特許第6348002号(P6348002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6348002ニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348002
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】ニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 23/06 20060101AFI20180618BHJP
【FI】
   E02D23/06 C
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-134095(P2014-134095)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-11534(P2016-11534A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】手塚 広明
(72)【発明者】
【氏名】森田 篤
(72)【発明者】
【氏名】仲井 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】有田 淳
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−107147(JP,A)
【文献】 特許第3974851(JP,B2)
【文献】 特開平09−041869(JP,A)
【文献】 特開平05−156624(JP,A)
【文献】 特開2004−116152(JP,A)
【文献】 特開昭58−213923(JP,A)
【文献】 特開昭60−152726(JP,A)
【文献】 特開2010−216076(JP,A)
【文献】 米国特許第07036577(US,B2)
【文献】 特開2013−087550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00−3/115
E02D 19/00−25/00
E02B 3/04−3/14
E21B 1/00−49/10
E21D 1/00−9/14
G01F 23/00
G01F 23/14−23/296
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調査対象地盤に対して略鉛直方向に削孔を形成し、当該削孔内に、上面及び下面が開放したケーシングを設置し、
前記ケーシングの内部に、前記ケーシングよりも小さな径を有する圧気用配管を設置するとともに、当該圧気用配管の下端を前記ケーシングの下端よりも上方に位置させ、
前記圧気用配管の内部に、前記圧気用配管よりも小さな径を有する排水用配管を設置するとともに、当該排水用配管の下端を前記圧気用配管の下端よりも下方であって、かつ前記ケーシングの下端よりも上方に位置させ、
前記ケーシングの内周面と前記圧気用配管の外周面の間隔内に、可撓性及び伸縮性を有する中空状の閉塞部材を設置し、
前記閉塞部材の中空内に流体を注入して膨張させ、前記ケーシングの内周面と前記圧気用配管の外周面に密着させることにより、前記ケーシングと前記圧気用配管の間隔を閉塞状態とし、
前記圧気用配管と前記排水用配管との間隔を介して、前記ケーシングの下端に向かって送気を行うことにより、前記調査対象地盤から前記ケーシング内に地下水が流入することを許容した状態で、当該地下水の流入水位が予め定めた所定値となる送気圧力を測定し、
前記排水用配管内に流入した地下水を排水手段により排水して、当該ケーシング内への地下水流入量を測定し、
前記送気圧力と前記地下水流入量との関係を求める、
ことを特徴とするニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法。
【請求項2】
前記送気圧力の測定及び前記地下水流入量の測定は、設計深度に達するまで、所定深度毎に行うことを特徴とする請求項1に記載のニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法に関するものであり、特に、大深度のニューマチックケーソン工法において、ケーソン作業室内への地下水の流入水位を所定値に維持することが可能な送気圧力を決定するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニューマチックケーソン工法は、筺体の下部にケーソン作業室を設け、このケーソン作業室内に地下水圧に相当する圧縮空気を送り込んで、ケーソン作業室内への地下水の流入を抑制し、ケーソン作業室内で掘削を行いながら、筺体を地盤中に沈下させて、地下構造物を構築する工法である。ニューマチックケーソン工法により構築する地下構造物は、橋梁や構造物の基礎、地下調整池、シールドトンネルの立坑、地下鉄やトンネルの本体構造物等である。
【0003】
具体的には、筒状筐体の下部に設けたケーソン作業室の下端部に、下方へ向かって鋭角状となった刃を設けておき、筒状筐体の自重および載荷によって筒状筐体を地中に埋設する。その後、筒状筐体を増設して、筒状筐体を所望の大きさにしていきながら、筒状筐体を埋設する際の載荷として利用する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−87550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ニューマチックケーソン工法では、ケーソン作業室内への適正地下水流入量に対する適正送気圧力を把握して、ケーソン作業室内に圧送する空気圧を適切に管理することが必要となる。しかし、適正地下水流入量に対する適正送気圧力を測定する方法は種々考えられるが、特に大深度の地下構造物を構築する際に適した測定方法は確立されていないのが現状である。
【0006】
例えば、湧水圧試験(JFT)により、孔内水位の変動を測定する方法がある。湧水圧試験では、ボーリング孔内に水位観測用のロッドを挿入し、試験区間を閉塞部材(パッカー)で遮閉する。そして、ロッド内に地下水を流入させた際の孔内水位の上昇速度から地盤の透水係数などを求める。すなわち、湧水圧試験では、ロッド内への送気圧力を変化させることにより孔内水位を変動させ、水位の変動速度(水位低下速度及び水位回復速度)を測定して、調査対象地盤の透水係数などを求めることができる。また、ルジオン試験によっても、同様に、調査対象地盤の透水性を評価することができる。
【0007】
湧水圧試験やルジオン試験では、図2に示すように、調査対象地盤に対して略鉛直方向に削孔を形成する。そして、削孔内を一定の気圧として、水頭差(孔内水位と孔外、地盤水位との差)が、当該気圧と同一になった状態で、孔内水位が一定の状態を作り出すことができる。しかし、この状態では、調査対象地盤から孔内へ対する地下水の流入は止まっている。
【0008】
図2において、符号は10削孔、80はパイプ、50はパッカーである。図2では、次式が成立する。なお、Pは送気圧力、Xは地下水流入量、rは水の比重、hnは地下水位を表す。図2に示す例では、P=r×(h1−h2)となるが、r=1とすると、P=h1−h2の位置で平衡状態となる。ここでは、削孔内への地下水の流入はない。したがって、実際のニューマチックケーソン工法の施工状態を再現することはできない。
【0009】
ニューマチックケーソン工法において予め把握しておきたいのは、孔内に所定の圧力で送気を行い、孔内への地下水の流入を許容した状態で、地盤から孔内へ流入する地下水量である。したがって、湧水圧試験やルジオン試験では、ニューマチックケーソン工法において予め把握しておきたい状態を作り出すことはできない。
【0010】
また、試験のためのボーリング孔を削孔した直後の孔内は満水状態である。ここで、JFT試験機を用いて試験を行う場合に、試験の初期段階で孔内の水位を孔底付近(例えば、孔底から20cm程度)まで低下させなければならない。この際、孔内に送気を行って気圧を上昇させることにより、孔内に溜まった地下水を地盤中に押し戻すことが考えられる。ここで、孔内を高圧とすれば、孔内に溜まった地下水を短時間で地盤中に押し戻すことができるが、地盤が崩壊するおそれがあるため、最適な方法とは言えない。したがって、水位の低下には長時間を要するのが一般的である。
【0011】
これに対して、孔内の気圧を高めるのではなく、ポンプを用いて孔内に溜まった地下水を汲み上げて排出することも考えられる。しかし、孔底が深い場合(ポンプによる揚程が高い場合)には、孔内に設置可能な小型ポンプでは地下水を汲み上げられない場合がある。
【0012】
さらに、図3に示すように、削孔(パイプ)内に小型水中ポンプを設置し、あるいは真空ポンプに連通した配管の先端を設置することにより、孔内水位が一定で、かつ地盤から孔内へ地下水が流入し続ける状態を作り出すことができる。しかし、大深度の地盤を調査対象とした場合には、孔内の地下水を汲み上げることが困難である。また、図3に示す例では、孔内水位が孔底付近になく、ニューマチックケーソン工法の施工状態とかけ離れている。図3において、符号10は削孔、80はパイプ、50はパッカー、60は真空ポンプ又は水中ポンプである。
【0013】
図3において、次式が成立する。なお、P`は孔底の水圧、hnは地下水位を表す。図3に示す例では、P`=r×(h1−h5)となる。ここで、h6が大きい場合には真空ポンプや水中ポンプで地下水を排水することはできない。なお、削孔が大深度ではなく、h6が小さい場合には、真空ポンプや水中ポンプで地下水を排水することが可能である。
【0014】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、調査対象地盤に対して略鉛直方向に削孔を形成して、ニューマチックケーソン工法の施工状態を再現し、実際の施工と同様に、孔内を圧気し、調査対象地盤から孔内に一定量の地下水が流入することを許容した状態で、孔内への地下水流入量を測定し、送気圧力と地下水流入量との関係を求めることが可能なニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法は、上述した目的を達成するために提案されたもので、以下の特徴を有している。すなわち、本発明に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法は、調査対象地盤に対して略鉛直方向に削孔を形成し、当該削孔内に、上面及び下面が開放したケーシングを設置する。
【0016】
また、ケーシングの内部に、ケーシングよりも小さな径を有する圧気用配管を設置するとともに、当該圧気用配管の下端をケーシングの下端よりも上方に位置させ、圧気用配管の内部に、圧気用配管よりも小さな径を有する排水用配管を設置するとともに、当該排水用配管の下端を圧気用配管の下端よりも下方であって、かつケーシングの下端よりも上方に位置させ、ケーシングの内周面と圧気用配管の外周面の間隔内に、可撓性及び伸縮性を有する中空状の閉塞部材を設置する。
【0017】
そして、閉塞部材の中空内に流体を注入して膨張させ、ケーシングの内周面と圧気用配管の外周面に密着させることにより、ケーシングと圧気用配管の間隔を閉塞状態とし、圧気用配管と排水用配管との間隔を介して、ケーシングの下端に向かって送気を行うことにより、調査対象地盤からケーシング内に地下水が流入することを許容した状態で、当該地下水の流入水位が予め定めた所定値となる送気圧力を測定する。また、排水用配管内に流入した地下水を排水手段により排水して、当該ケーシング内への地下水流入量を測定する。
【0018】
このような手順により、ニューマチックケーソン工法の施工状態を再現し、実際の施工と同様に、孔内を圧気し、調査対象地盤から孔内に一定量の地下水が流入することを許容した状態で、送気圧力と地下水流入量との関係を求める。
【0019】
また、上述した構成に加えて、送気圧力の測定及び地下水流入量の測定は、設計深度に達するまで、所定深度毎に行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法によれば、ニューマチックケーソン工法の施工状態を再現し、実際の施工と同様に、孔内を圧気し、調査対象地盤から孔内に一定量の地下水が流入することを許容した状態で、孔内への地下水流入量を測定し、送気圧力と地下水流入量との関係を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法の説明図。
図2】湧水圧試験(JFT)により、孔内へ流入する地下水位を平衡状態とする方法の説明図。
図3】圧気を行わない単純な装置により、孔内へ流入する地下水位を平衡状態とする方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の実施形態に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法の説明図である。また、図2及び図3は、本発明の実施形態に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法の優位性を示すための、従来の方法の説明図である。
【0023】
本発明の実施形態に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法では、図1に示すように、調査対象地盤に対して略鉛直方向に削孔10を形成し、当該削孔10内に、ケーシング20、圧気用配管30、排水用配管40を設置する。また、ケーシング20の内周面と圧気用配管30の外周面の間隔内に、可撓性及び伸縮性を有する中空状の閉塞部材(パッカー50)を設置する。そして、閉塞部材(パッカー50)の中空内に流体(空気や水)を注入して膨張させ、ケーシング20の内周面と圧気用配管30の外周面に密着させることにより、ケーシング20と圧気用配管30の間隔を閉塞状態とする。
【0024】
また、排水用配管40内であって、流入してくる地下水の上面近傍(地下水内)に、排水手段である水中ポンプ60を設置して、排水用配管40内の地下水位が一定となるように排水を行い、地下水流入量Qを測定する。
【0025】
また、圧気用配管30及び排水用配管40の上部付近をシーリング材により閉塞状態として、コンプレッサーやガスボンベ等(図示せず)を用いて、圧気用配管30と排水用配管40との間隔内に送気する。なお、送気する気体は、空気、窒素ガス等、どのような気体であってもよい。
【0026】
ケーシング20は、調査対象地盤に対して略鉛直方向に形成した削孔10内に設置する筒状態で、上面及び下面が開放している。削孔10内にケーシング20を設置することにより、削孔10の崩壊を防止し、削孔10の底面のみから地下水の流入を許容する。圧気用配管30は、ケーシング20の内部に設置するパイプであって、ケーシング20よりも小さな径を有しており、圧気用配管30の下端をケーシング20の下端よりも上方に位置させてある。排水用配管40は、圧気用配管30の内部に設置するパイプであって、圧気用配管30よりも小さな径を有しており、排水用配管40の下端を圧気用配管30の下端よりも下方であって、かつケーシング20の下端よりも上方に位置させてある。
【0027】
ケーシング20の内周面と圧気用配管30の外周面の間隔内には、可撓性及び伸縮性を有する中空状の閉塞部材(パッカー50)を設置してある。そして、閉塞部材(パッカー50)の中空内に流体(空気や水)を注入して膨張させ、ケーシング20の内周面と圧気用配管30の外周面に密着させることにより、ケーシング20と圧気用配管30の間隔を閉塞状態とする。また、本実施形態では、圧気用配管30と排水用配管40との間隔の下方に、地下水面の上部付近の圧力を測定するための圧力計70を取り付け(吊り下げ)てある。
【0028】
本発明の実施形態に係るニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正送気圧力の決定方法では、上述した装置を用いて、ニューマチックケーソン工法の施工状態と同様の状態を再現する。そして、この状態で、送気圧力Pと地下水流入量Qとの関係を求める。
【0029】
すなわち、圧気用配管30と排水用配管40との間隔を介して、ケーシング20の下端に向かって送気を行うことにより、調査対象地盤からケーシング20内に一定量の地下水が流入することを許容した状態で、当該地下水の流入水位が予め定めた所定値となる送気圧力Pを測定する。この際、削孔10の孔底からの地下水位は、例えば、10cm〜100cm程度とする。なお、許容する地下水の流入量(地下水位)は、掘削深度、ケーシング20の規模、地盤の土質、施工現場の環境、作業状況等に応じて、適宜設定することができる。
【0030】
また、排水用配管40内に流入した地下水を排水手段である水中ポンプ60により排水して、ケーシング20内への地下水流入量Qを測定する。このような工程を行うことにより、送気圧力Pと地下水流入量Qとの関係を求めることができる。
【0031】
また、送気圧力Pの測定及び地下水流入量Qの測定は、設計深度に達するまで、所定深度毎に行うことが好ましい。これにより、ニューマチックケーソン工法におけるケーソン作業室への適正地下水流入量に対する適正送気圧力を正確に把握して、ケーソン作業室内に圧送する空気圧を適切に管理することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、例えば、削孔10(ケーシング20)の内径を130mm程度とし、最大深度を100m程度とした場合に、送気圧力を0.69MPa程度とすることにより、排水用配管40内の地下水位を孔底から70m程度とすることができる。
【0033】
また、図1において、次式が成立する。なお、Pは送気圧力、Qは地下水流入量、rは水の比重、hnは地下水位を表す。本実施形態では、P=r×(h3−h2)となるが、r=1とすると、P=h3−h2となる。ここで、削孔10内への地下水の流入がない場合、すなわちQ=0の場合は、h4=0で平衡状態となり、P=h1−h2となる。
【符号の説明】
【0034】
10 削孔
20 ケーシング
30 圧気用配管
40 排水用配管
50 パッカー
60 水中ポンプ
70 圧力計
80 パイプ
図1
図2
図3