(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージに用いられる封止材には、高熱伝導化、高強度化を目的に、主にSiO
2粒子をフィラーとして充填した樹脂組成物が用いられている。樹脂組成物をより高熱伝導率化することを目的として、樹脂より熱伝導率の高いSiO
2粒子の充填量を増やすために球状のSiO
2粒子が多く用いられている。
【0003】
近年では半導体パッケージの小型化、薄型化が進んでおり、これに伴いボンディングワイヤの細径化、狭ピッチ化へのニーズが高まる一方、半導体素子の高性能化に伴う発熱量の増大により、半導体パッケージの放熱性の向上がより重要となっている。半導体パッケージに用いられる封止材料に対するニーズも、狭小部への充填性を高めるため、より高流動の封止材が求められるとともに、高熱伝導化を更に高めるためにもフィラーをより高充填化することが求められている。このため、用いられるSiO
2粒子には、より流動性の高い粒子へのニーズが高まっている。樹脂とSiO
2粒子を混合した封止材の流動性を高めるためには、SiO
2粒子を球状化する方法が取られている。また、封止材の強度や熱伝導率を高めるためには、流動性を保ったまま、粒子の充填率を上げる必要がある。粒子を高充填する場合、粒子を球状化するとともに、複数の異なる粒度の粒子を配合する粒度配合により、大径粒子の隙間に小径粒子が配置するような構造を取ることで流動性を保ったまま、充填率を上げる工夫が成されている。
【0004】
例えば、数10μmの大径粒子を用いる場合の粒度配合としては、数μmの小径粒子と0.5〜1μmの微粒子と0.1〜0.5μmの超微粒子を配合することで高い流動性を得ることでできる。このような粒度配合を有する球状粒子を一回の工程で製造することができれば、低コストの製品を得ることができるが、従来の技術では困難であった。
【0005】
球状のSiO
2粒子の製造方法としては、粉砕したSiO
2の原料粉末を火炎中に吹き込んで、高温で溶融させ、溶融SiO
2の粘度が低くなり、表面エネルギーにより球状化することを利用した溶射方法が知られている。この方法では高い円形度の球状SiO
2粒子を得ることが可能となる。溶射による球状SiO
2粒子を得る方法では、原料のSiO
2粉末と同等の粒径の球状粒子を得ることができるため、原理的には、粒径の異なる粒子を含む原料を溶射することにより、粒度の異なる粒子からなる粒度配合した球状SiO
2粒子を得ることができる。
【0006】
しかしながら、例えば0.5〜1.0μmの微粒子を含む球状粒子を得るために、0.5〜1.0μmの微粒子のSiO
2原料と大径のSiO
2原料を混合して溶射する場合、微粒子同士が凝集したり、大径粒子に微粒子が付着したりするため、凝集状態あるいは付着状態のままで溶融してしまい、原料の1次粒子よりも大きい粒径の球状粒子になり、原料と同様の粒度分布を有する球状粒子を得ることが困難である。
【0007】
このため、0.5〜1.0μmの球状SiO
2粒子を単独で製造し、他の粒径の球状粒子と混合して用いることが行われており、混合の工程が必要となることから高コストの原因となっている。0.5〜1.0μmの球状粒子を単独で製造する方法としては、0.5〜1.0μmのSiO
2原料粉を分散させながら溶射する方法や金属Siの粉末を原料として用いる方法が用いられる。0.5〜1.0μmのSiO
2原料粉を用いる場合、原料粉が凝集しないように原料供給速度を遅くして、気流等で原料を分散させながら溶射する方法が取られるが、原料粉の凝集を完全に無くすことは困難であり、溶射して得られた球状SiO
2粒子を気流分級等により、凝集に起因する大きな粒子と分級する必要があり、安価な粒子を得ることが困難である。
【0008】
0.5〜1.0μmの球状粒子を得る他の方法として、特許文献1に金属Siを原料として球状粒子を得る方法が開示されている。金属Siが溶融する際に飛散して微細化し、これが酸化することによりサブμmの粒子を得る方法であり、凝集体が生じにくい利点があるが、大径粒子を得ることができないため、粒度配合するためには、大径粒子等とサブμm粒子を混合する工程が必要となり、コストが高くなる欠点がある。また、溶射法による球状SiO
2粒子の流動性を高めるためには、SiO
2が高温で溶融する際に発生するフューム粒子と呼ばれる超微粒子の量を制御する必要がある。この超微粒子は、SiO2が高温で溶融する際に、SiO
2の一部がSiOあるいはSiO
2の形で蒸発するため、これが凝固して発生するものである。このSiO
2が蒸発固化して生成する超微粒子は、一般的に0.5μm以下の非常に微細な粒子であり、このような超微粒子が多く混入すると、樹脂と混合した際に、樹脂の粘度を大きく上昇させてしまい、流動性を低下させ、フィラーの充填率を上げられない原因となる。このような超微粒子に起因する流動性または充填性低下に関して、従来は、以下に示すように生成した超微粉粒子の生成量を調整する技術思想が主であった。
【0009】
特許文献2には、50nm未満の超微粒子を実質的に含有しない球状無機質粉末が開示されている。超微粒子は球状無機質粉末の高充填時に樹脂組成物を増粘させ、流動性、成形性を著しく損なってしまい、特に、50nm未満の粒子はその傾向が著しいため、50nm未満の超微粒子を実質的に含有しないことが好ましいとしている。しかしながら、特許文献2には50nm未満の超微粒子を含有しない球状フィラーの製造方法については、具体的な説明が成されていない。
【0010】
特許文献3には、溶融球状SiO
2表面に付着している超微粒子を剥離、除去する方法として、溶融球状SiO
2と溶融球状SiO
2付着微粒子除去助剤との混合物を湿式処理する方法が開示されている。溶融球状SiO
2付着微粒子除去助剤としては、苛性アルカリ、弗化水素酸、ガラスビーズ、Al
2O
3、ジルコニア、SiO
2ビーズ等の無機粉砕物を用い、湿式処理後、遊離した付着微粒子はデカンテーション又は傾斜法等により除去し、溶融球状SiO
2は濾過、乾燥して、超微粒子の付着していない表面が平滑な球状フィラーが得られるとしている。しかしながら、この方法では超微粒子の量を完全に除去する方法ではあるが、火炎中で溶融して得た球状SiO
2を、更に湿式処理する必要があり、生産性が劣るとともに、高コストとなる問題があった。また、この方法では、超微粒子を完全に除去することは可能であると考えられるが、特許文献1に示したように超微粉量を最適な量に制御して、流動性を損なうことなくフィラーとしての充填性を高めることはできない。
【0011】
特許文献4には、二酸化ケイ素粉末原料の濃度が20〜80質量%の水スラリーを気体で分散させながら、火炎中に噴霧することにより、超微粒子に相当する、SiO
2フューム(SiO
2成分が一旦SiO蒸気となりそれが酸化沈着して生成したもの)の付着量が5質量%以下になるように、二酸化ケイ素粉末原料の濃度が20〜80質量%の水スラリーを気体で分散させながら、火炎中に噴霧する方法が開示されている。しかしながら、この方法では原料を水と混合したスラリーとするため、一度に大量のスラリーを供給すると火炎の温度が低下し、SiO
2の未溶融粒子が発生したり、球形度の低い粒子となる問題点がある。さらに、特許文献4では、二流体ノズルで突出速度が少なくとも50m/s以上とした気体と水スラリーを噴射し、水スラリーを分散させて火炎中に噴霧する方法を用いているが、生産性で通常の火炎溶融法より劣るなどの課題がある。
【0012】
この他に、球状SiO
2粒子に含まれる超微粒子の量を制御する方法としては、風力分級などの方法があるが、風力分級では分級点を精密に制御することができないため、超微粒子だけを分離・回収することは困難である。このため、超微粒子以外の粒子も超微粒子と一緒に除去され、歩留まりが大きく低下する問題がある。また、風力分級で、超微粒子のようなサブμmの粒子を効率良く分級するためには、高速回転するローターで粒子を分散させてから、分級する必要があり、特殊な装置が必要であるとともに、ローターや装置からの摩耗によるコンタミが混入するなどの問題がある。
【0013】
以上のように、0.5μm以下の超微粒子を制御するためには、特殊な溶射方法が必要なため生産性が低下したり、後処理が必要になるなど、低コストで高効率に球状粒子を得ることが困難であった。さらに、従来のSiO
2の単独成分でフィラーを得ることを目的とした技術では、0.5〜1μmの微粒子を含有し、かつ、0.5μm以下の超微粒子を制御した粒度配合により高流動性を発揮する球状粒子を単一の工程で得ることは非常に困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、特開2010−275138号公報で開示した技術により、粒径50nm〜300nmの範囲に粒度分布の極大値をもつSiO
2超微粒子を制御することで高流動性のフィラーを得ることを可能にした。すなわち、このようなSiO
2微粒子は、樹脂に混合した際に樹脂中に均一に混合されると樹脂と一体化して流動するができ、したがって、このようなSiO
2超微粒子を用いれば、樹脂組成物の流動性を損なうことなく、SiO
2粒子の樹脂への充填率を上げることが可能であることを示した。また、発明者らは、特許公開予定の技術により、SiO
2原料を中心温度が2100℃以上の火炎中で溶融させて球状化する際に、SiO
2原料に予めAl化合物を混合すると、溶融段階で溶融SiO2の表面を溶融Al
2O
3が被覆し、SiO
2の蒸発を抑える効果が得られることを見出した。これにより、SiO
2超微粒子の発生を抑制することが出来ることため、さらにAl化合物の添加量を変えることによって、SiO
2超微粒子の量を制御可能であることを見出した。
【0020】
しかしながら、Al
2O
3等のAl化合物を用いた場合、0.5μm以下の超微粒子の発生を抑えることにより、超微粉の量を制御することは可能であるが、0.5〜1μmの微粒子を同時に生成することは困難であった。例えば、0.5〜1μmのAl
2O
3原料粉を添加して溶射しても、他のSiO
2原料と混合する過程で、0.5〜1μmのAl
2O
3粉は大径のSiO
2粒子の表面に付着して、溶融段階でSiO
2粒子表面を被覆して、SiO
2の蒸発を抑える効果は得られるものの、Al
2O
3粒子同士、あるいは他のSiO
2粒子と凝集して溶融してしまうため、0.5〜1μmの球状粒子として得られるものは非常に少なくなってしまい、粒度配合による高流動の効果が得られる5〜30質量%の0.5〜1.0μmの球状粒子を含む製品を得ることは困難である。
【0021】
そこで本発明者らは、これらの問題を解決すべく検討した結果、金属Al粉を原料に添加することにより、溶射によりSiO
2表面にAl
2O
3が被覆してSiO
2超微粉の量を制御するとともに、0.5〜1.0μmのAl
2O
3球状粒子が生成し、粒度配合した製品を1回の溶射工程で製造可能であることを見出した。
【0022】
金属Al粒子をSiO
2原料と混合して火炎中に投入すると、金属Al粒子の溶融および酸化反応が起こる。この際、急激な酸化反応による発熱で金属Alの気化が起こり、気化したAlが酸化してAl
2O
3となるが、高温状態で酸化したAl
2O
3は溶融状態にあるため、表面張力により球状化し、これが冷却されることで0.5〜1.0μmの球状のAl
2O
3粒子が生成する。また、気化したAlは周囲に飛散するため、近傍に存在するSiO
2粒子の表面に衝突し、溶融状態にあるSiO
2表面を溶融したAl
2O
3を被覆する現象が起こる。表面がAl
2O
3で被覆されることにより、SiO
2からのSiO
2やSiOの蒸発が抑えられ、これらの蒸発により発生する0.5μm以下の微細なSiO
2粒子の発生量を抑えることが可能となる。
【0023】
金属Al粉を用いた場合、SiO
2原料粉の表面に付着していても、金属Alが溶融・気化して飛散するが、SiO
2粉の表面に残って酸化してAl
2O
3となった場合も、溶融してSiO
2粒子表面を被覆するため、SiO
2粒子の蒸発による0.5μm以下の微細なSiO
2粒子の発生を抑える効果が得られる。
【0024】
また、原料段階で金属Al粉が凝集したものも、一度溶融して飛散するため、凝集したまま大きなAl
2O
3粒子になることはないため、0.5〜1.0μmのAl
2O
3球状粒子として他のSiO
2粒子と一緒に回収することができる。
【0025】
一方、金属Alではなく、Al
2O
3や他のAl化合物を用いた場合、金属Alのように気化、飛散してSiO
2粒子と衝突する現象が起こりにくいため、SiO
2の表面をAl
2O
3が覆う構造にするためには、予め原料調製の段階でSiO
2粒子の表面にAl
2O
3等の粒子を付着させておく必要がある。この場合、Al
2O
3等の粒子の粒径が大きいと火炎中に投入する段階で、SiO
2粒子と離れてしまうため、微細なAl
2O
3等の粒子を混合して付着させることになるが、サブミクロン等の微細粒子は凝集しやすく、SiO
2粒子に均一に分散した状態で表面に付着させるのが難しい。これに対して本発明による方法は、溶射段階で金属Alの気化、飛散が起こり、Al
2O
3分散し、SiO
2粒子と衝突して表面を被覆するため、Al
2O
3等のAl化合物を用いた場合よりも、SiO
2粒子の蒸発を抑える上で高い効果を得ることができる。
【0026】
この方法を用いることにより、特別な装置や後処理工程を用いることなく、単一の溶射工程による低い製造コストで、高流動性の粒度配合した球状粒子を得ることが可能となった。
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0028】
本発明による粒子は、0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子を5〜40質量%を含む。0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子を5質量%より少ないと、1μmより大きな大径粒子の隙間に入る粒子が少なくなり、相対的に大径粒子の割合が増大するため、大径粒子同士が接触して流動性を低下させてしまう。また、0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子が40質量%より多くなると、微細なAl
2O
3球状粒子が多くなるため、樹脂と混ぜた際の粘度が上昇する原因となり、流動性が低下してしまう。
【0029】
また、本発明による粒子には0.1〜0.5μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2粒子を1〜20質量%含む。0.1〜0.5μmの超微粒子を樹脂中に分散させると、超微粒子は樹脂と一体化して流動するため、見かけ上の樹脂の体積が増えて、0.5μmより大きい粒子同士が直接接触しにくくなるため、流動性を高める効果を得ることができる。粒径0.1〜0.5μmの超微粒子の含有割合が1質量%より少ないと、樹脂と一体化する超微粒子の量が少ないため、0.5μmより大きい粒子の間隔を広げる効果が得られないため、流動性を高める効果を得ることができない。一方、この超微粒子の含有割合が20質量%より多いと、超微粒子が凝集しやすくなるため、超微粒子を樹脂中に均一に分散することが困難となり、樹脂の流動性が低下する原因となる。また、SiO
2超微粒子の含有割合が多くなると、超微粒子と樹脂との混合により樹脂組成物の粘度が著しく上昇したりすることがあるため、全体の流動性を低下させてしまう。
【0030】
また、0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子、0.1〜0.5μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2粒子以外の粒子は、1〜100μmに粒度分布の極大値を有する球状SiO
2粒子から構成される。
【0031】
球状SiO
2粒子の粒度分布の極大値が1μmより小さい場合、Al
2O
3球状粒子とほぼ同じ粒径となるため、粒度配合による高流動化の効果を得ることができない。
【0032】
また、球状SiO
2粒子の粒度分布の極大値が100μmより大きい場合、球状SiO
2粒子の隙間が大きくなり過ぎるため、0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子が隙間に入っても、球状SiO
2粒子同士の接触を妨げることが出来ず、流動性が低下してしまう。
【0033】
さらに、1〜100μmに粒度分布の極大値を有する球状SiO
2粒子は、1〜10μmおよび20〜100μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2球状粒子から構成されることが望ましい。このような粒度配合にすることにより、20〜100μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2球状粒子の隙間に1〜10μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2球状粒子が配置する構造を取ることが出来るため、より流動性の高い粒子を得ることが可能となる。
【0034】
1〜10μmに粒度分布の極大値を有する球状SiO
2粒子の極大値が10μmより大きくなると、20〜100μmに粒度分布の極大値を有する大径のSiO
2粒子との粒径比が近くなるため、大径粒子の隙間に配置された場合、大径のSiO
2粒子と接触して流動性を低下させることがあるため、望ましくない。
【0035】
また、1μm以上のSiO
2球状粒子は、粒子表面の10%以上がAl
2O
3もしくはAl含有酸化物で被覆されている粒子を20〜100%の個数割合で含有する。これらの表面のAlは、Al
2O
3やAlとSiとの複合酸化物などの状態で存在する。表面の一部もしくは全部がAl
2O
3もしくはAl含有酸化物で被覆されている粒子が20%より少ない粒子では、溶射による高温状態でSiO
2の蒸発が抑制されないため、0.1〜0.5μmの粒子が多くなり高流動性を得ることができない。また、SiO
2の蒸発抑制に高い効果を得るためには、粒子表面の一部だけがAl
2O
3もしくはAl含有酸化物で被覆されている場合、粒子表面の20%以上が被覆されていることが望ましい。
【0036】
本発明による球状粒子を得る方法として、SiO
2原料粉に金属Alを添加して溶射する方法を用いる。この方法を用いることにより、溶射過程でSiO
2原料の一部が蒸発して冷却・固化することで0.1〜0.5μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2粒子か形成され、金属Alが溶融・飛散して酸化されることで、0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子が形成される。さらに、原料のSiO
2が溶融・固化して1〜100μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2球状粒子が形成され、これらの粒子が溶融・固化する過程で金属Al由来のAl
2O
3が溶融状態でSiO
2粒子の表面に付着してSiO
2粒子表面の一部もしくは全部がAl
2O
3もしくはAl含有酸化物で被覆された粒子が形成され、本発明による球状粒子を得ることができる。
【0037】
原料として用いるSiO
2粒子は、平均粒径1〜100μmの範囲のものを用いることが望ましい。平均粒径が1μm未満のSiO
2粒子を原料と用いた場合、比表面積が大きいため、蒸発するSiO
2量が多くなり、粒径0.1〜0.5μmの超微粒子の量が多くなるため、望ましくない。平均粒径が100μmより大きいSiO
2粒子を原料として用いた場合、粒子が大きいため、火炎中で原料を溶射する際に、粒子全体が溶融せずに、円形度の低い粒子が多く含まれる粒子が得られる可能性が高いため、望ましくない。
【0038】
SiO
2原料粉に添加する金属Al粉は、SiO
2原料粉と均一に混合することができ、溶射時に金属Alが完全に溶融するサイズのものであれば、特に限定されるものではないが、SiO
2粉と容易に均一に混合できる粉末を用いることが望ましい。用いる金属Al粉の粒径は、溶射時に完全に熔解する必要があるため、100μm以下のサイズであることが望ましい。粒径が100μm以上の金属Alを用いた場合、同量の金属Alを添加した場合に相対的に金属Al粒子の個数が少なくなるため、金属Al粒子の周囲のSiO
2粒子しかAl
2O
3で被覆されないため、Al
2O
3で被覆されないSiO
2粒子が多くなってしまうため望ましくない。また、金属Alの粉末は、粉じん爆発を引き起こす恐れがあるため、ハンドリングのし易さから1μm以上の粉末を用いることが望ましい。
【0039】
SiO
2原料粉と混合する金属Al粉の量は、SiO
2原料粉の質量と金属Al粉の質量とを合計した質量を基準として3〜25質量%であることが望ましい。3質量%より少ないと、0.5〜1.0μmのAl
2O
3球状粒子の割合が少なくなるため、目的とする高流動の粒子を得ることができない場合がある。また、Al
2O
3がSiO
2粒子の表面を被覆する割合が低くなるため、SiO
2の蒸発を抑制する十分な効果が得られず、樹脂と混ぜた際の粘度が増大するため、流動性の高い粒子を得ることができない場合がある。また、25質量%より多いと0.5〜1.0μmのAl
2O
3球状粒子の割合が多くなりすぎるため、樹脂と混合した際の粘度が高くなるため、流動性の高い粒子を得ることができない場合がある。
【0040】
原料のSiO
2粉と金属Al粉とを混合する方法は、均一に混合されるのであれば、どのような方法を用いてもよい。一般的な混合方法としては、ボールミル、アトライター、V型混合機、W型混合機、振動ミル、ジェットミル、スクリュー式混合機、機械撹拌式混合機、容器回転式混合機などを用いることができる。また、混合は、湿式でも乾式でも混合することができる。
【0041】
SiO
2粒子と金属Alとを混合した原料を中心温度が2100℃以上の火炎中に供給し、溶融させて球状化する溶射法により製造することができる。溶射設備は、燃料と酸素で火炎を形成するバーナーを備えた溶射チャンバーと、溶射して球状化したフィラーをガスで搬送する搬送路と、フィラーを回収する回収装置とで構成される。バーナー部に原料粉を投入し、火炎中で原料が溶融・球状化したものをガス搬送の過程で冷却し、回収装置で球状のフィラーを回収する。
【0042】
バーナーで形成される火炎は、2100℃以上の火炎を形成できる可燃性材料であれば特に限定されるものではないが、低コストかつ高温の火炎が得られることからLNG、LPGを燃料として用いることが望ましい。また、混合原料を供給する方法としては、燃焼に必要な酸素ガスを搬送ガスとして、火炎中に供給することが望ましい。さらに、原料を供給する火炎の中心温度は、2100℃以上であることが望ましい。SiO
2の融点は1710℃であり、これより高温で溶融させることにより、溶融SiO
2の粘度が低下し、円形度の高い球状SiO
2粒子を得ることができる。また、Al
2O
3の融点が2054℃であるため、火炎の温度はこれ以上の温度とするであることの望ましい。このため、少なくとも火炎の温度分布で高温となる火炎中心の温度は2100℃以上であることが望ましい。2100℃より温度が低い場合、金属Alが酸化して生じたAl
2O
3がSiO
2粒子表面を均一に覆うことができないため、超微粒子の発生を抑制するのに十分な効果が得られない。火炎中心の温度は、2100℃以上であれば、本発明の効果が得られるが、高温になる方がSiO
2粒子の粘度が下がり、円形度の高いSiO
2粒子を得ることができる。しかしながら、高温になるに従いSiO
2の蒸気圧が高くなり、Al
2O
3で被覆された状態でも、SiO
2の蒸発量が多くなり粒径0.1〜0.5μmの超微粒子の発生量が多くなってしまう。このため、火炎の中心温度は、2800℃以下であることが望ましい。
【0043】
溶融して球形化した粒子は、ガスにより搬送される過程で冷却されてサイクロンやバグフィルタなどの回収装置を用いて回収する。溶融した粒子は、装置の溶射チャンバ―の内壁等内部や回収装置に 接触するまでに、固化することが望ましいため、粒子が移動中に冷却・固化するのに十分な距離を取ることが望ましい。また、バグフィルタで回収する際、粒子が高温のままだとバグフィルタを溶損する可能性があるため、冷却後の粒子の流路は、粒子が冷却されるのに十分な長さを取ることが望ましい。このため、必要に応じて冷却ガスを装置内部に導入して冷却を促進することが望ましい。サイクロンでは、主に数μm以上の大きな粒子を回収することができるが、サイクロン部で回収できなかった小さな粒子はバグフィルタで回収することができる。必要に応じて、それぞれの回収部で回収されたフィラーを混合することで、本発明の高流動のフィラーを得ることができる。
【0044】
以上の方法で得られる球状SiO
2粒子に含まれる0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子、および0.1〜0.5μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2粒子は、金属Alの添加量により調整することが可能である。
【0045】
本発明の球状粒子に含まれる0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子、および0.1〜0.5μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2粒子の粒径および量は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば堀場製作所製LA−950)、コールター式粒度分布測定装置(例えばベックマン・コールター製Multisizer4)やディスク遠心式粒度分布測定装置(例えばCPSInstruments社製DC24000)を用いることにより測定することができる。
【0046】
特に、ディスク遠心式粒度分布測定装置は、1μm以下の粒子を正確に測定することができる。この装置を用いる場合、測定時の投入サンプル重量を測定しておくことで、測定により得られた粒径毎の重量データから全体の重量比を計算することが可能である。
【0047】
上述の方法により粒度分布を測定した場合、0.5〜1μmに粒度分布の極大値を有するピークと0.1〜0.5μmに極大値を有するピークが重なってしまい、それぞれの含有割合が正確に測定できない場合は、それぞれのピークとしたピーク分離することで、重量比を計算することができる。ピーク分離は、測定した粒度分布のデータをピーク分離ソフト(例えばOriginLab製ORIGIN8)を用いてピーク分離し、それぞれのピーク領域に含まれる粒子の重量割合を算出する。
【0048】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡を用いた直接観察により、粒径および個数を計測して測定することもできる。
【0049】
0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子は、上記の粒度分布測定では、この粒度範囲のSiO
2と共に測定されてしまうが、SEM−EDS(エネルギー分散型X線分析)(例えば、日立ハイテクノロジーズ製S−4800およびEDAXGenesis2000)、EPMA(波長分散型X線分析)(例えば日本電子製JXA−8100)による元素分析、元素マッピングにより、Al
2O
3粒子とSiO
2粒子と区別することが可能である。
【0050】
元素マッピングによりSiO
2粒子とAl
2O
3粒子を判別し、画像解析ソフトを用いて粒径を測定することで、SiO
2粒子およびAl
2O
3粒子、それぞれのより正確な粒度分布を測定することが可能である。この場合、100個以上の粒子を測定し、測定した個々の粒子の粒径とSiO
2およびAl
2O
3の比重から、球形と仮定した粒子重量を算出し、粒径毎の重量割合を算出することができる。
【0051】
また、1〜100μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2粒子は、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置等(例えば、CILAS社製Particlesize analyzer 920)で粒度分布を測定することができる。
【0052】
1μm以上の粒径のSiO
2球状粒子の表面のAlは、EPMAやEDS等の元素マッピングを用いることで検出することができる。例えば、粒子をエポキシ樹脂等の樹脂と混合し、樹脂を硬化させてサンプルを研磨して、研磨面の現れた粒子断面を分析することにより、表面のAlの分布状態を測定することができる。具体的には、研磨面のEPMA等でSi、Alの元素マッピング像を撮り、1μm以上の粒径の粒子で、粒子表面のAlの被覆割合が10%以上である粒子個数を測定し、1μm以上の粒子全体の粒子個数に対する割合で算出できる。この際、粒子表面の被覆割合については、それぞれの粒子の外周長さに対して、粒子表面にAlが存在している粒子外周部の長さを測定して、外周長さでAl存在部分の長さを除した値を被覆割合とする。また、この方法による測定を行う場合、100個以上の粒子を測定し、粒子の個数割合、被覆割合を測定する。
【0053】
また、本発明の製造方法により製造される球状粒子の円形度は、0.85以上であることが望ましい。ここで、粒子の円形度とは、面積相当円の周囲長÷実際の周囲長である。円形度が0.85以下の場合、樹脂と混合して樹脂組成物を作製した際の流動性が低下するために望ましくない。円形度を高くする方法としては、超微粒子の発生が本発明の範囲より多くならない程度に溶射する際の火炎の温度を高くすることが望ましい。また、平均円形度が1.0で真球となるので、この値を超えることはないため、平均円形度は1.0以下の値となる。
【0054】
また、円形度は、シスメックス製FPIA2100などの円形度測定装置で測定することができる。また、SEMで粒子を撮影した画像を用いて、画像処理ソフト等で「面積相当円の周囲長」および「実際の粒子の周囲長」を測定し、円形度を計算する等の方法でも測定することが可能である。
【0055】
本発明の製造方法により製造される粒子は、フィラーとして樹脂と混合して樹脂組成物に使用することができる。樹脂組成物を封止材として用いる場合、樹脂はo'−クレゾールノボラック樹脂、ビフェニル樹脂などを用いることができるが、樹脂の種類は特にこれらに限定されるものではない。
【0056】
以上の方法により、0.5〜1.0μmに粒度分布の極大値を有するAl
2O
3球状粒子を5〜40質量%含み、0.1〜0.5μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2粒子を1〜20質量%含み、残部が1〜100μmに粒度分布の極大値を有するSiO
2球状粒子からなり、1μm以上のSiO
2球状粒子において、表面の10%以上もしくは全部がAl
2O
3もしくはAl含有酸化物で被覆されている粒子を20〜100%含有する高流動性の球状粒子を得ることができ、樹脂と混合した際に、高流動性の樹脂組成物を得ることが可能となる。
【実施例】
【0057】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明をするが、これらの記載によって本発明の範囲は限定的に解釈されるということはない。
【0058】
(実施例1〜
7、比較例1および2)
平均粒径15〜20μmのSiO
2原料に粒径3μmのアルミニウム粉末を表1に示す添加量で加え、V型混合機で混合した混合原料を作製した。溶射装置を用いてLPGを燃料とし、酸素を搬送ガスとして用いて、混合原料を火炎中に供給して、球状粒子を作製した。
【0059】
得られた球状粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(CILAS社製Particlesize analyzer 920を用いて、1〜100μmの範囲の極大値を測定した。また、ディスク遠心式粒度分布測定装置(CPS Instruments社製DC24000)で0.1〜0.5μmの超微粒子の粒度分布および含有量を測定した。
【0060】
1μm以上の粒子表面のAlが10%以上の粒子の個数割合については、得られた球状粒子をエポキシ樹脂と混合して作製したサンプルを0.5μmのダイヤモンドスラリーで鏡面研磨した面を金蒸着後、EPMA(日本電子製JXA−8100)によりSiとAlの元素マッピングを取り、1μm以上の粒子について、粒子外周の10%以上にAlが分布している粒子個数の割合を測定した。
【0061】
得られた球状粒子をビフェニル系エポキシ樹脂にSiO
2粒子が90質量%(樹脂組成物の質量を基準とする)の割合で予備混合し、100℃で加熱混合して樹脂組成物を作製した。この樹脂組成物を160℃でスパイラルフロー測定用金型を用いて流動性を評価した。
【0062】
樹脂組成物の流動性では、本発明(実施例1〜8)によるものが102〜119cmであったのに対し、本発明の範囲外のものは93cm以下であり、本発明による球状SiO
2粒子で高流動性の樹脂組成物を得ることができた。
【0063】
(比較例3)
また、比較例3として、同じ平均粒径15〜20μmのSiO
2原料をアルミニウム粉末を添加せずに溶射して球状粒子を作製し、市販の平均粒径0.7μmのAl
2O
3球状粒子を添加したサンプルNo.11を製造した。サンプルNo.11は、
Al2O3粒子の含有割合は20.0であったが、0.2μmに極大値を有する超微粉粒子が27%以上と多くなり、スパイラルフローによる流動性も85cmと本発明によるものより低い値であった。
【0064】
【表1】