(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
運転周波数を変更可能な圧縮機と、凝縮器と、電子膨張弁と、蒸発器と、前記凝縮器内の冷媒の圧力を検出する凝縮圧力検出部と、前記蒸発器内の前記冷媒の圧力を検出する蒸発圧力検出部と、前記圧縮機及び前記電子膨張弁を制御する制御部と、を備える冷凍サイクル装置において、
前記制御部は、
前記圧縮機から吐出される前記冷媒の温度に基づいて制御し、
前記冷媒の冷凍サイクルの状態から、前記圧縮機に吸込まれる前記冷媒の乾き度を考慮した制御用吐出温度を演算し、
前記制御用吐出温度が予め定めた基準吐出温度よりも高い場合には、前記圧縮機の前記運転周波数を低下させ、
前記制御用吐出温度が前記基準吐出温度以下である場合には、前記圧縮機の前記運転周波数を維持する冷凍サイクル装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の冷凍サイクル装置を、図面を参照して説明する。
【0010】
図1及び2に示すように、本実施形態の冷凍サイクル装置1は、運転周波数を変更可能な圧縮機11と、室内熱交換器(凝縮器)12と、電子膨張弁13と、室外熱交換器(蒸発器)14と、室内熱交換器12内の冷媒の圧力を検出する室内側圧力検出部(凝縮圧力検出部)15と、室外熱交換器14内の冷媒の圧力を検出する室外側圧力検出部(蒸発圧力検出部)16と、圧縮機11及び電子膨張弁13を制御する制御ユニット17と、を備えている。
この例では、冷凍サイクル装置1は空気調和装置であり、冷媒として例えばR32が用いられている。R32はR410Aに比べて吐出温度が高い冷媒である。
【0011】
圧縮機11は、公知のインバータ制御により、運転周波数を例えば10Hz(ヘルツ)〜100Hzの間で変更させることができる。本実施形態では、圧縮機11には、比較的小型の気液分離器であるサクションカップ20が設けられている。
電子膨張弁(PMV:Pulse Motor Valve)13は、自身の開度が調節されることで電子膨張弁13が設けられた後述する主配管27内の冷媒の流量を調節する。具体的には、主配管27内を冷媒が流れない全閉の状態と、主配管27内を流れる冷媒の流量が最大の全開の状態と、主配管27内を流れる冷媒の流量が全閉と全開との間の状態とを切り換えることができる。
【0012】
室内側圧力検出部15は、室内熱交換器12の図示しない配管の外面に取付けられた室内温度センサ21と、室内温度センサ21が検出した温度に基づいて冷媒の圧力を演算する室内側圧力変換部22とを有している。
室内温度センサ21としては、熱電対等の公知の接触式のものを好適に用いることができる。室内温度センサ21は検出した冷媒の温度を信号に変換して、室内側圧力変換部22に送信する。なお、室内温度センサ21として非接触の温度センサを用いてもよい。
室内側圧力変換部22は、図示はしないが演算素子及びメモリを有している。室内側圧力変換部22のメモリには、R32の温度と、その温度における飽和蒸気圧との関係を表すテーブル(表)が記憶されている。演算素子は、室内温度センサ21から受信した信号を温度に変換する。さらに、メモリに記憶されたテーブルから、その温度における飽和蒸気圧、すなわち室内熱交換器12内の冷媒の圧力を演算する。
室内側圧力変換部22は、演算した室内熱交換器12内の冷媒の圧力、及び、冷媒の温度を、後述する制御ユニット17の主制御部44に送信する。
【0013】
室外側圧力検出部16は、室内側圧力検出部15と同様に構成されている。すなわち、室外側圧力検出部16は、室外熱交換器14の図示しない配管の外面に取付けられた室外温度センサ23と、室外温度センサ23が検出した温度に基づいて冷媒の圧力を演算する室外側圧力変換部24とを有している。
室外温度センサ23、室外側圧力変換部24の構成は、室内温度センサ21、室内側圧力変換部22と同一なので説明を省略する。室外側圧力検出部16は室外熱交換器14内の冷媒の圧力を演算する。
【0014】
本冷凍サイクル装置1は、四方弁26と、圧縮機11、四方弁26、室内熱交換器12、電子膨張弁13、及び室外熱交換器14を順次接続する主配管27とを備えている。
【0015】
室内熱交換器12に対向する位置には、室内熱交換器12に送風するための送風機32が配置されている。送風機32は、制御ユニット17に接続され、制御ユニット17に制御される。
室内熱交換器12、室内温度センサ21、及び送風機32は、図示しないケースに収容されて、室内ユニット33を構成する。
【0016】
室外熱交換器14に対向する位置には、室外熱交換器14に送風するための送風機35が配置されている。四方弁26及び送風機35は制御ユニット17に接続され、制御ユニット17に制御される。
圧縮機11の吸込み口11aと四方弁26との間の主配管27には、比較的大型の気液分離器であるアキュムレータ36が設けられている。すなわち、アキュムレータ36は、主配管27を介して圧縮機11の吸込み口11aに接続されている。
圧縮機11の吐出口11eには、吐出温度を測定するための吐出温度センサ37が取付けられている。吐出温度センサ37は、検出した吐出温度を信号に変換して、制御ユニット17に送信する。
【0017】
ここで、
図3を用いてアキュムレータ36、及び前述の圧縮機11、サクションカップ20の内部構成の一例の概要について、圧縮機11がロータリー型である場合で説明する。
アキュムレータ36の天面には、主配管27の一部である戻り配管27aが接続されている。戻り配管27aは、アキュムレータ36のケース38を貫通し、ケース38内の上方D1において下方D2を向いて開口している。アキュムレータ36はケース38内にU字形の曲がり配管39を有している。曲がり配管39は、両端部よりも曲り部39aの方が下方D2となるように配置されている。
曲がり配管39の一方の端部は、ケース38の上部に固定されている。曲がり配管39の他方の端部39bは、ケース38内の上方D1に上方D1を向いて開口している。この曲がり配管39の他方の端部39bは、戻り配管27aの開口に対向しないように配置されている。
曲がり配管39の曲り部39aには、貫通孔39cが形成されている。
【0018】
アキュムレータ36とサクションカップ20とは、主配管27の一部である接続配管27bで接続されている。接続配管27bは、曲がり配管39の一方の端部に連通している。接続配管27bは、サクションカップ20に挿入された状態でサクションカップ20に固定されている。
サクションカップ20内には、一対の連結配管40の一方の端部が配置されている。各連結配管40の他方の端部は、圧縮機11内に形成された一対のシリンダ11bに連通している。各シリンダ11b内に供給された図示しない冷媒は、シリンダ11b内に配置されたピストン11cがモータ11dにより回転することで圧縮される。圧縮された冷媒は、圧縮機11の吐出口11eから主配管27の一部である吐出配管27cから圧縮機11の外部に送り出される。
なお、圧縮機11はロータリー型に限定されず、レシプロ型やスクロール型等でもよい。
【0019】
制御ユニット17は、
図2に示すように、バス43に接続された前述の室内側圧力変換部22、室外側圧力変換部24、及び主制御部(制御部)44を有している。
バス43には、圧縮機11、電子膨張弁13、温度センサ21、23、四方弁26、送風機32、35、及び吐出温度センサ37が接続されている。
主制御部44は、図示はしないが演算素子、メモリ、及び制御プログラムを有している。
主制御部44のメモリには、後述する吐出温度補正量(第一温度補正量)αを演算するための第一関係式、及び、吐出温度抑制効果(第二温度補正量)βを演算するためのテーブル(関係表)が予め記憶されている。主制御部44は、圧縮機11、電子膨張弁13、四方弁26、及び送風機32、35を制御する。
【0020】
図1に示すように、圧縮機11、電子膨張弁13、室外熱交換器14、制御ユニット17、四方弁26、送風機35、及びアキュムレータ36は、ケース47に収容されて、室外ユニット48を構成する。
ケース47には、主配管27を接続したり分離したりするための接続部49が設けられている。
なお、前述のサクションカップ20、四方弁26、アキュムレータ36、送風機32、35、吐出温度センサ37、ケース47、及び接続部49は、冷凍サイクル装置1の必須の構成ではない。
【0021】
次に、以上のように構成された本実施形態の冷凍サイクル装置1の冷凍サイクルの概要について説明する。
冷凍サイクル装置1は、
図1に示す暖房運転時において以下のように冷媒が流れる。
すなわち、圧縮機11の吐出口11eから吐出された冷媒は、四方弁26の接続配管26a、室内熱交換器12、電子膨張弁13、室外熱交換器14、四方弁26の接続配管26b、アキュムレータ36の順に流れる。そして、冷媒は圧縮機11の吸込み口11aからサクションカップ20内に入る。
【0022】
ここで、アキュムレータ36や圧縮機11の作用を、
図3を用いて詳しく説明する。
主配管27の戻り配管27aからアキュムレータ36内に流れ込む冷媒には、液相の液冷媒R1と、気相のガス冷媒R2とがある。これら液冷媒R1及びガス冷媒R2以外にも、図示しないオイルが戻り配管27aからアキュムレータ36内に流れ込む。液冷媒R1及びオイルは、比重の影響によりケース38の下方D2に溜まり、ガス冷媒R2は液冷媒R1及びオイルよりも上方D1に溜まる。
ガス冷媒R2は、他方の端部39bから曲がり配管39内に吸い込まれる。曲がり配管39内における他方の端部39bから貫通孔39cまでの圧力損失により、貫通孔39cを通して曲がり配管39内に曲がり配管39の外部のものが吸い込まれる。溜まった液冷媒R1及びオイルによる液面R5が貫通孔39cよりも上方D1にある場合には、貫通孔39cを通して液冷媒R1及びオイルが曲がり配管39内に吸い込まれる。
すなわち、アキュムレータ36は液冷媒R1とガス冷媒R2とを分離する機能を有する。
【0023】
曲がり配管39内に吸い込まれたガス冷媒R2、液冷媒R1、及びオイルは、接続配管27b及び連結配管40を介して、圧縮機11のシリンダ11b内に供給される。シリンダ11b内では、ガス冷媒R2はピストン11cにより圧縮される。液冷媒R1は圧縮機11の熱で気化したうえでピストン11cにより圧縮される。液冷媒R1が気化して気化熱を奪うことで、圧縮機11から吐出される冷媒の温度が低くなる。
ただし、液面R5が他方の端部39bよりも上方D1になると、曲がり配管39内に多量の液冷媒R1が流れ込み、シリンダ11b内で液冷媒R1が気化しきれなくなり、ピストン11cが液冷媒R1を圧縮してしまうという、いわゆる液圧縮運転になる。
【0024】
気相の状態で圧縮された冷媒は、吐出配管27cから圧縮機11の外部に送り出される。
暖房運転時には、室外熱交換器14は蒸発器として機能し、室内熱交換器12は凝縮器として機能する。
送風機32を駆動することで、室内熱交換器12で加熱された空気で室内が加熱される。送風機35を駆動することで、室外熱交換器14と外気との熱交換が促進される。
【0025】
一方で、四方弁26が
図1中に点線で示す位置に切り換わると、冷凍サイクル装置1は冷房運転及び除霜運転が可能になる。圧縮機11の吐出口11eから吐出された冷媒は、四方弁26、室外熱交換器14、電子膨張弁13、室内熱交換器12、四方弁26、アキュムレータ36の順に流れる。そして、冷媒は圧縮機11の吸込み口11aからサクションカップ20内に入る。このとき、室外熱交換器14は凝縮器として機能し、室内熱交換器12は蒸発器として機能する。
送風機32、35を駆動しないことで除霜運転になる。
送風機32を駆動することで、室内熱交換器12で冷却された空気で室内が冷却され、冷房運転となる。送風機35を駆動することで、室外熱交換器14と外気との熱交換が促進される。
【0026】
なお、暖房運転時及び冷房運転時においては、基本的に吐出温度センサ37が検出した吐出温度が一定になるように電子膨張弁13の開度を調節して制御される。
【0027】
次に、吐出温度補正量αを演算するための第一関係式、及び、吐出温度抑制効果βを演算するためのテーブルについて説明する。
本実施形態の冷凍サイクル装置1では、予め冷凍サイクル装置のシミュレーションや、冷凍サイクル装置を用いた実験を行うことで、第一関係式及びテーブルを求めている。第一関係式、テーブルは、一般的に冷媒毎に定まるものである。以下では、冷媒としてR32を用いた例で説明する。
まず、第一関係式を求める手順について説明する。
【0028】
図4に示すのは、R32のモリエル線図である。
図4の横軸は比エンタルピ(単位はJ(ジュール)/kg)を示し、縦軸は圧力(単位はパスカル、Pa)を示す。図中に飽和液線及び飽和蒸気線を示す。点線は冷媒の乾き度が一定の等乾き度線であり、一点鎖線は冷媒の温度が一定の等温線である。図において矢印A1側に向かうほど冷媒の乾き度が大きくなり、矢印A2側に向かうほど冷媒の温度が高くなる。以下では、冷凍サイクル装置1が暖房運転をしている場合で説明する。
飽和蒸気線上であって室外熱交換器14内の冷媒の圧力P
0となる冷媒の状態を吸込み状態S
0とする。圧力P
0は、室外側圧力検出部16で検出される圧力である。吸込み状態S
0の冷媒の比エンタルピを吸込み比エンタルピh
0とする。冷凍サイクル装置1が蒸発側や凝縮側で圧力損失が無いとすると、この圧力P
0は、圧縮機11の吸込み口11aにおける冷媒の圧力になる。圧力P
0における吸込み比エンタルピh
0は、冷媒の熱力学物性から求めることができる。
【0029】
吸込み状態S
0の冷媒を、室内熱交換器12の冷媒の圧力P
1まで断熱圧縮した状態を理論吐出状態S
1とする。理論吐出状態S
1の冷媒の比エンタルピを理論吐出比エンタルピh
1、冷媒の温度を理論吐出温度T
1(単位は度(℃)、又はケルビン)とする。圧力P
1は、室内側圧力検出部15で検出される圧力である。理論吐出比エンタルピh
1、理論吐出温度T
1は、圧力P
1における冷媒の熱力学物性から求めることができる。
【0030】
ここで、冷凍サイクル装置1の断熱効率η
cを実験等から求める。断熱効率η
cは例えば、0.7〜0.9程度の値をとる。
理論吐出比エンタルピh
1、吸込み比エンタルピh
0、及び断熱効率η
cから、冷媒を室内熱交換器12内の冷媒の圧力P
0まで圧縮した推定吐出状態S
2の冷媒の比エンタルピである推定吐出比エンタルピh
2を(1)式から算出する。
h
2=h
0+(h
1−h
0)/η
c ・・(1)
推定吐出状態S
2の冷媒の温度である推定吐出温度T
2は圧力P
1及び推定吐出比エンタルピh
2と冷媒の熱力学特性から求めることができる。ここで、(1)式からわかるように、推定吐出比エンタルピh
2は理論吐出比エンタルピh
1より大きな値となるため、
図4に示すように推定吐出温度T
2は理論吐出温度T
1よりも大きくなる。
【0031】
暖房運転時において、蒸発器として機能する室外熱交換器14内の冷媒の圧力P
0、凝縮器として機能する室内熱交換器12内の冷媒の圧力P
1を様々に変化させて実験を行う。ここで、圧力P
0に対する圧力P
1の比(P
1/P
0の値)を圧縮比C
Rとする。推定吐出温度T
2から理論吐出温度T
1を引いた温度差、すなわち(2)式のように規定される吐出温度差ΔT
2を定める。
ΔT
2=T
2−T
1 ・・(2)
【0032】
冷媒がR32である場合に、圧力P
0、P
1を変化させたときの、圧縮比C
Rに対する吐出温度差ΔT
2の関係を
図5に示す。この吐出温度差ΔT
2は吐出温度補正量αに等しい。吐出温度補正量αの単位は、理論吐出温度T
1に倣う。
圧縮比C
Rに対する吐出温度補正量αの関係を2次の多項式で近似した結果、(3)式のように、圧縮比C
Rに対する吐出温度補正量αの関係を表す第一関係式が求められる。
α=−0.27C
R2+5.93C
R−2.56 ・・(3)
このように、吐出温度補正量αは、圧縮比C
Rに基づいて定まる。吐出温度補正量αは、第一関係式である(3)式に圧縮比C
Rの値を代入することで求められる。
吐出温度補正量αは、実際に圧縮機11から吐出される冷媒の温度を想定するとともに、断熱効率η
c及び、圧縮機11内での冷媒の摩擦熱の影響を表す指標である。
【0033】
次に、吐出温度抑制効果βを演算するためのテーブルを求める手順について説明する。
実際に冷凍サイクル装置1を用いて、予め、圧縮機11の吸込み口11aにおける冷媒の過熱度がほぼ0℃(例えば1℃)である所定の値となるように調節する。
図6に示すように、この時の状態を状態aとし、冷媒を圧縮機11で圧縮して圧縮機11から吐出される冷媒の温度である実吐出温度T
d0を測定する。実吐出温度T
d0は、例えば140℃だとする。
この状態aから電子膨張弁13の開度を大きくしていくと、状態b〜fのように圧縮機11から吐出される冷媒の温度は、例えば130℃、120℃と低下していく。図の右の軸には、圧縮機11から吐出される冷媒の温度が実吐出温度T
d0から低下した量の大きさ、すなわち冷却効果を示す。
【0034】
この冷媒の温度が低下していく傾向は、以下の2つの状態に分けられる。1つは、状態a、bのように電子膨張弁13の開度を大きくするのにしたがって冷媒の吐出温度が低下していく温度低下状態である。もう1つは、状態c〜fのように電子膨張弁13の開度を大きくしても冷媒の温度が一定(ほぼ一定も含む)になって飽和する温度一定状態である。これら温度低下状態と温度一定状態とのとの境界の状態における、圧縮機11から吐出される冷媒の温度が実吐出温度T
d0から低下した温度低下量ΔT
dを求める。この温度低下量ΔT
dは吐出温度抑制効果βに等しい。吐出温度抑制効果βの単位は、理論吐出温度T
1に倣う。
吐出温度抑制効果βは、圧縮機11が液圧縮運転にならない程度まで液冷媒R1を圧縮機11に戻す指標である。圧縮機11に流れ込む冷媒の乾き度を小さくなるほど、液圧縮運転になりやすくなる。
室外熱交換器14内の冷媒の温度、及び圧縮比C
Rを様々に変化させて求めた、室外熱交換器14内の冷媒の温度、及び圧縮比C
Rに対する吐出温度抑制効果βの関係を表すテーブルは、例えば表1のようになる。
なお、図中の「−」は、そのような運転条件はあり得ない(生じない)ことを意味する。
【0036】
吐出温度抑制効果βは、このテーブルから室外熱交換器14内の冷媒の温度、及び圧縮比C
Rに対応付けられた数値を読み取ることで求められる。例えば、冷媒の温度が−15℃で圧縮比C
Rが11の場合には、吐出温度抑制効果βは30℃となる。
吐出温度抑制効果βは、アキュムレータ36が液冷媒R1とガス冷媒R2とを分離する機能を確保したうえで、圧縮機11が液冷媒R1を圧縮しない範囲で許容できる冷媒の乾き度に相当する指標である。
【0037】
次に、本実施形態の冷凍サイクル装置1の制御ユニット17による制御内容についてより詳しく説明する。以下の例では、圧縮機11から吐出される冷媒の温度の判定基準となる基準吐出温度を予め定めていて、例えば95℃としている。
制御ユニット17の主制御部44は、圧縮機11から吐出される冷媒の温度に基づいて、圧縮機11や電子膨張弁13等を制御する。
主制御部44は、圧縮機11、室内熱交換器12、電子膨張弁13、及び室外熱交換器14を流れる冷媒の冷凍サイクルの状態から、圧縮機11に吸込まれる冷媒の乾き度を考慮した制御用吐出温度を、以下に説明するように演算する。
【0038】
すなわち、主制御部44は、R32等の冷媒に対するモリエル線図の飽和蒸気線上であって室外側圧力検出部16が検出した圧力P
0となる状態の冷媒を特定する。この状態は、
図4における吸込み状態S
0となる。吸込み状態S
0の冷媒を室内側圧力検出部15が検出した圧力P
1まで断熱圧縮したときの理論吐出温度T
1を演算する。
主制御部44は、主制御部44のメモリに記憶された(3)式で表される第一関係式に、P
1/P
0の値である圧縮比C
Rを代入して吐出温度補正量αを演算する。表1に示されたテーブルから、室外温度センサ23で検出した室外熱交換器14内の冷媒の温度、及び圧縮比C
Rに対応付けられた数値を読み取り、その数値を吐出温度抑制効果βとする。
【0039】
主制御部44は、理論吐出温度T
1に、吐出温度補正量αを加え、さらに吐出温度抑制効果βを引いた(減じた)値である、(4)式から求められる値を、制御用吐出温度T
d1とする。
T
d1=T
1+α−β ・・(4)
【0040】
図4において、理論吐出温度T
1に吐出温度補正量αを加えた温度が推定吐出温度T
2である。推定吐出温度T
2は、吐出温度補正量αによる効果の分、理論吐出温度T
1よりも温度が高くなる。
推定吐出温度T
2から吐出温度抑制効果βを引いた温度である制御用吐出温度T
d1は、吐出温度抑制効果βによる効果の分、推定吐出温度T
2よりも温度が低くなる。
【0041】
主制御部44は、基本的に吐出温度センサ37が検出した吐出温度が一定になるように電子膨張弁13の開度を調節している。
主制御部44は、
図7に示すパターンAのように、例えば推定吐出温度T
2が140℃であって、推定吐出温度T
2から吐出温度抑制効果βを引いた制御用吐出温度T
d1が110℃であると演算したとする。このように制御用吐出温度T
d1が95℃である基準吐出温度よりも高い場合には、吐出温度を一定にする制御に優先させて、圧縮機11の運転周波数を低下させる。具体的には、100Hzだった運転周波数を90Hzや80Hzに低下させる。これにより、圧縮機11の吐出口11eにおける冷媒の温度である吐出温度が低くなり、圧縮機11に吸込まれる冷媒の乾き度が大きくなる(気相の割合が大きくなる)。したがって、冷凍サイクル装置1による室内を加熱/冷却する熱交換能力は多少低下するが、液圧縮運転になりにくくなる。
【0042】
一方で、
図7に示すパターンBのように、主制御部44が例えば推定吐出温度T
2が110℃であって、推定吐出温度T
2から吐出温度抑制効果βを引いた制御用吐出温度T
d1が85℃であると演算したとする。主制御部44は、制御用吐出温度T
d1が基準吐出温度以下である場合には、圧縮機11の運転周波数を低下させずにそのまま維持する。この場合、冷凍サイクル装置1の熱交換能力は低下せずに維持される。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の冷凍サイクル装置1によれば、制御用吐出温度T
d1が基準吐出温度よりも高い場合に圧縮機11の運転周波数を低下させ、制御用吐出温度T
d1が基準吐出温度以下である場合には、圧縮機11の運転周波数を維持する。したがって、冷凍サイクル装置1の熱交換能力を維持しつつ吐出温度を低くすることができる。
圧縮機11に過剰の液冷媒R1が戻ることは、機器の信頼性を大幅に低下させるため、信頼性保護を目的に液冷媒R1が戻る量に規制を設ける必要がある。本実施形態の主制御部44のように制御することで、この信頼性が確保される。
許容できる吐出温度抑制効果βは、圧縮機11の運転周波数、室外熱交換器14内の冷媒の圧力P
0、室内熱交換器12の冷媒の圧力P
1、及び、圧縮比C
Rに応じて変化する。本実施形態で説明した方法で吐出温度抑制効果βを求めることで、運転状態に合った圧縮機11の冷却量が判断可能となり、結果として信頼性の向上につながる。
【0044】
なお、前記実施形態では基準吐出温度を95℃としたが、基準吐出温度はこの限りではない。圧縮機11に用いられるモータの耐熱温度、オイルの劣化温度等に応じて、基準吐出温度は90℃や100℃等の所望の値に設定することができる。
室内側圧力検出部15が室内温度センサ21及び室内側圧力変換部22を有するとした。しかし、室内側圧力検出部が室内熱交換器12内の冷媒の圧力を直接検出する圧力センサを有していてもよい。室外側圧力検出部16についても同様である。又は、圧縮機11の吐出側に設けられる吐出圧力センサ及び圧縮機11の吸込み側に設けられる吸込み圧力センサを有していてもよい。
室外熱交換器14内の冷媒の温度、及び圧縮比C
Rに対する吐出温度抑制効果βの関係をテーブルとして表した。しかし、これらの関係を多項式等の関係式(第二関係式)として表してもよい。
【0045】
前記実施形態では冷凍サイクル装置1では冷媒としてR32が用いられるとした。しかし、冷凍サイクル装置1で用いられる冷媒はR32に限定されず、R410A等でもよい。この場合においても、R32以外の冷媒に対する吐出温度補正量αは、圧縮比C
Rに基づいて定まる。すなわち、吐出温度補正量αは圧縮比C
Rのみの関数として表される。R32以外の冷媒に対する吐出温度抑制効果βについても、前述の実験によりテーブルを求めることができる。
冷凍サイクル装置1は空気調和装置であるとしたが、冷蔵庫などであってもよい。
【0046】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、制御部を持つことにより、熱交換能力を維持しつつ吐出温度を低くすることができる。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。