(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348049
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】歯車研削盤の加工精度修正方法
(51)【国際特許分類】
B23F 23/12 20060101AFI20180618BHJP
B24B 53/075 20060101ALI20180618BHJP
B23F 5/04 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
B23F23/12
B24B53/075
B23F5/04
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-219610(P2014-219610)
(22)【出願日】2014年10月28日
(65)【公開番号】特開2016-83745(P2016-83745A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003668
【氏名又は名称】トーヨーエイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 正志
(72)【発明者】
【氏名】大内 久生
【審査官】
宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−184501(JP,A)
【文献】
特開2003−236720(JP,A)
【文献】
特開2002−144148(JP,A)
【文献】
特許第4202306(JP,B2)
【文献】
特開2000−108029(JP,A)
【文献】
特開2006−035340(JP,A)
【文献】
特開2011−042016(JP,A)
【文献】
特開2013−230554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00−23/12
B24B 53/00−57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを垂直軸周りに回転可能に支持するワークテーブルと、
上記ワークテーブルに対し、水平方向であるX方向、垂直方向であるZ方向、該X方向及びZ方向に直交するY方向に移動可能で、YZ平面でA方向に旋回可能で、且つ砥石中心軸を中心にB方向に回転可能なネジ状砥石と、
ドレッサ回転軸を中心に回転して上記ネジ状砥石のネジ山のドレッシングを行う円板状のドレッサとを備えた歯車研削盤の加工精度をシミュレーションを用いて修正する方法において、
歯車及びドレッサの諸元をそれぞれ入力する諸元入力工程と、
上記歯車の諸元を元に理論歯形形状を演算する理論歯形形状演算工程と、
上記ドレッサの形状を上記ドレッサの諸元を元に数式化により求めるドレッサ形状演算工程と、
上記理論歯形形状及び上記ドレッサの形状の元に砥石成形条件を算出する砥石成形条件算出工程と、
上記砥石成形条件を元に砥石形状を数式化により算出する砥石形状算出工程と、
上記砥石形状を元に歯車の創成条件を算出する歯車創成条件算出工程と、
上記歯車の創成条件を元に歯形形状を演算する歯形形状演算工程と、
上記演算された歯形形状の圧力角の計算値と上記理論歯形形状の圧力角の理論値との誤差を演算する誤差検出工程と、
上記圧力角の誤差から、X方向から見た上記ワークテーブルの垂直軸と上記砥石中心軸との間の角度を修正前の値からずらす修正角度を設定する修正角度設定工程と、
上記修正角度に合わせて上記ネジ状砥石をA方向に回転させるように歯車の創成条件を再び算出する歯形形状再演算工程とを含む
ことを特徴とする歯車研削盤の加工精度修正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネジ状砥石及びドレッサを有する歯車研削盤の加工精度修正方法に関し、特にワークの圧力角の修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、外周面に螺旋状のネジ山を有するネジ状砥石を用いてワークの歯面(平歯車、はすば歯車など)を研削する歯車研削盤が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような歯車研削盤は、ネジ状砥石のX軸、Y軸、Z軸の位置及び回転速度並びにワークテーブルの回転速度などをNC制御することにより、歯車を所望の形状に研削する。また、ドレッシング装置を有し、所定量の歯車を研削した後、ネジ状砥石を再生させることができる。
【0003】
この種の歯車研削盤において、加工した歯車が本来の目標とする形状とならない場合には、何らかの修正作業が必要となる。ドレッシング装置のドレッサの形状を修正することもできるが、その場合には、多大な費用と工数を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4824947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のようにドレッシングにより砥石圧力角を修正することは、コスト面及び工数面で問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ドレッサの形状を修正することなく、簡単な方法でワークの圧力角を修正できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、圧力角の修正角度をシミュレーションで予測してネジ状砥石の送り角度を適切に修正するようにした。
【0008】
具体的には、第1の発明では、
ワークを垂直軸周りに回転可能に支持するワークテーブルと、
上記ワークテーブルに対し、水平方向であるX方向、垂直方向であるZ方向、該X方向及びZ方向に直交するY方向に移動可能で、YZ平面でA方向に旋回可能で、且つ砥石中心軸を中心にB方向に回転可能なネジ状砥石と、
ドレッサ回転軸を中心に回転して上記ネジ状砥石のネジ山のドレッシングを行う円板状のドレッサとを備えた歯車研削盤の加工精度を修正する方法を前提とする。
【0009】
そして、上記方法は、
歯車及びドレッサの諸元をそれぞれ入力する諸元入力工程と、
上記歯車の諸元を元に理論歯形形状を演算する理論歯形形状演算工程と、
上記ドレッサの形状を上記ドレッサの諸元を元に数式化により求めるドレッサ形状演算工程と、
上記理論歯形形状及び上記ドレッサの形状の元に砥石成形条件を算出する砥石成形条件算出工程と、
上記砥石成形条件を元に砥石形状を数式化により算出する砥石形状算出工程と、
上記砥石形状を元に歯車の創成条件を算出する歯車創成条件算出工程と、
上記歯車の創成条件を元に歯形形状を演算する歯形形状演算工程と、
上記演算された歯形形状の圧力角の計算値と上記理論歯形形状の圧力角の理論値との誤差を演算する誤差検出工程と、
上記圧力角の誤差から、X方向から見た上記ワークテーブルの垂直軸と上記砥石中心軸との間の角度を修正前の値からずらす修正角度を設定する修正角度設定工程と、
上記修正角度に合わせて上記ネジ状砥石をA方向に回転させるように歯車の創成条件を再び算出する歯形形状再演算工程とを含む。
【0010】
すなわち、シミュレーションでは、目的とする加工面形状からネジ状砥石の動作を直接計算することができないが、上記の構成によると、仮想のネジ状砥石から研削される歯車形状を予測でき、その予測した形状において圧力角の誤差が軽減されたかを確認できる。検出した歯車の圧力角の誤差をなくすために必要なワークの研削姿勢をシミュレーションで予測し、その予測結果を元に研削を行うことができるので、ドレッサの形状を変更したり、ドレッシングで砥石の形状を変更したりする必要がない。このため、実際に研削を行って確認をしなくて済む。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、X方向から見たワークテーブルの垂直軸と砥石中心軸との間の角度を修正前の値からずらした場合に修正されるワーク歯面の圧力角の量を予測して修正角度を計算し、その修正角度だけネジ状砥石をA方向に回転させてネジ状砥石によってワークを研削するようにしたことにより、ドレッサの形状を修正することなく、簡単な方法でワークの圧力角を修正できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】歯車研削盤の加工精度修正方法を示すフローチャートである。
【
図3】ワークテーブルとネジ状砥石との位置関係を示す斜視図である。
【
図4】ドレッサとネジ状砥石との位置関係を示す斜視図である。
【
図5】接触の条件式を説明するための概要図である。
【
図6】シミュレーション結果を示すA軸変更量と圧力角誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図2〜
図4は、本発明の実施形態の歯面研削盤1を示し、この歯面研削盤1は、ワーク20である例えば、はすば歯車、平歯車等を研削するための機械であり、台状のベッド2を有する。このベッド2の上には、歯車の半径方向(X方向)に移動可能なXスライダ3が載置されている。このXスライダ3の上には、コラム4が載置され、このコラム4には、歯車の軸方向(Z方向)に移動可能な軸スライダ5が取り付けられ、この軸スライダ5に砥石中心軸方向(Y方向)に移動可能なYスライダ8が取り付けられている。Yスライダ8には、A方向(ねじり角の正逆両方向)に旋回可能な旋回スライダ6が設けられ、その旋回スライダ6に円筒形状のネジ状砥石7が砥石中心軸7aを中心にB方向(正逆両方向)に回転可能に取り付けられている。ネジ状砥石7は、リング状の本体の外周に例えばねじれ角γの3条のネジ山7bが形成され、それらネジ山7b間に合計3本の溝7cを有する。
【0015】
ベッド2上のコラム4に対向する位置には、カウンタコラム9が設けられている。このカウンタコラム9は、ワーク20を垂直方向(W方向)から押さえる心押し台10を有し、この心押し台10の下方にワーク20を保持するワークテーブル11が設けられている。ワークテーブル11は、そのテーブル垂直軸11aを中心にC方向(正逆両方向)に旋回可能となっている。
【0016】
そして、カウンタコラム9には、ネジ状砥石7をドレッシングするドレッサ12が設けられている。ドレッサ12は、ドレッサ回転軸12aを中心に回転する円板状のドレッシング工具12bを有し、ネジ状砥石7の切れ味が低下したときに、そのネジ山7bのフランクに接触させて再生させるものである。本実施形態では、ドレッシング工具12bは1枚であるが、一対のものとしてもよい。
【0017】
そして、ネジ状砥石7の位置及びその回転並びにワーク20の回転は、NC制御により精密に制御されるようになっている。
【0018】
このような歯面研削盤1で、ネジ状砥石7のX軸、Y軸、Z軸の位置及び回転速度並びにワークテーブル11の回転速度などをNC制御してワーク20である歯車の研削をした場合に、加工後の歯車の形状が設計通りの形状にならない場合がある。このような場合には、何らかの修正作業が必要となる。
【0019】
歯車の形状誤差は、複数種類考えられるが、その1つとして、歯形圧力角に形状誤差が生じる場合がある。従来は、ドレッサ12を用いてネジ状砥石7をドレッシングし、その砥石圧力角を修正していた。
【0020】
しかし本実施形態では、ドレッサ12を修正するのではなく、ネジ状砥石7の姿勢を変更した場合に歯車形状がどのように変わるかをシミュレーションを用いて予測した後に、実際に姿勢を変更して研削を行うようにしている。
【0021】
具体的に本実施形態に係る歯車研削盤1の加工精度修正方法の作動について説明する。
【0022】
図1に示すように、まず、ステップS10において、歯車の諸元とドレッサの諸元とを入力する。
【0023】
次いで、ステップS11において、圧力角補正量を0に設定する。
【0024】
次いで、ステップS12の諸元入力工程において、歯車の諸元を元に理論歯車形状を演算する。
【0025】
次いで、ステップS13のドレッサ形状演算工程において、ドレッサの諸元を元にドレッサの形状を数式化する。
【0026】
次いで、ステップS14の砥石成形条件算出工程において、砥石成形条件を算出する。具体的には、砥石リード、砥石とドレッサの向き等が算出される。
【0027】
次いで、ステップS15の砥石形状算出工程において、砥石成形条件等を元に砥石形状を数式化により求める。例えば、ネジ状砥石7の3次元近似形状を創成する。3次元近似形状は、近似インボリュートネジの歯直角断面を計算して求める。
【0028】
次いで、ステップS16の歯車創成条件算出工程において、砥石形状等を元に歯車の創成条件を算出する。具体的には、砥石と歯車の向き及び回転比が算出される。
【0029】
次いで、ステップS17の歯形形状演算工程において、歯車の創成条件を元に歯形形状を演算する。創成されたネジ状砥石7を所定の研削条件(X軸、Y軸、Z軸の位置及び回転速度等)で回転させた場合における、接触の条件式から歯面接触点を算出する。具体的には、
図5に示すように、ネジ状砥石7の歯面S
1と歯車の歯面S
2が点Pで接触しており、両歯面S
1,S
2の点Pにおける速度をV
1,V
2とし、両歯面S
1,S
2の共通法線方向の単位ベクトルをnとした場合、V
1,V
2のn方向成分であるn×V
1ーn×V
2は、等しくなければならない(n×V
1ーn×V
2=0)。このことを利用して、所定領域の歯面接触点を計算する。そして、ネジ状砥石7のベクトル線図から連立超越方程式を用いる等により、歯面接触点を歯車座標に変換して修正後の3次元近似歯車形状を算出する。
【0030】
次いで、ステップS18の誤差検出工程において、圧力角誤差演算を行う。具体的には、計算値と理論値との差を計算する。
【0031】
次いで、ステップS19において、圧力角誤差の判定を行う。具体的には、圧力角誤差が歯形補正量以下かを判定する。圧力角誤差が歯形補正量よりも大きい場合は、ステップS20に進み、修正角度設定工程が行われる。ここでは、圧力角の誤差を最小にすることのできる修正角度を決定する。X方向から見たワークテーブル11のテーブル垂直軸11aと砥石中心軸7aとの間の角度を、修正前の研削の角度からずらした場合に修正される歯車の圧力角の量を予測し、ステップS19で検出された歯車の圧力角の誤差に合わせて修正角度を設定する。
【0032】
この修正角度を反映させるべく、ステップS13に戻り、ドレッサ形状を再計算する。ここでは、ドレッサ形状自体の変更はない。
【0033】
次いで、ステップS14において、修正角度を反映した砥石成形条件を算出する。
【0034】
次いで、ステップS15からS18を行う。特にステップS16においては、修正角度に合わせてネジ状砥石をA方向に回転させるように歯車の創成条件を再び算出する(歯形形状再演算工程)。
【0035】
ステップS19において、再び圧力角誤差の判定を行い、圧力角誤差が歯形補正量以下となった場合は、ステップS21に進み、NCデータを作成する。圧力角誤差がいまだに歯形補正量よりも大きい場合には、ステップS20以降を繰り返す。
【0036】
ステップS22において、作成したNCデータを用いてNC制御部が制御を開始する。具体的には、計算された修正量を元に修正後の研削条件をインプットして歯面研削盤1のネジ状砥石7の姿勢を変更する。具体的には、計算された角度だけ修正前の研削姿勢からネジ状砥石7をA方向に回転させる。
【0037】
次いで、ステップS23で、歯面研削盤1で研削加工が行われる。
【0038】
次いで、ステップS24で、再び圧力角誤差判定が行われ、圧力角誤差が歯形補正量よりも大きい場合は、ステップS25に進み、適切な歯形補正量を手入力し、ステップS13に戻る。例えば、圧力角の補正量を手入力で入力する。圧力角誤差が歯形補正量以下の場合は、歯面研削盤1による加工を終了する。
【0039】
次いで、
図6に実際にシミュレーションした結果について示す。
【0040】
例えば、シミュレーションの諸元として、歯車のモジュールは2、端数は56、圧力角は14.5°、ねじれ角は35°とする。砥石形状は、直径298mm、条数は5とする。
【0041】
この諸元を用い、上記実施形態の方法を実際にシミュレーションにて行ったところ、
図6に示すように、A軸変更量が−0.4〜0.4degでは、圧力角誤差を調整可能であることがわかる。
【0042】
このように本実施形態では、検出した歯車の圧力角の誤差をなくすために必要なワーク20の研削姿勢をシミュレーションで予測し、その予測結果を元に研削を行うので、ドレッサ12の形状を変更したり、ドレッシングでネジ状砥石7の形状を変更したりする必要がない。また、シミュレーションでの予測精度を向上させることで、修正作業が正確且つ単純なものとなる。
【0043】
また、通常のシミュレーションでは、目的とする加工面形状からネジ状砥石7の動作を直接計算することができないが、本実施形態では、仮想のネジ状砥石7から研削される歯車形状を予測でき、その予測した形状において圧力角の誤差が軽減されたかを確認できる。このため、実際に研削を行って確認をしなくて済む。
【0044】
したがって、本実施形態に係る歯車研削盤の加工精度修正方法によると、ドレッサ12の形状を修正することなく、簡単な方法でワーク20の圧力角を修正できるようにすることができる。
【0045】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明は、平歯車、はすば歯車などをネジ状砥石を用いて研削する歯車研削盤の加工精度修正方法について有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 歯面研削盤
2 ベッド
3 Xスライダ
4 コラム
5 軸スライダ
6 Yスライダ
7 ネジ状砥石
7a 砥石中心軸
7b ネジ山
7c 溝
8 旋回スライダ
9 カウンタコラム
10 心押し台
11 ワークテーブル
11a テーブル垂直軸
12 ドレッサ
12a ドレッサ回転軸
12b ドレッシング工具
20 ワーク