【課題を解決するための手段】
【0004】
1態様によると、本発明はオリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドの製造方法を提供し、前記方法は、
i)オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化され、連結基とグラフトしたイソシアノペプチドの第1のコモノマーと、
オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化され、グラフトしていないイソシアノペプチドの第2のコモノマーを、
前記第1のコモノマーと前記第2のコモノマーのモル比が1:500〜1:30となるように共重合する工程と、
ii)工程i)により得られたコポリマーにスペーサー単位と細胞接着因子の反応体を加える工程を含み、前記スペーサー単位は一般式A−L−Bにより表され、
前記式中、前記連結基とA基は相互に反応して第1のカップリングを形成するように選択され、前記細胞接着因子とB基は相互に反応して第2のカップリングを形成するように選択され、
前記第1のカップリング及び前記第2のカップリングは独立してアルキン−アジドカップリング、ジベンゾシクロオクチン−アジドカップリング、オキサノルボルナジエン系アジドカップリング、ビニルスルホン−チオールカップリング、マレイミド−チオールカップリング、メタクリル酸メチル−チオールカップリング、エーテルカップリング、チオエーテルカップリング、ビオチン−ストレプトアビジンカップリング、アミン−カルボン酸カップリングによるアミド結合、アルコール−カルボン酸カップリングによるエステル結合、及びNHSエステル(N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)−アミンカップリングから構成される群から選択され、
L基は主鎖におけるC、N、O及びSから選択される原子間の結合数が10〜60である直鎖セグメントである。
【0005】
前記連結基とA基は相互に反応して上記に挙げた、いずれのカップリングでもよい第1のカップリングを形成するように選択される。例えば、アルキン−アジドカップリングを得るためには、前記連結基はアルキンとすることができ、A基はアジドとすることができ、あるいは前記連結基はアジドとすることができ、A基はアルキンとすることができる。上記に挙げたカップリングは当業者に周知であり、これらのカップリングの形成については教科書に記載されている。例えば、NH
2−COOHカップリングはEDCにより形成することができる。
【0006】
好ましくは、前記第1のカップリングはアルキン−アジドカップリングである。
同様に、前記細胞接着因子とB基は相互に反応して上記に挙げた、いずれのカップリングでもよい第2のカップリングを形成するように選択される。好ましくは、前記第2のカップリングはNHSエステル(N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)−アミンカップリング又はマレイミド−チオールカップリングである。これはペプチドである前記細胞接着因子のN末端とNHSエステルとのカップリング又はペプチドである前記細胞接着因子の末端チオールとマレイミドとのカップリングとすることができる。
L基は反応性のA基とB基を連結する直鎖をもつセグメントである。このセグメントはC、N、O及びSから選択される原子の配列により形成される。A基とB基に連結される主鎖における原子間の結合数は最低10から最大60までである。「主鎖」なる用語はA基とB基を最短距離で連結する分子鎖を意味するものである。末端A基及びB基に連結される主鎖における原子間の結合数は好ましくは最低12、より好ましくは最低15である。末端A基及びB基に連結される主鎖における原子間の結合数は好ましくは最低50、より好ましくは最低40である。
細胞接着因子に結合した細胞を培養するためにはコポリマー主鎖と細胞接着因子の間に所定の最小距離が必要であることが判明した。本発明ではスペーサー単位の存在によりこの距離を提供するが、最低結合数10により与えられる距離が必要であることが分かった。結合数が10未満の長さでは十分な細胞増殖が得られないことが判明した。
L基の好ましい例は、
【化1】
(式中、pは1〜10、好ましくは2〜5である。)、
【化2】
(式中、qは1〜9、好ましくは2〜5である。)
【化3】
(式中、rは1〜10、好ましくは2〜5である。)である。
スペーサー単位がこれらの型のL基を含むとき、A基、B基、連結基及び細胞接着因子の種類と寸法に関係なく、特に安定な細胞増殖が確保される。
【0007】
別の態様によると、本発明は本発明の方法により獲得可能なオリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドを提供する。
別の態様によると、本発明はオリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドを濃度1.2〜3.0mg/mLで含有するハイドロゲルを含む細胞培養液を提供し、前記コポリイソシアノペプチドは、
i)オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化され、連結基とグラフトしたイソシアノペプチドの第1のコモノマーと、
オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化され、グラフトしていないイソシアノペプチドの第2のコモノマーを、
前記第1のコモノマーと前記第2のコモノマーのモル比が1:500〜1:30となるように共重合する工程と、
ii)工程i)により得られたコポリマーにスペーサー単位と細胞接着因子の反応体を加える工程により製造され、前記スペーサー単位は一般式A−L−Bにより表され、
前記式中、前記連結基とA基は相互に反応して第1のカップリングを形成するように選択され、前記細胞接着因子とB基は相互に反応して第2のカップリングを形成するように選択され、
前記第1のカップリング及び前記第2のカップリングは独立してアルキン−アジドカップリング、ジベンゾシクロオクチン−アジドカップリング、オキサノルボルナジエン系アジドカップリング、ビニルスルホン−チオールカップリング、マレイミド−チオールカップリング、メタクリル酸メチル−チオールカップリング、エーテルカップリング、チオエーテルカップリング、ビオチン−ストレプトアビジンカップリング、アミン−カルボン酸カップリングによるアミド結合、アルコール−カルボン酸カップリングによるエステル結合、及びNHSエステル(N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)−アミンカップリングから構成される群から選択され、
L基は主鎖におけるC、N、O及びSから選択される原子間の結合数が10〜60である直鎖セグメントである。
【0008】
本発明者らはハイドロゲルの三次元構造体を構成するポリマー主鎖から所定の距離に配置した細胞接着因子を特定の濃度にした場合のみに最適な細胞増殖が達成されることを意外にも見出した。
細胞接着因子の濃度が低過ぎると、細胞は十分にハイドロゲルに接着しないため、細胞を培養できなくなる。細胞接着因子の濃度が高過ぎると、細胞はゲル内で増殖しない。
【0009】
第1のコモノマーはオリゴ(アルキレングリコール)で官能基化され、連結基とグラフトしたイソシアノペプチドである。連結基の好ましい例としては、アジド(例えばオキサノルボルナジエン系アジド)、アルキン(例えばジベンゾシクロオクチン)、チオール、ビニルスルホン、マレイミド、メタクリル酸メチル、エーテル、ビオチン、ストレプトアビジン、NH
2、COOH、OH、NHSエステルが挙げられる。特にアジドが好ましい。
第1のコモノマーの1例を式(I)に示す(式中、連結基はアジドである。)。
式(I)
【化4】
第2のコモノマーは、オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化され、連結基又は他の基とグラフトしていないイソシアノペプチドであり、即ち、このイソシアノペプチドの側鎖はオリゴ(アルキレングリコール)から構成される。第2のコモノマーの1例を式(II)に示す。
式(II)
【化5】
工程(i)では第1のコモノマーと第2のコモノマーを共重合する。第1のコモノマーと第2のコモノマーの比のポリマーに沿って連結基を含み、オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドが得られる。
スペーサー単位を介して細胞接着因子をコポリマーに結合する。先ず、スペーサー単位と細胞接着因子の反応体を作製する。スペーサー単位の1例を式(III)に示す。
式(III)
【化6】
(式中、pは1〜10である。)
本例においてA基は
【化7】
であり、B基は
【化8】
であり、L基は
【化9】
である。
細胞接着因子の1例を式(IV)に示すが、これはグリシン、L−アルギニン、グリシン、L−アスパラギン酸及びセリンから構成されるペンタペプチド(GRGDS)である。
【化10】
(III)のスペーサー単位と(IV)の細胞接着因子の反応体を式(V)に示す。
【化11】
本発明の工程ii)では、スペーサー単位と細胞接着因子の反応体(例えば式(V))を工程i)により得られたコポリマーと反応させる。連結基は反応体のスペーサー単位に対応する部分と反応する。従って、最終的なコポリイソシアノペプチドは第1のコモノマーと第2のコモノマーの比のポリマーに沿って細胞接着単位を含む。最終的なコポリイソシアノペプチドの1例は式(VI):
【化12】
により表され、式中、m:nは第1のコモノマー対第2のコモノマーの比である。
細胞接着単位はスペーサー単位の使用によりイソシアノペプチドポリマー主鎖から所定の距離に配置される。
【0010】
ハイドロゲルは適切な細胞培養培地でゲル化することにより得られるようなコポリマーから作製される。ハイドロゲルは三次元ハイドロゲルである。ハイドロゲル中のポリマー濃度は1.2〜3.0mg/mLとする。ハイドロゲル中のポリマー濃度が低過ぎると、細胞はハイドロゲルに接着しない。ハイドロゲル中のポリマー濃度が高過ぎると、ハイドロゲルは過度に剛性になり、細胞がゲル内を移動・増殖できなくなる。
好ましくは、ハイドロゲルはプレート間レオロジー実験により測定した場合に35℃において10〜5000Pa、好ましくは100〜1000Paの範囲の弾性率を有する。こうすると、細胞は移動・増殖して細胞網目構造を形成し、例えば血管前駆細胞系等の三次元構造体を形成できる。
本発明は選択的剛性及び温度応答性を備え、空間分布と細胞接着点密度が制御されたハイドロゲルの細胞培養液を提供する。共重合の結果、第1のコモノマーと第2のコモノマーの比のコポリマーに沿って細胞接着基の統計的分布が得られる。第1のコモノマーと第2のコモノマーの比を調整し、ポリイソシアノペプチドのポリマー主鎖に沿う細胞接着因子間の距離を制御することができる。ポリマー主鎖に沿う細胞接着因子間の平均距離は例えば1.1〜60nmとすることができる。細胞接着因子間の距離をこの範囲にすると、培養する細胞を細胞培養液に定着させるのに適している。より好ましくは、細胞接着因子間の平均距離は8〜30nmである。
ハイドロゲルは種々の細胞培養培地を含むことができ、細胞培養液は複雑な生物学的足場の形成を可能にすることが判明した。
本発明の細胞培養液は培養細胞の回収が容易であると言う点で極めて有利である。細胞培養液で使用するハイドロゲルは温度応答性であり、即ちゲル化温度よりも低温まで冷却することにより液化する。従って、細胞培養液を冷却するだけで培養細胞の回収を行うことができる。ハイドロゲルの液化後、培養細胞に損傷を与えずに細胞を液体から回収することができる。
十分な結合を維持するようにオリゴアルキレングリコールで官能基化されたイソシアノペプチドに細胞接着因子を直接結合することはできないと判断された。これは本発明に従ってスペーサーを使用することにより解決された。本発明により使用するスペーサー単位は細胞接着因子をイソシアノペプチドのポリマー主鎖から分離し、立体的な妨害を排除する。スペーサーはポリマー主鎖から細胞接着因子の移動を阻止し、移動の阻止により、細胞接着因子はインテグリン結合ポケットに効率的に入り込むことができる。スペーサーは極性、水溶性、生体適合性でインテグリンの活性部位に対して非結合性でなければならないが、補助的な結合を助長できなければならない。第1のモノマーは先ず第2のモノマーを作製してこれを連結基とグラフトすることにより作製することができる。あるいは、第1のモノマーと第2のモノマーを別経路で作製してもよい。
【0011】
第1のコモノマーと第2のコモノマーのモル比は1:500〜1:30とする。第1のコモノマーと第2のコモノマーのモル比は1:400〜1:35、1:300〜1:40又は1:200〜1:45が好ましい。第1のコモノマーと第2のコモノマーの比をこの範囲にすると、ポリマー主鎖に沿う細胞接着単位間の平均距離が8〜30nmとできる。
好ましくは、オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドはゲル化温度が18〜40℃である。ゲル化温度はハイドロゲル中のポリマー濃度に依存しない。他方、ポリマーの側鎖におけるオリゴアルキレングリコール単位数に依存する。
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
コモノマー
オリゴ(アルキレングリコール)単位によるイソシアノペプチドの官能基化。
前記モノマーはC末端を目的のオリゴ(アルキレングリコール)分子鎖で置換したジ、トリ、テトラ又はそれ以上のペプチドモチーフを基礎とすることが好ましい。前記分子鎖は直鎖、分岐鎖又はデンドロナイズドオリゴ(アルキレンオキシド)を基礎とすることができる。好ましくは、前記分子鎖は直鎖であり、エチレングリコールから構成される。
ペプチドセグメントは天然もしくは非天然アミノ酸及び拡張アミノ酸又はその混合物の配列により決定される種々の組成とすることができる。
前記モノマーは適切なオリゴ(アルキレングリコール)断片から誘導される。多段階ペプチドカップリングストラテジーを使用し、目的のアミノ酸を順次導入する。目的のペプチド配列の導入後、ペプチドセグメントのN末端を適切なホルミル化法でホルミル化する。このホルミル化としては、ホルミル塩、ギ酸、又は他のホルミル化剤による生成物の処理が挙げられる。
ホルミル化ストラテジーの数例を挙げると、ギ酸塩(例えばギ酸ナトリウム又はギ酸カリウム)、ギ酸アルキル(例えばギ酸メチル、ギ酸エチル又はギ酸プロピル)、ギ酸、クロラール及び誘導体を利用することができる。次にホルムアミドを適切な脱水剤で処理することによりイソシアニドを形成する。脱水ストラテジーの1例を挙げると、ジホスゲンを使用する。同じく使用することができる脱水剤の数例を挙げると、ホスゲン及び誘導体(ジホスゲン、トリホスゲン)、カルボジイミド、塩化トシル、オキシ塩化リン、トリフェニルホスフィン/四塩化炭素が挙げられる[M.B.Smith and J.March“March’s advanced organic chemistry”5th edition,Wiley & Son eds.,2001,New York,USA,pp1350−1351及びその引用文献]。
【0013】
側鎖(アルキレングリコール)
適切なアルキレングリコールの例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール又はペンチレングリコールである。アルキレングリコールはエチレングリコールが好ましい。
有利なオリゴエチレングリコール単位を以下に示す。一般に、オリゴなる用語は<10の数を意味する。
【化13】
重合後に水溶性材料となるようにイソシアノペプチドを最低3個のエチレングリコール単位で官能基化することが好ましい。
本発明の第2のコモノマーはグラフトしていない上記のようなオリゴ(アルキレングリコール)イソシアノペプチドである。
第1のコモノマーはアルキレングリコール単位数が同数のイソシアノペプチドから構成してもよいし、アルキレングリコール単位数の異なるイソシアノペプチドの混合物でもよい。同様に、第2のコモノマーはアルキレングリコール単位数が同数のイソシアノペプチドから構成してもよいし、アルキレングリコール単位数の異なるイソシアノペプチドの混合物でもよい。
第1のコモノマー及び第2のコモノマーはオリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたイソシアノペプチドであり、即ちイソシアノペプチド上のアルキレングリコール単位数は1〜10である。好ましくは、第1のコモノマー及び第2のコモノマー上のアルキレングリコール単位数の平均は最低3から最大4までである。
第1のコモノマー及び第2のコモノマー上のアルキレングリコール単位の平均はアルキレングリコール単位数の異なるイソシアノペプチドの混合物を第2のコモノマーとして使用することにより調整するのが一般的である。好ましい実施形態において、第1のコモノマーはアルキレングリコール単位数3のイソシアノペプチドであり、第2のコモノマーはアルキレングリコール単位数3のイソシアノペプチドとアルキレングリコール単位数4のイソシアノペプチドの混合物である。
第1のコモノマー及び第2のコモノマー上のアルキレングリコール単位数の平均は3とすることができる。その場合には通常では15〜25℃のゲル化温度が得られる。第1のコモノマー及び第2のコモノマー上のアルキレングリコール単位数の平均は>3から最大3.5まででもよい。その場合には通常では18〜35℃のゲル化温度が得られる。第1のコモノマー及び第2のコモノマー上のアルキレングリコール単位数の平均は>3.5から最大5まででもよい。その場合には通常では25〜50℃のゲル化温度が得られる。
好ましくは、オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドはレオロジー測定により測定した場合に温度35℃における弾性率が10〜5000Pa、好ましくは100〜1000Paである。第1のコモノマー及び第2のコモノマー上のアルキレングリコール単位数の平均が最低3から最大5までであるとき、ハイドロゲルはこのような剛性度をもつ。
【0014】
重合
連結基とグラフトしたオリゴ(アルキレングリコール)イソシアノペプチドモノマー(第1のコモノマー)と、連結基とグラフトしていないオリゴ(アルキレングリコール)イソシアノペプチドモノマー(第2のコモノマー)を混合した後、共重合する。
共重合は非極性溶媒の存在下で実施することが好ましい。適切な非極性溶媒は飽和炭化水素溶媒及び芳香族炭化水素溶媒又はその混合物から構成される群から選択することができる。非極性溶媒の例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、2−メチルブタン、2−メチルヘキサン、シクロヘキサン、及びトルエン、ベンゼンキシレン又はその混合物である。トルエンを重合で使用することが好ましい。オリゴ(エチレングリコール)部分のエチレングリコール単位数が最低3であるオリゴ(エチレングリコール)イソシアノペプチドの重合法にはトルエンを選択することが好ましい。
重合は触媒の存在下で実施することが好ましい。触媒はニッケル(II)塩が好ましい。Ni(II)塩の例はハロゲン化ニッケル(II)(例えば塩化ニッケル(II))、過塩素酸ニッケル(II)又は過塩素酸テトラキス(tert−ブチルイソシアニド)ニッケル(II)である。
重合媒体に可溶性であるか又は重合媒体に混和性の適切な溶媒に最初から溶解しているのであれば、他の錯体及びニッケル塩を使用してもよい。オリゴ(アルキレングリコール)イソシアノペプチドを重合するために使用することができる所定の触媒系に関する一般情報については、Suginome M.;Ito Y;Adv Polym SC1 2004,171,77−136;Nolte R.J.M.;Chem.Soc.Rev.1994,23(1),11−19を参照することができる。
30mmol/Lを上回るようにモノマー濃度を選択し、1/100〜1/10000となるように触媒/モノマー比を選択することが好ましい。ニッケル(II)の量が少ないほど(触媒/モノマー比<1/1000)、その後にポリマーをマクロハイドロゲル化剤として利用するのに望ましい実質重合度[平均DP>500]を示す材料を製造することができる。
代表的な1例では、触媒対モノマーのモル比が1:50から1:100,000までとなるように、モノマーを非極性有機溶媒又は混合溶媒に溶解したミリモル溶液をニッケル(II)触媒の極性溶媒溶液に加える。密閉雰囲気下で混合液を2〜24時間激しく撹拌する。完了したら反応混合液を蒸発させ、粗生成物を有機溶媒に溶解し、ジエチルエーテル又は同様の非相溶性有機溶媒で沈殿させ、目的の生成物を得る。
【0015】
スペーサー単位と細胞接着因子の反応体と連結基とのグラフト
スペーサー単位
末端A基及びB基は脱保護又は活性化工程の必要なしにその後の化合物の合成が可能となるように選択することが好ましい。
スペーサー単位のA基の好ましい例としては、アジド(例えば、オキサノルボルナジエン系アジド)、アルキン(例えば、ジベンゾシクロオクチン)、チオール、ビニルスルホン、マレイミド、メタクリル酸メチル、エーテル、ビオチン、ストレプトアビジン、NH
2、COOH、OH、NHSエステルが挙げられる。特にアルキンが好ましい。
スペーサー単位のB基の好ましい例としては、アジド(例えばオキサノルボルナジエン系アジド)、アルキン(例えばジベンゾシクロオクチン)、チオール、ビニルスルホン、マレイミド、メタクリル酸メチル、エーテル、ビオチン、ストレプトアビジン、NH
2、COOH、OH、NHSエステルが挙げられる。特にNHSエステル又はマレイミドが好ましい。
好ましくは、スペーサー単位のA基は式(VII):
式(VII)
【化14】
により表され、式中、
nは0〜8であり;
R
3は[(L)
p−Q]、水素、ハロゲン、C
1−C
24アルキル基、C
6−C
24(ヘテロ)アリール基、C
7−C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7−C
24(ヘテロ)アリールアルキル基から構成される群から選択され、前記アルキル基は場合によりO、N及びSから構成される群から選択される1以上のヘテロ原子が介在しており、前記アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は独立してC
1−C
12アルキル基、C
2−C
12アルケニル基、C
2−C
12アルキニル基、C
3−C
12シクロアルキル基、C
1−C
12アルコキシ基、C
2−C
12アルケニルオキシ基、C
2−C
12アルキニルオキシ基、C
3−C
12シクロアルキルオキシ基、ハロゲン、アミノ基、オキソ基及びシリル基から構成される群から選択される1以上の置換基で独立して場合により置換されており、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基及びシクロアルキルオキシ基は場合により置換されており、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記シクロアルキル基及び前記シクロアルコキシ基は場合によりO、N及びSから構成される群から選択される1以上のヘテロ原子が介在しており、前記シリル基は式(R
4)
3Si−により表され、前記式中、R
4は独立してC
1−C
12アルキル基、C
2−C
12アルケニル基、C
2−C
12アルキニル基、C
3−C
12シクロアルキル基、C
1−C
12アルコキシ基、C
2−C
12アルケニルオキシ基、C
2−C
12アルキニルオキシ基及びC
3−C
12シクロアルキルオキシ基から構成される群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基及びシクロアルキルオキシ基は場合により置換されており、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記シクロアルキル基及び前記シクロアルコキシ基は場合によりO、N及びSから構成される群から選択される1以上のヘテロ原子が介在しており;
R
1は独立して水素、C
1−C
24アルキル基、C
6−C
24(ヘテロ)アリール基、C
7−C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7−C
24(ヘテロ)アリールアルキル基から構成される群から選択され;
R
2は独立してハロゲン、−OR
6、−NO
2、−CN、−S(O)
2R
6、C
1−C
12アルキル基、C
1−C
12アリール基、C
1−C
12アルキルアリール基及びC
1−C
12アリールアルキル基から構成される群から選択され、ここでR
6は上記の通りであり、前記アルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基は場合により置換されている。
好ましくは、n=0である。
好ましくは、R
1は水素である。
好ましくは、R
3は水素である。
好ましくは、スペーサー単位のB基は式(VIII):
式(VIII)
【化15】
により表される。
好ましくは、スペーサー単位は式(VII)のA基と式(VIII)のB基を含む。
適切なスペーサー単位の例としては、式(IX):
式(IX)
【化16】
により表される化合物が挙げられ、
式中、R
1、R
2、R
3及びnは上記の通りであり、
Lは好ましくは式(X−1)、(X−2)、(X−3):
式(X−1)
【化17】
(式中、pは1〜10、好ましくは2〜5である。)、
式(X−2)
【化18】
(式中、qは1〜9、好ましくは2〜5である。)
式(X−3)
【化19】
(式中、rは1〜10、好ましくは2〜5である。)
により表される基から選択される。
好ましくは、スペーサー単位は式(XI):
は式(XI)
【化20】
により表され、式中、pは1〜10、好ましくは2〜5、より好ましくは2である。
適切なスペーサー単位の他の例としては、本願に援用するWO2011/136645に記載されている縮合シクロオクチン化合物が挙げられる。従って、可能なスペーサー単位は式(IIa)、(IIb)又は(IIc):
【化21】
の化合物から選択され、式中、
nは0〜8であり;
pは0又は1であり;
R
3は[(L)
p−Q]、水素、ハロゲン、C
1−C
24アルキル基、C
6−C
24(ヘテロ)アリール基、C
7−C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7−C
24(ヘテロ)アリールアルキル基から構成される群から選択され、前記アルキル基は場合によりO、N及びSから構成される群から選択される1以上のヘテロ原子が介在しており、前記アルキル基、(ヘテロ)アリール基、アルキル(ヘテロ)アリール基及び(ヘテロ)アリールアルキル基は独立してC
1−C
12アルキル基、C
2−C
12アルケニル基、C
2−C
12アルキニル基、C
3−C
12シクロアルキル基、C
1−C
12アルコキシ基、C
2−C
12アルケニルオキシ基、C
2−C
12アルキニルオキシ基、C
3−C
12シクロアルキルオキシ基、ハロゲン、アミノ基、オキソ基及びシリル基から構成される群から選択される1以上の置換基で独立して場合により置換されており、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基及びシクロアルキルオキシ基は場合により置換されており、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記シクロアルキル基及び前記シクロアルコキシ基は場合によりO、N及びSから構成される群から選択される1以上のヘテロ原子が介在しており、前記シリル基は式(R
4)
3Si−により表され、前記式中、R
4は独立してC
1−C
12アルキル基、C
2−C
12アルケニル基、C
2−C
12アルキニル基、C
3−C
12シクロアルキル基、C
1−C
12アルコキシ基、C
2−C
12アルケニルオキシ基、C
2−C
12アルキニルオキシ基及びC
3−C
12シクロアルキルオキシ基から構成される群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基及びシクロアルキルオキシ基は場合により置換されており、前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記シクロアルキル基及び前記シクロアルコキシ基は場合によりO、N及びSから構成される群から選択される1以上のヘテロ原子が介在しており;
Lは直鎖又は分岐鎖C
1−C
24アルキレン基、C
2−C
24アルケニレン基、C
2−C
24アルキニレン基、C
3−C
24シクロアルキレン基、C
5−C
24シクロアルケニレン基、C
8−C
24シクロアルキニレン基、C
7−C
24アルキル(ヘテロ)アリーレン基、C
7−C
24(ヘテロ)アリールアルキレン基、C
8−C
24(ヘテロ)アリールアルケニレン基、C
9−C
24(ヘテロ)アリールアルキニレン基から選択される連結基であり、前記アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、シクロアルキニレン基、アルキル(ヘテロ)アリーレン基、(ヘテロ)アリールアルキレン基、(ヘテロ)アリールアルケニレン基及び(ヘテロ)アリールアルキニレン基は場合により独立してC
1−C
12アルキル基、C
2−C
12アルケニル基、C
2−C
12アルキニル基、C
3−C
12シクロアルキル基、C
5−C
12シクロアルケニル基、C
8−C
12シクロアルキニル基、C
1−C
12アルコキシ基、C
2−C
12アルケニルオキシ基、C
2−C
12アルキニルオキシ基、C
3−C
12シクロアルキルオキシ基、ハロゲン、アミノ基、オキソ基及びシリル基から構成される群から選択される1以上の置換基で置換されており、前記シリル基は式(R
4)
3Si−により表すことができ、前記式中、R
4は上記の通りであり;
Qは水素、ハロゲン、R
6、−CH=C(R
6)
2、−C≡CR
6、−[C(R
6)
2C(R
6)
2O]
q−R
6(式中、qは〜200の範囲である。)、−CN、−N
3、−NCX、−XCN、−XR
6、−N(R
6)
2、−+N(R
6)
3、−C(X)N(R
6)
2、−C(R
6)
2XR
6、−C(X)R
6、−C(X)XR
6、−S(O)R
6、−S(O)2R
6、−S(O)OR
6、−S(O)2OR
6、−S(O)N(R
6)
2、−S(O)
2N(R
6)
2、−OS(O)R
6、−OS(O)
2R
6、−OS(O)OR
6、−OS(O)
2OR
6、−P(O)(R
6)(OR
6)、−P(O)(OR
6)
2、−OP(O)(OR
6)
2、−Si(R
6)
3、−XC(X)R
6、−XC(X)XR
6、−XC(X)N(R
6)
2、−N(R
6)C(X)R
6、−N(R
6)C(X)XR
6及び−N(R
6)C(X)N(R
6)
2から構成される群から選択される官能基であり、ここでXは酸素又は硫黄であり、R
6は独立して水素、ハロゲン、C
1−C
24アルキル基、C
6−C
24(ヘテロ)アリール基、C
7−C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7−C
24(ヘテロ)アリールアルキル基から構成される群から選択され;
R
1は独立して水素、C
1−C
24アルキル基、C
6−C
24(ヘテロ)アリール基、C
7−C
24アルキル(ヘテロ)アリール基及びC
7−C
24(ヘテロ)アリールアルキル基から構成される群から選択され;
R
2は独立してハロゲン、−OR
6、−NO
2、−CN、−S(O)
2R
6、C
1−C
12アルキル基、C
1−C
12アリール基、C
1−C
12アルキルアリール基及びC
1−C
12アリールアルキル基から構成される群から選択され、ここでR
6は上記の通りであり、前記アルキル基、アリール基、アルキルアリール基及びアリールアルキル基は場合により置換されている。
【0016】
細胞接着因子
細胞接着因子は細胞がゲルに結合するのを助ける。細胞接着因子はアミノ酸配列が好ましい。本発明で有利に使用することができるアミノ酸の例はN−保護アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンである。適切なアミノ酸配列としては、RGD、GRGDS、IKVAV、KQAGDV及びGRGDSP等のペプチドが挙げられる。細胞接着因子はVGEFやBFGF等の成長因子でもよい。細胞接着因子は糖タンパク質やムチンでもよい。
スペーサー単位と細胞接着因子を反応させる。銅フリーSPAAC反応により反応体をコポリマーの連結基にグラフトすることができる。
【0017】
ポリマーの一般的性質
本発明で使用するポリイソシアノペプチドは明確な構造を示し、例えば
図1のようにオリゴ(アルキレングリコール)で被覆された完全なβシート螺旋構造を示す。この構造は実質的に各窒素がペプチドペンダント基で置換された螺旋ポリ(イミン)コアを含む。ポリ(イミン)主鎖の疑似4
1螺旋対称性により、n番目の窒素にグラフトした全ペンダント基はn+4番目の位置にグラフトした対応するペンダント基による分子内βシート様充填に関与する。ペプチドセグメントは更に、前記構造の外側シェルを形成するオリゴ(アルキレングリコール)置換基を付けられている。得られる材料の水溶解度は適切なオリゴ(エチレングリコール)置換基の選択に直接相関する。最後に、ポリマー鎖の螺旋の向きはイミン基に結合したアミノ酸のキラリティーにより決定される。
本発明で使用するポリイソシアノペプチドは得られるポリマーに構造欠陥が最小限又は皆無である。最小限なる用語はポリマー主鎖に正しく結合している正しい側鎖が96%を上回るという意味に解釈すべきであり、例えば97%、98%、99%、99.5%又は更には100%である。
換言するならば、官能基化されたモノマーの直接重合により、得られる材料では側鎖のグラフト密度に関する構造欠陥の発生が最小限になる。
本発明で使用するポリイソシアノペプチドは重合度が高く、[DP]>500であり、持続長が長く、均質で安定な水溶性螺旋ポリマーとすることができる。
本発明はオリゴアルキレンで官能基化されたポリイソシアノペプチドを含む均質なハイドロゲルと共に、エチレングリコール単位数の異なるオリゴアルキレンで官能基化されたポリイソシアノペプチドの混合物を含む不均質なハイドロゲルも提供する。
こうして得られるオリゴアルキレンで官能基化されたポリイソシアノペプチドはゲル化温度を調整可能な高強度の熱可逆性ハイドロゲルを形成することが可能である。水を物理的にゲル化するために、本発明のポリ[オリゴ(エチレングリコール)]イソシアノペプチドは重合度[DP]>500であることが好ましい。
適切な細胞培養培地でゲル化することにより得られるコポリマーからハイドロゲルを作製する。前記ハイドロゲルは三次元ハイドロゲルである。ハイドロゲル中のポリマー濃度は1.2〜3.0mg/mLとする。ハイドロゲル中のポリマー濃度が低過ぎると、ハイドロゲルは脆弱過ぎて細胞三次元網目構造の成長を助長できない。ハイドロゲル中のポリマー濃度が高過ぎると、ハイドロゲルは過度に剛性になり、細胞がゲル内を移動・増殖できなくなる。
好ましくは、ハイドロゲルはレオロジー実験により測定した場合に35℃における弾性率が10〜5000Paである。こうすると、細胞は移動・増殖して例えば血管前駆細胞系等の三次元細胞構造体を形成できる。
本発明で使用するオリゴ(アルキレングリコール)ポリイソシアノペプチドから得られるハイドロゲルはゲル化後に形成される網目構造が高度に構造化されている点において、従来報告されているポリマー系のハイドロゲルの大半と相違する。この網目構造は横方向に凝集したポリマー鎖のねじれた束から構成される。この構成は低分子量ハイドロゲル化剤のゲル化後に形成されるフィブリル状の網目構造の構造に似ている。この現象はポリイソシアノペプチドの持続長が長く、元の会合方法に好都合であるためであると推定される。会合はオリゴ(アルキレングリコール)側鎖親水性の温度誘導性調節により誘発され、このような調節は完全に可逆的な現象であるため、オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたポリイソシアノペプチドの完全に熱可逆的な凝集/分離を生じる。
物理的ポリマーハイドロゲルの古典的説明としては、高濃度溶液中における絡み合い網目構造鎖の形成、スピノーダル分解による浸透網目構造の形成、微結晶形成、及びオリゴ(アルキレングリコール)ポリイソシアノペプチドの推定会合方法とは一見異なるミセル網目構造又はラメラ構造の形成が記載されている。
オリゴ(アルキレングリコール)ポリイソシアノペプチドから得られるハイドロゲルは、直径約5nmのポリマー繊維が横方向に会合してねじれた束となり、ポリマーハイドロゲル網目構造の基盤を形成することにより得られる。この結果、高度に多孔質の構造となり、細孔寸法を直径50nmまで広げることができる。
エチレングリコール側鎖の温度感受性挙動により、本発明で使用するポリマーは明白なLCST転移を示す。所定のオリゴ(アルキレングリコール)ポリイソシアノペプチドでは、溶液のイオン強度を変える(塩効果)ことにより、あるいはより一般的にはポリマーの全体的な溶媒和状態を調節することが可能な任意化合物の添加によりこの温度を調節することができる。酸又は主鎖螺旋の高次構造変化を生じることが可能な任意化合物を利用してポリ(イソシアニド)主鎖、即ちその高次構造に働きかけることにより、材料のLCSTを更に調節することができる。
ポリマーのLCSTを調節する別の方法は異なるオリゴ(アルキレングリコール)側鎖をもつモノマーを共重合する方法である。例えば、トリ(エチレングリコール)イソシアノジアラニンとテトラ(エチレングリコール)イソシアノジアラニンの比を変えて混合物を重合すると、ミリQ水中で得られるコポリマーのゲル化温度を22℃から60℃の間で調節することができた。
ポリマー鎖長はゲル化に影響を与えることが分かっている。重合度の低い分子鎖ほどゲルを形成するよりも沈降する傾向が強かった。これは分子鎖の一般構造を変えずに親水性を変化させることができる剛性又は半可撓性ポリマーの一般的な効果であると予想される(即ち剛性構造では、分子鎖は崩壊せず、他の分子鎖と横方向に凝集してより長い繊維を形成する)。
得られるゲルの光学的性質についてもポリマー長の影響があることが認められた。重合度の低い分子鎖から製造したハイドロゲルほど濁り易い、即ち不透明になり易いことが分かった。平均重合度が上がると、ハイドロゲルの不透明度は低下し、最終的に完全に光学的に透明な材料が得られた。
ゲル温度はある程度まで調節することができ、25℃で安定な構造化ゲルを形成することができるので、酵素又は細胞を封入してその活性を生体外で維持するために使用することができる新規バイオミメティックマトリックスが得られる。
本発明で使用するポリマーは何らかの興味深い有利な性質をもつように思われた。ポリマーの長さと剛性により、ゲルは場合によっては99.00〜99.98%が水から構成された。これは大きな体積にするためにほんの僅かな材料しか必要としないことを意味する。ポリマー鎖1本は直径約4ナノメートル及び分子量2,500,000Daであると思われた。多分散指数(PDI)は1.6であり、平均鎖長は500nm〜2μmであった。これらのポリマーはどちらかというと剛性であり、持続長70〜90nmであった。ペプチド断片キラリティーに応じて左巻きと右巻きの螺旋を得ることも可能であった(光学活性材料)。本発明者らは細孔寸法をポリマー濃度により100〜250nmにまで制御した明確なフィブリル網目構造を作製することもできた。分子鎖に反応性側基を効率的に導入することも可能であった。従って、これらのポリマーは生体分子の足場として使用することができる。本発明者らは細孔寸法が濃度により制御されることを見出した。
生体分子の例は生体物質、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、糖類、炭水化物、リポタンパク質、脂質、糖脂質、シリカ、薬物、核酸、DNA、RNA、ビタミン、栄養素、加水分解物、多糖類、単糖類、組換えペプチド、ムチン、酵素、生物有機化合物、組換え生体分子、抗体、ホルモン、成長因子、受容体、造影剤、サイトカイン、並びにその断片及び修飾物である。
【0018】
細胞培養液
本発明の細胞培養液は上記のようなハイドロゲルを含む。細胞培養液は三次元多孔質足場である。
本発明は更に本発明の細胞培養液の作製方法を提供し、前記方法は、
a)オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドを準備する工程と
b)前記オリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドを細胞培養培地と混合し、ハイドロゲルを得る工程を含む。
細胞培養液は原則として(動物)細胞の培養に適した任意型の細胞培養培地で作製することができる。適切な細胞培養培地は本発明の方法で使用する細胞の増殖と分化を助長する。
細胞培養培地と細胞培養条件を選択するためのガイドラインは周知であり、例えばFreshney,R.I.Culture of animal cells(a manual of basic techniques),4th edition 2000,Wiley−Lissの第8章及び第9章と、Doyle,A.,Griffiths,J.B.,Newell,D.G.Cell & Tissue culture:Laboratory Procedures 1993,John Wiley & Sonsに記載されている。
一般に、(哺乳動物)細胞用細胞培養培地は塩類、アミノ酸、ビタミン、脂質、界面活性剤、緩衝剤、成長因子、ホルモン、サイトカイン、微量元素、炭水化物及び他の有機栄養物を緩衝生理食塩水に溶解したものである。塩類の例としては、マグネシウム塩(例えばMgCl
2・6H
2O、MgSO
4及びMgSO
4・7H
2O)、鉄塩(例えばFeSO
4・7H
2O)、カリウム塩(例えばKH
2PO
4、KCl)、ナトリウム塩(例えばNaH
2PO
4、Na
2HPO
4)及びカルシウム塩(例えばCaCl
2・2H
2O)が挙げられる。アミノ酸の例はタンパク質を構成する全20種の公知アミノ酸(例えばヒスチジン、グルタミン、スレオニン、セリン、メチオニン)である。ビタミンの例としては、アスコルビン酸塩、ビオチン、塩化コリン、ミオイノシトール、D−パントテン酸塩、リボフラビンが挙げられる。脂質の例としては、脂肪酸(例えばリノール酸及びオレイン酸)、大豆ペプトン及びエタノールアミンが挙げられる。界面活性剤の例としては、Tween 80とPluronic F68が挙げられる。緩衝剤の1例はHEPESである。成長因子/ホルモン/サイトカインの例としては、IGF、ヒドロコルチゾン及び(組換え)インスリンが挙げられる。微量元素の例は当業者に公知であり、Zn、Mg及びSeが挙げられる。炭水化物の例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース及びピルビン酸塩が挙げられる。
培地には成長因子、代謝物等を添加してもよい。
適切な培地の例としては、胎仔ウシ血清、ヒドロコルチゾン、hFGF−B、VEGF、R3−IGF−1、アスコルビン酸、hEGF及びGA−1000を添加済みの内皮細胞増殖培地(EGM−2,Lonza,Walkersville,USA)と、胎仔ウシ血清、平滑筋細胞増殖サプリメント及びペニシリン/ストレプトマイシンを含むサプリメントを添加した平滑筋細胞培地(SMCM,ScienCell,Carlsbad,USA)が挙げられる。
細胞を培養する最適条件は当業者が容易に決定することができる。例えば、細胞培養培地のpH、温度、溶存酸素濃度及び浸透圧は原則として限定されず、選択する細胞の種類によって異なる。細胞の増殖と生産性に最適となるようにpH、温度、溶存酸素濃度及び浸透圧を選択することが好ましい。最適なpH、温度、溶存酸素濃度及び浸透圧を決定する方法は当業者に公知である。通常では、最適pHは6.6〜7.6であり、最適温度は30〜39℃、例えば温度36〜38℃、好ましくは温度約37℃であり、最適浸透圧は260〜400mOsm/kgである。
本発明は更に細胞の培養方法を提供し、前記方法は、
a)本発明の細胞培養液を準備する工程と、
b)ハイドロゲルのゲル化温度よりも低温で前記細胞培養液に細胞を加える工程と、
c)前記細胞を培養する工程を含む。
1態様によると、本発明はオリゴ(アルキレングリコール)で官能基化されたコポリイソシアノペプチドを含有するハイドロゲルと、内皮細胞及び平滑筋細胞の少なくとも1種を含む細胞培養液を提供する。
前記細胞は内皮細胞と平滑筋細胞の共培養物であることが好ましい。前記細胞の濃度は例えば2,000個/mL〜1,000,000個/mLとすることができる。その結果、例えば血管系等の三次元構造体を得ることができる。
本発明は更に血管前駆細胞系の作製用としての本発明の細胞培養液の使用を提供する。
以上、例証の目的で本発明を詳細に説明したが、当然のことながら、以上の詳細な説明は単に例証を目的とし、特許請求の範囲に記載する発明の趣旨と範囲から逸脱しない限り、当業者は変更を加えることができる。
なお、本発明は本願に記載する構成要素の可能な全ての組合せに関するが、特許請求の範囲に記載する構成要素の組合せが特に好ましい。
また、「含む」なる用語は他の要素の存在を排除するものではない。しかし、当然のことながら、所定の成分を含む生成物に関する記載はこれらの成分から構成される生成物も開示するものである。同様に、当然のことながら、所定の工程を含む方法に関する記載はこれらの工程から構成される方法も開示するものである。