(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347855
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】マスターシリンダー用ピストン
(51)【国際特許分類】
B60T 11/232 20060101AFI20180618BHJP
B60T 11/236 20060101ALI20180618BHJP
F16J 15/3236 20160101ALI20180618BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20180618BHJP
F16J 1/09 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
B60T11/232
B60T11/236
F16J15/3236
F16J15/3204 101
F16J1/09
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-572296(P2016-572296)
(86)(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公表番号】特表2017-523072(P2017-523072A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(86)【国際出願番号】KR2015005769
(87)【国際公開番号】WO2015190800
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2016年12月8日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0071819
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517442188
【氏名又は名称】イレ エイエムエス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】ムン ブ グン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン チョン デ
(72)【発明者】
【氏名】ソ ユ チョン
【審査官】
内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−076550(JP,A)
【文献】
特開2014−100947(JP,A)
【文献】
特開2009−056922(JP,A)
【文献】
特開2006−168430(JP,A)
【文献】
特開2005−112188(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0172626(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 10/00−11/34
F16J 1/09
F16J 15/3204、15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーハウジングと、
圧力室と流体供給室を形成するように前記シリンダーハウジングに移動可能に設置されるピストンと、
前記シリンダーハウジングと前記ピストンとの間に介されるシーリング部材と、を含み、
前記ピストンは、前記圧力室と前記流体供給室を連結するための複数の連通口を含み、
前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に前記ピストンの周方向に並んで形成され、
前記複数の連通口は、前記ピストンの長さ方向において最も前方に配置される連通口及び最も後方に配置される連通口を含み、
前記複数の連通口のうち、前記最も前方に配置される連通口から前記周方向の一方の側において前記最も後方に配置される連通口までの間に配列される各連通口と、前記最も前方に配置される連通口から前記周方向の他方の側において前記最も後方に配置される連通口までの間に配列される各連通口とは、前記最も前方に配置される連通口から前記最も後方に配置される連通口に向かって前記長さ方向に順次ずらされて配列されるマスターシリンダー。
【請求項2】
シリンダーハウジングと、
圧力室と流体供給室を形成するように前記シリンダーハウジングに移動可能に設置されるピストンと、
前記シリンダーハウジングと前記ピストンとの間に介されるシーリング部材と、を含み、
前記ピストンは、前記圧力室と前記流体供給室を連結するための複数の連通口を含み、
前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に前記ピストンの周方向に並んで形成され、
前記複数の連通口は、前記ピストンの長さ方向において最も前方に配置される連通口及び最も後方に配置される連通口を含み、
前記最も前方に配置される連通口と前記最も後方に配置される連通口とは、前記周方向において隣り合っており、
前記複数の連通口のうち、前記最も前方に配置される連通口から前記最も後方に配置される連通口までの間に配列される各連通口は、前記最も前方に配置される連通口から前記最も後方に配置される連通口に向かって前記長さ方向に順次ずらされて配列されるマスターシリンダー。
【請求項3】
前記複数の連通口の中心線は、前記ピストンの長さ方向に対して垂直である、請求項1又は2に記載のマスターシリンダー。
【請求項4】
前記複数の連通口は、中心線が前記ピストンの長さ方向に対して垂直な連通口と、半径方向外側に行くほど前記ピストンの後方に向って傾くように中心線が前記ピストンの長さ方向に対して傾いた連通口とを含む、請求項1又は2に記載のマスターシリンダー。
【請求項5】
シリンダーハウジングと、
圧力室と流体供給室を形成するように前記シリンダーハウジングに移動可能に設置されるピストンと、
前記シリンダーハウジングと前記ピストンとの間に介されるシーリング部材と、を含み、
前記ピストンは、前記圧力室と前記流体供給室を連結するための複数の連通口を含み、
前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に形成され、
前記複数の連通口は、中心線が前記ピストンの長さ方向に対して垂直な連通口と、半径方向外側に行くほど前記ピストンの後方に向って傾くように中心線が前記ピストンの長さ方向に対して傾いた連通口とを含むマスターシリンダー。
【請求項6】
マスターシリンダーのシリンダーハウジング内に設置されるピストンであって、
内側と外側を連通するように形成される複数の連通口を含み、
前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に前記ピストンの周方向に並んで形成され、
前記複数の連通口は、前記ピストンの長さ方向において最も前方に配置される連通口及び最も後方に配置される連通口を含み、
前記複数の連通口のうち、前記最も前方に配置される連通口から前記周方向の一方の側において前記最も後方に配置される連通口までの間に配列される各連通口と、前記最も前方に配置される連通口から前記周方向の他方の側において前記最も後方に配置される連通口までの間に配列される各連通口とは、前記最も前方に配置される連通口から前記最も後方に配置される連通口に向かって前記長さ方向に順次ずらされて配列されるマスターシリンダー用ピストン。
【請求項7】
マスターシリンダーのシリンダーハウジング内に設置されるピストンであって、
内側と外側を連通するように形成される複数の連通口を含み、
前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に前記ピストンの周方向に並んで形成され、
前記複数の連通口は、前記ピストンの長さ方向において最も前方に配置される連通口及び最も後方に配置される連通口を含み、
前記最も前方に配置される連通口と前記最も後方に配置される連通口とは、前記周方向において隣り合っており、
前記複数の連通口のうち、前記最も前方に配置される連通口から前記最も後方に配置される連通口までの間に配列される各連通口は、前記最も前方に配置される連通口から前記最も後方に配置される連通口に向かって前記長さ方向に順次ずらされて配列されるマスターシリンダー用ピストン。
【請求項8】
前記複数の連通口の中心線は、前記ピストンの長さ方向に対して垂直である、請求項6又は7に記載のマスターシリンダー用ピストン。
【請求項9】
前記複数の連通口は、中心線が前記ピストンの長さ方向に対して垂直な連通口と、半径方向外側に行くほど前記ピストンの後方に向って傾くように中心線が前記ピストンの長さ方向に対して傾いた連通口とを含む、請求項6又は7に記載のマスターシリンダー用ピストン。
【請求項10】
マスターシリンダーのシリンダーハウジング内に設置されるピストンであって、
内側と外側を連通するように形成される複数の連通口を含み、
前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に形成され、
前記複数の連通口は、中心線が前記ピストンの長さ方向に対して垂直な連通口と、半径方向外側に行くほど前記ピストンの後方に向って傾くように中心線が前記ピストンの長さ方向に対して傾いた連通口とを含むマスターシリンダー用ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のマスターシリンダー用ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
マスターシリンダーは、油圧式ブレーキシステムで油圧を発生させる装置である。
【0003】
マスターシリンダーは、シリンダーハウジングと、このシリンダーハウジング内で移動可能に設置されるピストンとを含む。そして、シリンダーハウジングの内面に設置されるシーリング部材が備えられ、ピストンには連通口が形成される。シーリング部材は、カップ形態の断面構造を有するため、カップシール(cup seal)とも呼ばれる。
【0004】
シリンダーハウジングとピストンは、ピストンが前進する側に流体圧力を形成する圧力室を形成し、シリンダーハウジングとピストンの外周面との間には、リザーバ(reservoir)と連通する流体供給室が形成される。シーリング部材は、流体供給室と圧力室を区画する。
【0005】
しかし、ピストンの移動時にシーリング部材の形態が変形するが、ピストンの移動時にシーリング部材が元の形態に復帰されない場合、オイル経路を遮断して無意味な後退動作および残圧発生の問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の問題を解決するために導き出されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、ピストンの無意味な後退動作および制動解除の遅延を最小化することができるマスターシリンダー用ピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るマスターシリンダーは、シリンダーハウジングと、圧力室と流体供給室を形成するように前記シリンダーハウジングに移動可能に設置されるピストンと、前記シリンダーハウジングと前記ピストンとの間に介されるシーリング部材と、を含む。前記ピストンは、前記圧力室と前記流体供給室を連結するための複数の連通口を含み、前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に形成される。
【0008】
前記複数の連通口は、前記複数の連通口のうちの前記ピストンの最も前方に配置される連通口を中心に前記ピストンの後方に移動してから再び前方に移動するように配列されてもよい。
【0009】
前記複数の連通口は、前記複数の連通口のうちの前記ピストンの最も前方に配置される連通口から前記ピストンの後方に移動するように配列されて前記ピストンの最も前方に位置する連通口と最も後方に位置する連通口とが一定距離を離隔した状態で隣接するように配列されてもよい。
【0010】
前記複数の連通口の中心線は、前記ピストンの長さ方向に対して垂直であってもよい。
【0011】
前記複数の連通口は、中心線が前記ピストンの長さ方向に対して垂直な連通口と、半径方向外側に行くほど前記ピストンの後方に向かうように傾くように中心線が前記ピストンの長さ方向に対して傾いた連通口とを含むことができる。
【0012】
本発明の実施形態に係るマスターシリンダーのシリンダーハウジング内に設置されるピストンは、内側と外側を連通するように形成される複数の連通口を含む。前記複数の連通口は、前記ピストンの外周面に備えられる傾斜面に形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ピストンの後退時に圧力室の流体が効果的に排出されて制動解除の遅延を最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るマスターシリンダーの断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るマスターシリンダーの部分拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るマスターシリンダー用ピストンの斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るマスターシリンダー用ピストンを示す図面である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係るマスターシリンダー用ピストンを示す図面である。
【
図6】本発明のまた他の実施形態に係るマスターシリンダー用ピストンを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1を参照すると、マスターシリンダーは、シリンダーハウジング10と、その内部に前方および後方に移動可能に設置される第1および第2ピストン20、30とを含む。具体的に、シリンダーハウジング10には長さ方向に伸びるボア11が形成され、第1および第2ピストン20、30がボア11に移動可能に設置される。一方、図面には示されていないが、マスターシリンダーは外部の流体リザーバ(図示せず)に連結されてオイルの供給を受けることができる。
【0017】
第1ピストン20は、第1復原スプリング21により第2ピストン30に弾性的に支持され、第2ピストン30は、第2復原スプリング31によりシリンダーハウジング10に弾性的に支持される。
【0018】
第1圧力室22が第1ピストン20と第2ピストン30との間に形成され、第2圧力室32が第2ピストン30とシリンダーハウジング10の先端壁との間に形成される。第1および第2圧力室22、32で加圧された流体(例えば、オイル)は、それぞれ流体排出通路(図示せず)を通じてブレーキ駆動シリンダーに供給され得る。
【0019】
流体供給室23、33が第1および第2ピストン20、30の外周面とシリンダーハウジング10の内周面との間にそれぞれ形成される。流体供給室23、33は、流体通路(図示せず)を通じて流体リザーバにそれぞれ連結される。そのため、流体リザーバの流体が流体通路を通じて流体供給室に供給される。
【0020】
第1および第2シーリング部材40、50は、第1および第2ピストン20、30とシリンダーハウジング10の内周面との間に介される。例えば、第1および第2シーリング部材40、50は、シリンダーハウジング10の内周面に形成されたグルーブに設置され得る。第1および第2シーリング部材40、50は、シリンダーハウジング10の内周面と第1および第2ピストン20、30の外周面にそれぞれ接触して流体供給室23、33と圧力室22、32とを区画する。一方、
図3を参照すると、第1および第2ピストン20、30には複数の連通口25、35がそれぞれ形成される。連通口25、35は、第1および第2ピストン20、30の内周面から外周面まで伸びる貫通孔で形成され得る。
【0021】
連通口25、35とシーリング部材40、50の相対位置に応じて圧力室22、32と流体供給室23、33とが選択的に連通される。つまり、第1および第2ピストン20、30が前方に移動して連通口25、35がシーリング部材40、50の前方に位置する場合(つまり、ブレーキ作動状態)、圧力室22、32と流体供給室23、33とはシーリング部材40、50のシーリング作用により互いに遮断され、第1および第2ピストン20、30が後方に移動して連通口25、35がシーリング部材40、50の後方に位置する場合(つまり、ブレーキ解除状態)、圧力室22、32と流体供給室23、33とは互いに連通される。
【0022】
図4を参照して本発明の一実施形態に係るマスターシリンダー用ピストンについて説明する。
【0023】
ピストン20、30は、複数の連通口25、35を備え、複数の連通口25、35は、ピストン20、30の円周方向に沿って配列される。この時、
図4を参照すると、複数の連通口25、35がピストン20、30の長さ方向(
図3で横方向)に沿って同一の位置に置かれるように配列されるのではなく、異なる位置を有するように配列され、円周方向に配列される複数の連通口25、35がピストン20、30の前方から始まって後方に漸次に移動してから再び前方に移動するように配列される。つまり、ピストン20、30の一側では、
図4に示すように、複数の連通口25、35が上から下に行くほど後方に漸次に移動するように配列されて複数の連通口25、35の中心を連結した線CLとピストン20、30の長さ方向に対して垂直な線PLとが互いに一致するのではなく、任意の角Aをなすように傾いており、他の一側ではこれとは反対に複数の連通口25、35が下から上へ行くほど順次に前方に移動するように配列される。
【0024】
この時、
図4の点線内部の拡大された図面に示すように、複数の連通口25、35は、ピストン20、30の傾斜面26、36上に配置され得る。この時、ピストン20、30の最も前方に位置する連通口の中心線が傾斜面26、36の始点に位置することができる。
【0025】
図5を参照して本発明の他の実施形態に係るマスターシリンダー用ピストンについて説明する。
【0026】
本実施形態は、複数の連通口25、35の配列は
図3と同一であるが、連通口25、35は、中心線がピストン20、30の長さ方向に対して垂直な連通口25a、35aと、中心線がピストン20、30の長さ方向に対して垂直な線に傾いた連通口25b、35bとを含む。つまり、連通口25b、35bは、半径方向外側に行くほどピストン20、30の後方に向かうように傾いて形成され得る。
【0027】
図6を参照して本発明のまた他の実施形態に係るマスターシリンダー用ピストンについて説明する。
【0028】
ピストン20、30は、複数の連通口25、35を備え、複数の連通口25、35は、ピストン20、30の円周方向に沿って配列される。この時、
図6を参照すると、複数の連通口25、35がピストン20、30の長さ方向(
図3で横方向)に沿って同一の位置に置かれるように配列されるのではなく、異なる位置を有するように配列され、円周方向に配列される複数の連通口25、35がピストン20、30の前方から始まって後方に漸次に移動するように配列される。そのため、
図6の点線円内に示すように、ピストン20、30の上部からみると、ピストン20、30の最も前方に位置する連通口と最も後方に位置する連通口とがピストン20、30の長さ方向に一定距離を離隔した状態で互いに隣接して配置される。
【0029】
この時、
図6の点線内部の拡大された図面に示すように、複数の連通口25、35は、ピストン20、30の傾斜面26、36上に配置され得る。この時、ピストン20、30の最も前方に位置する連通口の中心線が傾斜面26、36の始点に位置することができる。
【0030】
以上で本発明の実施形態を説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されず、本発明の実施形態から本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者により容易に変更されて均等なものと認められる範囲のすべての変更および修正を含む。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、車両のマスターシリンダー用ピストンに関し、車両部品に適用可能である産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0032】
10…シリンダーハウジング
11…ボア
20、30…第1、第2ピストン
21、31…第1、第2復原スプリング
22、32…第1、第2圧力室
23、33…第1、第2流体供給室
40、50…第1、第2シーリング部材
25、35、25a、35a、25b、35b…連通口
26、36…傾斜面