特許第6347622号(P6347622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人情報通信研究機構の特許一覧

<>
  • 特許6347622-ネットワークの故障検出方法 図000008
  • 特許6347622-ネットワークの故障検出方法 図000009
  • 特許6347622-ネットワークの故障検出方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347622
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】ネットワークの故障検出方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/26 20060101AFI20180618BHJP
   H04L 12/70 20130101ALI20180618BHJP
【FI】
   H04L12/26
   H04L12/70 100Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-26510(P2014-26510)
(22)【出願日】2014年2月14日
(65)【公開番号】特開2015-154256(P2015-154256A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】松田 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】原 晋介
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小野 文枝
【審査官】 上田 翔太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−171544(JP,A)
【文献】 特開2000−286847(JP,A)
【文献】 特開2012−173795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/26
H04L 12/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノードにより構成されるネットワークの故障検出方法であって、
互いに同期が確立していない送信ノードと受信ノードを含む複数の前記ノードにより構成される複数の伝送経路について、それぞれの前記伝送経路における通信に要する時間の仮値を、前記送信ノード及び前記受信ノードのクロックに基づき算出する第1算出工程と、
複数の前記伝送経路のうち1つを基準経路とし、前記基準経路における前記仮値と、他の前記伝送経路の前記仮値との差と算出する第2算出工程と、
前記第2算出工程により算出された前記基準経路と他の前記伝送経路との仮値の差を左辺に、それぞれの前記伝送経路についてそれぞれの前記ノードの有無を、それぞれの前記伝送経路だけに含まれる場合は1、それぞれの前記伝送経路と前記基準経路との両方に含まれる場合は0、そして前記基準経路だけに含まれる場合は−1として表すマトリックスと前記ノード間のリンクの前記通信に要する時間を表すマトリックスとの積を右辺に有する第1線形観測式を得る第1立式工程と、
前記第1立式工程により得られた前記第1線形観測式について圧縮センシングに基づき最小化問題を解くことで前記ネットワーク内の故障箇所を同定する第1同定工程と、
を有することを特徴とするネットワークの故障検出方法。
【請求項2】
前記最小化問題はl1/l2最適化問題であることを特徴とする請求項1記載のネットワークの故障検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークの故障検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ネットワークにおけるノードや基地局間のリンク不良、及び故障したノードや基地局の検出等、ネットワークの故障検出を行う技術は、ネットワークを高い信頼性で運用するために必要不可欠な技術である。
【0003】
特に近年、様々な有線・無線ネットワークを有機的に接続することで展開される大規模ネットワークが増加しているが、今後もモバイルネットワークの普及に伴い、その数は急速に増えることが予想される。
【0004】
そのため、ネットワークを構成する基地局リソース(時間管理等)ならびにネットワークリソース(回線容量等)に一様性を前提とせず、故障検出を高効率に行う技術は重要になると考えられる。
【0005】
こうした故障検出を行うため、従来は、管理ノードから他の全ノードに対してネットワークの故障検出用のパケットを送信し(例えば、特許文献1参照)、各ノードからの応答時間等を計測し、その計測結果から故障の有無や故障箇所の同定を行う等の方法が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−246122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のネットワークの故障検出方法では、全ノードに対して応答時間計測用のパケットを伝送するため、計測対象とするノードの増加に伴いパケットの伝送回数(経由リンク数)が指数関数的に増加し、ネットワークの回線容量を消費してしまう。
【0008】
また、ノードからの応答時間(伝送遅延時間)の計測によってリンクの不良やノードの故障を検出する場合、管理ノードとメンテナンス対象となる全ノードとの同期の確立が必要となるため、時刻の確立を行うことができない場合には、検出を行うことができない。
【0009】
一方、管理ノードとメンテナンス対象である全ノードとの時刻同期を前提とせず、一部のノード間で同期が確立されれば行いうるネットワークの故障方法も存在する。この方法について図1のネットワークを例に説明する。図1は、複数のノードにより構成されるネットワークの例を示す模式図である。
【0010】
図1に示すネットワークは、パケットの送信元である2つの送信ノードa、b、送信元と送信先とのパケットの授受の中継を行う2つの中継ノードc、d、及びパケットの最終的な送信先である2つの受信ノードe、fの合計6つのノードにより構成されている。なお、ネットワークは有線のものでも無線のものでも、あるいはそれらが混合されて構成されているものでも良い。
【0011】
送信ノードa−中継ノードc間のリンクをリンク1、送信ノードb−中継ノードc間のリンクをリンク2、中継ノードc−中継ノードd間のリンクをリンク3、中継ノードd−受信ノードe間のリンクをリンク4、中継ノードd−受信ノードf間のリンクをリンク5とする。
【0012】
また、送信ノードaから受信ノードe又はfへと至るパケットの経路であって、リンク1、リンク3及びリンク4を経るものを経路1、リンク1、リンク3及びリンク5を経るものを経路2とする。
【0013】
また、送信ノードbから受信ノードe又はfへと至るパケットの経路であって、リンク2、リンク3及びリンク5を経るものを経路3、リンク2、リンク3及びリンク4を経るものを経路4とする。
【0014】
こうしたネットワークにおいて、経路i(i=1、2、3、4)における通信に要する時間をDi、リンクj(j=1、2、3、4、5)における通信に要する時間をdjとすると、以下の数式(1)に示す連立方程式を導くことができる。
【0015】
【数1】
【0016】
ここで、Diは、送信ノードa又はbと、受信ノードe又はfとの間で同期が確立さえしていれば求めることができるものであり、中継ノードc、dとの同期の確立を必要としないで求めることができる。
【0017】
こうして得られた数式(1)の連立方程式は、以下の数式(2)として表すことができる。
【0018】
【数2】
【0019】
数式(2)において、Pathiは経路iにおいて経由するリンクの集合である。ここで、数式(2)について、yi=Di、xj=djとすると、以下の数式(3)に示す線形観測式の立式を行うことができる。
【0020】
【数3】
【0021】
数式(3)の左辺は、経路1〜4のそれぞれについての通信に要する時間yi(=dj、i=1、2、3、4)を示す4行1列のマトリックスである。この値は実測値として予め求めることができる。
【0022】
上述したようにこのネットワークの故障検出方法では中継ノードc、dについて、送信ノードa、bや受信ノードe、fとの同期が無くとも、各経路において送信ノードa又はbと受信ノードe又はfとの同期が確立しているため、パケットの送信時刻と受信時刻が分かる。そして、これにより実測値であるyiの値を求めることが可能となっている。
【0023】
数式(3)の右辺は、経路1〜4のそれぞれについて、リンク1〜5の含有の有無を、有りの場合を1、無しの場合を0として表した4行5列のマトリックスと、リンク1〜5のそれぞれの通信に要する時間により構成される5行1列のマトリックスとの積である。
【0024】
リンク1〜5のそれぞれの通信に要する時間は、各リンクを構成するノード間の同期が確立されていないため測定することができず、以下の演算により数学的に求められるものである。
【0025】
この数式(3)に示す線形観測式について、圧縮センシングに基づきl1/l2最適化問題等の最小化問題解くことにより、ネットワークの故障検出を行うことができる。なお、この最小化問題の演算は、受信側のノードのCPUの他、ネットワーク全体を管理する管理ノードが存在する場合にはそのCPU等、任意の場所で行わせることができる。
【0026】
しかし、この例でも、送信ノードa又はbと受信ノードe又はfとの同期は必須であり、これらのノード間の同期が確立していない場合にはネットワークの故障検出を行うことはできない。
【0027】
また、各ノードが同期を確立している場合でも、遅延時間の実測値に基づき故障検出を行う方法を採用した場合には、故障検出に必要な信号処理量が膨大なものとなり、実用的では無くなる恐れもある。
【0028】
そこで、本願第1発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、ノード間の同期を前提とすることなく故障検出が行えるとともに、故障検出に必要なネットワークの回線容量の消費及び信号処理量を低減することのできるネットワークの故障検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明者は、上述した課題を解決するために、ネットワークの回線容量の消費を抑えるとともに、端末間の同期を前提とすることのないネットワークの故障検出方法を発明した。
【0031】
また、本発明者は、故障検出に必要な信号処理量を低減することもできるネットワークの故障検出方法を発明した。
【0032】
第1発明に係るネットワークの故障検出方法は、複数のノードにより構成されるネットワークの故障検出方法であって、互いに同期が確立していない送信ノードと受信ノードを含む複数の前記ノードにより構成される複数の伝送経路について、それぞれの前記伝送経路における通信に要する時間の仮値を、前記送信ノード及び前記受信ノードのクロックに基づき算出する第1算出工程と、複数の前記伝送経路のうち1つを基準経路とし、前記基準経路における前記仮値と、他の前記伝送経路の前記仮値との差と算出する第2算出工程と、前記第2算出工程により算出された前記基準経路と他の前記伝送経路との仮値の差を左辺に、それぞれの前記伝送経路についてそれぞれの前記ノードの有無を、それぞれの前記伝送経路だけに含まれる場合は1、それぞれの前記伝送経路と前記基準経路との両方に含まれる場合は0、そして前記基準経路だけに含まれる場合は−1として表すマトリックスと前記ノード間のリンクの前記通信に要する時間を表すマトリックスとの積を右辺に有する第1線形観測式を得る第1立式工程と、前記第1立式工程により得られた前記第1線形観測式について圧縮センシングに基づき最小化問題を解くことで前記ネットワーク内の故障箇所を同定する第1同定工程と、を有することを特徴とする。
【0033】
第2発明に係るネットワークの故障検出方法は、第1発明に係るネットワークの故障検出方法であって、前記最小化問題はl1/l2最適化問題であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
上述した構成からなる第1発明によれば、ネットワークの回線容量の消費を抑えるとともに、端末間の同期を前提とすることなくネットワークの故障検出を行うことが可能となる
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】複数のノードにより構成されるネットワークの例を示す模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るネットワークの故障検出方法が適用されるネットワークを示す図である。
図3】2つのノード間の通信に要する時間が2値化される様子を示す図であり、(A)は2値化前の状態を、(B)は2値化後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態に係るネットワークの故障検出方法について詳細に説明する。
【0039】
[第1実施形態]
図2は、本発明の第1実施形態に係るネットワークの故障検出方法が適用されるネットワークを示す図である。
【0040】
図2に示すネットワークは、ノードS、ノードA、ノードB、ノードC、ノードD、ノードE、ノードF及びノードRの8つのノードにより構成されていて、ノードSからノードRに向けて、複数の他のノードを経由してパケットの送信が行われる。なお、ネットワークは有線のものでも無線のものでも、あるいはそれらが混合されて構成されているものでも良い。
【0041】
ここで、ノードS−ノードB間の通信に要する時間をd1とする。ノードS−ノードA間の通信に要する時間をd2とする。ノードB−ノードC間の通信に要する時間をd3とする。ノードA−ノードC間の通信に要する時間をd4とする。ノードB−ノードF間の通信に要する時間をd5とする。ノードC−ノードD間の通信に要する時間をd6とする。ノードA−ノードE間の通信に要する時間をd7とする。ノードD−ノードF間の通信に要する時間をd8とする。ノードD−ノードE間の通信に要する時間をd9とする。ノードF−ノードR間の通信に要する時間をd10とする。ノードE−ノードR間の通信に要する時間をd11とする。なお、各ノード間で同期が確立していないため、d1〜d11の実測値を求めることはできない。
【0042】
本実施形態では、上記各ノード間の何れか1つにおいて通信の障害が生じていて、通信に要する時間が大幅に増加するか又は通信を全く行えない状況を仮定している。これは、故障の生じている箇所は非常に少ないというスパース性に基づく仮定である。
【0043】
そして、上記各ノード間の何れか1つにおいて通信の障害が生じているということは、すなわち、d1〜d11の何れか1つが他のものよりもはるかに長い時間になるということである。
【0044】
ここで、ノードS、ノードB、ノードFを経てノードRに至る通信経路において通信に要する時間をD1とすると、D1は以下の式で表される。
D1=d1+d5+d10
【0045】
また、ノードS、ノードB、ノードC、ノードD、ノードFを経てノードRに至る通信経路において通信に要する時間をD2とすると、D2は以下の式で表される。
D2=d1+d3+d6+d8+d10
【0046】
また、ノードS、ノードB、ノードC、ノードD、ノードEを経てノードRに至る通信経路において通信に要する時間をD3とすると、D3は以下の式で表される。
D3=d1+d3+d6+d9+d11
【0047】
また、ノードS、ノードA、ノードC、ノードD、ノードFを経てノードRに至る通信経路において通信に要する時間をD4とすると、D4は以下の式で表される。
D4=d2+d4+d6+d8+d10
【0048】
また、ノードS、ノードA、ノードC、ノードD、ノードEを経てノードRに至る通信経路において通信に要する時間をD5とすると、D5は以下の式で表される。
D5=d2+d4+d6+d9+d11
【0049】
また、ノードS、ノードA、ノードEを経てノードRに至る通信経路において通信に要する時間をD6とすると、D6は以下の式で表される。
D6=d2+d7+d11
【0050】
こうしてd1〜d11を用いてD1〜D6を表すことができる。これらに基づき、D1〜D6について、下記数式(4)に示す線形観測式として表すことができる。なお、この線形観測式の立式及び以下に示す各数式の立式は、受信側のノードのCPUの他、ネットワーク全体を管理する管理ノードが存在する場合にはそのCPU等、任意の場所で行わせることができる。
【0051】
【数4】
【0052】
数式(4)の左辺は、D1〜D6を示す6行1列のマトリックスである。
【0053】
数式(4)の右辺は、D1〜D6について、それぞれd1〜d11の含有の有無を、有りの場合を1、無しの場合を0として表した6行11列のマトリックスと、ノード間のリンクの遅延時間であるd1〜d11により構成される11行1列のマトリックスとの積である。
【0054】
ノードS−ノードR間の同期が確立している場合には、この数式(4)に示す線形代数式からd1〜d11を得ることができ、D1〜D6を得ることができる。そして、l1/l2最適化等を行うことで故障検出を行うことができる。
【0055】
しかし、本実施形態においては、ノードS−ノードR間の同期が確立していないため、d1〜d11を得ることができない。また、ノードS−ノードR間の同期も確立していないため、D1〜D6の正確な実測値も得ることはできない。
【0056】
しかし、ノードSとノードRはそれぞれ固有のクロックに基づき動作していて、それぞれの時刻をパケットの送信時間及び受信時間としてパケットデータに含めることはできる。
【0057】
そこで、同期が確立していない状態においてノードSとノードRとがそれぞれパケットデータに記録した、データの送信時間及び受信時間に基づいて、D1〜D6の値が仮値として求められている。
【0058】
例えば、ノードSとノードRとの間の未知の時刻オフセットをδとすると、D1〜D6の仮値は次の数式(5)のように表現できる。
【0059】
【数5】
【0060】
上でも述べたとおり、上記数式を直接用いてl1/l2最適化等により故障検出を行う場合は、時刻オフセットがゼロあるいは既知である必要がある。
【0061】
本実施形態に係るネットワークの故障検出方法では、このD1〜D6の仮値を用いることで、ノードS−ノードR間の同期を前提としない故障検出を可能としている。
【0062】
数式(6)は、本実施形態に係るネットワークの故障検出方法において用いられる線形観測式である。数式(6)は、上記数式に基づき得ることができる。
【0063】
【数6】
【0064】
数式(6)の左辺は、D6の仮値を基準とし、D1〜D5の仮値のそれぞれとD6の仮値の差を示す5行1列のマトリックスである。
【0065】
ここで、左辺のD1〜D6の差について、いずれか一方のみに故障箇所(d1〜d11の何れか)が含まれている場合には、その差は故障箇所の影響により膨大な正又は負の値となる。
【0066】
一方、左辺のD1〜D6の差について、双方に故障箇所が含まれている場合には、故障箇所同士が打ち消しあうこととなるため、故障箇所による影響は現れない。
【0067】
こうして、左辺の値については、いずれか一方について故障箇所がある場合には、故障箇所による影響が明確に現れたものとなる。
【0068】
数式(6)の右辺は、仮値D1〜D5のそれぞれと基準経路である仮値D6との差について、d1〜d11の含有の有無を、それぞれの通信経路だけに含まれる場合は1、それぞれの通信経路と基準経路の両方に含まれる場合は0、そして基準経路だけに含まれる場合は−1として表した5行11列のマトリックスと、ノード間のリンクの遅延時間であるd1〜d11により構成される11行1列のマトリックスとの積である。
【0069】
このように、ノードS−ノードR間の同期が確立されていない状況下で、ノードS−ノードR間の1つの基準ルートにおける通信に要する時間(本実施形態ではD6)を基準にし、他のルートにおける通信に要する時間(本実施形態ではD1〜D5)との差を算出している。こうすることで、従来ノードS−ノードR間の同期が確立していない状況下では行うことのできなかった線形観測式による解析を行うことができる。
【0070】
この数式(6)に示す線形観測式について、圧縮センシングに基づきl1/l2最適化問題等の最小化問題解くことにより、ネットワークの故障検出を行うことができる。この最小化問題の演算は、受信側のノードのCPUの他、ネットワーク全体を管理する管理ノードが存在する場合にはそのCPU等、任意の場所で行わせることができる。
【0071】
このように、第1実施形態に係るネットワークの故障検出方法によると、複数の端末を経由する経路及び基準経路を指定して、各経路と基準経路との通信に要する時間の差分から故障箇所の同定を行っている。
【0072】
これにより、故障検出を目的とした通信時間の計測の際、計測用パケットの伝送経路に基準経路を定めて、その基準経路における通信に要する時間と他の経路における通信に要する時間との差分を元にすることで、端末間の時刻同期の確立が無くとも故障検出を行うことができる。
【0073】
また、従来の全ノードに対して故障検出用のパケットを送信する方法と比較して、少ないパケット送信・受信での保守が可能となる。よって、ネットワークの回線容量の消費を抑えることが可能となる。
【0074】
更に、従来の線形観測式と比較しマトリックスの成分数を減らすことができるため、故障検出に必要な信号の処理量を削減することができる。
【0075】
[第2実施形態]
次に、本願発明の第2実施形態について、上述した図1のネットワークを例に説明する。本実施形態は、各ノード間に同期が確立されている場合において、故障検出に必要な信号処理量を低減することのできるネットワークの故障検出方法に関する。
【0076】
上述したように、図1のネットワークは、2つの送信ノードa、b、2つの中継ノードc、d及び2つの受信ノードe、fの合計6つのノードにより構成されている。ここでも、ネットワークは有線のものでも無線のものでも、あるいはそれらが混合されて構成されているものでも良い。
【0077】
送信ノードa−中継ノードc間のリンクをリンク1、送信ノードb−中継ノードc間のリンクをリンク2、中継ノードc−中継ノードd間のリンクをリンク3、中継ノードd−受信ノードe間のリンクをリンク4、中継ノードd−受信ノードf間のリンクをリンク5とする。
【0078】
また、送信ノードaから受信ノードe又はfへと至るパケットの経路であって、リンク1、リンク3及びリンク4を経るものを経路1、リンク1、リンク3及びリンク5を経るものを経路2とする。
【0079】
また、送信ノードbから受信ノードe又はfへと至るパケットの経路であって、リンク2、リンク3及びリンク4を経るものを経路3、リンク2、リンク3及びリンク5を経るものを経路4とする。
【0080】
上述したように、本実施形態においては、各ノード間で同期が確立された状態となっている。そのため、こうしたネットワークにおいて、リンクj(j=1、2、3、4、5)における通信に要する時間の実測値を算出することが可能となっている。
【0081】
そのため、理論上は上述した従来技術のように、ブーリアン圧縮センシングに基づきl1最適化問題等の最小化問題解くことにより、ネットワークの故障検出を行うことが可能である。
【0082】
しかし、現実的には、こうした実測値に基づき解析を行う場合には、故障検出に必要な信号の処理量が膨大であり、こうした方法に基づく故障検出は難しかった。
【0083】
そこで、本実施形態に係るネットワークの故障検出方法では、実測値を2値化することで故障検出に要する信号処理量の削減を実現している。
【0084】
本実施形態に係るネットワークの故障検出方法では、リンクj(j=1、2、3、4、5)における通信に要する時間の実測値を2値化したものをdjとしている。
【0085】
図3は、2つのノード間の通信に要する時間が2値化される様子を示す図であり、(A)は2値化前の状態を、(B)は2値化後の状態を示す図である。
【0086】
本実施形態に係るネットワークの故障検出方法では、図3に示すように、2つのノード間の通信に要する時間等、通信品質を表すリンク状態に閾値を設定し、閾値を下回る値については全て0とし、それ以外のものは全て1とする。そして、判定結果である0又は1の2値(ブーリアン値)によって故障箇所の判定を行う。なお、この2値化は、受信側のノードのCPUの他、ネットワーク全体を管理する管理ノードが存在する場合にはそのCPU等、任意の場所で行わせることができる。
【0087】
また、経路i(i=1、2、3、4)において2値化されたdjの総和について、1以上の値になるものを1、それ以外を0と2値化したものをDiとしている。この総和の算出及び2値化も、同様に受信側のノードのCPUの他、ネットワーク全体を管理する管理ノードが存在する場合にはそのCPU等、任意の場所で行わせることができる。
【0088】
これらのdjとDiとに基づき、上述した数式(1)と同様の連立方程式が導かれる。
【0089】
ここで、従来の故障検出方法では、2つのノード間の通信に要する時間及び各経路における通信に要する時間として、実測された値をそのまま用いて解析に供されていた。
【0090】
しかし、本実施形態に係るネットワークの故障検出方法では、時間dj及びDiとして0か1の2つの値のみが用いられている。
【0091】
こうして得られた数式(1)の連立方程式も、上述した数式(2)として表される。
【0092】
そして、数式(2)について、yi=di、xj=djとし、同様に数式(3)に示す線形観測式の立式が行われる。この立式も、受信側のノードのCPUの他、ネットワーク全体を管理する管理ノードが存在する場合にはそのCPU等、任意の場所で行わせることができる。
【0093】
このとき、数式(3)の左辺は、従来の方法とは異なり、経路1〜4のそれぞれについて2値化されたdjの総和について、1以上の値になるものを1、それ以外を0としたものを示す4行1列のマトリックスである。
【0094】
数式(3)の右辺は、経路1〜4のそれぞれについて、リンク1〜5の含有の有無を、有りの場合を1、無しの場合を0として表した4行5列のマトリックスと、リンク1〜5のそれぞれの通信に要する時間を2値化したものにより構成される5行1列のマトリックスとの積である。ここで、xj(j=1、2、3、4、5)は2値化された値であり、0か1の何れかの値となる。
【0095】
そして、この数式(3)に示す線形観測式について、ブーリアン圧縮センシングに基づきl1最適化問題等の最小化問題を解くことにより、ネットワークの故障検出を行うことができる。この演算は論理演算により行われる。
【0096】
このとき、xjが2値化されているため、計算を迅速かつ簡易に行うことができるようになっている。なお、この最小化問題を解くことも、受信側のノードのCPUの他、ネットワーク全体を管理する管理ノードが存在する場合にはそのCPU等、任意の場所で行わせることができる。
【0097】
このように、本実施形態に係るネットワークの故障検出方法によると、上述したように2つのノード間の通信に要する時間に閾値を設定し、その閾値判定結果である0又は1の2値によって故障箇所の判定を行う。これにより、故障検出に必要な信号処理量及び信号処理に要する消費電力を低減することができる。
【0098】
なお、上述した本実施形態に係るネットワークの故障検出方法におけるノード間の通信に要する時間の2値化を、閾値に応じて行うのではなく、パケットが届いたか否かに基づき行うこともできる。この場合には、上述した第1実施形態と同様、ノード間の同期が確立されていなくとも、ネットワークの故障検出をすることができる。
【符号の説明】
【0099】
S、A、B、C、D、E、F、R、a、b、c、d、e、f ノード
図1
図2
図3