(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348051
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法、レーザ加工装置、およびレーザ加工品
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20180618BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20180618BHJP
B23K 26/352 20140101ALI20180618BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/00 N
B23K26/352
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-234593(P2014-234593)
(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公開番号】特開2016-97419(P2016-97419A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110859
【氏名又は名称】キヤノンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100148987
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 礼子
(72)【発明者】
【氏名】川原 公介
(72)【発明者】
【氏名】野口 俊司
【審査官】
奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−272794(JP,A)
【文献】
特開2007−162045(JP,A)
【文献】
特開2008−135717(JP,A)
【文献】
特開2006−212646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成された硬質炭素膜にパルス幅が1ps以上の加工用パルスレーザ光を照射して硬質炭素膜を加工するレーザ加工方法であって、
前記加工用パルスレーザ光の照射領域の硬質炭素膜の表面乃至内部を、加工用パルスレーザ光を照射した際に、基材乃至基材と硬質炭素膜の間に介在された中間層に損傷を与えず、基材と硬質炭素膜との結合が破壊されなくなる改質部に成形する第1工程と、
前記改質部に、前記加工用パルスレーザ光を照射する第2工程とを備え、
前記第1工程では、加工用パルスレーザ光の照射強度よりも弱くかつパルス幅が1ps以上であって、基材の加工閾値未満のパルスレーザ光を照射することによって、前記改質部を成形することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記第2工程で用いる加工用パルスレーザ光が、その集光点での空間的な照射エネルギー密度分布の中に、前記改質部の加工が可能な照射エネルギー密度と未改質状態の前記硬質炭素膜を前記改質部へと改質可能な照射エネルギー密度を併せ持ち、前記パルスレーザ光照射による改質部の加工と同時にこの加工部周辺の硬質炭素膜自身の表面ないし内部に新規改質部を形成し、その後、さらに次のパルスレーザ光照射による加工部が既設の新規改質部形成領域に含まれるようにパルスレーザ集光点と加工対象物を相対的に移動させ照射することで、加工領域を連続的に拡張することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
照射するパルスレーザ光の集光点での照射エネルギー密度が時間的に変調され、パルス列内において前記第1工程と第2工程とを含んでいることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
第2工程では、加工闘値近傍の照射強度の加工用パルスレーザを照射し、この加工用パルスレーザ光の照射部分をオーバーラップさせながら走査して、グレーティング状の表面微細周期構造を自己組織的に形成することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のレーザ加工方法により得られることを特徴とするレーザ加工品。
【請求項6】
基材上に形成された硬質炭素膜にパルス幅が1ps以上の加工用パルスレーザ光を照射して硬質炭素膜を加工するレーザ加工装置であって、
前記加工用パルスレーザ光の照射領域の硬質炭素膜の表面乃至内部を、基材乃至基材と硬質炭素膜の間に介在された中間層に損傷を与えず、基材と硬質炭素膜との結合が破壊されなくなる改質部に成形するレーザ光の照射と、前記改質部に加工用パルスレーザ光の照射とを行うものであり、前記改質部に成形するレーザ光は、加工用パルスレーザ光の照射強度よりも弱くかつパルス幅が1ps以上であって、基材の加工閾値未満のパルスレーザ光であることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ加工装置により得られることを特徴とするレーザ加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法、レーザ加工装置、およびレーザ加工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬質炭素膜(例えば、ダイヤモンドライクカーボンやテトラへドラルアモルファスカーボン等)は、優れた低摩擦性・高耐磨耗性を有している。このため、近年、自動車部品や産業機器などの摺動面のコーティング、医療機器あるいは金型の保護膜等として応用されている。
【0003】
また、このような硬質炭素膜表面に対して微細な穴や溝を形成すれば、油だまりとして潤滑油の枯渇を防いだり、流体の流れを制御し動圧を発生させ負荷容量を増やしたり、あるいは、摩耗により発生する微粒子を捕集し焼きつきを防止するといった機能を付与することができる。このように、硬質炭素膜表面に対して微細な穴や溝等の表面加工を施すことで硬質炭素膜表面は高機能化され、機器のエネルギー消費を抑制し、また部品寿命を延ばすことが可能となる。さらには、微細パターンを形成することで、生体適合性を制御したり、あるいはインプリントの金型としても利用できる。
【0004】
材料表面に微細な穴や溝を形成する方法は従来から種々提案されている。例えば、フォトリソグラフィやレーザ加工がある。フォトリソグラフィは、感光性の物質を塗布した物質の表面を、パターン状に露光(パターン露光、像様露光などとも言う)することで、露光された部分と露光されていない部分からなるパターンを生成する技術である。また、レーザ加工は、微細構造を形成させたい場所にレーザ光を集光することでその領域に局所的な材料の溶融あるいは蒸散を発生させ、平坦な材料表面を微細な凹凸構造に変形させることができる加工方法である。
【0005】
フォトリソグラフィは大規模集積回路の製造方法として知られ、非常に精密な微細構造を形成可能な方法である。しかしながら、材料のエッチングや堆積には化学薬品や真空装置が必要となる。そのため、それらの使用済み薬剤の処理が必要であり、さらには、工程が複数に及ぶため装置が大型化することが問題となる。
【0006】
レーザ加工は、フォトリソグラフィと比較すると、形成可能な形状の寸法の小ささや精度では劣る場合がある。しかしながら、レーザ光を材料表面に照射するだけでよいため簡便であり加工装置も小型化が可能であり、しかもフォトリソグラフィで使用していた薬剤等が不要である。従来のレーザ加工には、特許文献1や特許文献2等がある。このため、硬質炭素膜表面に対して、微細な穴や溝を形成する場合にレーザ加工することが提案できる。
【0007】
通常、硬質炭素膜は可視から近赤外領域の波長の光に対しての吸収率が低いものがある。また、波長が長くなれば、透過率が上昇する。例えば、特許文献3に記載されたダイヤモンドライクカーボンでは、波長400nm以上では4割以上の光が透過し、波長600nm以上の光の透過率は8割以上となっている(特許文献3の
図4参照)。また、テトラヘドラルアモルファスカーボンの光透過特性の一例として非特許文献1の
図5aに記載されている。このテトラヘドラルアモルファスカーボンでは、膜厚を1μmと仮定した場合、波長800nm以上で2割以上の光が透過する計算となる。
【0008】
このため、エネルギ効率よく微細なレーザ加工を施すには硬質炭素膜に吸収されるような短波長レーザや、あるいは高強度による高い非線形吸収が期待されるフェムト秒レーザを用いることになる。短波長レーザにはエキシマレーザや、YAG、YLF、YV0
4あるいはKGW系等の結晶レーザおよびファイバーレーザの高調波がある。すなわち、高調波としては波長800nm以下のレーザを使用することになり、好ましくは波長600nm以下のレーザを使用するのがよく、さらには波長400nm以下のレーザがよい。フェムト秒レーザを使用して2光子吸収を利用する場合は、1600nm以下の波長のフェムト秒レーザを使用することになり、さらには、波長1200nm以下のフェムト秒レーザが好ましく、さらには波長800nm以下のフェムト秒レーザが良い。
【0009】
エキシマレーザは高出力を得られるが、レーザ発振の繰り返し周波数が最高でも数kHzであるため高速な加工には不向きである。結晶系およびファイバーレーザの高調波はレーザ発振の繰り返し周波数が数百kHzから数MHzの機器が商用として利用できるため高速加工に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−301372号公報
【特許文献2】特開2002−28799号公報
【特許文献3】特開2011−214085号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「Correlation between Optical Properties and Hardness of Diamond−like Carbon Films」:Journal of Solid Mechanics and Materials Engineering、Vol.7、No.2、p.187−198.2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記高調波とは、レーザ媒質固有の発振波長のレーザ光(基本波:波長=λ)を、非線形光学結晶と呼ばれる素子などを通過させることによって波長変換し発生するものであって、第2高調波(波長=λ/2)、第3高調波(波長=λ/3)、あるいは第4高調波(波長=λ/4)といった短波長レーザである。この基本波から高調波への波長変換効率は100%ではなく、例えば、YAGレーザの基本波から第2高調波への変換効率は50%程度である。したがって、基本波で加工するよりも高調波に波長変換して加工するとエネルギーの損失となるばかりでなく、波長変換のための部品を増設するため装置が高価になる。
【0013】
ところで、硬質炭素膜2は、
図9に示すように、基材1上に形成される。そして、基材1としては、鉄系、アルミ系あるいはチタン系などの合金、シリコン、チタン、ポリマー、セラミクスなどさまざまな種類の基材がある。このため、レーザ光L2によるこれら基材1の加工閾値が硬質炭素膜の加工閾値よりも小さい場合がある。
【0014】
硬質炭素膜2を加工するのに十分なエネルギー密度のレーザ光L2が、
図9(a)に示すように、硬質炭素膜2を透過して、基材1表面に照射されることになる。このような場合、
図9(b)に示すように、加工閾値の小さな基材1では、容易に加工されることになる。すなわち、透過率が高いレーザ光L2を用いれば、
図9(a)に示すように、基材1又は(基材1と硬質炭素膜2との間の中間層)にレーザ光L2が吸収され、それらに損傷を与え、
図9(b)に示すように、硬質炭素膜2と基材1との結合が破壊され、剥離が発生する。なお、
図9(b)において、3は硬質炭素膜2の剥離片を示している。このように、
図10に示すよう基材1が露出している状態となる。すなわち、
図10に示すように中央部の白くなっている部位が露出した基材1を示している。
【0015】
このように、一般的な固体レーザの基本波を用いて、部品をコーティングしている硬質炭素膜の表面を加工しようとすると、硬質炭素膜を透過し基材を加工することになって、硬質炭素膜の剥離が生じるという問題があった。
【0016】
ところで、前記特許文献1及び特許文献2に記載のレーザ加工では、被加工面の表面に吸光物質を付設し、レーザ光を照射することによって、被加工物表面に、変質層を形成するようにしている。この変質層が、その後に続けて照射されるレーザ光を吸収して溶融・除去されることにより、微細な穴を加工するようにしている。
【0017】
すなわち、
図11(a)に示すように、基材1上の硬質炭素膜2の表面に、例えば、マジックインキ(登録商標)などの顔料等のレーザ光L2を吸収する物質4を塗布あるいは付着させれば、
図11(b)に示すように、レーザ光L2をこの物質4にて吸収することができ、基材1にレーザ光L2が吸収されることがなくなる。これによって、硬質炭素膜2と基材1との結合が破壊されず、硬質炭素膜2の剥離の発生を回避できる。すなわち、
図11(b)に示すように、硬質炭素膜2の表面に、微細な穴等の加工部位5を形成することができる。
【0018】
しかしながら、この場合、レーザ光を吸収する物質を塗布あるいは付着させる必要があるため、吸収材を塗布あるいは付着させるための装置及びその工程を必要として、作業性に劣るとともに、作業コスト高となる。
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みて、硬質炭素膜に対して透過を有する波長のレーザを用いても、硬質炭素膜の基材からの剥離を伴わないで、微細な穴や溝等の表面加工を高精度に施すことが可能なレーザ加工方法、レーザ加工装置、及びレーザ加工品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のレーザ加工方法は、基材上に形成された硬質炭素膜にパルス幅が1ps以上の加工用パルスレーザ光を照射して硬質炭素膜を加工するレーザ加工方法であって、前記加工用パルスレーザ光の照射領域の硬質炭素膜の表面乃至内部を、加工用パルスレーザ光を照射した際に、基材乃至基材と硬質炭素膜の間に介在された中間層に損傷を与えず、基材と硬質炭素膜との結合が破壊されなくなる改質部に成形する第1工程と、前記改質部に、前記加工用パルスレーザ光を照射する第2工程とを備え、
前記第1工程では、加工用パルスレーザ光の照射強度よりも弱くかつパルス幅が1ps以上であって、基材の加工閾値未満のパルスレーザ光を照射することによって、前記改質部を成形するものである。
【0021】
本発明のレーザ加工方法によれば、第1工程にて、加工用パルスレーザ光の照射領域の硬質炭素膜の表面乃至内部に、改質部を形成することができる。改質部は、加工用パルスレーザ光に対する透過率を低減させるものである。このため、吸光物質を塗布したり付着させたりすることなく改質部を形成することができる。第2工程には、改質部に加工用パルスレーザ光を照射する。これによって、この改質部の表面加工を行うことができる。しかも、吸光物質を塗布したり付着させたりすることなく前記改質部を形成することができる。したがって、このレーザ加工方法では、改質とは、加工用パルスレーザ光を、改質部に照射した際に、基材乃至基材と硬質炭素膜の間に介在された中間層に損傷を与えず、基材と硬質炭素膜との結合が破壊されなくなる状態であるということができ、また、加工とは、改質部に加工用パルスレーザ光を照射した際に、少なくともこの改質部が除去されるものであるということができる。
【0023】
前記第2工程で用いるパルスレーザ光が、その集光点での空間的な照射エネルギー密度分布の中に、前記改質部の加工が可能な照射エネルギー密度と未改質状態の前記硬質炭素膜を前記改質部へと改質可能な照射エネルギー密度を併せ持ち、前記パルスレーザ光照射による改質部の加工と同時にこの加工部周辺の硬質炭素膜自身の表面ないし内部に新規改質部を形成し、その後、さらに次のパルスレーザ光照射による加工部が既設の新規改質部形成領域に含まれるようにパルスレーザ集光点と加工対象物を相対的に移動させ照射することで、加工領域を連続的に拡張するものであってもよい。
【0024】
前記のような構成によれば、パルスレーザ光を照射すれば、改質部の加工と同時にこの加工部周辺の硬質炭素膜自身の表面ないし内部に新規改質部を形成することができる。すなわち、加工用レーザの集光点内のレーザ光のエネルギー分布が一様でなく、例えばガウス分布状となる加工用のレーザを照射すれば、加工と同時にその周辺に改質部が形成される。その後、次のパルスレーザ光照射による加工部が既設の新規改質部形成領域に含まれるようにパルスレーザ集光点と加工対象物を相対的に移動させ照射する。すなわち、集光点をオーバーラップさせながら走査照射することで、剥離を抑制しながら加工領域を拡大できる。この場合、加工用レーザを最初に照射する領域に、改質部を形成しておく必要がある。
【0025】
照射するパルスレーザ光の集光点での照射エネルギー密度が時間的に変調され、パルス列内において前記第1工程と第2工程とを含んでいるものであってもよい。
【0026】
このように構成することによって、一連のパルス列を用いて、パルス列の前部では改質部の形成を、パルス列の後部で加工を行えるレーザ光強度に設定することで、改質部には必ず加工用レーザを照射することができる。
【0027】
第2工程では、加工闘値近傍の照射強度の加工用パルスレーザを照射し、この加工用パルスレーザ光の照射部分をオーバーラップさせながら走査して、グレーティング状の表面微細周期構造を自己組織的に形成することができる。
【0028】
前記レーザ加工方法によりレーザ加工品を得ることができる。
【0029】
本発明のレーザ加工装置は、基材上に形成された硬質炭素膜に
パルス幅が1ps以上の加工用パルスレーザ光を照射して硬質炭素膜を加工するレーザ加工装置であって、前記加工用パルスレーザ光の照射領域の硬質炭素膜の表面乃至内部を、基材乃至基材と硬質炭素膜の間に介在された中間層に損傷を与えず、基材と硬質炭素膜との結合が破壊されなくなる改質部に成形するレーザ光の照射と、前記改質部に加工用パルスレーザ光の照射とを行うもの
であり、前記改質部に成形するレーザ光は、加工用パルスレーザ光の照射強度よりも弱くかつパルス幅が1ps以上であって、基材の加工閾値未満のパルスレーザ光である。
【0030】
本発明のレーザ加工装置によれば、加工用パルスレーザ光の照射領域の硬質炭素膜の表面乃至内部を、加工用パルスレーザ光に対する透過率を低減させる改質部に形成することができる。改質部に、前記加工用パルスレーザ光を照射する。これによって、この改質部の表面加工を行うことができ、しかも、改質部は、加工用パルスレーザ光に対する透過率を低減させるものであり、硬質炭素膜の下の基材に対して加工用パルスレーザ光による損傷を回避することができる。
【0031】
前記レーザ加工装置によりレーザ加工品を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、加工用パルスレーザ光に対する透過率を低減させることができる改質部を加工用パルスレーザ光の照射領域に形成することができ、硬質炭素膜の下の基材に対して加工用パルスレーザ光による損傷を回避することができる。このため、基材からの剥離を伴わないで、硬質炭素膜表面に高精度に微細な穴や溝等の表面加工を施すことが可能である。
【0033】
しかも、吸光物質を塗布したり付着させたりすることなく改質部を形成することができるので、吸収材(吸光物質)を塗布あるいは付着させるため装置及びその工程を必要とせず、作業性に優れるとともに低コスト化を図ることができる。また、使用するレーザ光としては、パルス幅が1ps以上のパルスレーザ光であるので、高価なフェムト秒レーザ等を用いる必要がなく、低コスト化を図ることができる。
【0034】
第1工程では、加工用パルスレーザ光の照射強度よりも弱く、かつパルス幅が1ps以上のパルスレーザ光を用いれば、第1工程と第2工程とで共通のレーザ照射装置を用いることができ、コスト低減及び作業時間の短縮化を図ることができる。
【0035】
パルスレーザ光照射による改質部の加工と同時にこの加工部周辺の硬質炭素膜自身の表面ないし内部に新規改質部を形成する方法では、独立した第1工程は初期の1回のみでよく、その後は、第2工程を行うことによって第1工程も行われる。このため、大幅な作業時間の短縮を図ることができ、作業性に優れたものとなる。
【0036】
パルス列内において前記第1工程と第2工程とを含んでいるものでは、加工時間の短縮が図れ、また、改質部と加工位置の位置決めの再現を厳密に制御する必要がなくなる。
【0037】
加工闘値近傍の照射強度の加工用パルスレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、グレーティング状の表面微細周期構造を自己組織的に形成するものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さをもつ周期構造を容易に得ることができる。
【0038】
前記レーザ加工方法やレーザ加工装置にて加工されてなるレーザ加工品は、硬質炭素膜の、基材からの剥離を伴わないで、硬質炭素膜表面に高精度に微細な穴や溝等の表面加工が施されてなるものであり、高品質の製品となっている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明のレーザ加工方法の簡略工程図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態を示すレーザ加工方法を示し、(a)は第1工程の簡略図であり、(b)は第2工程の簡略図である。
【
図3】本発明に係るレーザ加工装置の簡略図である。
【
図4】前記レーザ加工装置にて照射されるレーザ光のパルス列を示すグラフ図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態を示すレーザ加工方法を示し、(a)は第1工程の簡略図であり、(b)は第2工程の簡略図である。
【
図6】本発明に係るレーザ加工方法で加工された硬質炭素膜を示し、(a)は穴が加工された硬質炭素膜表面の平面図であり、(b)はグレーティング状の表面微細周期構造が加工された硬質炭素膜表面の平面図である。
【
図7】第1工程後の硬質炭素膜表面の顕微鏡写真図である。
【
図8】予め改質部を形成した後、硬質炭素膜を加工した状態の顕微鏡写真図である。
【
図9】改質層を形成することなく、硬質炭素膜を加工する方法を示し、(a)は硬質炭素膜にレーザ光を照射している状態の簡略図であり、(b)は硬質炭素膜に剥離が生じている状態の簡略図である。
【
図10】改質層を形成することなく、硬質炭素膜を加工した状態の顕微鏡写真図である。
【
図11】レーザ光吸収材を用いたレーザ加工方法を示し、(a)は硬質炭素膜上のレーザ光吸収材を付着させている状態の簡略図であり、(b)は硬質炭素膜上にレーザ光を照射している状態を示す簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下本発明の実施の形態を
図1〜
図8に基づいて説明する。
【0041】
図2は本発明に係るレーザ加工方法を示し、このレーザ加工方法は、基材23と、この基材23上に形成された硬質炭素膜24とからなるワーク(加工対象物)Wに加工用パルスレーザ光Lを照射して硬質炭素膜24を加工するものである。ここで、基材23としては、鉄系、アルミ系、又はチタン系などの合金、シリコン、チタン、ポリマー、セラミクス等の種々の材料にて構成される。また、硬質炭素膜24は、ダイヤモンド、ダイヤンドライクカーボン(DLC)、アモルファスカーボン又はテトラヘドラアモルファスカーボン等である。また、それらの膜に特定の元素が注入されるように作製したもの、あるいは特定の元素を含まないように作製したものであってもよい。特定の元素とは、水素、窒素、フッ素、チタン、シリコン、ゲルマニウム、ボロンなどがある。硬質炭素膜24は、一般には、自動車部品、産業機器、医療機器あるいは金型の保護膜等に使用される。なお、基材23と硬質炭素膜24との間に接着層としての中間層が介在されたものであってもよい。
【0042】
ここで、前記加工としては、
図6(a)に示すような多数の穴部26aを有する加工部26を形成する穴加工、つまりマイクロディンプル加工であったり、
図6(b)に示すようなグレーティング状の表面微細周期構造26bとなる加工部26を形成する溝加工であったりする。また、レーザ加工には、
図3に示すレーザ加工装置を用いる。このレーザ加工装置は、レーザ発生器11と光学系10とを備えたものである。このレーザ加工装置では、レーザ発生器11は、ミラー12により加工対象物Wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカルシャッタ13を開放し、レーザ照射強度は、レーザ発生器および1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ17によって、XYθステージ19上の加工対象物表面(硬質炭素膜表面)に集光照射することになる。
【0043】
本発明に係るレーザ加工方法は、
図1に示すように、改質部25を成形する第1工程21と、改質部25にパルス幅が1ps以上の加工用パルスレーザ光Lを照射する第2工程22とを備える。改質部25とは、加工用パルスレーザ光の照射領域の硬質炭素膜の表面乃至内部を、加工用パルスレーザ光に対する透過率を低減させる層である。ここで、改質とは、加工用パルスレーザ光Lを、改質部25に照射した際に、基材23乃至基材23と硬質炭素膜24の間に介在された中間層に損傷を与えず、基材23と硬質炭素膜24との結合が破壊されなくなる状態をいう。また、加工とは、改質部25に加工用パルスレーザ光Lを照射した際に、少なくともこの改質部25が除去されるものである。
【0044】
このため、改質層25となる透過率の低減率としては、硬質炭素膜24の材質、肉厚寸法、加工用パルスレーザLの種類(波長、強度、パルス数、ショット数)等に応じて、設定することになる。また、加工用パルスレーザ光Lは前記したように、パルス幅が1ps以上のパルスレーザ光を用いることになるが、そのパルス幅の上限値としても、使用する基材23に対して、
図6(a)(b)等の加工が可能であればよく、例えば、1ps以上1ns以下等のように任意に設定できる。
【0045】
前記レーザ加工装置では、レーザ発振器11(例えば、波長1030nm、パルス幅10ps)から射出されたレーザ光のエネルギーが硬質炭素膜24下にある基材23表面上で基材23の加工閾値未満になるように調整して集光レンズ17に導く。ここで、基材23の加工閾値未満とは、レーザ集光点を基材23に対して相対的に静止あるいは走査させた状態でレーザ照射した場合に、基材23の溶融あるいは蒸散により基材23を被覆している硬質炭素膜24が基材23から剥離しない照射条件とする。この基材23の加工閾値未満のレーザ光Lを硬質炭素膜24に照射する。これによって、このレーザパルスの照射により硬質炭素膜24にわずかに存在するレーザ光吸収によって硬質炭素膜は未照射の状態から改質される。すなわち、硬質炭素膜24を透過するレーザ光量が減少する改質部25が形成される前記第1工程21が行われる。
【0046】
第2工程22では、改質部25に、改質部25が溶融あるいは蒸散するようなエネルギー密度のレーザ光(加工用パルスレーザ光L)を、前記レーザ照射装置を介して照射する。この場合、改質部25の形成により、硬質炭素膜24を透過するレーザ光量が減少しているため基材23表面の加工が発生せず、硬質炭素膜24の基材23からの剥離を抑制した状態で硬質炭素膜24の加工ができる。つまり、少なくとも改質部25が除去されて穴や溝等の加工部位26が形成される。
【0047】
すなわち、改質部25はレーザ光の透過量が低い状態が維持される。したがって、あらかじめ硬質炭素膜に弱いレーザ光(パルスレーザ光L1)の照射によって改質部25を形成しておけば、その後の強いレーザ光(加工用パルスレーザ光L)を照射しても硬質炭素膜24が剥離することなく加工できる。ここで、弱いレーザ光L1としては、例えば、波長が600nm以上2000nm以下、さらに好ましくは1000nm以上1600nm以下であり、強度が0.01J/cm
2以上0.5J/cm
2未満であり、パルス幅は1ps以上1ns以下である。また、強いレーザ光Lとしては、例えば、波長が600nm以上2000nm以下、さらに好ましくは1000nm以上1600nm以下であり、強度が0.5J/cm
2以上10J/cm
2未満であり、パルス幅は1ps以上1ns以下である。すなわち、この弱いレーザ光は、加工用パルスレーザ光Lに対する透過率を低減させる改質部25を成形することができ、基材23乃至基材23と硬質炭素膜24の間に介在された中間層に損傷を与えず、基材23と硬質炭素膜24との結合が破壊されなくなるレーザ光である。また、強いレーザ光は、少なくとも改質部25を除去することが可能なレーザ光である。
【0048】
第1工程21と第2工程22とを行う場合、硬質炭素膜24の加工領域全体に対して弱いレーザ光L1を照射することによって、改質部25を形成した後、強いレーザ光(加工用パルスレーザ光)Lを照射するものであったり、加工点ごとに改質部25の形成と強いレーザ光Lの照射による加工をし、それを繰り返すことで、加工領域を拡張することも可能である。
【0049】
加工点ごとに改質部25の形成と強いレーザ光Lの照射による加工を行う場合、
図4に示すように、前部が改質部形成用で後部が加工用の強度に時間的に変調されたレーザパルス列によって加工することもできる。このような加工を行えば、加工時間の短縮が図れ、また、改質部25と加工位置の位置決めの再現を厳密に制御する必要がなくなる。
【0050】
ところで、前記実施形態では、第1工程21と第2工程22とは、1つのレーザ加工装置で行うものであるので、この装置に、前記のような弱いレーザ光L1の照射と、強いレーザ光Lの照射を行うための制御手段を設けるのが好ましい。しかしながら、手動によって、弱いレーザ光L1の照射と、強いレーザ光Lの照射とを手動による切り替えによって行ってもよい。
【0051】
ところで、
図5(b)に示すように、強いレーザ光Lの硬質炭素膜上でのエネルギー密度分布が集光点内で一様でなく、例えばガウス分布を形成していれば、照射により加工された部位の周辺には、弱いレーザを照射した場合と同様のエネルギー密度が存在する。したがって、
図5(a)に示すように、まず、弱いレーザ光L1を照射して改質部25を形成した後、この改質部25に対して、
図5(b)に示すように、ガウス分布を形成する強いレーザ光を照射する。これによって、レーザ光の吸収が増加した改質領域が新たに形成される。このため、次の加工部位26が新たに形成された改質部25に含まれるように次の強いレーザ光Lを照射すれば、加工領域を拡張することが可能となる。
【0052】
すなわち、
図5(a)(b)に示すレーザ加工方法では、第2工程22で用いる加工用パルスレーザ光L2が、その集光点での空間的な照射エネルギー密度分布の中に、改質部25の加工が可能な照射エネルギー密度と未改質状態の硬質炭素膜24を改質部25へと改質可能な照射エネルギー密度を併せ持ち、パルスレーザ光照射による改質部25の加工と同時にこの加工部周辺の硬質炭素膜24自身の表面ないし内部に新規改質部25を形成する。その後、さらに次のパルスレーザ光照射による加工部が既設の新規改質部形成領域に含まれるようにパルスレーザ集光点と加工対象物を相対的に移動させ照射することで、加工領域を連続的に拡張することになる。
【0053】
ところで、
図6(b)に示すようなグレーティング状の表面微細周期構造を形成する場合、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザ光Lを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成している。すなわち、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工対象物)Wに照射した場合、入射光と加工対象物Wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、レーザ波長と同程度の周期間隔で、エネルギー分布にわずかな粗密が生じる。一般的な加工方法ではレーザ照射面全体が加工されるが、加工閾値近傍のエネルギー密度でレーザ照射することで、高エネルギー部分を選択的に加工することができる。その結果、1光軸のレーザ照射でありながら、グレーティング状の周期構造が形成される。
【0054】
本発明では、加工用パルスレーザ光Lに対する透過率を低減させることができる改質部25を加工用パルスレーザ光Lの照射領域に形成することができ、硬質炭素膜24の下の基材23に対して加工用パルスレーザ光Lによる損傷を回避することができる。このため、基材23からの剥離を伴わないで、硬質炭素膜表面に高精度に微細な穴や溝等の表面加工を施すことが可能である。
【0055】
しかも、吸光物質を塗布したり付着させたりすることなく改質部25を形成することができるので、吸収材(吸光物質)を塗布あるいは付着させるための装置及びその工程を必要とせず、作業性に優れるとともに低コスト化を図ることができる。また、使用するレーザ光としては、パルス幅が1ps以上のパルスレーザ光であるので、高価なフェムト秒レーザ等を用いる必要がなく、低コスト化を図ることができる。
【0056】
第1工程21では、加工用パルスレーザ光Lの照射強度よりも弱くかつパルス幅が1ps以上であって、基材の加工閾値未満のパルスレーザ光を用いれば、第1工程21と第2工程22とで共通のレーザ照射装置を用いることができ、コスト低減及び作業時間の短縮化を図ることができる。
【0057】
パルスレーザ光照射による改質部25の加工と同時にこの加工部周辺の硬質炭素膜自身の表面ないし内部に新規改質部25を形成する方法では、第1工程21は、初期の1回のみでよく、大幅な作業時間の短縮を図ることができ、作業性に優れたものとなる。
【0058】
パルス列内において第1工程21と第2工程22とを含んでいるものでは、加工時間の短縮が図れ、また、改質部25と加工位置の位置決めの再現を厳密に制御する必要がなくなる。
【0059】
加工闘値近傍の照射強度の加工用パルスレーザを照射し、この加工用パルスレーザ光Lの照射部分をオーバーラップさせながら走査して、グレーティング状の表面微細周期構造を自己組織的に形成するものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さをもつ周期構造を容易に得ることができる。勿論グレーティング状の表面微細周期構造と穴や溝が組み合わさったものを形成してもよい。
【0060】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、第1工程21での改質部25の形成は、レーザ照射にて行っていたが、他の方法、例えば、電子線やプラズマを用いるものであってもよい。また、第1工程21と第2工程22とで共通のレーザ照射装置を用いるのが、コスト及び生産性等を考慮すれば好ましいが、第1工程21と第2工程22とで別のレーザ照射装置を用いるものであってもよい。このように、別のレーザ照射装置を用いる場合、硬質炭素膜24の加工領域全体に対して弱いレーザ光L1を照射することによって、改質部25を形成した後、強いレーザ光(加工用パルスレーザ光)Lを照射するものが最適となる。加工ステージがより多軸のものであれば複雑な形状のものが加工可能である。
【実施例1】
【0061】
レーザ発振器から波長1030nmでパルス幅10psのレーザ光を、肉厚が1μmの硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン)に照射して、この硬質炭素膜の改質部を形成した。この場合、基材23として鉄系合金を使用し、この基材表面に基材23の加工閾値未満となるように調整して集光レンズに導く。これによって、
図7に示すような改質部25を形成することができる。
図7において、改質部25は中央部の黒くなっている部位である。
【0062】
このような改質部25を形成した後、ガウス分布を形成する強いレーザ光Lを
図7に示す改質部25に向けて照射する。これによって、レーザ光Lの吸収が増加した改質領域が新たに形成される。この場合、次の加工部が新たに形成された改質部25に含まれるように次の強いレーザ光Lを照射すれば、
図8に示すように、剥離なく加工領域を拡張することができた。
図8において、中央部の黒い帯状部よりも図面右側が未加工部を示し、黒い帯状部よりも図面左側が溝加工部を示している。
【符号の説明】
【0063】
21 第1工程
22 第2工程
23 基材
24 硬質炭素膜
25 改質部
26 加工部位
L 加工用パルスレーザ光
L1 パルスレーザ光
W 加工対象物