(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347778
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】ヘモフィルス・インフルエンザb型菌抗原の生成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20180618BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20180618BHJP
A61K 39/102 20060101ALI20180618BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20180618BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
C12P19/04 C
C12N1/00 F
A61K39/102
A61P31/16
A61P31/12
【請求項の数】23
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-519306(P2015-519306)
(86)(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公表番号】特表2015-522272(P2015-522272A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】FR2013051549
(87)【国際公開番号】WO2014006318
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2016年6月16日
(31)【優先権主張番号】1256329
(32)【優先日】2012年7月2日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】592055820
【氏名又は名称】サノフィ・パスツール
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ル・イール
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ルビエール
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・バルビラト
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・リンドレイ
【審査官】
藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−540079(JP,A)
【文献】
特表2010−523532(JP,A)
【文献】
特開平03−183416(JP,A)
【文献】
特表2010−532985(JP,A)
【文献】
特表2011−507501(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/070791(WO,A1)
【文献】
Journal of Biotechnology (2000) Vol.81, pp.189-197
【文献】
J. gen. Microbiol. (1962) Vol.27, pp.51-60
【文献】
BMC Microbiology (2010) Vol.10:162, pp.1-12
【文献】
PLoS Pathogens (2011) Vol.7, No.11, e1002357, pp.1-9
【文献】
Journal of Cell and Tissue Research (2010) Vol.10, No.3, pp.2349-2352
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Hib)株を培地で培養し、その培養上清を収穫し、該上清を処理して莢膜多糖類を抽出することを含む、ワクチンに用いることを意図としたヘモフィルス・インフルエンザb型菌の莢膜多糖類(PRP)を工業的規模で生産する方法であって、該培地が少なくとも:
− 一つ以上の炭素供給源、
− プロトポルフィリン、
− 塩類、
− アミノ酸類、
− NADまたはNADH、
− ビタミン類、および
− pH調節剤
を含んでおり、該培地が化学的に特定されており、少なくとも亜鉛を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
該pH調節剤が緩衝塩からなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該炭素供給源が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、グリセロール、キシロース、リボース、フコース、シアル酸およびラクテートからなる群より選択される一つ以上の炭素供給源であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該プロトポルフィリンが合成プロトポルフィリンIXであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
該塩類がカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、コバルト塩およびマンガン塩より選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
該塩類が、K2HPO4;KH2PO4;MgSO4・7H2O;Na2HPO4・12H2O;NaH2PO4・2H2O;CaCl2・2H2O;FeSO4・7H2O;ZnSO4・7H2O;CoCl2・6H2O;およびMnSO4・H2Oより選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
該アミノ酸類が、
・アルギニン、
・アラニン、
・アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸のうちの少なくとも1つのアミノ酸、
・リシン、
・ヒスチジン、
・トリプトファン、
・バリン、
・イソロイシン、
・ロイシン、
・チロシン、
・フェニルアラニン、および
・シスチンまたはその機能的等価物
より選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
該培地が少なくともアルギニン、アラニン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、シスチン、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
シスチンがグルタチオンまたはシステインと置き換えられることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
該ビタミン類がチアミン、パントテン酸塩、ビオチン、リボフラビンおよびピリドキシンより選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ウラシルおよびヒポキサンチンから選択される1つの窒素含有塩基を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
アルギニンおよびウラシルがシトルリンと置き換えられることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法に従って莢膜多糖類を製造する工程を含む、ワクチン組成物の調製方法。
【請求項14】
さらに、得られた莢膜多糖類をキャリアタンパク質にコンジュゲートする工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
キャリアタンパク質が破傷風トキソイドである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
次に、得られたコンジュゲートを、ジフテリア、破傷風、ポリオ、B型肝炎、水疱瘡、おたふく風邪、風疹、髄膜炎菌または肺炎連鎖球菌により引き起こされる感染症、およびロタウイルスにより引き起こされる感染症からなる群から選択される1以上の感染症に対するワクチン接種を意図とする少なくとも1以上の抗原と合わせ、複数の疾患に対する同時免疫作用を可能とする混合ワクチンを取得する工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
次に、得られたコンジュゲートを、ジフテリア、破傷風およびB型肝炎の抗原と組み合わせる工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項18】
次に、得られたコンジュゲートを、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、および2種の無細胞性百日咳菌抗原(トキソイドおよび繊維状赤血球凝集素)と組み合わせる工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項19】
次に、得られたコンジュゲートを、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、および3種の無細胞性百日咳菌抗原(トキソイド、パータクチンおよび繊維状赤血球凝集素)と組み合わせる工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項20】
次に、得られたコンジュゲートを、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、および5種の無細胞性百日咳菌抗原(トキソイド、パータクチン、凝集原類および繊維状赤血球凝集素)と組み合わせる工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項21】
次に、得られたコンジュゲートを、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、2種、3種または5種の無細胞性百日咳菌抗原、ならびに不活化1、2および3型ポリオウイルスと組み合わせる工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項22】
次に、得られたコンジュゲートを、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、B型肝炎抗原、2種、3種または5種の無細胞性百日咳菌抗原、ならびに不活化1、2および3型ポリオウイルスと組み合わせる工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項23】
次に、得られたコンジュゲートを、全百日咳菌と組み合わせる工程を含む、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Hib)の莢膜多糖類を工業的規模で生成する方法に関し、該発明によれば、その組成が化学的に特定されており、したがって複雑な窒素または炭素の供給源を全く含まない特有の培地にてHib株が培養される。
【背景技術】
【0002】
先行文献、特にWO2009/007641は、ヘモフィルス・インフルエンザb型用の改善された培地を記載しており、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌を培養する目的が後に抗原としてワクチンの組成中に配合される莢膜多糖類を生成することである場合に推奨されるように、該培地は動物源からの成分を全く含まない。当該先行文献に記載の培地では、一般に動物性ペプトンからなる窒素供給源は、植物性ペプトンと置き換えられている。
【0003】
かかる培地は特にウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalitis)などの疾患が伝染する危険性を排除することに関する医薬生成物の安全性の観点から大きな進展をもたらすものであり;したがって該培地は保険局の推奨要件に適合することを可能とする。
【0004】
しかしながら、ペプトンの組成は提供されるバッチに応じて変化することがあり、そのことは細菌の生成量に、また目的とする抗原の収量にも変化をもたらすこともあり、そのワクチンの製造者は該方法を履行する間に特定のパラメータを修飾することで制限または訂正しようとする。しかしながら、医薬生成物を工業的に生産する上で、各履行において修飾はできる限り少なくするように求められ、その結果、各工程で、バッチ毎に再現可能な安定した方法を利用しうることが望ましい。
【0005】
かかる方法はまた、工業的収益と両立できる収率を可能とする必要があり、抗原を細菌から生成する場合には、その基準は可能性のある最大量の細菌を取得するだけでなく、生成される細菌の抗原価と量との間で最高の比率を得ることである;従って、細菌はその代謝作用を莢膜多糖類の生成に向ける条件下で培養されることが望ましい。
【発明の概要】
【0006】
このために、本発明は、ワクチンに用いることを意図とするヘモフィルス・インフルエンザb型菌の莢膜多糖類(PRP)を工業的規模で生産する方法であって、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Hib)株を培地で培養し、その培養上清を収穫し、該上清を処理してそこから該莢膜多糖類を抽出することからなり、該培地が少なくとも:
− 一の炭素供給源、
− プロトポルフィリン、
− 塩類、
− アミノ酸類、
− NADまたはNADH、
− ビタミン類、
− pH調節剤
を含んでおり、該培地が化学的に特定されていることを特徴とする、方法を対象とする。
【0007】
本発明によれば、安定した工業的方法であって、それでバイオマスを増やすことなく、莢膜多糖類の生成を増大させることが可能であり、それによりPRPの生成量に関連して生成されるリポ多糖類(LPS)の量を減らすことが可能となる。
【0008】
さらには、培地の組成にてタンパク質が不含であることは、必要とされる消泡剤のニーズを減らし、精製工程を簡素化し、培養上清から莢膜多糖類からなる抗原を取得することを可能とする。
【0009】
本発明によれば、培地はpH調節手段を含む。これらのpH調節手段は緩衝塩類および/またはpH測定手段(酸または塩基のいずれかを培地に添加する手段と合わせた手段)からなり得る。収量はpHの調節を介して最適化され得る。
【0010】
一の実施態様によれば、本発明の方法はまた、生成されたPRPをキャリアタンパク質(例えば、破傷風タンパク質)にコンジュゲートすることからなる。
【0011】
本発明の対象はまた、ワクチン組成物の調製方法であって、
− ヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Hib)株を化学的に特定される培地で培養することで、莢膜多糖類(PRP)からなるHibに対する抗原を工業的規模で調製し、ここにその培地中の個々の成分の特性および配合量は完全に特定され、少なくとも:
− 一の炭素供給源、
− プロトポルフィリン、
− 塩類、
− アミノ酸類、
− NADまたはNADH、
− ビタミン類、およびまた
− pH調節手段
を含み、
− 培養上清を収穫し、該上清を処理してそこから精製された莢膜多糖類を抽出し、
− 該莢膜多糖類をキャリアタンパク質にコンジュゲートする
ことを含む、方法である。
【0012】
一の実施態様によれば、得られるコンジュゲートはまた、数種の疾患に対して同時に免疫接種することを可能とするのに、1または複数の以下の感染症:ジフテリア、破傷風、ポリオ、B型肝炎、水疱瘡、おたふく風邪、風疹、髄膜炎菌または肺炎連鎖球菌により引き起こされる感染症、ロタウイルスにより引き起こされる感染症に対するワクチン接種を意図とする少なくとも1または複数の抗原とも組み合わされる。
【0013】
本発明によれば、培地は化学的に特定され、すなわち各成分の化学構造もその配合量も既知である。かかる培地は、レプトン、カゼイン、血清等などの複雑な窒素または炭素源が不含であり、従って、所望により、動物より由来するいずれの成分も含まれないことを保証することができる。
【0014】
本発明は、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌の莢膜多糖類を工業的規模で製造する方法に関する。かかる方法は、工業的な制限事項と両立できる、バイオマスおよび莢膜多糖類またはPRPの収率を得ることを可能とする。かかる方法は、培地を特に調節することなく(pHまたはpO
2などを特に調節することなく)、その遺伝コードに、莢膜合成を可能とする機能をコードする少なくとも2つのcap遺伝子座のコピーを有するヘモフィルス・インフルエンザb型菌株から、12時間培養した後に694nmで少なくとも2.4のO.D.に相当する量のバイオマス、および1リットルの培地当たり少なくとも240mgの量のアソシエートしたPRPを取得することを特に可能とする。生成されるPRPの量の決定は、パルス電流検出での高性能アニオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−PAD)技法(Dionex)により、または同等の結果をもたらす一の方法により測定される。有利には、本発明の方法は、1リットルの培地当たり少なくとも270mgの量のPRPを取得することを可能とし、そのうえさらに有利には、少なくとも300mg/Lの量で取得することを可能とする。
【0015】
利用可能な炭素源として、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌株により代謝され得るすべての供給源、特に:グルコース、フルクトース、ガラクトース、グリセロール、キシロース、リボース、フコース、シアル酸およびラクテートに言及しうる。2またはそれ以上の異なる供給源、特にラクトースおよびグルコースを用いることも可能である。
【0016】
本発明によれば、出発培地に配合されるグルコースの量は5〜25g/Lであり、より詳しくは10〜20g/Lであり、さらにより詳しくは12〜16g/Lである。
【0017】
出発培地に配合されるラクトースの量は0〜15g/Lであり、より詳しくは0.5〜10g/Lである。
【0018】
本発明の実施態様によれば、培地のプロトポルフィリンは合成プロトポルフィリン、例えばSigma-Aldrich社により、整理番号258385で提供されるもの(プロトポルフィリン・二ナトリウム塩)である。かくして、動物起源の物質を全く含まないように保証され得る培地を用いることが可能である。
【0019】
あるいはまた、次式:
【化1】
[式中、RはHまたは対イオンであり、好ましくはアルカリ金属、特にナトリウムの対イオンを表す]
で示される合成プロトポルフィリンIXを用いる。
【0020】
かかるプロトポルフィリンIXおよびその調製方法は、特許出願FR2914302に記載される。
【0021】
本発明によれば、出発培地に配合されるプロトポルフィリンの量は、有利には、0.1〜10mg/L、より詳しくは0.25〜2mg/Lである。
【0022】
本発明の培地は、細菌に好都合の浸透圧となるようにし、またそのpHで緩衝能を発揮することを可能とする、細胞増殖に不可欠なミネラルを提供する塩を含む。
【0023】
好ましくは、使用は、セイライン溶液の形態の、Na
+および/またはK
+などの一価のカチオン、Ca
++、Mg
++、Co
++、Zn
++、Mn
++、Fe
++などの二価のカチオン、HPO
4−−、H
2PO
4−および/またはPO
4−−−のホスフェートアニオン、およびSO
4−−およびCl
−アニオンの混合物からなり、その各々のモル濃度は、通常、10
−4mM〜1000mMの濃度範囲内で変化しうる。
【0024】
培地中に存在する塩類は、特に、K
2HPO
4;KH
2PO
4;MgSO
4・7H
2O;Na
2HPO
4・12H
2O;NaH
2PO
4・2H
2O;CaCl
2・2H
2O;FeSO
4・7H
2O;ZnSO
4・7H
2O;CoCl
2・6H
2O;MnSO
4・H
2Oより選択される。
【0025】
塩濃度は、浸透圧が200〜700ミリオスモル/L、特に300〜400ミリオスモル/L、とりわけ350ミリオスモル/Lであり、pHが6.5〜7.5の範囲にあるように選択される。
【0026】
このために、本発明の培地は、特に:
− MgSO
4・7H
2O(150〜1500mg/Lの濃度)、
− CaCl
2・2H
2O(6.5〜52mg/Lの濃度)、
− FeSO
4・7H
2O(1.25〜10mg/Lの濃度)、
− ZnSO
4・7H
2O(2.5〜80mg/Lの濃度)、
− CoCl
2・6H
2O(0.5〜2mg/L)、
− MnSO
4・H
2O(2.5〜10mg/L)、
− ナトリウム(0〜4mL/Lの量の60%での、特に、乳酸ナトリウムの形態)、
− K
2HPO
4およびKH
2PO
4(バッファー作用がNa
2HPO
4・12H
2O/NaH
2PO
4・2H
2Oにより提供される場合、その各々は、100〜1200mg/Lの濃度)、
− Na
2HPO
4・12H
2O(15〜120g/Lの濃度)、
− NaH
2PO
4・2H
2O(Na
2HPO
4・12H
2Oより10〜30倍低い濃度)
を含み得る。
【0027】
別法として、バッファー作用が対となるK
2HPO
4およびKH
2PO
4によって付与されることも可能であり;この場合、K
2HPO
4濃度は15〜120g/Lであり、KH
2PO
4濃度はK
2HPO
4の濃度よりも10〜30倍低く;Na
2HPO
4・12H
2OおよびNaH
2PO
4・2H
2Oの濃度は、その場合、100〜1200mg/Lとすることができる。
【0028】
言及される塩のうちで、亜鉛の存在が、特に2.5〜80mg/L、より詳しくは5〜20mg/Lの範囲の濃度で、バイオマスの生成およびPRPの生成に特に有利であることに注目することが可能である。20mg/Lの濃度で極めて良好な結果が得られた。
【0029】
培地のpHが、培養期の間に、特にNaOHまたはKOHなどの高濃度の塩基を添加することで調節される場合に、培地中に存在する塩類の量、およびバッファーの対となるNa
2HPO
4/NaH
2PO
4またはK2HPO
4/KH
2PO
4の量を減らすことが可能である;ただし、浸透圧は、NaClを任意に添加することで、適切な値、すなわち200と700ミリオスモル/Lの間に維持されることを条件とする。
【0030】
本発明によれば、培地はまた、NADまたはNAD源を含むか、あるいは他の等価な補酵素を含む。NAD(またはβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)(コエンザイムIまたはファクターVとも称される)はヘモフィルス・インフルエンザb型菌の培養に不可欠な成長因子である。それは、有利には、培地中に、0.5〜50mg/Lの濃度で、より詳しくは2〜10mg/Lの、特に5mg/Lの濃度で存在する。NADの代わりとして、本発明の培地は、細菌が使用しうるであろうNAD先駆体成分(NADP/NADPH(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート)またはNMN(β−ニコチンアミドアデニンモノヌクレオチド)またはNR(ニコチンアミドリボシド)、3−アセチルピリジンアデニンジヌクレオチド(APAD)または3−アセチルピリジンモノヌクレオチド(APMN))を含みうる。
【0031】
本発明によれば、培地は、有利には、アルギニン、アラニン、リシン、ヒスチジン、トリプトファン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、シスチン(または等価物)、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸より選択されるアミノ酸を含有する。
【0032】
本発明の培地の一の処方は、アルギニン、アラニン、ヒスチジン、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、シスチン、アスパラギン酸およびグルタミン酸だけを含む。あるいはまた、言及されるすべてのアミノ酸が培地に存在する。
【0033】
本発明の一の特有の態様によれば、シスチンはグルタチオンまたはシステインと置き換えられる。
【0034】
一の好ましい実施態様によれば、本発明の方法は、以下のアミノ酸:L−メチオニン、L−グリシン、L−プロリン、L−セリンおよびL−トレオニンを含まない培地を使用する。これは、これらのアミノ酸の存在がバイオマスの増加をもたらすが、対応するPRP生成の増加をもたらさないからである。
【0035】
アミノ酸はシグマ(Sigma)社より供給される極めて純粋な粉末の形態で供給される。特に有利には、これらのアミノ酸は、伝播性感染症による汚染の危険を排除するために、特にBSE(ウシ海綿状脳症)による汚染のリスクを排除するために、合成起源とするか、または動物より由来する成分を全く含まないことを保証する方法により取得される。
【0036】
細胞増殖およびPRP生成を最適化するのに、アミノ酸の各量を選択する。アスパラギン酸、アスパラギンおよびグルタミンの量は、細胞培養の間に欠乏を惹起し、それにより細胞の代謝作用を莢膜多糖類の生成に向かうことを可能とするように選択され、その一方で他のアミノ酸の量は培養期の間に欠乏しないように選択される。
【0037】
本発明によれば、培地はまた、チアミン、パントテン酸塩、ウラシル、ヒポキサンチン、ビオチン、リボフラビンおよびピリドキシンより選択されるビタミンを含有する。本発明の目的を達成するために、「ビタミン」なる語はまた、窒素塩基である、ウラシルおよびヒポキサンチンを包含する。
【0038】
本発明の培地に存在するビタミンは、動物以外を起源とし、特に合成起源とすることが特に有利であり、それにより伝播性感染症による汚染のどのようなリスクも、特にBSE(ウシ海綿状脳症)による汚染のリスクも排除することが可能である。特に、その純度が正確に分かっているシグマ社により供給されるビタミンを用い、それにより培地を調製する際の正確な量を供与することができる。
【0039】
培地中に存在するビタミンの量は、バイオマスの生成およびPRPの生成を最適化するように選択される。
【0040】
本発明の一の特有の態様によれば、培地はアルギニンおよびウラシルの代わりに用いることができるシトルリンを含む。
【0041】
この場合、培地中のシトルリンの配合量は、150〜500mg/Lであることが有利である。
【0042】
本発明の培地によれば、従来の培地を用いる時よりも、より多くの量のポリリボシルリビトールホスフェートを生成することが可能であり、その一方で炭水化物をより多く消費することなく同じ量で消費し、より多くの汚染物、特にLPSを生成することもない。
【0043】
本発明の一の実施態様によれば、培養されるヘモフィルス・インフルエンザb型菌株は、その遺伝コードにて少なくとも2つのcap遺伝子座のコピーを有する莢膜株である。大きさが17と18kbの間にあるこのcap遺伝子座は、その発現が莢膜の合成および転送と関連付けられる遺伝子と群を形成する。
【0044】
莢膜の発現は、細菌を特有の寒天上で培養した場合に、それを白色にし;そのため、このcap遺伝子座を有する細菌のコロニーは「白コロニー」と呼ばれるのに対して、莢膜多糖類を莢膜の表面に転送しない細菌は「灰コロニー」と称される。莢膜の発現は、莢膜欠損変異体の出現をもたらし得る、潜在的な遺伝的不安定性にさらされ、結果として、PRP生成の減少に至る。研究により、本発明の方法に使用される化学的に特定される培地が、約20回の細胞の生成の間に用いられる菌株の良好な遺伝的安定性を確保しうることを証明することが可能となった。
【0045】
本発明によれば、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌の培養を、バイオマスを徐々に増加させるように、数回の連続的工程で行うことが可能である。
【0046】
この場合、凍結乾燥した試料より、または凍結した試料より由来の細菌を、通常は1リットルを越えない容量の培地に植菌する。一夜培養した後に、または培地の光学密度が十分である場合に、この第一培地を該第一培地と同じであるが、その容量が10〜20倍まで大きくてもよい第二培地に移す。第二培地に植菌される細菌の量は、694nmでの第二培地の最初の光学密度(O.D.)が、細菌集団の迅速な増殖を促進するように、0.2と0.4の間となるように調整される。この第二の培養は、通常、発酵器中でなされるが、他の型の容器(フラスコ、スピナー等)を用いることもできる。培養を発酵器中で行う場合、37℃±1℃の温度、一定の攪拌速度、0.1バールの圧力、30%のpO
2、毎分培地の1容量当たり0.25倍容量の空気の流速が、通常、培養の間に使用される。この型の培養を行う際に他のパラメータを選択することは当業者の能力の範囲内である。指数関数的な細菌の増殖期の最後に、さらに大きな容量の発酵器に移し、同じ操作等を用いることでバイオマスをさらに増幅することができる。得られる培養の容量は1000リットルに達し、あるいはそれをも越え得る。培養は一般に「バッチ」方式で行われる。
【0047】
最後に、細菌の不活化後に、最終培養の上清を採取する。不活化は、通常は、最終濃度が0.35%−0.37%(V/V)のホルモール溶液を用いて実施される。上清は、通常は、遠心分離工程により細菌と分離される。得られた上清に含有されるPRPを次に当業者に周知の一般的方法に従って抽出して精製する。
【0048】
次に、収穫し、精製したPRPを、有利には、それをT−依存性とし、特に小さな子供を免疫化できるようにするために、破傷風タンパク質などのキャリアタンパク質にコンジュゲートする。こうして得られるPRP−T抗原は次に単独で一価ワクチンに用いるか、あるいは数種の疾患に対する同時ワクチン接種を可能とするために他の抗原と合わせることができる。
【0049】
特に有利なこととして、本発明は、ワクチン組成物の調製方法であって、該方法に従って、得られたコンジュゲートを、小児用ワクチン中に一般に配合されている少なくとも1または複数の抗原と、特にジフテリア、破傷風、ポリオ、B型肝炎、髄膜炎菌または肺炎連鎖球菌により引き起こされる感染症、水疱瘡、おたふく風邪、風疹、ロタウイルスにより引き起こされる感染症等に対する抗原と合わせる方法を提供する。
【0050】
一の実施態様によれば、PRP−Tコンジュゲートは粉末形体で存在し、それに対して他の抗原は液体形態で存在し、抗原はすべて投与前にその場で混合される。一の別の実施態様によれば、ワクチン組成物は完全に液体である。
【0051】
本発明の調製方法は、このように、PRP−Tコンジュゲートに加えて、ジフテリア、破傷風およびB型肝炎の抗原を含む四価の混合ワクチンを調製することを可能とする。また、該方法は、PRP−Tコンジュゲートに加えて、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、および2種の無細胞性百日咳菌抗原(トキソイドおよび繊維状赤血球凝集素)または3種の無細胞性百日咳菌抗原(上記の2種+パータクチン)あるいはまた5種の無細胞性百日咳菌抗原(上記の3種+凝集原類)を含む四価の混合ワクチンを調製することも可能とする。
【0052】
該方法はまた、PRP−Tコンジュゲートに加えて、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、2種、3種または5種の無細胞性百日咳菌抗原と、さらに不活化1、2および3型ポリオウイルスを含む五価の混合ワクチンを調製することも可能とする。
【0053】
該方法はまた、PRP−Tコンジュゲートに加えて、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド、2種、3種または5種の無細胞性百日咳菌抗原、B型肝炎抗原と、さらに不活化1、2および3型ポリオウイルスを含む六価の混合ワクチンを調製することも可能とする。かかる六価の混合ワクチンは、特に液体とすることができ、0.5mLの用量に付き:
− ジフテリアトキソイド(20IUの量)、
− 破傷風トキソイド(40IUの量)、
− B型肝炎表面抗原(10μgの割合)、
− 百日咳トキソイド(25μgの割合)、
− 百日咳繊維状赤血球凝集素(25μgの割合)、
− PRP−T(PRPの12μgの割合)、
− 不活化1、2および3型ポリオウイルス(各々、40、8および32DUの量)、
− 水酸化アルミニウム(0.6mgのAl
3+の割合)
を含み得る。
【0054】
あるいはまた、該方法は百日咳抗原が全百日咳菌のみからなる混合ワクチンを調製することを可能とする。
【0055】
本発明の培養方法によれば、ポリリボシルリビトールホスフェートの生成を、バイオマスの量を増やすことなく、増加させることが可能であり、それにより汚染するLPSの量を減らすことができる;本発明の方法のこの利点は、これらの産物を抗原としてワクチン組成物に配合し、LPSの量を最小限にまで減らさなければならない、ワクチン業界にとって極めて重要なことである。PRPの量を増やすために生成されるLPSの量を増やさないことを可能とする方法が利用できることは、その後の精製工程を簡素化する可能性を提案するものである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
原文に記載なし
【発明を実施するための形態】
【0057】
実施例1:本発明の培地の調製
本発明の培地は、濃縮溶液(enrichment solution)をその場で塩基性培地に添加することで、該培地より調製された。
【0058】
塩基性培地の組成を以下の表Iに示す:
【表1】
【0059】
1リットルの培地を調製するのに、種々の化合物を脱塩水(約100mL)に磁気攪拌棒を用いて攪拌しながら上記した表に記載の順序で加えた。添加する前に、粉末はすべて、少量の脱塩水に予め溶かされており、ある場合には、酸または塩基を添加した。
【0060】
このように、バリン、イソロイシンおよびロイシンでは、表に示される量に対して、10N KOH(140μL)を添加する必要があり;チロシンに対しては、10N KOH(280μL)を添加する必要があり;フェニルアラニンに対しては、37%HCl(210μL)を添加する必要があり;およびシスチンに対しては、37%HCl(70μL)を添加する必要があった。
【0061】
最後に、10N KOHを用いてpHを7.2に調整し(pHが高すぎる場合には、37%HClを用いた)、次に脱塩水を用いて容量を所望の量にした。
【0062】
ついで、該培地を0.22μmのカットオフ閾値を有するフィルター上で濾過することにより滅菌した。
【0063】
こうして、該培地は5℃で72時間貯蔵することが可能であった。
【0064】
該培地を植菌する前に、次の成分:
− 製品番号24379.294の下でVWR社より供給される無水D(+)グルコースから調製される512.8g/Lでのグルコース(27.3mL)、
− β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド水和物(製品番号43410)の名称の下で、シグマ社より供給される1g/LでのNAD溶液(5mL)、
− プロトポルフィリンを0.25g/Lの濃度で、水酸化アンモニウムを5mL/Lの濃度で含むストック溶液(4mL)(該プロトポルフィリンはプロトポルフィリンIX二ナトリウム塩(製品番号258385)の名称の下でシグマ・アルドリッチ社より供給され、水酸化アンモニウムはアンモニア溶液28%(製品番号21190.292)の名称の下でVWR社より供給される)
を添加し、上記した表Iに記載の成分に加えて、次の添加成分を下記の表II:
【表2】
に示される濃度で含む、すぐに植菌することのできる1リットルの培地を得た。
【0065】
実施例2:従来の培地の調製
従来の培地は特有の濃縮溶液を塩基性培地に添加することにより調製された。
【0066】
塩基性培地の組成は、以下の表III:
【表3】
に示される。
【0067】
この塩基性培地を調製するのに、各成分を、表に示される順序で、磁気攪拌棒を用いて攪拌し続けた脱塩水(100mL)に加えた。粉末形で供給される各成分は少量の脱塩水に予め溶かされた。
【0068】
エンドウペプトン(pea peptone)はケリー社(company Kerry)に由来し、製品番号(Hy-pea 7404)の下にある固体である。(NH
4)
2SO
4は製品番号(21333.296)の下でVWR社より供給される。他の成分は、本発明の培地を調製するための実施例1に記載の成分と同じ供給業者に由来し、同じ製品番号の下で供給される。
【0069】
最終pHは10N KOHを用いて7.2±0.1に調整した(pHが高すぎる場合には、37%HClを用いた)。
【0070】
次に脱塩水を加えて所望の容量とし、120℃で30分間のサイクルでオートクレーブに付して滅菌処理に供した。
【0071】
滅菌処理に供した後に、該培地は4℃で15日間貯蔵することができた。
【0072】
濃縮溶液A、B、CおよびDをこの塩基性培地に添加した。
【0073】
溶液Aは、無水グルコース(無水D(+)グルコース(製品番号2024379.294)の名称の下でVWR社より供給される)を512.8g/Lの濃度で含む、溶液である。
【0074】
溶液Bは、NAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド水和物(製品番号43410)の名称の下でシグマ社より供給される)を1g/Lの濃度で含む、ストック溶液である。
【0075】
溶液Cは、プロトポルフィリンを0.25g/Lの濃度で、水酸化アンモニウムを5mL/Lの濃度で含むストック溶液(4mL)であり、該プロトポルフィリンはプロトポルフィリンIX二ナトリウム塩(製品番号258385)の名称の下でシグマ・アルドリッチ社より供給され、水酸化アンモニウムはアンモニア溶液28%(製品番号21190.292)の名称の下でVWR社より供給される。
【0076】
溶液Dは、自己溶菌性酵母エキス限外濾過液(Ufel)を125g/Lで含む濃縮液であり;それはUltrafiltratd'extrait autolytique de levure(Ufel)[自己溶菌性酵母エキス限外濾過液](製品番号スプリンガー0701)の名称の下でバイオスプリンガー(Biospringer)より供給される。
【0077】
これらの溶液は、各々、カットオフ閾値が0.22μmであるフィルターで濾過することにより滅菌される。
【0078】
次の溶液:
− 溶液A(35.1mL)
− 溶液B(5mL)
− 溶液C(4mL)
− 溶液D(40mL)
を1リットルの塩基性培地に添加した。
【0079】
各溶液の塩基性培地への添加はラミナーフローフードの下でなされ、植菌の前に、上記の表IIIに記載の成分に加えて、次の添加成分を、下記の表IV:
【表4】
に示される濃度で有する培地を得た。
【0080】
実施例3:実施例1に記載の本発明の培地と、実施例2に記載の従来技術での培地とのPRP生成の比較
これらの比較実験を2工程の培養プロトコル:
− 非バッフル性ガラス製エルレンマイヤーフラスコ(1リットル)中、36℃、130rpm(毎分回転数)で8時間にわたって攪拌しながら前培養(その終わりが、菌株の線形増殖期の終わりである)に供する工程(この前培養は、280mLの培地を、少なくとも2つのcap遺伝子座のコピーを含有するヘモフィルス・インフルエンザb型菌の種菌を用いて0.5%(容量/容量)の濃度で植菌することで開始される);
− 次に、90mLの前培養体を、植菌を可能とする、1.8リットルの培地を含有する2リットルのバイオスタットBプラス発酵器に移す工程(この発酵器に空気を0.45lpm(毎分リットル)で混入し、400rpmで攪拌しながら37℃に12時間維持した)
に従って実施した。
【0081】
12時間培養した後、694nmでのO.D.を測定し、その操作でバイオマスを決定することが可能となった。これは、前の試験の間に、694nmで測定された光学密度の一単位が、0.64gのバイオマス(乾燥質量)/リットルに相当することを決定することを可能としたためである。
【0082】
培養上清中の全PRPの量を、Sturgessら(Vaccine 17 (1999) 1169-1178)による刊行物に記載の方法と極めて類似する方法に従って、パルスアンペロメトリック検出での高性能アニオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−PAD)で測定した。培養上清を0.22μmのフィルターを通して該上清を濾過し、次に500μLの上清を10kDaのカットオフ閾値を有するアミコン(Amicon)ウルトラカラム(ミリポアの製品番号UFC5010BK)の使用を通して限外濾過に付し、ついでNaOHを添加することで塩基性加水分解工程に供した。
【0083】
該加水分解を外界温度で最低4時間行った。
【0084】
該アッセイの有効性を、加水分解溶液中に存在する、内部標体、すなわちグルコサミン−1−ホスフェート(GlcN1P)を用い、既知のPRP濃度の内部対照を定期的に通すことにより調整した。Sturgessらの指示によれば、移動相は35mM NaOHおよび114mM CH
3COONaからなり、再生期は100mM NaOHと400mM CH
3COONaとで10分間実施された。
【0085】
得られた結果を以下の表Vに示す:
【表5】
【0086】
これらの結果は、PRP生成性に関する本発明の方法の利点を示す;実際、同じ容量の培地で、得られるバイオマスの質量は従来技術の培地の方が大きいが、他方でPRPの量は小さい。
【0087】
実施例4:本発明の方法に係る培養上清中に存在するPRPとLPSの量と、従来技術の方法に係る培養上清中に存在するPRPとLPSの量の比較
ヘモフィルス・インフルエンザb型菌の培養を、実施例3に記載される様式にて、本発明に係る培地と、従来技術の培地とを比較して行った:ただし、従来技術の方法の塩基性培地は、実施例3の培地中に存在するエンドウペプトンの代わりにソラビア社(the company Solabia)により供給される10g/Lのカゼインの酸加水分解物(製品番号A1434)を含むという違いがあった。
【0088】
前培養時間は、実施例3に記載されるように、8時間であり、培養時間は12時間である。
【0089】
PRPのアッセイおよびLPSのアッセイは共にHPAEC−PADで実施されるが;LPSのアッセイは、同じプロトコルを受ける標準レンジの精製されたLPSを用い、特定の単糖、すなわちヘプトースを定量することで実施される(このアッセイの内部標体はラムノースである)。
【0090】
得られた結果を以下の表VI:
【表6】
【0091】
得られる結果は本発明に係る方法の利点を示し、PRPの量に関連して生成されるLPSの量を減らすことを可能とする。
【0092】
これは本発明に係る方法の著しい利点を示す;というのも、これは精製操作を極めて簡素化する一方で、同じ時間で適切な安全レベルを維持するからである。
【0093】
実施例5:亜鉛の重要性を評価する試験
培地中の亜鉛の存在の重要性を研究した。
【0094】
これを行うために、3種の培地:
− 実施例1に記載されるような、MSと称される培地、
− 実施例1の組成と同じ組成を有するが、ZnSO
4を含まない、MS Zn
−と称される培地、
− 実施例1に記載されるような培地であるが、ZnSO
4濃度が4倍高い、すなわち20mg/Lであり、MS Zn
++と称される培地
を比較した。
【0095】
次に、該培地を0.22μmのカットオフ閾値を有するフィルターで濾過することにより滅菌処理に付した。
【0096】
実施例4に記載される培地(280mL)に、遺伝コード中に少なくとも2個のcap遺伝子座のコピーを有するヘモフィルス・インフルエンザb型菌の凍結試料を植菌することにより、36℃で16時間、130rpmで攪拌する、非バッフル性ガラス製エルレンマイヤーフラスコ(1リットル)中での前培養の工程をまず第一に行った。
【0097】
試験する培地(170mL)を含有するバッフル付きポリカーボネート製エルレンマイヤーフラスコ(500mL)中の培養物に各植菌を行う前に、9.5mLの前培養体を試験する各培地で洗浄し;培養を37℃で12時間行い、攪拌を150rpmで行った。
【0098】
各培地について、培養の終わりでのバイオマス、PRP濃度、またLPSの量を、実施例3および4に記載されるのと同じように、決定し、PRP/バイオマスおよびまたLPS/バイオマスの割合を算定した。
【0099】
得られた結果は以下の表VII:
【表7】
【0100】
これらの結果は、培地中の亜鉛の存在がバイオマスの生成を著しく増大させ、またPRPの生成を、LPSの量に比例して増えることなく、増大させることを可能とすることを示した。
【0101】
実施例6:5リットルの発酵器中での試験
特許出願FR2914302に記載され、ソルビアスAG(Solvias AG)によって製品名:プロトポルフィリンIX二ナトリウム塩(製品番号SOL20402)の下で供給される、実施例1に記載の本発明に係る培地にて、動物より由来のプロトポルフィンが不含で、合成プロトポルフィリンを用いることが供給者により保証される製品だけを用いてヘモフィルス・インフルエンザb型菌の培養を実施した。次に該試験を実施例3に記載されるように実施する(ただし、使用される発酵器は、37℃で調整され、550rpmで攪拌され、空気を0.5lpmで混入する、5リットルの発酵器である)。植菌の体積は280mLであり、すなわちすべてが前培養エルレンマイヤーフラスコに収まった。
【0102】
PRPおよびLPS濃度を実施例3および4に記載のプロトコルに従って決定した。
【0103】
得られた結果を以下の表VIII:
【表8】
に示す。
【0104】
これらの結果は上記の結果を確認するものであり、多量のPRPを取得するための本発明の方法の利点を明らかにする。
【0105】
実施例7:実施例1に記載される本発明の培地を用いた、および従来技術にて説明される化学的に特定される培地を用いたバイオマスの、およびPRPの生成の比較
ヘモフィルス・インフルエンザb型菌の培養を、実施例1に記載の本発明の培地にて、またヘモフィルス・インフルエンザの培養と関連する刊行物に記載されており、化学的に特定して示される8種の培地にて行った。
【0106】
これらの8種の培地をその著作者らが推奨する方法に従って調製した。それらは、時系列で、以下:
− TalmadgeおよびHerriott:Biochemical and Biophysical Research Communications, (March 1960), Vol.2 No3, p 203-206、
− Butler:J. gen. Microbiol. (1962), 27, 51-60、
− Wolin:J. Bacteriol. Vol.85, (1963) Notes, p 253-254、
− Herriottら:Journal of Bacteriology, (Feb. 1970), Vol. 101, No2, 513-516、
− KleinおよびLuginbuhl:Journal of General Microbiology (1979), 113, 409-411、
− Colemanら:Journal of Clinical Microbiology, (Sept 2003), Vol.41, No9 p. 4408-4410
に示される培地である。
【0107】
これらの8種の培地を調製するのに用いられる生成物との関連事項を次の表IXに示す。
【表9】
【0108】
ついで、該培地を0.22μmのカットオフ閾値を有するフィルターで濾過して滅菌処理に付す。
【0109】
非バッフル性ガラス製エルレンマイヤーフラスコ(1リットル)中での前培養の工程を、まず第一に、その遺伝コードにて、少なくとも2つのcap遺伝子座のコピーを有するヘモフィルス・インフルエンザb型菌の凍結試料を植菌することにより、36℃、130rpmで攪拌しながら16時間行った。
【0110】
次に、試験する培地(170mL)を含有するバッフル付きポリカーボネート製エルレンマイヤーフラスコ(500mL)中の培養物に各植菌を行う前に、前培養物(9.5mL)を試験する各培地で洗浄し;培養を37℃で12時間行い、150rpmで攪拌した。
【0112】
各培地について、実施例3に記載されるのと同じように、時間毎に694nmでのO.D.を測定し、PRP濃度を培養の最後に決定した。
【0114】
PRP測定の結果を以下の表X:
【表10】
に示す。
【0115】
実施例8:工業的規模でのPRPの生産(1000リットル)
亜鉛について、その濃度が5mg/Lでなく、20mg/Lである、実施例1の組成を有する本発明の培地を調製した。これは、実施例5がこの濃度でLPSの量を増やすことなくPRPをより多く生成することが可能であることを示した、からである。
【0116】
培地は、pH(最初のpHが7.2±0.1であり、前培養ではpHがフリーであり、生成培養ではpHが6.7±0.1に調整されている)を除いて、前培養および最終培養で同じものであった。
【0117】
培地を実施例1と同様にして調製した。少量の精製水に予め溶かした化合物を、ある場合には、酸または塩基を添加して混合した後(実施例1を参照)で、十分な量の精製水を添加する前に、pHを前培養では7.2±0.1に、最終培養では6.7±0.1に(10N水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムあるいは37%HClを用いて)調整した。
【0118】
次に、該培地を0.22μmのカットオフ閾値を有するフィルターでの濾過操作により滅菌した。
【0119】
こうして、該培地を5℃で72時間貯蔵することが可能であった。
【0120】
該培地を植菌する前に、以下の成分:
− 製品番号24379.294の下でVWR社より供給される無水D(+)グルコースから調製される512.8g/Lでのグルコース、
− β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド水和物(製品番号43410)の名称の下で、シグマ社より供給される1g/LでのNAD溶液、
− プロトポルフィリンを0.25g/Lの濃度で、水酸化アンモニウムを5mL/Lの濃度で含むストック溶液(該プロトポルフィリンはプロトポルフィリンIX二ナトリウム塩(製品番号SOL20402)の名称の下でソルビアスAG社より供給され、水酸化アンモニウムはアンモニア溶液28%(製品番号21190.292)の名称の下でVWR社より供給される)
を添加し、上記した実施例1の表Iに記載の成分に加えて、添加成分を実施例1の表IIに示される濃度(グルコースの最終濃度が14g/Lではなく、14.87g/Lであることを除く)で含む、すぐに植菌することのできる培地を得た。
【0121】
1000リットルの規模の方法は、一連の3つの前培養:
− 一連の第一の前培養は、完全培地(290mL)を含有する非バッフル性エルレンマイヤーフラスコ(1リットル)中、37℃、130rpm(毎分回転数)で17−18時間にわたって攪拌しながら行われた。これらの前培養を、該培地を、少なくとも2つのcap遺伝子座のコピーを含有するヘモフィルス・インフルエンザb型菌の種菌で、0.014の初期標的OD
694nmに相当する植菌レベルに植菌することで開始した;
− 一連の第二の前培養は、6.8リットルの発酵器中でなされた。5.2リットルの完全培地を含有する2つの発酵器の各々を、一連の第一の前培養(260mL)で植菌した。これらの発酵器を37℃で4時間維持し、初期pHを7.2±0.2で、pO
2を攪拌を大きくすること(500から800rpmに増やすこと)を含むカスケードで30%に維持し、ついでエアレーションを(0.5から2.5lpm)に増やし、次に純粋なO
2の流速を0〜6lpmとした;
− 一連の第三の前培養は、57リットルの完全培地を含有する120リットルの発酵器でなされ、それを第二の発酵器から由来の前培養(5.8リットル)で植菌した。この発酵器を37℃±1℃で3時間維持し、初期pHを7.2±0.2で、pO
2を攪拌を大きくすること(300から425rpmに増やすこと)を含むカスケードで30%に維持し、ついでエアレーションを(6から28lpmに)増やし、次に純粋なO
2の流速を0〜50lpmとした;
を含む。
【0122】
工業的培養を778リットルの完全培地を含有する1000リットルの発酵器で行い、それを第三の発酵器の前培養(39リットル)で植菌した。この発酵器を32℃±1℃に維持し、pHを6.7±0.2に(2.5N水酸化ナトリウム溶液)で制御し、pO
2を攪拌を大きくすること(100から230rpmに増やすこと)を含むカスケードで70%に維持し、ついでエアレーションを(70から150lpmに)増やし、次に純粋なO
2の流速を0〜500lpmとした。さらには、消泡剤(Biospumex、4%)を、泡沫体のレベルに応じて、オンデマンドで添加した。
【0123】
12時間培養した後、694nmでのO.D.を測定し、それでバイオマスの決定が可能となった(その対応によれば、一のOD単位が0.64gの乾燥バイオマスに相当する)。PRPおよびLPSの濃度を実施例3および4に記載のプロトコルに従って決定した。
【0124】
得られた結果を以下の表XIに示す:
【表11】
【0125】
これらの結果は本発明の方法がPRP生産性およびPRP/LPSの割合に対して利点を有することを示し、該結果は工業的規模での結果であることを明らかにした。