を前記アクリル系フィルムに押圧し、押圧した状態で110〜140度で加熱して前記凹凸構造を転写することにより形成される、請求項3に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る太陽電池モジュールの代表的な態様を説明する。
【0021】
図1に本発明の一実施形態に係る太陽電池モジュールの代表的な模式図を示している。本実施形態の太陽電池モジュールは、太陽電池3の光入射面側に光入射側保護材10を有する。光入射側保護材10は、太陽電池側から、光入射側に透光性基板2および凹凸フィルム1をこの順番に有する。太陽電池3の裏面側には裏面保護材5を有する。また光入射側保護材10と裏面保護材5の間には封止材4を有し、封止材により太陽電池が封止されている。なお、本発明においては、
図1のように、積層構造の一主面側(上側)を光入射側、裏面電極側(下側)を裏面側ともいう。
【0022】
[光入射側保護材]
(凹凸フィルム)
凹凸フィルムは、アクリル系フィルムから形成されている。アクリル系フィルムには、アクリル系樹脂に、添加物として、平均粒子径が0.05μm〜0.4μmで重量比率が12〜35%のゴム成分が添加されている。なお、本明細書においては、凹凸構造形成前のものを「アクリル系フィルム」、凹凸構造形成後のものを「凹凸フィルム」という。
【0023】
アクリル系フィルムに使用されるアクリル系樹脂とは、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体のフィルムが挙げられるが、中でも(メタ)アクリル酸メチルの重合体であるポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が好ましい。
また添加物として、重量比率が12〜35%、平均粒子径が0.05μm〜0.4μmのゴム成分を添加することにより、フィルムカット時の割れ(クラック)を防止できる。
【0024】
ゴム成分の粒子径を0.05μm以上とすることで、耐衝撃性を向上させることができる。また、ゴム成分の粒子径を0.4μm以下とすることで、透過率の高いアクリル系フィルムを得ることができる。さらに、ゴム成分の重量比を12%以上とすることでフィルムカット時のクラックを防止できる。また、35%以下とすることで、高温高湿試験で凹凸構造が平坦化しにくくなる。つまり成形後の凹凸フィルムの湿熱安定性を保持することができ、温度・湿度の変化に長期間さらされた後にでも高い光散乱性を有し、光閉じ込め効果に優れた凹凸フィルムを作製することができる。
【0025】
中でも、平均粒子径が0.05〜0.2μmが好ましく、0.07〜0.15μmがより好ましい。ゴムの重量比は、12〜35%が好ましく、15〜30%がより好ましい。すなわち、平均粒子径が0.07〜0.15μm、重量比が15〜30%のゴム成分を添加したアクリル系フィルムを好ましく用いることができる。
【0026】
フィルムのゴム成分は、例えば、RuO
4などにより電子染色し、超薄片を作製することにより透過型電子顕微鏡などで観察することができる。平均粒子径は透過型電子顕微鏡の観察像から無作為に100個以上のゴム成分粒子を選んで各々の粒子径を算出し、粒子径を平均することにより求めるものとする。
【0027】
なお、凹凸フィルムは、本発明の機能を損なわない限り、添加剤として、上述のゴム成分以外に、別の成分を含んでいても良い。例えば、フィルムの耐候性を向上させる手段として、凹凸フィルムに光安定剤などの添加剤を添加することができる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)のLA―52やLA−82などが挙げられるが、特にこれらの種類に限定されるものではない。例えば、HALSを使用する場合、添加量は重量比で0.5〜2%が好ましい。
【0028】
凹凸フィルムの凹凸構造は、高さが5μm以上50μm以下である。高さを5μm以上とすることにより、入射光を高い効率で散乱することができる。また、50μm以下とすることで、フィルムの材料コストを抑えることができ、発電効率向上効果を長期間維持したまま、凹凸フィルムに生じうるクラック発生を抑える上でも好ましい。
【0029】
ここで、通常、ゴム成分を添加すると湿熱耐久性試験において凹凸構造が平坦化しやすくなる問題があるが、本発明においては、添加剤として所定のゴム成分を有するアクリル系フィルムを用い、凹凸構造の高さを上記範囲とすることで、凹凸構造の平坦化を抑制でき、凹凸フィルムの発電効率向上が期待できる。
【0030】
また凹凸構造の傾斜角は30°以上65°以下である。上記の範囲とすることで、入射光の反射率が低下し、また入射光を高い効率で散乱することが出来る。中でも、効果的に光閉じ込めをおこない出力向上効果を得る点から、傾斜角は40°以上が好ましく、45°以上がより好ましい。また、凹凸構造形成時に金型からの良好な離型性を得る点および成型後の凹凸構造が自重や風雨による変形を受けにくい点から傾斜角は60°以下が好ましく、55°以下がより好ましい。
【0031】
本発明における凹凸構造について、
図2に基づいて説明するが、以下に限定されるものではない。本発明の一実施形態における凹凸構造11は複数の四角錐から構成されている。ここで、複数の四角錐は
図2(b)にしめすように部分的に重なり合い連結された構造であってもよい。
【0032】
四角錐の頂点11aとは四角錐を構成する4個の斜面11bがすべて接する点である。また、四角錐の稜線11cとは、四角錐を構成する隣接する2個の斜面が接する線である。なお、1つの頂点から延びるn本の稜線(n角錐の場合、n≧3の整数)のうち、最も長さが長い稜線の長さが100nm未満の場合、該凹凸構造の有無は光学的に差異が小さいため、本明細書においては考慮しない。すなわち、1つの頂点から延びる稜線のうち最も長い長さが100nm以上のものを本発明の凹凸構造とする。
【0033】
ここで、複数の四角錐が部分的に重なり合った構造の場合には、重なり合う個々の四角錐の頂点および稜線を凹凸構造の頂点および稜線とする。凹凸構造の高さとは、後述のように、測定範囲に含まれる複数の凹凸構造の各々につき、稜線の基板面に対する高低差から統計的に求められ、稜線の高低差の第3四分位点とする。ここで第3四分位点とは、該複数の凹凸構造の各々に付いて求めた稜線の高低差を小さいものから順番にならべたとき、小さいほうから数えて75%(4分の3)の順番の高低差を意味する。なお、ちょうど75%にあたる測定値が無い場合には、75%を超えない最大の測定値と75%を超える最小の測定値の平均値とする。
【0034】
凹凸構造の頂点間の距離とは、凹凸構造の頂点間の距離の中央値とする。ここで中央値とは、求めた頂点間の距離を小さいものから順番にならべたとき、ちょうど50%の順番になる距離を意味する。なお、ちょうど50%にあたる測定値が無い場合には、50%を超えない最大の測定値と50%を超える最小の測定値の平均値とする。
【0035】
凹凸構造の斜面の角度とは、四角錐の頂点とその頂点から延びる、隣接する2本の稜線からなる面が、基板面となす角度のことである。
図2(a)に傾斜面の角度をθで示す。
凹凸構造の高さ、頂点間の距離、および斜面の角度は、凹凸構造のAFM(原子力顕微鏡)やSEM(電子顕微鏡)による観察像から求めることができる。ここで、測定範囲としては、例えば100μm四方程度とし、観察範囲内からランダムに選んだ20個以上の凹凸構造に対して上記の基準に基づき求めるものとする。なお、この際、上述のように、1つの頂点から延びる稜線のうち最も長い稜線が100nm以上のものを20個選ぶものとする。
【0036】
なお、本実施形態においては、四角錐を用いて説明したが、四角錐以外の形状であってもよいし、凹凸構造は周期的であっても非周期的であってもよい。例えばn角錐(n≧3の整数)の場合、該n角錐の頂点、斜面、稜線等により上記同様に求めることができる。また、n角錐などの表裏を反転した反転形状(または逆形状)であってもよい。中でも、逆四角錐が金型形成の容易さの観点から好ましい。
【0037】
本発明の凹凸フィルムは、厚みが50〜300μmが好ましく、100〜200μmがより好ましい。本発明では、凹凸構造の高低差や傾斜角が上記範囲のものを使用することで、上記のように厚みが比較的薄いものを使用することができる。即ち、特許文献1,2などのように、凹凸構造が大きいフィルムを用いる場合、厚みを厚くする必要があり、光線透過率が低下する問題や、フィルム巻き取り時にフィルムが破損しやすいなどの問題、また屋外での使用時に汚れが付着しやすくなる問題があったのに対し、本発明においては、薄膜化に伴い光取り込み効果を向上させることができ、またフィルムのコスト低減効果も期待できる。
【0038】
凹凸フィルムの屈折率は光の反射を抑制する観点から、550nmの波長で測定される値として1.47〜1.55が好ましく、1.50〜1.55の範囲にあることがより好ましい。上記の屈折率とすることで、凹凸フィルムと透光性基板との界面での反射による光電変換効率の低下を抑制することができる。この際、透光性基板と凹凸フィルムの屈折率差が小さいものを用いることがより好ましい。
【0039】
(フィルム加工方法)
凹凸フィルムは、上述のようなアクリル系フィルムを用いて以下のようにして表面に凹凸構造を形成することができる。アクリル系フィルムを、フィルムが軟化する温度まで加熱後、所望の凹凸構造の逆のパターンを有する金型を押し付け、圧力を保ったまま冷却することにより、金型の凹凸構造をフィルム表面に転写し、凹凸構造を形成することができる。加熱する温度は、フィルムの材料によって異なるが、圧力によりフィルム厚が変わらない温度が好ましく、110℃以上140℃以下が好ましい。
【0040】
フィルム厚はフィルムの体積をフィルムの面積で除算した厚さであり、フィルム表面の凹凸を平均した厚さである。加熱する温度は重合に用いる単量体の種類や重合後の樹脂の分子量、またゴムの成分比によっても変わるが、例えば、アクリル系樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂を用い、添加材としてゴム成分を15〜30%含んだフィルムの場合は、125〜135℃程度に加熱することが好ましい。
【0041】
加熱温度を、125〜135℃程度に抑えることによって、樹脂製の耐熱性の低い金型を用いて凹凸構造を形成することができる。樹脂製の金型は金属性の金型と比べて作製コストを抑えられる点で好ましい。
【0042】
また、金型を押し付ける圧力は、形成する凹凸構造の大きさおよび加熱温度にもよるが、1MPa以下の圧力が好ましく0.5MPa以下がより好ましい。また、上記の好ましい温度範囲で、凹凸構造を正確に転写するためには、0.1MPa以上が好ましい。
また、アクリル系フィルムの製造時に凹凸構造を形成してもよい。また、アクリル系フィルムは、アクリル系樹脂を押し出し成形で形成する方法、また、樹脂材料をキャスト法により成形して形成する方法などにより形成することができる。
【0043】
上述のように、アクリル系フィルムに凹凸構造を形成するための金型の材質は、特に限定されないが、熱による劣化や変形が少なく、複数回の成形処理に耐えられる材質のものが好ましく、例えばシリコンやニッケル、モリブデンなどの金属材料も使用可能である。
【0044】
金型を形成する方法としては、例えば、単結晶シリコン基板をアルカリ処理して該基板に所望の凹凸構造とは逆パターンの凹凸を作ることにより作製することが出来る。 この場合には、板厚700μm程度の単結晶シリコンウェハを、水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ水溶液でエッチングする方法が利用できる。アルカリ水溶液による結晶シリコンのエッチング速度は、結晶面によって異なり、(111)面のエッチング速度は遅い。したがって、(100)面を表面に持つ単結晶シリコン基板をアルカリ水溶液でエッチングすると、基板表面に(111)面で構成された四角錐型のピラミッドがランダムに形成される。形成されるピラミッドの大きさは、エッチング時間や温度、微粒子等の添加剤によって制御することができる。
【0045】
また、金属板をダイヤモンドバイトで研削加工することによって作製することもできる。加工する金属板はSUS板や銅板が利用できるが、メッキ製膜したニッケル合金が特に好ましい。金型には公知の離型剤を用いて表面処理することで、パターン形成時の不良が低減し、凹凸構造を精度よく転写可能であり、また複数回使用時の金型の耐久性が向上する。
【0046】
また、金属材料などで作製した金型を用い、金型の凹凸構造を紫外線硬化樹脂などに転写することで樹脂製の金型を作製することもできる。このとき、紫外線硬化樹脂をPETフィルムなどに塗布した後に凹凸構造を転写することで、フィルム状の樹脂金型を作製することができる。フィルム状の樹脂金型は柔軟性をもち、円柱等に巻きつけることができるため、凹凸構造転写部を回転体とすることができ、凹凸構造をアクリル系フィルムに連続転写する際、好適に用いることができる。
【0047】
(透光性基板)
透光性基板については、紫外〜赤外の波長範囲で透明であれば特に制限されないが、耐熱性に優れるという観点からガラス基板などを使用することが好ましい。ガラス基板としては無アルカリガラスやソーダライムガラスなどが挙げられるが、特にこれらの種類に限定されるものではない。無アルカリガラスやソーダライムガラスを使う場合、屈折率1.50〜1.55のガラス基板がコストと透過率の観点から好ましい。
【0048】
(接着剤)
凹凸フィルムを透光性基板に接着させる際、接着剤により貼り付けることが好ましい。この際の接着剤としては、例えば、シリコーン系やアクリル系などを材料とする、付加硬化型やUV硬化型、加熱硬化型接着剤などを用いることが好ましい。接着剤の屈折率は、透光性基板の屈折率に近いことが好ましく、1.47〜1.55が好ましい。また、接着剤を塗布した接着シートを凹凸フィルムと透光性基板の間に挟むことによって凹凸フィルムを接着することもできる。接着シートとしてはOCAテープなどを用いることが好ましい。
【0049】
凹凸フィルムを透光性基板の光入射側表面に接着する方法としては、凹凸フィルムおよび基材の屈折率に近い屈折率に調整された紫外線硬化接着剤やアクリル系接着剤を用いる方法が挙げられる。また、実験的に凹凸フィルムの効果を確認する目的では、屈折率が調整されたオイルで光入射側表面に凹凸フィルムを貼り付ける方法等により、評価することができる。
【0050】
なお、接着剤は無くてもよく、例えば、凹凸フィルムの凹凸構造を有さない面(透光性基板に貼り付ける面)の表面を有機溶剤などにより一時的に溶解させることにより凹凸フィルムと透光性基板を直接貼り付けてもよい。
【0051】
以上のようにして光入射側保護材を形成することができる。
【0052】
ここで、上述のように、特許文献1、2の光入射側保護材は、フィルムのみを用いており、耐候性が悪化し易くなり、また予め凹凸構造を形成した保護材を用いてモジュールを加圧して作製したり、加圧時に金型を用いて凹凸構造を形成しながら封止する必要があった。一方、本発明の光入射側保護材は、透光性基板、太陽電池セル、封止材および裏面保護材を用いて予め加圧封止した太陽電池仕掛品を作製後に別途凹凸フィルムを貼り付けることができる。即ち、太陽電池仕掛品を、屋根やメガソーラ施設、付属の太陽電池からの電力を動力とする各種機器などに既に設置されたものであっても、その上に凹凸フィルムを貼り付けることができる。従って、既存の設備の更なる変換特性を向上させることができる。また、一度貼り付けた凹凸フィルムが汚れたり破損した場合にフィルムを剥がした後新しいフィルムを再度貼り付けることにより、汚れや破損による悪影響を取り除くことが出来る。
【0053】
凹凸フィルムは、太陽電池モジュール全体を覆う大きさのものを用いても良いし、
図3に示すように、太陽電池セルの大きさに応じて、小面積の凹凸フィルムを複数貼り付けてもよい。
【0054】
ここで太陽電池モジュールは、一般的に、二以上の太陽電池セルから構成される。これらの太陽電池セルは一の太陽電池セルと他の太陽電池セルが、配線部材により直列または並列に接続される。直列接続の場合には接続された全ての太陽電池セルの電流値は等しくなる。この場合、発電電流値が最も小さいセルの電流値になるため、最小の電流値しか取り出すことができない。
【0055】
従って、発電電流値が小さい太陽電池セルの発電電流値を向上させるために、太陽電池セルの発電量に応じて前記二以上の太陽電池セルが形成された領域に対応するように前記二枚以上の凹凸フィルムを各々配置し、凹凸構造の大きさが異なる凹凸フィルムを各太陽電池セル上に貼り付けることにより、太陽電池モジュール全体の発電電流値を効果的に向上させることができる。
【0056】
図3においては発電電流値が小さいセル(3a)上には、凹凸構造が大きく光取り込め効果の高いフィルム(1a)を貼り付け、発電電流値が大きいセル(3b)上には、凹凸構造が非対称形で、入射光を異方性散乱することにより発電電流値が大きいセル(3b)上に入射した光の一部を発電電流値が低いセル(3a)の方向へ散乱する効果を持つフィルム(1b)を貼り付けることにより、発電電流値が小さいセル(3a)の発電電流値を向上させ、太陽電池モジュール全体の発電電流値を容易に向上させることができる。
【0057】
この際、凹凸フィルム形成前および後における前記二以上の太陽電池セルの発電量の差をΔP1およびΔP2(%)としたとき、ΔP2<ΔP1を満たすことが好ましい。ここで、ΔP1およびΔP2(すなわち二以上の太陽電池セルの発電量の差)とは、太陽電池モジュールを構成する二以上の太陽電池セルのうち、発電量が最も大きいセルと最も小さいセルの差を意味する。
【0058】
中でも、凹凸フィルム形成後における二以上の太陽電池セルの各々の発電量の差ΔP1が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。本発明の凹凸フィルムを用いることにより、太陽電池セル間の発電量の差をより低減することが可能となり、太陽電池モジュール全体の発電量を向上させることができる。
【0059】
[太陽電池セル]
本発明における太陽電池セルは特に限定されず、薄膜シリコン太陽電池や結晶シリコン太陽電池、ヘテロ接合太陽電池、化合物太陽電池であってもかまわない。
【0060】
中でも、例えば、ヘテロ接合太陽電池などのように、基板の薄膜化に伴い、モジュール化の際に破損しやすく、太陽電池セルを封止する際に凹凸構造を形成しながら圧着させる場合、破損が顕著になると考えられるが、本発明においては、このような破損をより防止することができる。
【0061】
また本発明における凹凸フィルムは太陽電池セルの発電電流値に合わせた凹凸構造を貼り付けることができるため、太陽電池セル作製時の膜厚不均一などにより太陽電池セルの発電電流値が不均一になりやすく、かつ太陽電池セル作製後に発電電流値を調整困難な集積型薄膜シリコン太陽電池や化合物太陽電池に、好適に用いることができる。
【0062】
本発明における太陽電池モジュールは光入射面にガラス等の低透湿性の基板を用いることができるため、特許文献1などの太陽電池モジュールのように樹脂層で被覆する場合と比較して透湿性を低くすることができる。したがって、水分による性能低下が顕著に見られる非晶質半導体層などを持った太陽電池セルに対して、好ましく用いることができ、薄膜シリコン太陽電池やヘテロ接合太陽電池に特に好適に用いることができる。
【0063】
[封止材]
太陽電池セル3と、他の太陽電池セルまたは外部配線とを、配線部材を用いて直列又は並列に電気的に接続し、複数の太陽電池セルを有する太陽電池モジュールを作製する。太陽電池モジュールでは、その電極層や半導体層を水分や酸素等から保護することや外部と電気的に絶縁することなどを目的として、この太陽電池セル全体を、充填材料である封止材4を用いて封止することが好ましい。
【0064】
この際、封止材4は、光入射側保護材10と裏面保護材5の間に存在し、太陽電池セル3を封止するように少なくとも太陽電池セルの光入射面側もしくは裏面側に存在する構造であれば、特に限定されない。例えば、
図1(a)に示すように、太陽電池セルとして、薄膜系太陽電池を用いる場合、透光性基板として使用するガラスと一体化させて光入射面側に接するように配置し、セル側面と裏面側を覆うように封止材を用いても良いし、
図1(b)に示すように、光入射面側と裏面側の両方に封止材を有していてもよい。さらに、例えばヘテロ接合太陽電池や結晶シリコン太陽電池などを用いた場合、
図1(c)に示すように裏面側保護材と接するように太陽電池セルを配置し、光入射面側に封止材を配置した構造であってもよい。
【0065】
上記封止材4としては、樹脂を用いることが好ましく、主としてEVA(エチレン・ビニルアセテート共重合体)を用いるが、PVB(ポリビニルブチラール)、PIB(ポリイソブチレン)、及びシリコーン樹脂等を用いることもできる。
【0066】
上記のようにして、本発明における太陽電池モジュールを作製することができる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
ガラス面上に形成した凹凸構造の形状と、光電変換効率向上効果との関係を検討するため、レイトレーシング法による3次元光シミュレーションを行った。シミュレーションでは、薄膜3接合太陽電池の光入射側ガラス面がフラットな場合と、傾斜面の傾斜角度を変えて四角錐のピラミッド形状を形成した場合について計算した。表に記載のうち傾斜角が負の数となっているのは反転(逆)四角錐形状である。3接合太陽電池はトップセルの発電層が非晶質シリコン、ミドルセルが非晶質シリコン・ゲルマニウム合金、ボトムセルが微結晶シリコンとし、それぞれの膜厚は100nm、100nm、2000nmとした。シミュレーション結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
シミュレーションの結果から、光入射側ガラス面にピラミッド状の凹凸構造を形成した場合、傾斜角が25°までは凹凸構造がない場合と差が見られないが、傾斜角が30°以上で分光感度電流の向上が確認できることがわかる。光電変換効率向上は傾斜角45〜55°でもっとも高くなる。また、以上の傾向はピラミッドが上下反転した形状(表1では傾斜角を負数で表した)でもほぼ同様に見られる結果となった。このシミュレーション結果と、光取り込み効率向上などを考慮にいれると、傾斜角は30°以上65°以下が好ましく、40°以上60°以下がより好ましく、45°以上55°以下が特に好ましいと考えられる。
【0071】
[実施例1]
実施例1においては、添加剤の違いによる特性の影響について調べた。
【0072】
(実施例1−1)
まず、以下のようにして実施例1−1における太陽電池モジュールを作製した。3.2mm厚の白板ガラスから成る透光性基板2(屈折率1.52)の一主面上に、透明電極層、光電変換層、裏面電極層をこの順に有する薄膜シリコン太陽電池セル3を作製した。光電変換層としては、3接合の光電変換ユニットを順に製膜した。次に、作製した太陽電池セルの裏面側に封止材4としてEVAシート、裏面保護材5としてアルミニウムコートされたPETフィルムを順に重ね、真空ラミネータで圧着することにより封止し、太陽電池仕掛品を作製した。
【0073】
シート厚150μm、ゴム成分の粒子径が0.07〜0.3μm、ゴム成分の重量比25%のアクリル系フィルムであるPMMAシート(カネカ製サンデュレンフィルム)を、130度に加熱しながら金型に押し付け、フィルム表面に凹凸構造を成形し、凹凸フィルム1を作製した。ゴム成分の粒子径はフィルムを透過型電子顕微鏡(日本電子製 JEM−1200EX)により加速電圧80kVでRuO
4染色超薄切片法を用いて観察し、得られた観察像から無作為に選んだ100個のゴム成分の粒子像の粒子径の平均値を平均粒子径として求めた。屈折率が透光性基板2とほぼ等しいものを選んだ。使用したPMMAシートをエリプソメータ(J.A.ウーラム製)で測定したところ、波長550nmにおける屈折率は1.52だった。
【0074】
成形に使用した金型は、単結晶シリコンウェハを水酸化カリウム水溶液中で異方性エッチングすることにより作製した。エッチング時の溶液温度は80℃、溶液の濃度は5%とした。作製した金型の表面を共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス製LEXT OLS3000)で観察したところ、高さ30〜40μm、傾斜角が50〜55°の四角錐状形状が無数に観察された。
【0075】
なお、金型は成型に使用する前に離型処理剤(ダイキン製オプツールDSX)で離型処理を行い、フィルムの金型への付着を抑制した。 成型した凹凸フィルム1の表面を共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス製LEXT OLS3000)で観察したところ、逆四角錐状の形状が無数に観察された。また、凹凸構造の高さは40μm、傾斜角は50°だった。作製した凹凸フィルム1を、屈折率1.52に調整した接着剤で透光性基板2の光入射側表面全面に貼りつけ、凹凸フィルムつきの太陽電池モジュールを作製した。
【0076】
(比較例1−1)
比較例1−1では、凹凸フィルムを接着しない点のみが実施例1−1と異なっていた。すなわち、実施例1−1の太陽電池仕掛品を太陽電池モジュールとした。
【0077】
これら凹凸フィルムを貼り付けた状態で、太陽電池モジュールの光電変換特性評価を行った。結果を以下に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
実験の結果、凹凸フィルムの無い比較例1−1は凹凸フィルムを接着した実施例1−1と比較して、短絡電流(Isc)が劣る結果となった。凹凸フィルムによる光閉じ込め効果の分、差が出たと考えられる。
【0080】
[実施例2]
実施例2においては、ゴム添加量を変更させた場合における影響について調べた。
【0081】
(実施例2−1)
実施例2−1では、ゴム添加量が15%である点のみが実施例1−1と異なっていた。この際、凹凸構造の高さは40μm、傾斜角は49°だった。
【0082】
(実施例2−2)
実施例1−1と同じ太陽電池モジュールを実施例2−2とした。
【0083】
(比較例2−1)
比較例2−1では、凹凸フィルムがゴムを含まない点のみが実施例2−2と異なっていた。この際、凹凸構造の高さは42μm、傾斜角は51°だった。
【0084】
(比較例2−2)
比較例2−2では、ゴム添加量が10%である点のみが実施例2−2と異なっていた。この際、凹凸構造の高さは39μm、傾斜角は49°だった。
【0085】
(比較例2−3)
比較例2−3では、ゴム添加量が35%である点のみが実施例2−2と異なっていた。この際、凹凸構造の高さは37μm、傾斜角は48°だった。
【0086】
これら凹凸フィルムを接着した状態で太陽電池モジュールの光電変換特性を測定した。さらに、それぞれ20枚のフィルムを作製し、外観検査により合否判定を行い、合格となったフィルムの割合を歩留まりとして同じ表に示した。ここで、合否判定は切断面を目視観察することによって行い、切断面にクラック発生が認められないものを合格、クラック発生が認められるものを不合格とした。
【0087】
さらに、実施例2−1〜2−2および比較例2−1〜2−3で作製したフィルムの湿熱耐久性について調べた。湿熱耐久性試験では、5cm角に切ったフィルムをガラス基板に接着し、サンプルを作製した。作製したすべてのサンプルを恒温恒湿試験装置(楠本化成株式会社製HIFLEX FX434P)に同時に投入し、温度85℃、湿度85%に一定時間保ったのち同時に取り出してフィルム表面の凹凸構造の傾斜角を測定した。凹凸構造の傾斜角の測定は共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス製LEXT OLS3000)を用いて行った。観察した範囲は100μm四方であり、凹凸構造をランダムに20個選んで求めた。
【0088】
各サンプルの凹凸構造の傾斜角測定値を以下に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
実験の結果、ゴム成分の重量比の少ない比較例2−1、2−2は光電変換特性としては実施例2−2とほぼ同等の結果であるが、クラック起因の不良が多く、歩留まりが悪くなった。本発明の凹凸フィルムを屋外設置の太陽電池モジュール表面に接着する場合、クラックが発生しやすいことは大きな問題となりうる。これは、フィルムカット時にフィルムふちでクラックが発生し美観をそこなうことや、フィルム取り扱い時にフィルムが曲げに耐えられず、フィルムが折れて使用不能となるためである。
【0091】
反対に、ゴム添加量が多い比較例2−3では、歩留まりは高いものの光電変換特性が実施例2−2と比較して若干劣ることがわかる。ゴム添加量の増加に伴って凹凸構造に変化があらわれ、光閉じ込め効果を低減させたと考えられる。
【0092】
ゴム成分の重量比が15〜25%の実施例2−1、2−2は高い光電変換効率を示し、また歩留まりも高くなった。また、湿熱耐久性試験の結果、ゴム添加量が25%以下の実施例2−1〜2−2および比較例2−1〜2−2では湿熱耐性試験3000時間経過後でも凹凸構造の傾斜角が35°以上あることがわかる。一方ゴム添加量が35%である比較例2−3では湿熱耐性試験3000時間経過後では凹凸構造の傾斜角が30°を下回っている。
【0093】
凹凸構造の傾斜角が低下すると光散乱性が低下し、光閉じ込め効果が低下すると考えられる。したがって、ゴム添加量が35%の比較例2−3のフィルムは、太陽電池モジュールに接着して使用する場合、発電効率向上効果の長期的信頼性が劣ると考えられる。
【0094】
以上より、本発明の凹凸フィルムを用いることにより、特性が高く、歩留まりも向上し、長期的信頼性に優れた太陽電池モジュールを作製できることがわかった。