特許第6347974号(P6347974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347974
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】クラッチユニット
(51)【国際特許分類】
   F16D 15/00 20060101AFI20180618BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20180618BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   F16D15/00 Z
   F16D41/08 Z
   F16D41/06 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-68416(P2014-68416)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190573(P2015-190573A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】川合 正浩
(72)【発明者】
【氏名】日比 康雅
(72)【発明者】
【氏名】神戸 祥吾
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−067793(JP,A)
【文献】 特開2001−208100(JP,A)
【文献】 特開2005−048821(JP,A)
【文献】 特開平11−218158(JP,A)
【文献】 特開平11−218159(JP,A)
【文献】 特開2006−349111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00−23/14
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側に設けられ、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御するレバー側クラッチ部と、出力側に設けられ、前記レバー側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とが自動車用シートリフタ部に組み込まれるクラッチユニットにおいて
前記ブレーキ側クラッチ部は、回転が拘束された静止部材と、前記静止部材に対して回転自在に配置され、前記レバー側クラッチ部からの回転トルクを出力する出力部材と、静止部材と前記出力部材との間に係合および離脱自在に配置され、出力部材から逆入力される回転トルクの遮断とレバー側クラッチ部から入力される回転トルクの伝達とを制御する係合子とを備え、前記静止部材の係合子との接触部の表面硬度をHV600〜750とし、その表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差をHV100〜200とすることを特徴とするクラッチユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レバー操作により回転トルクが入力されるレバー側クラッチ部と、そのレバー側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側からの回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とを備えたクラッチユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、円筒ころやボール等の係合子を用いるクラッチユニットにおいては、入力部材と出力部材との間にクラッチ部が配設される。このクラッチ部は、前述の入力部材と出力部材との間で円筒ころやボール等の係合子を係合および離脱させることによって、回転トルクの伝達および遮断を制御する構成になっている。
【0003】
本出願人は、レバー操作により座席シートを上下調整する自動車用シートリフタ部に組み込まれるクラッチユニットを先に提案している(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示された従来のクラッチユニットは、レバー操作により回転トルクが入力されるレバー側クラッチ部と、そのレバー側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側からの回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とを備えている。
【0004】
レバー側クラッチ部は、レバー操作により回転トルクが入力される外輪と、その外輪から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部に伝達する内輪と、外輪と内輪との間に形成された楔すきまでの係合および離脱により外輪からの回転トルクの伝達および遮断を制御する複数の円筒ころと、それら円筒ころを円周方向等間隔に保持する保持器と、外輪からの回転トルクで弾性力を蓄積し、その回転トルクの入力がなくなると、蓄積された弾性力で保持器および外輪を中立状態に復帰させる二つのセンタリングばねとで主要部が構成されている。
【0005】
ブレーキ側クラッチ部は、回転が拘束された外輪と、回転トルクが出力される出力軸と、外輪と出力軸との間に形成された楔すきまでの係合および離脱により出力軸からの回転トルクの遮断とレバー側クラッチ部からの回転トルクの伝達とを制御する複数対の円筒ころと、各対の円筒ころ間に介挿され、それら円筒ころ同士に離反力を付勢する板ばねとで主要部が構成されている。なお、レバー側クラッチ部の内輪は、レバー側クラッチ部からの回転トルクをブレーキ側クラッチ部に伝達する機能と、外輪と出力軸との間に配された各対の円筒ころを円周方向等間隔に保持する機能とを備えている。
【0006】
レバー側クラッチ部では、レバー操作により外輪に回転トルクが入力されると、円筒ころが外輪と内輪との間の楔すきまに係合し、その円筒ころを介して内輪に回転トルクが伝達されて内輪が回転する。この時、外輪および保持器の回転に伴って両センタリングばねに弾性力が蓄積される。その回転トルクの入力がなくなると、両センタリングばねの弾性力により保持器および外輪が中立状態に復帰する一方で、内輪は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、この外輪の回転繰り返し、つまり、操作レバーのポンピング操作により、内輪は寸動回転する。
【0007】
ブレーキ側クラッチ部では、座席シートへの着座により出力軸に回転トルクが逆入力されると、円筒ころが出力軸と外輪との間の楔すきまと係合して出力軸が外輪に対してロックされる。このようにして、出力軸から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部でロックされてレバー側クラッチ部への還流が遮断される。これにより、座席シートは上下調整が不可となる。
【0008】
一方、レバー側クラッチ部から回転トルクが内輪に入力されると、内輪が回転して円筒ころと当接して板ばねの弾性力に抗して押圧することにより、その円筒ころが外輪と出力軸間の楔すきまから離脱してロック状態が解除され、出力軸は回転可能となる。内輪がさらに回転することにより、内輪からの回転トルクが出力軸に伝達され、出力軸が回転する。つまり、内輪が寸動回転すると、出力軸も寸動回転することになる。この出力軸の寸動回転により座席シートの上下調整が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−67793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、自動車用シートリフタ部に組み込まれる従来のクラッチユニットのブレーキ側クラッチ部では、車両後方からの追突などによる衝撃力が瞬間的に加わった場合、外輪および出力軸の円筒ころとの接触部が柔らかいと、円筒ころが外輪と出力軸との間の楔すきまに食い込んでしまい、出力軸のロック解除時に円筒ころを楔すきまから離脱させることが困難となる。また、出力軸のロック状態およびその解除が繰り返されることにより、外輪および出力軸の円筒ころとの接触部が早期に摩耗する可能性がある。逆に、外輪および出力軸の円筒ころとの接触部が硬いと、出力軸のロック時に円筒ころが外輪と出力軸との間の楔すきまから瞬間的に弾かれてしまい、円筒ころの係合による出力軸のロック状態を確保することが困難となる。以上のことから、外輪および出力軸の円筒ころとの接触部の硬度を適正に規定することが要望されている。
【0011】
そこで、本発明は前述の要望に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、瞬間的な衝撃力がブレーキ側クラッチ部に付与されても、円筒ころによる出力軸のロック状態およびその解除を確実に行え、かつ、耐久性に優れたクラッチユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るクラッチユニットは、入力側に設けられ、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御するレバー側クラッチ部と、出力側に設けられ、レバー側クラッチ部からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断するブレーキ側クラッチ部とからなる基本構成を具備する。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本願発明のクラッチユニットにおけるブレーキ側クラッチ部は、回転が拘束された静止部材と、その静止部材に対して回転自在に配置され、レバー側クラッチ部から入力される回転トルクを出力する出力部材と、静止部材と出力部材との間に係合および離脱可能に配置され、出力部材から逆入力される回転トルクの遮断とレバー側クラッチ部から入力される回転トルクの伝達とを制御する係合子とを備え、静止部材および出力部材の少なくとも一方の係合子との接触部は、その表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差をHV100〜200としたことを特徴とする。なお、本発明における接触部の表面硬度は、HV600〜750であることが望ましい。
【0014】
本発明では、静止部材および出力部材の少なくとも一方の係合子との接触部について、その表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差をHV100〜200としたことにより、静止部材および出力部材の少なくとも一方の係合子との接触部の硬度を適正に規定することで、瞬間的な衝撃力がブレーキ側クラッチ部に付与されても、係合子による出力部材のロック状態およびその解除を確実に行え、かつ、耐久性の向上が図れる。なお、この接触部の硬度規定は、静止部材の係合子との接触部、出力部材の係合子との接触部、あるいは、静止部材および出力部材の両方の係合子との接触部のいずれであってもよい。
【0015】
本発明に係るクラッチユニットは、レバー側クラッチ部およびブレーキ側クラッチ部を自動車用シートリフタ部に組み込むことで自動車用途として適している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、静止部材および出力部材の少なくとも一方の係合子との接触部について、その表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差をHV100〜200としたことにより、静止部材および出力部材の少なくとも一方の係合子との接触部の硬度を適正に規定することで、瞬間的な衝撃力がブレーキ側クラッチ部に付与されても、係合子による出力部材のロック状態およびその解除を確実に行え、かつ、耐久性の向上が図れる。その結果、ブレーキ側クラッチ部での動作の安定化および長寿命化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態で、クラッチユニットの全体構成を示す断面図である。
図2図1のA−A線に沿う断面図である。
図3図1のB−B線に沿う断面図である。
図4】(A)は作動耐久試験において外輪の内周面の表面硬度に対する摩耗量を示す表で、(B)は(A)の試験結果をプロットしたグラフである。
図5】(A)は衝撃負荷試験において外輪の内周面の表面硬度に対する発生トルクを示す表で、(B)は(A)の試験結果をプロットしたグラフである。
図6】(A)は表面硬度がHV600の場合、表面から0.2mmの深さ硬度に対する発生トルクを示す表で、(B)は(A)の試験結果をプロットしたグラフである。
図7】(A)は表面硬度がHV750の場合、表面から0.2mmの深さ硬度に対する発生トルクを示す表で、(B)は(A)の試験結果をプロットしたグラフである。
図8】自動車の座席シートを示す斜視図である。
図9】シートリフタ部の一構造例を示す概念図である。
図10図9の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態におけるクラッチユニット10は、図1に示すように、入力側に設けられたレバー側クラッチ部11と、出力側に設けられたブレーキ側クラッチ部12とをユニット化した構造となっている。レバー側クラッチ部11は、レバー操作により入力される回転トルクの伝達および遮断を制御する。ブレーキ側クラッチ部12は、レバー側クラッチ部11からの回転トルクを出力側へ伝達すると共に、出力側から逆入力される回転トルクを遮断する逆入力遮断機能を有する。
【0019】
レバー側クラッチ部11は、図1および図2に示すように、レバー操作により回転トルクが入力される入力部材としての側板13および外輪14と、その外輪14から入力される回転トルクをブレーキ側クラッチ部12に伝達する連結部材としての内輪15と、外輪14と内輪15との間での係合および離脱により外輪14からの回転トルクの伝達および遮断を制御する複数の円筒ころ16と、複数の円筒ころ16を円周方向等間隔に保持する保持器17と、その保持器17を中立状態に復帰させるための内側センタリングばね18と、外輪14を中立状態に復帰させるための外側センタリングばね19とを具備する。
【0020】
このレバー側クラッチ部11において、側板13の外周縁部に形成された爪部13aを、外輪14の外周縁部に形成された切欠き凹部14aに挿入して加締めることにより、側板13を外輪14に固定し、レバー側クラッチ部11の入力部材として一体化している。外輪14の内周には、複数のカム面14bが円周方向等間隔に形成されている。外輪14への回転トルクの入力は、側板13にねじ止め等により取り付けた上下方向揺動可能な操作レバーにより行われる。
【0021】
内輪15は、出力軸22が挿通される筒状部15aと、その筒状部15aのブレーキ側端部を径方向外側に延在させた拡径部15bと、その拡径部15bの外周端部を軸方向に屈曲させることにより突出した複数の柱部15c(図3参照)とからなる。内輪15の筒状部15aの外周面15dと外輪14のカム面14bとの間に楔すきま20が形成され、その楔すきま20に前述の円筒ころ16が保持器17により円周方向等間隔で配設されている。
【0022】
内側センタリングばね18は、保持器17とブレーキ側クラッチ部12の静止部材であるカバー24との間に配設された断面円形のC字状弾性部材で、その両端部を保持器17およびカバー24の一部に係止させている。この内側センタリングばね18は、レバー操作により外輪14から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー24に対して、外輪14に追従する保持器17の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪14から入力される回転トルクの開放時、その弾性力により保持器17を中立状態に復帰させる。
【0023】
内側センタリングばね18の外径側に位置する外側センタリングばね19は、外輪14と前述のカバー24との間に配設されたC字状帯板弾性部材で、その両端部を外輪14およびカバー24の一部に係止させている。この外側センタリングばね19は、レバー操作により外輪14から入力される回転トルクの作用時、静止状態にあるカバー24に対して、外輪14の回転に伴って押し拡げられて弾性力が蓄積され、外輪14から入力される回転トルクの開放時、その弾性力により外輪14を中立状態に復帰させる。
【0024】
保持器17は、円筒ころ16を収容する複数のポケット17aが円周方向等間隔に形成された樹脂製の円筒状部材である。なお、この保持器17の一方の軸方向端部、つまり、ブレーキ側クラッチ部12のカバー24側の軸方向端部には、前述の内側センタリングばね18の両端部を係止させている。保持器17は、径方向で外輪14と内輪15との間に配され、軸方向で前述の外輪14とブレーキ側クラッチ部12のカバー24との間に挟み込まれている。
【0025】
ロック型と称されるタイプで逆入力遮断機能を有するブレーキ側クラッチ部12は、図1および図3に示すように、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが入力される連結部材としての内輪15と、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが出力される出力部材としての出力軸22と、回転が拘束された静止部材としての外輪23、カバー24および側板25と、外輪23と出力軸22との間での係合および離脱により、出力軸22から逆入力される回転トルクの遮断と内輪15から入力される回転トルクの伝達とを制御する複数対の円筒ころ27、および各対の円筒ころ27同士に円周方向への離反力を付勢する断面N字形の板ばね28とで主要部が構成されている。
【0026】
出力軸22は、内輪15の筒状部15aが外挿された軸部22aの軸方向中央部位に、径方向外側に延びて拡径した大径部22bが一体的に形成されている。この出力軸22の大径部22bの側板25と対向する軸方向端面には環状凹部22cが形成され、この環状凹部22cに摩擦リング39が締め代をもって圧入されている。この大径部22bからブレーキ側クラッチ部12へ延びる軸部22aの端部には、シートリフタ部41(図6図8参照)と連結するためのピニオンギヤ22dが同軸的に形成されている。また、大径部22bからレバー側クラッチ部11へ延びる軸部22aの端部にウェーブワッシャ30を介してワッシャ31を圧入することにより、レバー側クラッチ部11の構成部品を抜け止めした構造を具備する。
【0027】
出力軸22の大径部22bの外周面には複数(例えば6つ)の平坦なカム面22eが円周方向等間隔に形成されている。大径部22bのカム面22eと外輪23の内周面23aとの間で設けられた楔すきま26に、二つの円筒ころ27とそれら円筒ころ27間に介挿された一つの板ばね28とがそれぞれ配されている。円筒ころ27および板ばね28は、外輪14から入力される回転トルクを出力軸22に伝達する機能を持つ内輪15の柱部15cにより円周方向等間隔に配設されている。つまり、内輪15の柱部15cは、円筒ころ27および板ばね28をポケット15fに収容して円周方向等間隔に保持することにより保持器として機能する。出力軸22の大径部22bには、内輪15からの回転トルクを出力軸22に伝達するための突起22fが設けられている。突起22fは、内輪15の拡径部15bに形成された孔15eにクリアランスをもって挿入配置されている。
【0028】
外輪23、カバー24および側板25は、厚肉板状の外輪23の外周縁部に形成された切欠き凹部23bと、カバー24の外周縁部に形成された切欠き凹部24aとに、側板25の外周縁部に形成された爪部25aを挿入して加締めることにより、外輪23およびカバー24に側板25を固定し、ブレーキ側クラッチ部12の静止部材として一体化されている。
【0029】
制動部材としての摩擦リング39は、例えば、樹脂材を射出成形などによりリング状に形成した部材であり、側板25に固着されている。この摩擦リング39は、出力軸22の大径部22bに形成された環状凹部22cの内周面22gに締め代をもって圧入される。摩擦リング39の外周面39bと出力軸22の環状凹部22cの内周面22gとの間に生じる摩擦力によって、レバー操作時、出力軸22に回転抵抗が付与される。
【0030】
前述の構成からなるレバー側クラッチ部11では、レバー操作により外輪14に回転トルクが入力されると、円筒ころ16がその外輪14と内輪15との間の楔すきま20に係合し、その円筒ころ16を介して内輪15に回転トルクが伝達されて内輪15が回転する。この時、外輪14および保持器17の回転に伴って両センタリングばね18,19に弾性力が蓄積される。その回転トルクの入力がなくなると、両センタリングばね18,19の弾性力により保持器17および外輪14が中立状態に復帰する一方で、内輪15は、与えられた回転位置をそのまま維持する。従って、この外輪14の回転繰り返し、つまり、操作レバーのポンピング操作により、内輪15は寸動回転する。
【0031】
前述の構成からなるブレーキ側クラッチ部12では、座席シートへの着座により出力軸22に回転トルクが逆入力されても、円筒ころ27がその出力軸22と外輪23との間の楔すきま26と係合して出力軸22が外輪23に対してロックされる。このようにして、出力軸22から逆入力された回転トルクは、ブレーキ側クラッチ部12によってロックされてレバー側クラッチ部11への逆入力トルクの還流が遮断される。これにより、座席シートは上下調整が不可となる。
【0032】
一方、レバー側クラッチ部11からの回転トルクが内輪15に入力されると、内輪15が円筒ころ27と当接して板ばね28の弾性力に抗して押圧することにより、円筒ころ27が楔すきま26から離脱して出力軸22のロック状態が解除され、出力軸22は回転可能となる。内輪15がさらに回転すると、内輪15の拡径部15bの孔15eと出力軸22の大径部22bの突起22fとのクリアランスが詰まって内輪15の拡径部15bが出力軸22の突起22fに回転方向で当接することにより、レバー側クラッチ部11からの回転トルクは、突起22fを介して出力軸22に伝達されてその出力軸22が回転する。つまり、内輪15が寸動回転すると、出力軸22も寸動回転することになる。この出力軸22の寸動回転により座席シートの上下調整が可能となる。
【0033】
以上で説明したブレーキ側クラッチ部12において、外輪23の円筒ころ27との接触部、例えば、外輪23の内周面23aは、その表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差をHV100〜200としている。なお、外輪23の内周面23aの表面硬度は、HV600〜750、好ましくは、HV700が望ましい。この表面硬度に対する深さ硬度の設定は、外輪23の素材を炭素鋼とし、外輪23の内周面23aの熱処理として、浸炭焼入れ焼き戻しを行うことにより実現できる。この熱処理中、雰囲気ガスにアンモニアを添加する窒化処理を行うことも可能であり、このような窒化処理を行えば、深さ硬度のばらつきを少なくして深さ硬度の安定化が図れる。なお、この実施形態では、外輪23の円筒ころ27との接触部として、外輪23の内周面23aについて説明するが、出力軸22の円筒ころ27との接触部、つまり、出力軸22の大径部22bの外周面であるカム面22eについても同様に規定することが可能である。
【0034】
本出願人は、外輪23の内周面23aの表面硬度について、最適な数値範囲を規定するため、作動耐久試験および衝撃負荷試験を実施した。作動耐久試験は、ブレーキ側クラッチ部12でロック状態およびその解除を繰り返す作動により外輪23の内周面23aに発生する摩耗を測定するものであり、衝撃負荷試験は、車両衝突時の衝撃荷重がブレーキ側クラッチ部12に入力された場合、そのブレーキ側クラッチ部12のロック状態およびその解除を確実に行うために必要なトルクを測定するものである。
【0035】
図4(A)は、作動耐久試験において、外輪23の内周面23aの表面硬度に対する摩耗量を示すもので、図4(B)は、図4(A)の試験結果をプロットしたものである。この作動耐久試験では、外輪23の内周面23aの摩耗量の限界値を、ブレーキ側クラッチ部12での作動性および耐久性の点から、例えば5μmとしている。この試験結果から、外輪23の内周面23aの摩耗量が5μm以下となるのは、外輪23の内周面23aの表面硬度がHV600以上であることが判明した。この表面硬度がHV600よりも小さいと、外輪23の内周面23aの摩耗量が大きくなり、作動耐久性の向上が困難となる知見を得た。
【0036】
図5(A)は、衝撃負荷試験において、外輪23の内周面23aの表面硬度に対する発生トルクを示すもので、図5(B)は、図5(A)の試験結果をプロットしたものである。この衝撃負荷試験では、ブレーキ側クラッチ部12に発生するトルクについて、ロック状態およびその解除を確実に行うために必要する最低限トルクを、例えば250Nmとしている。この試験結果から、ブレーキ側クラッチ部12に発生するトルクが250Nm以上となるのは、外輪23の内周面23aの表面硬度がHV750以下であることが判明した。この表面硬度がHV750よりも大きいと、外輪23の内周面23aが硬すぎるため、出力軸22のロック時に円筒ころ27が楔すきま26から瞬間的に弾かれてしまい、円筒ころ27の係合による出力軸22のロック状態を確保することが困難となる知見を得た。
【0037】
また、本出願人は、外輪23の内周面23aの表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差について、最適な数値範囲を規定するため、衝撃負荷試験を行った。この衝撃負荷試験は、前述の外輪23の内周面23aの表面硬度の臨界値であるHV600とHV750の場合について行った。この衝撃負荷試験においても、ブレーキ側クラッチ部12に発生するトルクについて、ロック状態およびその解除を確実に行うために必要する最低限トルクを250Nmとしている。
【0038】
図6(A)は、表面硬度がHV600の場合、表面から0.2mmの深さ硬度に対する発生トルクを示し、図6(B)は、図6(A)の試験結果をプロットしたものである。また、図7(A)は、表面硬度がHV750の場合、表面から0.2mmの深さ硬度に対する発生トルクを示し、図7(B)は、図7(A)の試験結果をプロットしたものである。この試験結果から、ブレーキ側クラッチ部12に発生するトルクが250Nm以上となるのは、表面硬度がHV600の場合、表面から0.2mmの深さ硬度がHV400〜500であり、表面硬度がHV750の場合、表面から0.2mmの深さ硬度がHV550〜650であることが判明した。つまり、表面硬度がHV600とHV750のいずれの場合も、外輪23の内周面23aの表面硬度とその表面から0.2mmの深さ硬度との差がHV100〜200であることが判明した。
【0039】
外輪23の内周面23aの表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差がHV100よりも小さいと、外輪23の内周面23aが硬すぎるため、出力軸22のロック時に円筒ころ27が楔すきま26から瞬間的に弾かれてしまい、円筒ころ27の係合による出力軸22のロック状態を確保することが困難となる知見を得た。また、表面硬度と深さ硬度との差がHV200よりも大きいと、外輪23の内周面23aが柔らかすぎるため、瞬間的な衝撃力が瞬間的に加わった場合、円筒ころ27が楔すきま26に食い込んでしまい、出力軸22のロック解除時に円筒ころ27を楔すきま26から離脱させることが困難となる知見を得た。
【0040】
以上の結果、外輪23の内周面23aの表面硬度をHV600〜750とし、その表面硬度と表面から0.2mmの深さ硬度との差をHV100〜200とすることにより、車両後方からの追突などによる衝撃力がブレーキ側クラッチ部12に瞬間的に加わった場合でも、円筒ころ27が外輪23と出力軸22との間の楔すきま26に食い込むことを抑制でき、出力軸22のロック解除時に円筒ころ27を楔すきま26からスムーズに離脱させることが容易となる。また、出力軸22のロック時、円筒ころ27が楔すきま26から瞬間的に弾かれることを抑制でき、円筒ころ27の係合による出力軸22のロック状態を確保することも容易となる。さらに、出力軸22のロック状態およびその解除が繰り返されても、外輪23の内周面23aが摩耗することも抑制できることが判明した。このように、外輪23の内周面23aの硬度を適正に規定することで、瞬間的な衝撃力がブレーキ側クラッチ部12に付与されても、円筒ころ27による出力軸22のロック状態およびその解除を確実に行え、かつ、耐久性の向上が図れるという知見を得た。
【0041】
以上で詳述した構造を具備するクラッチユニット10は、レバー操作により座席シート40の高さ調整を行う自動車用シートリフタ部41に組み込まれて使用される。図8は自動車の乗員室に装備される座席シート40を示す。座席シート40は着座シート40aと背もたれシート40bとで構成され、着座シート40aの高さHを調整するシートリフタ部41などを備えている。着座シート40aの高さHの調整はシートリフタ部41の操作レバー42によって行う。例えば、座席シート40の座面を低くする場合、レバー側クラッチ部11でのレバー操作、つまり、操作レバー42を下側へ揺動させる操作により、ブレーキ側クラッチ部12のロック状態を解除し、その際に出力軸22に適正な回転抵抗を付与することで、座席シート40の座面を搭乗者にとって違和感なくスムーズに低くするようにしている。
【0042】
図9はシートリフタ部41の一構造例を概念的に示す。シートスライドアジャスタ41bのスライド可動部材41gにリンク部材41c,41dの一端がそれぞれ回動自在に枢着される。リンク部材41c,41dの他端はそれぞれ着座シート40aに回動自在に枢着される。リンク部材41cの他端はリンク部材41eを介してセクターギヤ41fに回動自在に枢着される。セクターギヤ41fは着座シート40aに回動自在に枢着され、支点41h回りに揺動可能である(図10参照)。リンク部材41dの他端は着座シート40aに回動自在に枢着される。
【0043】
図10において、操作レバー42を上側へ揺動操作すると、その方向の入力トルクがクラッチユニット10を介してピニオンギヤ22dに伝達され、ピニオンギヤ22dが反時計方向に回動する。そして、ピニオンギヤ22dと噛合するセクターギヤ41fが時計方向に揺動して、リンク部材41cの他端をリンク部材41eを介して引っ張る。その結果、リンク部材41cとリンク部材41dが共に起立して、着座シート40aの座面が高くなる。
【0044】
このようにして、着座シート40aの高さHを調整した後、操作レバー42を開放すると、操作レバー42が両センタリングばね18,19の弾性力によって下側へ回動して元の位置(中立状態)に戻る。なお、操作レバー42を下側へ揺動操作した場合は、上記とは逆の動作によって、着座シート40aの座面が低くなる。また、高さ調整後に操作レバー42を開放すると、操作レバー42が上側へ回動して元の位置(中立状態)に戻る。
【0045】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0046】
11 レバー側クラッチ部
12 ブレーキ側クラッチ部
22 出力部材(出力軸)
23 静止部材(外輪)
27 係合子(円筒ころ)
41 シートリフタ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10