(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347776
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質の処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20180618BHJP
【FI】
H01M4/525
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-505603(P2015-505603)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(86)【国際出願番号】JP2014056942
(87)【国際公開番号】WO2014142314
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-51563(P2013-51563)
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000230607
【氏名又は名称】日本化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139206
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 朋之
(74)【代理人】
【識別番号】100094488
【弁理士】
【氏名又は名称】平石 利子
(72)【発明者】
【氏名】濱田 師宏
(72)【発明者】
【氏名】杉渕 義人
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 肇
【審査官】
松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−100633(JP,A)
【文献】
特開2009−076383(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/141258(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/116839(WO,A1)
【文献】
特開2012−113823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル系複合酸化物を含んでなるリチウムイオン二次電池用正極活物質を、アンモニアを含み、伝導度が11.6mS/cm以下であって、前記正極活物質を洗浄した後の洗浄液から回収された液体成分を含む洗浄液によって洗浄した後に固液分離し、固体成分を酸素雰囲気下において600〜700℃で焼成することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の処理方法。
【請求項2】
洗浄液が、洗浄液として繰り返し使用されたものを含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の処理方法によって処理されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極材とするリチウムイオン二次電池を20℃で作動させ、175mAh/gを1Cとして計算して0.15Cの電流密度でリチウム対極に対して4.25Vまで充電し、更に、4.25Vの一定電圧で電流値が0.001mAになるまで充電した後、0.15Cの電流密度でリチウム対極に対して2.5Vまで放電を行なった際の放電容量が、洗浄前のそれに対して99%以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材として使用される正極活物質中に含まれる水酸化リチウムや炭酸リチウム等を除去するための該活物質の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の電子機器の小型化、高性能化が急速に進んでおり、これらの電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有する二次電池への要求が高くなっている。このような状況下において、充放電容量が大きいリチウムイオン二次電池が幅広く用いられている。
従来、リチウムイオン二次電池の正極活物質は、コバルトを主成分とするものが主流であった。しかし、コバルトは希少金属であり、高価である。
そこで、ニッケルを主成分とした正極活物質が注目されている。ニッケルを主成分とする正極活物質は、コバルトを主成分とする正極活物質に比較してコバルトの含有量が少ないため、コストが低い。しかし、ニッケルを主成分とする正極活物質は、未反応残渣や合成時の副生物等である水酸化リチウムや炭酸リチウム等のリチウム化合物が粒子表面や一次粒子間に多く存在している。
【0003】
一般的に、炭酸リチウムが多く含まれるリチウムイオン二次電池用正極活物質を電池の正極材として用いた場合、炭酸リチウムが分解して電池内部で炭酸ガスを発生させるために電池内部の圧力が増加し、電池の膨れの発生や充放電効率等の電池特性が低下する。さらに、水酸化リチウムが多く含まれるリチウムイオン二次電池用正極活物質を電池の正極材として用いた場合、正極ペーストのゲル化を誘発し、正極ペーストを塗布する工程が困難となる。
【0004】
このような課題を解決するための手法として、正極活物質を水又はリチウムが溶解している水溶液で洗浄する方法(特許文献1)や、アンモニア水、水酸化リチウム水溶液等のpH7以上の水溶液で洗浄する方法(特許文献2)、さらには種々の溶液を用いて洗浄処理する方法がいくつか提案されている。
【0005】
しかし、リチウムイオン二次電池用正極活物質を従来から提案されている方法で洗浄処理しても、該正極活物質中に含まれる正極材として不都合な水酸化リチウムや炭酸リチウムの除去は必ずしも十分ではなかった。
加えて、近年リチウムイオン二次電池の生産量及び用途が拡大していることから(例えば、ソーラー発電用蓄電池、電気自動車や飛行機等の電源用バッテリー等)、大量の正極活物質が必要とされ、これに伴い該活物質の生産工程で発生する大量の廃液を処理しなければならないという問題が新たに発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−64944号公報
【特許文献2】特開2011−100633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に基づいてなされたもので、リチウムイオン二次電池用正極活物質中に含まれる正極材として不都合な水酸化リチウムや炭酸リチウムを十分に除去することができ、これをリチウムイオン二次電池の正極材とした場合に該二次電池の放電容量の低下がなく、また、正極ペーストを一定の条件で保管してもゲル化することがなく、さらには、洗浄処理後の洗浄廃液の処理や該廃液中の有価物の回収が極めて容易な、リチウムイオン二次電池用正極活物質の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、正極活物質を先ずアンモニアを含む洗浄液中でスラリー化し洗浄した後、該スラリーを固液分離し、脱水乾燥した固体成分を酸素雰囲気下において所定の温度で焼成することにより、水酸化リチウムや炭酸リチウムの含量を極力低減させた正極活物質が得られ、この正極活物質を正極材とすることにより電池膨れの発生がなく、また充放電特性低下の少ないリチウムイオン二次電池が得られること、さらに一度正極活物質の洗浄を終えて回収された洗浄液を、次回以降の正極活物質の洗浄液として反復使用した場合には、意外にも、新規な洗浄液を用いた場合と同等以上の結果が得られることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の処理方法は、
(1)上記正極活物質を、アンモニアを含む洗浄液と接触させて洗浄した後に固液分離し、固体成分を酸素雰囲気下において600〜700℃で焼成することを特徴とする。
このとき、上記洗浄液は、(2)伝導度が11.6mS/cm以下であり、(3)回収された液体成分を含んでいてもよく、(4)洗浄液として繰り返し使用されたものを含んでいてもよい。
【0010】
(5)さらに本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の処理方法は、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の処理方法によって処理されたリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極材とするリチウムイオン二次電池の
後述の評価手法による4.25−
2.5Vの放電容量が、洗浄前のそれに対して99%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正極活物質の処理方法によれば、正極活物質中に含まれる正極材として不都合な水酸化リチウムや炭酸リチウムの量をともに著しく低減させることができる。
また、本発明の処理方法によれば、処理された正極活物質をリチウムイオン二次電池用正極材として用いた場合の初回の放電容量や平均放電電圧がともに未処理品の99.5%以上となり、電池膨れの発生がないことに加え、充放電特性の良好なリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0012】
さらに、本発明の処理方法では、洗浄液を処理の都度回収して次回の処理の際に洗浄液として反復使用する場合に、新規な洗浄液を使用する場合と同等以上の結果を得ることができ、処理工程のコスト低減効果はもとより、正極材としての性能向上効果をも得ることができる。
しかも、この方法では、従来の洗浄廃液に比べて、廃液の量が格段に減少することに加え、廃液中の炭酸リチウムや水酸化リチウム等の濃度が格段に高くなっており、廃液の処理が極めて簡略化できるのみならず、廃液中の炭酸リチウムや水酸化リチウム等の有価物をも高効率で回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の処理方法で処理される正極活物質は、正極、負極、セパレータ、リチウム塩を含有する非水電解質等から構成されるリチウムイオン二次電池に使用される。上記正極は、正極板(例えばアルミニウム板等からなる正極集電体)上に正極活物質、導電剤、結着剤を含有した正極合剤を塗布してなるものである。
本発明の処理方法は、上記の正極活物質(被洗浄正極活物質ともいう)をアンモニアを含む洗浄液中でスラリー化し、このスラリーを十分に撹拌することによって洗浄する。
【0014】
洗浄液は、アンモニアを含むいわゆるアンモニア水が用いられる。洗浄液中のアンモニア(NH
3)濃度は0.5〜10g/Lとするのが好ましい。本発明では、このアンモニア水にエタノール等のアルコールを含有させてもよい。エタノールは水と共沸するため、洗浄操作後の乾燥工程で水の除去が容易になる。アルコール濃度が小さ過ぎればこの効果が得られず、大き過ぎても効果は飽和するため、濃度は50〜96重量%とすることが好ましい。
【0015】
また、上記洗浄液は、伝導度が大き過ぎると、すなわち前回までの水洗で正極活物質から除去したリチウム化合物の濃度が高すぎると、残存リチウム化合物の除去効果が低下するので、伝導度が11.6mS/cm以下、好ましくは10.6mS/cm以下、より好ましくは10.0mS/cm以下としておくことが適している。
【0016】
上記のような洗浄液で洗浄する被洗浄正極活物質の量は、洗浄効率の点で洗浄液の量に対して30〜50重量%とするのが好ましい。
洗浄液中で正極活物質は、スラリーとなり、スラリー状態で十分に攪拌された後、そのまましばらく静置される。この時の撹拌時間としては特に制限はなく、被洗浄正極活物質の量にもよるが少なくとも20分〜1時間行えば十分である。撹拌時のスラリーの温度は室温であってもよいし、室温〜30℃程度の加温下であってもよい。
【0017】
洗浄を終え、静置された被洗浄正極活物質のスラリーは液体成分と固体成分とに分離され、固体成分は乾燥される。
乾燥を終えた固体成分である被洗浄正極活物質は、酸素、空気等を通気させながら酸素雰囲気下で焼成される。焼成雰囲気は、酸素濃度92〜100体積%が好ましい。この時の焼成条件は、加熱に供される固体成分の量にもよるが、600〜700℃で、2〜8時間とすることが適している。
【0018】
上記の洗浄液は新規に調製された洗浄液の外に、上記の固液分離した際の液体成分を回収し、これを次の正極活物質の処理の際の洗浄液として反復使用することができる。この洗浄液は、正極活物質の処理の都度、液体成分として回収し、洗浄液として繰り返し使用することができる。この反復使用する洗浄液により、被洗浄正極活物質を洗浄処理する場合、洗浄液中に徐々に蓄積される(洗浄液中への移行直前まで活物質中に付着していた)炭酸リチウムや水酸化リチウム等による親和性と推測される作用により、新規に調製した洗浄液を使用した場合と同等以上の洗浄効果、すなわち被処理正極活物質中に存在する炭酸リチウム、水酸化リチウム等の正極材として不都合な化合物の量を良好に低減することができる。
しかも、このような洗浄液により処理された正極活物質を正極材として用いたリチウムイオン二次電池は放電特性の低下が良好に抑制される。
【0019】
上記の反復使用する洗浄液のアンモニア濃度、伝導度等は、上記した通りであることは言うまでもなく、このような条件下での洗浄液で正極活物質を処理することにより、該物質中に存在している正極材として使用した場合の不都合な化合物を、低コストで良好に除去することができ、この結果として該物質を使用したリチウムイオン二次電池の電池特性の低下をも良好に抑制することができる。
しかも、洗浄液を反復使用する本発明の方法によれば、使用済み洗浄液(廃液)の量が激減し、従来の廃液処理に要する工程はもとより、コストも飛躍的に減少する。加えて言えば、該廃液中に蓄積される炭酸リチウムや水酸化リチウム等の有価物の回収も極めて良好に実現できる。
本発明における被処理正極活物質としては、Ni系複合酸化物が挙げられ、特に好適に処理できる正極活物質は、Ni−Co−Al系複合酸化物である。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
組成がLi
1.05Ni
0.85Co
0.12Al
0.03O
2であり、炭酸リチウム(Li
2CO
3)0.48重量%、水酸化リチウム(LiOH)0.99重量%を含むリチウムイオン二次電池正極活物質を被洗浄正極活物質とし、該物質150gを、アンモニア(NH
3)を1g/L含むアンモニア水300mL(以下、“1回目洗浄液”)に添加してスラリーとし、このスラリーを1時間撹拌した後、液体成分と固体成分とに分離した。
次に、得られた固体成分を減圧乾燥し(134mmHg、140℃で12時間)、乾燥品(以下、“1回目乾燥品”)を得た。1回目乾燥品を電気炉中で酸素ガス(酸素ガス濃度93体積%)を通気しながら、650℃で6時間焼成し、実施例1の正極活物質(以下、“1回目正極活物質”)を得た。
【0021】
〔実施例2〕
実施例1で固液分離して得た液体成分に、全量が300mLとなるまで、実施例1で用いたものと同じアンモニア水を加えたものを2回目洗浄液とした。加えた量を表3に示す。該2回目洗浄液を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ組成の被洗浄正極活物質を洗浄処理して乾燥品(以下、“2回目乾燥品”)および正極活物質(以下、“2回目正極活物質”)を得た。
【0022】
上記2回目洗浄液で処理し、固液分離して得た液体成分を用いる以外は、2回目洗浄液の場合と同様の操作をして3回目洗浄液とし、該3回目洗浄液を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ組成の被洗浄正極活物質を洗浄処理して乾燥品(以下、“3回目乾燥品”)および正極活物質(以下、“3回目正極活物質”)を得、
上記3回目洗浄液で処理し、固液分離して得た液体成分を用いる以外は、3回目洗浄液の場合と同様の操作をして4回目洗浄液とし、該4回目洗浄液を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ組成の被洗浄正極活物質を洗浄処理して乾燥品(以下、“4回目乾燥品”)および正極活物質(以下、“4回目正極活物質”)を得、
以下同様にして、5回目〜10回目乾燥品および5回目〜10回目正極活物質を得た。
【0023】
〔参照例〕
実施例1で用いたものと同じ被洗浄正極活物質で洗浄処理も熱処理も行わないものを未処理活物質とし、
実施例1で用いたものと同じ被洗浄正極活物質で実施例1、2の洗浄処理のみを行い、熱処理をしないものを乾燥品とし、
実施例1で用いたものと同じ被洗浄正極活物質で洗浄処理することなく、熱処理のみを行ったものを熱処理のみ活物質とした。
【0024】
〔評価〕
実施例1〜2、参照例で得た乾燥品(1〜10回目乾燥品)、正極活物質(1〜10回目正極活物質、未処理活物質、熱処理のみ活物質)につき、次のような評価試験を行った。結果を表1(洗浄後乾燥品)、表2(熱処理品)に示す。
(1)電池試験:以下の方法で行った。
乾燥品または正極活物質90重量%に、アセチレンブラック7重量%及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)3重量%を混練して正極材とした。これを70μm厚に延ばし、直径11mmの円板状に打ち抜き、アルミメッシュに圧着して乾燥させて正極とした。
この正極板を用い金属リチウム箔を負極1:1体積%のLiPF
6/PC(プロピレンカーボネイト)+DMC(ジメチルカーボネイト)を非水電解液としてCR2016タイプのコインセル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
前記のようにして作製したコインセル(リチウムイオン二次電池)を20℃で作動させ0.15C(175mAh/gを1Cとして計算)の電流密度でリチウム対極に対して4.25Vまで充電し、更に、4.25Vの一定電圧で電流値が0.001mAになるまで充電した後、0.15Cの電流密度でリチウム対極に対して2.5Vまで放電を行ない、放電容量を得た。
表1、表2、表4では、この評価手法により充・放電を行った際の3.5V到達時点における放電容量の比を示した。
(2)リチウム化合物量:以下の方法で測定した。
イオン交換水を用いて乾燥品または正極活物質の10重量%懸濁液を調製し、1時間撹拌した後、上澄みを京都電子工業製“電位差自動滴定装置AT−510”を用いて0.1規定の塩酸で第二中和点まで滴定し、滴定量より算出した。
(3)ゲル化試験:以下の方法で行った。
実際の電池製造時のペースト組成に近似させて、正極活物質75重量%に、アセチレンブラック3重量%、PVdF(ポリビニリデンフロライド)19重量%、NMP(N−メチルピロリドン)3重量%を混合してペーストとした。これを80℃で16時間保管してゲル化の有無を確認し、目視観察でゲル化が全く確認できなかったものを○、ゲル化が確認できたものを×とした。
(4)洗浄液の伝導度:堀場製作所製ES−14を使用して測定した。
(5)回収液中のリチウム元素量:サーモサイエンティフィック社製iCAP6500を使用してICP発光分析法で測定した。
【0025】
なお、表3に、実施例1〜2で得た液体成分(1回目〜10回目洗浄液)の性状と、参考のために水のみ(アンモニア無添加)で実施例1で用いたものと同じリチウムイオン二次電池正極活物質を実施例1と同様にして洗浄処理した後の、液体成分の性状を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
表1から分かるように、洗浄後乾燥したのみで、熱処理していない活物質であっても、洗浄処理していない未洗浄活物質に比べて、炭酸リチウム及び水酸化リチウムの含有(未除去)量は大幅に減少している。
しかし、表1に示すように、洗浄後乾燥したのみの正極活物質を使用した電池は
上述の評価手法による4.25−3.5Vの放電容量が、洗浄前のそれに対して96%以下である。即ち、全放電容量に対して高電圧領域の占める割合が、洗浄前の正極活物質と比較して低くなっている。高電圧領域の占める割合が少ないと、4.25V−2.5Vまでの放電容量が同じ場合でもエネルギー密度が低くなるため好ましくない。
なお、アンモニアを含まない水による洗浄でもリチウム化合物の減少効果は得られるものの、表2から分かるように、放電容量及び放電容量比が低い。よって、水のみの洗浄液の繰り返し使用試験は行っていない。
【0030】
また、表2から分かるように、表1に示した乾燥後のものを熱処理した結果は、Li
2CO
3及びLiOHの含有量は1回目正極活物質から10回目正極活物質まで充分な減少効果を得ることができた。しかも、Li
2CO
3は乾燥後の活物質の挙動とは多少異なり、4回目の減少効果が顕著であり、同様にLiOHは5回目,7回目の減少効果が顕著であった。
これらの活物質に最も要求される放電容量は、1回目から10回目まで全て新規洗浄液を用いた場合と略同等以上であり、表2から明らかなように、この要求が満たされていることが分かる。また、
上述の評価手法による4.25−3.5Vの放電容量は、アンモニアを含まない水による洗浄以外、洗浄前のそれに対して99%以上だった。従って、表1の結果と合わせて考えると、洗浄処理後は熱処理が必須である。
【0031】
但し、8回目から10回目正極活物質は、未洗浄の場合と同様に、ゲル化試験でゲル化が生じた。これは、洗浄液(洗浄後の液体成分)中のリチウム化合物量が多くなったために正極活物質からのリチウム化合物除去効果が低下したことが原因と考えられる。8回目以降は炭酸リチウム量及び水酸化リチウム量が、それ以前より増えていることからも明らかである。なお、表3の結果を合わせると、繰り返し使用する洗浄液(洗浄後の液体成分)の伝導度が11.9mS/cm以上(Li含有量6.5g/L以上)で、残存リチウム化合物が多くなり、ゲル化する傾向となることが明らかである。
【0032】
〔実施例3〕
洗浄液の伝導度が11.0mS/cmを超える場合、10.0mS/cm以下になるように調整したものを用いる以外は、実施例2と同じ洗浄処理を行い、8回目、9回目、10回目の洗浄後にそれぞれ回収された各液体成分170mlと、1%アンモニア水溶液130mlを混合して洗浄液とした。これらの洗浄液の伝導度は9.0mS/cmであった。
これらの洗浄液を用いて、それぞれ洗浄処理を行い、乾燥後熱処理して得られた各正極活物質につき、表2と同様の評価試験を行った。結果を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
表4から分かるように、伝導度を10.0mS/cm以下になるように調整した洗浄液を用いれば、リチウム化合物量が少なくなるためゲル化試験でゲル化せず、
上述の評価手法による4.25−3.5Vの放電容量が、洗浄前のそれに対して99%以上である正極活物質が得られる。故に、伝導度を11.6mS/cm以下、好ましくは10.6mS/cm以下、より好ましくは10.0mS/cm以下になるように調整すれば、洗浄液の繰り返し使用回数を増やすことが可能であることが明らかである。
【0035】
〔実施例4〕
実施例1で調製した新規なアンモニア水にエタノールを90重量%となるように加えた以外は、実施例1〜3と同様にして被洗浄正極活物質の処理を行った。結果を表5に示す。
この結果は、Li
2CO
3及びLiOHの含有量は、洗浄後も熱処理後も、表1、表2のものに比して、同等もしくは多くても数%程度少なくなるのみであったが、乾燥時間は、実施例1〜3と同等の乾燥状態を得る上で10数%から多くて20%程度もの短縮が可能であった。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法によれば、正極材として用いられる正極活物質をゲル化させることなく、該正極活物質の粒子表面や粒子間に存在する、正極材として不都合なリチウム化合物の量を良好に低減することができる。
このため、本発明の方法で得られる正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極材として使用することによって、電池内部でのCO
2等のガス発生による電池の膨れや充放電効率等の電池特性の低下を効果的に抑制することができ、本発明の方法は、リチウムイオン二次電池の正極材の生産のために好適である。
【0037】
しかも本発明の方法において、洗浄液を繰り返し使用する場合、洗浄液の使用量はもとより、最終的な洗浄廃液の量をも大幅に減少することができ、該廃液の処理工程に要する費用を激減し、結果として正極活物質の生産コストを低下することができる。
また、この廃液中には、洗浄液の繰り返し使用によりリチウム化合物が高濃度で蓄積され、該リチウム化合物は、リチウムイオン二次電池の原材料としては勿論、該電池の正極活物質の原材料としても極めて重要な化合物であり、該化合物を高濃度で含む廃液から、これらの有価物を回収することは極めて容易である。