特許第6347968号(P6347968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347968
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】柔軟ポリウレタンコーティング手袋
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/00 20060101AFI20180618BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   A41D19/00 M
   A41D19/00 P
   A41D19/015 210A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-52572(P2014-52572)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-161057(P2015-161057A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】391009372
【氏名又は名称】ミドリ安全株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100140475
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 泰次
(72)【発明者】
【氏名】小間 正博
(72)【発明者】
【氏名】平馬 大輔
(72)【発明者】
【氏名】谷口 圭一
【審査官】 ▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−194347(JP,A)
【文献】 特開2007−131988(JP,A)
【文献】 特開2004−137628(JP,A)
【文献】 特開2013−185267(JP,A)
【文献】 特開2000−096322(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3160512(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 19/00−19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業用編み手袋の編成に使用する手袋編み機の設定ゲージ数が13ゲージまたは15ゲージであり、
前記手袋編み機の度目が3.0〜5.0であり、
前記手袋編み機のステッチホルダー動作時の突っ込み位置が4〜6針分であり、
前記作業用編み手袋の編成に使用する糸のデニール数が100〜200デニールであり、
前記使用する糸の伸縮弾性率が80%以上である作業用手袋。
【請求項2】
請求項1記載の作業用手袋において、ポリウレタン、天然ゴム、NBR、ブタジエンゴム、シリコーンゴム、PVCのいずれか、あるいはその組み合わせからなるすべり止め加工が施された作業用手袋。
【請求項3】
請求項2記載の作業用手袋において、屈曲反発力が8.0mN/mm未満である作業用手袋。
【請求項4】
設定ゲージ数が13ゲージまたは15ゲージの手袋編み機を用いた作業用編み手袋の製造方法において、
前記手袋編み機の度目を3.0〜5.0に設定し、
前記手袋編み機のステッチホルダー動作時の突っ込み位置を4〜6針分に設定し、
デニール数が100〜200デニールであって、かつ伸縮弾性率が80%以上の糸を用いて編み手袋を編成する作業用編み手袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
薄手で作業性が改善された作業用手袋、及びその製造方法に関する。詳しくは、組み立て作業などに用いられる作業用編み手袋(すべり止め付き)について、作業性、フィット感を向上させるとともに、生産性も向上した手袋、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業用手袋に使われる編み手袋は、横編機などの袋編機に分類される専用の横編機を用いて編成される。
【0003】
特許文献1には、機体2の前後にV字状に配置された前針床3と後針床5を有する袋編機1が開示されている。特許文献2では、編成カム33,34の一部を構成している鉄砲山カム35が、ワイヤ等の連係手段により、機体2に揺動可能に設けられたアーム36に連係されている。例えば、特許文献3、特許文献4には、専用の横編機として、各指袋間の指股部に重ね編みの編成を施すためのステッチホルダーと呼ばれる抑止杆が備えられている。
【0004】
「ニット入門講座」(非特許文献1)によれば、一般的な編目形成運動では、編針が上昇しはじめ、既に形成された編目(以下、既成編目)によってベラが開かれる。クリアリング動作では、既成編目は編針が最も高く上げられてベラの下方にくる。そして新しい糸が編針の鈎部(フック)に給糸される。次に編針が下降して、既成編目によってベラが閉じられて最も低い位置まで下げられ、編目が編針を脱出して既成編目上に新しい編目を形成する(ノックオーバーと呼ばれる)。
【0005】
特許文献5には、作業用手袋の編み手袋に使われる糸の太さの幅は広く開示されている。糸の太さは40〜1000dtex(36〜900デニール)の範囲で選択できることが記載されている。ノックオーバー動作が正常に行われるために必要な伸縮力が不十分になると、編目が編針に引掛った状態で新しい編目が形成されることになり、編目形成の不良が発生してしまう(非特許文献1)。また、“Knitting Technology”(非特許文献2)によれば、編み機のゲージ数により糸の最適なデニール数の範囲が認められている。例えば、従来の作業用手袋で多く使われている13ゲージ、15ゲージの横編機において実際に使用される糸のデニール数は280〜320程度であった。
【0006】
この13ゲージ、15ゲージの横編機の適正総デニール数の糸で編まれた編み手袋は厚く、ポリウレタンなどの滑り止めをコートすると、厚さが1.0mmを超え、出来上がった滑り止め付き作業用手袋は固く、作業性、フィット感の悪いものであった。
【0007】
これを改善するため、これまでに手袋の厚さを薄くすることを目的として編み手袋に使われる糸を細くする試みが行われてきた。例えば、特許文献6には、水溶性繊維と非水溶性繊維からなる糸で手袋を編成し、編成後の後処理として、水につけることにより水溶性繊維を除去することにより、糸の細い手袋が得られることが開示されている。また、特許文献7には、221デニール以下の糸で編成することにより薄い編み手袋が編成でき、作業性、フィット感はよい手袋が生産できることが開示されている。具体的には18ゲージ編み機を使用して編成する方法であって、18ゲージ編み機の糸の適正デニールが13ゲージ、15ゲージより細いため製造に適していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−029942号公報
【特許文献2】特開2008−007916号公報
【特許文献3】特開2000−220064号公報
【特許文献4】特開2007−131983号公報
【特許文献5】国際公開WO2008/029703号公報
【特許文献6】特開2003−138409号公報
【特許文献7】特開2009−527658号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ニット入門講座(1996年3月29日、相原英勝著、株式会社センイ・ジヤァナル発行、98)
【非特許文献2】Knitting Technology(David J.Spencer著、18.6“Yarn counts”)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2003−138409号の方法では、水洗の手間がかかるほか、洗浄が不十分の場合、水溶性繊維が不純物となった。また、編み目の大きさは太い糸の時と変わらないため、編み目が粗かった。特許文献7の製法では、18ゲージ手袋編み機自体のコストは13ゲージ、15ゲージの手袋と比べ高いため、導入時の負担が大きく、出来上がった編み手袋の価格は13ゲージ、15ゲージの手袋と比べ高く設定しなければならなかった。
【0011】
手袋をより薄くするには、140デニール以下の細い糸を使用しなければならないが、現在の編み機では糸切れを生じる。18ゲージ針を使用して221以下のデニールの糸から作られた薄型編み地は、15ゲージ針を使用した標準の編み地より約30%少ない重量及び厚みを有する。しかし、18ゲージ編み機は編成コース数が多く、13ゲージ、15ゲージの手袋と比べ、1双の手袋を生産するのにかかる時間が長くなるため、13ゲージ、15ゲージの手袋と比べて生産性が悪かった。
【0012】
本発明は、18ゲージ編み機で製造できる薄く作業性の良い作業用手袋と同等のものを、広く普及している13ゲージ、15ゲージ編み機で安価に製造できるようにし、すべり止めを施した場合でもやわらかく、フィット感、作業性の良い作業用手袋を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、上記の問題に鑑みて、編み手袋に使用する糸の太さを細くし、15ゲージ、13ゲージ横編機で、適正デニール数の範囲以下である280デニール以下の編み手袋を作成して課題を解決しようと試みた。
【0014】
先に説明した通り横編み機の適正総デニール数は、ノックオーバーが正常に行われるのに必要な引張力との兼ね合いから生まれるものであった。これを解消し、適正値より細い総デニール数で編成するための編み機設定として、編目の大きさ(度目と呼ばれる)を小さくすることにより編み物の伸縮性を抑え、編成された編み物を送る機構から引張力が伝わることにより正常にノックオーバーが行われるのに必要な引張力を得る方法がある。
【0015】
しかし、この編み機設定の傾向を15ゲージ、13ゲージ編み機で210デニールまでは編成できたが、200デニール以下の糸を編成する際に適用しようとすると、例えば指袋の隣接部付近に穴あきなどの不良が多数発生したため、生産的に編成できなかった。これは、指袋隣接部の編成時、編針上に抑えている編目が、度目を小さくしたことにより自由度が小さくなったため、編目編成運動における編針の上下動による摩擦が著しく強くなり切断されてしまうためであると考えられる。
【0016】
本発明者らは鋭意検討の結果、編み機の設定と使用する糸の伸縮性の組み合わせを工夫することにより、15ゲージ編み機または13ゲージ編み機で、18ゲージ編み機の適正総デニール数の糸を使用して編み手袋を編成する方法を見出した。
【0017】
本発明は、作業用編み手袋の編成に使用する糸が
(1)13ゲージ、または15ゲージである手袋編み機の設定ゲージ数、及び
(2)100〜200デニールである使用する糸の適正デニール数、に
適合した伸縮性を有する作業用手袋である。
【0018】
前記作業用手袋において、すべり止め加工が施され、ポリウレタン、天然ゴム、NBR、ブタジエンゴム、シリコーンゴム、PVCのいずれか、あるいはその組み合わせからなる。
【0019】
前記作業用手袋において、好ましくは、屈曲反発力が8.0mN/mm未満である。
【0020】
前記作業用手袋において、好ましくは、編み機の度目が3.0〜5.0である。
【0021】
前記作業用手袋において、好ましくは、使用される糸の伸縮弾性率が80%以上である。
【0022】
さらに、本発明は、作業用編み手袋の製造方法において、
(1)手袋編み機の設定ゲージ数として13ゲージ、または15ゲージ
(2)使用する糸の適正デニール数として100〜200デニール、に
適合した伸縮性を有する糸を用いて編み手袋を編成する作業用編み手袋の製造方法である。
【0023】
前記作業用手袋の製造方法において、好ましくは、編み機の度目が3.0〜5.0である。
【0024】
前記作業用手袋の製造方法において、好ましくは、使用される糸の伸縮弾性率が80%以上である。
【0025】
加えて、テスターによるアンケート結果と、以後に示す評価試験の結果より、編み手袋に使われる糸が100〜200デニールで、湿式成膜したポリウレタンの滑り止めを施した場合、従来の湿式成膜したポリウレタンの滑り止めを施した手袋と比べ作業性が大きく改善された手袋が得られる。
【0026】
また、本発明の波及効果として、同等品が生産可能である18ゲージ編み機と比べ、編み手袋1双にかかる編成時間が14分から12分程度と約15%短縮され、生産性が向上された。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、18ゲージ編み機で製造できる薄く作業性の良い作業用手袋と同等のものを、安価で広く普及している13ゲージ、15ゲージ編み機で製造できるようにし、すべり止めを施した場合でもやわらかく、フィット感、作業性の良い作業用手袋を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】編み機のゲージ設定を表現する図である。
図2】本実施形態における横編み機のステッチホルダーを示す図である。
図3】編み機の度目設定とステッチホルダーの位置を表わす図である。
図4図2のステッチホルダーの位置を表わす図である。
図5】編成時の編針の動作を示す模式図である。
図6】屈曲反発力試験の概要図である。
図7】ウレタンコート付編み手袋外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明者は鋭意検討の結果、穴あきなどの編成不良を改善するため、従来の編み機設定とは逆に度目を大きくすることにより、正常にノックオーバーを行うのに必要な引張力については、糸の伸縮性を高める、あるいは伸縮性の高い糸を用いることにより、13ゲージ、15ゲージ手袋横編機で、下記の設定条件により200デニール以下の編み手袋を生産的に編成できることを見出した。
【0030】
ここで、編み機のゲージ数は、針床に配置される編針の間隔の単位を表す。例えば、図1−(a)に示すように、15ゲージとは、単位長さ当たりの編針の本数を示し、通常、編針の数が1インチ当たり15本であることを意味する。同様に、図1−(a)に示すように、13ゲージとは、通常、編針の数が1インチ当たり13本であることを意味する。
【0031】
編み手袋を編成する際は、手袋用の横編機を用いられ、この手袋用の横編機には、編成するウエール方向端部の編目を抑えるためのステッチホルダーと呼ばれる抑止杆が備えられている(図2参照)。ステッチホルダーで編成するウエール方向端部の編目を抑えている状態で、編針がウエール方向端部の次の編目を形成する。
【0032】
編み機の度目は、コース方向の編み目の大きさ(間隔)を規定する。度目値として、従来は、使用糸のデニール数が減少するに従って小さく設定され、例えば、200デニール以下の使用糸の太さでは、2.3程度であった(図3参照)。本実施形態においては、200デニール以下、好ましくは、100〜200デニールの使用糸について、度目値は、3.0〜5.0であり、ステッチホルダー動作時の突っ込み位置が4〜6針分、より好ましくは4〜5.5針分である(図4参照)。
【0033】
手袋を編成する際は、指袋を編成した後、この編成された指袋の編目のうち、次に編成する指袋と隣接する側のウエール方向端部の数目をステッチホルダーで抑えて編針に係止させた状態にする。そして、次の指袋の編成を行うときに、ステッチホルダーで編目を抑えている編針を用いて、この指袋のウエール方向端部の編目を形成する。
【0034】
小指から人差指へと順に指袋を編成して5本指の手袋を編成する場合には、第一に、編成された指袋に対して、次に編成する指袋側のウエール方向端部の編目をステッチホルダーで抑えつけた状態にする。
【0035】
次に、ステッチホルダーで編目を抑えている編針でウエール方向端部の編目を形成するようにして、隣接する次の指袋を編成する。このステッチホルダーにより、指股部に重ね編みが施されて指股部に孔が開かないようにすることができる。
【0036】
その後、この指袋の編成が終了すると、ステッチホルダーの位置を、この編成された指袋における次に編成する指袋側のウエール方向端部の編目が係止されている編針まで移動させる。このように、小指から人差指の指袋を編成するまで、指袋の編成動作に応じて、ステッチホルダーの位置を移動させて、次に編成する指袋側のウエール方向端部の編目をステッチホルダーで抑える抑止動作を繰り返す(図3参照)。
【0037】
本実施形態では、袋編機1は、機体の前後にV字状に配置された前針床と後針床を有する。前針床と後針床には、ガイド溝が形成され、編針11が各ガイド溝に摺動自在に取り付けられている。編針11は、先端にフックが形成され、さらにフックの先端と係合する回動可能なべらが設けられている。
【0038】
図5を参照して、編針11は、上部にバットが形成されたニードルジャック12に接続されている。ニードルジャック12は、コントロールジャック15に連係されている。コントロールジャック15は、摺動突部16と、摺動突部16を選針ドラムに接触する方向に付勢するバネ部材を備えている。
【0039】
袋編機1は、前キャリッジ31と後キャリッジ32を往復動させると編み袋が編成される。前キャリッジ31及び後キャリッジ32が一方(右方)に動作すると、編み袋の後面が編成され、前面は編成されない。前キャリッジ31及び後キャリッジ32を他方(左方)に動作すると、編み袋の前面が編成され、後面は編成されない。
【0040】
キャリッジ31,32が移動すると、編成カム33,34がニードルジャック12のバット13を案内し、前記コントロールジャック15の摺動突部16と接触し、ニードルジャック12のバット13を上方に押し上げる。編成カム33,34がニードルジャック12のバット13を案内して、ニードルジャック12に接続された編針11が上下動する。
【0041】
前キャリッジ31及び後キャリッジ32が一方(右方)に動作する時、前キャリッジ31は、編成カム33が前針床のニードルジャック12のバット13を案内せず、前針床の編針11を上下動させない。前キャリッジ31及び後キャリッジ32が他方(左方)に動作する時、前キャリッジ31は、編成カム33が前針床3のニードルジャック12のバット13を案内し、前針床の編針11を上下動させる。
【0042】
前キャリッジ31及び後キャリッジ32が一方(右方)に動作する時、後キャリッジ32は、編成カム34が後針床のニードルジャック12のバット13を案内し、後針床の編針11を上下動させる。前キャリッジ31及び後キャリッジ32が他方(左方)に動作する時、後キャリッジ32は、編成カム34が後針床のニードルジャック12のバット13を案内せず、後針床の編針11を上下動させない。従って、袋編機は、前キャリッジ31及び後キャリッジ32を両側方向(左右方向)に往復する反復動作をすると、1コース分の編目が形成され、この編目に順次ウエール方向の編目を形成して編み袋が編成される。
【0043】
編み袋のサイズ及び作成位置は、上下動させる編針11の数及び位置によって変更することができる。例えば、選針ピンを選針ドラムに着脱可能に取り付け、選針ドラムを回転させて、取り付けられた選針ピンによって、ニードルジャック12が押し上げられ、ニードルジャック12のバット13がキャリッジ31,32の編成カム33,34に係合し、対応する編針11が上下動するようにしてもよい。
【0044】
作業用手袋は、横編機により、小指、薬指、中指、人差指、親指の指袋、4本胴の編成部が手の甲側または手の掌側において同一平面になるように編成されている。作業用手袋は、まず小指の指袋から編み始め、薬指、中指、人差指の順に各指袋が編まれ、人差指の指袋の編成が行われた後に、編糸を周回させて4本胴を編成する。
【0045】
さらに、4本胴を形成した後、親指の指袋を編成するときも、4本胴のウエール方向端部の編目をステッチホルダーで抑えながら、図2のステッチホルダー21で抑えられている編目が係止される編針も用いて親指の指袋の編成を行う。このように編まれた手袋は孔が開かず、且つ強固なものに仕上げることができる。
【0046】
例えば、図3に示される従来法の編み機設定(度目値が2.5、ステッチホルダー動作時の突っ込み位置が3.5である)では、不良率は、80%程度であった。本発明の編み機設定(度目値が3.0〜5.0、ステッチホルダー動作時の突っ込み位置が4.0〜6.0針分である)に適合する糸の伸縮性は、80%以上であり、本発明の編み機設定と糸の伸縮性の組み合わせによれば、不良率を3%以下に抑えられ、生産的に編成することができる。
【0047】
使用される糸の種類は特に限定はされないが、ウーリー加工されたナイロン、またはポリエステルなどの化学繊維が好ましい。ここで、糸の伸縮性は、以下に示す試験方法(JIS L 1013)に準拠して測定され、糸のテックス数に対する所定荷重の負荷時の伸張と除荷時の伸張から算出される伸縮弾性率である。また、使用される糸の伸縮性については温湿度によっても変化し、糸の特性だけではなく、周辺環境の温度を調整することにより必要な伸縮性を得ることもできる。
【0048】
この方法で編成された編み手袋に湿式成膜により溶剤系ポリウレタンの滑り止め加工を施した作業用手袋は従来の13ゲージ、15ゲージ編み機でできた作業用手袋より作業性が改善された。滑り止め加工は、ポリウレタン、天然ゴム、NBR、ブタジエンゴム、シリコーンゴム、PVCのいずれか、あるいはその組み合わせからなる。100〜200デニールの使用糸に対する13ゲージ、15ゲージ編み機の度目を3.0〜5.0に設定しても、糸の伸縮性により、編成された編み目は、18ゲージ編み機の度目を2.5に設定した編み目相等であるので、滑り止め加工を施した作業用手袋は18ゲージ編み機の作業用編み手袋を用いた作業用手袋と同等性能であった。
【0049】
このようにして編成された編み手袋に滑り止め加工を施した作業用手袋は、組み立て作業など多くの作業に使われるために適している。
【実施例】
【0050】
<編み手袋の編成>
上述の13ゲージ、15ゲージ手袋横編機で、好ましくは15ゲージであって、使用される糸の総デニール数が100〜200デニール、好ましくは100〜150デニールであって、70デニール双糸、50デニール双糸の組み合わせにより編み手袋を編成した。
【0051】
編み機条件(度目値、ステッチホルダー位置)及び糸の伸縮性は以下のとおりである。編み機条件として、度目値は3.0〜5.0であり、ステッチホルダー動作時の突っ込み位置が4〜6針分、より好ましくは4〜5.5針分である。
【0052】
使用される糸の伸縮性を示す伸縮弾性率は、試験規格としてJIS L 1013 伸縮性A法に準拠して測定される(図5参照)。糸の伸縮弾性率は、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
【0053】
実施例の場合、温度20℃〜45℃、湿度40%以上で調製した糸を使用して編成を行った。好ましくは温度25℃〜40℃、湿度50〜80%である。
【0054】
この伸縮性の糸を用いることにより、編成時の編み目の大きさを大きくしたものも、糸が縮むことにより編み目が密になり、見栄えもよくなった。
【0055】
<滑り止め加工>
得られた編み手袋を、常法の湿式成膜により溶剤系ポリウレタン溶液に浸漬、乾燥し、編み手袋の外表面に滑り止め加工を施した。図7に得られた作業用手袋の外観図を示す。
【0056】
<屈曲反発力試験>
滑り止め加工を施した編み手袋の柔軟性を評価するため、屈曲反発力試験は以下の試験方法で行った。図6に試験装置外観を示す。
・試験片:幅:30mm 長さ:70mm
・板間:4mm
・試験片を長さ方向に半分に折り、板間4mmの2つの板の間に挟み込んだ際の反発力(N)を求め、その値を幅(30mm)で割って屈曲反発力(mN/mm)を求める。
【0057】
<アンケート評価>
滑り止め加工を施した編み手袋のフィット感、作業性について、装着した人によるアンケートを実施した。
【0058】
表1、表2に、実施例1〜2、比較例1〜3で用いた編み機のゲージ数、糸の仕様、糸の伸縮性(伸縮弾性率)、総デニール数、編み機の度目設定、編成時間、コート素材、厚さ、屈曲反発力を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
これらの数値と、テスターによるアンケート結果を合わせてみると、屈曲反発力が8.0mN/mm以上となると、フィット感が著しく悪くなることが分かった。そして、屈曲反発力が8.0mN/mm未満となる編み手袋に使われる糸が200デニール以下になるとフィット感、作業性がよいとの結果となった。
【0061】
これまでの設定と比べ、低い不良率で100〜200デニールの13、15ゲージの編み手袋を編成できるようになった。この方法で編成された編み手袋に湿式成膜により溶剤系ポリウレタンの滑り止め加工を施した作業用手袋は8.0mN/mm未満を達成した。作業性、及びフィット感が向上した。1双を作るのにかかる編成時間を14分から12分に(15%)短縮し、生産性を向上した。
【産業上の利用分野】
【0062】
作業用すべり止め付き編み手袋について、作業性、フィット感を向上させるとともに、生産性も向上した手袋、及びその製造方法に関する発明であり、組み立て作業などに用いられる。
【符号の説明】
【0063】
1 袋編機
11 編針
12 ニードルジャック
13 バット
15 コントロールジャック
16 摺動突部
21 ステッチホルダー
31 前キャリッジ
32 後キャリッジ
33 編成カム
34 編成カム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7