(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347891
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】液状医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/44 20060101AFI20180618BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20180618BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20180618BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20180618BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P1/10
A61K9/08
A61K47/12
A61K47/02
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-500775(P2017-500775)
(86)(22)【出願日】2014年6月23日
(65)【公表番号】特表2017-508815(P2017-508815A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】KR2014005512
(87)【国際公開番号】WO2015141897
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0032242
(32)【優先日】2014年3月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】507372198
【氏名又は名称】フエリング・インターナシヨナル・センター・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ナン,ボン ジル
(72)【発明者】
【氏名】リ,ビェウン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジン,シュンジ
【審査官】
石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国登録特許第10−1155099(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウム、クエン酸およびリンゴ酸を含み、かつ、pHが4.1〜5.4の範囲である、液状医薬組成物。
【請求項2】
結腸洗浄に使用される、請求項1に記載の液状医薬組成物。
【請求項3】
前記液状医薬組成物の1回量が50ml〜500mlの範囲である、請求項1に記載の液状医薬組成物。
【請求項4】
さらに賦形剤および精製水を含む、請求項1に記載の液状医薬組成物。
【請求項5】
前記賦形剤が、pH調整剤、安定剤、保存剤、甘味剤および香料成分からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項4に記載の液状医薬組成物。
【請求項6】
前記pH調整剤がアルカリ化剤である、請求項5に記載の液状医薬組成物。
【請求項7】
前記アルカリ化剤が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、アンモニア水、クエン酸カリウム、トリエタノールアミンおよびクエン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つのアルカリ化剤である、請求項6に記載の液状医薬組成物。
【請求項8】
前記ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウム、クエン酸およびリンゴ酸が、重量比0.003〜0.009:1〜3:3.5〜10.5:0.01〜13(ピコスルファートナトリウム:酸化マグネシウム:クエン酸:リンゴ酸)を有する、請求項1に記載の液状医薬組成物。
【請求項9】
前記液状組成物を25℃で24カ月間放置した場合に、4−[(ピリジン−2−イル)(4−ヒドロキシフェニル)メチル]フェニル硫酸ナトリウムが2.0wt%以下で生成し、沈殿が発生しないかまたは5.0vol%以下で発生するものである、請求項1に記載の液状医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状医薬組成物に関し、より詳細には、ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウム、クエン酸およびリンゴ酸を含む物理的および化学的に安定な液状医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クエン酸、酸化マグネシウムおよびピコスルファートナトリウムを含む医薬品は、手術、結腸内視鏡検査または結腸X線検査時に前処置用の下剤として使用されており、ピコライトパウダー(Picolight powder)という名称で現在市販されている。この医薬品は、経口服用するときに水に溶解させて使用される白色粉末である。
【0003】
散剤の剤形の医薬品は、適量の水に1包を溶解させて服用すべきである。しかしながら、患者によっては、医薬品を水に溶解させるときに不便に感じることがあり、適切な使用方法を認識していない一部の患者は、散剤を口に入れた後に水を飲むことがある。この場合、散剤を水に溶解させると発熱反応が生じ、患者の口を火傷させるおそれがある。
【0004】
したがって、散剤の形態の医薬品は、服用前に事前に水に溶解させて冷蔵庫または別の保管場所内で保存することがある。しかしながら、この場合、主成分であるクエン酸および酸化マグネシウムは、互いに反応してクエン酸マグネシウムになることがあり、反応後に残存する酸化マグネシウムが、徐々にクエン酸マグネシウムの沈殿を促進して底に沈み得る。したがって、医薬品を服用時に水で十分に希釈しないと、沈殿した量は服用できないため、適正な効果が得られない。医薬品のpHを低く保つと、沈殿の量は減少する傾向にある。しかしながら、この場合、ピコスルファートナトリウムが不安定になるという問題が発生する。
【0005】
したがって、上記の問題を解決するために、物理的および化学的に安定な液状医薬組成物が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を考慮して、本発明は、ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウムおよびクエン酸を含む物理的および化学的に安定な液状医薬組成物を提供する。
【0007】
しかしながら、本発明の目的は、本明細書に記載のものに限定されるものではない。本発明の上記のおよびその他の目的は、以下に示す本発明の詳細な説明を参照することにより、本発明に関する当業者にとって、より明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウム、クエン酸およびリンゴ酸を含む液状医薬組成物を提供する。
【0009】
液状医薬組成物は、手術、結腸内視鏡検査または結腸X線検査時の前処置用下剤として、結腸洗浄に使用してもよい。
【0010】
液体組成物の1回量は、有効成分の含有量によって異なる場合があるが、非限定例として50ml〜500mlの範囲であってよい。代表的実施形態において、液体組成物の1回量は100ml〜300mlの範囲または150ml〜200mlの範囲であってよいが、これらに限定されるものではない。
【0011】
散剤の形態の医薬品を服用するときに、散剤を水に溶解させる不便を解消するために、剤形を散剤から液剤へ変更することを目的としている。しかしながら、本発明は、保存時に物理的および化学的に安定である液状医薬組成物を提供する。
【0012】
一例として、液状医薬組成物において、24カ月間での各成分の含有量の変化は、各成分の重量に対して±5.0wt%以内であってよく、ピコスルファートナトリウムの不純物A(4−[(ピリジン−2−イル)(4−ヒドロキシフェニル)メチル]フェニル硫酸ナトリウム)を2.0wt%以下で生成してもよい。更に、沈殿が発生しなくてもよく、または沈殿が5.0vol%以下で発生してもよい。
【0013】
本発明の発明者らによる実験によれば、リンゴ酸以外の有機酸または無機酸を使用する場合、上記の安定性を期待することは困難である。リンゴ酸は、l−リンゴ酸およびd−リンゴ酸のどちらも含んでよい。
【0014】
上記の安定性を得るために、好ましい一例として、液状医薬製剤のpHが4.1〜5.4の範囲であってよい。
【0015】
本発明の発明者らによる実験によれば、そのpH範囲において優れた安定性を示すことが確認されている。液状医薬組成物のpHが4.1未満である場合、ピコスルファートナトリウムの不純物Aが増加し、患者が本医薬品を服用すると強い酸味を不快に感じることがあるため、好ましくない。他方では、液状医薬組成物のpHが5.4より大きい場合、沈殿の原因となる酸化マグネシウムを溶解させるのが困難であるため、好ましくない。
【0016】
本発明の液状医薬組成物は、様々な賦形剤および精製水を含んでよい。精製水は、液剤の形態の医薬品を調製するために使用され、賦形剤は、味を良好にして服薬遵守を向上させるため、および液状医薬組成物の安定性のために使用してよい。
【0017】
例えば、賦形剤は、pH調整剤、安定剤、保存剤、甘味剤および香料成分を含んでよいが、これらに限定されるものではない。
【0018】
pH調整剤は、アルカリ化剤であってよい。アルカリ化剤の場合、リンゴ酸によってpHの低下を調整することができる。
【0019】
アルカリ化剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、アンモニア水、クエン酸カリウム、トリエタノールアミンおよびクエン酸ナトリウム等を使用してよいが、これらに限定されるものではない。代表的実施形態において、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、クエン酸ナトリウム等を使用してよいが、これらに限定されるものではない。
【0020】
ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウム、クエン酸およびリンゴ酸は、重量比0.003〜0.009:1〜3:3.5〜10.5:0.01〜13(ピコスルファートナトリウム:酸化マグネシウム:クエン酸:リンゴ酸)を有してよい。
【0021】
本発明の液状医薬組成物の代表的な調製方法を以下に記載する。
【0022】
この方法は、クエン酸および酸化マグネシウムを秤量して混合物を調製するステップ、リンゴ酸およびpH調整剤を調製した混合物と混合するステップ、ピコスルファートナトリウムを混合物と混合するステップ、ならびに混合物に精製水を添加するステップを含んでよい。
【0023】
秤量は、使用する各成分を秤量して別個に調製するステップもまた含んでよい。
【0024】
一例として、精製水を添加する前に、甘味剤、香料成分、またはそれらの混合物を混合物または滅菌混合物に添加してよい。甘味剤および/または香料成分は、味を良好にして服薬遵守を向上させるために使用してよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施形態は、少なくとも以下の効果を提供する。
【0026】
ピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウム、クエン酸およびリンゴ酸を含む液状医薬組成物を提供することによって、服薬遵守および利便性ならびに保存および輸送の容易さの向上が可能である。
【0027】
本発明の効果は、上述した効果に限定されるものではなく、本明細書に記載されていないその他の効果は、以下の説明から当業者には明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施形態による液状医薬組成物の製造方法を示すプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、様々に変更され、いくつかの実施形態を含み得るが、図中に示す特定の実施形態は、発明を実施するための形態において詳細に記載される。しかしながら、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではないことを理解すべきであり、様々な変更、等価および置換が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく行われ得る。
【0030】
<実施形態1>
重量比75の精製水に、ピコスルファートナトリウム:酸化マグネシウム:クエン酸:dl−リンゴ酸を重量比0.005:1.75:6:4.19、保存剤として安息香酸ナトリウムを重量比0.043、安定剤としてエデト酸二ナトリウム水和物を重量比0.035、pH調整剤として水酸化ナトリウムを重量比2.1、甘味剤としてアセスルファムカリウムを重量比0.1、およびスクラロースを重量比0.1、ならびにオレンジフレーバーの香料成分を重量比0.043で溶解させることによって、液状医薬組成物を調製した。
【0031】
<比較例1>
ピコスルファートナトリウム:酸化マグネシウム:クエン酸を重量比0.005:1.75:6:4.19、賦形剤として重炭酸ナトリウムを重量比0.21、甘味剤として十分量のアセスルファムカリウム、および十分量のオレンジフレーバーを有する香料成分を含めることよって、粉末組成物を調製した。
【0032】
<実験例1>
実施形態1の液体組成物を水150mlに溶解させることによって得た溶液の主成分であるピコスルファートナトリウム、酸化マグネシウムおよびクエン酸の含有量を、比較例1の粉末組成物を水150mlに溶解させることによって得た溶液の含有量と比較した。含有量の比較方法は、英国薬局方2004の経口液剤用ピコスルファートナトリウム粉末化合物(British Pharmacopoeia 2004 Compound sodium Picosulfate Powder for Oral Solution)に準ずる実験方法であり、高速液体クロマトグラフィーによって測定がなされた。結果を下表1に示す。
【0034】
実験結果として、実施形態1と比較例1の主成分の含有量間に実質的な違いがないことが、表1からわかる。したがって、粉末組成物と液体組成物は、どちらも結腸洗浄剤として同じ効果を有すると考えられる。
【0035】
<実験例2>
重量比75の精製水に、ピコスルファートナトリウム:酸化マグネシウム:クエン酸を重量比0.005:1.75:6:4.19で溶解させて、可溶化剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリソルベート20、ポリソルベート60およびポリソルベート80のそれぞれを全液重量に対して5.0wt%で添加することによって、液体組成物を調製した。液体組成物を室温条件(25℃、60%)下で放置して沈殿が発生するか調べ、試料容器の底部に5.0vol%の沈殿が発生した時点(日)を測定した。結果を下表2に示す。
【0037】
表2からわかるように、可溶化剤を適用する結果として沈殿物が5.0vol%以上形成され、可溶化剤は沈殿防止に寄与しないことを確認できる。
【0038】
<実験例3>
重量比75の精製水に、ピコスルファートナトリウム:酸化マグネシウム:クエン酸を重量比0.005:1.75:6:4.19で溶解し、有機酸としてクエン酸、dl−リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、フマル酸、乳酸、クエン酸ナトリウム、アスパラギン酸、コハク酸、グルタミン酸、塩酸、リン酸、硫酸および酢酸のそれぞれを重量比4.19で使用し、pH調整剤として水酸化ナトリウムを各pHについて重量比2.1で添加することによって、液体組成物を調製した。液体組成物を室温条件(25℃、60%)下で24カ月間放置し、沈殿が発生するか調べた。試料容器の底部に5.0vol%の沈殿が発生した時点(日)を測定し、下表3に示した。24カ月後、生成したピコスルファートナトリウムの不純物の含有量を測定し、下表4に示した。
【0040】
表3からわかるように、リンゴ酸以外の有機酸の全ての場合において、24カ月以内に沈殿が発生することが確認できる。
【0042】
表4からわかるように、リンゴ酸を含む場合、ピコスルファートナトリウムの不純物A(4−[(ピリジン−2−イル)(4−ヒドロキシフェニル)メチル]フェニル硫酸ナトリウム)は、上述のpH範囲において2.0wt%以下で生成することが確認された。
【0043】
以下、本発明の実施形態は、添付の図面に関して記載する。
【0044】
図1は、本発明の実施形態による液状医薬組成物の調製方法を示すプロセスフロー図である。
【0045】
液状医薬組成物の調製方法は、クエン酸および酸化マグネシウムを秤量して混合物を調製するステップ(S110)、リンゴ酸および水酸化ナトリウムをステップS110において調製した混合物と混合するステップ(S120)、ピコスルファートナトリウムをステップS120において調製した混合物と混合するステップ(S130)、ならびにステップS130の混合物に精製水を添加するステップ(S140)を含んでよい。
【0046】
ステップS110において、pH調整剤、安定剤、甘味剤等を混合物に添加してよい。
【0047】
場合によっては、ステップS110およびステップS120は同時に実施してもよく、また、ステップS110、S120およびS130は同時に実施してもよい。更に、ステップS110、S120およびS130は言及した順序で示されているが、順序はこれらに限定されるものではない。
【0048】
本発明の実施形態を例示目的で開示したが、当業者は、添付の特許請求の範囲に開示されている本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な変更、追加および置換が可能であることを理解するであろう。
【符号の説明】
【0049】
S110 クエン酸および酸化マグネシウムを秤量して混合物を調製する
S120 リンゴ酸およびアルカリ化剤を混合物と混合する
S130 ピコスルファートナトリウムを混合物と混合する
S140 混合物に精製水を添加する