【実施例】
【0101】
実施例1
この実施例は、様々な材料および方法の記載を含む。
【0102】
AAVベクターおよび空キャプシド:AAVベクターを、以前に記載されているように調製した(Matsushita T.ら、Gene.Ther.5、938−945(1998))。ゲノム含有ベクターおよび空AAVキャプシド粒子を、塩化セシウム勾配遠心分離により精製した(Ayuso E.ら、Gene.Ther.17、503−510(2010))。インビボ実験に用いられるAAVベクターは、肝臓特異的プロモーターの調節下でヒトF.IXを発現した(Manno C.S.ら、Nat.Med.12、342−347(2006))。
【0103】
適切な精製ステップのフローチャートは下に提供される。
回収
↓
接線流濾過による濃縮/ダイアフィルトレーション
↓
微少溶液操作による細胞溶解
↓
濾過による清澄化
↓
イオン交換カラムクロマトグラフィーによるAAV粒子の精製
↓
接線流濾過によるカラム溶出液の濃縮(任意)
↓
1×CsCl勾配遠心分離
↓
接線流濾過による濃縮および緩衝液交換
↓
界面活性剤および濾過(0.2μm)での最終処方
↓
最終滅菌濾過(0.2μm)、バイアル充填および完了
(最終産物) 。
【0104】
架橋:AAVキャプシドを、2つの異なるプロトコールで架橋した。1つのプロトコールにおいて、1ミリリットルあたり1×10
13個のAAV粒子を、37%ホルムアルデヒド(Sigma)の1:200希釈溶液と回転ホイール上、4℃で3週間、インキュベートした。その後、試料中のホルムアルデヒドを、3.75%(w/v)メタ重亜硫酸ナトリウムを加えることにより(1:100)、中和した。ベクターを、1× PBS中で透析し、濾過し、−80℃で保存した。未処理のベクターを、同様に、ただしホルムアルデヒドの非存在下で、処理した。第2のプロトコールにおいて、ベクターを5mM 3,3’−ジチオビス[スルホスクシンイミジルプロピオネート](DTSSP、Pierce−Thermo Scientific)とインキュベートした。DTSSPでの架橋を、氷上で2時間、行った。架橋後、ベクターを1× PBS中で透析し、−80℃で保存した。架橋は、抗AAV2モノクローナル抗体A20によるキャプシド認識に影響しなかった(
図13)。
【0105】
ヒト血清および細胞試料:研究に用いられる全てのヒト試料を、Children’s Hospital of PhiladelphiaおよびUniversity of Pittsburgh’s Institutional Review Boards(IRB)によって承認されたプロトコールにより収集した。小児科被験体由来の試料を、商業的供給源(Bioreclamation)から取得した。樹状細胞(DC)の調製に用いられる匿名化された末梢血単核細胞(PBMC)試料(Mingozzi F.ら、Nat.Med.13,419−422(2007))を、University of PennsylvaniaにおけるCenter for AIDS Researchから入手した。
【0106】
動物研究:動物研究は、Children’s Hospital of PhiladelphiaおよびCharles River Laboratories Preclinical ServicesにおけるInstitutional Animal Care and Use Committees(IACUC)によって承認された。週齢8〜10週間の雄C57BL/6マウスを、Charles Rivers Laboratoriesから購入した。総体積200μlの1× PBS中の静脈内免疫グロブリン(IVIg、Gamunex)を、腹腔内に注射した。非ヒト霊長類研究について、ベクターを、以前に記載されているように(Nathwani A.C.ら、Blood.109、1414−1421(2007))、末梢静脈注入により送達した。
【0107】
抗体アッセイ:インビトロ抗AAV中和抗体アッセイは、アッセイの感度を増加させるためにレポーター遺伝子ルシフェラーゼを発現するAAVベクターを用いることにより改変された、以前に記載されたプロトコール(Manno,C.S.ら、Nat Med 12、342−347(2006))に基づいた。アッセイにおいて、NAb力価は、「ウイルスのみ」対照のシグナルと比較してルシフェラーゼシグナルの50%抑制が観察される試験血清の逆数の希釈度に対応する。試験血清の1:1希釈におけるレポーターシグナルのパーセント抑制は、希釈されていない試験試料の抑制活性を表す。
【0108】
抗AAV抗体を検出するためのドットブロットアッセイについて、1μgのAAV2またはAAV8キャプシドを、Minifold I Dot−Blot System(GE Healthcare Life Sciences)を用いてニトロセルロース膜上へスポットした。その後、膜を、TBS Western Blocking Reagent(Roche)で一晩、ブロッキングし、試験血清の1:500希釈溶液と室温で1時間、インキュベートした。0.1% Tween−20(Bio−Rad)を含むTBSで条片を洗浄し、IRDye 800 CW(LI−COR Biosciences)で標識されたヤギ抗ヒトIgG抗体(Southern Biotech)を用いて、結合したIgGを検出した。ブロットを、Odyssey Infrared Imaging system(LI−COR Biosciences)を用いて169μmの分解能で取得した。画像デンシトメトリーを、ImageJソフトウェア バージョン1.45s(National Institute of Health)を用いて実施し、生じた平均強度を、バックグラウンドの引き算後、陽性対照(FACTプールされたヒト血漿、George King)に占める割合として表した。ドットブロットアッセイは、以下の通り、より詳細に記載されている:
キャプシド変異体の作製:AAV2野生型キャプシドタンパク質を、Quickchangeキット(Invitrogen)を用いて変異を誘発した。2つの変異を挿入し、結果として、2個のアミノ酸変化:R585AおよびR588Aを生じた(その変異体キャプシドは、この明細書においてAAV
585/8と示されている)。そのキャプシドを用いて、以下の材料を調製した:インビトロ形質導入効率研究のためのAAV
585/8−GFPベクター;マウスにおいて、その変異体キャプシドの肝臓を形質導入し、かつヒト第IX因子を発現する能力を研究するためのAAV
585/8−FIX19ベクター;およびこの変異体の、抗AAV抗体についてのデコイとして働く能力を研究するためのAAV
585/8空キャプシド。
【0109】
試薬および装置:
Tris緩衝食塩水、TBS、10×、Sigma T5912または同等物
ウェスタンブロットブロッキング試薬、Roche Applied Bioscience 11921673001または同等物
Tween 20、Bio Rad 170−6531または同等物
ニトロセルロース膜、ポアサイズ0.2μm、Protran BA83−10402488
ゲルブロットペーパーGB003(15×15cm)Whatman(登録商標)
密度勾配精製されたAAV空キャプシド
精製された抗ヒトIgG(UNLB)、Southern Biotech 2040−01
928−38040 IRDye 800CWタンパク質標識キット−高分子量
対照FACT血漿、George King Biomedicalカタログ#0020−1、ロット番号D9d1(入手可能ならば)
プール小児科血清
フタ付きの無処理の4ウェルのディッシュ、Thermo Scientificカタログ#267061または同等物
血清学的ピペット、5mL、10mL、25mL
50mL遠心機/コニカルチューブ、Corning 430290
試薬リザーバ、Costar 4870
12チャネルのマルチチャネルピペッター20〜200μL
P−20、P−200、およびP−1000 Rainin Pipetman
ピペットチップ
Nunc−Immuno(商標)チューブMiniSorp 4ml、ポリエチレン、466982
12チャネルのリザーバ、Costar 4877
ボルテックスミキサー
ピンセット
アルミ箔
Odysseyソフトウェア(Li−Cor Biosciences)
ImageJソフトウェア
Microsoft Excel 。
【0110】
装置
生物学的安全キャビネット
フリーザー、−80℃
冷蔵庫、2〜8℃
真空源
Odissey Infrared Imaging System(Li−Cor Biosciences)
オービタルシェーカー 。
【0111】
試薬の調製
≧1×10
13vg/mLの濃度でのAAV空キャプシド
−80℃における保存100μLアリコート
ブロッキング緩衝液:ブロッキング緩衝液を1× TBS中に1:10希釈する。プレートあたり70mLのブロッキング緩衝液を調製し、最高4ヶ月間、−20℃で保存する。
希釈緩衝液:ブロッキング緩衝液を1× TBS中に1:1希釈する。
洗浄緩衝液:1× TBS、0,1%(v/v)Tween 20の溶液を調製する。最高1ヶ月間、2〜8℃で保存する。
対照血漿FACT:対照血漿を56℃で30分間、熱失活させ、50μLアリコートを−80℃で保存する。製造日から3年間の有効期限を割り当てる。解凍されたアリコートを再凍結してはならない。
試験試料:試験血清または血漿試料を56℃で30分間、熱失活させ、アリコートを−80℃で保存する。
標識された抗ヒトIgG CW800:製造会社の使用説明書に従って、抗体を標識する。最終の抗体濃度は、2mg/mlであり、色素/タンパク質比率は1.5〜2の間にあるべきである。
【0112】
手順
試薬の調製:アッセイの1日目
AAV空キャプシドを、プレートあたり5mlのMiniSorpチューブにおいて、TBS 1×中、10μg/mlの最終濃度へ希釈する。
ブロッキング緩衝液を、プレートあたり5mlのMiniSorpチューブにおいてTBS 1×中、1/1000に希釈する。
容器内にニトロセルロース膜およびゲルブロットペーパーを置いて、それらを1× TBS中、5分間、浸漬させる。
Minifold System Iを真空源に接続し、真空プレナムの上にフィルターサポートプレートを置き、登録ピンを一直線に並べる。フィルターサポートプレート上にペーパーを置き、切断の角を登録ピンと合わせ、この手順を繰り返して、ゲルブロットペーパーの上にニトロセルロース膜を置く。
減圧を与え、100μl/ウェルをニトロセルロース膜上に、以下のテンプレートに従って、マルチチャネルピペットでスポットする(BB、ブロッキング緩衝液;AAV、空キャプシド):
【0113】
【化2】
【0114】
なお減圧を続け、クランプを外すことによりマニホールドを取り外し、鉗子を用いて、注意深く膜を取り出す。膜を乾燥させ、50mlのブロッキング緩衝液でシェーカー(200rpm)上、4℃で一晩、ブロッキングする。
【0115】
試料調製およびインキュベーション:2日目
希釈緩衝液を用いて、試験試料および対照(陽性としてのFACT血漿および陰性小児科試料)の2mLの1:500希釈溶液を調製する。
鉗子とはさみを用いて膜を長方形に、各片が2つのAAVスポットと2つのBBスポットを有するように切断する。
シェーカー上で、膜を試料および対照と室温で1時間、インキュベートする。
洗浄緩衝液(1回の洗浄あたり10ml、5分間)で3回、洗浄する。
希釈剤として希釈緩衝液(試料あたり2ml、プレートあたり50ml)を用いて、抗ヒトIgG 800CWの1/10000希釈溶液を調製する。
アルミ箔で膜を覆いながら、試料を室温で1時間、インキュベートする。
暗闇中、洗浄緩衝液(1回の洗浄あたり10ml、5分間)で3回、洗浄する。
ピンセットを用いて、2枚のゲルブロットペーパーの間に各膜を置く。それを乾燥させ、アルミ箔で包む。
画像取得:Odyssey(Odissey)ソフトウェアを開き、新しいプロジェクトを開く。
Odysseyスキャナ上に乾燥膜を、表を下にして置く。
スキャナ表面上のルーラーを用いて取得領域を決定し、ダイアログパネル上に以下のパラメーターを設定する:
(1)分解能:169μm
(2)焦点:膜
(3)チャネル:800
(4)強度:5
取得を保存し、カラー化TIFFとして画像をエクスポートする。
【0116】
Image J分析
Tiff画像をImage Jソフトウェアで開き、カラーチャネルを分割する(Image>Color>Split Channel)。
Specify Selection Tool(Edit>Selection>Specify)を用いて、25×25楕円形選択を描く。
FACTおよび陰性対照を含む、各AAVおよびBBスポットについて平均強度を測定する。
各2連の読み取りの平均をとる。
結果をアッセイレポート形式へコピーし、レポート形式の下部にある式を用いて、最大平均強度に占めるパーセントを計算する。
【0117】
最大平均強度に占める%の式:
[(未知試料の平均強度)−(陰性の平均強度)]
[(陽性の平均強度)−(陰性の平均強度)] 。
【0118】
第IX因子および抗ヒトF.IX抗体の決定:マウス血漿中のヒトF.IXトランスジーン産物のレベルを、Affinity Biologicals社製の市販のELISAキットを用いて検出した。アカゲザル血漿中のヒトF.IXおよび抗ヒトF.IX抗体を、以前に記載されているように(Mingozzi F.ら、Blood.110、2334−2341(2007))、決定した。
【0119】
AAVベクターゲノムコピーの決定:リアルタイム定量PCR(Q−PCR)プライマーおよびプローブは以下の通りであった:AAV−F.IXベクターゲノムの検出について、フォワードプライマー5’−CGAATTCTAGTCGTCGACCACTT−3’、リバースプライマー5’−CATGTTCACGCGCTGCATA−3’、プローブ5’−CACAATCTGCTAGCAAAG−3’。AAV−GFPベクターゲノムの検出について、フォワードプライマー5’−AAGCTGACCCTGAAGTTCATC−3’、リバースプライマー5’−CTGCTTCATGTGGTCGGG−3’、プローブ5’−AAGCACTGCANCGCCGTAGGTA−3’。アッセイを、以前に記載されているように(Mingozzi F.ら、Blood.110、2334−2341(2007))、実施した。
【0120】
細胞内画像化および細胞傷害性Tリンパ球(CTL)アッセイ:画像取得を、Amnis ImageStreamX instrument(Amnis Corporation)を用いて実施した。画像化を、40×倍率で実施した。各条件について少なくとも5000個の細胞を取得した。細胞を、無血清培地中、未処理の、または架橋されたAAV2ウイルスとインキュベートした。1時間または4時間後、細胞を1× PBSで2回、洗浄し、染色した。細胞内染色について、5×10
5個の細胞を固定し、4℃で20分間、透過処理し、その後、1× Perm/Wash緩衝液(BD Bioscience)で洗浄した。その後、細胞を、ウサギ抗CD71抗体(Epitomics)またはDRAQ5(Invitrogen)と共に抗AAV抗体A20(Fitzgerald Industries International)で染色した。室温での30分後、細胞を洗浄し、二次抗体で染色した。CTLアッセイは、以前に記載されていた(Pien G.C.ら、J.Clin.Invest.119、1688−1695(2009);Mingozzi F.ら、Blood.110、2334−2341(2007))。
【0121】
統計解析:統計解析を、GraphPad Prismバージョン5.0b(Graph Pad Software,Inc)を用いて実施した。p値<0.05を有意とみなした。
【0122】
実施例2
この実施例は、第IX遺伝子治療で処置された患者の観察および解析の記載、ならびに低いAAV抗体力価に基づいた被験体の選択にもかかわらず、抗AAV抗体力価において実質的な差異があったという発見を含む。
【0123】
AAV2−F.IX肝臓研究(Manno,C.S.ら、Nat Med 12、342−347(2006))およびAAV8−F.IX肝臓研究(Nathwani,A.C.ら、New Engl.J.of Med.365、2357−2365(2011))に登録された被験体は、検出可能なレベルの抗AAV抗体を有した(表1;Manno,C.S.ら、Nat Med 12、342−347(2006);およびNathwani,A.C.ら、New Engl.J.of Med.365、2357−2365(2011))。両方の研究における被験体は、類似したベクター用量を受けた;しかしながら、AAV2研究において、低用量(8×10
10ベクターゲノム(vg)/kg)および中位の用量(4×10
11vg/kg)のコホートにおける被験体のいずれも、検出可能なレベルのトランスジーン発現を示さなかったが(Manno,C.S.ら、Nat Med 12、342−347(2006))、AAV8試験における被験体は、低用量(2×10
11vg/kg)および中位の用量(6×10
11vg/kg)の両方のコホートにおいて、検出可能なレベルの凝固因子(>1%)を有した(Nathwani,A.C.ら、New Engl.J. of Med.365、2357−2365(2011))。これらの研究の異なる成績についての可能な説明は、AAV2ベクターと比較して、AAV8ベクターの肝実質細胞に対するより高いトロピズムであり得(Gao,G.P.ら、Proc Natl Acad Sci USA 99、11854−11859(2002))、またはAAV8が、より高いトランスジーン発現レベルを駆動させることが知られた自己相補的ゲノムを有するという事実であり得た。非ヒト霊長類における発表された研究は、同じトランスジーン発現カセットを有するAAV8ベクターまたはAAV2ベクターの送達後のおおよそ等価のレベルのF.IXトランスジーン発現を示した(Jiang,H.ら、Blood 108、3321−3328(2006);Mingozzi,F.ら、Blood 110、2334−2341(2007))。AAV2およびAAV8の両方の試験において、最高のベクター用量(2×10
12vg/kg)で注射された被験体は、類似したピークF.IXトランスジーン産物の血漿中レベルを有した(Manno,C.S.ら、Nat Med 12、342−347(2006);Nathwani,A.C.ら、New Engl.J.of Med.365、2357−2365(2011))。
【0124】
個体をより厳密に評価するために、以前に記載されたインビトロNAbアッセイを用いて、血友病被験体由来の一連の血清をスクリーニングした(Manno,C.S.ら、Nat Med 12、342−347(2006))。低NAb力価(1〜3)を有するそれらの試料の間で、非希釈血清中の幅広い範囲の中和活性が測定された(表1)。その後、試料を、総抗AAV8抗体についての高感度の血清型特異的ドットブロットアッセイ(
図10)を用いて分析した(表1)。
【0125】
【表1】
【0126】
低NAb力価を有する被験体の事前選択にもかかわらず、ドットブロット分析は、検出された総抗AAV抗体(中和および非中和の両方)の量における顕著な差異を示し、成人被験体の大部分が、陰性であった小児科被験体と比較して、陽性の結果を示した(表1)。
【0127】
これらの結果は、AAVに対する低力価中和抗体(NAb)を有するように思われる成人ヒト被験体が、NAbについての日常的アッセイによっては確実には検出されない有意な量の抗AAV IgGを有することを示している。
【0128】
実施例3
この実施例は、高力価のAAV Nabを有する動物においてさえも、AAVベクターを過剰量のAAV空キャプシドと共に処方または送達することが、結果として、抗AAV抗体の存在下でさえも、AAVベクター送達後にインビボでの形質導入のレスキューを生じたことを実証する動物研究の記載を含む。
【0129】
インビボでAAVベクターの形質導入の効率への空キャプシドの効果を研究するために、空キャプシドをAAVベクターと処方した。まず、インビトロ研究により、AAVベクター調製物における空キャプシドの包含が、インビトロでヒト血清の中和活性を大いに低下させることが明らかにされた(
図11)。
【0130】
第2に、インビボでAAVベクターの形質導入の効率への空キャプシドの効果を研究するために、抗AAV抗体応答のマウスモデル(Scallan C.D.ら、Blood.107、1810−1817(2006))(
図1a)を作製した。ナイーブのマウスまたは低用量のIVIg(0.5mg/マウス)で免疫されたマウスへ、ヒトF.IXを発現するAAV8ベクター(AAV8−hF.IX)を、1から3までの範囲の抗AAV8 NAb力価を生じるのに十分に、注射した(
図1a、b)。1×10
9および5×10
9vg/マウスのベクター用量、または10倍(10×)過剰量のAAV8空キャプシド中に処方された同じベクター用量は、ナイーブの動物において血漿中、類似したレベルのhF.IXを生じた。IVIg免疫化は、PBS中に処方されたベクターによるほとんどの肝臓形質導入を効果的にブロックしたが、10× 空キャプシド中のベクターの処方物は、トランスジーン発現をレスキューした(
図1b)。5×10
9vgのAAV8−hF.IXを受けた動物から収集された肝臓において測定されたベクター遺伝子コピー数は、これらの所見を確認した(
図1c)。
【0131】
その所見を確認するために、AAV8についての天然の宿主であるアカゲザル(Gao G.P.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99、11854−11859(2002))における類似した研究を実施した。30匹の動物をスクリーニングして、1のNAb力価を有する合計7匹のサルを同定した。ヒトと同様に、低NAb力価にもかかわらず、選択された動物のベースラインの非希釈血清は、10%から80%までのインビトロでの中和活性、およびドットブロットアッセイにおける様々な量の抗AAV8 IgGを有した(表2)。AAV8−hF.IXの1×10
12vg/kgの用量において、ベクターのみを受けた2匹の動物のうち、1匹(1001)は、抗hF.IX抗体の発生のため、hF.IXトランスジーンを一過性のみ、発現し、そのことは、アカゲザルにおいて以前に報告された所見である(Mingozzi F.ら、Blood.110、2334−2341(2007);Nathwani A.C.ら、Blood.107、2653−2661(2006);Nathwani A.C.ら、Mol.Ther.19、876−885(2011));他方の動物、1002は、67ng/mlのプラトーhF.IX血漿中レベルに達した。対照的に、9× 空AAV8キャプシド中に処方されたベクターを注射された動物、2001は、ほとんど6倍高い、トランスジーン発現のプラトーレベルに達した(
図1dおよび表2)。1002および2001の動物は、ベースラインにおいて類似した抗AAV8中和活性を示した(約30%、表2)。
【0132】
【表2】
【0133】
動物は、抗ヒトF.IX抑制性抗体を発生した。2×10
12vg/kgへの用量増大は、類似した結果をもたらした。ベクターのみを投与された2匹の動物のうちの1匹の3001は、循環hF.IXトランスジーン産物の検出可能なレベルを達成しなかった。その動物は、抗hF.IX抗体を発生せず、肝臓におけるAAVベクターゲノムコピー数(表3)は、ベースラインにおける非希釈血清の57%中和活性が、ベクター形質導入を完全にブロックしたことを示唆している。ベクターのみを投与された他方の動物の3002は、約169ng/mlの循環hF.IXのプラトーレベルに達した。9× 空キャプシド中に処方されたベクターを投与された2匹の動物のうち、4001(80%のベースライン中和活性)は、血漿中、約415ng/mlのhF.IXトランスジーン産物を示した。3001とほとんど同一の55%の血清ベースライン中和活性を有する4002は、915ng/mlのプラトーhF.IX発現を有した(
図1dおよび表2)。処方物における空キャプシドの包含は、AAVベクター体内分布に影響しなかった(表3)。
【0134】
【表3】
【0135】
これらの結果は、血管内腔を通しての遺伝子移入後のAAVベクター形質導入効率への、空キャプシドが有する増強効果に関する、インビトロおよびマウスにおけるインビボでの所見を、大型動物モデルにおいて確認している。AAVベクターのAAV空キャプシドと共の投与または同時処方は、抗AAV NAbの存在下でさえも、標的細胞の効率的なトランスジーン形質導入および発現を可能にする。
【0136】
次の研究において、低力価および高力価のAAV抗体を産生する、IVIgで免疫されたマウス(
図1a)を、増加性量の空キャプシドと組み合わせてのAAVベクター遺伝子形質導入について分析した。簡単に述べると、マウスは、単独での、または増加性量の空AAV8キャプシド中に処方された、5×10
9vg/マウスのベクターを受けた(
図2a〜d)。低力価の抗AAV8 NAb力価の存在下において(
図2a)、10倍過剰量の空キャプシド中でのベクターの処方は、AAVベクター形質導入を完全にレスキューした。AAV8−F.IX用量の最高100×までの空キャプシド過剰量は、AAVベクター形質導入を抑制しなかった。1000倍過剰量の空キャプシドは、トランスジーン発現の約40%損失を生じた。
【0137】
同様に、肝臓形質導入の完全なレスキューは、10および100のNAb力価の存在下において、それぞれ、50×および100×の過剰量の空キャプシドで得られた(
図2b、c)。しかしながら、1000×過剰量の空キャプシドを加えることによってさえも(
図2d)、極めて高いNAb力価(>3000)の存在下における肝臓遺伝子形質導入の完全なレスキューは検出されなかった。
【0138】
抗AAV NAbの明らかな交差反応性により(Boutin S.ら、Hum.Gene.Ther.21、704−712(2010);Calcedo R.ら、J.Infect.Dis.199、381−390(2009))、抗AAV8 NAbの存在下におけるAAV8−F.IXベクター形質導入は、AAV8またはAAV2空キャプシドにより等しくレスキューされたが、AAV5空キャプシドは、それほど効果的ではなかった(
図12)。したがって、交差反応性により、1つのAAV血清型由来の空キャプシドが、1つ以上の異なるAAVベクター血清型に対する中和抗体の効果(affect)を抑制または低下するために用いることができることは明らかである(例えば、AAV2空キャプシドと組み合わせたAAV8ベクター、および逆の場合も同じ)。
【0139】
これらの所見は、AAV空キャプシドが、全身性ベクター送達後の肝臓形質導入を、抗AAV Nabの存在下で、かつ用量依存性様式で、増強することを実証している。過剰な空キャプシドを用いることは、より高いNAb力価動物においてAAVベクター中和を克服して、インビボで効率的なトランスジーン形質導入をもたらすであろう。これらの結果はまた、交差反応性空キャプシド血清型を、異なるAAVベクター血清型と組み合わせて用いて、AAVベクター中和を抑制するか、または低下させることができることも実証している。
【0140】
実施例4
この実施例は、架橋された空キャプシドが、AAV抗体によるAAVベクター中和の機能的抑制を維持しながら、キャプシド免疫原性を低下させることを実証する動物研究の記載を含む。
【0141】
空キャプシドの標的細胞への侵入は、キャプシドエピトープのMHCクラスI提示のレベルを増加させる可能性が高い(Mingozzi,F.ら、Current Gene Therapy 11、321−330(2011);Finn J.D.ら、Mol.Ther.18、135−142(2010);Pien G.C.ら、J.Clin.Invest.119、1688−1695(2009);Johnson J.S.ら、J.Virol.83、2632−2644(2009))。先在する抗AAV抗体に結合するか、またはそれらと反応する能力を実質的に損なうことなく、細胞に侵入するそれらの能力を低下させるために、空AAVキャプシドを、それらをAAV−F.IXベクター処方物へ加える前に架橋した。ホルムアルデヒド架橋方法を用いた結果が表されている;キャプシド架橋のためのDTSSP方法は同様の結果を示した。
【0142】
AAVベクターの架橋を、SDS−PAGEおよびインビトロで形質導入効率を試験することにより、検証した(
図13)。架橋された空AAVキャプシドは、インビトロで(
図3a)、およびマウスにおいてインビボで(
図3b)、抗AAV NAbを吸着するそれらの能力を保持した。
【0143】
架橋された空キャプシドの肝臓トロピズムをインビボで分析するために、単独での、または10×過剰量の未処理の、もしくは架橋されたAAV−GFPベクターと混合されたAAV−F.IXベクターをマウスに投与した。架橋は、AAV−GFPベクターの標的を肝臓から有意に外し(
図3c)、一方、AAV−F.IXベクターゲノムは、全ての実験群からの動物において、類似したレベルで検出可能であった(
図3d)。架橋は、脾臓または他のリンパ器官におけるAAVベクター体内分布を検出可能には変化させなかった。
【0144】
未処理の、または架橋された空AAV2キャプシドで、インビトロで形質導入されたヒト肝実質細胞のフロー画像化により、架橋が、空AAVキャプシドの細胞への侵入をブロックすることが示された(
図4a)。架橋はまた、架橋されたAAVキャプシドが、インビトロでのCTLアッセイにおいて標的ヒト肝実質細胞の殺害を引き起こすことができないことにも関連していた(
図4b)(Finn J.D.ら、Mol.Ther.18、135−142(2010);Pien G.C.ら、J.Clin.Invest.119、1688−1695(2009))。最後に、AAVキャプシドの架橋は、インビトロでの単球由来ヒトDCにおけるキャプシドの内部移行(
図4c)およびエンドソーム局在化(
図4d)の両方を減少させた。
【0145】
これらの結果は、架橋されたAAVキャプシドが、抗AAV NAbの存在下でベクター形質導入を増強する能力を保持することを示している。さらに、その研究は、架橋が、AAVベクターの細胞取り込みを有意に減少させ、免疫媒介性破壊としての、形質導入された肝実質細胞(および他のAAVベクターが形質導入された細胞)の衰えのリスクを低下させる可能性があることを示している。
【0146】
実施例5
この実施例は、疾患または障害を処置するためにAAVベクターおよび/または空キャプシドAAVを用いる患者処置研究の記載を含む。
【0147】
AAVベクターの投与を必要とする代謝性または遺伝的疾患に冒された患者において、先在するNAb力価を、インビトロの中和アッセイを用いて決定する。患者由来の血清の段階希釈溶液を、ルシフェラーゼレポーターを発現するAAVベクターと37℃でインキュベートする。増加性量のAAV空キャプシドを、1×から10000×まで、その反応へ加える。<1:1のNAb力価を生じるだろう過剰量の空AAVキャプシドは、トランスジーン移入のためのAAVベクターとの処方物を作製するために用いることができる。したがって、AAVベクターでの遺伝子治療についての候補患者由来の血清または血漿試料などの試料を、AAV抗体(例えば、中和抗体または「NAb」)アッセイを用いて、抗AAV中和抗体について分析する。
【0148】
簡単には、患者由来の試料を、レポータートランスジーン(例えば、ルシフェラーゼ、GFP、CATなど)を発現するAAVベクターとインキュベートすることによりアッセイを実施する。患者の血清または血漿におけるAAVベクターの中和後にインビトロで測定される残留するレポーター遺伝子は、抗体力価を示し、通常、形質導入の50%抑制が観察される血清/血漿希釈度として表される。例えば、血清の1:10の希釈溶液が、AAVレポーター遺伝子ウイルスの活性を抑制するならば、抗AAV NAb量(力価)は、1:10である。
【0149】
AAV抗体量(力価)を提供するアッセイ結果に基づいて、被験体を、任意で、以下と同様の様式で分類することができる:
− 低力価(検出不可能から1:3まで):これらの個体は、AAVベクターと共に1〜10×過剰量の空AAVキャプシドを受ける。
− 中位の力価(1:3から1:100まで):これらの個体は、AAVベクターと共に5〜1000×過剰量の空AAVキャプシドを受ける。
− 高力価(1:100より上):これらの個体は、AAVベクターと共に10〜10000×過剰量の空AAVキャプシドを受ける。
【0150】
調製物に含まれる空キャプシドの量を、増加性量の空AAVキャプシドの存在下で、本明細書に記載されたインビトロのAAV抗体アッセイを実施することにより決定する。例えば、患者が、1:10のNAb力価を有する場合には、血清/血漿は、1×、5×、10×、50×、100×、500×、1000×(およびまた、より精密な過剰量)の空キャプシドとインキュベートして、AAVベクターの薬理学的処方物に用いられる空AAVキャプシドの最小量を決定する。
【0151】
遺伝子治療の特定の例において、血友病B患者が、AAV−FIXベクターでの遺伝子移入に予定される。患者は、NAbアッセイにより決定された場合、1:10の抗AAV中和抗体力価を有する。しかしながら、5× 空キャプシドを加えることにより、力価は<1:1に下がる。
【0152】
この患者について、AAV−FIXベクターは、薬学的に許容され得る担体中に、5× 架橋された空キャプシドと共に処方される。患者が、1×10
12vg/kgのAAV−FIX用量を受けることが予定されると仮定すると、彼は、5×10
12cp/kgの(任意で、架橋された)AAV空キャプシド中に処方されたこの用量を受ける。AAV−FIXベクターおよびAAV空キャプシドを、最新の優良医薬品製造基準(Good Manufacturing Procedures)を用いて製造し、製造物の純度、効力、安全性、および安定性を保証するために適切な品質管理試験に供する(Wright J.F.、Gene Ther.2008;15:840−848)。最終の処方された製造物におけるAAVベクターとの正確かつ再現性のある混合比を可能にするための精製された空キャプシドの濃度の測定は、AAVキャプシドタンパク質の消衰係数(Sommer J.M.ら、Mol.Ther.2003;7:122−128)、または他の公知の方法に基づく。
【0153】
空キャプシドまたはウイルスゲノム含有キャプシドは、典型的には、本発明に従って処置されることになっている被験体において産生される抗体と反応する血清型を有する。例えば、AAV8と反応し、またはそれを中和する抗体を産生する被験体は、AAV8空キャプシドまたはAAV8ウイルスゲノム含有キャプシドを投与することができる。ベクター調製物に加えられる空キャプシドまたはウイルスゲノム含有キャプシドはまた、1つより多い血清型と反応する抗体の交差反応性により、別の血清型でもあり得る。例えば、AAV2空キャプシドまたはAAV2ウイルスゲノム含有キャプシドが、抗AAV8抗体のAAV2との交差反応性により、トランスジーンを発現するAAV8ベクターに特定の量で加えられる。
【0154】
空キャプシドまたはウイルスゲノム含有キャプシドまたはキャプシドタンパク質はまた、被験体において産生される抗体と反応する2つ以上の血清型の混合物を含むことができる。例えば、AAV2およびAAV8と反応し、またはそれらを中和する抗体を産生する被験体は、AAV2およびAAV8の空キャプシドを投与することができる。
【0155】
実施例6
この実施例は、AAV
585/8変異体キャプシドが、抗AAV抗体を吸着することができたが、細胞を実質的に形質導入しなかったという研究の記載を含む。
【0156】
その研究を、
図5〜9についての説明に記載されているように、実施した。その研究により、AAV
585/8変異体キャプシドが、インビトロおよびインビボで、AAV8ベクターの抗体媒介性中和を抑制またはブロックすることが示されている。その研究によりまた、AAV
585/8キャプシドが受容体結合において競合しないため、AAV
585/8キャプシドが、大過剰量の治療用AAVベクターにおいて、ベクター形質導入の効率に干渉することなく、用いることができることが示されている。
【0157】
さらに、AAV
585/8変異体キャプシドは、AAV
2に由来し、そのAAV
2は、ヒトにおいて最もよく見られるAAVの血清型である。したがって、AAV2は、循環抗体の大部分を吸着し、事実上全てのAAV血清型の中和からの保護を提供するはずである。
【0158】
AAV2変異体キャプシドは、抗AAV抗体の問題に対する普遍的な解決法として働く可能性がある。変異体キャプシドは、インビトロおよびインビボで細胞に実質的に感染せず、標的細胞の全体的な抗原負荷に寄与しないように思われ、それゆえに、AAV2変異体は、AAVベクターが形質導入された標的細胞のCTL媒介性溶解の程度を増加させない。
【0159】
実施例7
この実施例は、AAV空キャプシドの推定の作用機構を示す研究の記載を含む。
【0160】
NAb力価>10にIVIgで受動免疫されたマウスは、単独での、または増加性量のAAV空キャプシドと共に処方された、AAV8−F.IX(第IX因子)ベクターを受けた(
図14a)。ベクター送達の1日後、血漿を収集し、IgG:キャプシド複合体についてアッセイした。アッセイにおける標準曲線として、IVIgとインキュベートされた既知量のAAV8キャプシドを用いた(
図14b)。ベクター投与後、IVIgで予備免疫されなかったマウスの血漿において、免疫複合体は検出できなかった(
図14c、列1)。対照的に、ベクターのみ、またはベクターと空キャプシドを受けたIVIg注射された動物においてIgG:キャプシド複合体が、増加性量で検出可能であった(
図14c、列2〜6)。抗AAVキャプシド抗体の空AAVキャプシドによる吸収は、結果として、ベクター送達の1日後、マウスにおいて抗AAV8 NAb力価の用量依存性降下を生じ(
図14a)、最終的に、増加性レベルのhF.IXトランスジーン発現を生じた(
図14d)。前述の研究は、空AAVキャプシドが、デコイとして働き、抗AAV抗体に結合し、それにより、AAVベクターを抗体媒介性中和から保護することを実証している。
【0161】
【化3】