【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記先行技術は、以下の課題を有していた。
・特許文献1は、原子力発電所で発生する極めて高レベル放射性廃棄物中に含まれる放射性セシウム又は放射性ストロンチウムを対象とするため、厳重な安全対策を要するとともに高温下で行うので多大の作業工数と莫大なエネルギーを要するものであって、原子力発電所の事故により大気中に広範囲に拡散した低レベルの放射性セシウムの除染を目的とするものに利用できるものではない。
・特許文献2は、粉末のゼオライト(実施例)で処理を行なっているので、放射性セシウムを多量に含有する粉末の取り扱い性に欠けるとともに作業性に欠け、また、放射性セシウムを吸着したゼオライトをセメントで固化するか、または放射線遮蔽容器に収容して最終処分をするので(段落〔0008〕欄参照)、作業が煩雑で、かつ被爆する危険性が高く安全性に欠けるという課題を有している。
・特許文献3は、複数の放射性物質吸着層を準備しなければならず、生産性や、設置作業性に欠けるとともに、放射性物質吸着層が1mm〜5mmの粒子で形成され、粒状のものをそのまま取り扱うため、飛散する可能性が高いことから、生産性や放射性セシウムを吸着した後の取り扱い性に欠けるという課題を有している。
・特許文献4及び5は、吸着材で回収した放射性セシウムを固定化剤で安定化する作業を要し、作業の過程で被爆の危険性があり、安全性に欠けるとともに、放射性セシウムの抽出剤の蓚酸等の放射性廃液の処理が煩雑で安全性や作業性に欠けるという課題を有している。
・特許文献6は、放射性セシウムの吸着性が非常に高いフェロシアン化金属化合物をそのままゼオライトに添着しているので、処理後のゼオライトの放射能汚染レベルが局所的に高く、更に、微粉末上のものをそのまま取り扱うため、飛散する可能性が高いので、放射性セシウムの吸着後のゼオライトを処分する段階で支障をきたす恐れがあるという課題を有している。
・また、近年は火力発電所の増加により大量に排出される石炭灰や、アルミニウムの消費量は年々増加し、その産業廃棄物であるアルミドロス残灰の処理が社会問題になっている。そこで、これら産業廃棄物の有効利用が強く要望されている。
【0007】
本発明は、上記課題を解決し要望に応えるもので、沢水や河川、湖沼等の水中に遊離している放射性セシウムや田畑に硫安などの肥料を施すことで土壌から遊離してくる放射性セシウムの吸着性に優れるとともに、放射性セシウムの保持力に優れ、特に、山間部等の沢部や放射性汚染水の水路に簡単に設置できるため設置の作業性に優れ、放射性セシウムを相当量吸着し、かつ、廃棄作業性に優れるとともに、作業時の安全性に優れるだけでなく、石炭灰とアルミドロス残灰とセメント材料で作成し産業廃棄物の有効利用を図ることのできる放射性セシウム除去用コンクリート製品の提供、及び高レベルの放射性セシウムが流れ込む山間部の沢や河川、湖沼、集水地、側溝、法面などに簡単に設置でき、設置するだけで放射性セシウムを長期間に渡り効率よく吸着し流水を効果的に除染し、除染後は簡単な作業で除去できる除染作業性に優れた放射性セシウム除去用コンクリート製品を用いた放射性セシウムの除去方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の放射性セシウム除去用コンクリート製品及びそれを用いた放射性セシウムの除去方法は、以下の構成を有する。
本件発明の請求項1に記載の放射性セシウム除去用コンクリート製品
の製造方法は、石炭灰とアルミドロス残灰をアルカリ溶液中で合成して得られた合成ゼオライトを、Ni,Co,Cu,Mn,Znの内いずれか1の
酸性金属塩の水溶液に浸漬し前記合成ゼオライト中の金属イオンとイオン交換させた後、フェロシアン化イオンを含浸させ、内部に不溶性フェロシアン化合物を沈殿させて得られた人工ゼオライト(a)及びセメント材料(b)がa/b=3/7〜7/3と、骨材と、水を混合し、次いで成型する構成を有している。
この構成により、以下の作用が得られる。
(1)石炭灰とアルミドロス残灰で合成した合成ゼオライトを用いているので、産業廃棄物の有効利用になる。
(2)石炭灰の種類やアルミドロス残灰のAlの含有量に応じてアルミドロス残灰の配合量を変えるだけで、最適のゼオライトを合成できる。
(3)Ni,Co,Cu,Mn,Znの内いずれか1の金属イオンを含浸若しくは該金属イオンでNaイオンをイオン交換した後、フェロシアン化イオンを含浸させ不溶性フェロシアン化合物を沈殿させるので、フェロシアン化イオンを安定してコンクリート製品中に保持でき、経時変化することなく放射性セシウムを吸着することができる。
(4)フェロシアン化
金属化合物で放射性セシウムを強固に、該コンクリート製品内に保持し漏出を防ぐことができる。
(5)コンクリート製品が、平ブロックやインターロッキングブロックの場合、沢や河川、湖沼、排水溝等への設置作業が容易で、かつ、1個当たりの放射性セシウムの吸着量が大きいので、長期間放置した後,土木機器で容易に取り換え作業を行うことができ、作業性に優れる。
(6)コンクリート製品が、平ブロックやインターロッキングブロックの場合、既存の製造設備で簡単にかつ大量生産を行うことができ、生産性に優れるとともに、生産現場から設置場所への搬送性に優れる。
(7)コンクリート製品が、ボール状やドーナツ状、ラシヒリング状の場合は、蛇籠や網体に収容して簡単に設置でき、また、取り換える際も蛇籠等を、土木機器で簡単に回収し移動させることができ、作業性に優れる。
(8)コンクリート製品は透水性に優れ、コンクリート製品内に固持した不溶性フェロシアン化合物も含む人工ゼオライトは、水中で放射性セシウムの溶出は見られず、かつ、乾燥状態でも飛散しにくい。
【0009】
ここで、石炭灰としては、クリンカアッシュ、フライアッシュが好適に用いられる。SiO
2やAl
2O
3の含量がBMアッシュやPFBC灰に比べて多いためである。尚、BMアッシュやPFBC灰はクリンカアッシュ、フライアッシュに混合して用いることもできる。これらの混合比はクリンカアッシュ、フライアッシュのSiO
2とAl
2O
3の含有量によって適宜決められる。
PFBC灰は大きさが3〜10μmなのでそのまま使用することができ、またフライアッシュは粒径が0.1mm以下の粒子が90%以上を占めるので、これもそのまま使用することができるが、クリンカアッシュやBMアッシュは粒径が大きいので粉砕して用いられる。
【0010】
アルミドロス残灰は、アルミやアルミ合金からなるアルミ原材料を溶解するアルミ溶解工程で副生するものであれば特に制限されない。アルミドロス残灰の組成としては、金属アルミ8〜15質量%、酸化アルミ(Al
2O
3)50〜60質量%,窒化アルミ(AlN)5〜15質量%、鉄(Fe)0.5〜2質量%、ケイ素(Si)0.5〜10質量%、マグネシウム(Mg)0から6質量%、アルカリ(Na+K)1.5〜3質量%,カルシウム(Ca)0〜1質量%,塩素(Cl)1〜6質量%、フッ素(F)0.5〜2質量%等の材料が好適に用いられる。
【0011】
合成ゼオライトの製造は、85〜99℃で、4時間〜10時間アルミドロス残灰をアルカリ水溶液中で反応させた上澄み液中に、石炭灰を加えて撹拌して得られる。
・アルカリ水溶液としては、苛性ソーダ等の、1.5〜3.5Mの水溶液が好適に用いられる。
・石炭灰とアルミドロス残灰の混合比は、石炭灰がフライアッシュの場合、石炭灰が1に対し、アルミドロス残灰がAlの含有率が25から35%の場合、0.7〜1.4の割合で用いられる。
・合成ゼオライトの粒径は30〜55μmのものが用いられる。セメントの粒径とほぼ同様の粒径なので、セメントと均一に混合しやすくコンクリート製品全体に放射性セシウムを斑なく吸着できるためである。
・合成ゼオライトはセシウムを効率よく吸着するために、X型のゼオライトが好適に用いられるが、モルデナイト型やA型のゼオライトが用いられる場合もある。
【0012】
・人工ゼオライトの製造方法は、第1の方法として、合成ゼオライト
を、Ni,Co,Cu,Mn,Znの内いずれか1の酸性金属塩の水溶液に浸漬し撹拌しながら、合成ゼオライト中のナトリウム等とNi等の金属イオンとイオン交換を行い、次いで水洗中和後、水溶性のフェロシアン化
合物水溶液に浸漬させる。
フェロシアン化合物水溶液の濃度は、酸性金属塩1に対し約2倍のM濃度に調整するのが好ましい。但し、1M以下で用いられる。
次いで、ろ過洗浄した後、乾燥させる方法が挙げられる。
・また、第2の方法として、Ni,Co,Cu,Mn,Znの内いずれか1の酸性金属塩の水溶液(濃度:0.3〜0.6M)に、フェロシアン化合物水溶液(濃度:0.7〜1.4M)を加えて生じた沈殿物を、固液分離後、沈殿物を水で洗浄した後、更に水を加えた後、
合成ゼオライトを加えて混練機で十分混練し、次いで、ろ過洗浄し未反応のフェロシアン化
合物を洗い流した後、乾燥させる方法が用いられる。
・Niの酸性金属塩としては、硝酸塩、塩化物,硫酸塩,酢酸塩等が用いられる。なかでも、硝酸塩が好適に用いられる。
・フェロシアン化イオン水溶液のフェロシアン化合物としては、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム等を挙げることができる。
【0013】
本発明の請求項2に記載
の放射性セシウム除去用コンクリート製品の製造方法は、Ni,Co,Cu,Mn,Znの酸性金属塩水溶液と、フェロシアン化合物水溶液を混合して得られた沈殿物を分離後水洗した後、石炭灰とアルミドロス残灰をアルカリ溶液中で合成して得られた合成ゼオライトと混練した後、水で洗浄しろ過洗浄して得られた人工ゼオライト(a)とセメント材料(b)がa/b=3/7〜7/3と、骨材と、水を混合し、次いで成型する構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用の他、以下の作用が得られる。
(1)フェロシアン化合物が、人工ゼオライトの表面にも露出しているので、放射性セシウムとの接触面が広くセシウムの吸着力が優れている。
(2)フェロシアン化合物が、平衡量までイオン交換できるので、吸着効率に優れる。
【0014】
ここで、Ni,Co,Cu,Mn,Znの内いずれか1の酸性金属塩やフェロシアン化物の種類及び石炭灰とアルミドロス残灰の内容、合成ゼオライトの内容は、請求項1と同様なので説明を省略する。
・合成ゼオライト1重量に対し、0.08〜1.2重量のフェロシアン化物を配合した場合、合成ゼオライトの表面に効率よく分散されるので好ましい。
Ni,Co,Cu,Mn,Znの内いずれか1の酸性金属塩溶液の濃度は,0.05〜1.2Mが用いられる。0.05Mよりも濃度が薄くなるにつれイオン交換能に欠ける傾向があり、また、1.2Mよりも濃度が濃くなるにつれイオン交換の平衡量を上回るので好ましくない。
また、フェロシアン化物イオン水溶液の濃度は,該酸性金属塩溶液の濃度の40〜65%濃度が用いられる。40〜65%濃度のフェロシアン化物イオン水溶液を用いることにより、イオン交換平衡に近づけることができるので好ましい。
【0015】
・請求項1及び2において、人工ゼオライトとセメントは、セメント100に対し人工ゼオライトは30〜70/70〜30の配合比(重量比)が用いられる。
セメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント等が用いられる。
・放射性セシウム除去用コンクリート製品の形態としては、大きさがa×b×c(例えば、a=3〜10cm、b=5〜15cm、c=15〜30cm)の平ブロックやインターロッキングブロックや、径が例えば2〜10cmのボール状やドーナツ状や円筒管状、ラシヒリング状、板状の成型体等が挙げられる。
・次に、その製造方法について、具体的に説明する。
セメント(イ)に対し、人工ゼオライト(ロ)を(イ)/(ロ)が3/7〜7/3になるように配合される。配合比3/7よりも小さいと機械的強度が小さく、また配合比7/3より大きくなると放射性セシウムの吸着能が低くなり好ましくない。そのほか、骨材と、混和剤とを、水を通常のコンクリート製品を製造するときと同等量加えて混合し,混練した混練物を型枠内に流し込んだ後、ジョルトスクイズマシン等で振動を加えた状態下に所定の圧力を加えて成型し、次いで、得られた成型物を養生して放射性セシウム除去用コンクリート製品を得る。
【0016】
本発明の請求項3に記載の
放射性セシウム除去用コンクリート製品の製造方法は、請求項1又は2に記載の放射性セシウム除去用コンクリート製品の製造方法で得られた平ブロック又はインターロッキングブロックからなる
コンクリート製品の一面に流水中に一部溶解したフェロシアン化物を吸着するシアン吸着材層を形成する構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用の他、以下の作用が得られる。
(1)コンクリート製品から流水中にフェロシアン化イオンの一部が溶解したとしても、シアン吸着剤層を有するので、フェロシアン化イオンを吸着捕捉でき安全性に優れる。
(2)フェロシアン
化合物には毒性がないものの、環境基準や排水基準で規定されている全シアン量が増えることになるため好ましいことではないが、シアン吸着剤層を備えていることにより、流水中の全シアン量の増加を防ぐことができる。
(3)シアン吸着剤層に吸着されたフェロシアン化
イオンが、更に放射性セシウムを吸着するので、吸着効率に優れる。
【0017】
ここで、シアン吸着剤層としては、活性炭や陰イオン交換樹脂等が好適に用いられる。
活性炭としては、石炭系、石油系、やしがら系、木質系等が用いられる。また、フェルト状、クロス状の活性炭繊維も使用できる。
陰イオン交換樹脂としては、強塩基陰イオン交換樹脂であれば、粒状、繊維状、膜状等の物が使用できる。例えば、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体からなる母体を有する強塩基陰イオン交換樹脂が挙げられる。
シアン吸着剤層の形成は、該ブロックを製造する際に、人工ゼオライトとセメント材料からなるスラリーを型枠内に充填した後、活性炭や陰イオン交換樹脂を数mmの厚さに形成する等して得られたシアン吸着剤層を設け、圧力を加えるか、又は、該ブロックの成型直後にシアン吸着剤層をセットし一体化させるか、あるいは、該ブロック製品の一面にシート状に形成したシアン吸着剤層を接着剤等で後付けで一体化させてもよい。
【0018】
本発明の請求項4に記載の
放射性セシウムの除去方法は、請求項1又は2に記載の放射性セシウム除去用コンクリート製品の製造方法で得られたコンクリート製品若しくは請求項3に記載のコンクリート製品を河床や湖沼の底部、排水溝や側溝の底部のホットスポットに、流水の流れと平行に敷設し、又は、モルタル等を介して塀状に作成し、それを河床や湖沼の底部、排水溝や側溝の底部のホットスポットに、流水の流れと垂直方向に沈設して、放射性セシウムを含有する流水に接触させる構成を有している。
この構成により、以下の作用が得られる。
(1)コンクリート製品が、放射性セシウムの大容量の吸着能を備えているので、放射性セシウムのホットスポットに設置しても長期間にわたり放射性セシウムを吸着するので、頻繁に取り換える必要がなく、作業性に優れる。
(2)放射性セシウム除去用コンクリート製品の形状が大きく、かつ機械的強度に優れているので、流水中へのセットが簡単で、吸着後の取り換え作業や回収が簡単で作業性に優れる。
(3)回収した放射性セシウム除去用コンクリート製品は、放射性セシウムを内部に安定して保持し、放射性セシウムが漏えいすることはないので、廃棄作業や貯蔵、保管性に優れる。
(4)人工ゼオライトをセメントと混合して製造したコンクリート製品は、保水量が,極めて大きいので、放射性セシウムイオンを含む流水を吸収したコンクリート製品が、流水から露出しても、その保水性により、系内でイオン交換ができるので、山腹等の法面にも設置することができ、広範囲にわたって放射性セシウムを除染できる。
ここで、該コンクリート製品が平ブロック、インターロッキングブロックで形成され、その一面にシアン吸着材層を有する場合は、シアン吸着剤層が下流側になるように設置される。