特許第6347646号(P6347646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347646
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20180618BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180618BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20180618BHJP
   C08L 25/16 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20180618BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   C08L9/06
   B60C1/00 A
   C08L91/06
   C08L25/16
   C08K5/09
   C08K5/05
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-77088(P2014-77088)
(22)【出願日】2014年4月3日
(65)【公開番号】特開2015-196824(P2015-196824A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中園 健夫
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−21057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/06
B60C 1/00
C08K 5/05
C08K 5/09
C08L 25/16
C08L 91/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、非石油系ワックス、及びα−メチルスチレン系樹脂を含有し、
前記ゴム成分100質量%中、スチレンブタジエンゴムの含有量が50〜90質量%であるゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記非石油系ワックスは、非石油系ワックスに、遊離脂肪酸、遊離アルコール及び樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を除去する処理を施して得られる精製非石油系ワックスである請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記非石油系ワックスは、炭素数28〜33の炭化水素を65質量%以上含有し、かつ該炭化水素中に占める炭素数31の炭化水素の割合が60質量%以上の精製キャンデリラワックスである請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記非石油系ワックスは、遊離脂肪酸含有量が17質量%以下、遊離アルコール含有量が2.5質量%未満の精製ミツロウである請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対する前記非石油系ワックスの含有量が0.1〜8質量部である請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物は、アミン系の老化防止剤及びキノリン系の老化防止剤を更に含有する請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オイル等の可塑剤を増量し、ゴム硬度を軟化することによるタイヤの初期グリップ性能の向上や、樹脂を配合し、ガラス転移温度Tgを上昇させることによる後期グリップ性能の向上が提案され、簡便性等の観点から、主にゴム試験片の評価に基づく検討が進められている。
【0003】
しかし、このようなゴム試験片で良好な性能が得られた配合ゴムをタイヤに適用して実車評価に供しても、初期グリップ性能や後期グリップ性能が悪く、期待の性能が得られないケースもあることから、実車においても同様に優れた性能が発揮されるゴム組成物の提供が望まれている。
【0004】
特許文献1には、α−メチルスチレン系樹脂等を用いたトレッド用ゴム組成物が開示されているが、実車での初期グリップ性能や後期グリップ性能を共に改善するという点で未だ改善の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−52028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、ゴム試験片の評価だけでなく、実車でも初期グリップ性能、後期グリップ性能に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム成分、非石油系ワックス、及びα−メチルスチレン系樹脂を含有するゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
【0008】
前記非石油系ワックスは、非石油系ワックスに、遊離脂肪酸、遊離アルコール及び樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を除去する処理を施して得られる精製非石油系ワックスであることが好ましい。
【0009】
前記非石油系ワックスは、炭素数28〜33の炭化水素を65質量%以上含有し、かつ該炭化水素中に占める炭素数31の炭化水素の割合が60質量%以上の精製キャンデリラワックスであることが好ましい。
【0010】
前記非石油系ワックスは、遊離脂肪酸含有量が17質量%以下、遊離アルコール含有量が2.5質量%未満の精製ミツロウであることが好ましい。
【0011】
前記ゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対する前記非石油系ワックスの含有量が0.1〜8質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゴム成分、非石油系ワックス、及びα−メチルスチレン系樹脂を含有するゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤであるので、ゴム試験片の評価だけでなく、実車においても優れた初期グリップ性能、後期グリップ性能を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の空気入りタイヤは、ゴム成分、非石油系ワックス、及びα−メチルスチレン系樹脂を含有するゴム組成物を用いて作製したトレッドを有するものである。
【0014】
本発明では、非石油系ワックスとα−メチルスチレン系樹脂を併用することで、実車でも、初期グリップ性能や後期グリップ性能を顕著に改善できる。これは、石油系ワックスや樹脂の配合では、ゴム試験片でのグリップ性能は改善されるものの、実車では、タイヤ表面に析出した石油系ワックス等の薬品の析出物(付着物)により、所望の初期グリップ性能が発揮されず、また、表面の付着物が剥がれないことで所望の後期グリップ性能も得られないのに対し、非石油系ワックスとα−メチルスチレン系樹脂を併用する本発明では、表面の付着物が剥がれやすく、走行スタート時から短時間で容易にタイヤ摩擦係数を安定化できるため、実車でも、優れた初期グリップ性能や後期グリップ性能を得ることが可能である。
【0015】
本発明の空気入りタイヤのトレッドを構成するゴム組成物は、非石油系ワックス(非石油由来のワックス)を含む。非石油系ワックスとしては、石油由来のワックス以外であれば特に限定されず、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、ホホバろうなどの植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラクタムなどの鉱物系ワックス;ヒマシ硬化油、大豆硬化油、ナタネ硬化油、牛脂硬化油などの天然油脂系硬化油;及びこれらの精製物などが挙げられ、キャンデリラワックス、ミツロウ等が好ましい。また、非石油系ワックスとして、遺伝子組み換えをした植物、動物から得られるものも使用可能である。
【0016】
更に非石油系ワックスのなかでも、非石油由来のワックスに、遊離脂肪酸、遊離アルコール及び樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を除去する処理を施した精製非石油系ワックスを好適に使用できる。ここで、除去処理の方法は、遊離アルコール、遊離脂肪酸、樹脂を除去できる方法であれば特に限定されず、公知の方法を使用できる。
【0017】
上記精製非石油系ワックスとして、具体的には、炭化水素含有量が65質量%以上の精製キャンデリラワックス、遊離脂肪酸含有量が17質量%以下及び/又は遊離アルコール含有量が2.5質量%未満の精製ミツロウなどを好適に使用できる。
【0018】
精製キャンデリラワックス、精製ミツロウなどは、通常のキャンデリラワックスやミツロウに比べて、遊離脂肪酸、遊離アルコール、樹脂などの極性成分が減量されていることで、軟化点分布が低温側にシフト又は拡大されている。このため、特に低温での耐オゾン性が改善され、優れた耐オゾン性が広い温度範囲で発揮される。また、前記減量による炭化水素量の相対的に増加により、低極性ゴムとの相容性や膜の均一性が良好となるとともに、ブルームも抑制できるため、ゴム表面の白色化も防止できる。更に、実車のタイヤ表面において、これらのワックス等の析出物が剥がれやすく、初期グリップ性能や後期グリップ性能が充分に改善される。加えて環境面にも優れている。
【0019】
前記のとおり、上記非石油系ワックスの好適例として、炭化水素含有量が65質量%以上(より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上)の精製キャンデリラワックスが挙げられるが、なかでも、炭素数28〜33の炭化水素を65質量%以上含有し、かつ該炭化水素中に占める炭素数31の炭化水素の割合が60質量%以上の精製キャンデリラワックスが特に好ましい。これにより、優れた耐オゾン性(特に低温時)が得られるとともに、白色化を防止できる。また、転がり抵抗の低下効果も得られる。更に、実車でも、初期グリップ性能や後期グリップ性能が充分に改善される。
【0020】
上記精製キャンデリラワックス100質量%中の炭素数28〜33の炭化水素含有量は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。65質量%未満であると、耐オゾン性や白色化の対策、初期グリップ性能、後期グリップ性能が不十分になる傾向がある。該含有量は、上限は特に限定されないが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
また、該精製キャンデリラワックスにおいて、炭素数28〜33の炭化水素中に占める炭素数31の炭化水素の割合は、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましい。
【0021】
上記精製キャンデリラワックス100質量%中の遊離アルコールや遊離脂肪酸の含有量はそれぞれ少ない方が望ましく、具体的には各々10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましい。10質量%を超えると、耐オゾン性(特に低温時)、初期グリップ性能、後期グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0022】
上記精製キャンデリラワックス100質量%中の樹脂の含有量は少ない方が望ましく、具体的には15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、7質量%以下が特に好ましい。15質量%を超えると、耐オゾン性(特に低温時)、初期グリップ性能、後期グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0023】
上記精製キャンデリラワックス100質量%中のエステルの含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。これにより、良好な低温での耐オゾン性、初期グリップ性能、後期グリップ性能が得られる。
【0024】
なお、本発明における非石油系ワックスとしては、40℃以下の軟化点を有する成分を含むものが好ましい。ここで、ワックスの軟化点分布は、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて、−30℃から100℃まで5℃/minの昇温速度でヒートフロー(mW/g)を測定して調べられる。所定温度の軟化点を有する成分を含むか否かは、該所定温度(例えば40℃)の時点におけるヒートフローの温度依存性曲線がベースラインから吸熱方向に下がっているか否かを基準として確認できる。
【0025】
そして、上記精製キャンデリラワックスとしては、(40℃におけるヒートフロー(mW/g)/ピーク温度のヒートフロー(mW/g))×100≧0.1の関係を満たすものが好ましく、0.2以上の関係を満たすものがより好ましく、0.5以上の関係を満たすものが更に好ましい。この場合、40℃以下の軟化点を有する成分により、良好な低温時の耐オゾン性、初期グリップ性能、後期グリップ性能が得られる。
【0026】
上記精製キャンデリラワックスは、例えば、特開平10−182500号公報に記載されている製法により調製できる。即ち、例えば、非石油系ワックスをアルカリの存在下でケン化分解した後、石油エーテルで抽出処理し、石油エーテルを減圧蒸留することにより得られた固形物をn−ヘキサン等の有機溶媒に溶解して、これをシリカゲル充填カラムに通液し、n−ヘキサンの有機溶媒で溶離展開し、各フラクションに分け、所望のフラクションを集める方法等が挙げられる。
【0027】
更に前記のとおり、上記非石油系ワックスの好適例として、遊離脂肪酸含有量が17質量%以下及び/又は遊離アルコール含有量が2.5質量%未満の精製ミツロウが挙げられるが、上記精製ミツロウ100質量%中の遊離脂肪酸の含有量は少ない方が望ましく、具体的には15質量%以下がより好ましい。また、上記精製ミツロウ100質量%中の遊離アルコールの含有量も少ない方が望ましい。それぞれ上限を超えると、耐オゾン性(特に低温時)、初期グリップ性能、後期グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0028】
上記精製ミツロウ100質量%中の炭化水素含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上である。10質量%未満であると、耐オゾン性や白色化の対策、初期グリップ性能、後期グリップ性能が不十分になる傾向がある。該含有量は、上限は特に限定されないが、精製に要するコストとの兼ね合いから、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0029】
また、上記精製ミツロウ100質量%中のエステルの含有量は、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。該含有量の上限は特に限定されないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。これにより、良好な低温での耐オゾン性、初期グリップ性能、後期グリップ性能が得られる。
【0030】
上記精製ミツロウとしては、(40℃におけるヒートフロー(mW/g)/ピーク温度のヒートフロー(mW/g))×100≧10の関係を満たすものが好ましく、11以上の関係を満たすものがより好ましく、12以上の関係を満たすものが更に好ましく、13以上の関係を満たすものが特に好ましい。この場合、40℃以下の軟化点を有する成分により、良好な低温時の耐オゾン性、初期グリップ性能、後期グリップ性能が得られる。
【0031】
上記精製ミツロウは、例えば、ミツバチ巣からミツロウを取り出して、ごみや蜂の死骸などを取り除いて黄蝋を得、それを更に脱色、漂白して晒しミツロウを得る。さらに、該晒しミツロウや黄蝋等を加熱や煮沸処理したり、酸化剤、還元剤により化学的に処理したりして、遊離アルコールや遊離脂肪酸、樹脂分などを減らして得ることができる。
【0032】
なお、精製キャンデリラワックス、精製ミツロウなどの精製非石油系ワックスに含まれる遊離アルコール、遊離脂肪酸、樹脂、炭化水素、エステルの含有量は、ガスクロマトグラフィー等、従来の方法で測定できる。また、ヒートフローは、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて測定できる。
【0033】
前記ゴム組成物において、上記非石油系ワックスの含有量(精製キャンデリラワックス、精製ミツロウなどの合計含有量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上、特に好ましくは2.5質量部以上である。0.1質量部未満であると、耐オゾン性の向上、初期グリップ性能、後期グリップ性能等の具体的な効果を確認できないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。8質量部をこえると、ブルーム量が多くなりすぎてタイヤが白色化する傾向がある。また、コストが上昇するおそれがある。
【0034】
前記ゴム組成物は、α−メチルスチレン系樹脂を含むものであり、該樹脂としては、α−メチルスチレンの単独重合体、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体などが好適である。
【0035】
α−メチルスチレン系樹脂としては、たとえばアリゾナケミカル社のSA85、SA100、SA120、SA140、eastman chemical社のR2336などの市販品を好適に用いることができる。
【0036】
α−メチルスチレン系樹脂のSP値は、好ましくは9〜10である。上記範囲内のSP値を持つ樹脂を使用することで、SBR等のゴム成分との相溶性が向上し、初期グリップ性能、後期グリップ性能を改善できる。
【0037】
α−メチルスチレン系樹脂の軟化点は、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは75℃以上である。該軟化点は、好ましくは100℃以下、より好ましくは92℃以下、更に好ましくは88℃以下である。上記範囲内の軟化点を持つ樹脂を使用することで、SBR等のゴム成分との相溶性が向上し、初期グリップ性能、後期グリップ性能を改善できる。
なお、軟化点とは、JIS K 6220に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0038】
α−メチルスチレン系樹脂のTgは、好ましくは28℃以上、より好ましくは38℃以上である。該Tgは、好ましくは58℃以下、より好ましくは48℃以下である。上記範囲内のTgを持つ樹脂を使用することで、SBR等のゴム成分との相溶性が向上し、初期グリップ性能、後期グリップ性能を改善できる。
【0039】
α−メチルスチレン系樹脂のMwは、好ましくは500以上、より好ましくは800以上である。該Mwは、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下である。上記範囲内のMwを持つ樹脂を使用することで、SBR等のゴム成分との相溶性が向上し、初期グリップ性能、後期グリップ性能を改善できる。
【0040】
前記ゴム組成物において、α−メチルスチレン系樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。2質量部未満であると、所望のウェットグリップ性能が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。30質量部をこえると、低温でゴムが硬くなり、初期グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0041】
前記ゴム組成物において、前記ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴム、これらの変性ゴム等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。ゴム成分は要求性能に応じて適宜選択すれば良く、例えば、NRやENR、BR、SBR、これらの変性ゴム等を好適に使用できる。
【0042】
変性ゴムとして、タイヤ工業に用いられている公知の変性SBR、変性BR等を使用でき、例えば、下記式(1)で表される化合物等の窒素含有化合物により変性された変性SBR、変性BR等が挙げられる。
【化1】
〔式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、アルキル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜6、更に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(−COOH)、メルカプト基(−SH)又はこれらの誘導体を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)を表す。nは整数(好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、更に好ましくは3)を表す。〕
【0043】
、R及びRとしては、アルコキシ基が望ましく、R及びRとしては、アルキル基が望ましい。
【0044】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3−ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0045】
上記式(1)で表される化合物(変性剤)によるBR、SBRの変性方法としては、特公平6−53768号公報、特公平6−57767号公報、特表2003−514078号公報などに記載されている方法など、従来公知の手法を用いることができる。例えば、BRやSBRと変性剤とを接触させればよく、アニオン重合によりBRやSBRを合成した後、該重合体ゴム溶液中に変性剤を所定量添加し、BRやSBRの重合末端(活性末端)と変性剤とを反応させる方法、BRやSBR溶液中に変性剤を添加して反応させる方法などが挙げられる。
【0046】
NR及び/又はENRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のNR及びENRの合計含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、充分な力学強度を得ることが難しくなる恐れがある。該合計含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。90質量%を超えると、他のゴムの配合量が相対的に低くなり、耐亀裂成長性や耐オゾン性、耐摩耗性などを改善することが難しくなる場合がある。
【0047】
非変性BR、変性BR等のBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、耐亀裂成長性や耐オゾン性、耐摩耗性などを改善することが難しくなるおそれがある。該含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。70質量%を超えると、他のゴムの配合量が相対的に低くなり、充分な力学強度を得ることが難しくなるおそれがある。
【0048】
非変性SBR、変性SBR等のSBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、充分なグリップ性能が得られるという点からは、100質量%が最も好ましい。50質量%未満であると、初期グリップ性能や後期グリップ性能が低下する傾向がある。また、該含有量の上限は特に限定されないが、NRやBRと併用する場合、90質量%以下にすることが好ましい。なお、SBR等の各種ゴムがオイル成分を含む(油展ゴムである)場合、該各種ゴムの含有量とは、固形分(ゴム成分)の含有量を意味する。
【0049】
SBRの結合スチレン量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましく、35質量%以上が特に好ましい。10質量%未満では、中温(30〜50℃)及び高温(100℃前後)条件下において、グリップ性能の充分な改善効果が得られない傾向がある。また、SBRの結合スチレン量は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下が更に好ましい。60質量%をこえると、ゴムが硬くなり、路面との接地面積が減少し、高いグリップ性能が得られない傾向がある。
【0050】
前記ゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。これにより、補強効果や良好なグリップ性能が得られる。
【0051】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は15×10/kg以上が好ましく、25×10/kg以上がより好ましい。15×10/kg未満では、充分な補強効果が得られないおそれがある。また、カーボンブラックのNSAは50×10/kg以下が好ましく、35×10/kg以下がより好ましい。50×10/kgを超えると、初期グリップ性能が悪化するおそれがある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K 6217のA法によって求められる。
【0052】
前記ゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満では、充分な補強効果や耐紫外線性改善効果が得られないおそれがある。該カーボンブラックの含有量は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。40質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0053】
前記ゴム組成物は、シリカを含有することが好ましい。これにより、良好なグリップ性能が得られるとともに、補強効果が得られる。
【0054】
シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、50m/g以上が好ましく、100m/g以上が更に好ましい。50m/g未満では、ゴム強度が低下する傾向がある。また、シリカのBET法による窒素吸着比表面積は250m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。250m/gを超えると、加工性が悪化する傾向にある。
なお、シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準拠した方法により測定することができる。
【0055】
前記ゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。該シリカの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下である。上記範囲内にすることにより、良好なグリップ性能が得られるとともに、補強効果も得られる。
【0056】
シリカとともに、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系、メルカプト系ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが特に好ましい。
【0057】
前記ゴム組成物がシランカップリング剤を含有する場合、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して1質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましい。該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。上記範囲内にすることにより、良好なグリップ性能、補強性が得られる。
【0058】
前記ゴム組成物は、非石油系ワックス、α−メチルスチレン系樹脂とともに、老化防止剤を含有することが好ましい。これにより、耐オゾン性を改善できる。
【0059】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系、キノリン系の各化合物や、カルバミン酸金属塩などを適宜選択して使用することが可能である。なかでも、アミン系が好ましく、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましい。ここで、前記ゴム組成物において、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。該含有量は、8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0060】
前記ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、他のワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0061】
前記ゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの混練機で前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。前記ゴム組成物は、トレッドを製造するためのゴム組成物として好適に用いられる。
【0062】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドなどの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。なかでも、乗用車用タイヤとして好適に使用できる。
【実施例】
【0063】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
以下に、実施例で用いた各種薬品について説明する。
SBR:旭化成(株)製のタフデン4350(結合スチレン量:40質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分50質量部含有)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス1,4結合量97%、ML1+4(100℃)40、25℃における5%トルエン溶液粘度48cps、Mw/Mn3.3)
NR:RSS#3
カーボンブラック:新日化カーボン(株)製のニテロン#55S(石炭系重質油を原料としたカーボンブラック、NSA:28×10/kg)
α−メチルスチレン系樹脂:アリゾナケミカル社製のSA85(軟化点:85℃、Tg:43℃、Mw:1000、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体)
シリカ:Degussa社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
シランカップリング剤:Degussa社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
老化防止剤6C:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン)
老化防止剤224:フレキシス社製のノクラック224(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「桐」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ワックス1:サンノックN(大内新興化学製石油系ワックス)
ワックス2:横関油脂工業(株)製の精製キャンデリラワックスMK−2(構成成分:エステル22質量%、遊離脂肪酸10質量%、遊離アルコール10質量%、炭化水素40質量%、樹脂18質量%)(軟化点分布:42〜73℃)(40℃におけるヒートフロー/ピーク温度のヒートフロー×100=0)
ワックス3:横関油脂工業(株)製の精製キャンデリラワックスMD−21(構成成分:エステル3質量%、遊離脂肪酸5質量%、遊離アルコール5質量%、炭素数28〜33の炭化水素82質量%(該炭化水素のうち炭素数31の占める割合約70質量%)、樹脂5質量%)(軟化点分布:35〜75℃)(40℃におけるヒートフロー/ピーク温度のヒートフロー×100=0.6)
ワックス4:晒しミツロウ(構成成分:エステル66.5質量%、遊離脂肪酸18質量%、遊離アルコール2.5質量%、炭化水素13質量%)(軟化点分布:20〜70℃)(40℃におけるヒートフロー/ピーク温度のヒートフロー×100=9)
ワックス5:横関油脂工業(株)製の精製ミツロウBEESWAXCO−100(化粧品仕様)(構成成分:エステル70質量%、遊離脂肪酸14質量%、遊離アルコール2質量%、炭化水素14質量%)(軟化点分布:0〜75℃)(40℃におけるヒートフロー/ピーク温度のヒートフロー×100=13)
アロマスオイル:(株)ジャパンエナジー製のJOMOプロセスX140
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業社製のノクセラーD
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業社製のノクセラーCZ
【0064】
なお、ワックス2〜5について、遊離アルコール、遊離脂肪酸、樹脂、炭化水素、エステルの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0065】
また、軟化点分布については、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いて、−30℃から100℃まで5℃/minの昇温速度でヒートフロー(mW/g)を測定した。
【0066】
前記のとおり、各ワックスの組成について、ワックス3は、ワックス2に比べて樹脂成分、エステル成分、遊離アルコール、遊離脂肪酸が少なく、炭化水素成分量が多かった。また、ワックス5は、ワックス4に比べて遊離アルコールや遊離脂肪酸の量が少なく、エステル成分の量が多く、これらの結果から、ワックス3及び5では、耐オゾン性に有効なワックス成分が多いことが確認できた。更に、ワックス3及び5では、軟化点分布が低温側にシフト又は拡大し、40℃以下の軟化点を有する成分を含むことも確認できた。
【0067】
<実施例及び比較例>
バンバリーミキサーを用いて、表1の工程1に示す配合量の薬品を投入して、排出温度が約150℃となるように5分間混練し、排出した。更に、表1の工程2に示す配合量の硫黄および加硫促進剤を加え、バンバリーミキサーを用いて、排出温度が100℃となるように約3分間混練して、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を、170℃で12分間加硫することにより、加硫ゴムシートを作製した。
【0068】
得られた加硫ゴムシートを用いて、以下の評価を行った。その結果を表1〜2に示す。
【0069】
(グリップ評価)
「ラボテストにおける初期・後期グリップ性能評価」
加硫ゴムシートからサンプルを作製し、日邦産業(株)製DFテスターSタイプに取り付け、繰り返し測定を行い、2回目、10回目の摩擦係数を示した。
初期グリップ性能:2回目の摩擦係数(滑り速度7km/h)
後期グリップ性能:10回目の摩擦係数(滑り速度7km/h)
【0070】
なお、DFテスターの連続測定回数をタイヤの付着物の取れやすさ指標とし、実車測定で摩擦係数が安定するまでにかかる回数と相関があることが明らかになっている。つまり、ラボテストの2回目の摩擦係数が大きいほど、実車での初期グリップ性能に優れ、10回目の摩擦係数が大きいほど、後期グリップ性能に優れることを示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
SBR、BR、NRを用いた表1の配合では、ワックス1(石油系ワックス)、α−メチルスチレン系樹脂を併用した比較例1、該樹脂を含まない比較例2に比べて、該樹脂とワックス2〜5(非石油系ワックス)を併用した実施例では、初期グリップ性能、後期グリップ性能に優れており、実車でも、これらの性能が良好であることが明らかとなった。また、SBR、NRを用いた表2でも、同様の効果が見られた。
更に実施例の配合は、耐オゾン性、屋外暴露試験での耐変色性にも優れていた。