(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
癌を患う被験体の体腔に投与することによる転移形成及び/又は再発の予防に使用される、イコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプン(HAS)とを含む薬学的に許容可能な溶液であって、前記イコデキストリンが1%〜7.5%(w/v)の濃度で存在し、前記HASが1%〜15%(w/v)の濃度で存在する、薬学的に許容可能な溶液。
前記イコデキストリンが3%〜5%(w/v)の濃度で存在し、及び/又は前記HASが7.5%〜12.5%(w/v)の濃度で存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用のための薬学的に許容可能な溶液。
癌を患う被験体の体腔に投与することによる転移形成及び/又は再発の予防に使用される、1%〜20%(w/v)の範囲の総濃度でイコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとを含む薬学的に許容可能な溶液であって、前記イコデキストリンと前記ヒドロキシアルキルデンプンとの重量比が0.05:1〜5:1の範囲である、薬学的に許容可能な溶液。
イコデキストリン及びヒドロキシアルキルデンプンの総濃度が14%±1%(w/v)の範囲であり、前記イコデキストリンと前記ヒドロキシアルキルデンプンとの重量比が0.3:1〜0.5:1の範囲である、請求項14に記載の使用のための薬学的に許容可能な溶液。
薬学的に許容可能な溶液が3%〜5%(w/v)の濃度のイコデキストリンと、5%〜12.5%(w/v)の濃度のヒドロキシアルキルデンプン(HAS)とを含む、請求項16に記載の溶液。
【背景技術】
【0002】
デンプンに由来する多糖は薬剤中に、例えば血漿置換における増量剤としてだけでなく、臨床血液透析においても使用されている(非特許文献1、非特許文献2)。多くの場合、特定の形態のヒドロキシアルキル化デンプン(HAS)、特にヒドロキシエチル化デンプン(HES)がこの目的で使用される。しかしながら、以下のものを含む、更に可能性のある多糖の医学的用途がここ何年かで記載されている。
【0003】
ベータ(β)−グルカンは、特に癌治療(非特許文献3、特許文献1)及びマウス肉腫モデル(特許文献2)における汎用免疫刺激剤としての経口及び静脈内適用について研究されている。β−グルカンは例えば癌細胞に対して直接的な細胞毒性効果を有しないが、免疫刺激効果を有することが見出されている(非特許文献4、特許文献3)。
【0004】
アミロース等のアルファ(α)−グルカンは、それらの抗新生物効果については知られていない。しかしながら、ヒドロキシアルキル化デンプンが静脈内投与した場合に腫瘍成長を低減する効果を有することが近年見出されている(特許文献4、特許文献5)。
【0005】
特許文献6は、内耳の高圧酸素療法及び様々な他の病態へのヒドロキシアルキルデンプンの使用を記載している。高圧治療を受けている患者へのイチョウ(ginkgo biloba)の抽出物を含むHES溶液の投与が唯一の例として記載されている。しかしながら、かかる治療の治療効果は指摘されていない。
【0006】
医薬活性化合物の担体としてのポリグルカンを含む溶液の使用も幾つか開示されている。特許文献7は、毛細管内皮結合からの血清タンパク質の漏出を予防するHESの使用を教示しており、悪性腫瘍を予防する目的でウイルス及び細菌感染を治療するためのHESとインターロイキン−2とを含む溶液の使用を提案している。Mohamed et al.は腹腔内化学療法の担体としての等張高分子量溶液の利点を記載し(非特許文献5)、概説している(非特許文献6)。また、イコデキストリンがマウスモデルにおける腹腔内アデノウイルス腫瘍治療に使用される担体溶液の構成要素として記載されており、その溶液はPBSと比較して全生存を改善した(非特許文献7)。
【0007】
さらに、ヒドロキシアルキル化デンプンを含むポリグルカンが術後癒着形成の低減のために提案されている。例えば、非特許文献8、非特許文献9、特許文献8及び非特許文献10を参照されたい。後者の文献では、腹腔内に導入された病変における腫瘍細胞の着床を予防するためのイコデキストリン溶液の使用も調べられている。対照(NaCl溶液)と比較して顕著な効果は見出されなかった。
【0008】
癌は、特に先進国において依然として主な死亡原因の1つである。したがって、癌の治療及び予防の改善が依然として多くの研究プロジェクトの焦点となっている。ここ何年かで原発性癌の治療のための方法が考案されており、これらは大抵の場合、少なくとも最初のうちは効果的であるが、外科的介入を伴うことが多い。しかしながら、癌の種類に応じて、癌の再成長(再発)及び/又は癌細胞の身体の他の部位への広がり(転移)のリスクがある。したがって、5年生存率は例えば粘膜内乳癌の100%から卵巣癌の25%、更には6%と低い膵癌の生存率まで様々である。このため、近年、多くの研究の主要な焦点は原発性癌の治療又は少なくとも目に見える腫瘍の治療から転移及び再発の予防及び治療へと移っている。これらのテーマは体腔、特に腹腔の癌について特に求められているようである。腹腔内で成長する癌は或る特定のサイズに達した場合に初めて症状を引き起こし、したがって多くの場合、除去されるまで長時間にわたって身体内に留まる。結果として、腫瘍から腫瘍細胞が分離し、転移を起こすリスクがこれらの腫瘍において非常に増大している。この影響が、かかる癌であると診断された患者の最悪の予後の一因となることが多い。
【0009】
癌を治療する「外科的介入」の一例は、腹膜中皮腫患者の外科的処置である腹膜切除(peritonectomy)である。腹膜腔は腹腔の内側を覆う膜と腹部の臓器を取り囲む膜との間の空間である。この手術の目的は腹腔の内膜の癌部を除去することである。腹膜切除中に、腹部の複数の部位から可能な限り多くの癌性成長を除去することを目的とする細胞減少手術(cytoreductive surgery:腫瘍縮小手術)を行ってもよい。細胞切除(cytoreduction)としても知られるこの処置は、10時間〜12時間にわたる可能性がある複雑な処置である。更には腸、胆嚢、肝臓、膵臓、脾臓及び胃を含む近接した臓器の一部の除去を伴う場合もある。
【0010】
外科的介入は腫瘍を除去することを目的とするが、目に見える癌性細胞までに限られる。したがって、かかる手術(例えば細胞減少手術)は肉眼で見えない癌性細胞により良好に侵入するために他の付加的な治療を伴う場合がある。
【0011】
例えば、抗新生物活性及び/又は細胞毒性活性を有する化学療法剤の投与として理解される化学療法が、癌細胞と直接接触させるために腹腔内で行われる場合があり、これは手術中に開始され、90分間〜約2週間にわたる。この併用治療では、化学療法は細胞切除から取り残された任意の癌細胞を殺すことを目的とする。温熱腹腔内化学療法(HIPEC)は腹部の内膜に広がった様々な消化管癌、腹膜中皮腫及び卵巣癌を治療するために手術と組み合わせて用いることができる別の技法である。
【0012】
細胞減少(減量)手術とHIPECとの組合せは、任意の目に見える腫瘍又は癌を外科的に除去した後、加熱化学療法薬を患部へと送達する2工程のプロセスである。第2の段階中に、患者は残存し得る任意の癌細胞を処理するために腹腔全体を加熱化学療法薬におよそ90分間浸す一連のカテーテル及びポンプデバイスに接続される。
【0013】
この方法の欠点は、装置の取扱いに細心の注意を払う必要があり、医療従事者が使用される細胞毒性薬と接触する高いリスクをはらんでいるということである。また、腹部を浸すために使用される全ての装置は、化学療法に使用される細胞毒性薬と接触しているために毒性又は有害廃棄物として処理し、廃棄しなければならない。
【0014】
非特許文献11では、マウスにおいて腫瘍細胞着床を予防するための45℃の温熱腹腔洗浄液の使用を試験している。著者らは術後にマウスの腹部を45℃の低張水、続いて45℃の生理食塩水、次いで同様に45℃のデキストラン40を含有する高張液で洗浄することが有利であり得ると結論付けている。しかしながら、これらの結果は、45℃での処理が患者の正常組織細胞にとって有害であり得ることから、臨床業務へと容易に移行することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
腫瘍の転移及び再発を予防する組成物及び方法、特に抗新生物化学療法剤若しくは細胞毒性化学療法剤に伴う重大な副作用による被験体へのストレス、又は高温に加熱された溶液ですすぐことにより正常組織を損傷するリスクなしに投与することができる組成物及び方法を提供する必要がある。技術的問題点は、特許請求の範囲において特徴付けられる下記の実施の形態により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明はイコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプン(HAS)とを含む溶液であって、イコデキストリンが1%〜7.5%(w/v)の濃度で存在し、HASが1%〜15%(w/v)の濃度で存在する、溶液に関する。好ましい溶液は3%〜5%(w/v)のイコデキストリンと、7.5%〜12.5%(w/v)のHESとを含む。本明細書に述べられる範囲は包括的なものである。例えば、1%〜7.5%(w/v)のイコデキストリンを含む溶液は1%のイコデキストリン、7.5%のイコデキストリン、又は1%(w/v)と7.5%(w/v)との間の任意の範囲若しくは量を含んでいてもよい。さらに、提示される量はいずれも「約」という用語で修飾される場合がある。例えば、本発明の溶液は約1%〜約7.5%(w/v)のイコデキストリンと、約1%〜約15%のHASとを含み得る。
【0019】
例としては、限定されるものではないが、以下の好ましい実施の形態が本発明の範囲内に含まれる。
実施の形態1:イコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプン(HAS)とを含む溶液であって、イコデキストリンが1%〜7.5%(w/v)の濃度で存在し、HASが1%〜15%(w/v)の濃度で存在する、溶液。
実施の形態2:HASがヒドロキシエチルデンプン(HES)である、実施の形態1の溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態3:HAS、好ましくはHESが0.1〜3、好ましくは0.2〜1.3、より好ましくは0.3〜0.7の範囲のモル置換(MS)値を有する、実施の形態1又は2の溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態4:HAS、好ましくはHESが5kDa〜700kDa、好ましくは10kDa〜300kDa、より好ましくは70kDa〜150kDaの平均分子量(Mw)を有する、実施の形態1〜3のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態5:イコデキストリンが5kDa〜30kDa、好ましくは10kDa〜20kDa、より好ましくは13kDa〜16kDaの平均分子量(Mw)を有する、実施の形態1〜4のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態6:イコデキストリンが2%〜5%(w/v)の濃度で存在し、及び/又はHASが5%〜12.5%(w/v)の濃度で存在する、実施の形態1〜5のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態7:イコデキストリンが3%〜5%(w/v)の濃度で存在し、HASが7.5%〜12.5%(w/v)の濃度で存在する、実施の形態1〜6のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態8:イコデキストリンが4%±1%(w/v)の濃度で存在し、HASが10%±1%(w/v)の濃度で存在する、実施の形態1〜7のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態9:イコデキストリンが4%±0.5%(w/v)の濃度で存在し、HASが10%±0.5%(w/v)の濃度で存在する、実施の形態1〜8のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態10:イコデキストリン及びHASの総濃度が最大でも20%(w/v)、好ましくは最大でも15%である、実施の形態1〜9のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態11:イコデキストリン及びHASの総濃度が5%〜20%(w/v)、好ましくは7%〜15%(w/v)である、実施の形態1〜10のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態12:溶液が少なくとも0.8%(w/v)の濃度の塩(単数又は複数)、好ましくはNaClを付加的に含む、実施の形態1〜11のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態13:溶液が薬学的に許容可能な溶液である、実施の形態1〜12のいずれか1つの溶液を含む本発明の組成物。
実施の形態14:癌の転移の形成又は再発を予防する薬剤として、又は薬剤の調製に使用される、本明細書に記載される薬学的に許容可能な溶液(例えば、実施の形態13の溶液)。
実施の形態15:癌を患う被験体の体腔に投与することによる転移形成及び/又は再発の予防に使用される、本明細書に記載される薬学的に許容可能な溶液(例えば、実施の形態13の薬学的に許容可能な溶液)。
実施の形態16:癌が卵巣癌、卵巣癌腫、胃癌、肺癌、膵癌、膀胱癌、肝癌、大腸癌又は乳癌である、本明細書に記載される、例えば実施の形態15の使用のための薬学的に許容可能な溶液。癌が結腸癌であるのが好ましい。
実施の形態17:被験体の体腔、好ましくは腹腔における癌の転移及び/又は再発を予防する、本明細書に記載される、例えば実施の形態15又は16の使用のための薬学的に許容可能な溶液。
実施の形態18:溶液が術後投与、術中投与及び/又は術前投与のためのものである(又は治療方法において術後、術中若しくは術前に投与される)、本明細書に記載される、例えば実施の形態15〜17のいずれか1つの使用のための薬学的に許容可能な溶液。
実施の形態19:癌治療、好ましくは転移形成及び/又は癌の再発の予防における本明細書に記載される溶液、例えば実施の形態1〜13の溶液の使用。
実施の形態20:予め秤量した量の(別個に又は一緒にパッケージ化される)イコデキストリン及びHASと、それらを溶解する薬学的に許容可能な手段(例えば担体)とを含むキット、又は例えば本明細書に記載されるイコデキストリンとHASとを含む溶液を含むキット。
実施の形態21:本明細書に記載される、例えば実施の形態13による薬学的に許容可能な溶液と、それを投与する手段とを含むデバイス。
実施の形態22:癌を患う被験体において転移形成を予防する医薬組成物の製造のためのイコデキストリン及びHASの使用。
実施の形態23:医薬組成物が薬学的に許容可能な溶液、好ましくは実施の形態13による薬学的に許容可能な溶液である、本明細書に記載される、例えば実施の形態22の使用のイコデキストリン及びHASの使用。
実施の形態24:癌を患う被験体において転移形成及び/又は再発を予防する方法であって、被験体の体腔に1%〜7.5%(w/v)の濃度のイコデキストリンと、1%〜15%(w/v)の濃度のヒドロキシアルキルデンプン(HAS)とを含む薬学的に許容可能な溶液を投与することを含む、方法。溶液を被験体において転移形成及び/又は再発を予防するのに効果的な時間及び量で投与する。
実施の形態25:被験体における転移形成及び/又は再発の予防が被験体の体腔における転移形成及び/又は再発の予防である、実施の形態24の方法。薬学的に許容可能な溶液は体腔に投与することができ、及び/又は体腔における癌の転移形成及び/又は再発を予防することができる。
実施の形態26:1%〜20%(w/v)の範囲の総濃度でイコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとを含む薬学的に許容可能な溶液であって、イコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとの重量比が0.05:1〜5:1の範囲である、薬学的に許容可能な溶液。溶液は、癌を患う被験体の体腔に投与することによって転移形成及び/又は再発の予防に使用することができる。
実施の形態27:イコデキストリン及びヒドロキシアルキルデンプンの総濃度が2%〜18%(w/v)の範囲、好ましくは5%〜16%(w/v)の範囲、より好ましくは7.5%〜15%(w/v)の範囲である、本明細書に記載される薬学的に許容可能な溶液、例えば実施の形態26の溶液。
実施の形態28:イコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとの重量比が0.1:1〜4:1の範囲、好ましくは0.2:1〜3:1の範囲、より好ましくは0.3:1〜2:1の範囲である、例えば実施の形態26又は27の使用のための薬学的に許容可能な溶液。
実施の形態29:イコデキストリン及びヒドロキシアルキルデンプンの総濃度が14%±1%(w/v)の範囲であり、イコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとの重量比が0.3:1〜0.5:1の範囲である、実施の形態26〜28のいずれか1つの使用のための薬学的に許容可能な溶液。
【0020】
本明細書で使用される場合、「有する」、「含む」("comprise" or "include")又はそのあらゆる任意の文法的変化形は非排他的に使用される。このため、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴以外に記載の実体中に更なる特徴が存在しない状況、並びに1つ以上の更なる特徴が存在する状況を指す場合がある。一例としては、「AはBを有する」、「AはBを含む」("A comprises B" and "A includes B")という表現は、B以外に他の要素がA中に存在しない状況(すなわち、Aが排他的にB単独からなる状況)、並びにB以外に1つ以上の更なる要素、例えば要素C、要素C及びD、又はまた更なる要素が実体A中に存在する状況を指す場合がある。
【0021】
さらに、以下で使用される場合、「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「特に」、「より特に」、「具体的に」、「より具体的に」という用語又は同様の用語は、代替的な可能性を限定することなく選択的な特徴と併せて使用される。このため、これらの用語によって導入される特徴は選択的な特徴であり、特許請求の範囲を何ら限定することを意図するものではない。本発明は、当業者によって認識されるように代替的な特徴を用いて行うことができる。同様に、「本発明の実施の形態において」又は同様の表現によって導入される特徴は、本発明の代替的な実施の形態に関する任意の限定、本発明の範囲に関する任意の限定、及び本発明の他の選択的又は非選択的な特徴により導入される特徴を組み合わせる可能性に関する任意の限定なしに選択的な特徴であることを意図したものである。
【0022】
また、以下で使用される場合、パラメーターの値に関連した「約」という用語は値の±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±2%、最も好ましくは±1%の範囲を含む値に関する。したがって、例えば、「約4g」という表現は、好ましくは「4g±10%」、すなわち3.6g〜4.4gの値に相当する。明確にするために、値及びその値からの変動の指標は同じ単位を有する。変動は単位で表示され、これは%記号が単位である場合に当てはまる。したがって、4%±1%という表現は3%〜5%の値に相当する。AがB「から本質的になる」という用語は、少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%、最も好ましくは99%の程度までBからなるAに関する。AがB「から本質的になる」場合、AはBとAの基本的な新規の特徴に実質的に影響を与えない任意の他の物質又は工程とからなる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
当業者には理解されるように、無水グルコース単糖単位からなる又は無水グルコース単糖単位から本質的になる多糖、特に生体多糖(生体高分子)は「グルカン」と称される。したがって、例えばα−1,6−グリコシド結合によって接続された無水グルコース単位からなる又は無水グルコース単位から本質的になる多糖は、α−(1,6)−グルカンと称される。変更すべき点を変更して、α−1,6−グリコシド結合によって形成される分岐点を有するα−1,4−グリコシド結合分子の主鎖を形成する無水グルコース単位からなる又は無水グルコース単位から本質的になる多糖は、α−(1,4/1,6)−グルカンと称され得る。多糖中の無水グルコース単位が簡略化のために「グルコース単位」又は「グルコース分子」と称されることが多いことも当業者には理解される。
【0025】
多糖を分析する、特にα−グリコシド結合の存在を検出し、その量を決定する方法が当該技術分野で既知である。該方法はIR及びNMR分析、例えば1D及び/又は2D NMR分光法、特に1H−NMR、13C−NMR、HSQC、TOCSY、COSY、NOESY等によって標準プロトコルに従って行うのが好ましい。多糖の分子量を決定する方法は当該技術分野で既知である。本発明の多糖のMw及びMnは概して以下の方法に従って決定される。「平均分子量」は本発明において使用される場合、MALLS−GPC(多角度レーザー光散乱−ゲル浸透クロマトグラフィー)に従って決定される分子量に関する。決定のために、直列に接続した2つのTosoh BioSepのGMPWXLカラム(粒子サイズ13μm、直径7.8mm、長さ30cm、商品コード08025)を固定相として使用する。移動相は以下のように調製する。メスフラスコ内で3.74gの酢酸Na・3H
2O、0.344gのNaN
3を800mLのMilli−Q水に溶解し、6.9mLの無水酢酸を添加し、フラスコを1Lまで充填した。およそ10mgの多糖を1mLの移動相に溶解し、粒子をシリンジフィルター(0.22mm、mStarII,CoStar Cambridge,MA)で濾過する。測定を0.5mL/分の流速で行う。検出器として、一定温度に維持し、直列に接続した多角度レーザー光散乱検出器及び屈折計を使用する。Astraソフトウェア(バージョン5.3.4.14、Wyatt Technology Cooperation)を使用して、サンプルの平均Mw及び平均Mnを0.147のdn/dcを用いて決定する。値をλ=690nm(溶媒NaOAc/H
2O/0.02%NaN
3、T=20℃)で以下の文献:W.M. Kulicke, U. Kaiser, D. Schwengers, R. Lemmes, Starch, 1991, 43(10): 392-396に従って、国際公開第2012/004007号の実施例1.9に記載されるように決定する。しかしながら、本明細書に関連するHAS及びHESのMw及びMn値は、非特許文献1の方法又はヨーロッパ薬局方7.0、01/2011:1785の984頁に従って決定された値である。
【0026】
本発明の多糖、すなわちイコデキストリン及びヒドロキシアルキル化デンプンは生体、より好ましくは植物界の生物、特に維管束植物(vascular plant (tracheophyte))によって産生される又は産生可能な多糖の誘導体であるのが好ましい。したがって、多糖自体は例えば主鎖又は側鎖中に微量不純物を含み得る。好ましくは、多糖の微量不純物は多糖の全質量の10%未満、より好ましくは多糖の全質量の5%未満、更により好ましくは多糖の全質量の4%未満、更により好ましくは3%未満、更により好ましくは2%未満、更により好ましくは1%未満、更により好ましくは0.5%未満、最も好ましくは0.1%未満を占める。
【0027】
「イコデキストリン」という用語は原則として当業者に既知であり、典型的には分岐点としてのα−1,6−結合とともにα−1,4−グリコシド結合した無水グルコース単位の主鎖を含むグルカンに関する。イコデキストリンはマルトデキストリンから誘導される膠質浸透物質である。マルトデキストリンは酵素的に任意のデンプンから誘導され得る。イコデキストリンは腹膜透析のための水溶液、又は婦人科腹腔鏡下手術後の術後癒着(組織と臓器との間に形成される線維帯)の低減のための種々の濃度の水溶液として市販されている。好ましいイコデキストリンは5kDa〜30kDa、より好ましくは10kDa〜20kDa、最も好ましくは13kDa〜16kDaのMwを有する。好ましいイコデキストリンは3kDa〜10kDa、より好ましくは4kDa〜7.5kDa、最も好ましくは5kDa〜6kDaのMnを有する。したがって、好ましい実施形態では、イコデキストリンは13kDa〜16kDaのMw及び5kDa〜6kDaのMnを有する。
【0028】
デンプンは、グリコシド結合によって連結したα−Dグルコース単位から本質的になる式(C
6H
10O
5)
nに従う既知の多糖である。通常、デンプンはアミロース及びアミロペクチンから本質的になる。アミロースは、グルコース単位がα−1,4−グリコシド結合によって結合した線状鎖からなる。アミロペクチンは、α−1,4−グリコシド結合及びα−1,6−グリコシド結合を有する高度に分岐した構造である。ヒドロキシアルキルデンプンを調製することができる天然(native)デンプンとしては、穀物デンプン、豆デンプン及びジャガイモデンプンが挙げられるが、これらに限定されない。穀物デンプンとしては、米デンプン、ヒトツブコムギデンプン、スペルトコムギデンプン、軟質コムギデンプン、エンマーコムギデンプン、デュラムコムギデンプン、又はカムットコムギデンプン等のコムギデンプン、トウモロコシデンプン、ライムギデンプン、エンバクデンプン、オオムギデンプン、ライコムギデンプン、スペルトコムギデンプン、及びモロコシデンプン又はテフデンプン等の雑穀デンプンが挙げられるが、これらに限定されない。他のデンプン源はエンドウ豆、マニオク、サツマイモ及びバナナであってもよい。ヒドロキシアルキルデンプンを調製するのに好ましい天然デンプンは、アミロースに対して高含量のアミロペクチンを有する。これらのデンプンのアミロペクチン含量は、例えば少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、更により好ましくは少なくとも85重量%、更により好ましくは少なくとも90重量%、例えば最大95重量%、最大96重量%、最大97重量%、最大98重量%、最大99重量%又は最大100重量%である。特に高いアミロペクチン含量を有する天然デンプンは、例えば好ましくは伝統的に育種された(例えば、天然品種Eliane)又は遺伝子組み換えアミロペクチンジャガイモ品種である本質的にアミロースを含まないジャガイモから抽出されるワキシー(waxy)ジャガイモデンプン等の好適なジャガイモデンプン、及びワキシーコーン又はもち米等の穀類のワキシー品種のデンプンである。
【0029】
ヒドロキシアルキルデンプン(HAS)は、デンプン中のヒドロキシル基が適切にヒドロキシアルキル化されている部分的に加水分解された天然デンプンのエーテル誘導体である。このため、HASはその無水グルコース単位に付着した−O−(アルキル−O)
n−H基を含み、少なくとも1つのヒドロキシル基のプロトンが基−(アルキル−O)
n−H(nは1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2、最も好ましくは1である)に置き換えられている。本明細書で使用される場合、「アルキル基」という用語は、好ましくは炭素数2〜12の鎖長の飽和炭化水素からなる直鎖又は分岐官能基又は側鎖を含むことが理解される。飽和炭化水素は、例えばプロピル残基、ブチル残基、ペンチル残基、ヘキシル残基、ヘプチル残基、オクチル残基、ノニル残基、デカニル残基、ウンデカニル残基及びドデカニル残基等の直鎖、又は例えばイソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、1−イソペンチル基、2−イソペンチル基、3−イソペンチル基、ネオペンチル基を含む分岐、すなわち炭素主鎖が1つ以上の方向に分かれるものであり得る。アルキルはエチルであるのが好ましい。したがって、無水グルコース単位の少なくとも1つのヒドロキシル基のプロトンを置き換える基は−エチル−OHであるのが好ましい。このため、HASは好ましくはヒドロキシエチルデンプン(HES)、より好ましくは本明細書の他の部分に指定されるHESである。
【0030】
ポリマーとして、調製プロセスのために、HASは個々のヒドロキシアルキルデンプン分子が重合度、分岐部位の数及びパターン、並びに置換パターン、すなわちヒドロキシアルキル基の数及び/又は部位に関して異なり得る多分散化合物である。したがって、ヒドロキシアルキルデンプンは通常は統計的に平均化されたパラメーターによって特徴付けられる。これらは概して分子量分布、置換度及びC2/C6置換の比率である。
【0031】
特定のヒドロキシアルキルデンプン溶液は、統計的手段を用いて平均分子量によって規定するのが好ましい。これに関連して、M
n又はMnは分子数及びそれらの分子量に応じて算術平均として算出される。数平均分子量M
nは以下の方程式:
M
n=Σ
in
iM
i/Σ
in
i
(式中、n
iはモル質量M
iを有する種iのヒドロキシアルキルデンプン分子の数である)によって規定される。代替的には、質量分布は重量平均分子量M
w又はMwによって記載され得る。重量平均分子量M
wは以下の方程式:
M
w=Σ
in
iM
i2/Σ
in
iM
i
(式中、n
iはモル質量M
iを有する種iのヒドロキシアルキルデンプン分子の数である)によって規定される。本発明によると、HAS、特にHESのM
w値は好ましくは1kDa〜2000kDa、より好ましくは5kDa〜700kDa、より好ましくは10kDa〜300kDa、更により好ましくは70kDa〜150kDaの範囲、最も好ましくは130kDaである。
【0032】
平均分子量が非特許文献1又はヨーロッパ薬局方7.0、01/2011:1785の984頁に従って決定され得ることが当業者には理解される。2つの方法の違いは、使用される光散乱値dn/dcの値である。非特許文献1(Sommermeyer)の方法では、0.135のdn/dc値が使用され、この値は薬局方の方法では0.147±0.001に変更されている。特に断りのない限り、本明細書で使用される平均分子量の値は、非特許文献1の方法(上記引用箇所)を用いて決定される値に関する。
【0033】
置換度を表すには2つの可能性がある。ヒドロキシアルキルデンプンの置換度(DS)は、全てのグルコース部分に対する置換グルコースモノマーの割合について相対的に表される。ヒドロキシアルキルデンプンの置換パターンは、グルコース部分1つ当たりのヒドロキシアルキル基の数を計数するモル置換(MS)として表すこともできる。本発明においては、ヒドロキシアルキルデンプンの置換パターンは、好ましくは非特許文献1、特に273頁又はヨーロッパ薬局方7.0、01/2011:1785の984頁に従って決定されるMSに関して表される。MSの値はα−アミラーゼによるヒドロキシアルキルデンプンの分解性に対応する。概して、ヒドロキシアルキルデンプンのMS値が高いほど、そのそれぞれの分解性は低くなる。パラメーターMSはYing-Che Lee et al., Anal. Chem., 1983, 55:334-338又はK. L. Hodges et al., 1979, Anal. Chem. 51:2171に従って決定することもできる。これらの方法によると、既知の量のヒドロキシアルキルデンプンを、アジピン酸(adipinic acid)及びヨウ化水素酸を添加したキシレン中のエーテル切断に供する。放出されるヨードアルカンの量を続いて内部標準としてトルエン、外部標準としてヨードアルカンキャリブレーション溶液を用いるガスクロマトグラフィーによって決定する。本発明によると、MS値は、好ましくは0.1〜3、より好ましくは0.2〜1.3、更により好ましくは0.3〜0.7の範囲、最も好ましくは0.4である。特に断りのない限り、本明細書で使用される平均モル置換の値は、非特許文献1の方法(上記引用箇所)を用いて決定される値に関する。
【0034】
「C2/C6比」と称される更なるパラメーターは、C2位において置換される無水グルコース単位の数とC6位において置換される無水グルコース単位の数との比率を表すものである。ヒドロキシアルキルデンプンの調製中に、C2/C6比はヒドロキシアルキル化反応に使用されるpHによって影響を受ける場合がある。概して、pHが高いほど、C6位においてより多くのヒドロキシル基がヒドロキシアルキル化される。パラメーターC2/C6比は例えば非特許文献1、特に273頁に従って決定することができる。本発明によると、C2/C6比の典型的な値は2〜20、好ましくは2〜14、より好ましくは2〜12の範囲である。
【0035】
実際上の理由で、種々のHAS及びHES調製物の特定には以下の命名法が適用される。略語の文字表記は修飾の種類を示し(例えば、ヒドロキシエチルデンプンについては「HES」)、それぞれ平均分子量及び分子置換を示す2つの数値が続く。したがって、「HES 130/0.4」は130kDaの平均分子量及び0.4のMSを有するヒドロキシエチルデンプンを示す。部分加水分解及び側鎖の置換は統計的過程であるため、指定の値は或る特定の範囲を含む平均値であることが当業者には理解される。好ましくは、MS値及びC2/C6値は値±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%の範囲を示す。
【0036】
したがって、本発明のHASの好ましい実施形態はHES 70/0.5及びHES 450/0.7であり、本発明のHASの最も好ましい実施形態はHES 130/0.4である。
【0037】
ヒドロキシアルキルデンプン、より特にヒドロキシエチルデンプンの調製に関しては、例えばSommermeyer et al., Chromatographia, 1988, 25:167-168、C. Jungheinrich et al., Clin. Pharmacokin., 2005, 44(7), 2005:681-699、J.-M. Mishler IV, Pharmacology of hydroxyethyl starches, Oxford Medical Publications, 2002, 20:1-30を参照されたい。
【0038】
「溶液」という用語は当業者に既知であり、液体担体に溶解された本明細書で指定される成分を含む又はそれからなる組成物に関する。好ましくは、液体担体は少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の水を含み、そのため溶液は水溶液であるのが好ましい。好ましい実施形態では、担体は純(100%)水である。本発明の組成物は、天然に存在しない本明細書に記載される溶液を含み得る。
【0039】
溶液は薬学的に許容可能な溶液であるのが好ましい。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な溶液」という用語は、成分、特に液体担体が配合物の他の成分と相溶性であり、その受容者に有害でないという意味で薬学的に許容可能である本明細書で上記に指定される溶液に関する。好ましくは、液体担体は多糖の生物活性に影響を及ぼさないように選択される。したがって、液体担体は好適な溶媒中の非有害成分の等張の又は少し低張若しくは高張の溶液であるのが好ましい。好ましくは、液体担体は水、より好ましくは蒸留水を含む。より好ましくは、液体担体は生理食塩溶液、リン酸緩衝食塩溶液、心筋保護液、リンガー液又はハンクス液である。加えて好ましくは、薬学的に許容可能な溶液は他の担体又は非毒性、非治療的、非免疫原性の安定剤等を含む。好ましくは、薬学的に許容可能な溶液は使用準備済の(注入準備済みの)溶液として提供され、例えば好ましくはボトル、又はより好ましくはバック内に提供される。
【0040】
更に好ましい実施形態によると、溶液、特に薬学的に許容可能な溶液は更なる成分、より好ましくは当業者に既知であり、本明細書で下記に例として指定される薬学的に許容可能な成分を含む。「他の成分」という用語は、例えば好ましくは生理学的濃度の塩化ナトリウム、又は例えば1種以上のマグネシウム塩、カルシウム塩、乳酸塩等を含む他の薬学的に許容可能な添加剤及び/又は賦形剤に関する。更に好ましい薬学的に許容可能な成分は、好ましくは単糖類、二糖類、無機塩、抗微生物剤、抗酸化剤、界面活性剤、バッファー、酸、塩基、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される賦形剤である。
【0041】
好ましい単糖類は、例えばフルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボース等の糖類であり、二糖類としてはラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオース等が例として挙げられる。好ましい無機塩又はバッファーはクエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、及びそれらの任意の組合せである。微生物成長を予防又は検出するのに好ましい抗微生物剤は塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、チメロサール、及びそれらの任意の組合せである。好ましい抗酸化剤はパルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及びそれらの任意の組合せである。好ましい界面活性剤はポリソルベート、又はプルロニックソルビタンエステル;脂質、例えばリン脂質及びレシチン、並びに他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、酸及び脂肪酸エステル;ステロイド、例えばコレステロール;並びにキレート剤、例えばEDTA又は亜鉛、並びにそれらの任意の相溶性の組合せである。好ましい酸及び塩基は塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、硝酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、フマル酸、及びそれらの組合せ、及び/又は水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、フマル酸カリウム、及びそれらの組合せである。他の好ましい(好ましくは薬学的に許容可能な)成分としては、ビタミン、微量栄養素、抗酸化剤等が挙げられる。「他の成分」はガレヌス成分、すなわち癌細胞に関連する医薬効果を媒介しない成分であることが好ましい。
【0042】
好ましくは、本発明による薬学的に許容可能な溶液はインターロイキン又はインターフェロンを含まない。より好ましくは、溶液は抗新生物活性又は細胞毒性活性を有する任意の化学療法剤を含まない。より好ましくは、溶液はHAS及びイコデキストリン以外の抗新生物活性又は細胞毒性活性を有する任意の作用物質を含まない。より好ましくは、薬学的に許容可能な溶液は2つの本発明の多糖を転移形成及び/又は再発を予防する唯一の成分として含む。より好ましくは、薬学的に許容可能な溶液は2つの本発明の多糖を欧州医薬品庁(EMA)及び/又は米国食品医薬品局(FDA)によって認可された唯一の抗癌化合物として含む。
【0043】
好ましくは、溶液、好ましくは薬学的に許容可能な溶液における多糖の総濃度は本発明の多糖、すなわちHAS及びイコデキストリンの総重量、並びに溶液の総容量をベースとして1%〜20%(w/v)、より好ましくは2%〜18%(w/v)、更により好ましくは5%〜16%(w/v)、最も好ましくは7.5%〜15%(w/v)の範囲である。本明細書における総濃度は、種々の多糖の単一濃度の合計として決定される。これらの濃度を決定する方法は当業者に既知である。混合物における個々の多糖の濃度は、「ヨーロッパ薬局方7.0、01/2011:1785の984頁」又は「B. Wittgren et al., Int. J. Polym. Anal. Charact., 2002, 7(1-2):19-40」に記載される既知の方法を用いて、個々の多糖を対応する担体に溶解するか、又はVOLUVEN(商標)循環血代用液又はイコデキストリン様ADEPT(商標)癒着低減溶液等の既知の濃度のHESを含有する市販の製品を使用することによって調製される標準と比較して決定することができる。
【0044】
本発明の具体的な実施形態の好ましい濃度及び濃度範囲は以下の通りである。好ましくは、薬理学的に許容可能な溶液におけるHAS、特にHESの濃度は溶液の総容量をベースとして1%〜15%、より好ましくは5%〜12.5%(w/v)、更により好ましくは7.5%〜12.5%(w/v)の範囲、最も好ましくは約10%(w/v)である。好ましい実施形態では、薬理学的に許容可能な溶液におけるHAS、特にHESの濃度は10%±1%(w/v)(すなわち、9%〜11%(w/v)の範囲内)、より好ましくは10%±0.5%(w/v)(すなわち、9.5%〜10.5%(w/v)の範囲内)である。好ましくは、薬理学的に許容可能な溶液におけるイコデキストリンの濃度は1%〜7.5%(w/v)、より好ましくは2%〜6%(w/v)、更により好ましくは3%〜5%の範囲、最も好ましくは約4%(w/v)である。好ましい実施形態では、薬理学的に許容可能な溶液におけるイコデキストリンの濃度は4%±1%(w/v)(すなわち、3%〜5%(w/v)の範囲内)、より好ましくは4%±0.5%(w/v)(すなわち、3.5%〜4.5%(w/v)の範囲内)である。好ましい溶液は3%〜5%(w/v)のイコデキストリンと、7.5%〜12.5%(w/v)のHESとを含む。
【0045】
更に好ましい組成物及びそれらの濃度範囲を表1に示す。
【0047】
本発明の多糖を含む好ましい薬学的に許容可能な溶液は、例としては、生理食塩水(0.9%)中20g/LのHES 130/0.4及び30g/Lのイコデキストリン;生理食塩水(0.9%)中100g/LのHES 130/0.4及び40g/Lのイコデキストリン;並びに5.4g/Lの塩化ナトリウム、4.5g/Lの乳酸ナトリウム、257mg/Lの塩化カルシウム及び61mg/Lの塩化マグネシウムを更に含む水溶液中100g/LのHES 130/0.4及び40g/Lのイコデキストリンである。溶液は術前、術中及び術後投与に特に好ましい。
【0048】
本発明は薬剤として使用される本発明の薬学的に許容可能な溶液にも関する。さらに、本発明は、癌を患う被験体の体腔に投与することによる転移形成及び/又は再発の予防に使用される本発明の薬学的に許容可能な溶液に関する。
【0049】
「予防する」という用語は本明細書で使用される場合、或る特定の期間にわたって被験体において本明細書で言及される疾患又は障害に対する健康を保つことを指す。この期間が投与された組成物の量及び本明細書の他の部分で論考される被験体の個々の因子によって決まることが理解される。予防が本発明による組成物で処置した全ての被験体において効果的でない場合があることを理解されたい。しかしながら、この用語は、好ましくはコホート又は集団の統計的に有意な一部の被験体が本明細書で言及される疾患若しくは障害、又はその随伴症状を患うことから効果的に予防されることを必要とする。好ましくは、通常、すなわち本発明による予防対策がなければ本明細書で言及される疾患又は障害を発症し得る被験体のコホート又は集団がこれに関連して想定される。一部が統計的に有意であるか否かは、更なる面倒なしに当業者によって様々な既知の統計的評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マンホイットニー検定等を用いて決定され得る。好ましい信頼区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は0.1、0.05、0.01、0.005又は0.0001であるのが好ましい。好ましくは、処置は所与のコホート又は集団の被験体の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%について効果的なものとする。本明細書に記載される組成物及びそれらの使用方法は、組成物を投与した患者が癌の転移成長、又は癌を有しないと見なされた後に、(以前に経験したものと同じタイプであるか又は異なるかにかかわらず、また体内の同じ位置にあるか又は異なる位置にあるかにかかわらず)癌の再発を経験する可能性を低減するものとして記載される場合もある。
【0050】
「癌」という用語は本明細書で使用される場合、好ましくは、正常な成長制御に対する感受性を失った細胞(「癌細胞」)の増殖に起因する又は特徴付けられる動物、好ましくはヒトの増殖性障害又は疾患を指す。この無制御な成長は周囲組織への侵入及びその破壊、並びに場合によっては体内の他の位置への癌細胞の広がり(転移)を伴う可能性がある。癌はこの癌の確かな兆候の排除を目的とする、又はその任意の循環癌細胞を殺すことを目的とする初期治療の後に再出現する可能性があることが当業者には知られている。この再出現は「再発」と称される。好ましくは、「癌」という用語は腫瘍及び任意の他の増殖性障害を包含する。このため、この用語は病期又は侵襲性を問わず、悪性細胞が関与する全ての病的状態を含むことを意図する。該用語は好ましくは、固形組織又は臓器に発生する固形腫瘍、並びに非固形、例えば造血系の癌(例えば、白血病及びリンパ腫)を含む。
【0051】
好ましくは、本発明によると、癌は特定の組織又は臓器(例えば卵巣、前立腺又は膵臓内)に局在化しているため、原発組織以外に広がっていない。別の好ましい実施形態では、癌は侵襲性であるため、それが正常周囲組織に発生した組織層以外に広がっている場合がある(局所進行癌と称されることも多い)。侵襲性癌は転移性である場合も又は転移性でない場合もある。このため、癌は転移性である可能性もある。癌は、その元の位置から身体の遠隔部分へと広がっている場合に転移性である。例えば、乳癌細胞は別の臓器又は身体部分、例えばリンパ節へと広がる可能性があることが当該技術分野で知られている。好ましくは、癌は少なくとも1つの体腔と流体連通する臓器の固形腫瘍、例えば好ましくは肺、胃、膵臓、肝臓、卵巣、子宮、腎臓、回腸、結腸、直腸、膀胱又は前立腺の固形腫瘍である。より好ましくは、癌は本明細書の他の部分に指定される少なくとも1つの体腔内又は少なくとも1つの体腔と流体連通する固形腫瘍である。好ましくは、流体連通は血液及び/又はリンパ液による流体連通ではない。
【0052】
癌は、急性リンパ芽球性白血病(成人)、急性リンパ芽球性白血病(小児)、急性骨髄白血病(成人)、急性骨髄白血病(小児)、副腎皮質癌、副腎皮質癌(小児)、AIDS関連癌、AIDS関連リンパ腫、肛門癌、虫垂癌、星状細胞腫(小児)、非定型奇形腫様/横紋筋肉腫様腫瘍(小児)、中枢神経系癌、基底細胞癌、胆管癌(肝外)、膀胱癌、膀胱癌(小児)、骨癌、骨肉腫及び悪性線維性組織球腫、脳幹神経膠腫(小児)、脳腫瘍(成人)、脳腫瘍(小児)、脳幹神経膠腫(小児)、中枢神経系脳腫瘍、非定型奇形腫様/横紋筋肉腫様腫瘍(小児)、脳腫瘍、中枢神経系胎児性腫瘍(小児)、星状細胞腫(小児)脳腫瘍、頭蓋咽頭腫脳腫瘍(小児)、上衣芽腫脳腫瘍(小児)、上衣腫脳腫瘍(小児)、髄芽腫脳腫瘍(小児)、髄上皮腫脳腫瘍(小児)、中間型松果体実質腫瘍脳腫瘍(小児)、テント上原始神経外胚葉腫瘍及び松果体芽腫脳腫瘍(小児)、脳脊髄腫瘍(小児)、乳癌、乳癌(小児)、乳癌(男性)、気管支腫瘍(小児)、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍(小児)、カルチノイド腫瘍、胃腸癌、非定型奇形腫様/横紋筋肉腫様腫瘍(小児)、中枢神経系(CNS)リンパ腫、原発性子宮頸癌、子宮頸癌(小児)、小児癌、脊索腫(小児)、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性障害、直腸癌、大腸癌(小児)、頭蓋咽頭腫(小児)、皮膚T細胞リンパ腫、胚芽腫、子宮内膜癌、上衣芽腫(小児)、上衣腫(小児)、食道癌、食道癌(小児)、感覚神経芽腫(小児)、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍(小児)、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、眼癌、眼内黒色腫、網膜芽腫、胆嚢癌、胃の(胃)癌、胃の(胃)癌(小児)、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸間質腫瘍(GIST)、胃腸間質細胞腫瘍(小児)、胚細胞腫瘍、頭蓋外(小児)胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣癌、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫(成人)、神経膠腫(小児)、脳幹癌、有毛細胞白血病、頭頸部癌、心臓癌(小児)、肝細胞(肝臓)癌(成人)(原発性)、肝細胞(肝臓)癌(小児)(原発性)、組織球増殖症、ランゲルハンス細胞、ホジキンリンパ腫(成人)、ホジキンリンパ腫(小児)、下咽頭癌、眼内黒色腫、膵島細胞腫瘍(内分泌膵臓)、カポジ肉腫、腎臓(腎細胞)癌、腎臓癌(小児)、ランゲルハンス細胞組織球増殖症、喉頭癌、喉頭癌(小児)、白血病、急性リンパ芽球性白血病(成人)、急性リンパ芽球性白血病(小児)、急性骨髄白血病(成人)、急性骨髄白血病(小児)、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、口唇及び口腔の癌、肝臓癌(成人)(原発性)、肝臓癌(小児)(原発性)、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(成人)、非ホジキンリンパ腫(小児)、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、骨及び骨肉腫の悪性線維性組織球腫、髄芽腫(小児)、髄上皮腫(小児)、黒色腫、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞癌、中皮腫(成人)、悪性中皮腫(小児)、原発不明の転移性頸部扁平上皮癌、口癌、多発性内分泌腫瘍症候群(小児)、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、骨髄性白血病(慢性)、骨髄白血病(成人)(急性)、骨髄白血病(小児)(急性)、多発性骨髄腫、鼻腔/副鼻腔癌、鼻咽頭癌、鼻咽頭癌(小児)、神経芽腫、口腔癌(小児)、口唇及び口腔の癌、中咽頭癌、骨肉腫及び骨の悪性線維性組織球腫、卵巣癌(小児)、卵巣上皮癌、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、膵臓癌(小児)、膵臓癌、膵島細胞腫瘍、乳頭腫(小児)、副鼻腔/鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、中間型松果体実質腫瘍(小児)、松果体芽腫及びテント上原始神経外胚葉腫瘍(小児)、下垂体腫瘍、形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫、胸膜胚芽腫、妊娠期の乳癌、原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫、前立腺癌、直腸癌、腎細胞(腎臓)癌、腎盂及び尿管移行上皮癌、第15染色体の変化による気道癌、網膜芽腫、横紋筋肉腫(小児)、唾液腺癌、唾液腺癌(小児)、肉腫、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、カポジ肉腫、軟組織(成人)肉腫、軟組織(小児)肉腫、子宮肉腫、セザリー症候群、皮膚癌(非黒色腫)、皮膚癌(小児)、皮膚癌(黒色腫)、メルケル細胞皮膚癌、小細胞肺癌、小腸癌、軟組織肉腫(成人)、軟組織肉腫(小児)、扁平上皮癌、胃(胃の)癌、胃(胃の)癌(小児)、テント上原始神経外胚葉腫瘍(小児)、皮膚T細胞リンパ腫、精巣癌、精巣癌(小児)、咽喉癌、胸腺腫/胸腺癌、胸腺腫/胸腺癌(小児)、甲状腺癌、甲状腺癌(小児)、腎盂及び尿管の移行上皮癌、妊娠性絨毛腫瘍、成人の原発不明癌、小児の原発不明癌、小児の稀な癌、尿管及び腎盂の移行上皮癌、尿道癌、子宮癌、子宮内膜肉腫、子宮肉腫、膣癌、膣癌(小児)、外陰癌、並びにウィルムス腫瘍からなる一覧表から選択されることが好ましい。
【0053】
癌は腫瘍を形成する癌、好ましくは本明細書の他の記載にて特定されているように体腔に腫瘍を形成する癌であることがより好ましい。癌は腹部癌、卵巣癌(ovarian cancer, ovarian carcinoma)、肺癌、及び膀胱癌を含む群から選択されることが更に好ましく、腹部癌という用語は好ましくは胃癌、虫垂の癌、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、腹膜癌、腹膜中皮腫、副腎皮質癌及び結腸癌を含む。
【0054】
更により好ましくは、癌は腹部癌及び乳癌の群から選択され、好ましくは、腹部癌は腹膜癌及び大腸癌の群から選択される。本組成物及び方法は、被験体の癌が進行期にある場合に使用することができる。
【0055】
「体腔」という用語は本明細書で使用される場合、液体、気体、及び/又は臓器若しくはその一部で満たされ得る被験体の体内の任意の空洞に関し、例えば膀胱を含む。したがって、リンパ系及び循環系の内腔は体腔ではない。好ましくは、体腔は内側が漿膜で覆われた体腔、例えばより好ましくは腹腔(abdominal cavity (cavitas abdominalis))、腹膜腔、胸腔、滑液腔、膀胱腔又は心膜腔である。最も好ましくは、体腔は腹腔及び腹膜腔である。「体腔への投与」という用語は当業者には理解され、体腔内の管腔への投与に関する。
【0056】
「被験体」という用語は動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに関する。
【0057】
「癌を患う被験体」という用語は癌細胞、好ましくは腫瘍をその体内に含む及び/又は含んでいた被験体に関する。好ましくは、この用語は癌細胞を含む及び/又は含んでいたことが知られる被験体に関する。このため、より好ましくは、癌を患う被験体は癌を患うと診断された又は癌を患っていることが知られる被験体である。
【0058】
本発明によると、「投与」という用語は本発明による組成物、好ましくは薬学的に許容可能な溶液の被験体への適用に関する。好ましくは、この用語は連続投与に関する。より好ましくは、この用語は反復適用、又は最も好ましくは1回限りの適用に関する。本発明による溶液は体腔内に投与し、除去して第2の量の溶液に置き換えることができる。しかしながら、溶液を「1回限りの使用」として投与すること、すなわち溶液を体腔内に1回投与し、被験体生物によりそれが排出されるまで放置することが最も好ましい。
【0059】
好ましくは、投与は本明細書の他の部分に指定される体腔、より好ましくは腹腔(abdominal cavity (cavitas abdominalis))又は腹膜腔への投与、例えば好ましくは腹腔内投与及び/又は腹膜後方投与に関する。
【0060】
好ましくは、投与は被験体が例えば外科的介入、細胞減少療法及び/又は化学療法による付加的な治療を受けているか又は受けるかにかかわらず行われる。溶液の投与は細胞減少療法又は局所領域療法の前、その最中又はその後に付加的な治療として用いられるのが好ましい。したがって好ましくは、薬学的に許容可能な溶液は術後、術中及び/又は術前使用のためのものである。
【0061】
投与は18℃〜43℃の薬学的に許容可能な溶液の投与であるのが好ましい。より好ましくは、投与は患者に好適な温度、すなわち好ましくは常温(20℃〜25℃)から僅かに体温を超える温度(40℃〜43℃)までの間、すなわち20℃〜43℃の薬学的に許容可能な溶液の投与である。好ましくは、溶液の温度は20℃〜42℃の範囲、より好ましくは36℃〜42℃の範囲、最も好ましくは36℃〜40℃の範囲である。
【0062】
「術後」、「術中」及び「術前」投与という用語は当業者に既知であり、外科的介入(「手術」)に関わる本発明の薬学的に許容可能な溶液の投与の時期に関する。術後、術中及び術前投与は本明細書で上記に指定されるように被験体の体腔内への投与であるのが好ましい。手術という用語は、好ましくは、手術が癌による被験体の苦痛(afflictedness)に関連して行われるかにかかわらず任意の種類の外科的介入に関することが理解される。より好ましくは、本発明の手術は、それが原発性腫瘍若しくは二次性腫瘍(腫瘍切除)であるか、及び/又は転移(転移切除)であるかにかかわらず腫瘍を体腔から部分的に、若しくはより好ましくは完全に除去する外科的介入、又は好ましくは体腔から腫瘍及び/又は転移の生検を得るための外科的介入である。また、好ましくは、手術は本明細書の他の部分に指定される細胞減少手術である。
【0063】
「術後投与」という用語は、好ましくは、上記で規定される外科的介入を行った後の投与に関する。好ましくは、この用語は手術の直後からその4週間後までの間の時間枠に関する。より好ましくは、この用語は手術の直後からその1週間後までの間の時間枠に関し、更により好ましくは、この用語は手術の直後からその24時間後までの間の時間枠に関し、最も好ましくは、この用語は手術の直後からその4時間後までの間の時間枠に関する。「手術の後」とは、手術の終了後、すなわち先に形成した切開を例えば縫合糸又はステープルによって閉じた後の時点を指す。この場合、本発明の多糖又は組成物は好ましくは注射、より好ましくは腹腔内注射によって投与される。
【0064】
「術中投与」という用語は、好ましくは外科的介入中、すなわち切開を行った後かつ切開を閉じる前の投与に関する。
【0065】
「術前投与」という用語は、好ましくは、手術の4週間前からその直前、すなわち好ましくは切開を入れる前までの時間枠での投与に関する。この用語は、好ましくは、外科的介入を行うべきかの決定が未だ下されていない時点での投与を含むことが理解される。より好ましくは、この用語は手術の3週間前からその直前までの時間枠に関する。更により好ましくは、この用語は手術の2週間前からその直前までの時間枠に関する。最も好ましくは、この用語は手術の1週間前からその直前までの時間枠に関する。好ましくは、被験体への本発明の薬学的に許容可能な溶液の投与は、被験体が癌を患うという診断が得られるまで開始しないことが理解される。このため、術前投与は癌の診断から本明細書で上記に規定される手術までの時間枠における投与であるのが好ましい。術前投与は本明細書の他の部分に指定される体腔への術前投与であるのが好ましい。
【0066】
有利には、本発明の多糖を含む薬学的に許容可能な溶液が、哺乳動物の腹腔に適用される場合に腹腔内での癌細胞の定着(settling)を妨げ、この効果が多糖を1種類しか含まない溶液と比較してより顕著であることが本発明の基礎をなす研究中に見出された。このことは、原発腫瘍からの分離、転移又は再発に起因し得る遊離の癌細胞又は自由に循環する癌細胞が体腔内に定着するリスクがある場合にいつでも、溶液が転移及び/又は再発の予防において改善された有用性を有することを意味する。好ましくは当該技術分野で使用される組成物(例えば、細胞毒性抗新生物薬を含む組成物)よりも毒性が低い組成物を投与することによって、患者に対する有害作用が低減し、それにより患者生物に対する付加的なストレスが回避され、溶液を取り扱う際の医療従事者の汚染のリスクが低減する。
【0067】
上記でなされる定義は変更すべき点を変更して以下の記載にも当てはまる。下記で更になされる付加的な定義及び説明も、本明細書に記載される全ての実施形態に変更すべき点を変更して当てはまる。
【0068】
本発明は癌治療における、好ましくは癌の転移形成及び/又は再発の予防のための本明細書で上記に組成が規定される薬学的に許容可能な溶液の使用にも関する。
【0069】
本発明は、予め秤量した量のイコデキストリン及びHASと、それらを溶解する薬学的に許容可能な手段とを含むキットに更に関する。
【0070】
「キット」という用語は本明細書で使用される場合、一緒にパッケージ化されていても又はされていなくてもよい上述の本発明の化合物、手段又は試薬の集合を指す。キットの構成品は別個のバイアルで(すなわち、別個の部品のキットとして)構成されていても、又は単一バイアル内で提供されてもよい。さらに、好ましくは、本発明のキットが本明細書で上記に言及される方法を実行するために使用されることを理解されたい。より好ましくは、全ての構成品が本明細書において言及される方法を実行するために使用準備済で提供されることが想定される。さらに、キットは該方法を行うための指示を含むのが好ましい。指示は紙又は電子形式のユーザーマニュアルによって提供され得る。例えば、マニュアルは本発明のキットを用いて上述の方法を行うために必要とされる装置の取扱い説明書を含み得る。HAS及びイコデキストリンは混合物としてキットに含まれるのが好ましい。
【0071】
さらに、本発明は本明細書で上記に組成が規定される薬学的に許容可能な溶液と、それを投与する手段とを含むデバイスに関する。
【0072】
「デバイス」という用語は本明細書で使用される場合、充填済みのバイアル、ボトル又はバッグ等の特許請求の範囲又は本明細書で上記に言及される少なくとも本発明による薬学的に許容可能な溶液を保管する手段、及びそれを被験体に投与する手段のシステムに関する。本発明の薬学的に許容可能な溶液を投与する手段は当業者に既知であり、例えばシリンジ、輸液セット、輸液ポンプ等が挙げられる。上述の手段は単一デバイスによって構成されるのが好ましい。
【0073】
本発明は、癌を患う被験体において転移形成を予防する医薬組成物の製造のためのイコデキストリン及びHASの使用に更に関する。医薬組成物は本明細書で上記に指定される薬学的に許容可能な溶液であるのが好ましい。
【0074】
さらに、本発明は、癌を患う被験体において転移形成及び/又は再発を予防する方法であって、
a)1%〜7.5%(w/v)の濃度のイコデキストリンと、1%〜15%(w/v)の濃度のヒドロキシアルキルデンプン(HAS)とを含む薬学的に許容可能な溶液を被験体の体腔に投与することと、
b)それにより被験体において転移形成及び/又は再発を予防することと、
を含む、方法に更に関する。
【0075】
本発明の方法はin vivo方法であるのが好ましい。好ましくは、工程の1つ以上を自動化装置によって行う。さらに、本方法は上記に明示的に言及される工程以外の工程を含み得る。例えば、更なる処置工程は、例えば工程a)の前に被験体を、癌を患うとして特定すること、又は好ましくは工程a)の繰返しと組み合わせて、工程a)の後に多糖を含む薬学的に許容可能な溶液を体腔から除去すること、すなわち体腔を別の用量の薬学的に許容可能な溶液で繰り返しフラッシングすることに関する場合がある。被験体における転移形成及び/又は再発の予防は被験体の体腔における転移形成及び/又は再発の予防であるのが好ましい。より好ましくは、被験体における転移形成及び/又は再発の予防は、薬学的に許容可能な溶液が適用された被験体の体腔における転移形成及び/又は再発の予防である。好ましくは、体腔における転移形成及び/又は再発の予防は、体腔の内膜に結合した臓器及び/又は組織の少なくとも1つにおける転移形成及び/又は再発の予防である。
【0076】
本発明による多糖を含む薬学的に許容可能な溶液を被験体の体腔に投与する工程の前、その間又はその後に癌細胞の外科的除去を行うのが好ましい。より好ましくは、癌細胞の外科的除去は癌が固形腫瘍を形成する場合、工程a)において水溶液を投与する前又はその後に目に見える癌の固形腫瘍の少なくとも一部を除去することである。好ましくは、目に見える固形腫瘍は原発腫瘍である。より好ましくは、そのような場合に少なくとも原発腫瘍又はその一部を手術によって除去する。最も好ましくは、そのような場合に少なくとも原発腫瘍を完全に除去する。
【0077】
好ましくは、投与される薬学的に許容可能な溶液の量は、溶液が投与される体腔のサイズ及び/又は容積によって決まる。原則として、薬学的に許容可能な溶液を大量に投与するのが好ましいことが当業者には理解される。しかしながら、投与される容量が当然ながら体腔の容積によって限定されることも理解される。
【0078】
本発明の薬学的に許容可能な溶液の効果的な用量は、被験体における転移及び/又は再発を予防する用量である。化合物の有効性及び毒性は、細胞培養物又は実験動物における標準薬学的手順、例えばED50(集団の50%において治療効果のある用量)及びLD50(集団の50%に対して致死的な用量)によって決定することができる。治療効果と毒性効果との間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比率として表すことができる。
【0079】
投薬計画は主治医及び他の臨床学的因子によって、好ましくは上記の方法のいずれか1つに従って決定される。医学分野でよく知られているように、いずれかの患者の投薬量は患者の体格、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間及び経路、全身健康状態、並びに同時に投与される他の薬物を含む多くの因子に左右される。有効性は定期評価によってモニタリングすることができる。典型的な用量は例えば、腹腔内への単回投与当たり250mL〜2Lの薬学的に許容可能な溶液の範囲であり得る。しかしながら、特に上述の因子を考慮し、他の体腔、例えば心膜腔(pericard)のより小さなサイズを考慮すると、この例示的な範囲を下回る又は上回る用量が想定される。投与される薬学的に許容可能な溶液の総量は、したがって、特に反復投与を行う場合に20mL〜最大10Lの範囲である。好ましくは、用量を相応に調整することが想定される。概して、医薬組成物の標準的な単回投与としての計画は250mL〜最大3Lの範囲内であるものとする。
【0080】
本明細書で言及される薬学的に許容可能な溶液は、本明細書に列挙される疾患又は病態を予防するために少なくとも1回投与される。しかしながら、薬学的に許容可能な溶液は2回以上、例えば最大数週間にわたって4日毎〜7日毎に投与することができる。
【0081】
本発明は、癌を患う被験体の体腔に投与することによる転移形成及び/又は再発の予防に使用される、1%〜20%(w/v)の範囲の総濃度でイコデキストリン及びヒドロキシアルキルデンプンを含む薬学的に許容可能な溶液であって、イコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとの重量比が0.05:1〜5:1の範囲である、薬学的に許容可能な溶液に更に関する。
【0082】
「総濃度」という用語は本明細書で使用される場合、本発明の薬学的に許容可能な溶液におけるイコデキストリン濃度及びHAS濃度の算術的合計に関する。理解されるように、溶液中に付加的に存在する可能性のある他の多糖は、総濃度の算出に含まれないのが好ましい。
【0083】
本発明のイコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとの「重量比」は、薬学的に許容可能な溶液におけるイコデキストリン濃度をHAS濃度で除算することによって算出される。したがって、例えばイコデキストリンが溶液中に4%(w/v)の濃度で存在し、HASが10%(w/v)の濃度で存在する場合、重量比は4%/10%=0.4として算出され、これは0.4:1として表すこともできる。好ましくは、イコデキストリンとヒドロキシアルキルデンプンとの重量比は0.05:1〜5:1の範囲、より好ましくは0.1:1〜4:1の範囲、更により好ましくは0.2:1〜3:1の範囲、最も好ましくは0.3:1〜2:1の範囲である。
【0084】
本明細書に引用される全ての参照文献は、その開示内容全体及び本明細書で具体的に言及される開示内容に関して引用することにより本明細書の一部をなす。
【実施例】
【0085】
以下の実施例は本発明を例示するにすぎない。実施例は、本発明の範囲を限定すると何ら解釈されるものではない。
【0086】
実施例1:
概要:
成体雌性BALB/cヌードマウスを、ヒト結腸腺癌細胞LS174T(ATCC(商標) CL−188(商標))を接種した後に生理食塩水、イコデキストリン(4%)、VOLUVEN(商標)循環血代用液(10%)単独、又はVOLUVEN(商標)循環血代用液(10%)と4%イコデキストリン溶液との組合せ、及び4%イコデキストリン溶液に溶解した10%HES 130/0.4を含有する溶液の単回i.p.注射で処置し、実験過程にわたる腫瘍細胞成長及び体重を決定した。
【0087】
物質:
生理食塩水(0.9%NaCl)(ロット134002、B. Braun Melsungen AG,Melsungen,Germany)を対照として使用した。ヒドロキシエチルデンプン(HES)を含有する試験品VOLUVEN(商標)循環血代用液(10%)(ポリ(O−2−ヒドロキシエチル)デンプン(HES 130/0.4) 100g/L、NaCl 9g/L)(ロット14FC3308)は、Fresenius Kabi Deutschland GmbH(Bad Homburg,Germany)から使用準備済の製品として入手した。4%イコデキストリン(40g/L、塩化ナトリウム5.4g/L、乳酸ナトリウム4.5g/L、塩化カルシウム257mg/L、塩化マグネシウム61mg/L)(ロット11892004、Baxter Deutschland GmbH,Unterschleitssheim,Germany)は使用準備済の溶液として購入した。HES 130/0.4(ロット17123722)は、Fresenius Kabi Deutschland GmbH(Bad Homburg,Germany)によって固体粉末として提供され、市販のように(上記のように)10%(w/v)の最終濃度までイコデキストリン4%に溶解し、滅菌濾過した。全ての溶液を使用時まで室温(25℃未満)で保管した。全ての溶液を滅菌条件下で注射した。
【0088】
動物:
成体雌性BALB/cヌードマウス(系統CAnN.Cg−Foxn1nu/Crl)(Charles River GmbH,Sulzfeld,Germany)を研究に使用した。実験の開始時にマウスは6週齢〜7週齢であり、15g〜20gの体重中央値を有していた。全てのマウスを厳密に制御された標準障壁条件下で維持した。マウスを1つのケージ当たり最大4匹のマウスで以下の環境条件下の個別換気ケージ内に収容した:22±3℃の室温、45%〜65%の相対湿度、12時間の人工蛍光明期/12時間の暗期。マウスに加圧滅菌した食餌及び床敷(Ssniff,Soest,Germany)を与え、加圧滅菌した公共水道水を自由に与えた。
【0089】
癌腫症モデル:
研究は各々25匹の雌性BALB/cヌードマウスを含む6つの実験群からなるものとした。0日目に、300μlのPBS中の2×10
6のLS174T細胞を腹腔内注射によって全てのBALB/cヌードマウス(群1〜群6)の腹腔内に投与した。新たに調製した細胞懸濁液を各回の移植に使用し、群1〜群6の各4匹の動物に移植した。1群当たり25匹の動物の移植のために、新たに調製した細胞懸濁液による24匹の動物(群1〜群6)についての6回の移植が必要であった。6回目の最終回の移植については、新たに調製した細胞懸濁液を30匹のマウス(5匹の動物×6つの群)に使用した。細胞移植から10分〜15分以内に、群4〜群6の各マウスには、500μlのイコデキストリン(4%)+VOLUVEN(商標)循環血代用液(10%)(1:1(v/v))(群4)、イコデキストリン(4%)+VOLUVEN(商標)循環血代用液(10%)(4:1(v/v))(群5)、又はイコデキストリン(4%)に溶解したHES 130/0.4(最終濃度10%(w/v))(群6)を腹腔内に与えた。群1の動物には500μLの生理食塩水を与え、群2の動物には500μLのイコデキストリン(4%)を与え、群3の動物は500μLのVOLUVEN(商標)循環血代用液(10%)で処置した(表2を参照されたい)。全ての処置を腹腔内(i.p.)で行った。
【0090】
4%イコデキストリンを含有する溶液はその市販の溶液をベースとし、VOLUVEN(商標)循環血代用液(10%)を含有する溶液は市販の溶液をベースとする。したがって、これらの溶液は僅かに異なる塩濃度を有する。
【0091】
【表2】
【0092】
研究の過程で群1〜群5の数匹の動物を倫理的理由(腹水;腹壁の腫脹)から予定より早く屠殺し、剖検を行った。27日目に研究を倫理的理由から終了し、残り全ての動物を屠殺し、剖検を行った。剖検時には全ての動物を秤量し、頸椎脱臼により絶命させた。動物を肉眼により検査し、目に見える腫瘍の定量化を、腹膜癌指数(PCI)を算出することによって行った。
【0093】
この目的で、腹腔(abdominal cave)の全ての腫瘍を11個の異なる対象の領域によってカテゴリー化し(下記表3を参照されたい)、表3に挙げた腫瘍直径を用いた病変サイズスコアに従ってLS−0〜LS−4に分類した。次いで、各病変サイズについての異なる対象の領域内の腫瘍数を合計し、LS−0、LS−1、LS−2、LS−3及びLS−4について対応する因子0、1、2、3又は4をそれぞれ乗算し、病変サイズ特異的PCI値PCI
LS0〜PCI
LS4を得た。最後に、これら5つの結果を合計して全腹膜癌指数(PCI
total)を得た。
【0094】
付加的に、臓器特異的PCI値を各群について算出した。この目的で、対象の各領域の個々のPCI値を上記のように各動物について算出し、臓器特異的PCI値PCI
RI1〜PCI
RI11を得た。最後に、対象の各領域について、1群当たりの全ての動物のPCI
RI値を合計し、平均及び中央値を決定した。
【0095】
【表3】
【0096】
統計的評価:
動物体重、1群当たりのPCI
total値及び臓器特異的PCI値を、記述データ分析(平均±SEM;中央値)を用いて分析した。加えて、全ての単一値が全てのサンプルについて、および、臓器特異的に示される(単一値及び中央値)。全てのデータ分析をGraphPad Software, Inc.(San Diego,USA)のGraphPad Prism 5を用いて行った。
【0097】
結果:
多糖の組合せによる処置は、対照群及び単一多糖を用いた処置の両方と比較して全腹膜癌指数(PCI)、特に腸間膜についてのPCIの低減をもたらした。結腸のPCIについては、4%イコデキストリンと10%HES 130/0.4とを含む溶液(「イコデキストリン(4%)+HES 130/0.4(10%)」と示される)の効果が特に顕著であった。動物体重の推移によって示されるように、物質関連毒性は検出されなかった。
【0098】
実施例2
概要:
成体雌性BALB/cヌードマウスを、ヒト結腸腺癌細胞LS174T(ATCC(商標) CL−188(商標))を接種した後に生理食塩水、イコデキストリン(4%)、イコデキストリン(7.5%)、Voluven(商標)10%単独、又はHES 130/0.4とイコデキストリンとの種々の組合せの単回i.p.注射で処置し、実験過程にわたる腫瘍細胞成長及び体重を決定した。
【0099】
物質:
生理食塩水(0.9%NaCl)(ロット1440030、B. Braun Melsungen AG,Melsungen,Germany)を対照として使用した。ヒドロキシエチルデンプン(HES)を含有する試験品Voluven(商標)10%(ポリ(O−2−ヒドロキシエチル)デンプン(HES 130/0.4) 100g/L、NaCl 9g/L)(ロット14FC3308)は、Fresenius Kabi Deutschland GmbH(Bad Homburg,Germany)から使用準備済の製品として入手した。4%イコデキストリン(40g/L、塩化ナトリウム5.4g/L、乳酸ナトリウム4.5g/L、塩化カルシウム257mg/L、塩化マグネシウム61mg/L)(ロット13892004、Baxter AG,Vienna,Austria)及びイコデキストリン7.5%(75g/L、塩化ナトリウム5.4g/L、乳酸ナトリウム4.5g/L、塩化カルシウム257mg/L、塩化マグネシウム61mg/L)(ロット14I18G40、Baxter Healthcare Ltd,Thetford,UK)は使用準備済の溶液として購入した。HES 130/0.4(ロット17123722)は、Fresenius Kabi Deutschland GmbH(Bad Homburg,Germany)によって固体粉末として提供された。イコデキストリン粉末(バッチ141001SS−05)は、元のイコデキストリン4%の使用準備済の溶液(ロット13892004)の透析及び凍結乾燥後にFresenius Kabi Deutschland GmbH(Bad Homburg,Germany)によって提供された。この粉末を用いて15%イコデキストリンを含有する生理食塩水溶液を作製した。全ての溶液を使用時まで室温(25℃未満)で保管した。全ての溶液を滅菌条件下で注射した。
【0100】
動物:
成体雌性BALB/cヌードマウス(系統CAnN.Cg−Foxn1nu/Crl)(Charles River GmbH,Sulzfeld,Germany)を研究に使用した。実験の開始時にマウスは6週齢〜7週齢であり、16g〜18gの体重中央値を有していた。
【0101】
全てのマウスを厳密に制御された標準障壁条件下で維持した。マウスを1つのケージ当たり最大4匹のマウスで以下の環境条件下の個別換気ケージ内に収容した:22±3℃の室温、45%〜65%の相対湿度、12時間の人工蛍光明期/12時間の暗期。マウスに加圧滅菌した食餌及び床敷(Ssniff,Soest,Germany)を与え、加圧滅菌した公共水道水を自由に与えた。
【0102】
癌腫症モデル:
研究は各々25匹の雌性BALB/cヌードマウスを含む6つの実験群からなるものとした。0日目に、300μlのPBS中の2×10
6のLS174T細胞を腹腔内注射によって全てのBALB/cヌードマウス(群1〜群6)の腹腔内に投与した。新たに調製した細胞懸濁液を各回の移植に使用し、群1〜群6の各4匹の動物に移植した。1群当たり25匹の動物の移植のために、新たに調製した細胞懸濁液による24匹の動物(群1〜群6)についての6回の移植が必要であった。6回目の最終回の移植については、新たに調製した細胞懸濁液を30匹のマウス(5匹の動物×6つの群)に使用した。細胞移植から10分〜15分以内に、各マウスに500μlのVoluven(商標)10%(群2)、イコデキストリン4%(群3)、イコデキストリン7.5%(群4)、イコデキストリン7.5%に溶解したHES 130/0.4(10%)(群5)、生理食塩水に溶解したHES 130/0.4(最終濃度20%(w/v))+イコデキストリン(最終濃度15%(w/v))(群6)、又は対照としての生理食塩水(群1)をそれぞれ腹腔内に与えた(表4を参照されたい)。4%イコデキストリン又は7.5%イコデキストリンを含有する溶液はその市販の溶液であり、Voluven(商標)10%と称される溶液は市販の溶液「Voluven(商標)10%」である。したがって、溶液は僅かに異なる塩濃度を有する。15%イコデキストリンと20%HES 130/0.4とを含有する溶液は、15%(w/v)の単離イコデキストリン及び20%の提供されるHES 130/0.4を生理食塩水に溶解することによって代わりに製造した。
【0103】
【表4】
【0104】
研究の過程で群1〜群5の数匹の動物を倫理的理由(腹水;腹壁の腫脹)から予定より早く屠殺し、剖検を行った。31日目に研究を倫理的理由から終了し、残り全ての動物を屠殺し、剖検を行った。剖検時には全ての動物を秤量し、頸椎脱臼により絶命させた。動物を肉眼により検査し、目に見える腫瘍の定量化を、腹膜癌指数(PCI)を算出することによって行った。
【0105】
この目的で、腹腔の全ての腫瘍を11個の異なる対象の領域によってカテゴリー化し(表3、実験1を参照されたい)、表3に挙げた腫瘍直径を用いた病変サイズスコアに従ってLS−0〜LS−4に分類した。次いで、各病変サイズについての異なる対象の領域内の腫瘍数を合計し、LS−0、LS−1、LS−2、LS−3及びLS−4について対応する因子0、1、2、3又は4をそれぞれ乗算し、病変サイズ特異的PCI値PCI
LS0〜PCI
LS4を得た。最後に、これら5つの結果を合計して全腹膜癌指数(PCI
total)を得た。
【0106】
付加的に、臓器特異的PCI値を各群について算出した。この目的で、対象の各領域の個々のPCI値を上記のように各動物について算出し、臓器特異的PCI値PCI
RI1〜PCI
RI11を得た。最後に、対象の各領域について、1群当たりの全ての動物のPCI
RI値を合計し、平均及び中央値を決定した。
【0107】
統計的評価:
動物体重、1群当たりのPCI
total値及び臓器特異的PCI値を、記述データ分析(平均±SEM;中央値)を用いて分析した。加えて、全ての単一値が全てのサンプルについて、および、臓器特異的に示される(単一値及び中央値)。全てのデータ分析をGraphPad Software, Inc.(San Diego,USA)のGraphPad Prism 5を用いて行った。
【0108】
結果:
Voluven(商標)10%又はイコデキストリン7.5%中のHES 130/0.4(10%)による処置は、対照群と比較して腹膜癌指数の低減をもたらした。イコデキストリン4%又は生理食塩水に溶解したHES 130/0.4(20%(w/v))+イコデキストリン(15%(w/v))による処置はPCIのより小さな低減をもたらした。イコデキストリン7.5%の投与はPCIの低減と関連しなかった。動物体重の推移によって示されるように、物質関連毒性は検出されなかった。
【0109】
実施例3:概要
図11は実施例1及び実施例2において得られるデータの集成を示す。データを比較可能とするために、対照(生理食塩水)の全PCI値を100%に設定し、更なる値を対照に対する%として表した。理解されるように、最大5%のイコデキストリンと最大10%のHESとを含む溶液は、対照及び単一多糖を含む溶液の両方と比較して腫瘍細胞定着からの保護の改善を示す。7.5%を超えるイコデキストリン濃度の更なる増大及び/又は20%へのHES濃度の更なる増大は更なる改善をもたらさない。7.5%イコデキストリンを含有する溶液は4%イコデキストリン溶液と比較して保護効果を改善しないが、依然として対照溶液の投与と比較して効果的である。理論に束縛されることを望むものではないが、保護効果がおそらくは本発明の溶液の浸透(高張)効果に起因するものではないことをこれらのデータから結論付けることができる。
【0110】
実施例4:デキストラン40との比較
図12は、実施例1において得られるデータ及び国際出願PCT/EP2014/065990号において「実施例2」として開示される以前の実験から得られるデータの集成を示す。データを比較可能とするために、対照(生理食塩水)の全PCI値を100%に設定し、更なる値を対照に対する%として表した。理解されるように、最大5%のイコデキストリンと最大10%のHESとを含む溶液は、対照及び単一多糖を含む溶液の両方と比較して腫瘍細胞定着からの保護の改善を示す。この効果はデキストラン40の効果と比較してより顕著である。