特許第6348055号(P6348055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6348055
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】糸条巻取装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 54/28 20060101AFI20180618BHJP
   B65H 54/32 20060101ALI20180618BHJP
   B65H 54/34 20060101ALI20180618BHJP
   B65H 57/28 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   B65H54/28 Z
   B65H54/32
   B65H54/34 F
   B65H57/28
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-245522(P2014-245522)
(22)【出願日】2014年12月4日
(65)【公開番号】特開2016-108071(P2016-108071A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正勝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
【審査官】 西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−168146(JP,A)
【文献】 特開2012−153476(JP,A)
【文献】 特開2007−210776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/02,54/28,54/32,54/34
B65H 57/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条を綾振りしながらボビンに巻き取る糸条巻取装置であって、
糸条を保持した状態で前記ボビンの軸方向に往復移動することで、糸条を綾振りさせるトラバースガイドと、
前記トラバースガイドによって綾振りされる糸条を、前記ボビンの巻取領域に巻き取ってパッケージを形成する巻取部と、
前記トラバースガイドを前記軸方向に移動させる駆動部と、
前記駆動部を制御することで、前記トラバースガイドが前記軸方向に往復移動する際の移動範囲を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記トラバースガイドに保持されていない糸条を前記トラバースガイドによって捕捉させる糸条捕捉時には、前記巻取部により前記巻取領域に糸条が巻き取られる糸条巻取時における前記トラバースガイドの移動範囲よりも狭い所定領域で、前記トラバースガイドを複数回往復移動させることを特徴とする糸条巻取装置。
【請求項2】
前記軸方向における前記所定領域の寸法は、5mm以上50mm以下である請求項1に記載の糸条巻取装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記トラバースガイドの移動速度を制御可能であり、前記糸条捕捉時の前記トラバースガイドの移動速度を、前記糸条巻取時の前記トラバースガイドの移動速度よりも速くなるように制御する請求項1または2に記載の糸条巻取装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記糸条捕捉時の前記トラバースガイドの移動速度を、前記糸条巻取時の前記トラバースガイドの移動速度の14倍以下に制御する請求項3に記載の糸条巻取装置。
【請求項5】
前記巻取領域よりも前記軸方向において外側に、バンチ巻きが形成されるバンチ形成位置が前記ボビンに設定されており、
前記制御部は、前記トラバースガイドによって糸条が捕捉された後、前記糸条捕捉時の移動速度のままで、前記トラバースガイドを前記軸方向において前記所定領域と前記バンチ形成位置との間の所定位置まで移動させ、その後、移動速度を下げてから前記トラバースガイドを前記バンチ形成位置の対向位置まで移動させる請求項3または4に記載の糸条巻取装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記糸条巻取時の前記トラバースガイドの移動速度を70m/min以下に制御する請求項1ないし5に記載の糸条巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を綾振りしながらボビンに巻き取る糸条巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、糸条を綾振りしながらボビンに巻き取ってパッケージを形成する糸条巻取装置が開示されている。この糸条巻取装置は、トラバースガイドで糸条を保持した状態で、トラバースガイドをボビンの軸方向に往復移動させることで、糸条を綾振りする構成となっている。
【0003】
ここで、糸条の巻き取りを開始する際、まず最初に、トラバースガイドによって糸条を捕捉する必要がある。特許文献1の糸条巻取装置では、図3に示されるように、異なる方向へ作用する糸条の張力の合力によって、糸条がトラバースガイドの糸条収容溝に導かれることで、糸条を捕捉できるようになっている。しかしながら、トラバース速度が遅く(綾角が小さく)、そのために上記合力が小さいと、糸条を糸条収容溝に導くことができず、トラバースガイドによって糸条を捕捉することができないおそれがある。そこで、特許文献1では、糸条捕捉時に、トラバース速度を速く(綾角を大きく)することで一時的に糸条の張力を増大させ、糸条を確実に捕捉できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−168146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トラバース速度を速くすることで糸条の張力を大きくしたとしても、糸条を必ずしも1回で捕捉できるとは限らない。トラバースガイドによって糸条を捕捉できていなければ、パッケージを形成することができず、再度、糸条の捕捉をやり直す必要が生じる。そうすると、糸条の巻き取りを開始するまでに長い時間を要してしまい、パッケージの生産効率が低下するという問題があった。
【0006】
以上の課題を鑑みて、本発明にかかる糸条巻取装置においては、トラバースガイドによる糸条の捕捉を確実かつ短時間に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、糸条を綾振りしながらボビンに巻き取る糸条巻取装置であって、糸条を保持した状態で前記ボビンの軸方向に往復移動することで、糸条を綾振りさせるトラバースガイドと、前記トラバースガイドによって綾振りされる糸条を、前記ボビンの巻取領域に巻き取ってパッケージを形成する巻取部と、前記トラバースガイドを前記軸方向に移動させる駆動部と、前記駆動部を制御することで、前記トラバースガイドが前記軸方向に往復移動する際の移動範囲を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記トラバースガイドに保持されていない糸条を前記トラバースガイドによって捕捉させる糸条捕捉時には、前記巻取部により前記巻取領域に糸条が巻き取られる糸条巻取時における前記トラバースガイドの移動範囲よりも狭い所定領域で、前記トラバースガイドを複数回往復移動させることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、所定領域内に糸条を位置させることによって、糸条をトラバースガイドによって捕捉することができる。その際、トラバースガイドが所定領域を複数回往復移動するので、トラバースガイドによって糸条を捕捉する機会を複数回確保することができ、確実に糸条を捕捉することができる。しかも、この所定領域は、糸条巻取時にトラバースガイドが往復移動する移動範囲よりも狭い。このため、糸条捕捉時にトラバースガイドが往復移動する距離を短くすることができ、往復移動を複数回行ったとしても、それに要する時間を短くすることができる。したがって、本発明によれば、トラバースガイドによる糸条の捕捉を確実かつ短時間に行うことが可能となる。
【0009】
ここで、前記軸方向における前記所定領域の寸法は、5mm以上50mm以下であると好適である。
【0010】
所定領域が狭いほど、糸条捕捉時にトラバースガイドが所定領域を複数回往復移動するのに要する時間を短くすることができるが、一方で、所定領域が狭すぎると、所定領域内に糸条を位置させることが難しくなる。そこで、軸方向における所定領域の寸法を50mm以下とすることで、糸条捕捉時にトラバースガイドが所定領域を複数回往復移動するのに要する時間を短くすることができるとともに、5mm以上とすることで所定領域内に糸条を容易に位置させることができる。
【0011】
また、前記制御部は、前記トラバースガイドの移動速度を制御可能であり、前記糸条捕捉時の前記トラバースガイドの移動速度を、前記糸条巻取時の前記トラバースガイドの移動速度よりも速くなるように制御すると好適である。
【0012】
糸条捕捉時のトラバースガイドの移動速度を糸条巻取時よりも速くすることで、糸条捕捉時にトラバースガイドが所定領域を複数回往復移動するのに要する時間をさらに短くすることができる。さらに、糸条捕捉時のトラバースガイドの移動速度を速くすることで、糸条の慣性力を増大させることができ、トラバースガイドによる糸条の捕捉をより確実に行うことができる。なお、この点については、後で詳細に説明する。
【0013】
このとき、前記制御部は、前記糸条捕捉時の前記トラバースガイドの移動速度を、前記糸条巻取時の前記トラバースガイドの移動速度の14倍以下に制御すると好適である。
【0014】
糸条捕捉時のトラバースガイドの移動速度が速いほど、糸条捕捉時にトラバースガイドが所定領域を複数回往復移動するのに要する時間を短くすることができるとともに、糸条の慣性力を増大させて、より確実に糸条を捕捉することができる。一方で、糸条捕捉時のトラバースガイドの移動速度が速すぎると、糸条が切断するなどの不具合が発生するおそれがあり、糸条の捕捉が適切に行われないおそれがある。そこで、糸条捕捉時のトラバースガイドの移動速度を糸条巻取時の14倍以下とすることで、糸条を適切に捕捉することができる。
【0015】
また、前記巻取領域よりも前記軸方向において外側に、バンチ巻きが形成されるバンチ形成位置が前記ボビンに設定されており、前記制御部は、前記トラバースガイドによって糸条が捕捉された後、前記糸条捕捉時の移動速度のままで、前記トラバースガイドを前記軸方向において前記所定領域と前記バンチ形成位置との間の所定位置まで移動させ、その後、移動速度を下げてから前記トラバースガイドを前記バンチ形成位置の対向位置まで移動させると好適である。
【0016】
バンチ巻きを形成してから巻取領域での糸条の巻き取りを開始する場合、トラバースガイドによって糸条が捕捉された後、糸条捕捉時の速い移動速度のままで、トラバースガイドを所定領域とバンチ形成位置との間の所定位置まで移動させることで、糸条の巻き取りが開始されるまでに要する時間を短くすることができる。また、その後、トラバースガイドの移動速度を下げることにより、糸条が切断されることを回避できるとともに、バンチ形成位置の対向位置にトラバースガイドを確実に停止させることができる。
【0017】
また、本発明は、前記制御部が、前記糸条巻取時の前記トラバースガイドの移動速度を70m/min以下に制御する場合に、特に有効である。
【0018】
というのも、糸条巻取時のトラバースガイドの移動速度が70m/min以下と低速の場合に、この移動速度をそのまま糸条捕捉時に適用すると、糸条の慣性力が小さいため、トラバースガイドによって糸条を捕捉することが難しい。このような場合に本発明を適用すれば、トラバースガイドの移動速度にかかわらず、トラバースガイドによる糸条の捕捉を確実に行うことができるので、特に有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、糸条捕捉時に、糸条巻取時におけるトラバースガイドの移動範囲よりも狭い所定領域において、トラバースガイドを複数回往復移動させることによって、トラバースガイドによる糸条の捕捉を確実かつ短時間に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態にかかる糸条巻取装置の模式図である。
図2】トラバースガイドの拡大図である。
図3】糸条巻取装置の制御ブロック図である。
図4】糸条を捕捉する前の糸条の走行形態を示す模式図である。
図5】トラバースガイドの動作制御を示すフローチャートである。
図6】トラバースガイドの動作を示す模式図である。
図7】トラバースガイドの移動速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる糸条巻取装置の模式図である。本実施形態の糸条巻取装置1は、不図示の紡糸部から複数(ここでは4本)紡出される、合成繊維からなる糸条Yを巻き取るための装置である。紡糸部から紡出された複数の糸条Yは、それぞれ支点ガイド90を経て糸条巻取装置1に送られ、トラバースガイド36によって綾振りされながら複数(ここでは4つ)のボビンBにそれぞれ巻き取られる。
【0022】
糸条巻取装置1は、主に、直方体状の筐体10と、筐体10から左方に延設された支持梁20と、支持梁20によって支持されるトラバース装置本体30およびコンタクトローラ40と、筐体10に設けられたターレット13によって片持ち支持され、複数(ここでは4つ)のボビンBが装着可能な一対のボビンホルダ50と、を備えて構成される。
【0023】
筐体10には、糸条巻取装置1の動作を制御する制御装置11が搭載されており、オペレータがキーボード等からなる設定部12を操作することによって、制御装置11に対して各種設定を行うことができる。筐体10の左側面には、円板状のターレット13が設けられており、このターレット13はターレットモータ14(図3参照)によって回転駆動される。ターレット13からは、上下一対のボビンホルダ50が左方に延設される。
【0024】
支持梁20は、筐体10の左側面から左方に延設されており、トラバース装置本体30が取り付けられる支持面21、および支持面21の左右両端から下方に突出した一対の支持部22を有する。左右一対の支持部22は、コンタクトローラ40を回転自在に支持する。支持梁20は、不図示の昇降機構によって、筐体10に対して昇降可能に構成されており、支持梁20が昇降することで、コンタクトローラ40が上側のボビンホルダ50に装着された複数のボビンBに対して離接可能となっている。
【0025】
トラバース装置本体30は、板状のベース31と、ベース31に取り付けられた駆動プーリ32および2つの従動プーリ33、34と、プーリ32〜34に巻き掛けられた無端ベルト35と、三角形に形成される無端ベルト35の下辺部に、ボビンBの長さと略同一の間隔で設けられた複数(ここでは4つ)のトラバースガイド36と、当該下辺部に略平行な状態でベース31に取り付けられるレール37と、を有する。そして、ベース31が支持梁20の支持面21に固定されることで、トラバース装置本体30が支持梁20に固定される。なお、本実施形態では、支持面21は実際には水平に近い傾斜面として構成されている。
【0026】
駆動プーリ32がトラバースモータ38(図3参照)によって回転駆動されることで、無端ベルト35が三角形の軌跡上を走行する。なお、本実施形態では、3つのプーリ32〜34のうち、トラバースガイド36から離れたプーリ32にトラバースモータ38を直結して、プーリ32を駆動するようにしている。こうすることで、トラバースモータ38とトラバースガイド36によってトラバースされる糸条Yとの干渉を避けて、プーリ32〜34を効率的に配置することができ、装置の省スペース化を図ることができる。
【0027】
トラバースモータ38としては、例えば正逆回転可能なサーボモータやステッピングモータ等が採用され、トラバースモータ38の回転方向を切り換えることによって、無端ベルト35の走行方向が切り換えられ、複数のトラバースガイド36がボビンBの軸方向(以下、単に「軸方向」と称する。ここでは、左右方向と略同一)に往復移動する。その結果、複数の糸条Yは、それぞれ支点ガイド90を支点としてトラバースガイド36によって綾振りされる。複数のトラバースガイド36は、レール37によって左右方向に直線的に案内され、前後方向にばたつかないようになっている。
【0028】
ここで、トラバースガイド36の詳細について説明する。図2は、トラバースガイド36の拡大図である。トラバースガイド36は、無端ベルト35に固定される固定部36aと、固定部36aの前方に形成され、糸条Yを捕捉、保持する保持部36bとを有する。保持部36bは、上方から見て前方に頂点を有する略二等辺三角形に形成されており、その頂点部分に、糸条Yを収容するための糸条収容溝36cが形成されている。また、糸条収容溝36cの左右両側には、糸条Yを糸条収容溝36cまで案内するための一対の傾斜部36dが左右対称に形成されている。
【0029】
トラバースガイド36を走行方向Dへ移動させると、概ね上下方向に沿って走行する糸条Y(図4参照)に傾斜部36dが衝突する。このとき、図2の左右方向において基本的に静止している糸条Yには、走行方向Dと反対方向に慣性力Fが発生する。この慣性力Fにより、糸条Yは傾斜部36dに沿って糸条収容溝36cへ向かって移動し、最終的に糸条収容溝36cに収容される(捕捉される)。糸条収容溝36cに収容された糸条Yは、綾振り方向(左右方向)への移動が規制された状態でトラバースガイド36によって保持される。なお、トラバースガイド36の移動速度が速くなるほど、上述の慣性力Fは増大し、糸条Yの捕捉が容易となる。
【0030】
図1に戻って、糸条巻取装置1の説明を続ける。コンタクトローラ40は、左右方向に延びており、支持梁20に形成された左右一対の支持部22によって回転自在に支持され、トラバース装置本体30の下方に位置する。上述のように、支持梁20が昇降することで、上側に位置するボビンホルダ50に装着された複数のボビンBに対して、コンタクトローラ40は離接する。コンタクトローラ40は、パッケージPの外周面に接触して、所定の接圧を付与しながら回転することで、パッケージPの形状を整える。
【0031】
ボビンホルダ50は、ターレット13によって片持ち支持されており、複数のボビンBを左端から順番に脱着可能となっており、本実施形態では、4つのボビンBを詰めて装着できるようになっている。ボビンホルダ50は、ボビンホルダモータ51(図3参照)によって回転駆動され、ボビンホルダ50とともに複数のボビンBが回転することで、複数の糸条Yがそれぞれ巻き取られて複数のパッケージPが形成される。つまり、ボビンホルダ50は本発明における「巻取部」として機能する。
【0032】
ボビンホルダ50は、ターレット13の周方向において上下に180度離れた位置にそれぞれ設けられている。そして、巻取中のボビンホルダ50において複数のパッケージPが満巻きになると、ターレット13がターレットモータ14(図3参照)によって180度回転されることで、上下のボビンホルダ50の位置が入れ替えられ、ボビンチェンジが行われる。なお、ボビンホルダ50に装着された複数のパッケージPは、満巻きになると不図示のプッシャーにより左方へ押し出されてボビンホルダ50から取り外される。
【0033】
図3は、糸条巻取装置1の制御ブロック図である。制御装置11は、トラバースモータ38の動作を制御するトラバース制御部11aと、ボビンホルダモータ51の動作を制御するボビンホルダ制御部11bと、ターレットモータ14の動作を制御するターレット制御部11cと、各制御部11a〜11cにより実行される制御プログラムや制御に必要なデータを記憶する記憶部11dと、を有する。オペレータは、設定部12を介して、制御装置11により実行させる制御プログラムを選択したり、制御に必要なデータを入力することができる。
【0034】
トラバース制御部11aは、トラバースモータ38(駆動部)の回転動作を制御することで、複数のトラバースガイド36を軸方向に移動させる際の移動範囲や移動速度を制御することができる。ボビンホルダ制御部11bは、ボビンホルダモータ51の回転動作を制御することで、糸条Yの巻取速度を制御することができる。ターレット制御部11cは、ターレットモータ14を制御してターレット13を180度回転させることで、上述のように、上下一対のボビンホルダ50の位置を入れ替えることができる。また、記憶部11dには、後述するように、トラバースガイド36の動作制御を行う際に必要となる各パラメータが記憶されている。
【0035】
次に、糸条巻取装置1によって糸条Yの巻き取りを開始する際の、トラバースガイド36の動作制御について説明する。図4は、糸条Yを捕捉する前の糸条Yの走行形態を示す模式図であり、図5は、トラバースガイド36の動作制御を示すフローチャートであり、図6は、トラバースガイド36の動作を示す模式図であり、図7は、トラバースガイド36の移動速度を示すグラフである。なお、複数のトラバースガイド36はボビンBの軸方向の長さと略同一の間隔で設けられているので、各トラバースガイド36は、対応するボビンBに対して同様の動作を行うことになる。そこで、以下の説明では、基本的に1つのトラバースガイド36について説明する。
【0036】
巻取領域R1とは、トラバースガイド36に糸条Yを綾振りしながら巻き取ることによってパッケージPが形成される領域を指す。所定領域R2とは、トラバースガイド36に保持されていない糸条Yをトラバースガイド36によって捕捉させる糸条捕捉時に、トラバースガイド36を往復移動させる領域を指す。本実施形態における巻取領域R1の軸方向における寸法は例えば約220mmであり、それに対して、所定領域R2の軸方向における寸法は例えば5〜50mm程度(巻取領域R1の寸法の2〜23%程度)である。
【0037】
トラバースガイド36の一連の動作制御の間、ボビンホルダ50は、ボビンホルダ制御部11bによって、ボビンB(パッケージP)の周速度が例えば約4000m/minとなるように制御される。また、トラバース制御部11aによって、巻取領域R1に糸条Yが巻き取られる糸条巻取時におけるトラバースガイド36の移動速度は例えば約35m/min(綾角は約0.5度)とかなり低速に制御され、糸条捕捉時におけるトラバースガイド36の移動速度は例えば約100m/minに制御される。
【0038】
本実施形態で用いられるボビンBには、巻取領域R1よりも軸方向において外側(左側)に、ブレードカットBaが形成されている。ブレードカットBaは、ボビンBの周面に形成された溝であり、ブレードカットBaにより把持された糸条Yを切断することができる構造となっている。図6のd図に示すように、糸条Yの切断後、ブレードカットBa上で糸条Yが巻き取られることでバンチ巻きが形成され、その後、トラバースガイド36が巻取領域R1まで移動することで、ブレードカットBaと巻取領域R1との間にテール巻きが形成される。つまり、ブレードカットBaの形成位置が、本発明における「バンチ形成位置」に相当する。ちなみに、バンチ巻きやテール巻きは、パッケージPを解舒する際に用いられるものであり、これらをほどいて異なるパッケージPにつないでおくことで、パッケージPの解舒を連続的に行うことができるものとなっている。
【0039】
図4に示すように、トラバースガイド36で糸条Yを捕捉する前の準備として、オペレータが、紡糸部から紡出される複数の糸条YをそれぞれサクションガンGで吸引保持し、ボビンBの下流側の補助ガイド60に通す。この補助ガイド60は、左右方向においてブレードカットBaと異なる位置に配置されている。図6のa図に示すように、上述の所定領域R2は、この状態での糸条Yの糸道が、軸方向において所定領域R2内に位置するよう設定される。
【0040】
糸条Yを補助ガイド60に通し終えたら、オペレータは設定部12を介して制御装置11に動作開始指令を送り、この指令を受け付けた制御装置11によって、図5に示すトラバースガイド36の一連の動作制御が開始される。なお、この一連のトラバースガイド36の制御に使用される各パラメータ(例えば、上述の巻取領域R1や所定領域R2に関する位置データ、後述の所定位置L1や対向位置L2に関する位置データ、図7に示すトラバースガイド36の移動速度等)は、記憶部11dに記憶されている。
【0041】
まず、トラバース制御部11aは、トラバースガイド36を所定領域R2まで移動させ(ステップS101)、続いて、トラバースガイド36を所定領域R2にて高速(約100m/min)で複数回往復移動させる(ステップS102)。こうすることで、トラバースガイド36によって糸条Yを捕捉する機会を複数回確保することができ、確実に糸条Yを捕捉することができる。しかも、この所定領域R2は巻取領域R1よりも狭いため、糸条捕捉時にトラバースガイド36が往復移動する距離を短くすることができ、往復移動を複数回行ったとしても、それに要する時間を短くすることができる。したがって、トラバースガイド36による糸条Yの捕捉を確実かつ短時間に行うことが可能となる。なお、ステップS102にてトラバースガイド36を所定領域R2で何回往復移動させるかは、時間(例えば0.1〜2.0秒)で規定してもよいし、回数(例えば5〜20回)で規定してもよい。そして、これらの時間や回数は、制御装置11の記憶部11dに記憶されている。
【0042】
また、このときのトラバースガイド36の移動速度を糸条巻取時よりも速くすることで(図7参照)、糸条捕捉時にトラバースガイド36が所定領域R2を複数回往復移動するのに要する時間をさらに短くすることができる。さらに、糸条捕捉時のトラバースガイド36の移動速度を速くすることで、糸条Yの慣性力Fを増大させることができ、その結果、糸条Yを傾斜部36dに沿って移動させやすくなるので、トラバースガイド36による糸条Yの捕捉をより確実に行うことができる。
【0043】
ステップS102にて糸条Yを捕捉、保持した後、トラバース制御部11aは、トラバースガイド36を軸方向において所定領域R2とブレードカットBaとの間の所定位置L1(図6のb図参照)まで高速(約100m/min)のまま移動させる(ステップS103)。その後、図7に示すように、トラバースガイド36の移動速度を例えば10m/min、0.5m/minと段階的に下げてから、トラバースガイド36をブレードカットBaの対向位置L2(図6のc図参照)まで移動させる(ステップS104)。
【0044】
このように、トラバースガイド36によって糸条Yが捕捉された後、糸条捕捉時の速い移動速度のままで、トラバースガイド36を所定領域R2とブレードカットBaとの間の所定位置L1まで移動させることで、糸条Yの巻き取りが開始されるまでに要する時間を短くすることができる。また、その後、トラバースガイド36の移動速度を下げることにより、糸条Yが切断されることを回避できるとともに、ブレードカットBaの対向位置L2にトラバースガイド36を確実に停止させることができる。
【0045】
次に、トラバース制御部11aは、トラバースガイド36を対向位置L2で所定時間停止させる(ステップS105)。このとき、図6のc図に示すように、左右方向において補助ガイド60はブレードカットBaと異なる位置に配置されているため、ボビンBと補助ガイド60との間を糸条Yが斜めに走行する。この斜めに走行する糸条Yを、ブレードカットBaに形成されたノッチ(斜めの切込み)に引っ掛けることで、糸条Yは、ブレードカットBaによって把持されるとともに切断され、ボビンBに糸条Yが巻き取られるようになる。そして、トラバースガイド36を対向位置L2で所定時間停止させることで、ブレードカットBa上にバンチ巻きが形成される(図6のd図参照)。
【0046】
続いて、トラバース制御部11aは、トラバースガイド36を対向位置L2から巻取領域R1まで移動させる(ステップS106)。この際に、ブレードカットBaと巻取領域R1との間にテール巻きが形成される。なお、本実施形態では、図7に示すように、テール巻き形成時のトラバースガイド36の移動速度は、糸条巻取時の移動速度よりも若干速くなっているが、テール処理の内容に応じて適宜変更が可能である。
【0047】
最後に、トラバースガイド36が巻取領域R1まで移動すると、トラバース制御部11aは、巻取領域R1にてトラバースガイド36を往復移動させる(ステップS106)。その結果、糸条Yが綾振りされながら、ボビンBの巻取領域R1に巻き取られ、パッケージPが形成される。なお、糸条巻取時におけるトラバースガイド36の移動速度を35m/minで一定とすることは必須ではなく、7〜70m/min程度(綾角は0.1〜1.0度程度)の範囲内で変動させてもよい。
【0048】
以上のように糸条巻取装置1によれば、糸条捕捉時に、糸条巻取時におけるトラバースガイド36の移動範囲(巻取領域R1の範囲)よりも狭い所定領域R2において、トラバースガイド36を複数回往復移動させることによって、トラバースガイド36による糸条Yの捕捉を確実かつ短時間に行うことができる。
【0049】
ここで、所定領域R2が狭いほど、糸条捕捉時にトラバースガイド36が所定領域R2を複数回往復移動するのに要する時間を短くすることができるが、一方で、所定領域R2が狭すぎると、所定領域R2内に糸条Yを位置させることが難しくなる。そこで、本実施形態のように、軸方向における所定領域R2の寸法を、5mm以上50mm以下程度とするのが好ましい。軸方向における所定領域R2の寸法を50mm以下とすることで、糸条捕捉時にトラバースガイド36が所定領域R2を複数回往復移動するのに要する時間を短くすることができるとともに、5mm以上とすることで所定領域R2内に糸条Yを容易に位置させることができる。
【0050】
また、糸条捕捉時のトラバースガイド36の移動速度が速いほど、糸条捕捉時にトラバースガイド36が所定領域R2を複数回往復移動するのに要する時間を短くすることができるとともに、糸条Yの慣性力Fを増大させて、糸条Yを傾斜部36dに沿って移動させやすくすることができ、より確実に糸条Yを捕捉することができる。一方で、糸条捕捉時のトラバースガイド36の移動速度が速すぎると、糸条Yが切断するなどの不具合が発生するおそれがあり、糸条Yの捕捉が適切に行われないおそれがある。そこで、本実施形態のように、糸条捕捉時のトラバースガイド36の移動速度を、糸条巻取時のトラバースガイド36の移動速度よりも速くかつ14(=100/7)倍以下程度とするのが好ましい。糸条捕捉時のトラバースガイド36の移動速度を糸条巻取時よりも速くすることで、糸条捕捉時にトラバースガイド36が所定領域R2を複数回往復移動するのに要する時間をさらに短くすることができるとともに、トラバースガイド36による糸条Yの捕捉をより確実に行うことができる。また、糸条捕捉時のトラバースガイド36の移動速度を糸条巻取時の14倍以下とすることで、糸条Yの切断等を回避し、糸条を適切に捕捉することができる。
【0051】
また、本実施形態のように、糸条巻取時のトラバースガイド36の移動速度が約70m/min以下である場合に、本発明は特に有効である。というのも、糸条巻取時のトラバースガイド36の移動速度が70m/min以下と低速の場合に、この移動速度をそのまま糸条捕捉時に適用すると、糸条Yの慣性力Fが小さいため、トラバースガイド36によって糸条Yを捕捉することが難しい。このような場合に本発明を適用すれば、トラバースガイド36の移動速度にかかわらず、トラバースガイド36による糸条Yの捕捉を確実に行うことができるので、特に有効である。
【0052】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上述の実施形態に限られるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【0053】
例えば、上述の実施形態においては、糸条Yの巻き取りを開始する際について説明したが、ボビンチェンジを行った後、糸条Yの巻き取りを再開する際にも、本発明を適用することができる。
【0054】
また、上述の実施形態においては、ボビンBにバンチ巻きやテール巻きを形成するものとしたが、これらを形成しないことも可能である。その場合には、ブレードカットBaを巻取領域R1内に形成可能なため、図5のステップS106を省略できる。また、図5のステップS102までは糸条YがボビンBに接触していない状態とし、その後にターレット13を回動させるなどの動作によりボビンBに糸条Yを巻き付かせる構成としてもよい。この場合、巻取領域R1の中央すなわち支点ガイド90の真下にブレードカットBaを形成しておけば、糸条YがボビンBに巻き付くことでブレードカットBaに糸条Yが掛かることになるため、図5のS103〜S106までを省略することができる。
【0055】
また、上述の実施形態においては、糸条Yを捕捉する前の準備として、オペレータがサクションガンGで糸条Yを吸引保持し、糸条Yを補助ガイド60に通すものとした。しかしながら、補助ガイド60に糸条Yを通すことは必須ではなく、例えば、オペレータがサクションガンGで糸条Yを吸引保持した状態で、糸条Yを所定領域R2内に位置させるようにしてもよい。また、サクションガンGの動作を制御装置11によって制御するようにしてもよい。
【0056】
また、トラバースガイド36の速度制御は、図7に示した形態に限定されない。例えば、糸条捕捉後、トラバースガイド36が対向位置L2に移動するまでの速度を、2段階ではなく、より多段階で小さくするようにしてもよいし、徐々に小さくするようにしてもよいし、あるいは一定速度に維持するようにしてもよい。
【0057】
また、トラバース装置本体30の具体的構成も、上述の実施形態に示したものに限定されない。例えば、トラバースガイド36の形状を、特開平6−321426号公報の図3に開示されているように、糸条収容溝の両側に形成される傾斜部の長さを異ならせ左右非対称とし、糸条を一方側から捕捉しやすいものにしてもよい。
【0058】
また、トラバース装置が1つのトラバースモータ38で複数のトラバースガイド36が駆動される構成としたが、特開2010−163250号公報に記載のように各トラバースガイド毎に駆動モータを設置した構成としても良い。
【0059】
また、トラバース装置としてトラバースモータ38の正逆回転で無端ベルト35の往復動作を行う形式のものについて説明したが、このような形式のトラバース装置に限定されない。例えば、特表2002−528358号公報に記載のような旋回型往復動作トラバース装置や、特開平07−165368号公報に記載のリニアモータトラバース装置など、様々な形式のトラバース装置に適用することができる。
【0060】
また、上述の実施形態における糸条巻取装置1は、紡糸部から紡出された糸条Yを巻き取るものに限定されず、例えば仮撚装置に設けられる巻取装置に適用することも可能である。また、糸条巻取時のトラバースガイド36の移動速度が遅い場合(綾角が小さい場合)に、特に本発明が有効であることを上で説明したが、本発明は糸条巻取時の綾角にかかわらず適用できるものである。
【符号の説明】
【0061】
1:糸条巻取装置
11a:トラバース制御部(制御部)
36:トラバースガイド
38:トラバースモータ(駆動部)
50:ボビンホルダ(巻取部)
B:ボビン
P:パッケージ
R1:巻取領域
R2:所定領域
L1:所定位置
L2:対向位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7