【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0051】
(実施例1)
1.不織布の調製方法
芯成分がポリプロピレン(融点:165℃)、鞘部がポリエチレン(融点:135℃)の芯鞘型複合繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:5mm)60質量部と、ポリプロピレン単繊維(融点:160℃、繊維径:2μm、繊維長:2mm)40質量部とを混合し、湿式抄造法により繊維ウェブを調製した。
その後、前記繊維ウェブを温度140℃の熱風で10秒間処理した後、80℃のカレンダーロールに供すると共に繊維ウェブへかけるロール圧を調整して、不織布を調製した。
更に、調製した不織布をプラズマ処理へ供することで、親水化処理した不織布を得た(目付:7.0g/m
2、厚さ:18μm、平均繊維径:4.7μm)。
2.塗工液の調製方法
純水中にアルミナ粒子とアルミナゾルを加えディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、混合開始から2時間後にバインダ樹脂ディスパージョンを加えて攪拌を続け、混合液(液温:25℃、固形分濃度:50質量%)を調製した。
混合液の組成は以下に記載する通りであった。
・アルミナ粒子(昭和電工(株)製、AI−45−A、平均粒子径(D
50):790nm):46質量部、
・アルミナゾル(日産化学工業(株)製、Al−200、固形分濃度:18.4質量%):2.8質量部、
・バインダ樹脂ディスパージョン:ポリエステル系ポリウレタン樹脂ディスパージョン(第一工業製薬(株)、R−5002、平均粒子径径(D
50):0.5μm、Tg:−43℃、固形分濃度:39質量%)3.7質量部、
・純水:43質量部
なお、混合液中に含まれているアルミナ成分の固形分質量とバインダ樹脂の固形分質量の混合比率は、97質量%:3質量%であった。
そして、調製した混合液を開口径が20μmのふるいへ通し、混合液中に存在する粒子径の大きな粒子を除去することで塗工液を調製した。
3.塗工液の塗付方法
表面に斜線形状の溝を設けたグラビアロールを用いて、親水化処理した不織布の一方の主面に塗工液を付与した後、100℃で乾燥して塗工液中の分散媒を除去することで、電気化学素子用セパレータ(目付:23.0g/m
2、厚さ:20.3μm、平均繊維径:4.7μm)を調製した。
【0052】
(比較例1)
バインダ樹脂ディスパージョンをエステル系ポリウレタン樹脂ディスパージョン(第一工業製薬(株)、SF−620、平均粒子径:0.02μm、Tg:43℃、固形分濃度:30質量%)に変更し、混合液中に含まれているアルミナ成分の固形分質量とバインダ樹脂の固形分質量の混合比率が、97質量%:3質量%となるようにエステル系ポリウレタン樹脂ディスパージョンの混合量を調整したこと、および、混合液の固形分濃度が50質量%となるように純水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして混合液(液温:25℃、固形分濃度:50質量%)を調製した。
このようにして調製した混合液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気化学素子用セパレータ(目付:24.8g/m
2、厚さ:22.9μm、平均繊維径:4.7μm)を調製した。
【0053】
(比較例2)
バインダ樹脂ディスパージョンをカーボネート系ポリウレタン樹脂ディスパージョン(第一工業製薬(株)、SF−650、平均粒子径:0.01μm、Tg:−17℃、固形分濃度:25質量%)に変更し、混合液中に含まれているアルミナ成分の固形分質量とバインダ樹脂の固形分質量の混合比率が、97質量%:3質量%となるようにカーボネート系ポリウレタン樹脂ディスパージョンの混合量を調整したこと、および、混合液の固形分濃度が50質量%となるように純水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして混合液(液温:25℃、固形分濃度:50質量%)を調製した。
このようにして調製した混合液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気化学素子用セパレータ(目付:22.4g/m
2、厚さ:19.1μm、平均繊維径:4.7μm)を調製した。
【0054】
(比較例3)
バインダ樹脂ディスパージョンをエステル系ポリウレタン樹脂ディスパージョン(第一工業製薬(株)、E−2000、平均粒子径:0.7μm、Tg:−38℃、固形分濃度:49質量%)に変更し、混合液中に含まれているアルミナ成分の固形分質量とバインダ樹脂の固形分質量の混合比率が、97質量%:3質量%となるようにエステル系ポリウレタン樹脂ディスパージョンの混合量を調整したこと、および、混合液の固形分濃度が50質量%となるように純水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして混合液(液温:25℃、固形分濃度:50質量%)を調製した。
このようにして調製した混合液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気化学素子用セパレータ(目付:24.5g/m
2、厚さ:22.5μm、平均繊維径:4.7μm)を調製した。
【0055】
(比較例4)
バインダ樹脂ディスパージョンをエステル系ポリウレタン樹脂ディスパージョン(第一工業製薬(株)、SF−500M、平均粒子径:0.14μm、Tg:−39℃、固形分濃度:45質量%)に変更し、混合液中に含まれているアルミナ成分の固形分質量とバインダ樹脂の固形分質量の混合比率が、97質量%:3質量%となるようにエステル系ポリウレタン樹脂ディスパージョンの混合量を調整したこと、および、混合液の固形分濃度が50質量%となるように純水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして混合液(液温:25℃、固形分濃度:50質量%)を調製した。
このようにして調製した混合液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電気化学素子用セパレータ(目付:24.0g/m
2、厚さ:23.5μm、平均繊維径:4.7μm)を調製した。
【0056】
上述のようにして製造した、実施例および比較例の電気化学素子用セパレータを、以下に記載する各測定へ供することで電気化学素子用セパレータの諸特性を評価した。
【0057】
(ガーレ値の測定方法)
電気化学素子用セパレータから試験片を採取し、「JIS P 8117:2009(紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレ法) a)ガーレ試験機法」において規定されている方法へ供することで、ガーレ値(sec/100ml)を算出した。
【0058】
(耐溶剤性の測定方法)
内容量が100ccのスクリュー蓋付きのガラス瓶を用意し、ガラス瓶にプロピレンカルボナート(キシダ化学(株)、CAS No.:108−32−7)を50cc入れた。
電気化学素子用セパレータから長方形の試験片(縦:200mm、横:50mm)を3枚採取し、3枚の試験片をガラス瓶内のプロピレンカルボナート中に浸漬して、ガラス瓶のスクリュー蓋を閉めた。
上述のようにして用意した内部にプロピレンカルボナートと試験片を入れたガラス瓶を、加熱温度が70℃に調整されたオーブンドライヤー内へ入れることで、プロピレンカルボナート中に浸漬されている試験片を24時間加熱した。なお、12時間加熱した後にガラス瓶を振ることで、ガラス瓶内のプロピレンカルボナートと浸漬されている試験片を攪拌した。
加熱したガラス瓶をオーブンドライヤーから取り出し室温(25℃)まで冷却した後、ガラス瓶から3枚の試験片を取り出し、室温(25℃)雰囲気のドラフト下に静置することで自然乾燥によって各試験片に含まれているプロピレンカルボナートを除去した。
このようにして得られた、耐溶剤性試験へ供した後の3枚の試験片における各目付(g/m
2)と各ガーレ値(sec/100ml)を測定し、得られた値から耐溶剤性試験へ供した後の3枚の試験片の目付の平均値(g/m
2)とガーレ値の平均値(sec/100ml)を算出した。
このようにして算出した値を、耐溶剤性の測定後における電気化学素子用セパレータの目付(g/m
2)およびガーレ値(sec/100ml)とした。
【0059】
(引張強度、引張伸度の測定方法)
電気化学素子用セパレータから、機械方向(製造時の流れ方向)と長さ方向が一致するようにして、試験片(形状:長方形、長さ:200mm、幅:50mm)を採取した。
そして、採取した試験片を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度:300mm/分)へ供し、試料片が破断するまで引っ張った時の強度から引張強度(N/50mm)を求めた。
【0060】
また、試料片が破断するまで引っ張った時の、測定された試験片の最大荷重時のつかみ間隔(mm)の長さを以下の数式へ代入することで、試験片の引張伸度(%)を算出した。
a={(b−c)/c}×100
a:引張伸度(%)
b:最大荷重時のつかみ間隔(mm)
c:初期つかみ間隔(100mm)
【0061】
(突き刺し強度の測定方法)
電気化学素子用セパレータから試験片を採取し、カトーテック製KES−G5ハンディー圧縮試験機(突き刺し針の直径:1mm、先端形状:曲率半径0.5mm、突き刺し速度:2mm/sec)へ供することで、最大突き刺し荷重を算出し、この値を突き刺し強度(gf)とした。
【0062】
以上の測定結果を表1にまとめた。
【0063】
【表1】
【0064】
(耐溶剤性の測定方法)の結果から、実施例の電気化学素子用セパレータは、耐溶剤性の測定へ供する前後の目付およびガーレ値の変動が小さかったことから、プロピレンカルボナート中で劣化し難い耐溶剤性に優れる電気化学素子用セパレータであった。また、不織布へ無機粒子を担持する役割を担うバインダがプロピレンカルボナート中で劣化し難いものであったことから、無機粒子が脱落し難い電気化学素子用セパレータである。
そのため、実施例の電気化学素子用セパレータは、電気化学素子に内部短絡を発生し難い電気化学素子用セパレータであると考えられた。
【0065】
一方、比較例の電気化学素子用セパレータは、耐溶剤性の測定へ供する前後の目付およびガーレ値の変動が大きかったことから、プロピレンカルボナート中で劣化し易い耐溶剤性に劣る電気化学素子用セパレータであった。また、不織布へ無機粒子を担持する役割を担うバインダがプロピレンカルボナート中で劣化し易いものであったことから、無機粒子が脱落し易い電気化学素子用セパレータである。
そのため、比較例の電気化学素子用セパレータは、電気化学素子に内部短絡を発生し易い電気化学素子用セパレータであると考えられた。
【0066】
(耐電気化学的酸化の測定方法)
真空下で100℃の温度で8時間乾燥させた電気化学素子用セパレータから、円形(直径:25mm)の試験片を採取した。試験片に1ccのプロピレンカルボナートを染み込ませた後、試験片の両主面側から円形の白金製電極(直径:15mm、厚さ:0.5mm)で挟み込みコインセルを調製した。コインセルの作成はアルゴン雰囲気下のグローブボックスでおこなった。水分露点はー60℃であった。
このようにして調製したコインセルのサイクリックボルタンメトリー(CV)を、以下の条件において測定した。
1.コインセルに、0.5Vから5Vまで電圧を掃引(電圧掃引速度:0.1mV/秒)した。
2.コインセルに5Vの電圧を印加するまで、あるいは、コインセルに流れる電流値が1Aを超えるまで測定を続けた。
なお、電圧の掃引中にコインセルの電流値が1Aを超えた場合、電気化学素子用セパレータがコインセル中で劣化することに起因して、白金製電極間に大電流が生じたと考えられる。
【0067】
耐電気化学的酸化の測定結果をまとめてグラフ化し、
図1−
図5に図示した。
【0068】
(耐電気化学的酸化の測定方法)の結果から、実施例の電気化学素子用セパレータを用いて調製したコインセルは、コインセルに5Vの電圧を印加するまでの間にコインセルの電流値が1Aを超えることはなかった。
一方、比較例の電気化学素子用セパレータを用いて調製したコインセルは、いずれもコインセルに5Vの電圧を印加するまでの間にコインセルの電流値が1Aを超えた。
そのため、実施例の電気化学素子用セパレータは、電気化学素子に内部短絡を発生し難い電気化学素子用セパレータであった。
【0069】
(リチウムイオン二次電池の放電容量維持率の測定方法)
1.正極の作製
スピネルマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)粉末87質量%とアセチレンブラック6質量%、および、PVdFの乾燥質量が7質量%となるようにN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解されたポリフッ化ビニリデン(PVdF)溶液((株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製、#1120、PVdF濃度:12質量%)を混合することで、混合液を調製した。その後、混合液へN−メチル−2−ピロリドン溶液を加えて脱泡撹拌機で撹拌して、正極材ペースト(粘度:2000cp)を調製した。
正極材ペーストを、アルミ箔(厚さ:20μm)の一方の主面に塗布した後、80℃で2時間加熱し、その後、減圧下にて温度150℃で6時間加熱して塗布された正極材ペーストからN−メチル−2−ピロリドンを除去した。
そして、ロールプレス機を用いて線圧200Kgで、乾燥処理後の正極材ペーストを塗布したアルミ箔をプレスすることで、正極シート(厚さ:90μm)を調製した。
2.負極の作製
天然黒鉛粉末90%質量%と、PVdFの乾燥質量が10質量%となるようにN−メチル−2−ピロリドン溶液に溶解されたポリフッ化ビニリデン(PVdF)溶液((株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製、#9130、PVdF濃度:13質量%)を混合することで、混合液を調製した。その後、混合液へN−メチル−2−ピロリドン溶液を加えて脱泡撹拌機で撹拌して、負極材ペーストを調製した。
負極材ペーストを、銅箔(厚さ:15μm)の一方の主面に塗布した後、80℃で2時間乾燥し、その後、減圧下にて温度150℃で6時間加熱して塗布された負極材ペーストからN−メチル−2−ピロリドンを除去した。
そして、ロールプレス機を用いて線圧200Kgで、乾燥処理後の負極材ペーストを塗布した銅箔をプレスすることで、負極シート(厚さ:70μm)を調製した。
3.非水系電解液の作製
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比率が(50:50)となるように混合して調製した混合溶媒に、LiPF
6を1モル/Lの濃度となるように溶解させて、非水系電解質溶液を調製した。
4.リチウムイオン二次電池の組み立て
電気化学素子用セパレータから採取した試験片を、100℃の真空状態(0.67Pa)にて8時間乾燥すると共に、正極シート及び負極シートも同様の条件で8時間乾燥した。その後、試験片と正極シートおよび負極シートを、その後露点−60℃のアルゴンガス雰囲気下のグローブボックス内に移動した。
次いで、正極シートの正極材ペーストを塗布した主面側に試験片を積層し、露出している試験片に電解液を含ませ、負極シートの負極材ペーストを塗布した主面側を試験片と接するように積層した。その後、コイン型セルを用いてリチウムイオン二次電池を作成した。
5.リチウムイオン電池の充放電試験
リチウムイオン二次電池を室温(25℃)で一日放置してから、10時間かけて4.2Vまで充電し、10時間かけて3Vまで放電させた。その後5時間かけて終止電圧4.2Vまで定電流で充電を行った後、5時間かけて定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとして10サイクル行い、エイジングを完了した試験用電池を準備した。
その後、1時間かけて終止電圧4.2Vまで定電流で充電してから充電電流値が0.06mAになるまで定電圧充電をし、1時間かけて3.0Vまで放電した。この充放電を1サイクルとして1000サイクル行った。そして1サイクル目の放電容量を基準とし各サイクル数における放電容量から放電容量維持率(Ck、単位:%)を算出した。
【0070】
なお、放電容量維持率(Ck、単位:%)は、nサイクル目の放電容量(Cn、nは1〜1000の範囲の値をとる整数、単位:mAh)と1サイクル目の放電容量(C1、単位:mAh)の値を以下に記載する数式に代入することで、算出した。
Ck=(Cn/C1)×100
Ck:放電容量維持率(%)
Cn:nサイクル目の放電容量(mAh)
C1:1サイクル目の放電容量(mAh)
【0071】
調製したリチウムイオン二次電池を、リチウムイオン二次電池の放電容量維持率の測定へ供した結果をまとめてグラフ化し、
図6−
図10に図示した。
なお、1000サイクル目における各リチウムイオン二次電池の放電容量維持率(Ck、%)は、実施例1では62.7%、比較例1では58.2%、比較例2では58.0%、比較例3では47.8%、比較例4では61.3%であった。
【0072】
(リチウムイオン二次電池の放電容量維持率の測定方法)の結果から、実施例の電気化学素子用セパレータを用いて調製したリチウムイオン二次電池は、放電容量維持率が高いものであった。
一方、比較例の電気化学素子用セパレータを用いて調製したリチウムイオン二次電池は、放電容量維持率が低いものであった。
【0073】
そのため、実施例の電気化学素子用セパレータは、放電特性に優れる電気化学素子を調製できる電気化学素子用セパレータであった。
この理由として、実施例の電気化学素子用セパレータは、バインダ成分として耐溶剤性に優れるポリエステル系ポリウレタン樹脂を有しているため、電気化学素子内で劣化し難く、電気化学素子に電気化学素子用セパレータの劣化に起因する放電特性の低下が発生するのを防止できたためだと考えられた。
【0074】
また、本発明の電気化学素子用セパレータは、無機粒子がポリエステル系ポリウレタン樹脂によって多孔質基材に接着固定されていることで多孔質基材の空隙中に無機粒子が存在しているため、多孔質基材に過剰量の無機粒子が分散していなくとも多孔質基材が有する空隙の大きさが小さく剛性に富んでいる。そのため、電気化学素子に内部短絡を発生し難い電気化学素子用セパレータである。