特許第6347645号(P6347645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347645
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】防振支持装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20180618BHJP
   F16F 1/36 20060101ALI20180618BHJP
   F16F 3/08 20060101ALI20180618BHJP
   F16B 41/00 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   F16F15/08 M
   F16F1/36 K
   F16F3/08
   F16B41/00 B
   F16B41/00 K
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-74051(P2014-74051)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-197125(P2015-197125A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201869
【氏名又は名称】倉敷化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲
(72)【発明者】
【氏名】川上 博
(72)【発明者】
【氏名】中原 卓哉
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−020170(JP,A)
【文献】 実開昭63−188425(JP,U)
【文献】 特開2002−162096(JP,A)
【文献】 特開2012−087860(JP,A)
【文献】 特開2012−087859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00−15/36
F24F 1/00
F24F 13/32
F16B 1/00
F16B 41/00
F16L 3/14
F16F 1/00−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井から吊りボルトを介して吊り下げられて設置される天吊り式設備機器の防振支持装置であって、
前記天吊り式設備機器に取り付けられて水平方向に延びる取付部と、該取付部の端部を下方向に延びるように折り曲げてなる鍔部とを備え、前記取付部ないし鍔部に、前記吊りボルトが嵌挿されるU字状のスリットが鍔部から取付部に亘り有底状に切り欠いて形成された連結片と、
前記連結片のスリットに嵌挿された吊りボルトに螺合締結され、前記連結片の取付部を上下両側からそれぞれ上側弾性体及び下側弾性体を介して挟んだ状態で吊りボルトを連結片に固定する上下の連結具と、
前記吊りボルトと連結片との間に外力が加えられて吊りボルトがスリットの開口から外れる方向に相対移動した場合に、前記スリットの開口両側の鍔部に同時に面接触状態で接触して、前記吊りボルトのスリットの開口からの離脱を阻止する係止手段と
を備え
前記連結片と前記下側弾性体との間にワッシャが配置され、
前記係止手段は、前記ワッシャの外周に形成されかつ前記スリットの幅よりも長い係止部であることを特徴とする防振支持装置。
【請求項2】
上記ワッシャは、前記下側弾性体の上面に形成された凹陥部に嵌合されていることを特徴とする請求項1に記載の防振支持装置。
【請求項3】
天井から吊りボルトを介して吊り下げられて設置される天吊り式設備機器の防振支持装置であって、
前記天吊り式設備機器に取り付けられて水平方向に延びる取付部と、該取付部の端部を下方向に延びるように折り曲げてなる鍔部とを備え、前記取付部ないし鍔部に、前記吊りボルトが嵌挿されるU字状のスリットが鍔部から取付部に亘り有底状に切り欠いて形成された連結片と、
前記連結片のスリットに嵌挿された吊りボルトに螺合締結され、前記連結片の取付部を上下両側からそれぞれ上側弾性体及び下側弾性体を介して挟んだ状態で吊りボルトを連結片に固定する上下の連結具と、
前記吊りボルトと連結片との間に外力が加えられて吊りボルトがスリットの開口から外れる方向に相対移動した場合に、前記スリットの開口両側の鍔部に同時に面接触状態で接触して、前記吊りボルトのスリットの開口からの離脱を阻止する係止手段と
を備え、
前記下側弾性体と前記下側連結具との間にワッシャが配置され、
前記係止手段は、前記ワッシャの外周に形成されかつ前記スリットの幅よりも長い係止部であることを特徴とする防振支持装置。
【請求項4】
前記係止部が、前記ワッシャの外周において吊りボルトの直径方向に対向する位置の一方に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防振支持装置。
【請求項5】
前記係止部が、前記ワッシャの外周において吊りボルトの直径方向に対向する位置の両方に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防振支持装置。
【請求項6】
前記係止部が、板形状であることを特徴とする請求項〜5のいずれか1項に記載の防振支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井から吊りボルトを介して吊り下げられて設置される天吊り式設備機器の防振支持装置に関し、特に外れ止め機能を備えた防振支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空調機などの天吊り式設備機器は、天井から吊りボルトを介して吊り下げられて防振支持されることが一般に行われている。
【0003】
このような天吊り式設備機器を防振支持するための防振支持装置では、例えば図10(a)に示すように、設備機器101に取り付けられた連結片102の取付部102a及び鍔部102bに該鍔部102bで開口するU字状のスリット102cを形成し(図10(b)参照)、このスリット102cに対して開口から吊りボルト103を嵌挿させ、この吊りボルト103に複数のナット104を螺合して、それらナット104間に防振ゴム等の弾性材105,106を介して連結片102を挟持させることにより防振支持するようにしている。
【0004】
ここで、連結片102に形成されたU字のスリット102cは、施工性を考慮したものであるが、従来の防振支持装置100では、スリット102cの開口方向に対して、ストッパー形状のものを有していないため、地震などの外力が吊りボルト103と連結片102との間に加わった場合、吊りボルト103がスリット102cから外れ易く、設備機器101が落下するという問題があった。
【0005】
そこで、近年、地震発生時において天吊り式設備機器の落下を防止するために、従来の防振機能のみならず、減震機能や外れ止め機能を付加した種々の防振支持装置が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1に開示される防振吊り減振構造体は、天井に固定された第1吊りボルトの下端部と、設備機器に固定の連結片に形成されたスリットに嵌挿され、連結具により固定された第2吊りボルトの上端部とを、振動低減連結ユニットを介してこれら吊りボルトの軸方向に相対移動可能に連結させることにより、地震発生時に加わる振動エネルギーを両吊りボルトの相対移動により減衰して吊りボルトに作用する振動負荷を低減させるようにしている。これにより、吊りボルト及び連結片に加わる振動自体を低減させ、設備機器の落下を防止することができる。
【0007】
また、特許文献2に開示される脱落防止金具は、従来の支持装置に対し、連結片の取付部の下側又は取付部を挟むように連結片の側方から挿入可能な二股形状の本体プレート上に、装着後に連結片のスリットと嵌合可能な突起が形成されたものである。これにより、設備機器の施工後であってもワンタッチで脱落防止機能を支持装置に付加することができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−167294号公報
【特許文献2】特開2013−117363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1の防振吊り減振構造体においては、連結片のスリットに挿入された第2吊りボルトは、クリップ形状の長ナットを連結片の下側に取り付けることにより連結片に固定されているが、スリットからの吊りボルトの脱離を直接防止する外れ止め機構がないため、クリップ形状の長ナットが外れた場合には、設備機器の脱落を確実に防止することができない。また、装置全体の減振効果は高いものの、部品構造が複雑で施工に手間がかかるとともに、施工費用が高くなるという問題があった。
【0010】
また、特許文献2の脱落防止金具においては、外れ止め機能は付与されるものの、従来の支持装置に新たな部品を追加することになるため、本質的に施工の手間が増えるという問題があった。さらに、特許文献2の脱落防止金具は、コイルばねを備えた部品を介して吊りボルトと連結片とを防振支持する防振支持装置にも装着可能であるが、やはり構成が複雑で施工面及び費用面で問題がある。
【0011】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、最も手軽で広く普及している防振ゴム材を介して吊りボルトを連結片に固定支持する防振支持装置において、使用する部品構成や、施工要領などを従来の防振支持装置と変えることなく外れ止め機能も付加して、吊りボルトがスリットから外れるのを防止しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、弾性材を介して吊りボルトを連結片に固定する防振支持装置において、吊りボルトが連結片に形成されたスリットの開口から離脱しようとするときに強制的に鍔部に係止する係止手段を設け、この係止により吊りボルトの離脱を阻止するようにした。
【0013】
具体的には、第1発明に係る防振支持装置は、天井から吊りボルトを介して吊り下げられて設置される天吊り式設備機器の防振支持装置であって、前記天吊り式設備機器に取り付けられて水平方向に延びる取付部と、該取付部の端部を下方向に延びるように折り曲げてなる鍔部とを備え、前記取付部ないし鍔部に、前記吊りボルトが嵌挿されるU字状のスリットが鍔部から取付部に亘り有底状に切り欠いて形成された連結片と、前記連結片のスリットに嵌挿された吊りボルトに螺合締結され、前記連結片の取付部を上下両側からそれぞれ上側弾性体及び下側弾性体を介して挟んだ状態で吊りボルトを連結片に固定する上下の連結具と、前記吊りボルトと連結片との間に外力が加えられて吊りボルトがスリットの開口から外れる方向に相対移動した場合に、前記スリットの開口両側の鍔部に同時に面接触状態で接触して、前記吊りボルトのスリットの開口からの離脱を阻止する係止手段とを備え、前記連結片と前記下側弾性体との間にワッシャが配置され、前記係止手段は、前記ワッシャの外周に形成されかつ前記スリットの幅よりも長い係止部であることを特徴とする。
【0014】
この第1発明では、吊りボルトと連結片との間に外力が加えられて吊りボルトがU字状のスリットの開口から外れる方向に移動しようとしても、係止手段が鍔部に接触するので、吊りボルトがスリットの開口から外れることはない。このことにより吊りボルトのスリット開口からの離脱を防ぐことができる。また、防振支持装置に係止手段を設けるだけであるので、従来の防振支持装置と同様にして防振支持を行うことができる。よって、防振支持及び吊りボルトの外れ止めを行うことができる。そして、連結片と下側弾性体との間に配置されるワッシャは、防振支持装置の構成部品であり、このワッシャの外周に形成された係止部を前記係止手段とすることにより、従来の防振支持装置に、簡便に外れ止め機能を付加することができる。また、前記係止部は、スリットの幅よりも長いため、吊りボルトの相対移動時にスリット両側の鍔部に確実にかつ大きな面積で接触するようになり、吊りボルトの離脱を防止することができる。
【0015】
また、第2発明に係る防振支持装置は、第1発明において、上記ワッシャは、前記下側弾性体の上面に形成された凹陥部に嵌合されている
【0017】
また、第3発明に係る防振支持装置は、天井から吊りボルトを介して吊り下げられて設置される天吊り式設備機器の防振支持装置であって、前記天吊り式設備機器に取り付けられて水平方向に延びる取付部と、該取付部の端部を下方向に延びるように折り曲げてなる鍔部とを備え、前記取付部ないし鍔部に、前記吊りボルトが嵌挿されるU字状のスリットが鍔部から取付部に亘り有底状に切り欠いて形成された連結片と、前記連結片のスリットに嵌挿された吊りボルトに螺合締結され、前記連結片の取付部を上下両側からそれぞれ上側弾性体及び下側弾性体を介して挟んだ状態で吊りボルトを連結片に固定する上下の連結具と、前記吊りボルトと連結片との間に外力が加えられて吊りボルトがスリットの開口から外れる方向に相対移動した場合に、前記スリットの開口両側の鍔部に同時に面接触状態で接触して、前記吊りボルトのスリットの開口からの離脱を阻止する係止手段とを備え、前記下側弾性体と前記下側連結具との間にワッシャが配置され、前記係止手段は、前記ワッシャの外周に形成されかつ前記スリットの幅よりも長い係止部とする。
【0018】
この第3発明の構成においても、上記第発明と同様に、簡便に外れ止め機能を付加することができる。また、スリット幅よりも長い係止部により、吊りボルトの離脱を確実に防止することができる。
【0019】
また、第4発明に係る防振支持装置は、第1〜第3発明において、前記係止部が、前記ワッシャの外周において吊りボルトの直径方向に対向する位置の一方に形成されている構成とする。
【0020】
この第4発明では、係止部がワッシャの外周の吊りボルト直径方向に対向する位置の一方に部分的に形成されており、この係止部を鍔部と下側弾性体との間に配置させることにより、吊りボルトのスリットからの離脱を防止することができる。
【0021】
また、第5発明に係る防振支持装置は、第1〜第3発明において、前記係止部が、前記ワッシャの外周において吊りボルトの直径方向に対向する位置の両方に形成されている構成とする。
【0022】
この第5発明では、係止部がワッシャの外周の吊りボルト直径方向に対向する位置の両方に形成されているため、施工時に両係止部のいずれか一方を鍔部と下側弾性体との間に配置すれば、その係止部によって吊りボルトのスリットの開口からの離脱を阻止することができる。このことで施工時に係止手段として配置できる係止部の選択肢が増え、その分、施工性を向上させることができる。
【0023】
また、第6発明に係る防振支持装置は、第〜第5発明において、前記係止部が、板形状とする。
【0024】
この第6発明では、係止部が板形状であるため、鍔部に面接触状態で接触するようになり、確実に吊りボルトの移動を止めることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によると、広く普及している防振ゴム材を介して吊りボルトを連結片に固定支持する防振支持装置において、吊りボルトがスリットから離脱するのを防止する係止手段を設けたことにより、使用する部品構成や、施工要領などを従来の防振支持装置と変えることなく外れ止め機能を付加し、天吊り式設備機器の防振支持のみならず脱落防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る防振支持装置を示し、図1(a)は吊りボルトに装着したときの全体側面図、図1(b)はワッシャ及び下側弾性体の連結片に装着時の平面図、図1(c)はワッシャ及び下側弾性体の側面図、図1(d)はワッシャ及び下側弾性体の平面図、及び図1(e)はワッシャの係止部の正面図である。
図2図2は、本発明の第2実施形態に係る防振支持装置を示し、図2(a)は吊りボルトに装着時の全体側面図、図2(b)はワッシャ及び下側弾性体の連結片に装着時の平面図、図2(c)はワッシャ及び下側弾性体の側面図、及び図2(d)はワッシャ及び下側弾性体の平面図である。
図3図3は、本発明の第3実施形態に係る防振支持装置を示し、図3(a)〜(d)は図2相当図である。
図4図4は、本発明の第4実施形態に係る防振支持装置を示し、図4(a)〜(d)は図2相当図である。
図5図5は、本発明の第5実施形態に係る防振支持装置を示し、図5(a)〜(d)は図2相当図である。
図6図6は、本発明の第6実施形態に係る防振支持装置を示し、図6(a)〜(d)は図2相当図である。
図7図7は、本発明の第7実施形態に係る防振支持装置を示し、図7(a)〜(d)は図2相当図である。
図8図8は、本発明の第8実施形態に係る防振支持装置を示し、図8(a)〜(d)は図2相当図である。
図9図9は、本発明の第9実施形態に係る防振支持装置を示し、図9(a)〜(d)は図2相当図である。
図10図10は、従来技術の防振支持装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0028】
(第1実施形態)
図1(a)〜(e)は、本発明の第1実施形態に係る防振支持装置1を示す。
【0029】
図1(a)に示すように、本実施形態に係る防振支持装置1は、室内等の天井(図示せず)から垂下する吊りボルト2の下端部に対して、天吊り式設備機器3を防振状態で吊り下げて固定支持するためのものである。防振支持装置1は、天吊り式設備機器3の側面に取り付けられた連結片4と、上記吊りボルト2に連結片4を挟んだ状態で螺合締結される上側ナット5及び下側ナット6a,6bと、上側ナット5の下側に配置されるワッシャ7と、このワッシャ7及び連結片4の間に介在される上側弾性体9と、下側ナット6aの上側に配置されるワッシャ8と、このワッシャ8及び連結片4の間に介在される下側弾性体10と、この下側弾性体10及び連結片4の間に介在されるワッシャ11とを備える。
【0030】
連結片4は、天吊り式設備機器3の側面に例えばボルト12等により取付固定された固定部4dと、この固定部4d取付部分の上端から水平方向に突出して延びる取付部4aとを有する。また、この取付部4aの先端部(固定部4dと対向する側の端部)には、同先端部を下方向に延びるように折り曲げてなる鍔部4bが形成されている。
【0031】
図1(b)に示すように、連結片4の取付部4a及び鍔部4bには、その幅方向の略中央に、鍔部4bから取付部4aの長さ方向(突出方向)の略中央に亘り有底状に切り欠くことで、U字状のスリット4cが形成されている。そして、このU字状のスリット4cの底部(切欠き底部)に、吊りボルト2が嵌挿されるようになっている。
【0032】
上側ナット5及び下側ナット6a,6bは、吊りボルト2を連結片4の取付部4a、すなわちスリット4cの底部周りに固定するためのものである。上側ナット5及び下側ナット6a,6bは、吊りボルト2を螺合可能なねじ孔を中心に備えた正六角形の形状を有している。上側ナット5及び下側ナット6a,6bは、連結片4のスリット4cに嵌挿された吊りボルト2に対し、連結片4のそれぞれ上側及び下側に配置されて螺合される。そして、これらのナット5,6a,6bを連結片4の上下両側から螺合締結させることにより、吊りボルト2が連結片4に固定される。本実施形態において、上側ナット5は1つ、下側ナット6a,6bは2つ備えられているが、上側ナット及び下側ナットともにそれぞれ1つ以上備えられていればよい。
【0033】
ワッシャ7,8は、ナット5,6a,6bを螺合締結させる際に、上側弾性体9及び下側弾性体10の連れ回りを防止するとともに、ナット5,6a,6bの緩みを防止するためのものである。ワッシャ7,8は、吊りボルト2を挿通可能な孔を中心に備え、ナット5,6a,6bの径よりも僅かに大径の円板形状を有している。
【0034】
上側弾性体9及び下側弾性体10は、図1(a)に示すように、連結片4の取付部4aを上下両側から挟み込んだ状態で取り付けられ、吊りボルト2と連結片4との直接の接触を回避することにより、天吊り式設備機器3の作動に伴う振動が吊りボルト2を介して直接天井に伝わらないようにするものである。
【0035】
上側弾性体9は、吊りボルト2を挿通可能な貫通孔を中心に備えた円筒形状である。この貫通孔は大小2種類の径を有しており、貫通孔の上半部は吊りボルト2を挿通可能な径を有しているのに対し、貫通孔の下半部は、この上半部の径よりも大径となっている。
【0036】
下側弾性体10も、吊りボルト2を挿通可能な貫通孔を中心に備えている。しかし、この下側弾性体10の断面形状は、上側弾性体9の断面形状の円形と同径の円形を有しているが、その上半部の外周が切り取られたような形状であり、従って下側弾性体10は、上面に平坦面を有する略円筒形状の基体10aを有する。また、この基体10aの上面(平坦面)には円筒形状の突起10bが同心状に突設されており、この突起10bの中心には基体10aの貫通孔が突起10bの先端部まで延びている。突起10bの壁の厚さは、上側弾性体9の貫通孔の上半部の径と下半部の径との差に対応しており、上側弾性体9と下側弾性体10とにより連結片4を挟持すると、突起10bが、上側弾性体9の貫通孔の下半部に密接状態で嵌合するようになっている。従って、突起10bの高さは、上側弾性体9の下側半分の高さと連結片4の厚さを加えた高さとなっている。
【0037】
従って、図1(a)に示すように、上側弾性体9及び下側弾性体10に挿通した吊りボルト2を両弾性体9,10間で連結片4のスリット4cに嵌挿させ、吊りボルト2に螺合されているナット5,6a,6bにより上下両側から両弾性体9,10を介して連結片4を挟持すると、吊りボルト2と、吊りボルト2が嵌挿された連結片4のスリット4cの底部との間には、下側弾性体10の突起10bが存在するため、吊りボルト2と連結片4とは非接触状態で保持されるようになっている。
【0038】
これにより、天吊り式設備機器3の作動により生じる振動が直接吊りボルト2に伝わらないため、天吊り式設備機器3を安定して防振支持することができる。
【0039】
また、図1(c)から判るように、下側弾性体10の基体10aの上下面にはそれぞれワッシャ8,11が嵌合される凹陥部が形成されている。それぞれの凹陥部の深さは、それぞれのワッシャの厚さに対応しており、両ワッシャ8,11が下側弾性体10に嵌合されると、ワッシャ8,11の表面と基体10aの上面又は下面の凹陥部以外の部分とがそれぞれ面一となる。上側のワッシャ11が基体10aの凹陥部に嵌合される態様については後で詳述する。
【0040】
ワッシャ11は、ワッシャ8と同じ円板形状を基本として、その外周の一部が円板形状の半径方向外側に向かって延びた半長円形状の水平部11aを有している。この水平部11aの円板部分の中心には、下側弾性体10の突起10bを挿通可能な孔が貫通形成されている。水平部11aの半径方向外側に延びた部分の先端部には、水平部11aから下方向に直角に折り曲げられた係止部11bが形成されており、図1(d)及び(e)に示すように、この係止部11bはその幅方向の両端が水平部11aの幅よりも長く両側に延びた形状を有している。これにより、係止部11bは、連結片4のスリット4cの開口の幅よりも長い幅の板形状を有している。
【0041】
上述のごとく、ワッシャ11は、下側弾性体10の基体10aの突起10bが形成された面上の凹陥部に嵌合されている。このとき、図1(c)に示すように、下側弾性体10の突起10bがワッシャ11の孔に挿通され、ワッシャ11の水平部11aが、基体10aの表面の凹陥部に嵌合される。そして、ワッシャ11先端部の係止部11bが、基体10aの平坦面に接触保持される。
【0042】
図1(a)に示すように、ワッシャ11を連結片4と下側弾性体10との間に配置する際に、下側弾性体10の基体10aの平坦面に接触保持されているワッシャ11の係止部11bは、連結片4の鍔部4b側に配置される。これにより、ワッシャ11の係止部11bは、吊りボルト2と連結片4との間に地震等により外力が加えられて、吊りボルト2が連結片4のスリット4cの開口から外れる方向に相対移動した場合に、スリット4cの開口両側の鍔部4bに同時に面接触状態で接触して、吊りボルト2のスリット4cの開口からの離脱を阻止する係止手段となる。すなわち、本実施形態においては、連結片4と前記下側弾性体10との間にワッシャ11が配置され、このワッシャ11の外周において吊りボルト2の直径方向に対向する位置の一方に、スリット4cの幅よりも長い係止部11bを形成し、この係止部11bを連結片4の鍔部4bと下側弾性体10との間に配置することにより、吊りボルト2のスリット4cからの離脱を防止するようにしている。
【0043】
したがって、この実施形態においては、前記のような構成とすることにより、吊りボルト2と連結片4との間に外力が加えられて吊りボルト2がU字状のスリット4cの開口から外れる方向に移動しようとしても、鍔部4bと下側弾性体10との間に配置されている係止部11bが連結片4の鍔部4bに接触する。このことで、吊りボルト2がスリット4cの開口から外れることはなく、吊りボルト2の離脱を防ぐことができる。
【0044】
また、そのとき、係止部11bは、スリット4cの幅よりも長く、かつ板形状を有するため、吊りボルト2の相対移動時にスリット4c両側の鍔部4bに確実にかつ大きな面積に亘って面接触状態で接触し、確実に吊りボルトの移動を止め、その離脱を確実に防止することができる。そして、下側弾性体10の断面形状が通常のものと同様の円形であるため、どのような連結片及び吊りボルトにも組み合わせが可能であり、汎用性に優れるとともに施工性も向上する。
【0045】
さらに、ワッシャ11は、防振支持装置1の構成部品であり、このワッシャ11の外周に形成された係止部11bを前記係止手段とすることにより、従来の防振支持装置と同様にして防振支持を行うことができ、かつ簡便に吊りボルト2の外れ止めをも行うことができる。
【0046】
(第2実施形態)
図2(a)〜(d)は、本発明の第2実施形態に係る防振支持装置1を示す。なお、以下の各実施形態について説明を行う上で、図1と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0047】
本実施形態において、下側弾性体10は、第1実施形態と同様に、基体10a上面に平坦面を有しているが、この平坦面が、吊りボルト2の直径方向に対向する位置の両側に形成されている。
【0048】
ワッシャ11は、係止部11bに加え、該係止部11bに対向する位置に別の係止部11cを備えている。換言すると、本実施形態において、係止部11b,11cは、ワッシャ11の外周において吊りボルト2の直径方向に対向する位置の両方に形成されている。
【0049】
そして、ワッシャ11を下側弾性体10に嵌合させた場合、係止部11b,11cは、下側弾性体10の基体10aの両方の平坦面に接触し、安定保持される。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0050】
本構成によれば、係止部11b,11cがワッシャ11の外周の吊りボルト2の直径方向に対向する位置の両方に形成されているため、防振支持装置1の施工時に両係止部11b,11cのいずれか一方を鍔部4bと下側弾性体10との間に配置すれば、その鍔部4b側に配置された係止部11b(又は11c)によって吊りボルト2のスリット4cの開口からの離脱を阻止することができる。このことで施工時に係止手段として配置できる係止部の選択肢が増え、その分、施工性を向上させることができる。
【0051】
(第3実施形態)
図3(a)〜(d)は、本発明の第3実施形態に係る防振支持装置1を示す。
【0052】
本実施形態において、下側弾性体10は、吊りボルト2の軸に垂直な方向の断面形状が矩形状の基体10aを有している。また、ワッシャ11の水平部11aも矩形状を有し、基体10aの上面に形成された凹陥部に嵌合される。さらに、係止部11bの幅は、下側弾性体10の基体10aと同じ幅を有している。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0053】
本構成によれば、第1及び第2実施形態の下側弾性体10のように基体10aに平坦面を設けることなく、ワッシャ11に形成された係止部11bを下側弾性体の側面全体に接触させ、安定保持することが可能となり、係止部11bの係止機能を安定して維持することができる。
【0054】
(第4実施形態)
図4(a)〜(d)は、本発明の第4実施形態に係る防振支持装置1を示す。
【0055】
本実施形態では、下側弾性体10の基体10aは、第3実施形態と同様に、矩形状の断面形状を有する。ワッシャ11は係止部11bと対向する位置に別の係止部11cを有している。両係止部11b,11cは同じ幅を有し、下側弾性体10の基体10aの側面の全面に接触する。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0056】
これにより、係止部11b,11cの係止機能を安定して維持することができるとともに、施工時に係止手段として配置できる係止部の選択肢が増え、その分、施工性を向上させることができる。
【0057】
(第5実施形態)
図5(a)〜(d)は、本発明の第5実施形態に係る防振支持装置1を示す。
【0058】
本実施形態では、図5(d)に示すように、ワッシャ11は、ワッシャ11の水平部11aが、下側弾性体10の突起10bが形成された面全体に接触するように構成されている。本実施形態において、係止部11b,11cは、ワッシャ11の端部を所定の曲率で折り曲げた形状となっており、係止部11b,11cの幅は、ワッシャ11及び下側弾性体10の基体10aの幅と同じである。また、下側弾性体10の基体10aにおいて、ワッシャ11の係止部11b,11cの折り曲げた部分が接触する部分は折り曲げの曲率と同じ曲率を有する形状となっており、ワッシャ11の下側弾性体10に接触する側の全面が下側弾性体10の基体10aに接触している。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0059】
この実施形態の場合、下側弾性体10に、ワッシャ11を嵌合させる凹陥部を形成する必要がなくなり、下側弾性体10の成形が容易となる。また、係止部11b,11cの係止機能を安定して維持することができるとともに、施工時に係止手段として配置できる係止部の選択肢が増え、その分、施工性を向上させることができる。
【0060】
なお、第1〜第5実施形態において、ワッシャ11の孔と吊りボルト2との間には、下側弾性体10の突起10bが存在しているため、吊りボルト2の相対移動により係止部11bが連結片4の鍔部4bに接触しても、連結片4又はワッシャ11と吊りボルト2との非接触状態は保持され、確実に防振支持される。
【0061】
(第6実施形態)
図6(a)〜(d)は、本発明の第6実施形態に係る防振支持装置1を示す。
【0062】
本実施形態では、図6(a)及び(c)に示すように、下側弾性体10の基体10aは、第1実施形態と同様の略円筒であるが、本実施形態においては、下側弾性体10と下側ナット6aとの間に配置されるワッシャ8の外周に、連結片4のスリット4cの幅よりも長い係止部8bが設けられ、これを係止手段としている。なお、本構成においては、第1〜第5実施形態において連結片4と下側弾性体10との間に配置されたワッシャ11(図1図5参照)が省略されている。
【0063】
本構成によれば、第1〜第5実施形態と同様に、簡便に外れ止め機能を付加することができるとともに、スリット4cの幅よりも長い係止部8bにより、吊りボルト2の離脱を確実に防止することができる。また、連結片4と下側弾性体10との間に配置されるワッシャ11を形成・施工する手間が省略されるため、施工性を向上させるとともに、施工費用を低減させることができる。
【0064】
(第7実施形態)
図7(a)〜(d)は、本発明の第7実施形態に係る防振支持装置1を示す。
【0065】
本実施形態において、第6実施形態と同様に、下側弾性体10と下側ナット6aとの間に配置されるワッシャ8の外周に係止部8bが形成されているが、下側弾性体10の基体10aは、第3実施形態と同様に、吊りボルト2の軸に垂直な方向の断面形状が矩形状である。
【0066】
本構成によれば、ワッシャ8に形成された係止部8bを下側弾性体10の側面全体に接触させ、安定保持することが可能となり、係止部8bの係止機能を安定して維持することができる。
【0067】
(第8実施形態)
図8(a)〜(d)は、本発明の第8実施形態に係る防振支持装置を示す。
【0068】
本実施形態において、ワッシャ8の係止部8bと対向する位置に、係止部8bと同じ形状の別の係止部8cが形成されている。
【0069】
すなわち、本実施形態において、係止部8b,8cは、ワッシャ11の外周の吊りボルト2の直径方向に対向する位置の両方に形成されているため、施工時に両係止部8b,8cのいずれか一方を鍔部4bと下側弾性体10との間に配置すれば、その鍔部4b側に配置された係止部によって吊りボルト2のスリット4cの開口からの離脱を阻止することができる。このことで施工時に係止手段として配置できる係止部の選択肢が増え、その分、施工性を向上させることができる。
【0070】
なお、第1〜第8実施形態において、前記係止部8b,8c,11b,11cは、連結片4のスリット4cの両側に位置する鍔部4bに面接触状態で接触することにより、吊りボルト2のスリット4cの開口方向への離脱を防止する機能を有する。そのため、スリット4cの両側の鍔部4bに面接触な形状であれば、前記のような板形状以外のどのような形状を有していてもよい。具体的には例えば、ワッシャ8,11の端部を折り曲げず、単に先端部の両端を幅方向に延ばした形状を有する、スリット4cの幅よりも長い形状のものであってよい。また、板形状の係止部8b,8c,11b,11cの幅方向の両端に鍔部4b側に突き出た突起形状のものを有していてもよい。このような形状とすることにより、係止部8b,8c,11b,11cに形成された突起が鍔部4bに面接触状態で接触し、吊りボルト2の移動を止め、その離脱を防止することができる。
【0071】
また、上述のごとく、第1、第2、及び第6実施形態において、下側弾性体10は、吊りボルト2の軸に垂直な方向の断面形状が円形状の構成となっている。これにより、どのような連結片及び吊りボルトにも組み合わせが可能であり、汎用性に優れるとともに施工性も向上する。
【0072】
また、上述のごとく、第3〜第5、第7及び第8実施形態において、下側弾性体10は、吊りボルト2の軸に垂直な方向の断面形状が矩形状の構成となっている。これにより、ワッシャ8,11に形成された係止部8b,8c,11b,11cを下側弾性体10の側面全体に接触させることが可能となり、係止部8b,8c,11b,11cの係止機能を安定して維持することができる。
【0073】
(第9実施形態)
図9(a)〜(d)は、本発明の第9実施形態に係る防振支持装置1を示す。
【0074】
本実施形態においては、上記各実施形態とは異なり、下側弾性体10自体で係止手段を構成している。すなわち、下側弾性体10の基体10aは、吊りボルト2の軸に垂直な方向の断面形状が矩形状であり、この下側弾性体10の基体10aの鍔部4b側の側面が係止手段となっている。
【0075】
本構成によれば、既存の構成部品である下側弾性体10の基体10aの側面を係止手段とすることにより、係止手段のための別途の部材が不要となる。しかも、第1〜第8実施形態のようにワッシャ8又はワッシャ11に係止部を形成する加工が不要となるため、より簡便に外れ止め機能を防振支持装置に付加することができる。また、下側弾性体の側面は4つ存在するため、いずれの側面を係止手段としてもよく、施工性が向上する。
【0076】
また、第1〜第9実施形態において、ワッシャ8,11は、下側弾性体10と一体に成形された構成とすることができる。本構成により、ワッシャ8,11と、下側弾性体10とを別々に組み付ける手間が省略され、確実に施工性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、従来の防振支持装置に、使用する部品構成や、施工要領などを変えることなく簡便に外れ止め機能を付加することができるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0078】
1 防振支持装置
2 吊りボルト
3 天吊り式設備機器
4 連結片
4a 取付部
4b 鍔部
4c スリット
5 上側ナット(連結具)
6a,6b下側ナット(連結具)
8 ワッシャ
8b,8c 係止部(係止手段)
9 上側弾性体
10 下側弾性体
11 ワッシャ
11b,11c 係止部(係止手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10