特許第6347717号(P6347717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6347717二次電池用金属蓄電材、金属空気二次電池、及び二次電池用金属蓄電材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347717
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】二次電池用金属蓄電材、金属空気二次電池、及び二次電池用金属蓄電材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20180618BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20180618BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20180618BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20180618BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20180618BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20180618BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20180618BHJP
   C01G 49/02 20060101ALN20180618BHJP
【FI】
   H01M8/18
   C01G49/00 C
   H01M8/0606
   H01M8/12 101
   H01M12/08 S
   H01M4/86 B
   H01M4/86 T
   H01M4/88 T
   !C01G49/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-209976(P2014-209976)
(22)【出願日】2014年10月14日
(65)【公開番号】特開2016-81637(P2016-81637A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石原 達己
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/084733(WO,A1)
【文献】 特開2003−187811(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/012009(WO,A1)
【文献】 特開2013−120639(JP,A)
【文献】 特開2013−089396(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/054402(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
C01G 49/00
H01M 8/0606
H01M 8/12
H01M 12/08
C01G 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末と、前記金属粉末の表面の少なくとも一部に存在し、かつ酸化物イオンと電子との混合伝導性を有する一種又は複数種の酸化物と、を有することを特徴とする二次電池用金属蓄電材。
【請求項2】
前記一種又は複数種の酸化物は、Mn、Fe、及びCeを含む蛍石型構造の酸化物を含有することを特徴とする請求項1に記載の二次電池用金属蓄電材。
【請求項3】
前記一種又は複数種の酸化物は、La、Sr、Mn、及びFeを含むペロブスカイト型構造の酸化物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池用金属蓄電材。
【請求項4】
金属Aを含有する金属粉末と、前記金属粉末の少なくとも表面に存在し、かつ前記金属A以外の金属である一種又は複数種の金属BとしてCu、Co、Mn、及びNiよりなる群から選択される少なくとも一種の金属の酸化物と、を有し、
ネルンストの式により計算される前記金属B又は前記酸化物に含有される金属Bの酸化還元電位は、ネルンストの式により計算される前記金属Aの酸化還元電位に対して、−0.2V以上+0.2V以下の範囲にあることを特徴とする二次電池用金属蓄電材。
【請求項5】
前記金属粉末は、鉄粉末であることを特徴とする請求項1からまでのいずれか一項に記載の二次電池用金属蓄電材。
【請求項6】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の二次電池用金属蓄電材と固体酸化物形燃料電池とを組み合わせてなることを特徴とする金属空気二次電池。
【請求項7】
筒状である前記固体酸化物形燃料電池の内部に、前記二次電池用金属蓄電材を封入してなることを特徴とする請求項に記載の金属空気二次電池。
【請求項8】
金属粉末を構成する金属が酸化されてなる金属酸化物の粉末と、酸化物イオン及び電子の混合導電性を有する酸化物の粒子とを、溶媒中で混合させ、前記溶媒を蒸発させ、次いで前記金属酸化物を還元させることを特徴とする二次電池用金属蓄電材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用金属蓄電材、この二次電池用金属蓄電材を備えた金属空気二次電池、及びこの二次電池用金属蓄電材の製造方法に関し、さらに詳しくは、高温条件下における金属粉末の焼結を抑制することができるとともに、金属粉末の内部における金属の酸化還元反応が起こりやすい二次電池用金属蓄電材、前記二次電池用金属蓄電材を備え、効率よく充放電を行うことができ耐久性に優れる金属空気二次電池、及び前記二次電気用金属蓄電材を製造するのに適した二次電池用金属蓄電材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電に用いられる電池として固体酸化物形燃料電池(「SOFC」と称されることがある。)が広く知られている。固体酸化物形燃料電池の発電時には、空気極において酸素が反応し、燃料極において水素が反応し、反応生成物として水が発生する。固体酸化物形燃料電池を用いて発電する際には、燃料極に水素を含む燃料ガスを供給する必要がある。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の燃料極に水素を安定的に供給する方法として、水と金属とを反応させることにより水素を発生させる例が知られている。その典型例として、水と単体の金属を含有する金属粉末とを反応させる例が広く用いられる。例えば、特許文献1には、「水を反応させることで水素を発生する鉄などの水素発生部材を燃料電池本体に設け、水素発生部材で発生した水素を燃料極に供給し、かつ、充電により水素発生部材を還元させ、ガス供給のインフラ設備を不要とし、かつ繰り返し利用可能な固体酸化物形燃料電池が提案されている」と開示されている(特許文献1の段落番号0006欄参照)。
【0004】
前記金属粉末として、鉄を用いると、以下の(1)式で表される酸化還元反応が起こり、水から水素が得られる。
3Fe+4HO → Fe+4H ・・・ (1)
また、前記(1)の反応で用いられる水として、固体酸化物形燃料電池の発電時において生成する水が用いられる。よって、前記金属粉末を用いることにより、固体酸化物形燃料電池の発電時における反応生成物である水から、固体酸化物形燃料電池の発電に必要な水素を取り出すことができる。
【0005】
前記金属粉末は、水と反応することにより金属粉末における金属が金属酸化物となる。金属粉末における金属がそれ以上酸化できなくなると、金属粉末は水素を発生させることができなくなり、固体酸化物形燃料電池部の発電を続行できなくなる。一方で、発電時とは逆方向の電流を固体酸化物形燃料電池に通電し、金属粉末における金属酸化物を還元することにより、金属粉末は再び水と反応することができるようになる。例えば、前記(1)式の例においては、電池の放電によって鉄が全て四酸化三鉄へと反応してしまうと水素を供給することができず固体酸化物形燃料電池部の発電を続行できなくなるが、発電時とは逆方向の電流をSOFCに通電し四酸化三鉄を鉄に還元することにより、水素を再生することができ、繰り返し固体酸化物形燃料電池部を用いて発電することが可能になる。よって、発電後に生じる金属酸化物を還元することにより金属粉末が水素を再生することができ、前記金属粉末は二次電池の蓄電材として機能する。前記金属粉末が燃料極側の蓄電を担い、燃料極側の活物質として水素を用い、空気極の活物質として空気中の酸素を用いる金属空気電池として、固体酸化物形燃料電池が用いられる。以上より、金属粉末を蓄電材として用いた固体酸化物形燃料電池は、充電が可能な金属空気二次電池として使用される。
【0006】
固体酸化物形燃料電池は、発電時において、400℃以上の高温となる。このような高温条件下においては、前記金属粉末が焼結し、金属粉末同士が凝集することが知られている。このような金属粉末の焼結を防止するために、金属粉末の表面に、難焼結性材料を修飾させる技術が従来知られている。
【0007】
例えば、特許文献1においては、「鉄粒子もしくは鉄粉末と、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムを含む難焼結性材料、またはこれらの混合物からなる形態保持材料とから」なる負極燃料物質体が開示されている(特許文献1の段落番号0016欄参照)。
また、特許文献2には、「酸化還元によって水素を吸蔵・放出できる水素吸蔵金属を母材とし、前記水素吸蔵金属の表面に、金属又は金属酸化物の少なくとも一方の物質がALD法又はLPD法を用いて添加されていることを特徴とする水素部材」が開示されている(特許文献2の請求項1参照)。
【0008】
しかし、前記特許文献に開示された難焼結性材料は、いずれも電気絶縁性を有する。よって、水素発生部材の表面を前記特許文献に開示された記難焼結性材料によって修飾すると、水素発生部材の表面において、金属粉末の酸化還元反応時に出入りする酸素の拡散が阻害される。より具体的には、水素発生部材の酸化還元反応時における酸化物イオンと電子の伝導が、水素発生部材の表面に設けられた難焼結性材料によって阻害される。これにより、水素発生部材の内側にまで酸化還元反応が進行しにくく、水素発生部材が十分に水素発生能を発揮できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5210450号公報
【特許文献2】特開2011−148664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、高温条件下における金属粉末の焼結を抑制することができるとともに、金属粉末の内部における金属の酸化還元反応が起こりやすい二次電池用金属蓄電材を提供すること、前記二次電池用金属蓄電材を備え、効率よく充放電を行うことができ耐久性に優れる金属空気二次電池を提供すること、及び前記二次電気用金属活物質を製造するのに適した二次電池用金属蓄電材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は、
(1)金属粉末と、前記金属粉末の表面の少なくとも一部に存在し、かつ酸化物イオンと電子との混合伝導性を有する一種又は複数種の酸化物と、を有することを特徴とする二次電池用金属蓄電材であり、
(2)前記一種又は複数種の酸化物は、Mn、Fe、及びCeを含む蛍石型構造の酸化物を含有することを特徴とする前記(1)に記載の二次電池用金属蓄電材であり、
(3)前記一種又は複数種の酸化物は、La、Sr、Mn、及びFeを含むペロブスカイト型構造の酸化物を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の二次電池用金属蓄電材であり、
(4) 金属Aを含有する金属粉末と、前記金属粉末の少なくとも表面に存在し、かつ前記金属A以外の金属である一種又は複数種の金属BとしてCu、Co、Mn、及びNiよりなる群から選択される少なくとも一種の金属の酸化物と、を有し、
ネルンストの式により計算される前記金属B又は前記酸化物に含有される金属Bの酸化還元電位は、ネルンストの式により計算される前記金属Aの酸化還元電位に対して、−0.2V以上+0.2V以下の範囲にあることを特徴とする二次電池用金属蓄電材であり、
(5)前記金属粉末は、鉄粉末であることを特徴とする前記(1)から(4)でのいずれか一つに記載の二次電池用金属蓄電材であり、
(6)前記(1)から(5)までのいずれか一つに記載の二次電池用金属蓄電材と固体酸化物形燃料電池とを組み合わせてなることを特徴とする金属空気二次電池であり、
(7)筒状である前記固体酸化物形燃料電池の内部に、前記二次電池用金属蓄電材を封入してなることを特徴とする前記(6)に記載の金属空気二次電池であり、
(8)金属粉末を構成する金属が酸化されてなる金属酸化物の粉末と、酸化物イオン及び電子の混合導電性を有する酸化物の粒子とを、溶媒中で混合させ、前記溶媒を蒸発させ、次いで前記金属酸化物を還元させることにより、前記(1)から(3)までのいずれか一つに記載の二次電池用金属蓄電材を得ることを特徴とする二次電池用金属蓄電材の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
(1)金属粉末の表面における酸化物は、金属粉末の酸化還元反応が起こる高温条件下においても凝集、焼結する程度が小さい。よって、金属粉末が高温条件下において凝集、焼結することにより、金属粉末における体積あたりの表面積の割合が低下することを防止することができ、金属粉末の表面における酸化反応の効率が低下することを防止することができる。また、金属粉末の表面における酸化物は前記混合伝導性を有するので、金属粉末の内部へ酸化物イオンが移動しやすく、金属粉末の内部において酸化還元反応が起こりやすい。よって、前記(1)に記載の手段によると、高温条件下における金属粉末の凝集、焼結を抑制することができるとともに、金属粉末の内部における金属の酸化還元反応が起こりやすい二次電池用金属蓄電材を提供することができる。
(2)Mn、Fe、及びCeを含む蛍石型構造の酸化物を含有する二次電池用金属蓄電材は、400℃前後の温度条件において、金属粉末の内側まで酸化還元反応を十分に引き起こすことができる。よって、前記(2)に記載の手段によると、比較的低温の条件下においても金属粉末の酸化還元反応を十分に引き起こすことのできる二次電池用金属蓄電材を提供することができる。
(3)La、Sr、Mn、及びFeを含むペロブスカイト型構造の酸化物を含有する二次電池用金属蓄電材は、400℃前後の温度条件において、金属粉末の内側まで酸化還元反応を十分に引き起こすことができる。よって、前記(3)に記載の手段によると、比較的低温の条件下においても金属粉末の酸化還元反応を十分に引き起こすことのできる二次電池用金属蓄電材を提供することができる。
(4)前記(4)に記載の手段によると、金属Aと金属Bとの酸化還元電位が比較的近い値となるので、金属Bの酸化還元反応と、金属粒子における金属Aの酸化還元反応とは、平衡状態をわずかにずらしながら同時に進行する。よって、金属A及び金属Bの価数が変化しやすく、金属Aを有する金属粉末の内部まで酸化還元反応が起こりやすくなる。
(5)前記(5)に記載の手段によると、前記4種類の金属を金属Bとして用いることによって、金属粉末のより内側まで酸化還元反応を起こりやすくすることができる。
(6)鉄は特に酸化還元反応を引き起こしやすい。よって、前記(6)に記載の手段によると、金属粉末の酸化還元がより引き起こされやすく、水素を再生させやすい二次電池用金属蓄電材を提供することができる。
(7)前記二次電池用金属蓄電材は、金属粉末のより内側まで酸化還元反応が起こりやすいので、従来の金属蓄電材に比べて、同じ質量の金属蓄電材から得られる水素の量がより大きい。よって、前記(7)に記載の手段によると、より多くの水素ガスを燃料極に供給することができ、放電容量の大きい金属空気二次電池を提供することができる。
(8)前記(8)に記載の手段によると、二次電池用金属蓄電材によって発生した水素を、より容易に燃料極に供給することのできる金属空気二次電池を提供することができる。
(9)前記(9)に記載の手段によると、金属粉末の表面において酸化物が位置する二次電池用金属電池を、容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る金属空気二次電池の一例を示す縦断面図である。
図2図2は、本発明に係る金属空気二次電池の一例を示し、図1におけるA−A断面図である。
図3図3は、本発明に係る二次電池用金属蓄電材、及び鉄粉末を加熱した際の温度と重量変化量との関係を示すグラフである。
図4図4は、実施例で用いられる充放電試験に用いる金属空気二次電池の一例であり、金属空気二次電池の内部を示す模式図である。
図5図5は、本発明に係る二次電池用金属蓄電材の充放電試験結果を示し、充放電容量と電圧との関係を示すグラフである。
図6図6は、表面を修飾した鉄粉末と、修飾していない鉄粉末とについて、20回の充放電サイクル試験の前後における観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る二次電池用金属蓄電材は、金属粉末と酸化物とを有する。
【0015】
金属粉末は、水又は水蒸気と反応することによって水素を発生させる機能を有する。金属粉末には、通常、単体の金属が含有されてなる。金属粉末に含有される金属の種類は、一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。金属粉末に含有される金属は、水又は水蒸気によって酸化されることにより金属酸化物となり、水素を生成する。また、金属粉末に含有される金属は、水又は水蒸気と反応することにより水素を発生できる程度にイオン化傾向が大きい金属であればよく、例えば、Al、Si、Mg、Ca、Mn、Zn、Fe、Co、Ni等を用いることができる。これらの中でも、金属粉末は鉄であることが特に好ましい。言い換えると、金属粉末には鉄の単体のみが金属として含まれることが特に好ましい。金属粉末が鉄であることにより、安価に金属粉末を製造することができるとともに、金属粉末における酸化還元反応が可逆に起こりやすくなる。尚、金属粉末に単体の鉄が含有されると、以下の(2)式のように、金属粉末における鉄と水とが反応し、四酸化三鉄と水素とが発生する。
3Fe + 4HO → Fe + 4H ・・・ (2)
【0016】
金属粉末の粒径は、本願発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されないが、平均粒径が0.3μm以上3μm以下であることが望ましい。金属粉末の平均粒径が0.3μm未満であると、高温条件下において二次電池を運転させている間に、金属粉末の焼結が進むことがある。言い換えると、高温条件下において金属粉末同士が凝集し、二次電池用金属蓄電材における体積あたりの表面積の割合が低下することがある。このように、体積あたりの表面積の割合が低下すると、金属粉末の表面における酸化反応の効率が低下し、金属粉末の内部にまで酸化反応が十分に進行しにくくなるという問題がある。また、金属粉末の平均粒径が3μmより大きくなると、金属粉末の中心近傍まで酸化反応が進まず、二次電池用金属蓄電材が発生させることのできる水素の量が少なくなることがある。金属粉末の平均粒径を測定する方法は特に制限されないが、例えば、SEMによって二次電池用金属蓄電材を観察し、SEM画面上におけるスケールを利用して100個以上の金属粉末の粒径を目視で読み取り、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0017】
酸化物は、金属粉末の表面の少なくとも一部に存在する。言い換えると、酸化物は金属粉末の表面の一部に存在してもよいし、全面に存在していてもよい。酸化物は、前記高温条件下で焼結を起こしにくい物質であればよく、通常、セラミックスと称される無機酸化物が用いられる。酸化物が焼結を起こしにくいことにより、400℃以上の温度条件下においても、金属粉末同士が凝集し、二次電池用金属蓄電材における体積当たりの表面積の割合が減少してしまうことを効果的に防止することができる。前記酸化物の具体例としては、希土類元素と遷移金属とを有する固溶酸化物が挙げられ、更に詳しくは、希土類元素と遷移金属とを有する蛍石型構造又はペロブスカイト型構造を有する固溶酸化物が挙げられる。前記希土類元素の具体例として、Sc、Y、La、Ce、Sm及びGd等が挙げられ、前記遷移金属の具体例として、Cr、Ti、Mn、Co、Ni、及びFe等が挙げられる。酸化物の好適例として、Mn、Fe、及びCeを含む蛍石型構造の酸化物(以下、「CMF」と称することがある。)、又はLa、Sr、Mn、及びFeを含むペロブスカイト型構造の酸化物(以下、「LSFM」と称することがある。)が挙げられる。前記CMF又は前記LSFMを酸化物として用いると、400℃前後の温度条件下においても、金属粉末の内側まで酸化還元反応を十分に引き起こすことができる。後述するように、固体酸化物形燃料電池は、400℃前後の温度で運転することが推奨されているので、前記CMF及び前記LSMFは、固体酸化物形燃料電池用の金属蓄電材として特に好適に用いられる。
【0018】
酸化物は、酸化物イオン(以下、「O2−」と称することがある。)及び電子の混合伝導性を有する。混合伝導性を有する酸化物は、JIS R1600により定義されるように、電荷を運ぶ担体が電子である電子伝導セラミックスの性質と、JIS R1600により定義されるように、電荷担体がイオンであるイオン伝導セラミックスの性質とを有し、特に、前記電荷担体が酸化物イオンであるという性質を有する。酸化物が混合伝導性を有することにより、酸化物の表面から金属粉末の内側へと酸化物イオンが侵入するとともに、金属粉末の内側から酸化物の表面へ電子が放出されやすく、金属粉末の内側まで酸化物イオンが侵入しやすい。よって、混合伝導性を有する酸化物が存在することにより、金属粉末のより内側まで酸化還元反応が引き起こされやすい。
【0019】
二次電池用金属蓄電材に含まれる酸化物の種類は、一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。二次電池用金属蓄電材の製造が容易になるように、二次電池用金属蓄電材に含まれる酸化物の種類は、一種類以上十種類以下であることが好ましい。
二次電池用金属蓄電材における前記酸化物の含有率は、特に制限されないが、0.1質量%以上10質量%以下であることが望ましい。前記数値範囲内であると、金属粉末の焼結を効果的に防止することができるとともに、金属粉末の内部まで酸化還元反応を進行させやすくすることができる。尚、二次電池用金属蓄電材に複数種類の酸化物が含有される場合には、全ての種類の酸化物の含有率の和が、0.1質量%以上10質量%以下であればよい。
【0020】
また、本発明に係る二次電池用金属蓄電材は、金属粉末と、前記金属粉末における金属A以外の金属B又はこの金属Bの酸化物(以下、「金属酸化物」と称することがある。)と、を有する。金属Bは一種類であってもよいし複数種類であってもよい。
【0021】
金属Aは、水又は水蒸気と反応することによって水素を発生させる機能を有する。金属粉末を構成する金属Aは、一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。金属粉末を構成する金属Aは、水又は水蒸気によって酸化されることにより金属Aの酸化物となり、水素を生成する。また、金属粉末を構成する金属Aは、水と反応することにより水素を発生できる程度にイオン化傾向が大きい金属であればよく、例えば、Al、Si、Mg、Ca、Mn、Zn、Fe、Co、Ni等が金属Aの具体例として挙げられる。これらの中でも、金属粉末を構成する金属AがFeであり、金属粉末が鉄粉末であることが特に好ましい。金属粉末として鉄粉末を用いることにより、安価に金属粉末を製造することができるとともに、金属粉末における酸化還元反応が可逆的に起こりやすくなる。
【0022】
金属粉末の粒径は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されないが、平均粒径が0.3μm以上3μm以下であることが望ましい。金属粉末の平均粒径が0.3μm未満であると、二次電池の動作中に金属粉末の焼結が進む、言い換えると、高温条件下において金属粉末同士が凝集し、二次電池用金属蓄電材全体の占める体積が収縮することがある。また、金属粉末の平均粒径が3μmより大きくなると、金属粉末の中心近傍まで酸化反応が進まず、二次電池用金属蓄電材が発生させることのできる水素の量が少なくなることがある。金属粉末の平均粒径を測定する方法は特に制限されないが、例えば、SEMによって二次電池用金属蓄電材を観察し、SEM画面上におけるスケールを利用して100個以上の金属粉末の粒径を目視で読み取り、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0023】
金属Bの酸化還元電位は、金属Aの酸化還元電位に対して、−0.2V以上+0.2V以下の範囲にある。言い換えると、金属Bの酸化還元電位をEとし、金属Aの酸化還元電位をEとすると、EとEとは以下の式(4)を満たす。尚、以下の式(4)の単位は全てVである。
−0.2≦E≦E+0.2 ・・・ (4)
及びEは、ネルンストの式を用いることによって計算される。ネルンストの式は、通常以下の式(5)によって表される。
E = E+(RT/nF)ln(COX/Cred) ・・・ (5)
(E:酸化還元電位、E:標準電極電位(V)、R:気体定数、T:温度(K)、n:移動電子数、COX:酸化型物質の活量、Cred:還元型物質の活量)
本発明においてネルンストの式により計算される酸化還元電位「E´」は、前記(5)の式におけるE−Eで表される。前記(5)の式をE´で表しなおすと、以下の(6)のようになる。
E´= −(RT/nF)ln(COX/Cred) ・・・ (6)
また、ΔG=−(RT)ln(COX/Cred)という式を用いることにより、前記(6)式は以下の(7)式のように変形される。
E´ = ΔG/nF ・・・ (7)
(ΔG:ギブスエネルギー変化、n:反応に関わる電荷数、F:ファラデー定数)
例えば、金属Aの一例である鉄と四酸化三鉄との間における酸化還元反応について計算する。鉄から四酸化三鉄への酸化反応において、標準エンタルピー変化ΔHは、−1184.4(kJ/mol)であり、標準エントロピー変化ΔSは、―345.13(J・K/mol)である。よって、温度400℃の条件下では、ΔG=ΔH−TΔS(Tは、温度(K)とする。)という式に前記値を代入し、ギブスエネルギー変化ΔG=886.1kJ/molと求められる。これを、前記式(7)に代入することにより、酸化還元電位E´は、1.15Vと求められる。
金属Bについても、同じように、温度400℃の条件下での金属Bの酸化反応における標準エンタルピー変化ΔH及び標準エントロピー変化ΔSの値より、酸化還元電位E´が求められる。金属Bが複数の価数を取りうる元素であると、金属Bの単体から異なる価数の酸化物を生成する複数の酸化反応が起こるが、これら複数の酸化反応のうち、少なくとも1つの反応において求められる酸化還元電位が、前記(4)の式を満たせばよい。
【0024】
金属Bは、金属粉末の少なくとも表面に存在しており、金属粉末の表面にのみ存在していてもよいし、金属粉末の表面と内側とに存在していてもよい。金属Bは、一種又は複数種含有されていればよい。二次電池用金属蓄電材の製造が容易になるように、二次電池用金属蓄電材に含まれる金属Bの種類は、一種類以上十種類以下であることが好ましい。
【0025】
金属Bの具体例として、Cr、Co、Mn、Ni、Cu、Pd、Rh、及びPt等が挙げられる。金属Bは、Cu、Co、Mn、及びNiよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。これらの金属は、1種だけが含有されていてもよいし、複数種が含有されていてもよい。前記の金属を含有させることによって、金属粉末における金属Aの酸化還元反応を効率よく発生させることができる。金属Bは、Co及び/又はMnであることが、更に好ましい。金属BがCo及び/又はMnであると、500℃前後において金属粉末をほぼ完全に酸化させることができる。
【0026】
二次電池用金属蓄電材における前記金属Bの含有率は、特に制限されないが、金属粉末における酸化還元反応を抑制しすぎないように、0.1質量%以上10質量%以下であることが望ましい。尚、二次電池用金属蓄電材に複数種類の金属が含有される場合には、全ての種類の金属の含有率の和が、0.1質量%以上10質量%以下であればよい。
【0027】
次に、本発明に係る金属空気二次電池について説明する。
【0028】
金属空気二次電池は、空気極側の活物質が空気中に含有される酸素であり、燃料極側の活物質が水素であり、蓄電材が金属である充電可能な電池であればよい。燃料極側の蓄電物質として、本発明に係る二次電池用金属蓄電材を用いることができる。本発明に係る金属空気二次電池の放電時、言い換えると金属空気二次電池における固体酸化物形燃料電池の発電時には、二次電池用金属蓄電材における金属粉末を構成する金属が酸化される。金属空気二次電池の放電後において、放電時とは逆方向に金属空気二次電池に通電し、二次電池用金属蓄電材における金属粉末を構成する金属の酸化物を還元することによって充電がなされる。
より具体的には、本発明に係る金属空気二次電池は、固体酸化物形燃料電池と二次電池用金属蓄電材とを組み合わせてなる。金属空気二次電池における固体酸化物形燃料電池の発電時には、二次電池用金属蓄電材における金属粉末を構成する金属の酸化によって発生する水素が、固体酸化物形燃料電池の燃料極に供給される。
【0029】
金属空気二次電池における固体酸化物形燃料電池の発電時には、下記(8)式のように、空気極において酸素ガス(O)が還元されて酸化物イオン(O2−)が発生し、下記(9)式のように、燃料極において水素ガス(H)が酸化されて水素イオン(H)が発生し、下記(10)式のように、酸化物イオンと水素イオンとが燃料極で反応することにより水(HO)が発生する。下記(8)式及び(9)式で表される反応によって、燃料極から空気極へと配線を通じて電子が流れることにより、空気極から燃料極へと電流が発生する。また、下記(10)式によって発生する水と、二次電池用金属蓄電材とが反応することによって、水素ガス(H)が発生する。下記(11)式において、二次電池用金属蓄電材における金属粉末が鉄である例を示す。下記(11)式によって発生する水素ガスが、燃料極における(9)式で表される反応に用いられる。よって、二次電池用金属蓄電材における金属が酸化可能であり、かつ二次金属蓄電材の近傍に水又は水蒸気が存在する限りにおいて、二次電池用金属蓄電材によって水素ガスが産生され、金属空気二次電池における固体酸化物形燃料電池の発電が可能となる。
(空気極) O + 4e → 2O2− ・・・ (8)
(燃料極) H → 2H + 2e ・・・ (9)
2H + O2− → HO ・・・ (10)
(二次電池用金属蓄電材)
Fe + 3HO → Fe + 3H ・・・ (11)
【0030】
金属空気二次電池の充電時には、固体酸化物形燃料電池における空気極と燃料極との間に直流電源を接続し、電圧を印加して通電することにより、空気極及び燃料極において前記放電時、言い換えると金属空気二次電池における固体酸化物形燃料電池の発電時と逆の反応が起こる。充電時における燃料極では、下記の(13)式のように、水と電子とが反応し、酸化物イオンと水素とが発生する。下記(13)式で発生した酸化物イオンは、燃料極から固体電解質層を通って空気極に移動し、下記(12)式のように電子を放出して酸素分子が生成する。また、下記(14)式のように、二次電池用金属蓄電材における金属酸化物、例えばFeが(13)式において発生した水素によって還元され、水が発生する。(14)式において発生した水は、更に(13)式で示される反応に用いられ、燃料極において酸化物イオンと水素とに分解される。
(空気極) 2O2− → O + 4e ・・・ (12)
(燃料極) 2HO + e → 2H + O2− ・・・ (13)
(二次電池用金属蓄電材)
Fe + 3H → Fe + 3HO ・・・ (14)
【0031】
固体酸化物形燃料電池は、400℃程度の温度条件下において、0.9Vで50mA/cmの出力が可能であるように設計されることが好ましい。このような運転条件であると、固体酸化物形燃料電池の燃料極におけるニッケルの酸化反応を防止することができるとともに、十分な大きさの電池出力を確保することができる。
【0032】
固体電解質層は、酸化物イオン導電性を有する固体電解質により形成されていればよい。固体電解質層を形成する材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、イットリアドープセリア、ガドリアドープセリア等が挙げられる。固体電解質層を形成する材料の最適例として、La1−sSrGa1−tMg3−δ(0.05<s<0.25、0.05<t<0.25)の式で表されるLSGM系電解質材料が挙げられる。
【0033】
空気極は、酸化還元反応についての触媒機能、電子伝導性、ガス透過性、及び高温条件下における安定性等を有する限りにおいて、従来公知の材料を用いることができる。空気極の材料として、例えば、La1−xSrMnO3−δ(0<x<0.3)、La1−xSrCoO3−δ(0<x<0.5)、La1−xSrCo1−yFe3−δ(0<x<0.5、0.7<y<1)、Sm1−xSrCoO3−δ(0<x<0.6)等が挙げられ、最適例として、Ba0.6La0.4CoO3−δ(以下、「BLC系材料」と称することがある。)が挙げられる。空気極の材料としてBLC系材料を用いると、400℃前後の条件下においても、空気極における酸化還元反応を十分に発生させることができる。
【0034】
燃料極は、酸化還元反応についての触媒機能、電子伝導性、ガス透過性、及び高温条件下における安定性等を有する限りにおいて、従来公知の材料を用いることができる。燃料極の材質としては、例えば、Ni及び/又はFe等の金属と電解質材料との混合物であるサーメットが挙げられる。燃料極に混合する電解質材料として、例えば、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、サマリウム添加セリア、ガドリウム添加セリア、及びカルシア安定化ジルコニアが挙げられる。電解質材料の最適例として、ガドリウム添加セリアの一例であるCe0.8Gd0.22−δが挙げられる。
【0035】
固体酸化物形燃料電池の製造方法は特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。また、本発明に係る固体酸化物形燃料電池の形状は、筒状であってもよいし、平板状であってもよい。
【0036】
金属空気二次電池において、燃料極を構成する部材と二次電池用金属蓄電材とが直接反応してしまうことを防止するために、燃料極と二次電池用金属蓄電材とは互いに接触しないように設けられてなることが好ましい。一方で、二次電池用金属蓄電材において反応した水素ガスが燃料極に供給されるように、燃料極と二次電池用金属蓄電材とは近接して設けられることが好ましい。
【0037】
本発明に係る金属空気二次電池を直列又は並列に複数接続することにより、二次電池システムを形成してもよい。このような二次電池システムにおいては、二次電池用金属蓄電材が、各金属空気二次電池に共有して利用されるように、配置されていてもよい。より具体的には、一箇所に設けられた二次電池用金属蓄電材により発生する水素が、複数の固体酸化物形燃料電池における燃料極へと供給される態様であってもよい。
【0038】
図1及び図2に示されるように、固体酸化物形燃料電池の形状は、筒状であることが好ましい。固体酸化物形燃料電池を筒状にすることにより形成される筒状体は、その軸線方向とは垂直な方向に、外側から内側に向かって空気極と固体電解質層と燃料極とが層状に設けられる。最も内側に設けられた燃料極のさらに内側の空間に二次電池用金属蓄電材が配置されることにより、二次電池用金属蓄電材において発生する水素と燃料極とが容易に反応することができる。筒状である固体酸化物形燃料電池を、筒状体の軸線方向とは垂直な方向に切断した際に観察される横断面の形状は特に制限されず、例えば、円形、楕円形、多角形等であればよい。
【0039】
二次電池用金属蓄電材は、筒状体の内側において、燃料ケースに封入されてなることが好ましい。燃料ケースは、二次電池用金属蓄電材と燃料極を形成する材料とが直接に反応することを防ぐことができる。燃料ケースは、通常、メッシュ状又は多孔状である。燃料極において発生した水素は、燃料ケースにおける孔を通って、燃料極へと到達することができる。燃料ケースの好適例としては、例えばセラミックスファイバー、セラミックスで被覆された金属メッシュ、低密度多孔性アルミナ等が挙げられる。
【0040】
図1及び図2を用いて、本発明に係る金属空気二次電池について説明する。金属空気二次電池1は、図2に示されるように横断面が円形の筒状体である。筒状体の径方向において外側から順に、空気極5、固体電解質層4、及び燃料極3が設けられる。燃料極3の内側に設けられた空間に、燃料ケース8が設けられ、燃料ケース8の内部に二次電池用金属蓄電材2が封入される。燃料極層3、固体電解質層4、及び空気極層5の端面近傍には、シール部材6、燃料極側集電体7、及び空気極側集電体9が設けられる。シール部材6、燃料極側集電体7、及び空気極側集電体9によって、燃料極3よりも内側における空間、言い換えると固体酸化物形燃料電池の内部における空間が密閉されることとなり、放電時に発生した水蒸気が電池の外部に漏れ出すことがなく、二次電池用金属蓄電材2によって生成された水素が電池の外部に漏れ出すことがない。尚、図1及び図2には図示していないが、燃料極3と固体電解質層4との間には、燃料極3におけるニッケルの拡散を防止するための中間層が設けられていてもよい。また、燃料極3は、Niとガドリウム添加セリア等の電解質材料とを含有し、酸化還元反応に寄与する燃料極機能層と、前記電解質材料を含有せずNiとNi以外の金属、例えばFeとを含有し、燃料極3の機械的強度を補強する燃料極支持層との2層からなっていてもよい。
【0041】
金属空気二次電池1の放電時には、金属空気二次電池1は400℃以上900℃以下程度の温度となるように熱せられる。より好ましくは、金属空気二次電池1は400℃前後の温度となるように熱せられる。また、図1及び図2には図示されていないが、金属空気二次電池1の放電時には、空気極5に酸素を含むガスが吹き込まれる。また、金属空気二次電池1の放電時には、二次電池用金属蓄電材2が反応することにより水素ガスが発生し、発生した水素ガスが燃料ケースの側面を通って燃料極3へと供給される。
本発明に係る二次電池用金属蓄電材2は、400℃前後の温度条件下において焼結することが防止されるので、固体酸化物形燃料電池の充放電時に二次電池用金属蓄電材2は、燃料ケース8の内側空間において収縮してしまうことがない。さらに、400℃前後の温度条件下においても、二次電池用金属蓄電材2における金属粉末は、内部まで十分に酸化反応が進行する。よって、二次電池用金属蓄電材2は十分な量の水素ガスを燃料極3に供給することができる。
【0042】
空気極側集電体9及び燃料極側集電体7は、高温条件下において十分な機械的強度を有する物質であればよく、例えば、チタン、ステンレス、又はチタンとステンレスとの合金等が用いられる。
【0043】
次に、二次電池用金属蓄電材の製造方法について説明する。
【0044】
前記酸化物を含有する二次電池用金属蓄電材を製造するには、金属粉末を構成する金属が酸化されてなる金属酸化物の粉末と、酸化物の粉末とを、(1)溶媒中で混合し、(2)この溶媒を蒸発させ、次いで、(3)金属酸化物を還元させる方法が望ましい。このような方法によると、金属粉末の表面を酸化物によって容易に修飾させることができる。前記(1)〜(3)について、以下に詳しく説明する。
【0045】
(1)溶媒中における混合
まず、平均粒子径が約2μmである金属酸化物の粉末と、平均粒径が2〜7μmである前記酸化物の粉末とを、所望の比率となるように混ぜ、溶媒を加える。次に、溶媒中に粉末が均一に懸濁するようになるまで、金属酸化物の粉末と酸化物の粉末とを混合する。混合の方法は特に制限されないが、例えばボールミルを用いて混合すればよい。前記溶媒は、粉末を均一に懸濁させることができる限りにおいて特に制限されないが、例えば、水、エタノール、又はアセトン等が好適例として用いられる。また、溶媒の添加量も、粉末が均一に懸濁されるように、適宜変更することができる。
(2)溶媒の蒸発
次に、前記溶媒を蒸発させる。溶媒を蒸発させる方法は特に制限されず、例えば、常温条件下において前記粉末を含む懸濁液を放置する方法でもよく、前記粉末を含む懸濁液を加熱してもよい。溶媒を蒸発させることにより、前記金属酸化物の粉末の表面に、前記酸化物が存在する金属酸化物粉末が得られる。この段階で、金属酸化物粉末の平均粒子径は、0.5〜2μmであることが好ましい。
(3)金属酸化物の還元
前記金属酸化物粉末において含有される金属酸化物を還元することによって、金属粉末の表面に、前記酸化物が修飾されてなる二次電池用金属蓄電材が得られる。金属酸化物の還元は、前記金属酸化物粉末を、加熱炉等において熱することによって行われる。金属酸化物の還元における温度条件は、600℃以上700℃以下であることが特に好ましい。このような温度条件であると、金属粉末又は酸化物の物性が変化することを抑制しつつ、還元された金属粉末を得ることができる。
【0046】
次に、金属Bを含有する二次電池用金属蓄電材の製造方法について説明する。まず、硝酸塩又は塩化物等に代表される金属Aの塩からなる粉末と、硝酸塩又は塩化物等に代表される金属Bの塩からなる粉末とを、所定の割合となるように混ぜ、水等の溶媒を加えて混合する。その後、溶媒を蒸発させ、500℃以上700℃以下程度の温度条件で加熱処理をすることにより、金属Bを含有する二次電池用金属蓄電材が得られる。
【実施例】
【0047】
(1)酸化物を含有する酸化鉄粉末の作製
酸化鉄中に含有される鉄の質量と、酸化物の質量との比が、95:5となるように、酸化鉄と下記の酸化物のいずれか一種類とを混ぜ、混合粉末を得た。この混合粉末にエタノールを加え、ボールミルを用いて400回転/分で1時間混合し、エタノールを蒸発させることにより、酸化鉄が酸化物によって修飾されてなる酸化鉄粉末を得た。尚、用いた酸化物は、Ce0.6Mn0.3Fe0.12−δ、La0.6Sr0.4Fe0.9Mn0.13−δ、及びLaSrFe10の3種類であった。
(2)鉄以外の金属Bを含有する酸化鉄粉末の作製
鉄が95atm%、鉄以外の金属Bが5atm%の比率となるように、硝酸鉄又は塩化鉄等に代表される金属Aである鉄の塩からなる粉末と、下記の金属Bを含有する硝酸塩又は塩化物のうちいずれか一種類からなる粉末とを混合した水溶液を作製した。この水溶液中における水を蒸発した後、大気中で600℃、6時間の加熱処理を行うことにより、酸化鉄が金属Bによって修飾されてなる酸化鉄粉末を得た。尚、金属Bの硝酸塩又は塩化物として、Cr(NO・9HO、Co(NO・8HO、Mn(NO・8HO、Ni(NO・6HO、Cu(NO・3HO、PdCl、RhCl・3HO、及びHPtCl・3HOの8種類を用いた。
(3)酸化鉄粉末の還元
前記(1)及び(2)で得られた計11種類の酸化鉄粉末を、管状炉に入れ、600℃、3時間の加熱条件下において、2.8体積%の水蒸気を含有するように加湿された水素ガスを炉内に投入し、酸化鉄粉末中の酸化鉄を還元した。その結果、粒径が0.5〜2μmであり、鉄が酸化物又は金属Bで修飾されてなる二次電池用金属蓄電材が得られた。
(4)酸化増量測定
前記(3)で得られた二次電池用金属蓄電材5mgを、リガク製Thermo Plus2(TG−DTA)にセットし、室温から1000℃まで、毎分20℃ずつ温度を上昇させながら、2.8体積%の水蒸気を含有する加湿された窒素ガスを投入した。温度上昇中における二次電池用金属蓄電材の重量変化を測定することにより、金属粉末を構成する鉄の内部まで酸化が進行するかどうかを評価した。
また、比較例として、酸化物及び金属Bのいずれによっても修飾されていない単体の鉄からなる鉄粉末について同様の実験を行い、重量変化を測定し、鉄粉末の内部まで酸化が進行するかどうかを評価した。それぞれの結果を図3に示す。尚、図3において、指示線の一端に酸化物又は元素が記載された曲線は、それぞれの酸化物又は金属Bによって修飾された二次電池用金属蓄電材の例を示し、指示線の一端に「比較例」と記載された曲線は、酸化物及び金属Bのいずれによっても修飾されていない金属粉末の例を示す。
(5)酸化増量測定結果の評価
図3に示されるように、酸化物であるCe0.6Mn0.3Fe0.12−δ、La0.6Sr0.4Fe0.9Mn0.13−δ、又はLaSrFe10によって修飾されてなる二次電池用金属蓄電材は、比較例に比べて、400℃付近における重量変化量が大きい。特に、Mn、Fe、及びCeを含む蛍石型構造の酸化物であるCe0.6Mn0.3Fe0.12−δによって修飾されてなる二次電池用金属蓄電材と、La、Sr、Mn、及びFeを含むペロブスカイト型構造の酸化物であるLa0.6Sr0.4Fe0.9Mn0.13−δによって修飾されてなる二次電池用金属蓄電材とは、400℃付近において、重量変化量が約1.8mg前後に達する。この値は、金属粉末に含有される鉄が全て四酸化三鉄へ酸化されたとして計算される理論上の重量増加量である約1.9mgに近い値である。よって、これら2つの二次電池用金属蓄電材においては、400℃前後の温度において、鉄がほぼ完全に酸化されていることが分かる。
また、Co、Cu、Mn、Ni、Rh、Pt、Pd、又はCrの8種類の金属によって修飾されてなる二次電池用金属蓄電材も、比較例に比べて重量変化量が大きくなっており、鉄粉末の表面だけでなく鉄粉末の内部にまで酸化が進行することが分かる。特に、Co、Cu、Mn、及びNiを用いる例では、500℃〜600℃付近における重量変化量が比較例に比べて大きく、酸化がより進行している。また、金属BとしてCo、Mn、又はCuを用いる例では、500℃付近における重量変化量が特に大きい。更に、Co又はMnを用いる例では、500℃付近における重量変化量が1.8mg前後に達しており、500℃前後の温度において鉄から四酸化三鉄への酸化がほぼ完了していることが分かる。
【0048】
(6)充放電試験
La1−sSrGa1−tMg3−δ(0.05<s<0.25、0.05<t<0.25)の式で表されるLSGMの粉末を、静水圧プレスにて1.5tonの加圧を行い、略有底管形状に成形した。その後、旋盤にて所定の形状に削り、1400℃にて焼成を行い、図4に示されるように、φ13mm、長さ10cm、厚さ1mmのLSGMからなる筒状の固体電解質層44を得た。
次に、質量比でNi:Fe=9:1となるように、Fe(NO・9HO水溶液中にNiO粉末を混合し、水を蒸発させた後、600℃−6hrの条件で仮焼成することにより、燃料極原料を得た。
また、Ba0.6La0.4CoO3−δと同じ組成となるように、La、BaCO、及びCoの粉末を混合し、1200℃、6時間で仮焼成し、固相法を用いて空気極原料を得た。
前記燃料極原料及び前記空気極原料に、それぞれ溶媒及びバインダーを加え、スラリー状の燃料極前駆体とペースト状の空気極前駆体とを得た。前記筒状の固体電解質層44の外壁面の底部近傍にペースト状の空気極前駆体を、前記筒状の固体電解質層44の内壁面の底部近傍にスラリー状の燃料極前駆体を、それぞれの電極面積が10cmとなるように塗布した後、1100℃、30minで焼き付けることにより、燃料極43及び空気極45を得た。燃料極43及び空気極45には、白金線51を取り付け、定電流装置55と接続させた。燃料極43の内側には、燃料ケースとして筒状の有底アルミナ管52を設け、この有底アルミナ管52の内部に、前記(3)酸化鉄粉末の還元で得られたCe0.6Mn0.3Fe0.12−δにより修飾されてなる二次電池用金属蓄電材30mgを入れた。固体電解質層44の開口端には、ガス導入用の入口及び出口となるステンレス配管53を導入し、エポキシ樹脂からなるシール部材54により前記開口端を封止した。次に、燃料極43及び空気極44を加熱しながら、3%の水蒸気を含有する水素ガスを、100ml/minにてステンレス管53を通して投入しながら、500℃、1hrの条件で、燃料極43及び前記二次電池用金属蓄電材を還元した。このとき、図4には図示されていないが、空気極45には100ml/minの条件で空気を供給した。その後、400℃に温度を低下させ、87.3質量%のアルゴン、9.7質量%の水素、及び3質量%の水蒸気からなるガスを、ステンレス管53を通して投入した後、ステンレス管53の入口及び出口を止め、封止した。
尚、充放電は、1mA(0.1mAcm)の定電流条件下における二端子法によって行った。具体的には、定電流装置55によって一定の大きさの電流をかけながら、放電時及び充電時における燃料極43と空気極45との間における電圧を測定した。充電、放電はそれぞれ20回ずつ行った。結果を図5に示す。尚、図5の横軸における充放電容量(mAhgFe−1)は、通電した電流の大きさ(mA)×通電した時間(h)/鉄粉末の重量(g)の式により求めた。
放電時における電圧と放電容量との関係は、図5において1.1Vよりも下に位置する曲線により示され、充電時における電圧と充電容量との関係は、図5において1.1Vよりも上に位置する曲線により示される。放電時には1.05V付近の電圧において、400mAhgFe−1の放電容量が得られ、充電時には1.25V付近の電圧において、400mAhgFe−1の放電容量が得られた。これらの結果から、400℃前後の温度条件であっても、効率よく繰り返し充放電をできることが分かった。
また、図5では、1回目、5回目、10回目、及び20回目に充放電を行った際の結果を示している。充電及び放電のいずれにおいても、1回目から20回目までほとんど電圧の低下が見られず、繰り返し使用しても電池の能力が落ちず、耐久性に優れていることが分かった。
さらに、図6では、CMFによって金属粒子の表面を修飾した鉄粉末と、修飾していない鉄粉末とにおいて、20回の充放電サイクル試験の前後における鉄粉末の観察写真を示す。図6(a)は、CMFによって金属粒子の表面が修飾された鉄粉末の充放電試験前の観察写真であり、図6(b)は、CMFによって金属粒子の表面が修飾された鉄粉末の充放電試験後の観察写真であり、図6(c)は、CMFによって金属粒子の表面が修飾されていない鉄粉末の充放電試験前の観察写真であり、図6(d)は、CMFによって金属粒子の表面が修飾されていない鉄粉末の充放電試験後の観察写真である。図6(a)及び(c)のように、充放電試験前の鉄粉末は、CMFによる表面修飾の有無に関わらず、一次粒子と一次粒子との間に隙間が見られる。一方で、充放電試験後には、CMFで修飾した鉄粉末は図6(b)のように一次粒子同士の間に隙間が見られるものの、CMFで修飾しなかった鉄粉末については、図6(d)のように一次粒子間の隙間が小さくなっている。よって、CMFで修飾しなかった金属粉末は、充放電試験の過程で焼結することにより、鉄粉末の粒子同士が凝集したことが分かる。以上より、CMFにより金属粉末を修飾することによって、高温条件下における焼結が防止されることが分かった。
【符号の説明】
【0049】
1 金属空気二次電池
2 二次電池用金属蓄電材
3、43 燃料極
4、44 固体電解質層
5、45 空気極
6 シール部材
7 燃料極側集電体
8 燃料ケース
9 空気極側集電体
11 固体酸化物形燃料電池
51 白金線
52 有底アルミナ管
53 ステンレス管
54 シール部材
55 定電流装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6